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全身性アミロイドーシス〔amyloidosis〕

1 疾患概要アミロイドーシスとは、通常は可溶性である蛋白質が、さまざまな要因により不溶性の線維状構造物であるアミロイドヘと変性し、諸臓器に沈着することで種々の機能障害を来す疾患群である1)。全身の諸臓器にアミロイド沈着が起こり臓器障害を引き起こす全身性アミロイドーシス、1つの臓器に限局してアミロイド沈着を起こす限局性アミロイドーシスに分類されるが、これまで37のアミロイド前駆たんぱく質が明らかになっている(表)。表 主なアミロイドーシスの分類画像を拡大するその中で患者数も多く、治療できる疾患は以下の通りである。ALアミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー([familial amyloid polyneuropathy:FAP]、ATTRv)、老人性全身性アミロイドーシス(ATTRwt)は厚生労働省に難病指定されている。1)ALアミロイドーシス異常形質細胞が単クローン性に増殖し、その産物である免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)がアミロイドを形成する。まれに重鎖(H鎖)が前駆蛋白質となるAHアミロイドーシスもある。2)ATTRvアミロイドーシス遺伝的に変異を起こしたトランスサイレチン(transthyretin:TTR)が前駆蛋白となり末梢神経、自律神経系、心、腎、消化管、眼などの臓器に沈着する常染色体優性遺伝形式のアミロイドーシスを言う。3)AAアミロイドーシス関節リウマチ(RA)など慢性炎症に続発し、血清アミロイドA蛋白が原因蛋白質となる。4)ATTRwtアミロイドーシスTTRが前駆蛋白となり、70歳代以降に発症しやすく、主に心臓や運動器に疾患を来す。5)透析アミロイドーシス長期の透析に伴いβ2ミクログロブリンが前駆蛋白となり、 手根管や運動器に沈着する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)アミロイド蛋白質の沈着臓器は、心臓、腎臓、消化管、神経など多臓器にわたり、臨床症状は多彩である。初期にはALアミロイドーシスでは全身倦怠感、体重減少、浮腫、貧血などの非特異的症状があるが他の病型では特徴的な症状がない。経過中にうっ血他心不全、蛋白尿、吸収不良症候群、末梢神経障害、起立性低血圧、手根管症候群、肝腫大、巨舌、皮下出血などを呈する。1)心アミロイドーシス超音波エコーや心電図、MRI、血清NT-proBNPなどでスクリーニングができるが、ピロリン酸心筋シンチを行うと90%以上の感度でFAPや老人性全身性アミロイドーシス症例では陽性になることが明らかになっている。本症は最も生命予後を左右する。2)末梢神経障害FAP、老人性全身性アミロイドーシス、ALアミロイドーシスなどで認められるが、皮膚パンチ生検、神経伝導速度、SudoScanなどで小径線維の障害を証明することが重要である。3)腎アミロイドーシスしばしばネフローゼ症候群を呈し、蛋白尿や浮腫、 低アルブミン血症を呈する。胸水や心嚢液貯留をみることもある。4)消化管胃および十二指腸に沈着しやすい。交替性下痢便秘が起こり吸収不良症候群や下痢がみられる。血管周囲へのアミロイドの沈着が起こり 消化管出血が起こることもある。■ 診断全身性アミロイドーシスの診断には、 少なくとも2臓器にわたる病変を認めることが重要であり、限局性アミロイドーシスと鑑別する必要がある。確定診断は病理検査が必要で、アミロイドーシス全般のスクリーニングとしては腹壁脂肪生検が広く行われている。低侵襲性で簡便であるが、FAP以外では感度が低いため、複数の臓器(消化管[特に胃・十二指腸]、口唇、皮膚、唾液腺、歯肉生検など)での生検を行いコンゴレッド染色で陽性を確認する必要がある。その後、前駆蛋白を免疫組織染色で決定し(決定できないときは質量分析装置を使用する)、各種検査により病変臓器の範囲を決定し、治療の方針を決めていく。ALアミロイドーシスではM蛋白の検出には、血清・尿の電気泳動が行われてきたが、遊離軽鎖(free light chain:FLC)が保険適用となり感度が98%と高いことから、広く行われるようになっている。アミロイドーシスでは疾患特異的なマーカーがないので、既存の疾患に該当しない場合、まず本症を疑うことが重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ALアミロイドーシスボルテゾミブ、サリドマイドなどの化学療法薬が用いられるようになった。発症早期患者では、化学療法後の末梢血自家移植療法で寛解が得られる。2)ATTRvアミロイドーシス(1)肝移植アミロイド原因蛋白質である異型TTRの95%以上が肝臓で産生されることから、1990年以来、世界各国で肝移植が試みられてきたが治療薬剤の登場と共に行われなくなった。(2)薬剤療法TTRの四量体を安定化させアミロイド沈着を防ぐdiflunisal(外国購入で使われている)、タファミジス(商品名:ビンダケル)が使用可能になり、ニューロパチー、心機能悪化が抑制されている。また、RNAi治療薬パチシランナトリウム(同:オンパットロ点滴静注)も点滴静注で使用可能となり、ニューロパチーには改善効果が認められている。トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーでは、タファミジス20mg 1日1回、パチシランナトリウム2mg/mL 3週間1回点滴静注を、トランスサイレチン型心アミロイドーシスではタファミジス80mg 1日1回を使用する。(3)眼科的治療緑内障や硝子体混濁に関しては手術を行う。3)ATTRwtアミロイドーシスタファミジスが心不全の改善効果を示し、死亡率を抑制することが明らかになっている。SiRNA TTRもATTRvに伴う心不全に対し改善効果があることが明らかになっている。4)AAアミロイドーシス本症を引き起こす原疾患はRAが大多数であるため、リウマチ治療薬が結果として本症の治療になる。IL6受容体抗体トシリズマブ(同:アクテムラ)投与によりアミロイド沈着が完全に消失したとする報告もある。5)透析アミロイドーシス透析膜の改良により発症頻度が低下している。透析にアミロイド吸着カラム(リクセル)を用いることがある。6)その他の対症療法心アミロイドーシスは利尿薬による対症療法が中心となる。ジギタリスやカルシウム拮抗薬はアミロイド線維と結合し感受性が高まるため、中毒のリスクや血行動態悪化の危険があるので、注意が必要である。腎アミロイドーシス蛋白尿の減少にACE阻害薬が有効であることもある。末期の腎不全に関しては腹膜透析、血液透析を行う。腎移植は腎以外のアミロイドの沈着がない場合に考慮する。消化管アミロイドーシスでは下痢に注意が必要である。低栄養状態の患者には十分な栄養を経口、経静脈的に補給する。4 今後の展望ALアミロイドーシスでは、ミエローマ細胞に対する治療薬の開発が進んでいる。ATTRvアミロイドーシスではgene silencing治療に加え、Crisper Cas9システムによるゲノム編集治療がPhase studyに入っている。AAアミロイドーシスは原因疾患としては最も多いRAの生物製剤治療が進み、今後さらに患者数は減っていくものと思われる。透析アミロイドーシスは透析膜の改良によりさらに患者数が減少している。ALアミロイドーシスとATTRvの組織沈着アミロイドをターゲットとした抗体治療の開発が進んでいる。5 主たる診療科ALアミロイドーシスは血液内科、ATTRvアミロイドーシスは神経内科、ATTRwtアミロイドーシスは循環器内科、AAアミロイドーシスはリウマチ科、透析アミロイドーシスは腎臓内科などの診療科が、これまで主に診療にあたってきたが、アミロイドーシス全体の啓発活動が活発化し、横断的な診療が行われるようになった。心アミロイドーシスを来すのはAL 、TTRv、ATTRwt アミロイドーシスなどで高率にみられる。どの全身性アミロイドーシスも腎にアミロイド沈着がみられるので腎臓内科の関与が必要である。また、ATTRvアミロイドーシスにおいては眼アミロイドーシスを呈するため、眼科の関与が必要となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「アミロイドーシス調査研究班」(厚生労働省)ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報道しるべの会(FAP患者家族会)(患者とその家族および支援者の会)1)植田光晴 編集、安東由喜雄 監修. アミロイドーシスのすべて. 2017;医歯薬出版.2)Merlini G. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2017;8:1-12.3)Ando Y, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:31-43.4)Frederick L. et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.公開履歴初回2021年4月28日

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高用量セマグルチドが肥満糖尿病患者の体重減量やQOLに有効である(解説:安孫子亜津子氏)-1378

 わが国では2010年からGLP-1受容体作動薬を糖尿病治療薬として使用しており、血糖降下作用以外の、食欲抑制効果、胃内容物排出遅延効果により、体重の減少効果も期待できる薬剤である。2020年からわが国でも使用できるようになった週1回注射製剤のセマグルチド(Sema)(商品名:オゼンピック)は、26位アミノ酸のリジンに脂肪酸を結合させることでアルブミンへの結合が増強されて分解が遅延するため、血中半減期が約1週間のGLP-1アナログである。 これまでにSemaの2型糖尿病患者への臨床試験は「SUSTAINプログラム」として、多くの試験が実施され、Sema 0.5mgおよび1.0mgの血糖降下作用、および体重減少作用が報告されてきた。わが国でのSema 1.0mg単独療法での30週における体重減少効果は-3.87kgであった1)。さらにSUSTAIN-6では心血管イベントの有意な抑制効果が認められている2)。 今回Lancet誌で紹介された「STEP 2試験」は、BMI 27kg/m2以上の肥満または過体重である2型糖尿病患者に対して、高用量2.4mgのSemaの効果を、糖尿病治療薬として使用されている1.0mg Semaおよびプラセボと比較した第III相臨床試験である。12ヵ国、149施設の患者、計1,210名が参加しており、アジア人種も26.2%含まれている。参加者の治療介入前平均体重は99.8kg、平均BMIは35.7kg/m2であり、わが国の2型糖尿病患者の平均BMIに比較するとかなり高値である。 68週の治療で、本試験の主要評価項目である体重の減少率は、Sema 2.4mgでは-9.6%であり、プラセボの-3.4%に比較して6.2%減少に差が認められた。Sema 1.0mgでは-7.0%であり、Semaの投与用量を多くすることでさらなる体重減少効果が認められたこととなる。実際の体重減少で見るとSema 2.4mgでは-9.7kg、Sema 1.0mg で-6.9kg、プラセボ-3.5kgであり、これまでのSema治療用量に比較してその体重減少効果が大きいことが示されている。 そのほか、HbA1c、収縮期血圧、脂質パラメーターなど、すべてプラセボに比較して改善効果が認められているが、とくに興味深かった結果は、HbA1cはSema 2.4mgと1.0mgでともに-1.6%、-1.5%と同等の低下作用であり、糖尿病薬としてのGLP-1の効果は1.0mgでほぼ十分であることがわかる。ちなみに低血糖の発現はSema 2.4mgで5.7%、Sema 1.0mgで5.5%と同等であり、高用量のSemaで低血糖が誘発されるわけではないことも理解できる。 副作用に関しては、既存のGLP-1受容体作動薬同様に吐き気や嘔吐、下痢、便秘といった消化器症状が最も多く、Sema 2.4mgとSema 1.0mgでほぼ同程度であった。そのほか、高用量Semaによる特異的な副作用は認められていない。 肥満によって患者のQOLが低下することが多いが、本試験ではSF-36v2とIWQOL-Lite-CTといった2つの方法で治療によるQOL変化の評価を行っている。その結果、Sema 2.4mgではプラセボに比較して身体的活動が改善していることが示されている。週に1回の注射で、これだけの体重減少効果と各種代謝パラメーターの改善が認められることは、これまでの抗肥満薬や肥満手術に比較してもQOLを向上させる効果が期待できると考えられる。 今回のSTEP 2試験の結果から、高用量のSemaにより、長期的にどれくらいの心血管イベント抑制効果が認められるかどうかに今後注目したい。今後、肥満糖尿病患者の治療の主軸としてGLP-1受容体作動薬が位置付けられことが予想される。現在、数々のSTEP試験によって糖尿病のない肥満者においてもその有効性が示されており、さらに幅広い患者での使用機会が期待される。

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難治性片頭痛に対する抗CGRPモノクローナル抗体の効果

 スペイン・Hospital Universitari Vall d'HebronのMarta Torres-Ferrus氏らは、難治性片頭痛患者に対する抗CGRPモノクローナル抗体の効果について、評価を行った。Journal of Neurology誌オンライン版2021年3月27日号の報告。 対象は、1ヵ月間に8日以上の頭痛が認められ、3回以上予防薬を服用しなかった片頭痛患者。人口統計学的、医学的情報および片頭痛の病歴を収集した。ベースライン時および12週間後に電子頭痛日誌を用いて患者報告アンケートを実施し、1ヵ月間の頭痛日数、1ヵ月間の片頭痛日数、痛みの強さ(0~3の数値回答)、鎮痛薬の使用に回答した。患者は、改善頻度に応じて、治療反応50%以上、75%以上、100%に分類された。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、合計155例(erenumab:109例、ガルカネズマブ:46例)であった。・ベースライン時と比較して、12週間後の頭痛の頻度は-9.1日/月、片頭痛の頻度は-8.5日/月であった。・頭痛の日数が50%以上減少した患者の割合は39.5%、片頭痛の日数が50%以上減少した患者の割合は51.6%であった。・片頭痛の治療反応が50%以上であった群では、ベースラインからの頻度の減少は-13.9日/月であり、患者が報告したすべての結果において明らかな改善が認められた。・頭痛の日数が75%以上減少した患者の割合は14.2%、片頭痛の日数が75%以上減少した患者の割合は26.5%であった。・片頭痛の日数が100%減少した患者の割合は11.0%であった。・他の予防薬を使用していなかった患者では、重度の障害が少なく、頭痛に対する片頭痛の割合が高く、片頭痛の治療反応が50%以上である可能性が高かった。・主な有害事象は、便秘(20.0%)、倦怠感(7.1%)一過性の血圧上昇(5.2%)であり、重篤な有害事象は認められなかった。 著者らは「難治性片頭痛患者に対する抗CGRPモノクローナル抗体による治療は、実臨床において効果的であることが確認された」としている。

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先天性腎性尿崩症〔Congenital nephrogenic diabetes insipidus〕

1 疾患概要■ 概念・定義腎性尿崩症(Nephrogenic Diabetes Insipidus:NDI)は、腎尿細管におけるAVP(Arginine Vasopressin)の作用不足のために尿濃縮障害を呈し、そのために多尿(尿の過剰産生)と多飲(過度の口渇)を呈する疾患群である。NDIは、成因により先天性と二次性に分けられる。先天性NDIは、AVPのV2受容体やAVP依存性水チャンネルのアクアポリン-2の遺伝子異常などにより発症する。二次性NDIは、低カリウム血症、高カルシウム血症、腎泌尿器疾患、薬剤(炭酸リチウムほか)、アミロイドーシスなどに伴って発症する。先天性NDIは難病指定を受けている。本稿では主に先天性NDIについて述べる。■ 疫学わが国の関連学会会員を対象とした全国規模の腎性尿崩症の頻度調査(2009~2010年)では、173例のNDIが確認され、そのうち15例はリチウム製剤に起因する二次性NDIであった1)。■ 病因と分類NDIの原因は、先天性と二次性に大別されるが、二次性はさらに、薬剤性、腎泌尿器疾患によるもの、その他、などに区分される(表12))。表1 腎性尿崩症の原因2)1.先天性1)X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)性 AVPR22)常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性 AQP23)常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性 AQP24)その他2.電解質異常1)高カルシウム血症2)低カリウム血症3.薬剤性リチウム、デメクロサイクリン、アンホテリシン B、アミノグリコシド系薬剤、メトキシフルレンなど4.腎泌尿器疾患1)慢性腎不全2)逆流性腎症、間質性腎炎3)異形成腎、髄質嚢胞性腎疾患、ネフロン癆4)ファンコニー症候群(シスチン蓄積症、他)、バーター症候群5)尿路閉塞5.その他1)サルコイドーシス2)アミロイドーシス3)シェーグレン症候群4)鎌状赤血球症5)浸透圧利尿(糖、マンニトール、ナトリウム)6)ACEI/ARB fetopathy**は著者改変1)AVPによる集合管における尿濃縮の機序V2受容体は7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体で、腎集合管主細胞の血管膜側細胞膜に発現している。AVPがV2受容体に結合するとGタンパクとアデニル酸シクラーゼの活性化を生じ、cAMPが産生される。cAMPはプロテインキナーゼA(PKA)を介して、輸送小胞膜上にホモ4量体で水チャンネルを形成しているアクアポリン-2をリン酸化する。リン酸化されたアクアポリン-2を載せた小胞は管腔側細胞膜へ移動し、エクソサイトーシスにより細胞膜と融合することで管腔と主細胞間に水チャンネルが開通する。主細胞の血管側細胞膜上でアクアポリン-3、4により恒常的に開通している水チャンネルの作用と併せて、管腔側から血管側へ水が再吸収されて尿が濃縮される(図)。図 腎尿細管主細胞におけるV2受容体とアクアポリンによる水の再吸収(著者作成)画像を拡大する2)先天性NDI(a)遺伝形式と発症機序先天性NDIの90%以上はX連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)である。約9%の患者は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)であり、1%は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの95%にはAVPのV2受容体遺伝子AVPR2に病的バリアントを認め、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの約95%にはアクアポリン-2遺伝子AQP2に病的バリアントを認める。軽症または部分型の先天性NDIは、AVPR2遺伝子異常に報告されることが多いが、顕性遺伝(優性遺伝)形式をとるAQP2遺伝子異常によるものも報告されている。(b)AVPR2の遺伝子異常AVPのV2受容体遺伝子AVPR2はヒトではX染色体上に位置していて、3つのエクソンからなる。この遺伝子の病的バリアントによるNDIの発症は、男性100万人に4人程度の発症率で認められている。報告されている200種以上のバリアントには特定の集積部位は認められない。機能解析がなされているミスセンス例の多くは、misfoldingによるtrafficking障害によりバリアントタンパクが膜に到達できないことによる。バリアントの種類によっては、部分的にAVP作用が保たれる例も存在する。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AVPR2異常が43例を占めた1)。(c)AQP2の遺伝子異常アクアポリン-2の遺伝子AQP2はヒトでは12q13に位置し、4つのエクソンよりなる。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式と常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の双方が報告されている。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AQP2異常が5例を占めた1)。(d)ACEI/ARB fetopathy遺伝性ではないが先天性NDIが、妊娠中に降圧薬ACEI/ARBを内服した母体から出生した児に発生することが報告されている3)。薬剤による影響がその原因であるので二次性でもある。3)二次性 NDI以下の原疾患・原因により引き起こされるNDIであり、主に、年長児や成人に発症する。(a)腎泌尿器疾患慢性腎不全、間質性腎炎、慢性尿路閉塞などの腎尿細管機能低下を招来する腎泌尿器疾患は尿濃縮力を低下させ、NDIを呈する。(b)電解質異常高カルシウム血症,低カリウム血症に伴う尿濃縮障害によるNDIが知られている。(c)薬剤性 NDI躁状態治療薬(炭酸リチウム)、抗リウマチ薬(ロベンザリット二ナトリウム)、抗 HIV 薬(フマル酸テノホビルジソプロキシル)、抗菌薬(イミペネム・シラスタチンナトリウム、アムホテリシン、塩酸デメクロサイクリン)、抗ウイルス薬(ホスカルネットナトリウム水和物)などによるNDIが知られている。リチウムについては、glycogen synthase kinase 3(GSK3)を抑制することにより、AVP感受性アデニル酸シクラーゼ活性が低下して細胞内cAMP産生が低下し、AVP作用が減弱するとされている。(d)その他頻度は低いがアミロイドーシス,サルコイドーシスなどの全身疾患もNDIの原因となる。■ 症状多尿が共通した症状であるが、患者の年齢により徴候が異なる。先天性NDIの徴候を述べる。(1)胎児期:母体の羊水過多。(2)新生児期:生後数日頃から、原因不明の発熱およびけいれんを来す。高浸透圧血症、高ナトリウム血症を呈す。(3)幼児期~成人:多尿(3~20L/日、乳幼児では体表面積あたりの尿量が2,500mL/m2以上)とそれに伴う多飲を呈す。軽症例では、心因性多飲として経過観察されていたり、多尿に気付かれず夜尿のみを訴えることもある。体重増加不良、便秘を呈すこともある。■ 予後1)中枢神経系口渇に対して自らの意思で飲水できない新生児、乳幼児や意識障害を伴う例では、特に診断前には高張性脱水(高ナトリウム血症)を来し、中枢神経系の不可逆的な障害を残すことが多い。新生児では初発症状が高ナトリウム血症による痙攣のこともある。2012年の厚生労働省研究班による全国調査では、先天性NDIの約1割に精神発達遅滞を認めた。乳幼児期を過ぎれば自律的に水分摂取が可能となるので、意識障害時を除いて高張性脱水による中枢神経合併症を生じることはないとされる。2)腎泌尿器系現在のところ、NDIの多尿を適切に改善させる治療法がないので、長期間の多尿による腎泌尿器系の合併症が約半数の患者にみられる。水尿管を含む水腎症、膀胱尿管逆流症の併発により腎機能低下を招来する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先天性腎性尿崩症の診断基準は、主要症状である多尿、検査所見として尿浸透圧の低値とAVPへの無反応/反応低下、鑑別診断と遺伝学的検査よりなっている(表24))。これには軽症または部分型NDIを診断するための重症度分類も含まれている1)。先天性NDIの診断年齢は、1歳未満が半数以上を占めているが、1~4歳で診断される例も1~2割を占める。表2 先天性腎性尿崩症の診断基準4)と重症度分類1)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多尿に見合う適切な量の水分摂取、腎への溶質負荷を軽減するための塩分・蛋白質の摂取制限、サイアザイド系利尿薬や非ステロイド系抗炎症薬の投与が行われる。小児期には、まず塩分制限を行い、効果が不十分な場合に蛋白制限を追加するが、成長障害に十分な注意を払わなければならない。サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロサイアザイドで2~4 mg/kg/日)は、利尿により生じる軽度の体液量減少がレニン・アルドステロン・アンギオテンシン系や交感神経系を賦活して近位尿細管におけるNaと水の再吸収を促進することで、結果的にAVPの作用部位である集合管への水・電解質の負荷を軽減し、逆説的に尿量減少効果を呈すると考えられている。サイアザイド系利尿薬の投与により、尿量は、1/2~1/3程度に減少する。効果が不十分な場合、AVPR2遺伝子異常によるNDIではインドメタシンや選択的COX-2 阻害薬が有効とされるが、近年、長期の選択的COX-2阻害剤投与が心臓の副作用を招くことが明らかにされた。部分的NDIではAVPへの反応性が残存しているので、高容量のDDAVPとサイアザイドの併用による治療が可能な場合がある。4 今後の展望AVPR2バリアントやAQP2バリアントでは、タンパクの細胞質移送が障害されていることが明らかになっているので、種々の薬剤のシャペロン作用により、バリアント蛋白の細胞質内での滞留を解除する試みがなされているが、実用には至っていない5)。5 主たる診療科新生児科、小児科、内科、泌尿器科、腎臓内科、神経内科、神経小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先天性腎性尿崩症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報腎性尿崩症 友の会(患者とその家族および支援者の会)1)腎性尿崩症の実態把握と診断・治療指針作成に関する研究(研究代表者 神崎 晋). 平成21~23年度総合研究報告書. 2012.2)根東義明. 日腎会誌. 2011;53:177-180.3)Miura K,et al. Pediatric Nephrology.2009;24:1235–1238.4)先天性腎性尿崩症.難病医学研究財団 難病情報センター.(2021年3月1日閲覧)5)Bernier V, et al. J Am Soc Nephrol.2006;17:232-243.公開履歴初回2021年04月13日

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ミドリムシ摂取でコロナ禍の不安疲労が解消する?

 コロナ自粛により自律神経が乱れ、多くの日本国民が不安や疲労に苛まれている。これを打破するために、一躍ブームとなったミドリムシが改めて見直されるかもしれないー。3月17日、『コロナ禍における新たな社会課題「不安疲労」の実態と「腸ツボ」刺激によるアプローチ~多糖成分パラミロン最新研究報告~』(主催:パラミロン研究会)が開催。久保 明氏(東海大学医学部客員教授/内分泌・糖尿病専門医)と内藤 裕二氏(京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学 准教授)らが登壇し、ミドリムシの生成物がいかに現代社会に必要か解説した。ミドリムシが生成するパラミロンとは パラミロンとはユーグレナ(和名:ミドリムシ)だけが生成する細胞内に貯蔵される多糖体で、摂取すると腸に直接作用し、便中から未分解、無傷の状態で検出される成分である。これまでの臨床試験では、身体的・精神的疲労感軽減をはじめ、血糖値の上昇抑制やLDLコレステロールの低下のような代謝機能改善に対する有効性が報告されている。パラミロンの中でもEOD-1株が有用だが、機能性についてはまだ解明途中であり、現在、免疫系や消化器系をはじめとするさまざまな領域の研究者が探求している。コロナ禍、4人に1人が不調を感じている その研究者の1人で、コロナ禍で顕在化した新しいタイプの疲労を『不安疲労』として提唱する久保氏は「不安疲労とは、“なんとなくだるい”という身体的疲労感と“やる気が出ない”、“不安だ”という精神的疲労感が結びついたもの」と解説し、「Twitter上でも長引くコロナ禍で多くの人がこの不安疲労を抱えていることが如実に表れている。実際に本研究会が行った実態調査(n=1,200)でも52.7%が不安疲労を感じることが増えたと回答した」と説明し、「なかでも若い世代の女性は社会的サポートの不足や女性特有の体調変化に悩み、さらには女性ホルモンのエストロゲンの分泌不足により自律神経の機能低下が生じて不安疲労に陥りやすい」とも話した。また、この状態が続くと、うつ病だけではなく、活性酸素とともに動脈硬化の進展など老化を加速させる可能性があるが、「パラミロンを含んだ食品を摂取した群では早期に副交感神経活動が優位になり、身体的・精神的いずれの疲労感も軽減したことから、自律神経の乱れを整えるために姿勢を正したウォーキングなどを行うとともにパラミロン摂取が対策の一助になる」と説明した。パラミロンが腸の感覚受容体を刺激 続いて、内藤氏がパラミロンによる腸管の乱れ解消法について説明した。消化管は脳腸相関で相互に密接に影響し合っているため、ストレスがかかると腹痛が生じ下痢や便秘などの消化・吸収機能に影響が出る。一方、消化管にはさまざまな化学的・物理的刺激を感受するセンサーが備わっており、温度感受性Transient Receptor Potential(TRP)チャネルや甘味を感知する味覚受容体T1R2、嗅覚受容体はその代表例だ。つまり、味は舌の味蕾だけではなく胃や小腸で、匂いは鼻以外に大腸でも感じている。この腸管粘膜にある受容体などのセンサー(腸ツボ)を同氏は整体のつぼ押しに例え“腸ツボ”と称し、「腸管粘膜の細胞に点在する腸ツボを刺激することで神経系・免疫系・内分泌系の細胞が活性化することが解明されてきた。その物理的な刺激を担うのがパラミロンである」と解説した。 今回のコロナ禍の事例として、同氏は大島 忠之氏らの論文1)を紹介。それによると消化器症状の悪化を訴えたのは健康成人で6%程度に対し、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群を罹患している方では40%に上った。この状況を踏まえ、「これらの症状もパラミロンによって腸内細菌叢を改善させることで良い方向に向けることができるのかもしれない」と締めくくった。

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ポラツズマブ べドチン、再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する承認取得/中外

 中外製薬は、抗CD79bを標的とする抗体薬物複合体であるポラツズマブ べドチン(商品名:ポライビー)が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する承認を得たことを発表した。今回の承認は、自家造血幹細胞移植の適応とならない再発または難治性DLBCL患者の初回治療として、ポラツズマブ べドチンとベンダムスチン+リツキシマブ(BR療法)との併用療法としてのものとなる。DLBCLは悪性リンパ腫の一種で、リンパ球の中のB細胞から発生する非ホジキンリンパ腫としては最も発生頻度が高い。 国内の承認は、海外第Ib/II相多施設共同臨床試験(GO29365試験)、および国内第II相多施設共同単群臨床試験(JO40762/P-DRIVE試験)などの結果に基づいたもの。 GO29365試験は、1つ以上のレジメンで治療後の再発または難治性DLBCL患者80例を対象とし、患者をポラツズマブ+BR療法群(P+BR療法群)またはBR療法群に1:1に割り付け、1サイクル21日として6サイクル投与した。主要評価項目である完全奏効率(CRR)は、BR群では17.5%(95%信頼区間 [CI]):7.3~32.8%)だったのに対し、P+BR療法群では40.0%(95%CI: 24.9~56.7%)だった。 国内のP-DRIVE試験では、GO29365試験と同条件のDLBCL患者35例を対象にP+BR療法の有用性を検討し、P+BR療法群のCRRは34.3%(CI:19.1~52.2%)となり、主要評価項目を達成した。 P-DRIVE試験で報告された有害事象はGO29365試験と差がなく、主なものは貧血37.1%(13/35例)、悪心31.4%(11/35例)、血小板減少症及び好中球減少症が各25.7%(9/35例)、便秘、血小板数減少及び好中球数減少が各22.9%(8/35例)、倦怠感及び食欲減退が各20.0%(7/35例)だった。

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膵がん末期患者の下痢をコデインリン酸塩でコントロール【うまくいく!処方提案プラクティス】第34回

 今回は、末期がんの患者さんの下痢に対して、コデインリン酸塩錠で対処した症例を紹介します。代表的な副作用である便秘を活用することで、最終的には疼痛・排便の両方がコントロールできましたが、もっと早くから介入できていたら…という後悔が残った事例です。患者情報87歳、女性基礎疾患膵体部がん(c Stage4b、本人へは未告知)、左加齢性黄斑変性症既往歴子宮筋腫手術、腰椎圧迫骨折、左大腿部頸部骨折診察間隔毎週訪問処方内容1.トラセミド錠4mg 1錠 分1 朝食後2.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後3.ナイキサン錠100mg 2錠 分2 朝食後・就寝前4.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝食後・就寝前5.パンクレリパーゼカプセル150mg 2カプセル 分2 朝食後・就寝前6.乾燥硫酸鉄徐放錠 2錠 分2 朝食後・就寝前7.ポラプレジンク錠75mg 2錠 分2 朝食後・就寝前8.ロペラミドカプセル1mg 2カプセル 分2 朝食後・就寝前9.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 就寝前10.ロフラゼプ酸エチル錠1mg 1錠 分1 就寝前本症例のポイントこの患者さんは、膵体部がんの進行による疼痛と頻回の下痢で体力消耗が激しく、その便処理のために同居する長女の介護負担が非常に大きい状態でした。内服薬の管理も本人では難しく、出勤前と帰宅後に内服支援をする長女のために朝食後と就寝前で統一していました。下痢に関しては以前から悩みの種で、過去の治療において半夏瀉心湯やタンニン酸アルブミンで治療をするも抑えることはできず、現在の治療でも整腸薬のみではまったく効果はありませんでした。ロペラミドも追加しましたがコントロールには至らず、本人と長女の精神的・身体的な疲弊が限界に達していました。そのような中、医師より、どうにか今の服薬管理環境で下痢をコントロールできる内服薬はないかという電話相談がありました。この患者さんは、過去に子宮筋腫の手術歴があり、イレウスのリスクもあることから止瀉作用の過剰発現には注意を払う必要があります。しかし、今も疼痛があり、今後も病勢が進行する可能性から、オピオイド導入のタイミングと考えて、腸管内のオピオイド受容体を刺激して腸管蠕動を抑制するコデインリン酸塩錠の投与について検討しました。処方提案と経過医師に、疼痛と排便コントロールの両方を兼ねて、現行のロペラミドに加えて、弱オピオイドのコデインリン酸塩錠の追加を提案しました。用法については、長女より夜間から明け方の便失禁で困っているという話があったため、20mg錠を朝・夕食後(長女帰宅時に服用)・就寝前の分3で服用する方法を伝えました。医師からは、強オピオイドの導入も考えていたが段階を踏んで治療をしよう、と承認を得ることができ、早速当日の夜より服用開始となりました。投与開始3日目にフォローアップのため訪問したところ、夜間の便失禁が減り、本人と長女の心身の負担が軽減できていました。しかしその後、これまでの度重なる便失禁や病状悪化が影響してか、食事がほとんど摂れずに水分摂取がやっとの状態になっていきました。そして、病状悪化から内服も困難な状態となり、フェンタニルクエン酸塩貼付薬とモルヒネ塩酸塩水和物液での緩和医療へ切り替えることになりました。複数の止瀉薬を検討していた段階で提案することができず、医師から相談を受けるまでなかなか知恵を絞りきれなかったことを反省する事例となりました。

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1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第70回

1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」今回は、ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬「ニラパリブトシル酸塩水和物(商品名:ゼジューラカプセル100mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後維持療法として、1日1回の服用で腫瘍細胞の増殖を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、「卵巣癌における初回化学療法後の維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌」の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはニラパリブとして1日1回200mgを経口投与します。ただし、本剤初回投与前の体重が77kg以上かつ血小板数が15万/μL以上の成人には、1日1回300mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量し、本剤投与により副作用が発現した場合は、添付文書の基準を参考にして休薬、減量、中止します。<安全性>国内第II相試験(Niraparib-2001試験、Niraparib-2002試験)において、副作用は39例中39例(100%)で報告されました。主なものは、悪心25例(64.1%)、血小板数減少23例(59.0%)、貧血17例(43.6%)、好中球数減少14例(35.9%)、嘔吐13例(33.3%)、食欲減退11例(28.2%)、白血球数減少10例(25.6%)でした。なお、国内外の臨床試験(上記とNOVA試験、QUADRA試験、PRIMA試験)において、本剤が投与された937例で発現した重大な副作用として、骨髄抑制(78.8%)、高血圧(9.8%)、間質性肺疾患(0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.卵巣がんの初回化学療法後や再発時の維持療法に使われる薬です。1日1回、連日服用します。2.薬によって血液を作る機能が低下するため、あざができやすくなる、鼻をかんだときに血が出る、顔色が悪くなる、心拍数が増える、立ちくらみや息切れ、めまいが起こることがあります。定期的に血液検査が行われますが、気になる症状があったらすぐにご連絡ください。3.血圧が高くなることがあります。自覚症状はほとんどないため、定期的に血圧や心拍数を測定しましょう。4.吐き気や嘔吐、便秘、疲労感などが現れることがあります。小まめに水分を摂り、消化の良い食事を心掛け、疲れを溜めないようにするなど、生活に工夫を取り入れることで対処できる場合もあります。強い症状が続く場合はご相談ください。5.妊娠中の方や妊娠している可能性がある方は服用できません。また、本剤服用中や服用を中止してから一定の期間は適切な方法で避妊を行い、授乳中の方は授乳を中止する必要があります。<Shimo's eyes>卵巣がんは主に閉経後の女性に多く発症するがんですが、初期段階では症状に乏しく、早期の検出が困難であるため、女性生殖器の悪性腫瘍の中では最も死亡者数の多い疾患です。一般的な卵巣がんの治療では、まず手術で可能な限りがんを取り除いてから抗がん剤による化学療法を行い、その後、再発リスクを下げるための維持療法を実施することが多いです。PARP阻害薬は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後の維持療法として用いられます。本剤は、卵巣がんに適応のあるPARP阻害薬として、国内ではオラパリブ(商品名:リムパーザ)に次ぐ2剤目であり、BRCA遺伝子変異の有無によらず使用できます。1日1回の経口投与で食事の影響を受けにくいため、生活リズムに合わせて服用タイミングを選択できるなどのメリットもあります。副作用としては、一般的な抗がん剤と同様に、骨髄抑制、血小板減少、好中球減少などが発現することが多いため、血液検査などによるモニタリングが求められます。また、『NCCN制吐ガイドライン2020年版』において、中等度~高度の嘔吐リスク(頻度30%以上)に分類されており、嘔吐を予防するため、服用前に5-HT3受容体拮抗薬の連日経口投与が推奨されています。重大な副作用として、高血圧クリーゼを含む高血圧などが報告されており、とくに降圧薬を服用中の患者さんは投与前に血圧が適切に管理されていることを確認する必要があります。本剤の貯法は、2~8℃で遮光保存です。患者さんにはPTPシートを冷蔵庫で保管するように指導しますが、持ち運ぶ必要がある場合は専用の保冷遮光ポーチがあるので、MRに相談しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ゼジューラカプセル100mg

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内服薬に嫌悪感がある患者の疼痛コントロールの秘策【うまくいく!処方提案プラクティス】第33回

 今回は、エスフルルビプロフェン・ハッカ油貼付薬(以下エスフルルビプロフェン)を用いた疼痛コントロールの事例を紹介します。エスフルルビプロフェンは、フルルビプロフェンの活性本体(光学異性体:S体)であり、最大2枚を貼付することで薬物の全身曝露量に相当するAUC(時間曲線下面積)が経口フルルビプロフェンの通常用量とほぼ同等となります。その作用動態を活かすことで、内服薬に嫌悪感がある患者さんでも抵抗なく、効果的な疼痛コントロールを行うことができます。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患変形性関節症、高血圧症、便秘症、骨粗鬆症既往歴消化性潰瘍の既往なし訪問診療の間隔月2回処方内容1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン シレキセチル錠4mg 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後4.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後5.レバミピド錠100mg 2錠 分2 朝夕食後6.硝酸イソソルビドテープ40mg 1枚 18時に貼付本症例のポイント施設入居の患者さんの初回の訪問診療にケアマネジャーと同行させてもらうこととなりました。その際、患者さんより、両膝が痛くて市販の貼付薬を使っているがあまり良くならず、寝返りも打てないほど腰も痛いので何とかできないかという相談がありました。しかし、過去に友人が鎮痛薬で胃潰瘍を起こした経験があり、鎮痛薬の内服には嫌悪感といえるほど抵抗がありました。医師は、COX-2選択的阻害薬とプロトンポンプ阻害薬を用いて、胃粘膜への影響をできる限り最小限にして治療するのはどうかと提案しました。それでも患者さんは、これ以上内服薬を増やすのは体に毒だからと言って抵抗を示しました。処方提案と経過医師より、薬剤師としての薬学的な意見を聞きたいが、何か有用な手段はあるかと相談を受けました。そこで、内服薬への抵抗感が強いので、内服薬と同等の効果が得られるエスフルルビプロフェンを両膝に2枚貼付するのはどうか提案しました。エスフルルビプロフェンは外用薬なので内服薬の数は増えませんが、内服薬とほぼ同等のAUCを得ることで全身的な治療効果が期待できます。私見ではありますが、嚥下困難や重度の認知症など内服が困難な患者さんにおける疼痛コントロール(とくに痛みの箇所が複数ある場合)では、このエスフルルビプロフェンは有効な選択肢であると考えています。しかし、外用薬とはいえ、胃粘膜への影響は内服薬に相当します。胃粘膜への影響は懸念事項であり、慎重に検討する必要があると考えました。そこで、現行のレバミピド錠(朝夕)をランソプラゾールOD錠(朝のみ)に変更できないか提案しました。医師からは、内服薬を増やさずにむしろ服用錠数を減らすことができると評価していただき、承認を得ることができました。患者さんからも、直接膝に貼る鎮痛薬なので安心で、胃潰瘍に対する心配をくみ取って胃薬も変えてくれたと喜んでもらえました。患者さんと介護スタッフには、エスフルルビプロフェンは最大貼付枚数2枚を超えないように、腰には貼付せずに基本的には両膝にそれぞれ1枚貼付するように指導しました。エスフルルビプロフェン開始後、両膝痛に加えて腰痛も改善しました。14日間は連日貼付していましたが、その後の状態も安定していたため、疼痛時のみの使用に切り替えました。その後も疼痛の悪化はなく、患者さんの調子に合わせてエスフルルビプロフェンを継続しています。ロコアテープ インタビューフォーム

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前立腺がん・膵がんでオラパリブをどう使うか、遺伝子検査の位置付けは?

 前立腺がん、膵がん、卵巣がんに対し、PARP阻害薬オラパリブ(商品名:リムパーザ)が2020年12月25日に追加承認を取得した。同薬が初めて承認された前立腺がん、膵がんにおける治療の実際について、1月20日オンラインメディアセミナー(共催:アストラゼネカ、MSD)が開催され、大家 基嗣氏(慶應義塾大学医学部 泌尿器科学教室)、池田 公史氏(国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科)が登壇。各領域におけるオラパリブの使い方、遺伝子検査の位置付けについて講演した。オラパリブの適応取得の根拠となった第III相試験の結果 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)は、診断後の生存期間は約3年程度とされ、予後不良な病態である。さらに、CRPCになると治療への抵抗性に関係してさまざまな遺伝子変異が発生することが知られ、なかでもDNAの修復に関わるBRCA遺伝子に変異があると、さらに予後が不良となる。進行前立腺がんでは、5~6人に1人程度の割合(18%)で、BRCA1/2遺伝子に変異が生じているとされ、遺伝によるもの(生殖細胞系列変異)と後天的に生じたもの(体細胞変異)がそれぞれ約半数ずつ含まれると報告されている1)。 今回オラパリブが適応となったのは、「BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん」。オラパリブの適応取得の根拠となった第III相PROfound試験では、アンドロゲン受容体標的薬(ARAT)が無効となったBRCA遺伝子変異陽性の転移を有する去勢抵抗性前立腺がん患者(160例)において、画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)中央値を、エンザルタミドまたはアビラテロン(ARAT)投与群3.0ヵ月に対しオラパリブ投与群では9.8ヵ月と延長した(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.15~0.32)。全生存期間(OS)中央値についても、ARAT投与群14.4ヵ月に対しオラパリブ投与群20.1ヵ月と延長している(HR:0.63、95%CI:0.42~0.95)。 同試験でのオラパリブ投与群の主な有害事象は、貧血、悪心、食欲減退、疲労、下痢など。大家氏は「副作用は非常に穏やかな印象」とし、経口薬でもあり、適応の患者さんには確実に届けていきたいと話した。ただし、適切な対処と定期的なモニタリングが必要な副作用として、貧血、血小板減少、リンパ球減少、白血球減少、間質性肺疾患を挙げた。オラパリブの適応を判断する2つの検査法 オラパリブの適応を判断するコンパニオン診断としては、体細胞変異と生殖細胞系列変異を検出するFoundationOne CDx、生殖細胞系列変異を検出するBRACAnalysisの2つの検査法が承認されている。体細胞変異と生殖細胞系列変異が約半数ずつとされる前立腺がんでは両方を検査したいところだが、FoundationOne CDxを使った場合、コンパニオン診断として使用しただけでは、医療機関の持ち出し分が発生してしまう。オラパリブを含めた標準治療終了(見込み)後にエキスパートパネルを開催し、患者への結果説明まで行うと持ち出し分は発生しない。このため大家氏は、「事務系含め病院内でのコンセンサスを得たうえで、患者さんを長くフォローできるようシステムを構築しておく必要がある」と述べた。 また遺伝子検査を行うタイミングについて、日本泌尿器科学会では見解書2)をホームページに掲出している。「ARAT1剤が抵抗性になった時点で行うというのが学会としての見解」と同氏。学会からは厚生労働省へ要望書も提出しているという。「医療機関側の持ち出しが発生するような形ではなくFoundationOne CDxが活用可能となるよう、注力していきたい」と話した。膵がんに対するオラパリブの適応取得の根拠 膵がん患者の5年生存割合は10%未満と報告されており3)、がんの中で最も予後が悪い。今回承認された、膵がんに対するオラパリブの適応は、「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵がんにおける白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法後の維持療法」。プラチナ製剤を含む化学療法(16週以上)後に病勢進行が認められていない (CR、PR、SD)患者に対する維持療法として使用できる。なお、固形がんにおけるBRCA遺伝子変異陽性割合をがん種ごとに調べた研究では、膵がん患者の5.2%が陽性であったと報告されている4)。膵がんでは、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異(gBRCA)のみを対象として承認されている。 オラパリブの適応取得の根拠となった第III相POLO試験は、gBRCA遺伝子変異陽性で、プラチナ製剤を含む一次化学療法後に疾患進行が認められていない、遠隔転移を有する膵腺がん患者(154例)が対象。主要評価項目であるPFS中央値を、プラセボ群3.8ヵ月に対しオラパリブ投与群では7.4ヵ月と有意に延長した(HR:0.531、95%CI:0.346~0.815)。OS中央値については、中間解析時点では、プラセボ群18.1ヵ月に対しオラパリブ投与群18.9ヵ月と両群間で有意な差は得られていない(HR:0.906、95%CI:0.563~1.457)。ただし、オラパリブ群で生存曲線が後半になるにつれ若干伸びてきている傾向がみられ、1月開催のASCO GIで発表されたアップデートデータでは、よりオラパリブ群で良好な傾向が報告されている。 同試験でのオラパリブ投与群でみられた主な有害事象は、疲労、悪心、腹痛、下痢、貧血、食欲減退、便秘。しかしGrade3以上の有害事象は少なく、「忍容性は高いと考えられる」と池田氏はコメントした。膵がん患者でのオラパリブの適応を判断する検査結果がでるまでの治療は? 膵がん患者におけるオラパリブの適応を判断するコンパニオン診断には、生殖細胞系列変異を検出するBRACAnalysisを用いる。ここで課題となるのが、検査結果が出るまでにかかる約3週間という期間だ。「膵がんの患者さんにとって、3週間は貴重な時間」と同氏。ゲムシタビン(Gem)+ナブパクリタキセル(nab-PTX)による治療を開始しておいて、もし検査結果が陽性であればプラチナ製剤に切り替えるというのが1つの考え方とした。「Gem+ nab-PTXが効いていれば継続するという考え方もあるが、個人的には、積極的にプラチナ製剤に切り替えていっていいのではないかと考えている」と話し、その理由として、BRCA遺伝子変異陽性患者におけるプラチナ製剤の有効性が示されていること、進行してプラチナ製剤が使えなくなると治療法が限られてしまうことを挙げた。

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国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」【下平博士のDIノート】第67回

国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」今回は、慢性疼痛治療薬「トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)」を紹介します。本剤は、1日2回(12時間間隔)の投与に最適化された徐放性製剤であり、非オピオイド鎮痛薬で十分な効果が得られない患者の疼痛緩和やアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な慢性疼痛における鎮痛の適応で、2020年9月25日に承認され、2021年1月8日より発売されています。なお、2022年5月に「疼痛を伴う各種がん」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはトラマドール塩酸塩として1日100~300mgを2回(朝、夕が望ましい)に分けて経口投与します。症状に応じて1回200mg、1日400mgを超えない範囲で適宜増減できますが、1回50mg、1日100mgずつ行うことが推奨されています。なお、初回投与は1回50mgから開始することが望ましく、ほかのトラマドール塩酸塩経口薬から切り替える場合は、切り替え前の薬剤の1日投与量、鎮痛効果および副作用を考慮して本剤の初回投与量を設定します。<安全性>国内で日本人を対象に実施された第II、III相試験(慢性疼痛6試験併合)において、本剤との因果関係を否定できない有害事象は749例中597例(79.7%)で報告されています。主なものは、悪心329例(43.9%)、便秘308例(41.1%)、傾眠160例(21.4%)、嘔吐113例(15.1%)、浮動性めまい81例(10.8%)、口渇58例(7.7%)、食欲減退43例(5.7%)でした。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、呼吸抑制、痙攣、依存性、意識消失(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内への痛みの伝達を抑え、一般的な鎮痛薬では治療困難な痛みを和らげます。2.眠気、めまい、意識消失が起こることがあるので、本剤を服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作をしないでください。3.この薬はゆっくり効く部分を持っていますので、割ったり、粉砕したり、かみ砕いたりせずに、そのまま服用してください。4.悪心・嘔吐、便秘、めまい、口が乾く、食欲が低下するなどの症状が現れることがあります。症状が重く、持続する場合はすぐに受診してください。5.有効成分が出た後の錠剤が糞便中に排泄されることがありますが心配ありません。6.飲酒により薬の作用が強くなり、呼吸抑制が起こることがあります。服用中の飲酒は避けてください。<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され、製造販売会社に開発が要請されました。トラマドールを含有する既存の経口薬としては、1日4回服用の速放性製剤(商品名:トラマール)、1日1回服用の徐放性製剤(同:ワントラム)、アセトアミノフェン配合製剤(同:トラムセットなど)が販売されていています。なお、トラマドールはWHO三段階除痛ラダーで「ステップ2」に位置付けられる弱オピオイド鎮痛薬ですが、わが国では麻薬の指定は受けていません。適応症である「慢性疼痛」は、腰痛症、変形性膝関節症、関節リウマチ、脊柱管狭窄症、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群など幅広い原因によって引き起こされます。本剤は、慢性疼痛治療で汎用されているプレガバリンやセレコキシブなどと同じ1日2回投与ですので、併用薬や生活様式に合わせた薬剤を選択することでアドヒアランスが維持・向上できると期待されます。22年5月の改訂で、がん患者の疼痛管理にも本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマール錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。禁忌となるのは、ほかのトラマドール製剤と同様に、12歳未満の小児、本剤に対する過敏症、アルコールや睡眠薬、鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬または向精神薬による急性中毒、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬を投与中または投与中止後14日以内、ナルメフェン塩酸塩水和物を投与中または投与中止後1週間以内、てんかん患者などです。副作用としては、高頻度で悪心・嘔吐、便秘が報告されています。必要に応じて制吐薬や下剤の併用を提案するようにしましょう。※2022年6月、添付文書改訂の内容を基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ツートラム錠50mg/ツートラム錠100mg/ツートラム錠150mg

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簡易懸濁法に適した整腸剤へ変更して介護負担を軽減【うまくいく!処方提案プラクティス】第31回

 今回は、処方頻度の高い整腸剤に関する処方提案を紹介します。乳酸菌製剤と酪酸菌製剤では、高温条件で簡易懸濁した場合、形状に差があることがあります。その特性を利用し、介護者の負担を軽減することができました。患者情報94歳、女性(長女と同居)基礎疾患認知症、便秘症、胆石症(10年前に手術)、繰り返す尿路感染症介護度要介護2訪問診療の間隔2週間に1回処方内容1.耐性乳酸菌製剤散 3g 分3 朝昼夕食後2.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 朝昼夕食後3.スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠 1錠 分1 朝食後4.グリセリン浣腸60mL 便秘時 1個使用本症例のポイントこの患者さんは、排便コントロールがあまり良好ではなく、時折宿便のような状態になって浣腸が必要になるため、介護負担が大きいということを同居の長女から相談されました。また、錠剤を噛み砕いてしまうことが多いため、長女が簡易懸濁法を用いて服薬させていましたが、懸濁すると薬剤がのり状になり、本人が口中の不快感を訴えて服用させづらいという話も伺いました。排便コントロールの改善のため、酸化マグネシウムの増量や刺激性下剤の追加などを検討しようと考えましたが、長女は長年服用している薬なので、できるだけ今の治療に近いまま調整してほしいという意向でした。そこで、本人および長女の服用・介護負担軽減のため、まず耐性乳酸菌製剤散に焦点を当てて検討することにしました。耐性乳酸菌製剤散は、賦形剤としてデンプンが含有されているため、高温条件下ではのり状になって固まりやすく、懸濁しにくい薬剤です。また、薬効への影響はないとされていますが、懸濁時の温度によって含有されている乳酸菌数が減少することも知られています1,2)。<耐性乳酸菌製剤を50℃温湯と常温に入れて自然放置した時の耐性乳酸菌数の比較>(参考文献2より改変)これらのことから、芽胞形成菌である酪酸菌が含有された酪酸菌製剤錠のほうが適しているのではないかと考えました。芽胞形成菌はその名のとおり芽胞を形成することで、高温条件下でも菌数が減少しにくく、人為的な抗菌薬耐性を付与しなくても抗菌薬の影響を受けにくいという特徴があります3)。そこで、耐性乳酸菌製剤から酪酸菌製剤への変更を提案することにしました。処方提案と経過事前に医療機関に、長女とのやりとりと上記の文献データをトレーシングレポートとしてFAX送信しました。そのうえで医師に電話で疑義照会し、酪酸菌製剤 3錠 分3 毎食後への変更を提案しました。医師は、すでにトレーシングレポートの内容を把握しており、薬剤的な懸念があり介護者の負担も大きいので、提案どおりに変更してみようと承認を得ることができました。処方内容の変更後、長女からは、のり状になることもなく服薬させることができるようになり、排便コントロールも良好になったため浣腸を使用することは減ったと話を伺うことができました。その後も、時折グリセリン浣腸を使用することはありましたが、排便コントロールが悪化することなく経過しています。1)ビオフェルミン製薬 学術部門開発部資料2)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック 〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第4版. じほう;2020.3)江頭かの子ほか. 週刊日本医事新報. 2014;4706:67.

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低用量アスピリンによる胃潰瘍リスク低減の提案薬【うまくいく!処方提案プラクティス】第30回

 今回は、意外と見落としがちな低用量アスピリンによる消化管出血の予防についてです。低用量アスピリンはNSAIDsと同様に消化管障害の危険因子であり、原疾患の治療で継続的な服用が避けられない場合には、予防投与としてPPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2受容体拮抗薬の併用が必要となります。その際は、年齢や腎・肝機能によって薬剤を使い分けましょう。患者情報96歳、男性(施設入居)基礎疾患陳旧性心筋梗塞、慢性心不全、前立腺肥大症、気分障害、右前胸部皮下腫瘤、大腸がん(ESD後の狭窄あり)介護度要介護4訪問診療の間隔2週間に1回処方内容1.フロセミド錠20mg 2錠 分2 朝昼食後2.アスピリン錠100mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠50mg 1錠 分1 朝食後4.プレガバリン口腔内崩壊錠25mg 2錠 分2 朝夕食後5.アセトアミノフェン錠200mg 2錠 分1 就寝前6.アルプラゾラム錠0.4mg 1錠 分1 就寝前7.センノシド錠12mg 1錠 分1 夕食後8.ピコスルファート内用液0.75% 便秘時 5滴から調節本症例のポイントこの患者さんは、施設入居前に上記を含む多数の薬剤を服用していましたが、別の薬剤師の介入により薬剤数が減り、定期内服薬は7種類となりました。今回、私が初めて訪問診療に同行することになりましたが、陳旧性心筋梗塞の既往から低用量アスピリンを継続的に服用し続けているにもかかわらず、消化管出血予防の支持療法が併用されていないことが気になりました。胃痛や胃部不快感、黒色便などの自覚症状こそないものの、もし消化管障害を併発した場合は超高齢で基礎疾患の増悪などリスクが高いと考え、医師と直接話すことにしました。なお、過去にPPIやH2受容体拮抗薬を服用していたかどうかは、薬歴やお薬手帳を確認しても不明でした。処方提案と経過同行時、この患者さんの部屋に入る前に医師に処方内容について相談がある旨を伝え、時間をもらいました。そこで、陳旧性心筋梗塞を基礎疾患として低用量アスピリンの服用を継続しているため、消化性潰瘍の支持療法の検討は必要かどうかを確認しました。現在はとくに自覚症状もなく困っているわけではありませんが、もし低用量アスピリン服用による消化性潰瘍を併発した場合にクリティカルになりかねず、患者さんもできるだけ長く施設で余生を過ごしたいと思っていることを伝えたところ、医師よりそもそもの消化性潰瘍の予防薬が入っていないことを見落としていたと返答がありました。そこで、併用薬についてはPPIのランソプラゾール口腔内崩壊錠15mgの処方追加を提案しました。H2受容体拮抗薬を提案しなかったのは、高齢者においては認知機能低下の懸念があり、この患者さんは腎機能が低下(Scr:1.86mg/dL)しているため肝代謝を主としたPPIのほうが望ましいと考えたからです。医師より提案事項の承認を得ることができ、早々にランソプラゾールを開始することになりました。その後、とくに胃部不快感などの症状や、下痢や肝機能障害などのPPIによる有害事象の出現もなく経過しています。Sugano K, et al. J Gastroenterol. 2011;46:724-735.

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世界初の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬「リベルサス錠3mg/7mg/14mg」【下平博士のDIノート】第64回

世界初の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬「リベルサス錠3mg/7mg/14mg」今回は、2型糖尿病治療薬「セマグルチド(商品名:リベルサス錠3mg/7mg/14mg、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、世界初の経口投与可能なGLP-1受容体作動薬であり、注射剤に抵抗がある患者さんであってもQOLを損ねずに良好な血糖コントロールを得られることが期待できます。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2020年6月29日に承認、同年11月18日に薬価収載されています。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として1日1回3mgを開始用量として経口投与し、4週間以上投与した後に1日1回7mgの維持用量に増量します。1日1回7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1日1回14mgまで増量することができます。なお、本剤の吸収は胃の内容物により低下することから、1日の最初の飲水・食事前にコップ半分の水(約120mL以下)とともに本剤を服用します。服用時および服用後少なくとも30分は、飲食およびほかの薬剤の経口摂取を避ける必要があります。分割や粉砕、かみ砕いて服用することはできません。<安全性>日本人が参加した第III相臨床試験(併合データ)において、安全性評価対象症例3,290例中1,166例(35.4%)に副作用が認められました。主な副作用は、悪心355例(10.8%)、下痢204例(6.2%)、食欲減退147例(4.5%)、便秘143例(4.3%)、嘔吐142例(4.3%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、急性膵炎(0.1%)、低血糖(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は膵臓に作用して、血糖値が高くなった際にインスリンの分泌を促すことで血糖値を下げます。2.1日の最初の飲食の前に、空腹の状態でコップ約半分の水とともに服用してください。その後の飲食や他剤の服用は、本剤の服用から少なくとも30分経ってからにしてください。3.本剤は吸湿性が強いため、服用直前にシートから取り出してください。また、割ったりかんだりしないでください。4.冷や汗が出る、血の気が引く、手足の震えなど、低血糖が考えられる症状が発現した場合は、速やかに砂糖かブドウ糖が含まれる飲食物を摂取してください。高所作業、自動車の運転などを行う際は十分に注意してください。5.胃の不快感、便秘、下痢などの消化器症状が起こることがあります。症状が長く続く場合や、嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は、すぐに病院か薬局に連絡してください。<Shimo's eyes>本剤は初の経口GLP-1受容体作動薬であり、同成分の皮下注製剤(商品名:オゼンピック)は一足早く発売されています。GLP-1受容体作動薬は分子量が大きいため、胃からの吸収が難しく、消化酵素により分解されやすいこともあり、これまで注射剤しかありませんでした。本剤は、サルカプロザートナトリウム(SNAC)と呼ばれる吸収促進剤を添加することで、胃からの吸収が促進され、生物学的利用能が高まったことから経口投与が可能となりました。本剤の吸収は錠剤表面の周辺部に限定されることから、SNACの含有量の差異および物理的に2つの錠剤が胃内に存在すると本剤の吸収に影響を及ぼす可能性があるため、本剤14mgを投与する際に7mg錠を2錠で投与することはできません。また、本剤のシートをミシン目以外で切って保管すると、湿気などの影響を受ける恐れがあります。そのため、調剤の際はとくに注意が必要です。臨床効果については、2型糖尿病患者を対象とした2つの国内試験、国際共同試験、海外臨床試験などで、HbA1cの持続的な改善効果が示されました。また、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン、DPP-4阻害薬、さらにGLP-1受容体作動薬リラグルチド皮下注などとの比較試験においても、HbA1cや体重の低下量は同等かより良好な結果を示しています。本剤を含むGLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬は、いずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しており、併用した場合の有効性および安全性は確認されていないため、両剤が処方されている場合は疑義照会が必要です。本剤の吸収は胃の内容物により低下するため、起床後に空腹の状態で服用し、その後の30分間は何も飲食してはいけないなど、特別な注意が必要です。患者さんの理解度を確かめながら指導とフォローアップをしっかり行いましょう。参考1)PMDA 添付文書 リベルサス錠3mg/リベルサス錠7mg/リベルサス錠14mg

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機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―新薬・エビデンス続々、心理的ケアの認知高まる

 4人に1人―、これがわが国の機能性消化管疾患の現状と見られている。機能性消化管疾患は、過敏性腸症候群(IBS)のほか、IBS関連疾患群(機能性便秘、機能性下痢、機能性腹部膨満)を含む。中でも、IBSは消化器内科受診者の約3割を占めるという数字もあり、社会的関心は確実に高まっている。今年6月に発刊された『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020』(改訂第2版)は、2014年の初版以来の改訂版。新薬に加え、既存製剤についてもエビデンスの蓄積により治療可能性が広がっているほか、疾患研究の進展により、病態に関与する生物学的要因や心理社会的因子などを総合的にとらえる概念としての「脳腸相関」の重要性がさらに明確になったことを裏付ける項目もある。ガイドライン作成委員長を務めた福土 審氏(東北大学行動医学分野・心療内科)に、改訂のポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。薬物治療のエビデンスが充実、心理的治療も推奨度を強化 IBSの疫学、病態、予後と合併症に関する項目は、初版のガイドラインではCQ (clinical question)に位置付けていたが、改訂版では、ほかのガイドライン1,2)同様、BQ:background questionとして収載し、初版で明確になっている結論をさらに強化する知見を追記した。その一方、2014年以降に集積された知見を新たにCQに、エビデンスが乏しく、今後の研究課題とするものはFRQ(future research question)とした。このたびの改訂版は、CQ26項目、BQ11項目、FRQ3項目で構成されている。 初版からの変更点のうち、主だったものを挙げると、診断基準については、初版ではRome IIIだったが、2016年に国際的診断基準がRome IVとなったため、改訂版においてもRome IVを採用した。この変更にはさまざまな議論があったが、最終的にはBQとなった。 IBSの鑑別診断については、大腸内視鏡以外の臨床検査(大腸以外の内視鏡、画像検査、糞便・血液・尿による検体検査)の位置付けが初版では弱い推奨だったが、サイエンスレベルの向上により、今回は強い推奨となっている。 治療薬については、粘膜上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)の便秘型IBSへの有用性がRCTやメタアナリシスで相次いで示され、リナクロチドが保険適用されたため、エビデンスレベルがBからAに変更され、強く推奨された。一方、2018年に慢性便秘症に承認されたエロビシキバットも便秘型IBS治療に推奨している。Rome IVの考え方では、便秘型IBSと機能性便秘は同じスペクトラムの中にあり、慢性便秘症の部分集合である。わが国では、ルビプロストンとエロビシキバットの保険適用に際しては、慢性便秘症の診断を要することに留意したい。 抗アレルギー薬を巡ってはさまざまな議論があったが、改訂版では強い推奨、かつエビデンスレベルAとした。わが国では、現段階ではIBSの保険適用ではないものの、抗アレルギー薬治療によるエビデンスが蓄積されつつあることを受けて変更された。抗菌薬については、初版では弱い非推奨(エビデンスレベルC)だったが、リファキシミンが米国で認可され、ジャーナル誌やメタアナリシスでも効果が追認されたため、このたびの改訂でエビデンスレベルAとなった。ただ、残念ながらわが国では保険適用ではない点は明記した。 麻薬については、依存性と使用により、かえって腹痛が増強する麻薬性腸症候群を作り出す危険があり、改訂版では弱い非推奨(エビデンスレベルC)としている。なお、米国では非麻薬性のオピオイドμ/κ受容体刺激薬・δ受容体拮抗薬エルクサドリンが下痢型IBS治療薬として認可されている。 今回の改訂において、心理的治療は強い推奨となった(エビデンスレベルB)のは注目すべき点である。2014年当時は、IBSに対する心理的治療に対し懐疑的な研究論文もあったが、国際的に必要な重症度の患者には心理的ケアを行うということが徐々に定着しつつある。難治性や、心身症の特性を持つIBS患者に対する心理療法の有効性が繰り返し報告され、標準化される方向性が定まってきた。 改訂版の作成過程において結論が見出せなかったのは、抗精神病薬や気分安定化薬の使用、糞便移植、そして重症度別のレジメンの有用性である。これらに関しては、明瞭かつ直接的な効果が確認できなかったので、FRQと位置付けた。次の5年間や今後の研究の進展で変わっていくべき課題と考えている。IBS治療は着実に進歩、プライマリケア医の診断・治療に期待 国内に関しては、IBS治療はかなり進歩していると感じる。10年前には使えなかった製剤も使えるようになり、患者の改善の実感も得られてきているものと考える。薬物に関しては、いかに抗うつ薬を活用し、治療していくかという国際的なトレンドがある。日本においてもその潮流が強まるだろう。 現状は、プライマリケア医で大腸内視鏡検査が可能であれば実施し、できなければ総合病院に紹介されて検査という流れが一般的であると思われる。総合病院にIBSの診断・治療に前向きな消化器内科医がいれば問題はないが、炎症性腸疾患や大腸がんを専門にしている場合は、抗うつ薬の投与や心理療法に戸惑いを感じる医師もいるだろう。その場合は、心療内科に紹介して治療を進めるのが良い。そのような形で効率良く病診連携できるのが望ましい。 IBSはプライマリケア医が十分対応できる疾患である。開業医の方には、リスクを踏まえて慎重かつ早めに診断し、最初の段階でしっかり診断・治療できれば患者にも喜ばれ、医師側も患者をケアできているという実感が得られると考える。また、IBSは診断から最初の2~3年ががんのリスクが高い。その時期を過ぎればリスクはかなり低下する。これらのエビデンスを踏まえて検査の頻度やチェック項目を考えるのは、担当医師の裁量範囲である。

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セマグルチド、NASH治療に有効な可能性/NEJM

 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療において、セマグルチドはプラセボに比べ、肝線維化の悪化を伴わないNASH消散が達成された患者の割合が有意に高いが、肝線維化の改善効果には差がないことが、英国・バーミンガム大学のPhilip N. Newsome氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年11月13日号で報告された。NASHは、脂肪蓄積と肝細胞損傷、炎症を特徴とする重度の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であり、肝線維化や肝硬変と関連し、肝細胞がんや心血管疾患、慢性腎臓病、死亡のリスク増大をもたらす。また、インスリン抵抗性は2型糖尿病と肥満に共通の特徴で、NASHの主要な病因とされる。2型糖尿病治療薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドは、肥満および2型糖尿病患者の減量に有効で、血糖コントロールを改善し、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値や炎症マーカーを抑制すると報告されているが、NASH治療における安全性や有効性は明らかにされていない。16ヵ国143施設が参加したプラセボ対照無作為化第II相試験 本研究は、セマグルチドが組織学的なNASHの消散に及ぼす効果を評価する目的で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、日本を含む16ヵ国、143施設が参加し、2017年1月~2018年9月の期間に患者登録が行われた(Novo Nordiskの助成による)。 対象は、年齢18~75歳(日本は20~75歳)、生検でNASHが証明され、ステージF1、F2、F3の肝線維化を有し、2型糖尿病の有無は問われず、BMI>25の患者であった。被験者は、3つの用量(0.1、0.2、0.4mg)のセマグルチドまたはそれぞれに対応するプラセボを1日1回皮下投与する群に、各用量群とも3対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、72週の時点における肝線維化の悪化のないNASHの消散とした。NASH消散は、NASH Clinical Research Networkの分類で炎症性細胞の軽度残存以下(スコア0~1点)で、かつ肝細胞の風船様腫大がない(スコア0点)場合と定義された。副次エンドポイントは、NASHの悪化がなく、かつ肝線維化の1ステージ以上の改善であった。これらのエンドポイントの解析は、肝線維化がステージF2またはF3の患者に限定して行われ、他の解析は全ステージの患者で実施された。肝酵素や体重減少も用量依存性に改善 320例(肝線維化のステージF2、F3は230例)が登録され、セマグルチド0.1mg群に80例、同0.2mg群に78例、同0.4mg群に82例、プラセボ群には80例が割り付けられた。全体の平均年齢は55歳、61%が女性、62%が2型糖尿病であり、平均体重は98.4kg、平均BMIは35.8であった。肝線維化のステージ別では、F1が90例(28%)、F2が72例(22%)、F3は158例(49%)だった。 72週時において線維化の悪化がなくNASHが消散した患者の割合は、0.1mg群が40%、0.2mg群が36%、0.4mg群が59%で、プラセボ群は17%であった。0.4mg群のプラセボ群に対するオッズ比(OR)は、6.87(95%信頼区間[CI]:2.60~17.63)であり、0.4mg群で有意に優れた(p<0.001)。一方、72週時の肝線維化の1ステージ以上の改善は、0.4mg群では43%、プラセボ群では33%の患者で達成されたが、両群間に有意な差は認められなかった(OR:1.42、95%CI:0.62~3.28、p=0.48)。 ALTおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)は、いずれもセマグルチドの用量依存性に低下し、72週時のベースライン時に対する測定値の比は、0.4mg群が0.42であったのに対し、プラセボ群は0.81だった(比が小さいほど、低下率が大きい)。また、72週時の体重減少率は用量依存性に増加し、0.4mg群が12.51%、プラセボ群は0.61%であった。セマグルチド群では、2型糖尿病の有無を問わず、糖化ヘモグロビン値の低下率が大きかった。 0.4mg群はプラセボ群に比べ、悪心(42% vs.11%)、便秘(22% vs.12%)、嘔吐(15% vs.2%)の発生率が高かった。悪性新生物は、セマグルチド群で3例(1%)報告されたが、プラセボ群ではみられなかった。全体として、新生物(良性、悪性、詳細不明)の発生率はセマグルチド群で15%、プラセボ群では8%と報告され、特定の臓器での発生のパターンは観察されなかった。 著者は、「NASH消散と用量依存性の体重減少に関して大きな有益性が得られたとはいえ、肝線維化の改善に有意差がなかったという事実は予想外であった。肝線維化の重症度が高い患者が多かったことから、72週という期間では、肝線維化のステージの改善が明確になるまでの時間が十分でなかった可能性がある」としている。

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成人ADHDに対するグアンファシン徐放性製剤の安全性、有効性~第III相延長試験

 昭和大学の岩波 明氏らは、成人の注意欠如多動症(ADHD)に対するグアンファシン徐放性製剤(GXR)の長期における安全性、有効性の評価を行った。BMC Psychiatry誌2020年10月2日号の報告。 本研究は、日本で行われた成人ADHDに対するGXRの非盲検長期第III相延長試験である。対象は、二重盲検試験から延長された成人ADHD患者150例および新規に登録された41例。1日1回のGXR投与を50週間継続した(開始用量:2mg/日、維持用量:4~6mg/日)。主要アウトカムは、治療による有害事象(TEAE)の頻度と種類とした。副次的アウトカムは、成人用ADHD評価尺度ADHD-RS-IV日本語版の合計スコアおよびサブスコア、コナーズの成人期ADHD評価尺度(CAARS)、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)、患者による全般印象度の改善度(PGI-I)、QOL、実行機能の0週目からの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・191例中180例(94.2%)で1つ以上のTEAEが認められ、38例(19.9%)がTEAEにより治療を中止した。・ほとんどのTEAEの重症度は、軽度から中等度であり、重度のTEAEは2例であった。また、死亡例は認められなかった。・患者の10%以上で認められた主なTEAEは、傾眠、口渇、鼻咽頭炎、血圧低下、頭位性めまい、徐脈、倦怠感、便秘、めまいであった。・ADHD-RS-IV合計スコアおよびサブスコア、CAARSサブスコアの有意な改善が認められた(p<0.0001)。また、CGI-I、PGI-Iスコアが大きく改善した患者の割合は増加した。 著者らは「成人ADHDに対するGXRの長期使用に、重大な安全上の懸念は見当たらなかった。また、GXR長期使用後、患者のADHD症状、QOL、実行機能の有意な改善が認められた」としている。

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糖尿病患者の残薬1位は?-COVID-19対策で医師が心得ておきたいこと

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実態が解明されるなか、重症化しやすい疾患の1つとして糖尿病が挙げられる。糖尿病患者は感染対策を行うのはもちろん、日頃の血糖コントロール管理がやはり重要となる。しかし、薬物治療を行っている2型糖尿病患者の血糖コントロール不良はコロナ流行以前から問題となっていた。今回、その原因の1つである残薬問題について、亀井 美和子氏(帝京平成大学薬学部薬学科 教授)らが調査し、その結果、医療者による患者への寄り添いが重要であることが明らかになった。 このアンケート結果は、9月30日に開催されたメディア勉強会『処方実態調査の結果にみる、糖尿病患者さんの課題~新たな日常で求められるシンプルな治療、服薬アドヒアランスの向上~』の「服薬アドヒアランスと患者支援 2型糖尿病患者の処方実態調査結果より」で報告され、同氏が血糖コントロールに不可欠な残薬問題解決の糸口について語った。このほか、糖尿病患者のCOVID-19への影響を踏まえ、門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が「服薬アドヒアランス向上のために医師ができること」について解説した(主催:日本イーライリリー)。糖尿病患者の残薬1位、α-グルコシダーゼ阻害薬 残薬が生じる原因には、薬物の服用回数の多さ、服用タイミングなどの問題が挙げられる。2013年2月、残薬による日数調整の対象となりやすい薬剤について薬局薬剤師3,001人に調査した結果によると、第1位に挙げられた薬剤はα-グルコシダーゼ阻害薬、消化性潰瘍治療薬、下剤などであった。これは、「薬の効果を感じにくい」「症状があるときだけ使用する薬(自己調節が可能)」「用法が食前」などの理由が原因とされる。また、糖尿病患者の残薬理由を尋ねた調査では、「飲み忘れ」「持参し忘れ」などが特徴付けられた。 このような結論をより具体的にするために亀井氏らは2型糖尿病患者の服薬アドヒアランスと治療の負担感について調査を行った。  本調査は、日本在住で20歳以上の電子お薬手帳サービス「harmo」利用者のうち、2020年4月30日時点でID登録がされており、過去3ヵ月間(2020年1月1日~4月10日)に2型糖尿病の経口薬を処方されていた患者5,504 例の人口統計的変数、治療状況、経口薬の服薬状況、ライフサイクル(起床/就寝時間)に関する情報を収集した横断的観察研究。調査期間は2020年4月30日~5月10日、調査方法はスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどを用いたインターネット・アンケートだった。 主な結果は以下のとおり。・実際に回答を得られたのは675例で、男性は499例、女性は176例だった。・平均2.1剤の経口糖尿病薬を服用し、1日あたりの服薬回数は平均2.0回であった。・糖尿病薬を服薬するタイミングで最も多かったのは朝食後74.4%であった。・32.4%の患者さんで服薬アドヒアランスが不良であった。・服薬アドヒアランス良好の患者さんに比べ、不良の患者さんのほうが1日あたりの服薬回数が多かった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんはHbA1cの値が高い傾向であった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんの38.4%が服薬に負担を感じていた。患者が服薬しないのは、情報不足・認識の低さ・副作用経験から この結果を踏まえ、亀井氏は「服薬アドヒアランス不良の患者では直近のHbA1cが高い傾向にあることから、合併症予防の観点からも治療の負担感を軽減し、服薬アドヒアランスを高めていく必要がある」と述べ、「残薬が発生するに原因には、薬自体や処方の特徴、そして患者の特徴が影響している。これを解決できていないのは患者と医療者とのコミュニケーション不足が原因」と話した。 そこで、質的研究として同氏らは個々に向かい合い、“服薬しない”行動原理を探索した。そこには“理解不足”はもちろんのこと、「複数の情報による混乱」「情報を都合よく解釈」「副作用への不安」「受け身の治療」などの個々の考えが大きく影響していることが示唆された。このような患者の考えには、「さまざまな情報や適切な情報の不足、病気の認識が低い、自他の副作用経験が影響し、意図的に(時には意図的ではなく)服用しない、という行動に結びつく」と同氏はコメント。実際に個別に応じた対応を行った結果、改善したと回答した薬局が97.6%にものぼっていた。医師による服薬アドヒアランス向上が糖尿病のCOVID-19重症化を防ぐ 続いて、門脇氏は糖尿病患者のCOVID-19対策時における注意点を説明。「外出自粛に伴う運動量の減少、食習慣の変化による体重増加や高血糖を防止するため、積極的な活動を心がけ、食事の取り方に十分注意する必要がある。また、外出自粛を理由に糖尿病患者が医療機関への受診を極端に控えることは、血糖コントロールや病状の悪化につながる可能性があるため、個々の糖尿病患者の状態に応じて適切な間隔での受診・検査・投薬が必要である」と強調した。 この注意点を解決していくためにはやはり患者とのコミュニケーションが重要となる。同氏は血糖コントロール管理の上で欠かせない医師と医療者のコミュニケーションが日本では世界と比べ不足していることを指摘し、「この原因は診療時間が十分に取れない環境にあるが、医療者は患者のQOLアウトカム(日常生活・社会生活の制限、自由の剥奪感、精神的負担など)を留意する必要がある。そのためには、医師自身がベストと考える治療法を説明し患者さんの同意を得るInformed Consentと、患者へ結果に大きな差のない複数の治療法について説明して患者が選択するInformed Choiceを取り入れていくことが必要である。これが“糖尿病患者の治療意欲とアドヒアランスを高める”ことにつながる」と述べ「糖尿病患者が治療に向き合っていること、糖尿病患者がスティグマ(社会的偏見)に苦しんでいることも医療者は理解しなければならない」と締めくくった。

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FDA、急性骨髄性白血病の寛解導入にベネトクラクスの併用療法を承認

 米国食品医薬品局(FDA)は、2020年10月16日、75歳以上または併存疾患で強力な寛解導入療法が適用できない成人の急性骨髄性白血病(AML)に対して、ベネトクラクスとアザシチジン、desitabineまたは低用量シタラビン(LDAC)との併用を正式に承認した 。 ベネトクラクスとこれらの併用に関する有効性は2件の無作為化二重盲検プラセボ対照試験で確認されている。1つはベネトクラクス+アザシチジン群(n=286)とプラセボ+アザシチジン群(n=145)を無作為に比較したVIALE-A試験である。この試験では、ベネトクラクス+アザシチジン群のOS中央値14.7ヵ月に対し、プラセボ+アザシチジン群では9.6ヵ月(HR:0.66、 95%CI:0.52~0.85、p<0.001)と、ベネトクラクス+アザシチジン群の有意な有効性が確認された。完全寛解(CR)率においても改善を示し、ベネトクラクス+アザシチジン群37%に対し、プラセボ+アザシチジン群では18%であった。 もう1つはベネトクラクス+LDAC群(n=143)とプラセボ+LDAC群(n=68)を無作為に比較したVIALE-C試験である。この試験では、ベネトクラクス+LDAC群のCR率は27%、CR期間中央値は11.1ヵ月に対し、プラセボ+LDAC群ではどれぞれ7.4%、8.3ヵ月と、CR率とCR期間に関してベネトクラクス+アザシチジン群で良好であった。OSについては、有意な改善は確認されなかった(HR:0.75、 95%CI:0.52~1.07、 p=0.114)。  ベネトクラクスとの併用で頻度の高かった(30%以上)有害事象は、悪心、下痢、血小板減少症、便秘、好中球減少症、発熱性好中球減少症、疲労、嘔吐、浮腫、発熱性肺炎 、呼吸困難、出血、貧血、発疹、腹痛、敗血症、筋骨格痛、めまい、咳、中咽頭痛、および低血圧であった。

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