脳卒中体験の否定と受容を経て、言葉をつむぎ始めた女性―AHAニュース

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/10/26

 

 米国のハイテク企業マーケティング部門の重役として働いていた、オレゴン州に住む女性、Beth Bonnessさんはその日、ヘアメイク中だった。ヘアースタイリストとは長年の付き合いで、その時も以前のローマ旅行のエピソードなどを話しながら、メイクを任せていた。すると突然、スタイリストがBonnessさんの話しを遮り、「Beth、Beth? 聞こえる?」と叫んだ。Bonnessさんは何を問われているのか分からず、スタイリストに確認しようとした。しかし、鏡に映っている自分の唇は動いていなかった。

 やがて、こめかみがズキズキし始め、視野の中に光のバースト(閃輝暗点)が現れだした。そして右手が麻痺した感じに気付いた。スタイリストは119番に電話することを提案したが彼女は断り、ヘアメイクを続けてもらった。心の中で、「私は大丈夫」と自分に言い聞かせていた。実際、やがて症状はほとんど回復した。

 その日、彼女の夫のJeff McCaffreyさんや娘たちは、自宅近くのレストランでBonnessさんを待っていた。彼女は遅れてレストランに入り、家族で食事を楽しんだ。少し前に自分の身に起こったことを夫に伝えたのは、家に戻ってからだった。McCaffreyさんは、妻をER(救急外来)に連れていくことを即断した。

 診察の結果は一過性脳虚血(TIA)発作だった。TIAは“ミニ脳卒中”と呼ばれることもある、短時間の脳卒中発作だ。通常、症状は5分以内に消失するが、TIAの患者の約3分の1は1年以内により重度の脳卒中を発症する。しかしBonnessさんは当時49歳であり、自分はまだ脳卒中を起こすような歳ではないと思った。また医師もそのような見解を口にした。

 ところが数日後、買い物中に再び閃輝暗点が現れたため同じ病院を受診。検査の結果、片頭痛か多発性硬化症ではないかと言われてひとまず帰宅した。さらに数日後、家族で食事をしている時、彼女の呂律がおかしくなった。加えて、言いたい言葉が頭に浮かばないという、失語症の症状も現れた。娘の一人がリンゴを指して「これは何?」と尋ねたところ、Bonnessさんは「オレンジ」と答えた。

 家族で再びERに向かった。検査結果は、頸動脈解離による脳卒中だった。抗血栓薬の治療によって、失語症と閃輝暗点は治まった。しかし、以前のような働き方で重責を全うすることは困難だった。そこで在宅中心の勤務に切り替え、メールでコミュニケーションをとることにした。それでも多大な努力が必要だった。彼女はハンディキャップを隠すために、仕事にベストを尽くした。同時に、できる限り健康的な生活を心掛けた。仕事のプロジェクトを立てるかのように、栄養、運動、瞑想などを計画的に行い、食事は植物性食品ベースに切り替えた。

 Bonnessさんのこのような変化は2007年に始まった。そして2011年になると、彼女の主治医は「医学的な管理目標は全て達成されている」と告げ、脳卒中関連の投薬を全部中止した。そして3年後の2014年、彼女は仕事をリタイヤした。しかし、やるべきことはほかにもあり、それに取り組んだ。例えば、近所にある歴史的建造物を宅地開発から守る活動を実らせ、さらにその時の経験を本にまとめた。本を書く過程で彼女は内省的になり、自分に起きた脳卒中を見つめ直し始めた。「私は実際に起こったことを否定しようと生きていた。それは長い目で見れば健康的な態度ではなかった。今では、自分自身、そして他人に対する気遣いを忘れないようにしている」。

 McCaffreyさんは、脳卒中になった直後のBonnessさんの態度を、「妻の典型的な反応だった。彼女は決断力に優れ、集中力があり、そして自分の感情を押し殺そうとしていた」と語るとともに、これまでの妻の努力を称賛する。McCaffreyさん自身も2度のがん治療を受けた。その闘病のため、Bonnessさんを見習い、食事や運動に気を付けるようになったという。

 Bonnessさんはその後、自分の身に起きた脳卒中の体験を著わした。昨年からは詩集の出版なども始めている。さらにまた、脳卒中や脳損傷サバイバーのための執筆活動グループを立ち上げた。参加者が自分と同じように、文章を書く過程で洞察を深めていけるのではないかと彼女は期待している。

[2022年9月9日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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