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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(消化管)

第1回 ピロリ菌感染症関連第2回 消化管悪性腫瘍第3回 消化管出血 腹部緊急疾患第4回 消化管機能性疾患第5回 感染症 炎症性腸疾患第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の消化管については、公立豊岡病院の宮垣亜紀先生がレクチャー。消化管は内視鏡画像の診断がポイント。豊富な症例画像を使って、頻出の内視鏡検査問題を徹底的にトレーニングします。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ピロリ菌感染症関連消化管は、内視鏡画像診断がポイント。非専門医にとっては普段見慣れない内視鏡画像ですが、試験に出題される疾患はある程度絞られているので、それを押さえれば攻略できます。第1回は、胃十二指腸潰瘍や胃がんのリスクとなるヘリコバクター・ピロリ菌。ピロリ菌に起因する疾患は、胃がんや潰瘍だけではありません。ピロリ菌感染関連疾患は、内視鏡で胃炎を証明し、ピロリ菌を証明するための各種検査も覚えておくことが重要です。第2回 消化管悪性腫瘍消化管悪性腫瘍には、胃がん、大腸がん、食道がん、消化管間質腫瘍GISTがありますが、共通して問われやすいのは、リスクファクター、内視鏡所見の診断、疾患に関する知識です。胃がんは内視鏡所見から深達度と組織型を診断し、内視鏡的粘膜下層剥離術の適応を判断。近年のトピックスとして、バレット食道がんの報告が増えています。粘膜下腫瘍の形態をとるGISTは、どの消化管でも起こりえます。超音波内視鏡やCTで診断します。第3回 消化管出血 腹部緊急疾患消化管出血と、試験に出題されやすい腹部緊急疾患について、身体所見、検査、治療を整理します。上部消化管出血の中でも緊急性が高いのは静脈瘤出血。静脈瘤結紮術で治療します。下部消化管出血で最もコモンな疾患は虚血性腸炎と大腸憩室出血。X線・CTで特徴的な画像所見を示すS状結腸軸捻転。腸閉塞とイレウスは概念を混同しないように注意。生の海産物を摂取した後の激烈な腹痛はアニサキス症を疑います。第4回 消化管機能性疾患機能性疾患の中でもよく出題される食道アカラシア。見た目ではっきりわかる腫瘍があるわけではないので、内視鏡検査では見つかりにくく、食道造影やマノメトリーという検査が有用です。新たな治療法として、経口内視鏡的括約筋切開術POEMが注目されています。機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群は器質的疾患の除外が重要。胃食道逆流症にはびらん性と非びらん性があり、同じ薬剤でも効果に差があります。第5回 感染症 炎症性腸疾患多岐にわたる腸管感染症から、感染性腸炎、アメーバ性大腸炎、抗菌薬起因性腸炎について解説します。感染性腸炎は、抗菌薬が必要な状況の見極めがポイント。内視鏡的所見が特徴的なアメーバ性大腸炎。潰瘍の周囲にタコいぼ様びらんが見られます。日常臨床でもよくある潰瘍性大腸炎は、重症度に応じて薬剤か手術を選択。非連続性の全層性の肉芽腫性炎症が起きるクローン病は、狭窄を考慮しながら適した画像検査を選択します。第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌好酸球性消化管疾患は、原因がまだ明らかになっていないアレルギー疾患です。遺伝性疾患では、大腸にポリープが多発する家族性腺腫性ポリポーシスは、放置するとがん化するため、大腸全摘が必要です。Peutz-Jeghers症候群は過誤腫性ポリープで、こちらはほとんどがん化しません。毛細血管拡張の画像所見が特徴的なオスラー病も覚えておきましょう。消化管内分泌のトピックスとして、神経内分泌腫瘍のガストリノーマについて確認します。

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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急性上部消化管出血に対する緊急内視鏡の適切な施行時期は(解説:上村直実氏)-1225

 吐血や下血を主訴とする急性上部消化管出血の死亡率および外科的手術を減少するために、発症から24時間以内の緊急内視鏡検査が推奨されている。日本の臨床現場でも緊急内視鏡の施行が早ければ早いほど救命率が増加すると考えられているものの、緊急内視鏡検査をいつでも施行できる診療体制を有する施設は限られていることも事実である。 最近、重篤な急性上部消化管出血症例を対象として緊急内視鏡検査の適正な時期を検証する目的で、消化器科へ紹介された後6時間以内に検査する緊急施行群と6時間から24時間以内の早期施行群に分けたRCTが行われた結果、検査施行時期が生命予後や再出血率に影響しないことがNEJM誌に発表された。緊急群に比べて早期施行群では薬剤による酸分泌抑制の時間が長いため、検査施行時には露出血管を伴い内視鏡治療を必要とする重篤な潰瘍病変が減少して、技術的にも内視鏡治療が奏効する割合が上昇したために緊急群と早期群が同等の結果となったことが推察されている。 なお、薬剤の有用性を比較する場合と違って、内視鏡診療に関する最適な方法を検討した結果を日本の臨床に適用しようとすると、内視鏡技術の格差が問題となることが多い。今回の臨床研究が実施された中文大学は香港で最も内視鏡診療のレベルが高く、十分なマンパワーを有し、高度な医療機器が整備された施設であり、内視鏡治療法も日本と同様の止血クリップまたは接触熱凝固のいずれかを用いており、出血性の食道静脈瘤と胃静脈瘤にはそれぞれバンド結紮とシアノアクリレート注入を行っていることから、わが国の内視鏡診療にとっても重要な知見である。 『非静脈瘤性上部消化管出血における内視鏡診療ガイドライン2015』(日本消化器内視鏡学会)に緊急内視鏡の適正な施行時期に関する記載がなく、今回の研究結果から緊急内視鏡検査を急ぐより、患者の全身状態を把握するとともに、当該施設における体制を十分に考慮した対応を事前に考えておくことが肝要であり、さらには消化器内科への紹介前の酸分泌抑制薬投与が重要であることが示唆された。

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急性上部消化管出血の内視鏡検査、最適な施行時期とは/NEJM

 急性上部消化管出血を発症し、再出血または死亡のリスクが高い患者では、消化器科コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査と比較して、30日死亡率を抑制しないことが、中国・香港中文大学のJames Y.W. Lau氏らの検討で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年4月2日号に掲載された。International Consensus Groupのガイドラインでは、急性上部消化管出血患者には、受診後24時間以内に内視鏡検査を行うよう推奨されている。一方、24時間より短い時間枠内に施行される内視鏡検査の役割は、十分に明らかではないという。緊急と早期施行で、30日死亡率を比較する無作為化試験 研究グループは、再出血や死亡のリスクが高いと予測される急性上部消化管出血患者では、コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査に比べ、再出血を未然に防ぎ、転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化試験を実施した(香港特別行政区食品衛生局保健医療基金の助成による)。 対象は、上部消化管の急性の顕性出血(吐血、下血、これら双方)が認められ、Glasgow-Blatchfordスコア(0~23点、点数が高いほど、再出血または死亡のリスクが高い)が12点以上の患者であった。 被験者は、消化器科コンサルテーション後6時間以内に内視鏡検査を受ける群(緊急内視鏡群)、または6~24時間に検査を受ける群(早期内視鏡群)に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、無作為化から30日以内の全死因死亡とした。30日死亡と再出血の双方が、緊急施行で多い傾向 2012年7月~2018年10月の期間に516例が登録され、緊急内視鏡群に258例(平均年齢69.6±16.0歳、男性60.9%)、早期内視鏡群にも258例(71.4±14.9歳、65.1%)が割り付けられた。消化性潰瘍が出血源の患者は、緊急内視鏡群61.2%(158例)、早期内視鏡群61.6%(159例)で、食道胃静脈瘤が出血源の患者はそれぞれ9.7%(25例)および7.3%(19例)であった。 救急診療部受診から消化器科コンサルテーションまでの平均時間は、緊急内視鏡群7.4±6.2時間、早期内視鏡群8.0±7.1時間であり、コンサルテーションから内視鏡検査施行までの平均時間は、それぞれ2.5±1.7時間および16.8±6.8時間であった。したがって、受診から内視鏡検査施行までの平均時間は、緊急内視鏡群9.9±6.1時間、早期内視鏡群24.7±9.0時間となった。 30日死亡率は、緊急内視鏡群8.9%(23/258例)、早期内視鏡群6.6%(17/258例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.35[95%信頼区間[CI]:0.72~2.54]、p=0.34、群間差2.3ポイント[95%CI:-2.3~6.9])。 30日以内の再出血率は、緊急内視鏡群10.9%(28例)、早期内視鏡群7.8%(20例)であり、有意差はなかった(HR:1.46[95%CI:0.83~2.58]、群間差:3.1ポイント[95%CI:-1.9~8.1])。 消化性潰瘍患者では、活動性出血または露出血管を伴う潰瘍は、緊急内視鏡群の66.4%(105/158例)と早期内視鏡群の47.8%(76/159例)で認められた。また、内視鏡的止血術は、緊急内視鏡群の60.1%(155例)と早期内視鏡群の48.4%(125例)で行われた。 著者は、「緊急内視鏡群では、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が多かったため、内視鏡治療の頻度が高かったが、これは再出血や死亡の抑制には結び付かなかった。一方、早期内視鏡群は1晩の酸分泌抑制薬治療を受けており、内視鏡検査までの期間が長く投薬期間が長いほど、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が少なかった。内視鏡検査前の酸分泌抑制薬治療は、内視鏡治療を必要とする患者を減少させる可能性がある」としている。

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ICUにおける予防的なPPI投与はH2RAと比べて死亡抑制効果があるのか?(解説:上村直実氏)-1204

 ICUに入院して人工呼吸器を装着される患者の多くに対して、致死的な出血性ストレス潰瘍の発症を予防する目的でプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)が使用されている。従来、上部消化管出血予防に対する有用性はH2RAに比べてPPIのほうが優ることが報告されている。しかし、PPIによる予防戦略が院内死亡率の低下についてもH2RAに比べて有用性が高いかどうかは明確になっていない。今回、オーストラリア、カナダ、英国、アイルランド、ニュージーランドの5ヵ国50施設のICUが参加したRCTの結果、上部消化管出血の予防には従来通りH2RAよりPPIが有効であるが、院内死亡率に関しては両者に差がないことがJAMA誌オンライン版に報告されている。 本研究で使用された研究デザインは「非盲検クラスター・クロスオーバー無作為化試験」であり、日本ではなじみの薄いものである。すなわち、本試験では、地域別ないしは施設ごとに使用する薬剤であるPPIとH2RAの使用する順番をランダムに決定し、さらにはその両薬剤をスイッチする時期に関して担当医師の裁量を加味するという複雑なデザインである。 研究結果として、地域ごとの治療反応に統計学的に有意な不均一性が存在することが明らかとなり、PPIとH2RA両薬剤の上部消化管出血予防に対する有用性がそれぞれの地域や施設において異なる結果となっていることは、本研究結果の解釈を難しいものとしている。さらには参加した国々における人種や医療に対する姿勢などの違いによるバイアスの存在が示唆されるなど、本研究自体の信頼性に疑問を呈する臨床論文になったように思われた。日本国内や国際臨床試験に参加する場合には、得られる結果を見越して研究デザインを十分に練ることが重要であることを学んだ論文である。

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低用量アスピリン、早産と周産期死亡を抑制/Lancet

 低~中間所得国の未経産妊婦では、妊娠早期(6週0日~13週6日)に低用量アスピリンを投与することで、妊娠37週未満と34週未満の早産および胎児の周産期死亡の発生が改善されることが、米国・Christiana CareのMatthew K. Hoffman氏らが行った二重盲検プラセボ対照無作為化試験「ASPIRIN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年1月25日号に掲載された。低~中間所得国では、早産は新生児死亡の原因として頻度が高い状態が続き、その負担は過度に大きいという。低用量アスピリンの妊娠高血圧腎症の予防に関するメタ解析により、とくに妊娠16週未満の時期に投与を開始すると早産の発生が低下する可能性が示唆されている。6つの低~中間所得国の無作為化試験 本研究は、6ヵ国(インド、コンゴ、グアテマラ、ケニア、パキスタン、ザンビア)の7施設が参加し、2016年3月23日~2018年6月30日の期間に患者登録が行われた(米国Eunice Kennedy Shriver国立小児保健発達研究所[NICHD]の助成による)。 対象は、18~40歳(コンゴ、ケニア、ザンビアは倫理審査委員会の許可があれば≧14歳の未成年者を含めた)の未経産の単胎妊娠女性であった。 被験者は、妊娠6週0日~13週6日の期間に、低用量アスピリン(81mg/日)またはプラセボの錠剤を投与される群に無作為に割り付けられた。妊娠36週7日または分娩まで、研究者、医療従事者、患者には治療割り付け情報がマスクされた。 主要アウトカムは、早産(妊娠≧20週0日~<37週0日の分娩数)の発生とした。早産11%、34週未満の早産25%、周産期死亡14%のリスク低減 1万1,976例(低用量アスピリン群5,990例、プラセボ群5,986例)の妊婦が登録され、1万1,544例(5,780例、5,764例)が主要アウトカムの解析に含まれた。>29歳は全体の2.2%であり、ベースラインの患者背景や国別の患者の割合は両群でほぼ同様であった。アドヒアランス(服薬順守率90%以上の患者の割合)は、低用量アスピリン群85.3%、プラセボ群84.4%であり、両群とも高かった。 妊娠37週未満の早産の割合は、低用量アスピリン群が11.6%(668/5,780例)と、プラセボ群の13.1%(754/5,764例)に比べ有意に低かった(リスク比[RR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.81~0.98、p=0.012)。 胎児の副次アウトカムのうち、周産期死亡(周産期[妊娠20週~産後7日以内]の死亡、1,000出産当たりの死亡数:45.7件vs.53.6件、RR:0.86、95%CI:0.73~1.00、p=0.048)、胎児消失(fetal loss、妊娠16~20週の死産と妊娠20週~産後7日以内の周産期死亡、1,000妊娠当たりの死亡数:52.1件vs.60.8件、0.86、0.74~1.00、p=0.039)、妊娠34週未満の早産(3.3% vs.4.0%、0.75、0.61~0.93、p=0.039)の割合は、いずれも低用量アスピリン群で有意に良好であった。 また、母親の副次アウトカムでは、高血圧性疾患(妊娠高血圧腎症、子癇、妊娠高血圧)を有する妊娠34週未満の早産(0.1% vs.0.4%、0.38、0.17~0.85、p=0.015)が、低用量アスピリン群で有意に良好だった。その他の副次アウトカムの発生は両群間で類似していた。 1つ以上の重篤な有害事象を発症した患者の割合(低用量アスピリン群14.0% vs.プラセボ群14.4%、p=0.568)には、両群間で差は認められなかった。母親の出血性合併症(分娩前の出血[0.6% vs.0.6%、p=0.815]、分娩後の出血[0.8% vs.0.7%、p=0.481]、上部消化管出血[0.1% vs.<0.1%、p=0.216])や、貧血(0.4% vs.0.4%、p=0.893)の発生にも差はみられなかった。また、母親の死亡(0.2% vs.0.2%、p=0.514)および新生児の生後28日以内の死亡(2.7% vs.3.2%、p=0.138)の頻度にも差はなかった。 著者は、「これらの知見は、既報のメタ解析の結果と一致する。今回の試験はサンプルサイズが大きいため、さまざまな低~中間所得国の多様な女性集団で、利益を明確に示すことができた」とし、「アスピリンは低コストで忍容性も高く、われわれのレジメンは世界のさまざまな臨床現場で容易かつ安全に導入が可能と示唆される」と指摘している。

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機械的換気によるICU患者の死亡率、胃薬で抑制される?/JAMA

 侵襲的機械換気を要するICU患者におけるストレス潰瘍の予防戦略としてのプロトンポンプ阻害薬(PPI)とヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)には、院内死亡率に関して大きな差はないことが、ニュージーランド医学研究所のPaul J. Young氏らが行った無作為化試験「PEPTIC試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2020年1月17日号に掲載された。ICUでは、ストレス潰瘍の予防法としてPPIやH2RAが使用されるが、これらの薬剤が死亡率に及ぼす影響は知られていないという。90日院内死亡率を評価するクラスター無作為化試験 本研究は、5ヵ国(オーストラリア、カナダ、英国、アイルランド、ニュージーランド)の50のICUが参加した非盲検クラスター・クロスオーバー無作為化試験であり、2016年8月~2019年1月の期間に患者登録が行われた(ニュージーランド保健研究会議などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ICU入室から24時間以内で、侵襲的な機械換気を要し、院内で最長90日間のフォローアップを受けた患者であった。 ストレス潰瘍の予防法として、PPIを優先的に使用した後H2RAを投与する戦略と、H2RAを優先的に使用した後PPIを投与する戦略を比較した。個々のICUが、2つの戦略を行う群に無作為に割り付けられた。25のICUは通常治療としてPPIを投与し、その後H2RAを投与する群(PPI群)に、残りの25のICUは通常治療としてH2RAを投与し、その後PPIを投与する群(H2RA群)に割り付けられた。2つの薬剤の投与期間は6ヵ月とし、クロスオーバー時にウォッシュアウト期間は設けなかった。 主要アウトカムは、初回入院中における90日以内の全死因死亡とした。副次アウトカムは、臨床的に重要な上部消化管出血、Clostridioides difficile感染、ICU入室および入院の期間(生存退院までの日数)であった。上部消化管出血はPPI群で良好 2万6,828例(平均年齢58[SD 17.0]歳、9,691例[36.1%]が女性、PPI群1万3,436例、H2RA群1万3,392例)が登録され、2万6,771例(99.2%、PPI群1万3,415例、H2RA群1万3,356例)が死亡率の解析に含まれた。 PPI群のICU患者のうち実際にH2RAの投与を受けたのは4.1%、H2RA群のICU患者のうちPPIの投与を受けたのは20.1%であった。 90日院内死亡率は、PPI群が18.3%(2,459/1万3,415例)、H2RA群は17.5%(2,333/1万3,356例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(リスク比[RR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.00~1.10、絶対リスク差:0.93%ポイント、95%CI:-0.01~1.88、p=0.054)。 臨床的に重要な上部消化管出血の発生率は、PPI群が1.3%と、H2RA群の1.8%に比べ有意に低かった(RR:0.73、95%CI:0.57~0.92、絶対リスク差:-0.51%ポイント、95%CI:-0.90~-0.12、p=0.009)。 Clostridioides difficile感染の発生率(PPI群0.30% vs.H2RA群0.43%、RR:0.74、95%CI:0.51~1.09、絶対リスク差:-0.11%ポイント、95%CI:-0.25~0.03、p=0.13)およびICU入室期間中央値(3.6日vs.3.3日、退院[または抜管]までの期間中央値の比[ROM]:1.00、95%CI:0.97~1.03、p=0.85)/入院期間中央値(12.2日vs.12.0日、ROM:1.01、95%CI:0.98~1.03、p=0.66)には、両群間に有意差はみられなかった。 有害事象は、PPI群の1例でアレルギー反応が認められ、別のPPIに変更された。 著者は、「割り付け薬剤のクロスオーバーを行っているため、研究結果の解釈は限定的なものとなる可能性がある」としている。

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4種配合剤、心血管イベントの予防に有効/Lancet

 4つの固定用量の薬剤を含む配合剤(ポリピル)は、主要心血管イベントの予防に有効であり、服薬順守が良好で有害事象も少ないことが、イラン・Tehran University of Medical SciencesのGholamreza Roshandel氏らが行ったPolyIran試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年8月24日号に掲載された。固定用量配合剤による治療(ポリピル戦略)は、心血管疾患の負担軽減の取り組みとして、とくに低~中所得国(LMIC)で提唱されている。追加効果をコホート内のクラスター無作為化試験で評価 本研究は、イラン北東部のゴレスタン州(若年死の33.9%が虚血性心疾患、14.0%が脳卒中の地域)で行われた大規模な前向きコホート研究内で実施されたクラスター無作為化試験である(Tehran University of Medical Sciencesなどの助成による)。 対象は、Golestan Cohort Study(GCS)に参加した40~75歳の集団であった。村落をクラスターとし、非薬物的な予防介入(最小ケア)に加えポリピルを1日1錠投与する群(ポリピル群)または最小ケアのみを行う群(最小ケア群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為割り付けは、英国のバーミンガム大学の統計学者が、イランの現地の研究チームとは独立に行った。 非薬物的な予防介入(健康な生活様式に関する教育研修[低塩・低糖・低脂肪の食事、運動、体重管理、タバコや麻薬の不使用])は、現場の医療チームが、3ヵ月時および6ヵ月時に、その後は6ヵ月ごとに行った。 ポリピルは2つの種類が用いられた。ポリピル1には、アスピリン81mg、アトルバスタチン20mg、ヒドロクロロチアジド12.5mg、エナラプリル5mgが含まれた。フォローアップ中に咳嗽が発現した患者は、エナラプリルの代わりにバルサルタン40mgを含有するポリプロ2に切り換えた。 主要アウトカムは、主要心血管イベント(急性冠症候群による入院、致死的心筋梗塞、突然死、心不全、冠動脈血行再建術、非致死的/致死的脳卒中)の発現とし、治療割り付け情報を知らされていないGCSフォローアップ・チームにより中央判定が行われた。主要心血管イベントを34%抑制、NNTは34.5 2011年2月22日~2013年4月15日の期間に、6,838例が登録された。ポリピル群が3,421例(120クラスター)、最小ケア群は3,417例(116クラスター)であった。平均年齢はポリピル群が59.3歳、最小ケア群は59.7歳、女性はそれぞれ1,761例(51.5%)、1,679例(49.1%)であった。ポリピル群の服薬順守率中央値は80.5%(IQR:48.5~92.2)だった。 フォローアップ期間中に主要心血管イベントを発症したのは、ポリピル群が3,421例中202例(5.9%)と、最小ケア群の3,417例中301例(8.8%)に比べ有意に少なかった(補正後ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.55~0.80)。1件の主要心血管イベントを予防するのに要する治療必要数(NNT)は34.5(95%CI:25.9~56.1)であった。 ポリピル群の服薬順守が良好な集団に限定すると、主要心血管イベントのリスク低下は、最小ケア群と比較して、さらに改善され(HR:0.43、95%CI:0.33~0.55)、1件の主要心血管イベントの予防に要するNNTは20.7(95%CI:17.5~26.5)だった。 ポリピル群における主要心血管イベントの発症に関して、心血管疾患の既往歴のある集団(HR:0.61、95%CI:0.49~0.75)と既往歴のない集団(0.80、0.51~1.12)の間に、有意な交互作用は認められなかった(交互作用のp=0.19)。 有害事象の頻度は両群でほぼ同等であった。5年のフォローアップ期間中に頭蓋内出血が21件(ポリピル群10件、最小ケア群11件)認められた。医師によって確定診断された上部消化管出血は、ポリピル群で13件、最小ケア群で9件みられた。 結果を踏まえて著者は、「ポリピル戦略は、とくにLMICにおいて、心血管疾患の管理における有効な追加要素とみなされる可能性がある」としている。

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第12回 呼吸困難 意外に多い呼吸困難の原因とは?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)呼吸数に注目し、帰してはいけない患者を見逃さないようにしよう!2)バイタルサインは必ず普段のADLで評価しよう!3)検査は事前確率に応じて、適切な検査を提出・実施しよう!【症例】70歳男性。来院当日、奥さんと買い物中に呼吸困難を自覚した。途中、近くのベンチで休み症状は改善傾向にあったが、心配となり帰宅途中にかかりつけのクリニックを受診した。原因は何が考えられるか? どのようにアプローチするべきだろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/98mmHg脈拍100回/分(整)呼吸24回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(51歳~)、2型糖尿病(54歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、メトホルミン(メトホルミン塩酸塩)「意識障害」の後は、救急外来や一般の外来で出会う頻度の多い主訴のうち、時に重篤な場合がある症候を、順に取り上げていこうと思います。今回は「呼吸困難」です。X線やCT検査をすれば大抵の診断はつきますが、画像で異常が認められない場合やそもそも重症度を見誤り、適切な画像検査を行わず見逃してしまうことがあるため注意が必要です。高齢者の呼吸困難の原因呼吸困難の患者を診たら、(1)心不全などの心疾患、(2)肺炎などの肺疾患、(3)上部消化管出血などの貧血、(4)過換気症候群などの心因性の4つに分類し、考えて対応しています。若年者が急性の呼吸困難を訴えた場合には、気胸や喘息が鑑別の上位にあがりますが、高齢者ではどうでしょうか? 原因は多岐にわたりますが、頻度を考慮し、[1]心不全、[2]肺炎、[3]COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、[4]肺血栓塞栓症の4つをまずは念頭に鑑別を進めるとよいでしょう1)。初療時の鑑別のポイント:やはり“Hi-Phy-Vi”が大切!細かいことは抜きにして、[1]~[4]の鑑別ポイントを改めて理解しておきましょう。●病歴(History):発症様式に注目!一般的に肺炎やCOPDの急性増悪が突然発症することはありません。数日前、最低でも数時間前から咳嗽や発熱などの症状を認めるはずです。それに対して、後負荷がドカッと上がるびまん性肺水腫を主病態とする心不全や、肺血栓塞栓症は急激な発症様式を呈することが多く、救急外来でもしばしば出会います。真のonsetをきちんと聴取し、いつから症状を認めているのかを正確に把握しましょう。心不全の既往、発作性夜間呼吸困難は、心不全らしい所見であり、既往歴やいつ(就寝中、労作時など)症状を認めるかなども忘れずに聴取しましょう。就寝前までおおむね問題なかった患者が、夜間に突然呼吸が苦しくなった場合には、素直に考えれば肺炎よりも心不全らしいですよね。●身体所見(Physical):左右差に注目!呼吸音、心音、頸部所見(頸静脈怒張の有無)、下肢の浮腫や左右差などの身体所見は、ごく当然にとる必要があることは言うまでもありませんが、発症初期では聴取が難しい、III音は聴く努力をしながらもやっぱり難しいし、足の浮腫もいつからなんだか…など実際の現場では悩ましいことが多いのも事実です。最も簡単な方法は、左右差に注目することです。呼吸音に左右差があれば、肺炎らしく(初期では全吸気時間で聴取:holo crackles)、両側に喘鳴を聴取すれば心不全らしいでしょう。当たり前ですが、何となく聴診していると明らかな喘鳴の聴取は容易でも、わずかな場合や肺炎の初期の副雑音をキャッチできないことは珍しくありません。下腿の浮腫は、両側性の場合には心不全を示唆しますが、左右差を認める場合には、肺血栓塞栓症の原因の大半を占める深部静脈血栓症の存在を示唆します(エコーを当てれば瞬時に判断できます)。Thinker's sign(Dahl's sign)は、呼吸困難を軽減させるための姿勢によって生じた所見であり、慢性の呼吸不全の存在を示唆します2)。気管短縮や呼吸音の減弱、心窩部心尖拍動とともに患者の肘や膝上の皮膚所見も確認する癖を持ちましょう。●バイタルサイン(Vital signs):脈圧に注目!「呼吸困難を訴えるもののSpO2の低下がない」これは逆に危険なサインです。頻呼吸で何とか代償しようとしている、もしくは気道狭窄を示唆し、異物や喉頭蓋炎、アナフィラキシーの可能性を考え対応するようにしましょう。SpO2の低下を認め、[1]~[4]を鑑別する場合には、脈圧がヒントになります。肺炎など感染症が関与している場合には、通常脈圧は開大します。それに対して心機能が低下しているなどアウトプットが低下している場合には、脈圧が低下します。両者が混在する場合や、普段の患者背景にもよりますが、脈圧が低下している場合には、虚血に伴う心不全、submassive以上の肺血栓塞栓症など重篤な病態を早期に見抜く手掛かりになります。呼吸困難患者の脈圧が低下している場合には、早期に心電図を確認することをお勧めします(ST変化などの虚血性変化、洞性頻脈・SIQIIITIIIなどの肺血栓塞栓症らしい所見をチェック)。普段のADLと比較!初療時には酸素を必要としていた患者さんの中には、精査中にoffにすることができる場合があります。そのような場合には安心しがちですが、もう一歩踏み込んでバイタルサインを確認しましょう。ストレッチャー上のバイタルサインではなく、普段と同様のADLの状態でのバイタルサインを評価してほしいのです。本症例の原因は肺血栓塞栓症でしたが、安静時には酸素を要さず、呼吸回数は落ち着いてしまいました。しかし、帰宅前に歩行をしてもらうとSpO2が低下し、呼吸困難症状の再燃を認めたのです。肺血栓塞栓症は、過換気症候群や原因不明として見逃されることがあり、私は普段と同様のADLで(1)他に説明がつかない頻呼吸、(2)他に説明がつかない低酸素、(3)他に説明がつかない頻脈の場合には、疑って精査するように努めています3)。さいごに呼吸困難を訴える患者では、胸部X線、CT検査ですぐに確認したくなりますが、それのみではなかなか確定診断は難しく、また、肺炎と心不全は両者合併することも珍しくありません。D-dimerも役には立ちますが、それのみで肺血栓塞栓症や大動脈解離を診断・除外するものではありません。“Hi-Phy-Vi”を徹底し、鑑別疾患を意識して検査結果をオーダー、解釈することを常に意識しておきましょう。1)Ray P, et al. Crit Care. 2006;10:R82.2)Patel SM, et al. Intern Med. 2011;50:2867-2868.3)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.216-230.

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抗凝固薬の選択~上部消化管出血とPPIの必要性(解説:西垣和彦氏)-985

抗凝固薬の宿命 “出血しない抗凝固薬はない”。もともと抗凝固薬自体に出血をさせる力はないが、一旦出血したら止血するのに時間がかかるために出血が大事をもたらすこととなる。そもそも出血傾向をもたらすことが抗凝固薬の主作用であるので至極自明なことではあるのだが、直接経口抗凝固薬(DOAC)だけでなくビタミンK依存性凝固因子の生合成阻害薬であるワルファリンを含めて、“凝固薬自体が出血を起こさせた”と理解している方がいかに多いことか。 近年、わが国だけでなく欧米においても、心房細動により生成される心内血栓が遊離して塞栓となる心原性脳血栓塞栓症には多大な配慮を行っている。この理由として、この心原性脳血栓塞栓症の発症自体は年間3~4%と低い発症率と推定されてはいるが、脳梗塞の他の病態であるアテローマ性やラクナ梗塞と同程度の頻度があり決して少なくないという点、さらに一旦発症すると非常に大きな血栓塊であることが多いため、2割が急死、4割が要介護4以上という悲惨な病状に追い込まれ、由緒正しい重度の寝たきりとなる危険性があるためである。このことは、わが国だけでなく国際的にも医療費の膨大に頭を悩ませている関係者においても、由々しき疾患であることは間違いない。そこで、抗凝固薬をなるべく多くの心房細動患者に投与し、少しでも寝たきりとなる症例を減らそうということになるが、すべからく前述の消化管出血への適切な対応が問題として浮上してくる。この、抗凝固薬の宿命ともいえる命題に対して、(1)最も上部消化管出血が少ない抗凝固薬はどれか?(2)上部消化管出血をプロトンポンプ阻害薬(PPI)は本当に予防できるのか? の2点をコホートで検証したのが本論文である。本論文のポイントは? 本論文は、2011年1月1日~2015年9月30日までにおけるメディケア受益者のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究である。比較した抗凝固薬は、アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン、そしてワルファリンの4剤で、上部消化管出血の頻度を比較し、PPI併用あるいはPPIなしで上部消化管出血の予防効果も比較している。主要評価項目は、上部消化管出血による入院とし、抗凝固療法1万人年当たりの補正後発生率およびリスク差(RD)、発生率比(IRR)を算出。解析対象は、新規に抗凝固薬が処方された171万3,183件、164万3,123例(平均76.4歳、追跡65万1,427人年、女性56.1%、心房細動患者74.9%)。 PPI併用のなかった75万4,389人年で、上部消化管出血の発生は7,119件、補正後発生率115件/1万人年であった。薬剤別では、リバーロキサバン144件/1万人年、アピキサバン73件/1万人年、ダビガトラン120件/1万人年、ワルファリン113件/1万人年であり、上部消化管出血発生率はリバーロキサバンが最も高率、アピキサバンはダビガトラン、ワルファリンよりも有意に低かった。 PPI併用のある26万4,447人年では、上部消化管出血の発生は2,245件、補正後発生率は76件/1万人年であり、PPI併用なしと比較して上部消化管出血による入院を大きく減らした(IRR:0.66)。このことは、抗凝固薬の種類によらず(アピキサバン[IRR:0.66、RD:-24]、ダビガトラン[IRR:0.49、RD:-61.1]、リバーロキサバン[IRR:0.75、RD:-35.5]、ワルファリン[IRR:0.65、RD:-39.3])、いずれにもPPIは有効であった。本論文の意義と読み方 本論文の結論は、以下の2点である。(1)上部消化管出血による入院率は、リバーロキサバンで最も高く、アピキサバンで最も低い。(2)各抗凝固薬いずれもPPIは有効であり、上部消化管出血による入院率を低減させる。 メディケア受益者のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究は、これまでも抗凝固薬に関連した多くの報告をしており、抗凝固薬の特性から到底割り付け困難と思われるワルファリンとの大規模無作為比較試験の結果を補正するリアルワールドの実臨床に則したデータを示してきた。DOAC間ではリバーロキサバンがアピキサバンに比べて明らかに大出血率が高い(HR:1.82)ことは以前にも報告されており1)、同じデータベースに基づくだけに結論が同じとなることは必定、新鮮味がないことは否めない。メディケアは、65歳以上の高齢者と障害者のための米国医療保険であり、国が運営する制度であるが、メディケアを受給できる人は一定の条件を満たす特別な米国人であることを忘れてはならない。あくまでも、保険請求のあった主観的な事後報告のコホート試験である。医師の薬剤選択によるバイアスや他の雑多な患者選択特性をプロペンシティ・スコア・マッチングでそろえて比較した試験であるので、エビデンスレベルとしてはお世辞にも決して高くはない。また何よりも抗凝固薬に対する大規模比較試験では、人種差や医療レベルの違いが副作用としての消化管出血の頻度に大きく影響することもすでに指摘されており、この論文の結果そのものがわが国でも当てはまるとは限らないことを強調したい。PPIの強力な上部消化管出血予防効果には既存の報告からも疑問の余地はないが、果たして万人に必要か否か、どのような患者に必要なのかという命題が依然残ることは致し方ない。最後に 確かに、近年報告される抗凝固薬を比較した大規模試験においては、リバーロキサバンの易出血性を結論付けている報告が多く、ある意味人種差を超越している。このことから、ある程度リバーロキサバンの持つ薬剤特性を捉えている可能性はあるが、DOAC相互を直接比較した無作為比較試験はいまだないことから、今なお断言できない。この命題から答えを導き出すには、わが国での製薬業界が定めた自主規制という名の行き過ぎたレギュレーションが大きな弊害となっていると憂慮するのは、私だけだろうか。

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経口抗凝固薬+PPIで、上部消化管出血による入院率低下/JAMA

 経口抗凝固療法における上部消化管出血による入院発生率は、リバーロキサバンを処方された患者で最も高く、アピキサバンが処方された患者で最も低かった。いずれの抗凝固薬も、プロトンポンプ阻害薬(PPI)との併用で同入院発生率は低下することが示された。米国・ヴァンダービルト大学のWayne A. Ray氏らが、後ろ向きコホート研究の結果を報告した。PPIの併用は、経口抗凝固療法でしばしば起こる潜在的に重篤な合併症である上部消化管出血のリスクに影響を与える可能性が示唆されていた。JAMA誌2018年12月4日号掲載の報告。アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン、ワルファリンのPPI非併用/併用について解析 研究グループは、メディケア受給者を対象として、2011年1月1日~2015年9月30日の間に、PPI非併用/併用療法で抗凝固薬(アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン、ワルファリン)を使用している患者の、上部消化管出血による入院発生率を解析した。 主要評価項目は、上部消化管出血による入院とし、抗凝固療法1万人年当たりの補正後発生率およびリスク差(RD)、発生率比(IRR)を算出した。 抗凝固薬を投与された新規エピソード171万3,183件を有する164万3,123例の患者が、本研究に組み込まれた(平均[±SD]年齢76.4±2.4歳、女性65万1,427人年[56.1%]、適応症は心房細動が87万330人年[74.9%])。PPI非併用下ではリバーロキサバンが高く、アピキサバンが低い PPI非併用で抗凝固薬を使用した75万4,389人年において、上部消化管出血による入院は7,119件で、補正後発生率は115件/1万人年(95%信頼区間[CI]:112~118)であった。 抗凝固薬の薬剤別では、リバーロキサバン(1,278件)が144件/1万人年(95%CI:136~152)、アピキサバン(279件)が73件/1万人年(IRR:1.97[95%CI:1.73~2.25]、RD:70.9[59.1~82.7])、ダビガトラン(629件)が120件/1万人年(IRR:1.19[1.08~1.32]、RD:23.4[10.6~36.2])、ワルファリン(4,933件)が113件/1万人年(IRR:1.27[1.19~1.35]、RD:30.4[20.3~40.6])で、リバーロキサバンが最も高率であった。 また、アピキサバンの入院発生率は、ダビガトラン(IRR:0.61[95%CI:0.52~0.70]、RD:-47.5[-60.6~-34.3])およびワルファリン(IRR:0.64[0.57~0.73]、RD:-40.5[-50.0~-31.0])よりも有意に低かった。 抗凝固薬にPPIを併用した26万4,447人年においては、上部消化管出血による入院は2,245件で、補正後発生率は全体で76件/1万人年であった。PPI非併用と比較し、上部消化管出血による入院のリスクは、全体(IRR:0.66、95%CI:0.62~0.69)、アピキサバン(IRR:0.66[0.52~0.85]、RD:-24[95%CI:-38~-11])、ダビガトラン(IRR:0.49[0.41~0.59]、RD:-61.1[-74.8~-47.4])、リバーロキサバン(IRR:0.75[0.68~0.84]、RD:-35.5[-48.6~-22.4])、ワルファリン(IRR:0.65[0.62~0.69]、RD:-39.3[-44.5~-34.2])のいずれも低かった。

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EPAとアスピリン、単独/併用の大腸腺腫予防効果は?/Lancet

 オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)もアスピリンも、大腸腺腫を有する患者割合の低下と関連していなかった。英国・リーズ大学のMark A. Hull氏らが、EPAとアスピリンの単独または併用投与の大腸腺腫予防効果を検証した、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「seAFOod Polyp Prevention trial」の結果を報告した。EPAとアスピリンはともに、大腸がんの化学的予防に関するproof of concept試験で、有効性と優れた安全性プロファイルが示されていた。Lancet誌オンライン版2018年11月19日号掲載の報告。EPAとアスピリン、単独/併用投与による有効性を腺腫検出率で評価 研究グループは、英国の大腸がんスクリーニングプログラム(Bowel Cancer Screening Programme:BCSP)を実施している内視鏡部門53施設において、大腸内視鏡検査で高リスク(BCSP:腺腫が3つ以上で少なくとも1つは直径10mm以上、あるいはいずれも直径10mm未満だが腺腫が5つ以上)と特定された55~73歳の患者を対象に試験を行った。 被験者を、1)EPA-遊離脂肪酸2g/日投与(EPA)群、2)アスピリン300mg/日投与(アスピリン)群、3)EPA+アスピリン併用投与群または4)プラセボ群に、施設を層化因子とし置換ブロック法を用いて1対1対1対1の割合で無作為に割り付け(二重盲検)、それぞれ12ヵ月間投与した。 主要評価項目は、1年時点の大腸内視鏡検査における腺腫検出率(ADR:腺腫を有する患者の割合)で、観察可能な追跡調査データのあるすべての患者を対象とし、いわゆるat-the-margins法を用い施設とベースライン時の内視鏡再施行で補正して解析した。 安全性解析集団は、1回以上の治験薬投与を受けたすべての患者とした。EPAとアスピリンの単独/併用投与、いずれもADRは低下せず 2011年11月11日~2016年6月10日に、計709例が無作為化された(プラセボ群176例、EPA群179例、アスピリン群177例、EPA+アスピリン併用群177例)。 主要評価項目の解析対象は、プラセボ群163例(93%)、EPA群153例(85%)、アスピリン群163例(92%)、併用群161例(91%)で、ADRはそれぞれ61%(100/163例)、63%(97/153例)、61%(100/163例)、61%(98/161例)であった。 EPA群のリスク比(95%信頼区間[CI])は0.98(0.87~1.12)、リスク差(95%CI)は-0.9%(-8.8~6.9)(p=0.81)、アスピリン群ではそれぞれ0.99(0.87~1.12)、-0.6%(-8.5~7.2)(p=0.88)であり、どちらも有効性は認められなかった。 有害事象発現率は、プラセボ群44%(78/176例)、EPA群46%(82/177例)、アスピリン群39%(68/174例)、併用群45%(76/170)で、EPAおよびアスピリンの忍容性は良好であった。ただし、消化器系有害事象の発現件数はEPA群で増加した(EPA群146件、プラセボ群85件、アスピリン群86件、併用群68件)。また、上部消化管出血イベントは6例(EPA群2例、アスピリン群3例、プラセボ群1例)報告された。 一方で、両薬を受けた参加者1人当たりの平均腺腫数は少なく、大腸腺腫負荷に関する化学的予防効果は認められた。また、EPAとアスピリンの、腺腫サブタイプや発生部位に依存的な特異性は、従前の観察と一致しており、著者は、「今後、腺腫の種類や発生部位別の腺腫数に関する効果の検討が必要である」と述べている。さらに、アスピリンは大腸腺腫の再発を減らし大腸がんリスクを軽減するとの既存データを踏まえて、「EPAとアスピリンの最適使用は、大腸腺腫再発への的確な医学的アプローチにおいて必要なものかもしれない」と述べ、両薬に関する報告は、長期的大腸がんリスクにおける臨床的に意義のある減少に変わっていく可能性を示唆した。[12月3日 記事の一部を修正いたしました]

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実臨床で安全性が高いDOACは?/BMJ

 英国・ノッティンガム大学のYana Vinogradova氏らは、プライマリケアにおいて、直接経口抗凝固薬(DOAC)と出血・虚血性脳卒中・静脈血栓塞栓症・全死因死亡リスクの関連を、ワルファリンと比較検証する前向きコホート研究を行い、概してアピキサバンが最も安全で大出血・頭蓋内出血・消化管出血のリスクが減少したのに対して、リバーロキサバンと低用量アピキサバンは全死因死亡リスクの上昇と関連していたことを明らかにした。これまで、無作為化比較試験でワルファリンに対するDOACの非劣性が示されていたが、実臨床での観察試験はほとんどが心房細動患者を対象としていた。BMJ誌2018年7月4日号掲載の報告。DOAC 3剤とワルファリンの出血リスクを英国プライマリケアベースで比較 研究グループは、QResearchおよびClinical Practice Research Datalink(CPRD)の2つのデータベースから、それぞれ2011年1月〜2016年10月および3月に、英国のプライマリケアにおいてワルファリン(13万2,231例)、ダビガトラン(7,744例)、リバーロキサバン(3万7,863例)、アピキサバン(1万8,223例)を新規に処方された患者(新規処方前12ヶ月以内に抗凝固薬を処方されたことのある患者は除外)を特定し、心房細動患者と非心房細動患者に分け分析した。 主要評価項目は、入院や死亡に至った大出血。副次評価項目は虚血性脳卒中、静脈血栓塞栓症および全死亡であった。DOACではアピキサバンが最も安全 心房細動患者(10万3,270例)では、ワルファリンと比較してアピキサバンが大出血(補正後ハザード比[aHR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.54~0.79)および頭蓋内出血(0.40、0.25~0.64)のリスク減少と関連していることが、また、ダビガトランは頭蓋内出血(0.45、0.26~0.77)のリスク減少と関連していることが認められた。一方、全死因死亡リスクの上昇が、リバーロキサバン内服患者(1.19、95%CI:1.09~1.29)、および低用量アピキサバン内服患者(1.27、95%CI:1.12~1.45)で確認された。 非心房細動患者(9万2,791例)では、ワルファリンと比較してアピキサバンが大出血(aHR:0.60、95%CI:0.46~0.79)、全消化管出血(0.55、0.37~0.83)、上部消化管出血(0.55、0.36~0.83)のリスク減少と関連していた。また、リバーロキサバンは、頭蓋内出血のリスク減少と関連がみられた(0.54、0.35~0.82)。一方、全死因死亡リスクの上昇が、リバーロキサバン内服患者(1.51、1.38~1.66)および低用量アピキサバン内服患者(1.34、1.13~1.58)において確認された。 なお著者は、英国のプライマリケアに限定されたものであり、アドヒアランスや処方の適応症に関する情報が不足していることなどを研究の限界として挙げている。

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成人における抗うつ薬使用と副作用リスクに関するコホート研究

 抗うつ薬は、若年および中年成人に対し最も一般的に処方される薬剤の1つであるが、この年齢層における一連の有害なアウトカムについての安全性に関する情報は、あまり多くない。英国・ノッティンガム大学のCarol Coupland氏らは、うつ病と診断された20~64歳における抗うつ薬治療と有害なアウトカムとの関連を評価するため、検討を行った。BMC medicine誌2018年3月8日号の報告。 QResearchプライマリケアデータベースに登録されている英国全体の20~64歳の患者23万8,963例を対象にコホート研究を実施した。うつ病の初回診断を受けた患者だけが含まれた。アウトカムは、フォローアップ中に記録された転倒、骨折、上部消化管出血、道路交通事故、薬物治療による副作用、全死因死亡とした。潜在的な交絡変数で調整された抗うつ薬曝露に関連するハザード比を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・5年間のフォローアップ期間中におけるアウトカムは、転倒4,651例、骨折4,796例、上部消化管出血1,066例、道路交通事故3,690例、薬物治療による副作用1,058例、死亡3,181例であった。・抗うつ薬を使用しなかった期間と比較し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、調整ハザード比[aHR]:1.30、95%CI:1.21~1.39)および他の抗うつ薬(aHR:1.28、95%CI:1.11~1.48)を使用した場合、骨折の割合が有意に増加した。・すべての抗うつ薬において、転倒の割合の有意な増加と関連が認められた。・SSRIと比較し、三環系および関連する抗うつ薬(aHR:1.54、95%CI:1.25~1.88)、他の抗うつ薬(aHR:1.61、95%CI:1.22~2.12)を使用した場合、副作用の割合が有意に高かった。・トラゾドンは、上部消化管出血リスク増加と有意な関連が認められた。・全死因死亡率は、SSRIと比較し、5年以上の三環系および関連する抗うつ薬(aHR:1.39、95%CI:1.22~1.59)、他の抗うつ薬(aHR:1.26、95%CI:1.08~1.47)で有意に高く、85日以上SSRI治療を行った後に減少した。・ミルタザピンは、1年および5年間のフォローアップにおいて、死亡率上昇と有意な関連が認められた。 著者らは「SSRIは、三環系および関連する抗うつ薬よりも骨折の割合が高かったが、他の抗うつ薬よりも死亡率および薬物治療による副作用の割合が低かった。ミルタザピンと死亡率との関連については、さらなる調査が必要である。抗うつ薬治療を決定する際には、これらのリスクを患者ごとに慎重に考慮し、潜在的なベネフィットとのバランスをとる必要がある」としている。■関連記事うつ病の薬物治療、死亡リスクの高い薬剤は韓国人うつ病患者における3種類の抗うつ薬の6週間ランダム化比較試験高齢者に不向きな抗うつ薬の使用とその後の認知症リスクとの関連

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2次予防の抗血小板療法、重大出血リスクは高齢ほど上昇/Lancet

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)非併用でアスピリンベースの抗血小板治療を受ける虚血性イベント後の患者について、重大出血のリスクは長期的に高いことが、前向き住民ベースのコホート試験で示された。また、そのような患者は、先行研究で示された患者と比べて実際には高齢の患者で多く、機能障害が残るまたは死亡に至る上部消化管出血のリスクがかなり高かった。これら、英国・オックスフォード大学のLinxin Li氏らによる「Oxford Vascular Study」試験の結果は、Lancet誌オンライン版2017年6月13日号で発表された。虚血性イベント後の患者には生涯にわたる抗血小板治療が、先行研究である75歳未満の患者を対象とした試験をベースに推奨されている。著者らは年齢を問わず、2次予防としての抗血小板治療における出血のリスク、経過、アウトカムを評価するため、本検討を行った。初発虚血性イベント後の抗血小板治療と出血リスクを評価 試験は、2002~12年のOxford Vascular Studyにおける、イベント後に抗血小板治療(主にアスピリンベースでPPI併用なし)を受けていた初発の一過性脳虚血発作(TIA)、虚血性脳卒中または心筋梗塞を呈した患者を、2013年まで追跡して行われた。 治療を要した出血のタイプ、重症度、アウトカム(機能障害または死亡)、経過について、対面調査で10年間追跡した。 先行研究からのKaplan-Meierリスク推定値と相対リスクの低下推定値をベースとし、PPIを常に併用することによる上部消化管出血予防のための、年齢特異的な治療必要数(NNT)を推算し評価した。重大出血のリスクは年齢が上昇するほど高値に 1万3,509人年の追跡期間中、3,166例(75歳以上1,582例[50%])が405件の初発の出血イベントを有した(消化管218件、頭蓋内45件、その他142件)。そのうち314例(78%)が出血入院したが、うち117例(37%)については治療に関するコーディングデータが得られなかった。 非重大出血リスクは、年齢と関連していなかった。一方で、重大出血は年齢が上昇するほど高まることが認められた(75歳以上のハザード比[HR]:3.10、95%信頼区間[CI]:2.27~4.24、p<0.0001)。とくに、致死的出血について関連が高く(5.53、2.65~11.54、p<0.0001)、長期の追跡期間中、持続して認められた。 同様の結果が、重大上部消化管出血についても認められ(75歳以上のHR:4.13、2.60~6.57、p<0.0001)、とくに機能障害または死亡においてみられた(10.26、4.37~24.13、p<0.0001)。 75歳以上の患者では、重大上部消化管出血は、大部分が機能障害または死亡に至った(患者の62%[45/73例] vs.虚血性脳卒中再発患者では47%[101/213例]と約半数)。また、機能障害または致死的な脳内出血よりも多く(上部消化管出血45例 vs.脳内出血18例)、75歳以上の患者の絶対リスクは1,000人年当たり9.15(95%CI:6.67~12.24)であった。 なお、機能障害または致死的上部消化管出血を5年間で1例予防するためのPPI常用の推定NNT値は、年齢とともに低下することが示された。65歳未満の患者では338であったが、85歳以上では25と低かった。 これらを踏まえて著者は、「75歳以上の患者の重大出血の半数以上が重大合併症とされている上部消化管出血であった。そのような出血を予防するPPI常用の推定NNT値は低く、併用が推奨されるべきであろう」と述べている。

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上部消化管出血リスク、セレコキシブ vs.ナプロキセン/Lancet

 非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)とアスピリンの併用が必要な、心血管および消化管イベントのリスクが共に高い患者に対し、セレコキシブ+プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与は、ナプロキセン+PPI投与に比べて、上部消化管再出血リスクが半分以下に低減することが示された。中国・香港中文大学のFrancis K L Chan氏らが、514例を対象に行った無作為化二重盲検試験による結果で、Lancet誌オンライン版2017年4月11日号で発表した。著者は結果を踏まえて、「上部消化管再出血リスクを低下させるにはセレコキシブが好ましい治療である。ナプロキセンは心血管系の安全性は確認されているが、投与を回避すべきであろう」とまとめている。18ヵ月以内の上部消化管出血リスクを比較 試験は2005年5月~2012年11月にかけて、香港の教育研究病院を通じ、関節炎と心臓血栓性疾患があり、上部消化管出血が認められ、NSAIDとアスピリンの併用が必要な患者を対象に行われた。 研究グループは、潰瘍の治癒後、ヘリコバクター・ピロリ菌感染のない514例の患者を無作為に2群に分け、一方にはセレコキシブ100mg(1日2回)とエソメプラゾール20mg/日を、もう一方にはナプロキセン500mg(1日2回)とエソメプラゾール20mg/日を、いずれも18ヵ月投与した。また、すべての被験者がアスピリン80mg/日の服用を再開した。 主要エンドポイントは、18ヵ月以内の上部消化管出血の再発だった。上部消化管再出血リスク、セレコキシブ群がナプロキセン群の0.44倍 その結果、上部消化管出血の再発が認められたのは、ナプロキセン群31例(胃潰瘍25例、十二指腸潰瘍3例、胃・十二指腸潰瘍1例、びらん性出血2例)に対し、セレコキシブ群は14例(胃潰瘍9例、十二指腸潰瘍5例)だった。18ヵ月以内の上部消化管再出血累積発症率は、ナプロキセン群が12.3%(95%信頼区間:8.8~17.1)に対し、セレコキシブ群は5.6%(同:3.3~9.2)と有意に半減した(p=0.008、補正前ハザード比:0.44、同:0.23~0.82、p=0.010)。 再発が認められた患者を除外した解析において、有害事象によりNSAIDの服用を中止したのは、ナプロキセン群7%(17例)、セレコキシブ群8%(21例)だった。

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上部消化管出血患者のリスク評価スコア5種を比較/BMJ

 上部消化管出血患者のリスク評価は、Glasgow Blatchfordスコアが治療の必要性や死亡に関する予測精度が最も高い。英国・グラスゴー王立診療所のAdrin J Stanley氏らが、複数のシステム(admission Rockall、AIMS65、Glasgow Blatchford、full Rockall、PNED)について予測精度と臨床的有用性を比較する国際多施設前向き研究を行い明らかにした。ただし、Glasgow Blatchfordスコアも、その他のエンドポイントに関しては臨床的有用性には限界があるという。上部消化管出血患者の管理では、リスク評価スコアを用いて外来管理か緊急内視鏡検査、またはより高度な治療を実施するかを決定することが推奨されているが、これまで、予測精度や普遍性、リスクを判断する最適閾値などが不明のままであった。BMJ誌2017年1月4日号掲載の報告。上部消化管出血患者の5つのリスク評価スコアを比較 研究グループは、欧州・北米・アジア・オセアニアの大規模病院6施設において、2014年3月~2015年3月の12ヵ月間にわたり上部消化管出血患者連続3,012例について評価した。 主要評価項目は、複合評価項目(輸血、内視鏡治療、画像下治療[IVR]、外科手術、30日死亡率)、内視鏡的治療、30日死亡率、再出血、在院日数で、内視鏡検査前のリスク評価スコア(admission Rockall、AIMS65、Glasgow Blatchford)と内視鏡検査後のリスク評価スコア(full Rockall、progetto nazionale emorragia digestive[PNED])を比較するとともに、低リスク患者と高リスク患者を特定するための最適スコア閾値を求めた。Glasgow Blatchfordスコアが介入や死亡の予測に最も有用 結果、介入(輸血、内視鏡治療、IVR、手術)の必要性または死亡を予測するうえで最も有用なのは、Glasgow Blatchfordスコア(GBS)であった。ROC曲線下面積(AUROC)は、GBSが0.86であったのに対し、full Rockallは0.70、PNEDは0.69、admission Rockallは0.66、AIMS65は0.68であった(すべてのp<0.001)。また、GBS 1点以下が、介入不要の生存を予測する最適閾値であった(感度98.6%、特異度34.6%)。 内視鏡治療の予測には、AIMS65(AUROC:0.62)やadmission Rockall(0.61)と比較して、GBS(0.75)が適していた(両比較のp<0.001)。GBS 7点以上が、内視鏡治療を予測する最適閾値であった(感度80%、特異度57%)。 死亡の予測には、PNED(0.77)およびAIMS65(0.77)が、admission Rockall(0.72)およびGBS(0.64)より優れており最も予測に有用であった(p<0.001)。死亡を予測する最適閾値はPNED 4点以上、AIMS65は2点以上、admission Rockallは4点以上、full Rockallは5点以上であった(感度65.8~78.6%、特異度65.0~65.3%)。 再出血や在院日数の予測に役立つスコアは、なかった。 著者は、上部消化管出血発症時にすでに入院中の患者は除外されていることや、患者の31%は内視鏡検査が未実施であったことなどを研究の限界として挙げている。そのうえで、「救急部門でのGBS利用が多くの国々で拡がることにより、上部消化管出血患者の最大19%は外来患者として安全に管理できる可能性がある」とまとめている。

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心筋梗塞のNSAIDsに関連した上部消化管出血に対するPPIの役割(解説:上村 直実 氏)-449

 日本とは異なり欧米では、心筋梗塞(MI)の再発予防のために抗血栓薬を内服している患者の中で、心血管リスクを伴うにもかかわらず、関節痛などの疼痛緩和目的で非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用しているものが非常に多い。抗血栓薬とNSAIDsの併用は、消化管とくに上部消化管出血のリスクが増大することが知られており、消化管出血のハイリスク患者に対してプロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用が推奨されているが、リスクが不明な通常患者に対するPPIの有用性は明らかになっていない。 今回、デンマーク全土の入院データベース(DB)のうち30歳以上の初発MIで入院し、退院後30日時点で生存していた患者データを用いた解析研究が報告されている。 入院DBのうち、抗血栓療法を受けていたMI後患者8万2,955例(平均年齢67.4歳、男性64%)のうち、3万5,233例(42.5%)がNSAIDsを1回以上処方されており、3万7,771例(45.5%)がPPI投与を受けていた。平均追跡期間5.1年の間に、消化管出血の発生は3,229例(3.9%)であった。NSAIDs+抗血栓薬における出血の粗発生率(イベント/100人年)は、PPI服用患者1.8、PPI非服用患者2.1であり、抗血栓治療のレジメン、NSAIDsおよびPPIの種類にかかわらず、PPI使用群における補正後消化管出血リスクの低下が認められた(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.54~0.95)。以上の結果から、MI後で抗血栓薬とNSAIDsを併用する場合、薬剤の種類や消化管リスクの高低にかかわらずPPIの併用により消化管出血のリスクを軽減することが示唆された。 最近、欧米や台湾ではおなじみとなってきた全国データベースを用いた大規模コホート研究の結果であり、現状の課題を大ざっぱに把握することに有用である。しかし、臨床現場では、個々の患者背景は千差万別であり、個別化した対応が重要である。

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TRIGGER試験:急性上部消化管出血に対する限定的輸血対自由な輸血;実用的・非盲検かつ集団をランダム化した実現可能性試験(解説:上村 直実 氏)-368

 臨床現場で上部消化管出血(UGIB)患者に対する診療においては、迅速に出血源を発見して止血することと同時に、輸血を行うか否かを判断することが重要となる。「非盲検集団無作為化試験」が、この輸血施行の判断基準に関するエビデンスを得るための研究デザインとして、適切であるか否かを検証するために施行されたTRIGGER試験の結果が公表された。 TRIGGER試験では、大量出血症例を除くUGIB全症例を登録し、病院単位でヘモグロビン(Hb)濃度が8g/dL未満で輸血を行う制限群と、10g/dL未満でも輸血できる非制限群の2群に割り付けて検討した結果、「集団無作為化デザインは、両群共に被験者の迅速なエントリーが可能で、高いプロトコル順守率および貧血の解消に結び付き、有意ではないが制限群で赤血球輸血の減少に寄与する可能性が示唆された」。すなわち「臨床診療ガイドラインでUGIB患者に対する輸血の基準を明確にするためには、『非盲検集団無作為化試験』が適切な研究デザインであり、その実施が必須である」と結論されている。 UGIB患者に対する輸血に関して明確な基準はなく、大規模研究によるエビデンスの構築が期待されるところである。しかし、緊急症例に対するエントリー率や診療現場での無作為割り付けの困難性、さらに症例バイアスが大きいなどの理由から、実現可能で精度の高い介入試験デザインが探索されてきた。TRIGGER試験の結果から、施設を無作為に分ける方法が信頼性の高いエビデンス構築に有用であると示されたことから、今後、同デザインを用いた大規模なRCTが実践されるであろう。しかし、わが国におけるUGIBに対する診療の中心は、内視鏡検査での出血源の確認に引き続く内視鏡的止血の成否により輸血の必要性を決定することが多く、日本で本デザインを使用した多施設共同試験を実施する際には、各施設間において異なる内視鏡診療精度が課題となろう。

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