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急性非特異的腰痛への鎮痛薬を比較~RCT98件のメタ解析/BMJ

 1万5千例以上を対象とした研究が行われてきたにもかかわらず、急性非特異的腰痛に対する鎮痛薬の臨床決定の指針となる質の高いエビデンスは、依然として限られていることを、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のMichael A. Wewege氏らがシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果、報告した。鎮痛薬は、急性非特異的腰痛に対する一般的な治療であるが、これまでのレビューではプラセボと鎮痛薬の比較で評価されており、鎮痛薬の有効性を比較したエビデンスは限られている。著者は、「臨床医と患者は、鎮痛薬による急性非特異的腰痛の管理に慎重となることが推奨される。質の高い直接比較の無作為化試験が発表されるまで、これ以上のレビューは必要ない」とまとめている。BMJ誌2023年3月22日号掲載の報告。無作為化比較試験98件、1万5千例以上について、ネットワークメタ解析 研究グループは、Medline、PubMed、Embase、CINAHL、CENTRAL、ClinicalTrials.gov、clinicaltrialsregister.eu、World Health Organization's International Clinical Trials Registry Platformを2022年2月20日時点で検索し、急性(6週未満)の非特異的腰痛を有する18歳以上の患者を対象とした鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬、パラセタモール[アセトアミノフェン]、オピオイド、抗けいれん薬、骨格筋弛緩薬、副腎皮質ステロイド)の無作為化比較試験(他の鎮痛薬、プラセボ、または未治療との比較)を特定した。 主要アウトカムは、治療終了時の腰痛強度(0~100スケール)、安全性(治療期間中のあらゆる有害事象の報告例数)。副次アウトカムは、腰部特異的機能(0~100スケール)、重篤な有害事象、治療中止とした。2人の評価者が独立して試験の特定、データ抽出、およびバイアスリスクの評価を行い、ランダム効果ネットワークメタ解析を実施した。エビデンスの信頼性は、CINeMA(Confidence in Network Meta-Analysis method)を用いて評価した。 無作為化比較試験98件(合計1万5,134例、女性49%)が特定され、69種類の薬剤または組み合わせが解析に組み込まれた(単剤療法42種類、併用療法27種類)。有効性に関するエビデンスの信頼性は「低い」または「非常に低い」 tolperisone(平均群間差:-26.1、95%信頼区間[CI]:-34.0~-18.2)、aceclofenac+チザニジン(-26.1、-38.5~-13.6)、プレガバリン(-24.7、-34.6~-14.7)およびその他の14種類の薬剤は、プラセボと比較して疼痛強度が低下したが、エビデンスの信頼性は「低い」または「非常に低い」であった。同様に、これらの薬剤の一部は有効性に有意差がないことが報告されたが、エビデンスの信頼性は「低い」または「非常に低い」であった。 安全性については、トラマドール(リスク比:2.6、95%CI:1.5~4.5)、パラセタモール+徐放性トラマドール(2.4、1.5~3.8)、バクロフェン(2.3、1.5~3.4)、パラセタモール+トラマドール(2.1、1.3~3.4)が、プラセボと比較して有害事象が増加する可能性があるが、エビデンスの信頼性は「中程度」から「非常に低い」であった。これら4種類の治療には、他の治療と比較して有害事象を増加させる可能性があるというエビデンスの信頼性が「高い」から「非常に低い」データもあった。副次アウトカムおよび薬剤クラスの2次解析でも、エビデンスの信頼性は「中程度」から「低い」ことが示された。

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せん妄予防に対するラメルテオン~メタ解析

 せん妄予防に対する新たな治療オプションとして期待されているラメルテオンだが、その有効性を評価したエビデンスは、まだ限られている。台湾・長庚記念病院国際医療センターのChia-Ling Yu氏らは、アップデートメタ解析を実施し、入院患者のせん妄予防に対するラメルテオンの効果に関するこれまでのエビデンスの信頼性を調査した。その結果、ラメルテオンは、プラセボと比較し、入院患者のせん妄リスクを低減させることが最新のメタ解析で明らかとなった。Journal of Pineal Research誌オンライン版2023年2月1日号掲載の報告。 せん妄予防に対するラメルテオンの有効性を評価したランダム化比較試験を特定するため、7つの主要な電子データベースよりシステマティックに検索した。ランダム効果モデル(frequentist-restricted maximum-likelihood)を用いて、データをプールした。50%の相対リスク低減閾値を用いて、試験逐次解析を実施した。主要アウトカムは、せん妄の発生率(オッズ比[OR]、95%信頼区間[Cl])とした。副次的アウトカムは、せん妄、すべての原因による死亡、すべての原因による治療中止までの日数とした。 主な結果は以下のとおり。・特定された187研究のうち、8つのプラセボ対照ランダム化比較試験(587例)をメタ解析に含めた。・アップデートメタ解析では、ラメルテオンは、プラセボと比較し、せん妄の発生率低下と関連していることが示唆された(OR:0.50、95%信頼区間[CI]:0.29~0.86、I2=17.48%)。・試験逐次解析では、40~60%の相対リスク低減閾値を使用した場合、ラメルテオンの有意性が認められた。・サブグループ解析では、ラメルテオンは、プラセボと比較し、高齢者群(5研究、OR:0.28、95%CI:0.09~0.85、I2=27.93%)および複数回投与群(5研究、OR:0.34、95%CI:0.14~0.82、I2=44.24%)においてせん妄発生率低下との関連が認められたが、非高齢者群および非複数回投与群では認められなかった。・外科患者と内科患者別の解析では、両群ともにラメルテオンによるせん妄予防の傾向が認められたが、統計学的に有意ではなかった。・副次的アウトカムに有意な差は認められなかった。

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FMCテキストブック 出生前検査・診断と遺伝カウンセリングの実際

出生前検査・診断・遺伝カウンセリングの「最前線」!国内における胎児診療の専門家集団が、出生前検査・診断の正しい知識や手技の実際、診療の問題点、遺伝カウンセリングの心構えやノウハウに至るまで、余すことなく解説しました。出生前検査・診断をこれから行おうとしている医療従事者はもちろん、産科・胎児・周産期医療に携わるすべての医療従事者の道しるべとなる1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    FMCテキストブック 出生前検査・診断と遺伝カウンセリングの実際定価9,350円(税込)判型B5判頁数400頁発行2023年2月編集中村 靖/田村 智英子電子版でご購入の場合はこちら

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第148回 糖尿病の厄介な合併症にいとも単純な治療・アミノ酸補給が有効かもしれない

糖尿病患者のおよそ半数が主に手や足に生じる脱力、しびれ、痛みを伴う末梢神経障害を被ります。その厄介な糖尿病合併症になんとも単純な治療・アミノ酸補給が有効かもしれないことを示唆する研究成果が先週25日にNatureに掲載されました1)。米国・カリフォルニア州サンディエゴにある世界屈指の研究所・The Salk Institute(ソーク研究所)のChristian Metallo氏等のその報告によると、セリンのやりくりが不得手(恒常性異常)でセリンとグリシンが乏しいことは糖尿病マウスの末梢神経障害を生じやすくし、なんとセリンを補給するだけで糖尿病マウスの神経障害症状が緩和しました。アミノ酸は連なってタンパク質を作ります。また、神経系に豊富な特殊な脂質・スフィンゴ脂質の生成に不可欠です。アミノ酸の1つ・セリンが乏しいとスフィンゴ脂質を作るのに別のアミノ酸が使われるようになります。そうして作られるいつもと違うスフィンゴ脂質は蓄積して末梢の神経損傷にどうやら寄与します。Metallo氏が率いるチームはセリンの長期欠乏で末梢神経障害が生じるかどうかを調べるべくいつもの餌かセリン制限餌を最大12ヵ月間マウスに与えて様子を見ました。その結果、全身のセリンが乏しいことと高脂肪食の組み合わせは末梢神経障害の発生をどうやら早めると示唆され、糖尿病マウスにセリンを補給したところ末梢神経障害の進行を遅らせることができ、調子も良くなりました。また、スフィンゴ脂質の生成に使うアミノ酸をセリン以外へと切り替える酵素・セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)の阻害薬・マイリオシン(myriocin)も高脂肪のセリン制限食マウスの末梢神経障害症状をセリン補給と同様に減らしました。SPT活性抑制もセリン欠乏絡みの末梢神経障害を緩和する作用があるようです。マイリオシンは漢方で使われるきのこ・冬虫夏草から見つかりました。マイリオシンは西洋医学にも貢献しており、多発性硬化症(MS)の治療薬・イムセラの成分フィンゴリモドはそのマイリオシンを加工して作られた化合物です2)。余談はさておき、糖尿病患者の神経障害にどうやら加担するらしいことが今回の研究で示されたセリン欠乏はこれまでの研究で種々の神経変性疾患と関連することが知られています。たとえばMetallo氏らのチームは先立つ研究で失明疾患・黄斑部毛細血管拡張症2型(MacTel 2型)患者のセリンとスフィンゴ脂質の代謝異常を発見しています3)。マウスの実験でセリン欠乏はいつもと違うスフィンゴ脂質を増やして視力低下を招きました。そういう研究成果を背景にしてMacTel 2型患者へのセリンの効果や安全性を調べる臨床試験がすでに実施されています4)。それにアルツハイマー病へのセリンの臨床試験も進行中です5)。進行性で体を消耗させる非常にまれな末梢神経疾患・遺伝性感覚-自律神経性ニューロパチー1型(HSAN1)患者へのセリン高用量経口投与の無作為化試験では有望なことにプラセボを上回る病状指標CMTNS改善効果が示されています6)。糖尿病患者の末梢神経障害の主な手当ては血糖を減らすように食事を変えることです。それに加えて鎮痛薬、理学療法、つえや車いすなどの歩行補助具も使われます。末梢神経障害に効果があるかもしれないセリンは豆類(大豆、ひよこ豆、レンズ豆)、木の実、卵、肉、魚に豊富に含まれます。セリンのサプリメントは安価で店頭販売されていますが、神経障害を防ぐのにセリンのサプリメントを糖尿病患者に服用するように勧めることはできません。その前にヒトの体内でのセリンの振る舞いをもっと調べる必要があります。セリン補給で生じうる好ましくない作用の検討も必要です。セリン補給治療実現に向け、Metallo氏等のチームはまずはセリン負荷検査(STT)の開発に取り組んでいます7)。セリンやグリシンの欠乏を招くセリン恒常性異常を検出しうるSTTは糖尿病の診断で使われる糖負荷検査(OGTT)に似たもので、セリン摂取後のセリンの取り込みや廃棄の量を調べます。STTをすればセリンをやたら廃棄していて(elevated, postprandial serine disposal)神経障害をとくに生じやすい患者を同定できるかもしれません1)。上述のアルツハイマー病患者へのセリンの試験では体重1kg当たりセリン400 mgを摂取する負荷試験が採用されています。末梢神経障害を最も生じやすい患者をSTTで見極め、それらの患者に限って治療が施せるようになることをMetallo氏等は期待しています7)。参考1)Handzlik MK, et al. Nature. 2023 Jan 25. [Epub ahead of print]2)Chiba K. J Antibiot (Tokyo). 2020 Oct;73:666-678.3)Scerri TS, Nat Genet. 2017 Apr;49:559-567.4)SAFE試験(ClinicalTrials.gov)5)LSPI-2試験(ClinicalTrials.gov)6)Fridman V, et al. Neurology. 2019;92:e359-e370.7)Supplementation with amino acid serine eases neuropathy in diabetic mice / The Salk Institute

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乳がん内分泌療法中のホットフラッシュに有効な新規薬剤/Lancet

 新規非ホルモン性小分子化合物Q-122は、乳がん後に経口内分泌療法中の女性患者において、ホットフラッシュや発汗など血管運動神経症状の改善に有効で忍容性は良好であることが、オーストラリア・QUE OncologyのAmanda Vrselja氏らが、オーストラリア、ニュージーランド、米国の18施設で実施した第II相無作為化二重盲検プラセボ対照概念実証試験の結果、示された。血管運動神経症状は、経口内分泌療法中の乳がん女性の3分の2以上にみられるが、安全で有効な治療法はない。Q-122は、視床下部にあるエストロゲンに反応するKNDyニューロンの活性化を減少することにより、血管運動神経症状を抑制する可能性が示唆されていた。著者は、「今回の結果は、Q-122の大規模かつ長期的な試験の実施を支持するものであり、更年期のホルモン療法に代わる治療を必要としている閉経後女性にも使用できる可能性もある」とまとめている。Lancet誌2022年11月12日号掲載の報告。中等度~重度の血管運動神経症状に対するQ-122の有効性と安全性をプラセボと比較 研究グループは、乳がん後にタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬を30日以上服用しており、中等度~重度の血管運動神経症状(ホットフラッシュおよび発汗)が週50回以上発現している18~70歳の女性患者を、Q-122群(100mgを1日2回)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け(BMI値[≦30または>30]、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬、ガバペンチン、プレガバリンのいずれかの使用で層別化)、28日間経口投与した。 血管運動神経症状の重症度は、血管運動神経症状重症度スコア(VMS-SS、スコア1[軽度:発汗を伴わない熱感]、スコア2[中等度:発汗を伴う熱感があるが、活動を継続できる]、スコア3[重度:発汗を伴う熱感があり、活動が停止])で患者に評価してもらった。 主要評価項目は、中等度および重度VMS-SS(msVMS-SS)のベースラインから28日目までの平均変化率であった。msVMS-SSは、(2×中等度血管運動神経症状数)+(3×重度血管運動神経症状数)として算出した。 少なくとも1回試験薬を服用し、試験開始後に1回以上有効性の評価を行った修正intention-to-treat集団を有効性解析対象集団とし、少なくとも1回試験薬を服用した全患者を安全性解析対象集団とした。Q-122群でmsVMS-SSが有意に改善 2018年10月24日~2020年9月9日の期間に、243例がスクリーニングされ、そのうち131例が無作為化された(Q-122群65例、プラセボ群66例)。 msVMS-SSのベースラインから投与28日目までの平均変化率(最小二乗平均値)は、Q-122群が-39%(95%信頼区間[CI]:-46~-31)、プラセボ群が-26%(95%CI:-33~-18)であり、プラセボ群と比較してQ-122群で有意に低下した(p=0.018)。 試験薬投与下で発現した有害事象は多くが軽症から中等症であり、両群間で類似していた。治療関連有害事象の発現率は、Q-122群17%(11/65例)、プラセボ群14%(9/66例)で、重篤な有害事象はQ-122群ではみられず、プラセボ群でのみ2例に認められた。

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ラブリズマブ、視神経脊髄炎スペクトラム障害患者で73週間再発ゼロを達成/アレクシオン

 アレクシオンは、2022年11月2日付のプレスリリースで、第III相CHAMPION-NMOSD試験において、ラブリズマブを投与された抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害(以下、NMOSD)成人患者群が、外部対照であるエクリズマブのPREVENT試験のプラセボ群と比較して、再発リスクが有意に低いことが示されたことを2022年欧州多発性硬化症学会(ECTRIMS)会議で発表されたと報告した。 CHAMPION-NMOSD試験は、成人患者(58例)を対象としてラブリズマブの安全性および有効性を評価する非盲検第III相多施設国際共同試験である。NMOSDの再発は長期的な機能障害をもたらす可能性があり、またすでに有効な治療選択肢が存在していたため、本試験では倫理的理由からプラセボ対照群が設定されず、ラブリズマブ投与群は、外部対照としてエクリズマブのPREVENT試験のプラセボ群と比較された。本試験の主要評価項目は、独立評価委員会により判定された初回の治験中再発までの期間と設定されており、ラブリズマブを投与された患者は全員、73週(中央値)にわたる治療期間を再発と判定されることなく経過した(再発リスク低下率:98.6%、ハザード比:0.014[95%信頼区間[CI]:0.000~0.103]、p<0.0001)。48週時点の無再発率は、外部対照のプラセボ群では63%であったのに対し、ラブリズマブ群では100%であった。また本試験では、独立評価委員会により判定された治験中再発の年間再発率(判定された再発数の合計を患者年数の合計で割った値)や、Hauser Ambulation Index(可動性の評価尺度)で測定された可動性(歩行機能)のベースラインからの臨床的に重要な悪化などの副次評価項目も達成された。 全体として、ラブリズマブの安全性および忍容性は、これまでの臨床試験や実臨床下での使用時の結果と一致しており、新たな安全性の懸念は認められなかった。最もよく見られた(患者の10%以上)有害事象(AE)は、COVID-19(24%)、頭痛(24%)、背部痛(12%)、関節痛(10%)、尿路感染(10%)であった。COVID-19 症例はすべて非重篤であり、ラブリズマブとは無関係と見なされている。髄膜炎菌感染症が2例報告されたが、2例とも後遺症なく完治し、1例は試験を継続している。56例の患者が、延長投与期に移行し、現在も治療を継続している。 NMOSDは希少疾患であり、脊髄や視神経などの中枢神経系に影響を与える自己免疫疾患である。ほぼすべてのNMOSD患者が神経症状の新規出現や悪化などを引き起こす再発を繰り返し経験し、各再発は重度かつ予測不能で、障害が一生残ることもある。 CHAMPION-NMOSD試験の主任治験責任医師であるSean J. Pittock氏は「CHAMPION-NMOSD試験では、73週間(中央値)の治療期間にわたって再発が見られなかった。これは、ラブリズマブの8週間ごとの投与によって再発リスクが持続的に低下しうることを示しているとともに、NMOSDの治療におけるC5補体阻害の有効性を強調するものだ」と述べた。また、NMOSDを対象とした Guthy-Jackson Charitable Foundationのメディカルアドバイザーの座長でもあるMichael Yeaman氏は、「近年、抗AQP4抗体陽性のNMOSD患者に安全かつ有効な治療を提供する活動において、有意義な進展が見られている。この希少疾患は、可動性、視力、筋力、平衡機能など、日常生活のあらゆる面で妨げとなる可能性があるが、患者やその家族と日々接する中で得られる知見に基づき、革新的な研究や臨床試験を続けることで、個々のニーズや生活習慣に合った新たな治療の選択肢を発展させ、患者を力付けることができる」と述べた。アレクシオンのシニア・バイスプレジデントであり、開発・安全性部門長であるGianluca Pirozziは、「CHAMPION-NMOSD試験は、希少疾患を対象とした科学的に厳密で臨床的にも意義ある臨床試験のデザイン、および実施に必要なイノベーションを達成した注目すべき実例となる。本試験では、患者の声を聞き、保健当局と連携しながら、患者のニーズを第一に考え、患者にとって最も重要な指標を評価した。今回得られた有意義な結果に加え、ラブリズマブがNMOSDのコミュニティのために治療を向上させうることを大変喜ばしく思う」と語った。

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脳卒中体験の否定と受容を経て、言葉をつむぎ始めた女性―AHAニュース

 米国のハイテク企業マーケティング部門の重役として働いていた、オレゴン州に住む女性、Beth Bonnessさんはその日、ヘアメイク中だった。ヘアースタイリストとは長年の付き合いで、その時も以前のローマ旅行のエピソードなどを話しながら、メイクを任せていた。すると突然、スタイリストがBonnessさんの話しを遮り、「Beth、Beth? 聞こえる?」と叫んだ。Bonnessさんは何を問われているのか分からず、スタイリストに確認しようとした。しかし、鏡に映っている自分の唇は動いていなかった。 やがて、こめかみがズキズキし始め、視野の中に光のバースト(閃輝暗点)が現れだした。そして右手が麻痺した感じに気付いた。スタイリストは119番に電話することを提案したが彼女は断り、ヘアメイクを続けてもらった。心の中で、「私は大丈夫」と自分に言い聞かせていた。実際、やがて症状はほとんど回復した。 その日、彼女の夫のJeff McCaffreyさんや娘たちは、自宅近くのレストランでBonnessさんを待っていた。彼女は遅れてレストランに入り、家族で食事を楽しんだ。少し前に自分の身に起こったことを夫に伝えたのは、家に戻ってからだった。McCaffreyさんは、妻をER(救急外来)に連れていくことを即断した。 診察の結果は一過性脳虚血(TIA)発作だった。TIAは“ミニ脳卒中”と呼ばれることもある、短時間の脳卒中発作だ。通常、症状は5分以内に消失するが、TIAの患者の約3分の1は1年以内により重度の脳卒中を発症する。しかしBonnessさんは当時49歳であり、自分はまだ脳卒中を起こすような歳ではないと思った。また医師もそのような見解を口にした。 ところが数日後、買い物中に再び閃輝暗点が現れたため同じ病院を受診。検査の結果、片頭痛か多発性硬化症ではないかと言われてひとまず帰宅した。さらに数日後、家族で食事をしている時、彼女の呂律がおかしくなった。加えて、言いたい言葉が頭に浮かばないという、失語症の症状も現れた。娘の一人がリンゴを指して「これは何?」と尋ねたところ、Bonnessさんは「オレンジ」と答えた。 家族で再びERに向かった。検査結果は、頸動脈解離による脳卒中だった。抗血栓薬の治療によって、失語症と閃輝暗点は治まった。しかし、以前のような働き方で重責を全うすることは困難だった。そこで在宅中心の勤務に切り替え、メールでコミュニケーションをとることにした。それでも多大な努力が必要だった。彼女はハンディキャップを隠すために、仕事にベストを尽くした。同時に、できる限り健康的な生活を心掛けた。仕事のプロジェクトを立てるかのように、栄養、運動、瞑想などを計画的に行い、食事は植物性食品ベースに切り替えた。 Bonnessさんのこのような変化は2007年に始まった。そして2011年になると、彼女の主治医は「医学的な管理目標は全て達成されている」と告げ、脳卒中関連の投薬を全部中止した。そして3年後の2014年、彼女は仕事をリタイヤした。しかし、やるべきことはほかにもあり、それに取り組んだ。例えば、近所にある歴史的建造物を宅地開発から守る活動を実らせ、さらにその時の経験を本にまとめた。本を書く過程で彼女は内省的になり、自分に起きた脳卒中を見つめ直し始めた。「私は実際に起こったことを否定しようと生きていた。それは長い目で見れば健康的な態度ではなかった。今では、自分自身、そして他人に対する気遣いを忘れないようにしている」。 McCaffreyさんは、脳卒中になった直後のBonnessさんの態度を、「妻の典型的な反応だった。彼女は決断力に優れ、集中力があり、そして自分の感情を押し殺そうとしていた」と語るとともに、これまでの妻の努力を称賛する。McCaffreyさん自身も2度のがん治療を受けた。その闘病のため、Bonnessさんを見習い、食事や運動に気を付けるようになったという。 Bonnessさんはその後、自分の身に起きた脳卒中の体験を著わした。昨年からは詩集の出版なども始めている。さらにまた、脳卒中や脳損傷サバイバーのための執筆活動グループを立ち上げた。参加者が自分と同じように、文章を書く過程で洞察を深めていけるのではないかと彼女は期待している。[2022年9月9日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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第135回 long COVIDに依存症薬naltrexone低用量が有望

依存症治療薬ナルトレキソン(naltrexone)低用量(LDN)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(Post COVID-19 Syndrome;PCS)患者52人に試しに2ヵ月分処方したところ調べた7項目のうち6つの改善が認められました1,2)。naltrexoneは50 mg投与でオピオイド(アヘン)遮断作用を担いますが、その10分の1未満の1~4.5 mgの低用量投与は独特の免疫調節活性をどうやら有し、low dose naltrexoneにちなんでLDNと呼ばれ、いつもの用量のnaltrexoneとは区別されています。LDNに特有の作用はオピオイド成長因子受容体(OGF)遮断、Toll様受容体4炎症経路阻害、マクロファージ/マイクログリアの調節、T/B細胞の阻害などによるらしく、数々の病気への効果が小規模試験や症例報告で示唆されています。たとえばいつもの治療が不十分な炎症性腸疾患(IBD)患者47人への投与で寛解を促す効果3)、今では筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる慢性疲労症候群(CFS)の患者3人への投与でその治療効果4)が示唆されています。また、関節リウマチ(RA)、線維筋痛症、多発性硬化症、疼痛症候群患者へのLDN投与では抗炎症薬が少なくて済むようになりました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の感染症専門家John Lambert氏はライム病と関連する痛みや疲労の治療にLDNを使っていたことから、COVID-19罹患後症状へのLDNの使用を同僚に勧めました。するとすこぶる評判が良く、それではということで彼はCOVID-19罹患後症状、俗称long COVIDへのLDNのまずは安全性、さらには効果も調べる試験を計画しました2)。試験には52人が参加し、それらのうち38人がLDN服用を始めました。2人は有害事象を生じてLDNを中止し、36人が2ヵ月のLDN服用期間後の問い合わせに回答し、症状や体調の指標7つの変化が検討されました。結果は有望で、それら7つ中6つ(COVID-19症状、体の不自由さ、活力、痛み、集中、睡眠障害)の改善が認められました。気分は改善傾向を示したものの有意レベルではありませんでした。Lambert氏のライム病患者への使用目的と符合し、LDNは痛みに最も有効でした。今回に限らずLDNの慢性痛緩和効果はこれまでのいくつかの試験でも認められています。先立つ試験でも示唆されているとおりLDNはどうやら安全で、LDN服用中止に至る有害事象を生じたのは2人のみで、被験者のほとんど95%(36/38人)は無事にLDNを服用できたようです。今回の試験は対照群がないなどの不備があり、示唆された効果が全部LDNの手柄と判断することはできません。Lambert氏はLDNの効果の確かさを調べる大規模試験を計画しています。Lambert氏の他にもCOVID-19罹患後症状へのLDN の試験があります。米国ミシガン州のサプリメント企業AgelessRx社はCOVID-19罹患後症状患者の疲労の軽減や生活の質の改善を目当てとするLDNとNAD+併用の下調べ試験(pilot study)を実施しています5,6)。医薬品以外のCOVID-19罹患後症状治療の開発も進んでいます。その1つが嗅覚消失を脳刺激装置で治療する取り組みです7,8)。いわずもがな嗅覚消失はCOVID-19の主症状の1つであり、日にち薬で回復することも多いとはいえ一向に回復しないことも少なくありません。嗅覚や味覚の突然の変化を被ったCOVID-19患者およそ千人を調べた試験の最近の結果報告によると、COVID-19診断から少なくとも2年経つ267人のうち嗅覚消失が完全に解消していたのは5人に2人ほど(38%)で、半数超(54%)は部分解消にとどまっており、13人に1人ほど(7.5%)は全く回復していませんでした9)。そういった嗅覚消失患者の嗅覚の回復を目指して開発されている人工嗅覚装置は難聴を治療する人工内耳が脳で処理できる電気信号に音を変えるように匂いの信号を脳に移植された信号受信電極に送ります。それが匂い成分ごとに異なるパターンで脳の嗅球を刺激して匂いを把握できるようになることを目指します。販売に向けた協力体制も発足しており、そう遠くない未来、向こう5~10年に製品の発売が実現するかもしれません8)。参考1)O'Kelly B, et al. Brain Behav Immun Health. 2022;24:100485.2)Addiction drug shows promise lifting long COVID brain fog, fatigue / Reuters3)Lie MRKL, et al. J Transl Med. 2018;16:55.4)Bolton MJ, et al. BMJ Case Rep. 2020;13:e232502.5)AgelessRx Launches Pilot Post-COVID Clinical Trial / AgelessRx6)Pilot Study Into LDN and NAD+ for Treatment of Patients With Post-COVID-19 Syndrome(Clinical Trials.gov)7)Bionic nose could help people smell again / Nature8)WITH THIS BIONIC NOSE, COVID SURVIVORS MAY SMELL THE ROSES AGAIN / IEEE Spectrum9)McWilliams MP, et al. Am J Otolaryngol. 2022;43:103607.

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1人より2人〜DPNPに対する併用療法という選択肢〜(解説:永井聡氏)

 糖尿病患者の4人に1人に合併しうる糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、QOLに大きな影響を及ぼし、海外の多くのガイドライン1)では、アミトリプチリン(A)、デュロキセチン(D)、プレガバリン(P)、ガバペンチン(G)が第一選択となっており、日本においても同様である2)。これらの推奨は、システマティックレビューからのエビデンスの強さでなされ、単剤としてデュロキセチンが中等度の推奨、アミトリプチリンおよびプレガバリンが低い推奨とされている。ただし、最適な薬剤あるいは併用すべきかについてのある程度の規模の比較試験は行われていなかった。 そのような背景の中、DPNPに対する単剤および併用療法の有効性について、多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験、OPTION-DMが報告され、検討されたどの治療方針でも鎮痛効果は同等であり、併用療法の鎮痛効果は単剤療法を継続した患者より大きいことが示された。 本試験で用いられた薬剤の最大投与量は、アミトリプチリン75mg、デュロキセチン120mg、プレガバリン600mgであるが、単剤での投与量は6週の時点で各群のおよそ半数の患者において、アミトリプチリンが56mg、デュロキセチンが76mg、プレガバリンが397mgで投与されており、デュロキセチンは本邦のDPNPに対する最大投与量を超え、プレガバリンでも標準投与量である300mgを超えていたことから、短期間に投与量の積極的な増量を行うことが重要であることが再確認されている。それでも多くは併用療法へ移行していて、「十分に第一選択薬を投与した」のでは十分とはいえず、「第一選択薬の併用療法」を行うことでさらなる鎮痛効果が期待できる、という新たなエビデンスが登場したことは、臨床的にインパクトのある報告である。 ただし、本試験の結果を実臨床に活用するにはいくつか注意する点がある。どの組み合わせでも「効果は同等」という結果であるが、実際にはどうだろうか。副作用の点からは、プレガバリンではめまい、デュロキセチンでは悪心、アミトリプチリンでは口渇が多く、患者背景上副作用が起きやすい選択は避けるほうが無難であろう。投与量の点からは、本邦でのデュロキセチンの投与上限は60mgであることに注意が必要である。また、プレガバリンは300mg上限のプラセボ対照試験において有効性を証明しえない報告も多かった3)ことから「十二分に」増量することが改めて重要な薬剤であるが確認された。薬価の点ではアミトリプチリンが有利であるが、抗コリン作用のため高用量単剤での高齢者への投与は慎重に考えたい。 本試験の結果の解釈で注意する点も挙げておきたい。DPNPでは1年以内に半数が自然軽減するという報告もある4)。DPNPのプラセボ対照試験におけるプラセボ効果は一般的に高いことから本試験における単剤の奏効率が約40%、併用療法さらに14〜19%に「鎮痛効果を認めた」中には「自然軽減」や「プラセボ効果」も含まれている。また、二重盲検ではあるが医療者には投与量がマスクされておらず患者に「投与量の増量」が認知されプラセボ効果を生じる可能性がある。 それでも、これまでは効果が「不十分」であれば第一選択薬を他剤に切り替えたり、エビデンスや長期的安全性も不足している第二選択薬であるオピオイドを投与したりしていたことを考えると、本試験の「第一選択薬を併用する」新しい治療の「選択肢」は「糖尿病のない人と同じQOL」を目指す糖尿病の合併症治療を考える上で貴重なエビデンス、といえるのではないかと思う。

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糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

 糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である1)。 上記のそれぞれの薬剤のDPNPに対する有効性は明らかにされているが、どの薬剤が最も有効なのかを比較検討したhead to headのRCTはない。さらに併用療法についての有効性を検討したRCTにはPとDとの併用療法を検討した小規模のCOMBO-DN試験があるのみである2)。そこで各薬剤の有効性をhead to headで比較すること、および併用療法の有効性を検討することを目的に実施されたのが本試験であり、DPNP治療に新たなエビデンスをもたらした試験であると評価できる。 試験デザインは疼痛に関するRCTでは多用されるクロスオーバーデザインである。1コース16週とし、前半の6週は単剤治療期間、後半の10週が併用治療期間とされた。さらに単なる薬剤の組み合わせではなく、著者らはpathwayと記載しているが、投与順序も検討された。PとGは同様の作用機序なのでPが選ばれた(選択理由として、Gが1日3回投与である、Pと異なり薬物動態が線形でない、およびtitrationに時間を要する、と記載されている)。さらにAとDは両者ともに抗うつ薬であるのでこの組み合わせは除外された。したがって検討されるpathwayはA→P、P→A、D→P、P→Dの4組になる。これを1コース16週間のクロスオーバーデザインで実施すると16×4=64週で試験期間が1年以上となり、試験完遂が困難との判断からP→Dは除外された。その理由は、COMBO-DN試験の結果からP→D、D→Pの疼痛コントロール効果はほぼ同等であり、かつDは1日1回投与でありPと比較して初回投与として適切であると記載されている。このあたりがpragmatic trialとされるゆえんだろう。結果は、A、P、Dのどの薬剤から開始しても単剤での疼痛コントロール効果は同等であること、併用治療によりさらに疼痛コントロール効果が増強されること、どのpathwayでも効果は同等であること、が明らかとなった。さらに疼痛のみならず患者のQOLも同様に改善することが示された。したがって、最初にどの薬剤を投与するか、併用療法としてどの薬剤と組み合わせるかは、主として個々の薬剤による特有の副作用の程度に依存することになる。 DPNPに対しては、単剤を最大耐容量まで増量しても効果が不十分であれば躊躇せずに併用療法に進むことが疼痛コントロールのために有効であることが本試験によって明らかとなった。他の神経障害性疼痛に対しても恐らく同様の有効性が期待されるだろう。しかし腰痛などの神経障害性疼痛以外の疼痛に対しては本試験の結果が適用されないことは言うまでもない。

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第117回 電子カルテの規格統一で、医療のデジタル化推進へ/厚労省

<先週の動き>1.電子カルテの規格統一で、医療のデジタル化推進へ/厚労省2.医療データ活用、本人同意なしでの利活用について討議へ/規制改革推進会議3.高額レセプトが過去最多に、高額な薬剤費が影響/健保連4.2021年度の介護費が11兆円突破、過去最高に/厚労省5.地域医療構想で、病院・診療所別の医師の偏在も可視化へ/厚労省6.マイナンバー普及が低い自治体への交付金給付をゼロに/政府1.電子カルテの規格統一で、医療のデジタル化推進へ/厚労省厚生労働省は、2030年までに「医療DX令和ビジョン2030」を推進のために、9月22日に「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームの初会合を開いた。この専門会議は、2つのタスクフォースからなり、「電子カルテ・医療情報基盤」では、全国の医療機関での電子カルテの導入を目指すため、電子カルテの規格統一など基盤整備を行い、患者さんが最適な治療を受けられることを目指す。「診療報酬改定DX」タスクフォースでは、診療報酬の改定に関する作業を大幅に効率化し、人材の有効活用や費用の低減化を目指す。(参考)全国で電子カルテの規格統一へ「質の高い医療提供が可能に」 厚労省(テレビ朝日)医療デジタル化へ初会合 厚労省の推進チーム(産経新聞)医療デジタル化 厚労省 作業チーム新設へ 情報共有仕組み検討(NHK)第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料診療報酬改定DXが開始!医療機関にもたらすメリットとは(PHC)2.医療データ活用、本人同意なしでの利活用について討議へ/規制改革推進会議政府は9月22日に規制改革推進会議の作業部会を開き、医療データ活用について検討に入った。新薬の開発や、地域医療のために医療データ活用を行う上で、現行の個人情報の規制では、データ活用が進まないため、欧米の事例などを参考に、制度の見直しに着手した。一方、9月20日に内閣府が、次世代医療基盤法に基づく事業者であるNTTデータと一般社団法人ライフデータイニシアティブが、患者の同意を得ずにデータ収集を行なっていたことを明らかにした。すでに両者は医療機関からの情報収集や第三者への匿名加工医療情報の提供は取りやめているが、内閣府は両者に対して来月4日までに、原因を調べ、再発防止策を報告するよう命じた。(参考)医療データ活用、本人同意を議論 規制改革推進会議(日経新聞)認定事業者が患者通知なしの医療情報収集  施行後初、原因など調査へ(MEDIFAX)患者通知なく医療情報収集 NTTデータ、9万人分(日経新聞)3.高額レセプトが過去最多に、高額な薬剤費が影響/健保連9月21日に健康保険組合連合会(健保連)は、2021年度の月額1,000万円以上に達した高額レセプトの発生状況について報告した。2021年度は、前年度より152件増加(対前年度比11%増)の1,517件と過去最高を記録した。これは脊髄性筋萎縮症の新薬「ゾルゲンスマ」(1患者当たり約1億6,708万円)など高額な医薬品の承認が影響したためとしている。医療費の上位100位のうち半数以上の56件が高額医薬品によるレセプトであり、がん治療薬の「キムリア」(1患者当たり約 3,265万円)が多かった。また、疾患別では100件のうち49件ががん、循環器系疾患が22件、血液疾患3件など上位を占めていた。(参考)令和3年度 高額レセプト上位の概要を発表(健保連)高額レセプト過去最多1,517件、21年度健保連、高額医薬品が過半数(CB news)4.2021年度の介護費が11兆円突破、過去最高に/厚労省厚生労働省は9月21日に2021年度の介護費用を発表した。これによると、介護保険で2021年度にかかった介護費用全体(介護給付費と自己負担)で総額11兆291億円となり、過去最多を更新した。2000年から始まった介護保険制度は発足当初と比べ、約2.5倍と大幅に増加している。今後も高齢化の進行に伴い、介護費の増加が見込まれている。(参考)令和3年度 介護給付費等実態統計の概況(令和3年5月審査分~令和4年4月審査分)(厚労省)介護費用総額11兆円を突破 2021年度 過去最多(朝日新聞)介護費用11兆291億円 21年度最多更新、高齢化で利用増(日経新聞)5.地域医療構想で、病院・診療所別の医師の偏在も可視化へ/厚労省厚生労働省は、9月21日に第8次医療計画等に関する検討会の下部組織の開「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、各都道府県が2次医療圏ごとに医師の偏在対策に利用できるように、医師確保計画の見直しに着手することを明らかにした。これまで各都道府県は、地域医療構想に向けて医療機関の機能分化を進めてきたが、医師の偏在を見直すために、2次医療圏を医師偏在指標によりそれぞれ上位3分の1の医師多数区域や下位3分の1の医師少数区域、その他の中間区域に分け、医師多数区域は、圏域外からの医師確保は行わず、逆に医師少数区域に医師を派遣するなどを求めるほか、診療科別医師数のデータを活用し、医療機関ごとに医師の偏在も可視化することで、各都道府県みずからに実効性のある医師確保策に取り組むように働きかける。(参考)第7回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ資料(厚労省)診療科別の医師偏在指標、次期確保計画で見送りへ 厚労省方針、「現時点で困難」(CB news)2次医療圏毎に病院・診療所別の「医師が多い、少ない」を可視化、地域の医師確保対策に極めて有益―地域医療構想・医師確保計画WG(GemMed)6.マイナンバー普及が低い自治体への交付金給付をゼロに/政府政府は、来年度から新たに設ける「デジタル田園都市国家構想交付金」について、各自治体のマイナンバーカードの普及率をもとに、給付をすることを決めた。これまでの補助金と異なり、各自治体が給付の申請には、全国の自治体の中で、全国平均以上の普及率を要求することとしている。国の来年度の予算の概算要求で総額1,200億円を求めており、各自治体は来年度からの補助金の給付を受けるため、マイナンバーの普及に努力を促す仕組みとなる。この方針について、群馬県の山本知事は会見で「上から恫喝するみたいなアプローチは間違っている」との意見も出されるなど、政府の方針も見直される可能性もある。(参考)政府 マイナンバーカードの普及状況 交付金配分に反映方針(NHK)マイナカード低迷なら交付金ゼロ 自治体に「全国平均以上」要求(中日新聞)マイナンバーカード取得率で交付金制限 群馬・山本知事「上から恫喝みたいなアプローチは間違い」(群馬テレビ)

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第130回 がん治療で知られるCAR-Tの応用で全身性エリテマトーデス患者5人が寛解

がん治療で一足先に実用化されたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の応用で5人の自己免疫疾患・全身性エリテマトーデス(SLE)が寛解に至りました1-3)。5年前にB細胞がんの治療として米国で承認されたCAR-T治療は採取したT細胞を目当ての加工を施したうえで再び患者の体内に戻すという手順を踏みます。SLEは免疫系が自己DNAに誤って反応してしまうことで生じます。その反応とはB細胞が死にゆく細胞から放出されるDNAへの抗体を作ってしまうことです。SLE治療のCAR-Tはそういう病因抗体を作るB細胞の駆除を目指し、B細胞のタンパク質CD19を標的とするキメラ抗原受容体(抗CD19 CAR)を導入したうえで患者5人に投与されました。その投与から3ヵ月以内に5人全員が寛解に至り、免疫抑制剤などのそれまで必要だった薬を止めることができ、薬なしでやっていけるようになりました。5人の観察期間はおよそ8ヵ月(中央値)で、長い人は治療から17ヵ月経ち2)、薬なしでの寛解を観察期間中維持しました。効果がどれほど続くかはまだ不明で今後多くの人に試して調べる必要がありますが、投与したCAR-Tが体内でなくなっても効果は少なくともしばらくは持続するようです。というのも5人に投与したCAR-Tは1ヵ月もするとほとんど検出されなくなったからです。3ヵ月半ほどが過ぎるといったん枯渇したB細胞が骨髄の幹細胞から作られるようになって復活し始めました。しかし幸いにもそれらの新たなB細胞は自己DNAに反応しませんでした。ただし、SLE患者のDNAに反応するように何がB細胞を駆り立てるのかは分かっておらず、何らかのきっかけでその反応が再び頭をもたげ始める恐れがあります。そういう再発の恐れをはじめとする課題を今後の試験で検討する必要がありますが今回の結果をSLE界隈の医師等はまずは歓迎しているようです。僅か5人の結果とはいえCAR-T治療の効果はこれまでにないものであり、胸躍らせるものだとKing‘s College LondonのSLE研究医師Chris Wincup氏は言っています2)。CAR-Tの活躍の場はSLEに限定されるものではなく、免疫が神経を攻撃することで生じる多発性硬化症(MS)などの抗体を要因とする他の自己免疫疾患も相手できるかもしれません。企業による自己免疫疾患治療CAR-Tの開発も進んでおり、たとえば米国カリフォルニア州のバイオテック企業Kyverna Therapeutics社はSLEに伴う腎臓炎症・ループス腎炎を治療するCAR-T・KYV-101の臨床試験を今年中に開始します4)。KYV-101もCD19標的CAR-Tであり、最近Kyverna社はドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学のGeorg Schett氏を科学顧問に迎えています。Schett氏は他でもない今回紹介したCAR-T治療試験のリーダーです。ループス腎炎を合併する重度SLE女性がCD19標的CAR-T治療で寛解に至ったことをSchett氏等は今回の試験報告に先立って昨夏の去年8月にNEJM誌に報告しています5)。参考1)Mackensen A,et al. . Nat Med. 2022 Sep 15. [Epub ahead of print]2)Radical lupus treatment uses CAR T-cell therapy developed for cancer / NewScientist3)Cancer treatment tackles lupus / Science4)Kyverna Therapeutics Names Georg Schett, M.D., and Peter A. Merkel, M.D., MPH, to Scientific Advisory Board / PRNewswire5)Mougiakakos D, et al. N Engl J Med. 2021;385:567-569.

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再発性多発性硬化症の再発率をublituximabが低減/NEJM

 再発性多発性硬化症の治療において、抗CD20モノクローナル抗体ublituximabはピリミジン合成阻害薬teriflunomideと比較して、96週の期間における年間再発率を低下させ、MRI上の脳病変を減少させる一方で、障害の悪化リスクを抑制せず、インフュージョンリアクションを増加させることが、米国・スタンフォード大学のLawrence Steinman氏らが実施した「ULTIMATE I/II試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年8月25日号で報告された。10ヵ国の無作為化実薬対照第III相試験 ULTIMATE I/II試験は、再発性多発性硬化症患者におけるublituximabの有効性と安全性を、teriflunomideとの比較において評価することを目的とする、同一デザインの2つの二重盲検ダブルダミー無作為化実薬対照第III相試験であり、2017年9月~2018年10月の期間に、10ヵ国の104の施設で参加者の登録が行われた(米国・TG Therapeuticsの助成による)。 対象は、年齢18~55歳、再発性多発性硬化症(McDonald診断基準[2010年改訂版]を満たす)と診断され、過去2年間に少なくとも2回の再発がみられるか、スクリーニングの前年に1回の再発またはMRI検査で少なくとも1つのガドリニウム増強病変(あるいはこれら双方)が認められ、脳MRIで多発性硬化症に一致する異常所見が確認された患者であった。 被験者は、ublituximabの静脈内投与(1日目に150mg、それ以降は15日、24週、48週、72週目に450mg)とプラセボの経口投与を受ける群、またはteriflunomideの経口投与(14mg、1日1回、95週目の最終日まで)とプラセボの静脈内投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは多発性硬化症の年率換算の再発率とされ、1人年当たりの確定再発数と定義された。階層的に順序付けされた6項目の副次エンドポイントが設定された。約半数でインフュージョンリアクションが発現 ULTIMATE I試験に549例(ublituximab群274例、teriflunomide群275例)、ULTIMATE II試験に545例(272例、273例)が登録された。modified intention-to-treat集団における4つの群の平均年齢の幅は34.5~37.0歳で、女性の割合の幅は61.3~65.4%であった。追跡期間中央値は95週だった。 年間再発率は、ULTIMATE I試験ではublituximab群が0.08、teriflunomide群は0.19(率比:0.41、95%信頼区間[CI]:0.27~0.62、p<0.001)、ULTIMATE II試験ではそれぞれ0.09および0.18(0.51、0.33~0.78、p=0.002)であり、両試験ともublituximab群で有意に低かった。 ガドリニウム増強病変数の平均値は、ULTIMATE I試験ではublituximab群が0.02、teriflunomide群は0.49(率比:0.03、95%CI:0.02~0.06、p<0.001)、ULTIMATE II試験ではそれぞれ0.01および0.25(0.04、0.02~0.06、p<0.001)であり、いずれの試験でもublituximab群で有意に少なかった。 2つの試験の統合解析では、12週の時点での障害の悪化の割合は、ublituximab群が5.2%、teriflunomide群は5.9%(ハザード比[HR]:0.84、95%CI:0.50~1.41、p=0.51)、24週時はそれぞれ3.3%および4.8%(0.66、0.36~1.21)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。 有害事象の統合解析では、ublituximab群の89.2%、teriflunomide群の91.4%で少なくとも1件の有害事象が発現し、Grade3以上の有害事象はそれぞれ21.3%および14.1%で認められた。 最も頻度の高い有害事象は、ublituximab群がインフュージョンリアクション(47.7%)で、次いで頭痛(34.3%)、鼻咽頭炎(18.3%)、発熱(13.9%)、悪心(10.6%)の順であり、teriflunomide群は頭痛(26.6%)、鼻咽頭炎(17.9%)、脱毛(15.3%)、インフュージョンリアクション(12.2%)、下痢(10.6%)の順であった。重篤な有害事象はそれぞれ10.8%および7.3%で、重篤な感染症は5.0%および2.9%で発現し、いずれもublituximab群で多かった。 著者は、「2つの試験とも、teriflunomideの先行研究に比べ障害の悪化の割合が低かったが、これは両試験の2つの群とも年率に換算した再発率が低かったため、再発に伴う障害の悪化の割合が低くなったことが原因の可能性がある」と指摘し、「既存の抗CD20モノクローナル抗体などの疾患修飾薬による治療との比較を含め、再発性多発性硬化症におけるublituximabの有効性と安全性を明らかにするために、より大規模で長期の試験が求められる」としている。

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糖尿病性神経障害性疼痛、併用薬による効果の違いは?/Lancet

 糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)に対する鎮痛効果は、アミトリプチリン+プレガバリンプレガバリン+アミトリプチリン、デュロキセチン+プレガバリンで同等であり、単剤療法で効果不十分な場合に必要に応じて併用療法を行うことで、良好な忍容性と優れた鎮痛効果が得られることが、英国・シェフィールド大学のSolomon Tesfaye氏らが英国の13施設で実施した多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験「OPTION-DM試験」の結果、示された。DPNPに対しては、多くのガイドラインで初期治療としてアミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが推奨されているが、最適な薬剤あるいは併用すべきかについての比較検討はほとんど行われていなかった。OPTION-DM試験は、DPNP患者を対象とした過去最大かつ最長の直接比較のクロスオーバー試験であった。Lancet誌2022年8月27日号掲載の報告。DPNP患者140例を対象に、DN4の7日間平均疼痛スコアを評価 OPTION-DM試験の対象は、改訂トロント臨床神経障害スコア(mTCNS)が5以上の遠位対称性多発神経障害、および神経障害性疼痛4項目質問票(DN4)で7日間の1日平均疼痛(NRS)スコア(範囲0~10)が4以上の神経障害性疼痛を3ヵ月以上有する18歳以上のDPNP患者である。施設で層別化したブロックサイズ6または12の置換ブロック法を用い、アミトリプチリン+プレガバリン(A-P)、プレガバリン+アミトリプチリン(P-A)、デュロキセチン+プレガバリン(D-P)の3つの治療法を各16週間、次の順序で投与する6通りの投与群に、1対1対1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。A-P→D-P→P-A、A-P→P-A→D-P、D-P→A-P→P-A、D-P→P-A→A-P、P-A→D-P→A-P、P-A→A-P→D-P。 3つの治療法はいずれも、第1治療期6週間、第2治療期10週間から成り、第1治療期は単剤療法(A-PではA、D-PではD、P-AではP)を行い、6週後に7日間平均NRSスコアが3未満の奏効例は第2治療期も単剤療法を継続し、非奏効例では第2治療期に併用療法を行った。各治療期は最初の2週間を用量漸増期として、アミトリプチリン25mg/日、デュロキセチン30mg/日、プレガバリン150mg/日から投与を開始し、1日最大耐量(アミトリプチリン75mg/日、デュロキセチン120mg/日、プレガバリン600mg/日)に向けて用量を漸増した。 主要評価項目は、各治療法の最終週(16週時)に測定された7日間平均NRSスコアの治療群間差であった。 2017年11月14日~2019年7月29日に252例がスクリーニングされ、140例が6通りの治療順に無作為に割り付けられた。3つの治療法(A-P、P-A、D-P)で有効性に差はなし 無作為化された140例中、130例がいずれかの治療法を開始し(84例が少なくとも2つの治療法を完遂)、主要評価項目の解析対象となった。 16週時の7日間平均NRSスコア(平均±SD)はいずれも治療法も3.3±1.8であり、ベースライン(130例全体で6.6±1.5)から減少した。各治療法の平均差は、D-P vs.A-Pで-0.1(98.3%信頼区間[CI]:-0.5~0.3)、P-A vs.A-Pで-0.1(-0.5~0.3)、P-A vs.D-Pで0.0(-0.4~0.4)で、有意差は認められなかった。併用療法を受けた患者では、平均NRSスコアの減少が単剤療法を継続した患者より大きかった(1.0±1.3 vs.0.2±1.5)。 有害事象は、3つの治療法を比較すると(A-P vs.D-P vs.P-A)、P-Aではめまい(12% vs.16% vs.24%、p=0.036)、D-Pでは悪心(5% vs.23% vs.7%、p=0.0011)、A-Pでは口渇(32% vs.8% vs.17%、p=0.0003)の発現率が有意に高かった。

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DSWPD(睡眠覚醒相後退障害)に対する超少量ラメルテオンの有用性

 睡眠覚醒相後退障害(DSWPD)は、概日リズム睡眠覚醒障害の1つであり、「朝起きられない病気」として知られている。DSWPD患者は、夜の早い時間に眠ることができず、朝起きられない、または起きたとしても強い心身の不調を来すことにより、社会生活に重大な問題を抱えていることが少なくない。DSWPDの薬物療法ではメラトニンが主な治療オプションとなりうるが、日本では市販薬として販売されておらず、多くの国ではメラトニンの市販薬には品質にばらつきがあることが問題となっている。メラトニン受容体アゴニストであるラメルテオンは、潜在的な治療オプションになりうる可能性があるが、DSWPD患者に使用した報告はほとんどない。これまでの薬理学的および時間生物学的研究では、夕刻の超少量ラメルテオン投与がDSWPDに有益であることが示唆されている。東京医科大学の志村 哲祥氏らは、DSWPD患者に対する夕刻の超少量ラメルテオン投与について、薬理学的レビューおよび検討を行うとともに臨床経験を紹介した。Journal of Clinical Sleep Medicine誌オンライン版2022年8月5日号の報告。DSWPD患者に対する超少量ラメルテオン投与で起床時の睡眠酩酊が消失 対象は、診断後に睡眠衛生指導を行ったが症状が改善せず、再診したDSWPD患者23例(平均年齢:23.5歳、男性:15例、女性:8例)。そのうち18例にラメルテオンの通常用量(8mg)による治療歴があった。対象患者には、夕刻(平均:18時10分)に超少量のラメルテオン(平均:0.571mg、1/7~1/50錠)を投与した。 DSWPD患者に対する夕刻の超少量ラメルテオン投与を評価した主な結果は以下のとおり。・治療前には、すべてのDSWPD患者において、朝の覚醒困難による学校や職場への遅刻および欠勤があった。・治療後、著効(学校や職場への遅刻が消失)と判断された患者は60.9%であった。・部分奏効は26.1%、改善がみられない無効は13.0%であった。・治療前には、69.6%のDSWPD患者で起床時の睡眠酩酊が認められたが、治療後ほとんどの患者で消失した(87.5%)。・DSWPD患者の不眠症状に対してラメルテオンを投与する際には、患者の就寝時間のばらつきなどを考慮し、服用のタイミングを夕刻の具体的な時間に設定することが重要である。

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第125回 気疲れは脳のグルタミン酸蓄積の仕業?

プロのチェス選手でさえ試合で4~5時間も経つと間違えをするように1日中試験や発表(プレゼン)で過ごした後で頭が回らなくなるという経験は誰しも覚えがあるでしょう。そういう気疲れ(精神的疲労)に神経伝達物質・グルタミン酸の脳での蓄積が寄与しうることが新たな試験で示唆されました1)。運動している時の筋肉がそうであるように、より頭を使う難解な課題で気疲れするのは簡単な課題に比べてエネルギーがより消費されて枯渇するのが原因とするというこれまでの通説とは異なる結果であり、その試験結果はちょっとした物議を醸しています2)。Cellの姉妹誌Current Biologyに結果が発表された今回の新たな試験で研究者は集中の維持や予定を立てるときに働く脳領域・外側前頭前野のグルタミン酸濃度が気疲れした時によくある振る舞い・克己心の欠如などと関連するかどうかを調べました。被験者40人は2つに分けられ、一方は気疲れを誘う難解な課題に取り組み、もう一方はより簡単な課題をしました。それら課題をしている6時間半の間に気疲れのほどや外側前頭前野のグルタミン酸濃度が何度か調べられました。気疲れのほどは、後で手に入る大金のために目先の小銭を我慢する自制心を問う質問などで評価されました。その結果、より難解な課題の群は簡単な課題の群に比べて克己心を失った衝動的な選択が10%ほど多く、外側前頭前野のグルタミン酸濃度が8%ほど上昇していました2)。より簡単な課題の群ではそのようなグルタミン酸濃度上昇は認められませんでした。今回の試験結果はあくまでも関連を示しただけであり、知能の酷使が脳でのグルタミン酸の有害な蓄積を引き起こすと結論づけるものではありません。米国・ブラウン大学の神経科学者Sebastian Musslick氏はグルタミン酸の上昇は気疲れの主因ではなく何らかの役割を担っていると考えています2)。われわれの脳は臓器と絶えず通信し、いつ食べたり飲んだり寝たりすればいいかを知らせてくれます。それと似たような脳内の保守に前頭前野のグルタミン酸も携わっているのではないかと同氏は想定しています。また、プリンストン大学のJonathan Cohen氏もグルタミン酸のような余剰物を気疲れの主因とする考えを疑っています。脳はより手の込んだ処理で膨大な情報を捌いているに違いなく、余剰物の上げ下げといった単純な仕組みで事足りる筈がない(It just can‘t be that easy)と言っています。今後の課題として、代謝の残り滓を洗い流して脳を掃除する睡眠や休息でグルタミン酸濃度が落ち着くかどうかを調べる必要があります。先立つ研究によると睡眠中にグルタミン酸がシナプスから取り除かれることはかなり確かなようです3)。脳疾患の多くでグルタミン酸の異常な伝達が認められており、うつ病治療に使われるエスケタミンやアルツハイマー病症状を治療するメマンチンなどの神経のグルタミン酸受容体を狙う薬がすでに存在します。また、最近のアルツハイマー病や脊髄小脳失調症(SCA)の試験で残念ながら効果を示すことはできませんでしたが、グルタミン酸除去薬troriluzoleも臨床試験段階に進んでいます。外傷性脳損傷(TBI)、多発性硬化症、新型コロナウイルス感染(COVID-19)後にも生じうるらしい筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)などの脳を酷使させる病気の研究に今回のような成果は重要な意義を持ち、その議論を前進させる筈とKessler Foundationの神経学者Glenn Wylie氏は言っています4)。参考1)Wiehler A, et al.Curr Biol. 2022 Aug 4:S0960-9822.01111-3.2)Mentally exhausted? Study blames buildup of key chemical in brain / Science3)Why thinking hard makes you tired / Eurekalert4)Neurotransmitter Buildup May Be Why Your Brain Feels Tired / TheScientist

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たくさんある睡眠薬、どれを使うべきか (解説:岡村毅氏)

 睡眠薬はとてもたくさんの種類がある。そして、それぞれがエビデンスの裏付けがある。具体的には、プラセボ(偽薬)あるいは従来の薬と比較して、膨大な数のスタディが行われているのである。効果があるとか、有害事象が少ないとか、それなりのよい結果が積み重ねられて、市場に出てくる。 この膨大な数のスタディをまとめて、そもそもどの薬が、効果がきちんとあって、有害事象が少ないか、一望しようというのがネットワークメタ分析である。 精神科というのは、患者さんがとても多く、社会的ニーズが大きい。同時に、病態や治療の数値化が難しい(たとえば高血圧の治療なら血圧という数値がすべてを物語るのと真逆だ)。よって、とくにさまざまな薬が乱立する傾向にある。 抗うつ薬や抗精神病薬は、本当にたくさん種類があり、専門医でも覚えきれないくらいであるが、これに一定の解を出したのがこのネットワークメタ分析である。抗うつ薬に関しては2009年の論文1)が有名であるが、研究チームにMeta-Analysis of New Generation Antidepressants (MANGA) Study groupというしゃれた名前が付けられており、マンガスタディとして広く知られていて、このコラムでも以前書いた2)。また抗精神病薬に関しては2013年の論文3)が有名だ。この手法はオックスフォード大学のCipriani教授や京都大学の古川教授が世界の第一人者である。 さて本論文は睡眠薬のネットワークメタ分析である。とくに、これまでは短期的な効果のみが治験でみられていたが、実際には長期的効果も重要であり、この分析では長期と短期の両方をみている点も魅力的だ。日本で使用可能な薬剤を中心に見てみよう。 ざっくりと結果を眺めると臨床的な理解にとても近くて面白かった。 まずベンゾジアゼピンは短期的には効果があるが、長期的には効果は少なく、有害事象が結構多い。この手の薬は短期的に効果があるので年季の入った患者さんに強く求められがちなのであるが、専門家としては長期的には効果が少ないことや有害事象の多さを知っているので、簡単には処方したくない。そこで患者・医師間の紛争が起きがちである。 ベンゾジアゼピンを改良したいわゆるZ薬(ゾルピデムやエスゾピクロン)は短期的にも長期的にも効果があるが、やはり有害事象が多いのは気になる。とくにゾルピデムは多いのかもしれない。 新しいタイプの薬(メラトニンに作用するラメルテオンや、オレキシンに作用するレンボレキサント)は、短期的には効果が感じられないが長期的には効果がある。そして有害事象も少ない。レンボレキサントはラメルテオンよりも効果は強いかもしれない。 なお「プラセボ」という薬は、長期的には効果が少しありそうだが有害事象も少しある(もちろん冗談です)。 一言で言うとこうなるか…すぐに効果を得たい場合はエスゾピクロンを考慮するが、やはり有害事象には気を付けよう。ベンゾジアゼピンは何かと問題が多いことは以前から言われているし、長期的な効果も薄いので使わないほうがよさそうだ。レンボレキサントは、短期はともかく長期的には効果があるので、きちんと患者さんが納得するなら使いたいところだ。 できる臨床医に、最近の睡眠薬の使い方を一言で述べてもらうと、まさにこうなりそうだ。また、言うまでもなく大前提として基盤にある精神疾患や身体疾患の治療もきわめて重要だ(この論文のイントロダクションにも書いてある)。非薬物療法が理想的なのは当たり前だが、現実は専門家も施設も足りない(これもまたこの論文のイントロダクションにも書いてある)ので、結局安価で広く使える薬物療法が世界中で行われている。この論文は、社会の現実を見据えたとても妥当な論文だと思われる。

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不眠症治療薬、長期に有効・安全なのは?/Lancet

 不眠症治療薬のエスゾピクロンとレンボレキサントはいずれも有効性のプロファイルは良好であるが、エスゾピクロンは副作用発現例数が多く、レンボレキサントの安全性は結論に至っていないこと、またdoxepin、seltorexantおよびzaleplonは忍容性が良好であるが、有効性に関するデータは乏しく確固たる結論は得られていないことなどが、英国・オックスフォード大学のFranco De Crescenzo氏らが行ったシステマティック・レビューとネットワーク・メタ解析により示された。承認されている多くの薬剤は不眠症の急性期治療に有効であるが、忍容性が低いか長期の有効性に関する情報が得られておらず、メラトニン、ラメルテオンおよび未承認薬は全体的なベネフィットは示されなかった。著者は、「これらの結果は、エビデンスに基づく臨床診療に役立つと考えられる」とまとめている。Lancet誌2022年7月16日号掲載の報告。無作為化二重盲検比較試験154試験をネットワーク・メタ解析 研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、PubMed、Embase、PsycINFO、WHO International Clinical Trials Registry Platform、ClinicalTrials.govおよび規制当局のウェブサイトにて、2021年11月25日までに報告された不眠症治療薬の無作為化比較試験を検索し、特定の診断基準に基づいて不眠障害と診断された成人(18歳以上)患者を対象とした不眠症治療薬に関するプラセボまたは他の経口実薬単剤との比較試験について解析した。クラスター無作為化試験またはクロスオーバー試験、および二次性不眠症(精神疾患または身体的な併存疾患による不眠症、薬物またはアルコールなどの物質による不眠症)患者が含まれる試験は除外した。 個々の試験についてコクランバイアスリスクツールで評価するとともに、信頼性ネットワークメタ解析フレームワーク(CINeMA)を用いて、エビデンスの確実性を評価した。 主要評価項目は、有効性(患者評価による睡眠の質または睡眠指標による満足度)、治療中止(あらゆる理由で治療を中止した患者の割合)、忍容性(何らかの有害事象により中止した患者の割合)、安全性(少なくとも1件の有害事象を発現した患者数)で、いずれも急性期(投与4週間後、4週間後のデータがない場合は1~12週間のデータで4週間に近い時点)および長期(投与3ヵ月後の最長時点)の両方で評価した。ランダム効果モデルによるペアワイズおよびネットワーク・メタ解析を用い、要約オッズ比(OR)と標準化平均差(SMD)を算出した。 システマティック・レビューには170試験(36介入、4万7,950例)、ネットワーク・メタ解析には無作為化二重盲検比較試験154試験(30介入、4万4,089例)が組み込まれた。エスゾピクロンとレンボレキサントは有効性のプロファイルが良好 急性期治療に関しては、ベンゾジアゼピン系、doxylamine、エスゾピクロン、レンボレキサント、seltorexant、ゾルピデム、ゾピクロンがプラセボより有効であった(SMD範囲:0.36~0.83、CINeMAによるエビデンスの確実性は高~中)。ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロン、ゾルピデムおよびゾピクロンは、メラトニン、ラメルテオン、およびzaleplonよりも有効であった(SMD:0.27~0.71、中~非常に低)。 中間作用型ベンゾジアゼピン、長時間作用型ベンゾジアゼピン、およびエスゾピクロンは、ラメルテオンよりもあらゆる原因による中止率が低かった(OR:0.72[95%CI:0.52~0.99、中]、OR:0.70[95%CI:0.51~0.95、中]、OR:0.71[95%CI:0.52~0.98、中])。 ゾピクロンとゾルピデムは、プラセボに比べて有害事象による脱落が多かった(ゾピクロンのOR:2.00[95%CI:1.28~3.13、非常に低]、ゾルピデムのOR:1.79[95%CI:1.25~2.50、中])。また、ゾピクロンはエスゾピクロン(OR:1.82[95%CI:1.01~3.33、低])、daridorexant(OR:3.45[95%CI:1.41~8.33、低])、およびスボレキサント(OR:3.13[95%CI:1.47~6.67、低])より脱落が多かった。 試験終了時の副作用発現例数は、ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロン、ゾルピデム、ゾピクロンが、プラセボ、doxepin、seltorexant、zaleplonより多かった(OR範囲:1.27~2.78、高~非常に低)。 長期治療に関しては、エスゾピクロンとレンボレキサントはプラセボより有効で(エスゾピクロンのSMD:0.63[95%CI:0.36~0.90、非常に低]、レンボレキサントのSMD:0.41[95%CI:0.04~0.78、非常に低])、エスゾピクロンはラメルテオン(SMD:0.63[95%CI:0.16~1.10、非常に低])およびゾルピデム(SMD:0.60[95%CI:0.00~1.20、非常に低])より有効であった。 エスゾピクロンとゾルピデムは、ラメルテオンと比較してあらゆる原因による中止率が低かった(エスゾピクロンのOR:0.43[95%CI:0.20~0.93、非常に低]、ゾルピデムのOR:0.43[95%CI:0.19~0.95、非常に低])。しかし、ゾルピデムはプラセボに比べて副作用による脱落数が多かった(OR:2.00[95%CI:1.11~3.70、非常に低])。

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脊髄性筋萎縮症、治療の進歩と新生児スクリーニング

 2022年6月20日、「マススクリーニングが変える脊髄性筋萎縮症(SMA)の未来」と題して、都医学研都民講座が開催され、齋藤 加代子氏(東京女子医科大学 ゲノム診療科 特任教授)から、SMAの概要と治療の進歩、新生児スクリーニングの必要性について、水野 朋子氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)から、新生児スクリーニングの現状・課題について講演が行われた。小児科に求められる役割 SMAは、脊髄の運動神経細胞の変性により、全身の筋肉が萎縮し、筋力低下、嚥下障害、呼吸障害などを来す進行性の疾患である。病型は、胎児期に発症する0型、6ヵ月ごろまでに発症するI型、18ヵ月ごろまでに発症するII型、それ以降に発症するIII型、成人期に発症するIV型に分類される(0型とIV型はまれ)。I型は、最重症で進行が速く、気管切開と人工呼吸器なしでは2歳までに90%以上が死亡するとされている。II型は、成長に伴い脊柱変形や関節拘縮がみられるようになり、やがて車いすでの生活を余儀なくされる。比較的軽症なIII型であっても、X脚や外反足などの症状がみられ、転びやすくなり、多くの患者さんで車いすが必要となるケースが多いという。発症年齢は、大部分が小児期であり、生後2ヵ月前後までに20%、2歳未満までに82.7%、16歳未満までに97%が発症することが全国調査の結果から明らかになっており、齋藤氏は、「SMAでは、小児科が診断において重要な役割を担う」と述べた。進歩した治療、開始のタイミングがカギ SMAは、SMN1遺伝子の変異によって引き起こされることがわかっている。このSMNを標的とした薬剤の有効性が相次いで報告され、現在日本国内では3剤(ヌシネルセン、オナセムノゲン、リスジプラム)が使用可能となっている。ヌシネルセンは、アンチセンス核酸医薬(SMN1とよく似た構造を持つ遺伝子であるSMN2をスプライシング修飾)であり、全年齢に対して髄腔内投与が可能である。オナセムノゲンは、遺伝子治療薬(アデノ随伴ウイルスを利用してSMN遺伝子を導入)であり、2歳未満に対して静脈点滴、リスジプラムは、低分子薬(SMN2をスプライシング修飾)であり、生後2ヵ月以上に対して経口投与が可能な薬剤である。このうち、ヌシネルセンとオナセムノゲンは、未発症の投与が可能となっている。 SMAに対する治療効果は、治療を開始した時期と患者さんに残されている運動ニューロンの割合に依存するといわれており、治療は早ければ早いほど効果が高く、発症前における有効性も報告されている。一方で、症状が進んだ状態で投与しても効果が限定的ともいわれている。こういったことから「可能な限り早期に診断し、早期に治療を開始することが極めて重要、“Time is Neuron”だ」と齋藤氏は訴えた。早期発見、早期治療のため、新生児スクリーニングを SMAのI型は、発症後神経の変性が急激に進行するため、本来であれば、生後1週間以内に治療を開始することがベストだが、一般診療では、生後6ヵ月ごろ(運動ニューロンが急速に消失し、ほぼ残されていない状態)に診断されることが多いという。これは、SMAが希少疾患であるために、医療者であっても認識が低いことや、病初期は症状がわかりにくく、とくにII型やIII型は、呼吸障害がなく緩徐に進行するため経過観察になりやすいことなどが理由として挙げられる。こうしたことからも、「新生児スクリーニングを行い、早期発見を目指すことが重要である」と、水野氏は強調した。 新生児スクリーニングは、先天性の疾患を早期に発見し、早期管理・治療することで発症を防ぎ、正常な成長発達を獲得することを目的としている。現在、米国では新生児の95%がSMAの新生児スクリーニングを受け、治療が受けられるようになっているが、日本ではまだ一部の自治体しか実施できていないのが現状であるという。SMAの新生児スクリーニングを普及させるためには、現行のスクリーニング検査に組み込む必要があるため、各自治体や検査機関などへの協力依頼や、分娩施設への協力依頼、産科医、小児科医への周知と理解、検査費用の公費負担化、診断後のフォロー体制などの課題が挙げられている。これに対し、日本小児神経学会では、SMAの新生児スクリーニング検討ワーキンググループを立ち上げ、対策を講じている。 水野氏は、「SMAは、適切なスクリーニング検査や確定診断方法、目覚ましい進歩を遂げた治療法により、早期発見、早期治療が可能な環境が整いつつある。だからこそ、診断後の疾患・治療説明や遺伝カウンセリング、新生児スクリーニングの普及といった課題を各団体と協力して解決していくことが重要だ」と述べ、講演を締めくくった。

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I型SMAに対するエブリスディ:3年間の新たな成績

 第63回日本神経学会学術大会にて、症候性I型脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)の乳児を対象にエブリスディの有効性および安全性を検討した、FIREFIS試験の3年間の新たな成績が発表された。 SMAは、脊髄の運動神経細胞が選択的に障害されることによって、体幹や手足の近位部優位の筋力低下や筋萎縮などの症状が現れる。新生児~乳児期(生後0~6ヵ月)に発症するI型は重症型で、一人で坐位を保つことができず、無治療の場合は、1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状をきたす。また、治療をせず、人工呼吸器の管理を行わない状態では、90%以上が2歳までに死亡する。 今回発表されたFIREFISH試験は、I型SMAの乳児(登録時点で月齢1~7ヵ月)を対象にエブリスディの有効性と安全性を評価している。試験は用量設定パートと用量設定パートで選択された用量の安全性有効性評価パートの2パートで構成されている。プールされた母集団には承認用量を3年以上投与した乳児が含まれている。今回の長期成績は、非盲検継続投与期間1年間の成績を含む、3年間の成績である。エブリスディを投与した乳児のうち推定91%が3年後に生存していた。また、BSID-III(Bayley Scales of Infant and Toddler Development - Third Edition)の粗大運動スケールの評価で、エブリスディを投与した評価可能な乳児48名のうち32名で、24ヵ月目以降、支えなしで座位を少なくとも5秒間保持する能力を乳児が維持していた。さらに、4名が新たにその能力を獲得した。嚥下能力に関しても、エブリスディを投与した乳児のほとんどが、36ヵ月目まで経口摂取と嚥下の能力を維持していた。 主な有害事象は、発熱(60%)、上気道感染(57%)、肺炎(43%)、便秘(26%)、鼻咽頭炎(24%)、下痢(21%)、鼻炎(19%)、嘔吐(19%)および咳嗽(17%)。主な重篤な有害事象は、肺炎(36%)、呼吸窮迫(10%)、ウイルス性肺炎(9%)、急性呼吸不全(5%)および呼吸不全(5%)であった。肺炎を含む有害事象の発現および重篤な有害事象の発現は経時的に低下し、12ヵ月の投与期間毎に約50%ずつ減少し、投与開始1年目から3年目の間に78%減少していた。全体として、有害事象および重篤な有害事象は基礎疾患を反映したものであり、休薬や投与中止に至った薬剤関連の有害事象は認められなかった。 今後の展開について、FIREFISH試験の5年間の追跡と並行して、リアルワールドデータを集める臨床研究も立ち上がっている。

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