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IgA腎症の病態に根差したtelitaciceptの治療効果(解説:浦信行氏)

 IgA腎症に対するtelitaciceptの治療効果に関してはこれまでもいくつかの報告があり、若年者IgA腎症、6ヵ月の後ろ向き研究、高リスクIgA腎症、また、ごく最近では腎移植後再発IgA腎症などで尿蛋白減少効果が逐次報告されてきた。IgA腎症発症の機序に関わるB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)の両者を標的として中和する融合タンパク質製剤であるtelitaciceptの臨床効果には大きな期待が寄せられていた。 このtelitaciceptの第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験(TELIGAN試験)の39週時点での中間解析結果である尿蛋白低減効果が報告され、2026年5月21日掲載のジャーナル四天王にその概要が示されている。BAFFとAPRILの二重阻害薬はtelitaciceptに先行するかたちで2025年11月にataciceptでの報告があり、42%の尿蛋白低減効果が示されている。多少の有効率の違いはあるが、ほぼ同様の成績であると考えられる。両試験のいずれにおいても、その効果は試験開始後4週目で有意な低減効果であり、この点でも差異はなさそうである。ベースラインと比較したeGFRの変化率は-1.0%と、プラセボ群の-7.7%に比較しても良好であったが、最終104週でのeGFR変化率が報告される予定である。現在まで、腸管限定作用ステロイドのブデソニドや補体第二経路を阻害するイプタコパンが2年間のeGFRの変化率を有意に抑制したと報告されているが、いずれも-3%程度である。このtelitaciceptのeGFRの変化率が長期投与でも-1.0%であれば、腎保護の大きな手段となる。

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喘鳴をみたら喘息?【喘息・COPDのここが知りたい!】第1回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院という地域の総合病院で呼吸器内科医として働いています田中 希宇人(たなか きゅうと)と申します。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。川崎南部地域は肺がん・COPD・喘息など、呼吸器疾患の患者さんが多く、呼吸器の症状で困っている方を10年以上診療してきています。喘息・COPDのガイドラインはしっかり策定されておりますが、すべての患者さんがガイドラインに当てはまるわけではありません。本連載では、それらのガイドラインの隙間を埋めるような実臨床で役立つ内容、悩む状況などについて一緒に考えていきたいと思います。ぜひご意見やご感想もお寄せいただけますと幸いです。喘鳴をみたら喘息?はじめに:その喘鳴をどう診ますか?日常診療において、患者さんが「ゼーゼーする」「ヒューヒューいう」と訴えて来院された際、真っ先に頭に浮かぶのは「喘息」ではないでしょうか。実際に喘息は非常に頻度の高い疾患であり、その症状の1つに「喘鳴(ぜんめい)」があります。喘鳴とは、気道が狭くなることで「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音が連続的に発生する状態を指します。この音は、狭くなった気道を空気が無理に通過する際に生じる振動によるものです。喘鳴は、聴診器を使わなくても聞こえることもあります。息を吸う時に聞かれる「吸気性喘鳴」と吐く時に聞かれる「呼気性喘鳴」があります。音が聞こえるタイミングや、気道のどの部分が狭くなっているかで病気を推測できる場合があります。しかし「All that wheezes is not asthma(喘鳴がすべて喘息とは限らない)」1,2)という言葉があります。ガイドラインには「喘息の治療法」については詳しく書いてありますが、「この喘鳴が本当に喘息なのか」という診断や鑑別プロセスについては、多くを語ってくれません。ましてや、目の前の患者さんが「喘息なのか」については教えてくれません。本連載では、ガイドラインの行間に隠れた、実臨床での「診療のコツ」をお伝えしていきたいと考えています。第1回は多くの先生方が最も迷いやすく、かつ見逃してはならない「喘鳴の鑑別」について深掘りしていきます。喘鳴の「音」を解剖する:stridorとwheeze聴診器を当てて何か「音がする」だけで満足してはいけません。その異常な音が「いつ」「どこで」聞こえるかが、診断の最大のヒントになります。外来診療では長い時間がとれないため、患者の頸部で聴診します。深呼吸で、呼気は勢いよく最後の最後まで吐ききってもらいます。典型的な喘息の喘鳴は、呼気終末に聴取されます。喘鳴が聞かれる場合に、まず重要なのは音が吸気時(息を吸うとき)に強いのか、呼気時(吐くとき)に強いのかという点です。呼気性喘鳴(wheeze)主に末梢気道が狭窄しているサインです。喘息やCOPDの典型的な音です。吸気性喘鳴(stridor)主に上気道・中枢気道の閉塞を示唆します。喉頭浮腫、声帯機能不全、異物、気管腫瘍などが疑われます。もし吸気時に強い「ヒュー」という音が聞こえたなら、それは喘息の増悪ではなく「上気道の緊急事態」かもしれません。この見極め一つで対応が劇的に変わります。次に、聞かれる音がmonophonic(単音性)なのか、polyphonic(多音性)かということがわかると、さらに病気が絞られます。monophonic聴診してどこの部位で聞いても同じ高さの「ピー」という音が聞こえる状態。これは、特定の太い気道が1点で狭まっている、腫瘍や異物などの病態の可能性を考えます。polyphonic胸のあちこちで異なる高さの音が混ざって聞こえる状態。これは喘息のように、肺全体であちこちの気道が狭くなっている病態を示します。喘息と間違えやすい3つの病態咳・息切れ・喘鳴などの症状があると「喘息」が疑われ、呼吸器外来を受診することが多いです。そこで気を付けなければいけない、喘息と間違えやすい代表的な3つの疾患を紹介しましょう。(1)心不全最も頻度が高く、かつ命にかかわるのが心不全です。左心不全による肺水腫で気管支粘膜が浮腫を起こすと、喘息そっくりの喘鳴が聴取されます。見分けるポイントがいくつかあります。喘息の喘鳴は「夜間・早朝」に強く認められますが、心不全は「横になる時(臥位)」に症状が悪化します。また、心不全徴候であるIII音の聴取、下腿浮腫や頸静脈怒張の有無、X線で心拡大やバタフライシャドウ、採血でBNP高値などをあわせて確認します。喘息の既往がある高齢者が「最近ゼーゼーがひどい」と受診した場合、じつは心不全がベースにあるケースは珍しくありません。喘息とうっ血性心不全が合併していることがあり、私も気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬、降圧薬を同時に投与したことがあります。(2)声帯機能不全(VCD)喘息と考えて吸入ステロイドや気管支拡張薬など各種吸入薬を使ってもまったく症状が改善しない「難治性喘息」の中に紛れ込んでいるのが、声帯機能不全(Vocal Cord Dysfunction:VCD)です。本来、息を吸うときに開くはずの声帯が上手に開かない病態です。VCDによる喘鳴が最も強く聞こえるのは「胸」ではなく「首」です。また、喘息増悪(発作)時にはSpO2が低下することが多いですが、VCDでは正常に保たれていることが多いのも特徴です。「吸入薬が効かない」と訴える方や、心理的ストレスを抱える方では、VCDの可能性を考え耳鼻科医に診察してもらうことも重要です。(3)中枢気道病変(腫瘍・異物)ときどき呼吸器外来で診るのが、肺がんや気管支結核、あるいは高齢者の誤嚥による異物などが原因の喘鳴です。肺がん・気管支がんなどの悪性腫瘍、異物などによる物理的閉塞による喘鳴は「片側だけ」「ある特定の部位だけ」で聞こえます。喘鳴は全肺野で聞かれるはず、という思い込みを捨て、左右の胸の音を丁寧に聞き比べるとわかることがあります。また、喘息増悪で聞かれる喘鳴は、比較的急な経過で聴取されますが、悪性腫瘍が原因の場合には徐々に症状が強くなることが特徴です。喫煙歴のある高齢者の喘鳴で安易に「喘息やCOPDが原因」と決めつけるのは危険です。X線やCTでの精査を躊躇してはいけません。喘鳴を正しく見極めるためのコツ喘鳴が聴取される患者さんで喘息か他疾患の病態かで迷ったとき、実際の医療現場で行っているいくつかのコツを紹介しましょう。(1)SABA(短時間作用性β2刺激薬)に対する反応をみるまず比較的簡単にできるのが、喘息増悪に準じてメプチンなどのSABAをネブライザーで吸入させ、その場で喘鳴が消失あるいは軽減するかを確認することです。これは、非常に有用な診断的治療になります。喘息であれば反応が良いはずですが、心不全や腫瘍による気道の物理的狭窄では反応が乏しいことがわかります。(2)「いつもの喘鳴」との違いを聞いてみる喘息増悪を繰り返す患者さんが一番自分の状態をわかっています。しかし、喘息患者さんでも別の病気を合併することがあります。「今回の症状は、今までの喘息発作と同じ感じですか?」という一言が、別の病気を見つけるカギになることがあります。患者さんが感じる「今回はなんか違う、息が吸い込みにくい感じがする」といった症状には注意が必要です。(3)喘鳴の起こり方を探る喘息の増悪は何かをきっかけに発作的に起こりますが、COPDや心不全の増悪は、動いたときの息切れが先行し、徐々に症状が悪化することが多いです。そのようなきっかけ、安静時の喘鳴なのか労作時の喘鳴なのか、など喘鳴の起こり方を探ってみましょう。おわりに:診断の「質」が治療の「質」を決める喘息治療の進歩により、多くの患者さんが発作を経験せずに平穏に過ごせるようになりました。喘息死も私が研修医だった20年前に比べるとだいぶ減りました。しかし、その一方で咳・息切れ・喘鳴のような症状がある場合に、「とりあえず喘息として吸入薬を出す」ことが、本来見つけるべき他の疾患を見逃すリスクを生んでいる側面もあります。「喘鳴=喘息」という思考をいったんやめて、聴診器から聞こえる音の正体を疑ってみる姿勢が第一歩です。正しい診断が下されれば、正しい治療につながります。そこで既存のガイドラインがさらに活きてくるものと考えています。 1) Jackson C. BMQ. 1865;16:86 2) Kaminsky DA. Chest. 2015;147:284-286.

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イプタコパンがIgA腎症の腎機能障害を有意に抑制(解説:浦信行氏)

 イプタコパンは補体代替経路の補体B因子の経口阻害薬であり、2025年2月のNEJM誌(Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2025;392:531-543.)に9ヵ月時点での有意な蛋白尿減少効果が報告されている。今回は最終24ヵ月までの推算糸球体濾過率(eGFR)の変化度をプラセボ群と対比した。結果の概要はCareNet.comの2026年4月14日配信の記事に示されているが、イプタコパン群のeGFRの変化は-3.10mL/分/1.73m2/年とプラセボ群の-6.12mL/分/1.73m2/年に比較して腎機能障害進行の程度が半減していた。有害事象はやはり感染関係が多かったが、有害事象の発生率と重篤な有害事象の発生率に差はなかった。サブグループ解析では、年齢、性別、アジア人と非アジア人、尿蛋白の程度、eGFRの程度、血尿の有無、SGLT2阻害薬使用の有無で効果に差はなかった。わが国では発症が多いとされるIgA腎症であるが、効果は同様に期待でき、またSGLT2阻害薬使用下でも同様の効果があることから併用療法の有効性もあるものと考えられる。 近年はIgA腎症の病態の一端が徐々に明らかとなり、その病態の各段階に作用する薬剤の開発が盛んに行われ、多くの開発中の薬剤の尿蛋白低減効果が報告されている。しかし、長期の腎機能保護効果を報告するものは少なく、また長期とは言っても24ヵ月程度の成績である。現時点では腸管に限定的に作用するグルココルチコイドのブデソニドはやはり腎機能障害の程度は有意に半減したが、エンドセリンとアンジオテンシン両者の受容体阻害効果を示すsparsentanは減少の傾向にとどまった。その他の新規開発薬剤もこれから報告が相次ぐと思われるが、より長期の保護効果に関する成績や、組織的にも有意な改善があるかの検討も待たれる。なお、現時点での成績では腎機能障害の程度は半減しているが、それでも毎年eGFRが3mL/分減少するため末期腎不全までの進行は避けられない。この減少が1mL/分/1.73m2/年以内にとどまれば言うことはないのだが。

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半年に1回投与のデペモキマブ、気管支喘息・鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の適応で発売/GSK

 グラクソ・スミスクラインは2026年4月15日に、デペモキマブ(商品名:エキシデンサー皮下注100mgペン、エキシデンサー皮下注100mgシリンジ)を発売した。適応は「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の患者に限る)」および「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」である。 本剤は、既存のヒト化抗IL-5モノクローナル抗体製剤メポリズマブの可変領域と定常領域にアミノ酸変異を導入して開発された製剤である。IL-5に対する親和性の向上および半減期の延長を通じて、26週に1回の投与が可能となった。 本剤の製造販売承認は、重症喘息患者を対象とした第III相試験SWIFT試験1)、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象としたANCHOR試験2)の結果に基づくものである。SWIFT-1、SWIFT-2試験では、主要評価項目である52週間における臨床的に重要な喘息増悪の年間発現率について、デペモキマブ群がプラセボ群と比較して統計学的有意に改善した。SWIFT-1試験では58%低下し、SWIFT-2試験では48%低下した。ANCHOR-1、ANCHOR-2試験では、主要評価項目である投与52週時の鼻茸スコア、および投与49週から52週時までの鼻閉症状スコアのベースラインからの変化量について、デペモキマブ群がプラセボ群と比較して統計学的有意に改善した。<製品概要>販売名:エキシデンサー皮下注100mgペン、エキシデンサー皮下注100mgシリンジ一般名:デペモキマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:・気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の患者に限る)・鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)用法及び用量:〈気管支喘息〉通常、成人及び12歳以上の小児にはデペモキマブ(遺伝子組換え)として1回100mgを26週間ごとに皮下注射する。〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉通常、成人にはデペモキマブ(遺伝子組換え)として1回100mgを26週間ごとに皮下注射する。製造販売承認日:2025年12月22日製造販売元:グラクソ・スミスクライン株式会社

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IgA腎症〔IgA nephropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義IgA腎症は、糸球体性血尿や蛋白尿などの検尿異常が持続し、腎生検で腎糸球体メサンギウム領域を中心としたIgA優位の免疫グロブリン沈着を認め、全身性疾患や慢性疾患など明らかな原因疾患を伴わない原発性糸球体腎炎である。確定診断には腎生検が必須である。■ 疫学IgA腎症は、世界で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であり、わが国を含む東アジアでとくに多いとされる。わが国では学校検尿や健康診断が普及しているため、無症候性血尿・蛋白尿を契機に若年~中年で診断される例が多い。一方、欧米では症候性の症例や腎機能障害を伴って初めて診断される例が多いとされる。■ 病因病因としては、「粘膜免疫異常により過剰産生された糖鎖異常IgA1が、自己抗体や補体と免疫複合体を形成し、糸球体メサンギウムに沈着して炎症と線維化を惹起する」というマルチヒット仮説が提唱されている。遺伝的素因も関与しており、HLA領域や粘膜免疫関連遺伝子の関連が報告されている。■ 症状多くは自覚症状に乏しく、持続する顕微鏡的血尿・軽度蛋白尿のみである。上気道感染や消化管感染の数日後に肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)を来す例が典型的である。進行例では浮腫、高血圧、倦怠感など慢性腎臓病(CKD)としての症状が出現する。■ 分類組織学的には腎糸球体メサンギウム増多所見が主体であるが、半月体形成、分節性硬化、全節性硬化など多彩な像をとる。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する。■ 予後かつての長期追跡では、診断後20年で約4割が慢性腎不全に至ると報告され、決して良性の腎炎ではないことが明らかとなった。近年では、早期発見・レニンアンギオテンシン(RA)系阻害薬の普及などにより予後は改善しつつあるが、蛋白尿が持続する例や腎機能障害を伴う例では依然としてCKD進行のリスクが高い。国際IgA腎症予測ツール(International IgAN Prediction Tool)により、臨床所見とMEST-Cスコアを組み合わせた予後予測も行われている。2 診断■ 検査1)尿検査持続する顕微鏡的血尿(尿定性検査に加え、尿沈査分析が必要。しばしば赤血球円柱がみられる)程度の異なる蛋白尿(しばしば0.3~1g/日程度から始まり得る)急性上気道炎や消化管感染後の一過性肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)2)血液検査血清クレアチニン、推算糸球体ろ過量(eGFR)で腎機能を評価する。血清IgA値はしばしば高値だが、診断的特異性は高くない。補体価は通常正常であり、低補体血症では他疾患を考慮する。3)腎生検IgA腎症の確定診断には腎生検が必要である。腎生検は、確定診断のみならず予後や治療反応性を予測する上でも重要である。光顕でメサンギウム増殖性糸球体腎炎を示し、免疫蛍光法でメサンギウム優位のIgA沈着(しばしばC3が共に沈着)を認める(図1、2)。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する(表)。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、IgA腎症が疑われる成人で蛋白尿0.5g/日以上が持続する場合、腎生検を考慮することが推奨されている。図1 IgA腎症の代表的な光顕所見画像を拡大する画像を拡大するa:メサンギウム細胞増多(↑)とメサンギウム基質増生(*)b:メサンギウムへの半球状沈着物(↑)c:管内細胞増多を示す糸球体糸球体毛細血管内の細胞数が増加し、管腔が狭小化している(↑)d:係蹄壊死この糸球体では毛細血管基底膜が断裂し(↑)、フィブリンの析出(*)がみられるe:細胞性半月体この糸球体の半月体は、ほとんどが細胞成分で占められているf:線維細胞性半月体この半月体は細胞成分10%以上50%未満で、細胞外基質は90%未満であるg:線維性半月体この半月体は細胞成分10%未満で、細胞外基質が90%以上を占めているh:分節性硬化点線で囲まれた部分に硬化がみられ、硬化はすべての係蹄には及んでいない(参考文献1、2より引用)図2 蛍光抗体法(IgA)画像を拡大する主にメサンギウム領域にIgAが高度に沈着している(参考文献1より引用)表 IgA腎症Oxford分類画像を拡大する■ 鑑別診断IgA腎症と類似する状態として、以下の疾患などと鑑別する必要がある。菲薄基底膜病、アルポート症候群など遺伝性血尿疾患IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病):紫斑、腹痛、関節痛など全身症状を伴う。感染関連糸球体腎炎(とくにMRSA感染に伴うIgA優位の感染関連糸球体腎炎)ループス腎炎など他の自己免疫性腎炎慢性肝疾患に伴う二次性IgA沈着症家族歴を含む臨床背景、血清学的検査、腎生検での所見を総合して診断する。3 治療■ 治療の基本方針治療の第1目標は、蛋白尿をできるだけ低く抑え(目標0.5g/日未満、理想的には0.3g/日未満)、腎機能低下速度を生理的なレベル(年間eGFR低下1mL/分/年未満)に近付けることである。■ 腎保護療法すべての患者に以下の腎保護療法が基本となる。生活習慣介入:減塩(食塩<6g/日が目安)、適正体重の維持、禁煙、適度な運動。血圧管理:目標<130/80mmHg(蛋白尿が多い例ではさらに厳格に)。RA系阻害薬:ACE阻害薬またはARBは蛋白尿減少と腎保護効果のエビデンスがあり、IgA腎症でも第1選択である。SGLT2阻害薬:糖尿病の有無にかかわらずCKD進行抑制効果が示されており、蛋白尿を伴うIgA腎症では追加投与が推奨されている。■ 免疫抑制療法腎保護療法を十分に行っても蛋白尿が持続し、腎機能低下が進行する例では免疫抑制療法を検討する。副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド):わが国のガイドラインでは、中等度以上の蛋白尿や組織学的重症例で、一定期間のステロイド療法が推奨されている。ただし、糖尿病、肥満、感染など副作用リスクが高い症例では慎重な適応判断が必要である。扁摘+ステロイドパルス療法:わが国では、口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用が長年行われており、蛋白尿の寛解や長期予後改善を示す国内データが蓄積している。その他の免疫抑制薬:シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などについては一定の効果報告もあるが、エビデンスは限定的であり、難治例や特別な状況に限って専門医のもとで検討されるべきである。■ 高リスク例・特殊病型急速進行性糸球体腎炎像(半月体多数、急激なeGFR低下)を示す例では、ステロイド大量療法にシクロホスファミドなどを併用する血管炎に類似した治療が行われるが、エビデンスは限られている。ネフローゼ症候群を呈する微小変化病合併IgA腎症などでは、ステロイド単独でも反応性が良い場合が多い。4 今後の展望■ 新たな診断・予後マーカー血中の糖鎖異常IgA1(galactose-deficient IgA1)やそれに対する自己抗体、補体関連マーカーなどがIgA腎症に特異的なバイオマーカー候補として研究されているが、現時点では診断や治療選択に用いる標準検査としては確立していない。国際IgAN予測ツールや病理MEST-Cスコアを活用したリスク層別化が進み、今後は個々の患者に応じた治療強度の決定に応用されることが期待される。■ 新規治療薬近年、IgA腎症の病態(粘膜免疫・補体・腎保護)を標的とした新規薬剤の開発が急速に進んでいる。標的放出型ブデソニド(Nefecon):回腸末端の腸管関連リンパ組織に到達するよう設計された経口ステロイドで、病的IgA1産生の抑制を目的とする。海外第III相試験では蛋白尿減少とeGFR低下抑制が示され、欧米などで承認されているが、わが国ではまだ使用できない。デュアルET-A/AT1受容体拮抗薬(sparsentan):ARB作用に加えエンドセリン受容体拮抗作用を併せ持ち、蛋白尿減少とeGFRスロープ改善を示している。補体阻害薬:経口補体因子B阻害薬iptacopanをはじめ、C5、C3、レクチン経路などを標的とした薬剤がIgA腎症で検証されており、一部は海外で承認されつつある。B細胞/BAFF・APRIL経路阻害薬:自己抗体産生抑制を目的としたataciceptや他の抗BAFF/APRIL抗体が臨床試験段階にある。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、「病的IgA産生と免疫複合体形成を抑える治療」と「すでに生じたネフロン喪失に伴うCKDの進行を抑える治療」を並行して行う2本立ての治療戦略が提案されている。わが国でも、支持療法にSGLT2阻害薬などを組み合わせつつ、新規薬剤が順次導入されれば、より早期から蛋白尿を強力に抑え、長期腎予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター IgA腎症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病治験ウェブ(難病に関する治験情報を簡単検索、医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎障害に関する調査研究班 編集. エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン 2020. 2020:東京医学社.2)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業:進行性腎障害に関する調査研究班報告 IgA腎症分科会 IgA診療指針-第3版-補追 IgA腎症組織アトラス.日腎会誌. 2011;53:655-666.3)KDIGO 2025 Clinical Practice Guideline for the Management of Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN) and Immunoglobulin A Vasculitis (IgAV).公開履歴初回2026年2月27日

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テゼペルマブ、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の適応追加/AZ

 アストラゼネカは2026年2月19日、テゼペルマブ(商品名:テゼスパイア)について「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」に対する適応追加の承認を取得したことを発表した。 本承認は、既存治療で効果不十分な18歳以上の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「WAYPOINT試験」の結果に基づくものである。WAYPOINT試験では、共主要評価項目の鼻茸スコア(NPS)と鼻閉重症度スコア(NCS)が、いずれも有意に改善したことが報告されている。なお、NPSは投与4週時、NCSは投与2週時から改善が認められ、投与52週時まで改善が維持された。 電子化された添付文書の「効能又は効果」「効能又は効果に関連する注意」「用法及び用量」「用法及び用量に関連する注意」「重要な基本的注意」の改訂箇所の記載は、以下のとおり(下線部が追記または変更箇所)。4. 効能又は効果○気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の患者に限る)○鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)5. 効能又は効果に関連する注意〈気管支喘息〉5.1 最新のガイドライン等を参考に、中用量又は高用量の吸入ステロイド薬とその他の長期管理薬を併用しても、全身性ステロイド薬の投与等が必要な喘息増悪をきたす患者に本剤を追加して投与すること。5.2 本剤は既に起きている気管支喘息の発作や症状を速やかに軽減する薬剤ではないため、急性の発作に対しては使用しないこと。〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉5.3 本剤は全身性ステロイド薬、手術等ではコントロールが不十分な患者に用いること。6. 用法及び用量〈気管支喘息〉通常、成人及び12歳以上の小児にはテゼペルマブ(遺伝子組換え)として1回210mgを4週間隔で皮下に注射する。〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉通常、成人にはテゼペルマブ(遺伝子組換え)として1回210mgを4週間隔で皮下に注射する。7. 用法及び用量に関連する注意〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉本剤による治療反応は、通常投与開始から24週までには得られる。24週までに治療反応が得られない場合は、漫然と投与を続けないよう注意すること。8. 重要な基本的注意〈効能共通〉8.1 本剤投与中の生ワクチンの接種は、安全性が確認されていないので避けること。8.2 本剤の投与によって合併する他のアレルギー疾患の症状が変化する可能性があり、当該アレルギー疾患に対する適切な治療を怠った場合、症状が急激に悪化し、喘息等では死亡に至るおそれもある。本剤の投与中止後の疾患管理も含めて、本剤投与中から、合併するアレルギー疾患を担当する医師と適切に連携すること。患者に対して、医師の指示なく、それらの疾患に対する治療内容を変更しないよう指導すること。8.3 本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師によるか、医師の直接の監督のもとで投与を行うこと。自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認した上で、医師の管理指導のもとで実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、直ちに自己投与を中止させ、医師の管理のもとで慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。〈気管支喘息〉8.4 本剤の投与開始後に喘息症状がコントロール不良であったり、悪化した場合には、医師の診療を受けるように患者に指導すること。

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医師会員の57%が花粉症と回答、オススメの予防法は

 全国的にスギ花粉の飛散が始まろうとしている。厚生労働省の統計によると、花粉症の有病率は2019年に42.5%となり、年々有病者数は増加しているという。国民病となった花粉症について、医師における有病率の違い、医師ならではの予防や対策などはあるのであろうか。 CareNet.comでは、2026年1月19~25日にかけて、会員医師1,000人(うち耳鼻咽喉科の医師100人を含む)に「医師の花粉症とその実態」についてアンケートを行った。花粉症へのアレルゲン免疫療法、生物学的製剤などの治療数は少ない 質問1で「花粉症かどうか」(単回答)を聞いたところ、「花粉症ではない」が40%と一番回答率高く、(診断を受け)「花粉症である」が33%、(診断を受けず)「花粉症である」が24%、「わからない」が3%の順で多かった。しかしながら、診断の有無を考慮しない場合、全体の57%が「花粉症である」を回答していた。 質問2で「花粉症で困る症状について」(複数回答)を聞いたところ、全体では「鼻汁」が81%、「くしゃみ」が59%、「目、皮膚、喉のかゆみ」が58%の順で多かった。耳鼻咽喉科とそれ以外の診療科の医師との比較では、両方で「鼻汁」が一番多かったが、「くしゃみ」、「目、皮膚、喉のかゆみ」、「鼻閉」などで若干の差がみられた。また、「集中力の低下」と「倦怠感・頭痛」は、それ以外の診療科の医師からの回答数が耳鼻咽喉科の医師の回答の2倍以上だった。 質問3で「花粉症の治療としてどのようなことをしているか」(複数回答)を聞いたところ、全体では「医療用医薬品の内服薬」が72%、「OTC薬の内服薬や外用薬」が29%、「医療用医薬品の外用薬」が26%の順で多かった。耳鼻咽喉科とそれ以外の診療科の医師との比較では、両方で「医療用医薬品の内服薬」が一番多かったが、「OTC薬の内服薬や外用薬」と「医療用医薬品の外用薬」で順位が逆転していた。また、それ以外の診療科の医師では「アレルゲン免疫療法」、「生物学的製剤」、「手術」の治療を行っていたが、耳鼻咽喉科の医師は行っていないという回答結果だった。 質問4で「お勧めの花粉症予防法・対策」(自由記載)について聞いたところ、全体では「マスクの着用」が19%で多く、「専用眼鏡・ゴーグルの着用」と「鼻洗浄・鼻うがい」は4%と同じ回答率だった。耳鼻咽喉科とそれ以外の診療科の医師との比較では、耳鼻咽喉科の医師では「専用眼鏡・ゴーグルの着用」の回答率が多く、「鼻洗浄・鼻うがい」はほぼ同じ回答率だった。 質問5で「花粉症にまつわるエピソード」を聞いたところ、下記のようなコメントが寄せられた。【花粉症の症状のエピソード】・くしゃみが止まらなくて、風邪と判断されることが多々ある(30代/膠原病・リウマチ科)・花粉症の活動期は喘息発作も起きやすくなるので注意している(60代/麻酔科)【治療薬に関するエピソード】・ワセリンの鼻への塗布が有効(40代/麻酔科)・花粉の飛散の日内変動は朝と夕方にあるので、作用時間の長い薬剤の方が効果的(60代/糖尿病・代謝・内分泌内科)【患者への助言などのエピソード】・患者に自分が使っている薬を教えると喜ばれる(50代/耳鼻咽喉科)・処方に合わせて鼻うがいを指導している(30代/耳鼻咽喉科)【花粉症予防に関するエピソード】・だいたいバレンタインデーの頃から花粉症の問診と処方を開始する(50代/心療内科)・花粉に曝露しないことが一番大事。曝露したときは鼻うがいで洗い流すが、真水ではだめ(60代/耳鼻咽喉科)■参考医師の花粉症とその実態について/医師1,000人アンケート

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喘息への活用に期待、『アレルゲン免疫療法の手引き2025』

 アレルギー性鼻炎は、スギやヒノキを原因とする季節性アレルギー性鼻炎と、ダニなどが原因の通年性アレルギー性鼻炎に大別される。本邦では2014年頃からアレルゲン免疫療法(以下、AIT)の手軽な手法である舌下免疫療法(以下、SLIT)が臨床導入されたが、近年のエビデンス蓄積により、ダニアレルゲンによって症状が出現しているアトピー型喘息へのダニSLITの有効性が示されているという。2025年6月には日本アレルギー学会より『アレルゲン免疫療法の手引き2025』が発刊され、最新の知見に基づき、治療の意義や位置付けが刷新されたことから、今回、本書の作成委員長を務めた永田 真氏(埼玉医科大学呼吸器内科 教授/埼玉医科大学病院アレルギーセンター センター長)にAITの基礎と推奨される患者像などについて話を聞いた。アレルゲン免疫療法の意義  以前に日本では“減感作療法”とも呼ばれたAITは、「アレルギー疾患の病因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲンに曝露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療」と定義付けられ、アレルギー疾患の根本的な体質改善を期待できる唯一の治療法である。本邦オリジナルの手法である皮下免疫療法(SCIT)は諸外国と比べ格段に普及が遅れていた。しかし2014年に舌下免疫療法(SLIT)が承認され、スギ花粉症を中心にその普及が始まった。 『アレルゲン免疫療法の手引き』の2022年版*からの主な改訂ポイントについて、永田氏は「『喘息予防・管理ガイドライン 2024』および『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』との整合性を図り、最新の臨床知見を反映した。とくにこれまでの理念を覆す免疫病態や、またAITの新規の効果が近年明らかになってきたため、新たに判明した作用をブラッシュアップしている。たとえば、ダニSLITが喘息患者の呼吸機能を改善させ長期的に維持させ得ることや、重症患者(喘息併存)への生物学的製剤(抗IgE抗体オマリズマブや抗IL-4受容体α鎖抗体デュピルマブなど)との併用効果に関するエビデンスなどを盛り込んだ。さらに、現段階での適応拡大はないが、アトピー性皮膚炎に対しても部分的に効果があることも報告されている。さらに、スギアレルゲンによる治療がヒノキアレルギーに対しても一定の効果を示す可能性が指摘されている」など、治療標的の広がりについても言及した。また、医療経済的な観点として、AITによる医療費抑制効果が確認されていることにも触れた。*2013年に「スギ」「ダニ」別の指針として発刊されていた前身の出版物を統合・刷新したもの AITの機序についてはいわゆる脱感作現象の寄与は極めて限られ、したがって“減感作療法”という呼称は科学的に誤っている。実際には生体にとって有益な免疫応答を能動的に誘導することの寄与が大きいと判明している。同氏は喘息患者において、「AITが気道上皮細胞のインターフェロン産生能力を高め、ウイルス感染に対する抵抗性を増強する作用が報告されている。これは、感染を契機とした増悪を抑制する効果を意味する」と、その免疫学的メリットを強調した。小児期からの介入と喘息発症予防 AITの適応は、IgE依存性アレルギーであることが正確に診断されたダニアレルギーまたはスギ花粉症患者で、とくに重要なことは全身的・包括的な効果を期待して行われる点である。施行にあたっては、「アレルゲン免疫療法に精通した医師」が条件であり、とくにSCITは効果が高いものの、アナフィラキシーあるいは喘息増悪(発作)などに対する迅速な対応が可能な施設においてのみ実施される。 AITの普及状況について、「成人のスギ花粉症治療でのSLITの応用が活発な一方、通年性鼻炎や喘息に影響をもたらすダニアレルギーへの介入は欧米に比べ依然として不十分」と同氏は指摘した。とくに小児においては、小児喘息の多くが難治化のリスクを抱える中、AITの追加が予後改善に寄与することが確認され、『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023』にも5歳以上に対するダニ免疫療法の重要性が示されている。「小児期からの介入は、将来的な喘息の新規発症を予防し、すでに発症済みの小児喘息の改善も期待することができる」と同氏はコメントした。 アレルギー性鼻炎の鑑別疾患としては、非アレルギー性・非感染性の鼻粘膜過敏症(血管運動性鼻炎や好酸球増多性鼻炎、また鼻かぜ[急性鼻炎]など)が挙げられる。このほかの注意点として、同氏は「海外では喘息でダニSLITが適応となる一方で、日本の場合には“適応がない”点は留意したいが、日本人の約8割の喘息患者はアレルギー性鼻炎も併発している」と喘息患者は治療対象となる場合が多い点を指摘した。<処方医が診療時に注意するべきポイント>・リスク管理:アナフィラキシーリスク評価と迅速な対応ができること・禁忌/慎重投与:「自己免疫疾患の合併や既往、または濃厚な家族歴を有する」「%FEV1(1秒量)が70%未満、または不安定な喘息患者」「全身性ステロイド薬の連用や抗がん剤の使用」に関する状況確認・SLITに関する歯科連携: 腔内の傷や炎症、抜歯などの予定は吸収率や局所反応に影響するため、休薬を含めた指導を実施・環境整備:ダニアレルギーの場合、ダニの繁殖を防ぐため、床のフローリング化やこまめな清掃など、また喘息ではとくに完全禁煙を指導治療中断後の再開は?ほかのアレルゲンへの適応は? AITの治療期間について、世界保健機関(WHO)は3~5年を推奨しているが、さらなる長期継続も許容される。患者が中断してしまった場合やいったん中止後に再発した場合の再開基準について、永田氏は次のような見解(私見)を述べた。「スギSLITの場合、投与開始から3年が経過していれば、免疫寛容の誘導が進んでいる時期。一時的に中断しても2年は効果が持続すると判明しているが、中止後の再発に伴う再開に際しては『改めて最低3年』を目標に仕切り直すことを推奨する。」 なお、ほかのアレルゲンへのAITの展開については、ハチ毒でのSCIT、食物アレルゲンでの経口免疫療法、一部の薬剤(NSAIDs、抗酸菌薬など)に対する脱感作療法が存在する。ピーナッツなどの食物アレルギーに対する経口・経皮免疫療法は研究が進んでいるが、現時点で本邦での承認予定はない。そのため、最新の手引きではこれらについての詳細な解説は見送られている。

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喘息・COPD吸入器が温室効果ガス排出量を増大/JAMA

 米国における吸入器関連の温室効果ガス排出量は過去10年間で24%増加し、全体の98%を定量噴霧式吸入器が占めることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のWilliam B. Feldman氏らによる観察研究で明らかにされた。吸入器は喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な治療手段であるが、定量噴霧式吸入器には多量の温室効果ガス排出につながるハイドロフルオロアルカン噴射剤が含まれる。米国連邦政府は国際条約義務に基づきハイドロフルオロカーボン(HFC)の段階的削減を進めているが、排出量などの現状把握は不十分であった。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年10月6日号で報告された。米国の2014~24年の連続横断研究 本研究は、2014~24年の米国における吸入器関連の温室効果ガス排出の規模、発生源、社会的コストの定量化を目的とする連続横断研究である(筆頭著者のFeldman氏は、この領域の研究に当たり米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 米国の外来向け医薬品市場全体の集計調剤データを、吸入器別の温室効果ガスの推定排出量と関連付け、喘息およびCOPDの治療用に承認された全吸入器の排出量を推定した。57のブランド名の吸入器が解析に含まれた。10年間で16億個の吸入器を調剤 2014~24年に、米国で調剤された吸入器は合計16億個であった。内訳は、定量噴霧式吸入器が11億個(70%)、乾燥粉末吸入器が4億900万個(26%)、ソフトミスト吸入器が5,800万個(4%)だった。 調剤された吸入器の85%を3つの治療薬クラスが占めており、短時間作用型β刺激薬(SABA)が7億8,400万個(50%)、吸入コルチコステロイド-長時間作用型β刺激薬(ICS-LABA)が4億1,200万個(26%)、ICSが1億5,100万個(10%)であった。 最も多く使用された薬剤はalbuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる、7億7,300万個[49%])であった。また、吸入器の85%を4社が製造していた。総排出量は2,490万メトリックトンCO2e 10年間に16億個の吸入器が排出した温室効果ガスの総量は、二酸化炭素(CO2)換算で2,490万メトリックトンCO2e(mtCO2e)と推定された。年間排出量は、2014年の190万mtCO2eから2024年には230万mtCO2eへと24%増加した。また、調査期間中の総排出量の98%を定量噴霧式吸入器が占めた。 10年間の温室効果ガス排出量は、SABAが1,450万mtCO2e(58%)、ICS-LABAが750万mtCO2e(30%)、ICSが230万mtCO2e(9%)であった。また、総排出量の87%を3つの吸入薬が占めており、albuterolが57%、ブデソニド・ホルモテロールが23%、フルチカゾンプロピオン酸エステルが6%だった。全体で57億ドルの社会的コスト 吸入器による温室効果ガス排出の社会的コストは、全体で57億ドル(下限35億ドル、上限100億ドル)と推定された。排出量の増加に伴い、これらのコストは2014年の3億9,000万ドル(下限2億2,900万ドル、上限7億300万ドル)から2024年には5億8,800万ドル(3億6,100万ドル、10億ドル)へと増加した。 著者は、「喘息およびCOPDの治療に承認された吸入器は、過去10年間にわたり温室効果ガス排出の一因となっていた。これらの排出削減を目指す施策立案者と規制当局は、現在市販されている低排出代替品の使用拡大を奨励し、乾燥粉末製剤のICS-ホルモテロールを米国市場に導入するとともに、経済的負担を増大させずに、低排出の定量噴霧式吸入器製品への移行を促すべきである」としている。

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小児喘息の発作治療、ブデソニド・ホルモテロールvs.SABA/Lancet

 軽症喘息の小児において、ブデソニド・ホルモテロール配合薬による発作治療はサルブタモールと比較して、喘息発作の予防効果が有意に優れ、安全性プロファイルはほぼ同様であることが、ニュージーランド・Victoria University WellingtonのLee Hatter氏らCARE study teamによる第III相試験「CARE試験」の結果で示された。成人喘息の発作治療では、短時間作用型β2作動薬(SABA)に比べ吸入コルチコステロイド・ホルモテロール配合薬は喘息発作を有意に低減することが知られている。研究の成果は、Lancet誌2025年10月4日号で報告された。5~15歳の無作為化対照比較試験 CARE試験は、研究者主導型の52週間の実践的な非盲検無作為化対照比較優越性試験(Health Research Council of New Zealandなどの助成を受けた)。2021年1月28日~2023年6月23日にニュージーランドの15の臨床試験施設で参加者の適格性を評価した。 年齢5~15歳、喘息と診断され、吸入SABA単剤による発作治療を受けている患児360例(平均年齢10歳[SD 2.9]、女児178例)を対象とした。 被験者を、吸入ブデソニド(50μg)・ホルモテロール(3μg)配合薬の2回吸入を頓用する群(179例)、またはサルブタモール(100μg)の2回吸入を頓用する群(181例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、患児1例当たりの喘息発作の年間発症率であった。重症喘息発作には差がない 患児1例当たりの喘息発作の年間発症率(主要アウトカム)は、サルブタモール群が0.41であったのに対し、ブデソニド・ホルモテロール群は0.23と有意に良好であった(喘息発作の相対的比率[RR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.35~0.86、p=0.012)。5~11歳(0.72[0.46~1.12])より12~15歳(0.06[0.01~0.43])、女児(0.94[0.52~1.68])より男児(0.30[0.15~0.58])で、ブデソニド・ホルモテロール群の治療効果が高かった。 また、少なくとも1回の喘息発作を発症した患児の割合は、サルブタモール群の32%(58例)に比べ、ブデソニド・ホルモテロール群は17%(30例)であり、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.43、95%CI:0.24~0.75、p=0.0060)。 一方、患児1例当たりの重症喘息発作の年間発症率は両群間に有意な差がみられなかった(ブデソニド・ホルモテロール群0.11、サルブタモール群0.18、RR:0.60、95%CI:0.32~1.14、p=0.11)。有害事象の発現頻度は同程度 少なくとも1件の有害事象が発現した患者の数は、ブデソニド・ホルモテロール群で162例(91%)、サルブタモール群で167例(92%)と両群間に差を認めなかった(OR:0.79、95%CI:0.35~1.79)。また、少なくとも1件の重篤な有害事象が発現した患者の数は、それぞれ5例(3%)および8例(4%)だった(0.62[0.17~2.24])。 成長速度(身長の平均群間差:-0.35cm、95%CI:-0.93~0.24、p=0.24)、喘息で授業が受けられなかった日数(RR:0.68、95%CI:0.44~1.04、p=0.075)、子供の喘息のケアで親が仕事をできなかった日数(RR:0.87、95%CI:0.49~1.56、p=0.64)は、いずれも両群間に差はなかった。 著者は、「これらの知見を先行研究のエビデンスと合わせると、現在SABA単剤による発作治療を受けている5~15歳の喘息患者は、吸入ブデソニド・ホルモテロール配合薬単剤に切り換えることで、より良好な喘息発作予防効果が得られると示唆される」とまとめている。 また、「年長児での高い治療効果は、年少児は吸入器の使用に支援を要したり、保護者が喘息の悪化を認識するのが遅れて治療開始が遅くなることで効果が低下する可能性があるが、年長児は独立して吸入器を使用できたためこの遅れがないという事実で説明が可能と考えられる」「男児での高い治療効果はこれまで報告がなく、喘息のアウトカムは思春期前の女児に比べ男児で不良であることから重要な観察結果となる可能性がある」としている。

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喘息合併の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、デュピルマブvs.オマリズマブ(EVEREST)/ERS2025

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎と喘息は、病態の中心に2型炎症が存在することが多く、両者の合併も多い。また、合併例は重症例が多く全身性ステロイド薬による治療が必要となる場合もある。そこで、喘息を合併する鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象に、デュピルマブとオマリズマブ(本邦で鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎への適応を有するのはデュピルマブのみ)を比較する海外第IV相無作為化二重盲検比較試験「EVEREST試験」が実施された。その結果、デュピルマブがオマリズマブと比較して鼻茸スコア(NPS)や嗅覚障害などを改善した。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Enrico Marco Heffler氏(イタリア・IRCCS Humanitas Research Hospital)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月27日号に同時掲載された1)。試験デザイン:海外第IV相無作為化二重盲検比較試験対象:低~高用量のICSを用いてもコントロール不良(喘息コントロール質問票[ACQ]スコア1.5以上)の喘息を有し、NPS 5以上の両側性鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者360例試験群:デュピルマブ300mgを2週に1回皮下投与(181例)対照群:オマリズマブを試験実施国の承認用量で投与(179例)投与方法:4週間のrun-in期間にモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、2群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24週間実施した。24週間の治療期間中もモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、全身性ステロイド薬の使用や手術による救済治療も可能とした。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のNPS、ペンシルベニア大学嗅覚識別検査(UPSIT)スコアのベースラインからの変化量[副次評価項目]投与24週時の嗅覚障害重症度スコア、鼻閉重症度スコアなど 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群間でバランスがとれており、全体集団の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の罹病期間(平均値)は13.3年、手術歴を有する割合は79.4%であった。ベースライン時のICSの用量は低用量が35%、中/高用量が65%であった。非ステロイド性抗炎症薬過敏喘息の病歴を有する割合は40%であった。・主要評価項目である投与24週時のNPSのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-2.65、オマリズマブ群-1.05であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:-1.60、95%信頼区間[CI]:-1.96~-1.25、p<0.0001)。・もう1つの主要評価項目である投与24週時のUPSITスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群12.7、オマリズマブ群4.7であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:8.0、95%CI:6.3~9.7、p<0.0001)。なお、デュピルマブ群のUPSITスコア(平均値)は無嗅覚の閾値である18を超えて改善した。・投与24週時の嗅覚障害重症度スコアのベースラインからの変化量、鼻閉重症度スコアのベースラインからの変化量もデュピルマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.0001)。・投与24週時の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群0.29L、オマリズマブ群0.14Lであった(群間差:0.15L、95%CI:0.05~0.26、名目上のp=0.003)。・投与24週時のACQ-7スコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-1.92、オマリズマブ群-1.44であった(群間差:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31、名目上のp<0.0001)。・安全性に関して、両群に差はみられなかった。 本試験結果について、Heffler氏は「本試験は呼吸器領域で初の生物学的製剤の直接比較試験である。本試験において、事前に規定した階層的検定のすべての評価項目で、デュピルマブがオマリズマブと比較して改善を示した。この結果は、2型炎症を伴う呼吸器疾患を併存する患者におけるデュピルマブの有効性を支持するものである」とまとめた。

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BUD/GLY/FOR配合薬が喘息にも有効(KALOS/LOGOS)/ERS2025

 吸入ステロイド薬(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)でコントロール不良の喘息において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬として用いられるブデソニド・グリコピロニウム臭化物・ホルモテロールフマル酸塩水和物(BUD/GLY/FOR)のトリプル製剤が有効であることが示された。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Alberto Papi氏(イタリア・フェラーラ大学)が、国際共同第III相試験「KALOS試験」および海外第III相試験「LOGOS試験」の統合解析の結果を報告した。KALOS試験・LOGOS試験のデザイン(両試験とも同様のデザインで実施)試験デザイン:第III相無作為化二重盲検比較試験対象:中~高用量のICS/LABAでコントロール不良(7項目の喘息コントロール質問票[ACQ-7]スコア1.5以上)の12~80歳の喘息患者4,311例(有効性解析対象4,304例)試験群1:BUD/GLY/FOR 320/28.8/10μgを1日2回(高用量群:1,179例)試験群2:BUD/GLY/FOR 320/14.4/10μgを1日2回(低用量群:725例)対照群1:BUD/FOR(エアロスフィア製剤)320/10μgを1日2回(1,208例)対照群2:BUD/FOR(タービュヘイラー製剤)320/9μgを1日2回(1,192例)投与方法:4週間のrun-in期間にBUD/FOR(エアロスフィア製剤)320/10μgを1日2回投与し、4群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24~52週間実施した。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のトラフ1秒量(FEV1)値のベースラインからの変化量[主要な副次評価項目]投与24週時の投与0~3時間後のFEV1値の曲線下面積(FEV1 AUC0-3)[統合解析の主要解析]重度の喘息増悪の年間発現率 試験実施国によって解析計画が異なるが、今回は欧州での解析計画に基づいて報告された(対照群1および2を統合して解析)。主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の投与24週時のトラフFEV1値のベースラインからの変化量は、KALOS試験ではBUD/GLY/FOR高用量群が対照群と比べて有意に改善し、LOGOS試験では高用量群および低用量群のいずれも対照群と比べて有意に改善した。対照群に対するトラフFEV1値の群間差(95%信頼区間[CI])、p値は以下のとおり。 <高用量群> KALOS試験:56mL(31~82)、p<0.001 LOGOS試験:97mL(70~123)、p<0.001 統合解析:76mL(57~94)、名目上のp<0.001 <低用量群> KALOS試験:25mL(-7~56)、p=0.126 LOGOS試験:103mL(73~134)、p<0.001 統合解析:65mL(43~88)、名目上のp<0.001・投与24週時のFEV1 AUC0-3値のベースラインからの変化量は、いずれの試験においてもBUD/GLY/FOR高用量群および低用量群が対照群と比べて改善した。対照群に対するFEV1 AUC0-3値の群間差(95%CI)およびp値は以下のとおり。 <高用量群> KALOS試験:69mL(44~94)、p<0.001 LOGOS試験:112mL(87~138)、p=0.001 統合解析:90mL(72~108)、名目上のp<0.001 <低用量群> KALOS試験:45mL(15~76)、名目上のp=0.003 LOGOS試験:115mL(85~145)、p<0.001 統合解析:81mL(60~103)、名目上のp<0.001・重度の喘息増悪の年間発現率(回/人年)は、対照群が0.63であったのに対し、BUD/GLY/FOR高用量群0.54(レート比:0.86、95%CI:0.76~0.97、p=0.01)、低用量群0.53(同:0.84、0.73~0.97、p=0.02)であり、BUD/GLY/FOR高用量群および低用量群が改善した。・治験薬との関連が否定できない有害事象の発現割合は、対照群が3.6%であったのに対し、BUD/GLY/FOR高用量群5.4%、低用量群4.6%であった。治験薬の中止に至った有害事象の発現割合は、それぞれ0.9%、1.1%、1.2%であった。 本試験結果について、Papi氏は「ICS/LABAでコントロール不良の喘息患者において、BUD/GLY/FORの単一デバイスによる3剤併用療法は、呼吸機能の改善および重度の喘息増悪の改善について、ICS/LABAに対する優越性を示した。BUD/GLY/FORの安全性プロファイルはBUD/FORと同等であった」とまとめた。

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慢性咳嗽のカギ「咳過敏症」、改訂ガイドラインで注目/杏林

 8週間以上咳嗽が持続する慢性咳嗽は、推定患者数が250〜300万例とされる。慢性咳嗽は生活へ悪影響を及ぼし、患者のQOLを低下させるが、医師への相談割合は44%にとどまっているという報告もある。そこで、杏林製薬は慢性咳嗽の啓発を目的に、2025年8月29日にプレスセミナーを開催した。松本 久子氏(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 主任教授)と丸毛 聡氏(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 呼吸器内科 主任部長)が登壇し、慢性咳嗽における「咳過敏症」の重要性や2025年4月に改訂された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』に基づく治療方針などを解説した。慢性咳嗽により労働生産性が約3割低下 松本氏は「知ってますか? 『長引く咳』と『咳過敏症』」と題し、慢性咳嗽のQOLへの影響や病態、咳過敏症の臨床像やメカニズムなどについて解説した。 慢性咳嗽はQOLを大きく低下させる。心理的側面では「咳をすると周囲の目線が気になる」「咳をすることが恥ずかしい」「会話や電話ができない」などの悪影響が生じる。また、食事への影響が生じたり、とくに女性では尿失禁が起こったりする場合もある。症状が強い場合には、咳失神や肋骨骨折にもつながる。このように、慢性咳嗽患者は日常生活においてさまざまな困りごとを抱えており、労働生産性の損失率は約30%にのぼるという報告がなされている。 慢性咳嗽の原因はさまざまであり、主な疾患として、喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、副鼻腔気管支症候群などが挙げられる。そこで問題となるのが、これらの疾患は画像検査や呼吸機能検査、血液検査で特異的な所見がみられないことが多いという点である。そのため、慢性咳嗽の診断・治療では、咳の出やすいタイミングや随伴する症状などを問診で明らかにし、原因疾患に対する治療を行いながら経過を観察していくこととなる。しかし、これらの疾患に対する治療を行っても、約2割が難治性慢性咳嗽となっているのが現状である。難治性慢性咳嗽の背景にある咳過敏症 松本氏は、「難治性慢性咳嗽の背景にあるのが咳過敏症症候群である」と指摘する。咳過敏症症候群は「低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床症候群」と定義され1)、煙や香水などの香り、会話や笑うことなどのわずかな刺激により咳が出て止まらなくなる状態である。 2023年に公開された英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)では、慢性咳嗽の「treatable traits(治療可能な特性)」として12項目が示され、このなかの1つに「咳過敏症」が示されている。これについて、松本氏は「慢性咳嗽という大きな括りのなかには、さまざまな原因疾患があり、加えて咳過敏症もあるという考えである。難治化した慢性咳嗽患者は咳過敏症を有していると考えることもできる」と述べ、咳過敏症に対する対応の重要性を強調した。改訂ガイドラインでtreatable traitsを明記 続いて、丸毛氏が「長引く咳に関する診療の進め方-最新の診療ガイドラインをふまえて-」と題して講演した。そのなかで、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』の咳嗽パートの改訂のポイントから、「慢性咳嗽のtreatable traits」「咳過敏症の重要性」「難治性慢性咳嗽についての詳説」の3項目を取り上げ、解説した。 容易に原因の特定ができない狭義の成人遷延性・慢性咳嗽の対応として、本ガイドラインでは、喀痰がある場合は「副鼻腔気管支症候群」への治療的診断を行い、喀痰がない、あるいは少量の場合は「咳喘息」「アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)」「GERD」「感染後咳嗽」に対する診断的治療を行って、咳嗽の改善を評価することが示されている。ここまでは前版と同様であるが、前版では原因疾患への対応で改善がみられない場合の治療法は示されていなかった。しかし、改訂ガイドラインでは、その先の対応として「treatable traitsの検索」「P2X3受容体拮抗薬の使用の検討」が示された。 treatable traitsの概念は、患者の病態のなかで、「明確に評価・測定できる」「臨床的に意義があり、予後や生活に影響する」「有効な介入手段が存在する」という条件を満たすものである。treatable traitsは患者によって単一の場合もあれば、複数の場合もある。また、複数の場合は個々のtraitsが占める割合も患者によって異なる。 従来の診療は、喘息であれば吸入ステロイド薬、COPDであれば気管支拡張薬など、診断名に応じて標準治療を一括適用するという考えであった。しかし、treatable traitsを考慮した治療では、同じ診断名でも個々の病態の構成要素は異なるため、それらをしっかりと見極めて治療を行う。これは「プレシジョン・メディシンに近い考え方である」と丸毛氏は述べる。 改訂ガイドラインでは、英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)で示されたtreatable traitsが採用されており、「GERD」「喘息などの呼吸器系基礎疾患」「睡眠時無呼吸症候群」「肥満」「ACE阻害薬の服用」など、12項目が示されている。そのなかの1つに「咳過敏症」がある。これについて、丸毛氏は「慢性咳嗽の難治化の要因となる咳過敏症がtreatable traitsとして示されたのは非常に重要なことである。改訂ガイドラインは、非専門医の先生方にも個別化医療を実践しやすく作成されているため、ぜひ活用いただきたい」と述べ、ガイドラインの普及による咳嗽診療レベルの向上への期待を語った。選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサント」の登場 咳過敏症に対する初の分子標的薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント(商品名:リフヌア)である。咳のメカニズムの1つとして、P2X3受容体の関与がある。炎症や刺激により気道上皮細胞などから放出されたATPが、感覚神経に存在するP2X3受容体を刺激することで咳過敏性が亢進する。ゲーファピキサントはこれを抑制することで、咳嗽を改善させる。ゲーファピキサントは難治性の慢性咳嗽を改善するほか、日常生活や睡眠の質の改善も報告されている。 ゲーファピキサントは発売から3年以上が経過し、使用経験も積み重ねられている。改訂ガイドラインでも、フローチャートに難治性咳嗽の選択肢として掲載された。これについて、丸毛氏は「咳嗽は非専門医の先生方が多く診られているため、咳嗽の診療に慣れた先生であれば、非専門医であっても選択肢として提示可能であると判断され、ガイドラインにも記載されている」と説明した。 ゲーファピキサントには代表的な有害事象として、味覚に関連する有害事象があり、マネジメントが重要となる。そこで、味覚に関連する有害事象への対応について松本氏に聞いたところ「亜鉛が欠乏すると味覚障害が強くなりやすいため、亜鉛欠乏に注意することが必要である。また、後ろ向き研究ではあるが、麦門冬湯を併用していると味覚障害が軽かったというデータもあるため、麦門冬湯の併用も選択肢の1つになるのではないか」との回答が得られた。

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慢性蕁麻疹に最も効果的な治療薬は何?

 皮膚に強いかゆみを伴う隆起した膨疹(みみず腫れ)が生じる蕁麻疹のうち、発症後6週間以上が経過したものを慢性蕁麻疹という。このほど新たな研究で、慢性蕁麻疹のかゆみや腫れの軽減に最も効果的な治療法は、注射用抗体薬のオマリズマブと未承認の錠剤remibrutinib(レミブルチニブ)であることが示された。マクマスター大学(カナダ)医学部のDerek Chu氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology(JACI)」に7月15日掲載された。 蕁麻疹は、アレルギー反応の一環として皮膚の肥満(マスト)細胞がヒスタミンを放出することで生じる。ヒスタミンは血管の透過性を高め、毛細血管から血漿成分が皮膚に漏れ出すことで膨疹が現れる。 Chu氏らは今回、論文データベースから抽出した慢性蕁麻疹に対する全身性免疫調整薬による治療に関する93件の研究(対象者の総計1万1,398人、ランダム化比較試験83件、非ランダム化比較試験10件)を対象に、その安全性と有効性を比較検討した。これらの研究に含まれていた慢性蕁麻疹の治療法は42種類に及んだ。評価項目は、蕁麻疹活動スコア(かゆみおよび膨疹)、血管性浮腫の活動性、健康関連の生活の質(QOL)、および有害事象であった。 その結果、評価項目に対する有効性が最も高いとされた治療薬はオマリズマブ(4週おきに標準用量300mg)とremibrutinibであった。ただし、remibrutinibの安全性に関するエビデンスの確実性は低かった。また、注射薬のデュピルマブは、蕁麻疹活動性の抑制効果は認められたがQOLの改善効果は不明であり、血管性浮腫に対する効果は検討されていなかった。シクロスポリンは、蕁麻疹活動性の抑制に有効な可能性がある一方で、腎臓障害や高血圧などの有害事象の発生頻度が最も高まる可能性が示唆された。そのほか、アザチオプリン、ダプソン、ヒドロキシクロロキン、ミコフェノール酸、スルファサラジン、ビタミンDもアウトカム改善に有効な可能性が示唆された。一方、ベンラリズマブ、キリズマブ、テゼペルマブについては、有効性が確認されなかった。 Chu氏は、「慢性蕁麻疹に対する全ての先進的な治療選択肢を対象とした今回の初めての包括的な分析により、患者と臨床医が選択できる、明確でエビデンスに基づいた『治療選択肢のメニュー』を提示することが可能になった」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は蕁麻疹の治療に関する新たな国際臨床ガイドラインの作成に役立つだろう」と述べている。

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抗IL-5抗体は“好酸球性COPD”の増悪を抑制する(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 好酸球を集積する喘息などの疾患が併存しないにもかかわらずCOPDの20~40%において好酸球増多を伴うことが報告されている。今回、論評の対象とした論文では、以上のような特殊病態を好酸球性COPD(COPD with Eosinophilic Phenotype)と定義し、その増悪に対する生物製剤抗IL-5抗体(メポリズマブ)の効果を検証している。好酸球性COPDの本質は確定されていないが、本論文では、喘息とCOPDの合併であるACO(Asthma and COPD Overlap)に加え多くの好酸球性全身疾患(多発血管炎性肉芽腫症など)の関与を除外したCOPDの一亜型(表現型)と定義されている。COPDの歴史的変遷 COPDの現在に通ずる病態の議論が始まったのは1950年代であり、肺結核を中心とする感染性肺疾患を除いた慢性呼吸器疾患を総称してChronic Non-Specific Lung Disease(CNSLD)と定義された。1964年には閉塞性換気障害を呈する肺疾患に対してイギリス仮説(British Hypothesis)とアメリカ仮説(American Hypothesis)が提出された。イギリス仮説では閉塞性換気障害の本質を慢性気管支炎、アメリカ仮説ではその本質を肺気腫と考えるものであった。しかしながら、1975年、ACCPとATSの合同会議を経て慢性気管支炎と肺気腫を合わせて慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)として統一された。 一方、1960年に提出されたオランダ仮説(Dutch Hypothesis)では、喘息、慢性気管支炎、肺気腫の3病態を表現型が異なる同一疾患であると仮定された。オランダ仮説はその後数十年にわたり評価されなかったが、21世紀に入り、COPDにおける喘息の合併率が、逆に、喘息におけるCOPDの合併率が、一般人口における各病態の有病率より有意に高いことが示され、慢性の気道・肺胞病変にはオランダ仮説で示唆された第3の病態、すなわち、肺気腫、慢性気管支炎によって代表されるCOPDと喘息の重複病態が存在することが示唆された。COPDと喘息の重複病態は、2009年にGibsonらによって(Gibson PG, et al. Thorax. 2009;64:728-735.)、さらに2014年、GINA(喘息の国際ガイドライン)とGOLD(COPDの国際ガイドライン)の共同作業によってACOS(Asthma and COPD Overlap Syndrome)と命名されたが、その後、ACO(Asthma and COPD Overlap)と改名された。ACOは1960年に提出されたオランダ仮説と基本概念が類似する疾患概念だと考えることができる。 しかしながら、近年、喘息が併存しないにもかかわらず好酸球性炎症が病態形成に関与する“好酸球性COPD”なる新たな概念が提出され、その本質に関し積極的に解析が進められている(Yun JH, et al. J Allergy Clin Immunol. 2018;141:2037-2047.)。すなわち、現時点におけるCOPDの病型には、古典的な好中球性COPD(肺気腫、慢性気管支炎)に加え、喘息が合併した好酸球性COPD(ACO)ならびに喘息の合併を認めない非喘息性の好酸球性COPDが存在することになる。好酸球性COPDの分子生物学的機序 20世紀後半にはTh2(T Helper Cell Type 2)リンパ球とそれらが産生するIL-4、IL-5、IL-13が喘息病態に重要な役割を果たすことが示された(Th2炎症)。21世紀に入り2型自然リンパ球(ILC2:Group 2 Innate Lymphoid Cells)が上皮由来のIL-33、IL-25およびTSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)により活性化され、IL-5、IL-13を大量に産生することが明らかにされた。その結果、喘息の主病態は、“Th2炎症”から“Type2炎症”へと概念が拡大された。喘息患者のすべてがType2炎症を有するわけではないが、半数以上の喘息患者にあってType2炎症が主たる分子機序として作用する。Type2炎症にあって重要な役割を担うIL-4、IL-13は、STAT-6を介し気道上皮細胞における誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現を増強し、気道上皮において一酸化窒素(NO)を過剰に産生、呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)は高値を呈する。すなわち、FeNOはIL-4、IL-13に関連するType2炎症を、血中好酸球数は主としてIL-5に関連するType2炎症を、反映する臨床的指標と考えることができる。 好中球性炎症が主体であるCOPDにあって好酸球性炎症の重要性が初めて報告されたのは、慢性気管支炎の増悪時であった(Saetta M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1994;150:1646-1652.)。Saettaらは、ウイルス感染に起因する慢性気管支炎の増悪時に喀痰中の好酸球が約30倍増加することを示した。それ以降、COPD患者にあって増悪時ではなく安定期にもType2炎症経路が活性化され好酸球増多を伴う病態が存在することが報告された(Singh D, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2022;206:17-24.)。これが非喘息性の好酸球性COPDに該当するが、COPDにおいてType2炎症経路がいかなる機序を介して活性化されるのかは確実には解明されておらず、今後の詳細な検討が待たれる。好酸球性COPDに対する生物製剤の意義-増悪抑制効果 2025年のGOLDによると、血中好酸球数が300cells/μL以上で慢性気管支炎症状が強い好酸球性COPDにおいては、ICS、LABA、LAMAの3剤吸入を原則とするが、吸入治療のみで増悪を管理できない場合には抗IL-4/IL-13受容体α抗体(抗IL-4Rα抗体)であるデュピルマブ(商品名:デュピクセント)を追加することが推奨された。2025年現在、米国においては、抗IL-5抗体であるメポリズマブ(同:ヌーカラ)も好酸球性COPD治療薬として承認されている。一方、本邦にあっては、2025年3月にGOLDの推奨にのっとりデュピルマブが好酸球性COPD治療薬として承認された。 本論評で取り上げたSciurbaらの無作為化プラセボ対照第III相試験(MATINEE試験)では、世界25ヵ国344施設から、(1)40歳以上のCOPD患者(喫煙歴:10pack-years以上)で喘息など好酸球が関与する諸疾患の除外、(2)スクリーニングの1年前までにステロイドの全身投与が必要な中等症増悪を2回以上、あるいは1回以上の入院が必要な重篤な増悪の既往を有し、(3)ICS、LABA、LAMAの3剤吸入療法を少なくとも3ヵ月以上受け、(4)血中好酸球数が300cells/μL以上、の非喘息性の好酸球性COPD患者804例が集積された。これらの患者にあって、170例がメポリズマブを、175例が対照薬の投与を受け52週間(13ヵ月)の経過が観察された。さらに、メポリズマブ群に割り当てられた233例、対照薬群の226例は104週間(26ヵ月)の経過観察が施行された。Primary endpointは救急外来受診あるいは入院を要する中等症以上の増悪の年間発生頻度で、メポリズマブ群で0.80回/年であったのに対し対照群のそれは1.01回/年であり、メポリズマブ群で21%低いことが示された。 Secondary endpointとして中等症以上の増悪発生までの日数が検討されたが、メポリズマブ群で419日、対照群で321日と、メポリズマブ群で約100日長いことが示された。MATINEE試験の結果は、増悪が生命予後の重要な規定因子となる非喘息性の好酸球性COPDにあってICS、LABA、LAMAの3剤吸入に加え、生物製剤メポリズマブの追加投与が増悪に起因する死亡率を有意に低下させる可能性を示唆した点で興味深い。 現在、喘息に対する生物製剤には、本誌で論評したメポリズマブ(商品名:ヌーカラ、抗IL-5抗体)以外にオマリズマブ(同:ゾレア、抗IgE抗体)、ベンラリズマブ(同:ファセンラ、抗IL-5Rα抗体)、GOLDで好酸球性COPDに対する使用が推奨されたデュピルマブ(同:デュピクセント、抗IL-4Rα抗体)、テゼペルマブ(同:テゼスパイア、抗TSLP抗体)の5剤が存在する。これらの生物製剤にあって、少なくともベンラリズマブ、デュピルマブ、テゼペルマブはACOを含む好酸球性COPDの増悪抑制という観点からはメポリズマブと同等の効果(あるいは、それ以上の効果)を発揮するものと予想される。いかなる生物製剤が好酸球性COPD(ACOと非喘息性の好酸球性COPDを含む)の生命予後を改善するのに最も適しているのか、今後のさらなる検討を期待したい。

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COPD初の生物学的製剤デュピルマブへの期待/サノフィ

 サノフィは、2025年3月27日にデュピルマブ(商品名:デュピクセント)について、製造販売承認事項一部変更承認を取得し、「慢性閉塞性肺疾患(既存治療で効果不十分な患者に限る)」の適応が追加となった。この適応追加により、デュピルマブは慢性閉塞性肺疾患(COPD)に適応を有する初の生物学的製剤となった。 COPD治療の中心は、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)といった気管支拡張薬である。LAMA+LABAで効果不十分かつ血中好酸球数高値の患者や、喘息病態を合併する患者には、吸入ステロイド薬(ICS)を追加した3剤併用療法(トリプル療法)が用いられることもあるが、それでも症状の残存や増悪を繰り返す患者が存在し、新たな治療選択肢が求められていた。 そこで、サノフィは2025年5月29日にデュピルマブのCOPD適応追加に関するプレスセミナーを開催し、COPD患者が直面する課題や、デュピルマブがCOPDの治療選択肢として追加されたことの意義や期待を紹介した。中等症以上の約9割が日常生活に負担 サノフィは、COPD患者の日常生活における身体的および精神的な負担についての理解を深めることを目的として、吸入薬による治療を行っている40~80代のCOPD患者200例を対象に「日常生活における身体的・精神的負担に関する意識実態調査」を実施した(調査実施:エム・シー・アイ)。本調査結果をサノフィの石田 稚人氏(免疫領域メディカル統括部 呼吸器領域部長)が紹介した。 日常生活における身体的負担に関する調査項目では、COPDにより何らかの身体的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では93.1%、軽症では70.7%にのぼった。最も多く挙げられたものは階段の上り下りであったが、中等症以上では歩行や掃除、買い物、入浴といった基本的な日常動作にまで影響が及んでいた。 精神的負担に関する調査項目では、精神的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では87.9%、軽症でも60.0%であり、こちらも多くの患者が負担を有していることが明らかとなった。負担を感じるようになったきっかけとしては、「できていた動作がしんどくなってきた」が最も多く、「医師から良くならない病気だと言われた」が続いた。この2つで過半数を占める結果となった。また、精神的負担への対応方法として「考えないようにする」などの回避的な対応をする傾向もみられた。 症状の認識に関する調査項目では、何らかの症状悪化(増悪)経験がある患者の割合が、中等症以上では74.1%、軽症では61.3%であった。増悪については、約8割が主治医にその状況を伝えていた。しかし、「伝えたが、治療は変わらなかった」と回答した割合が、中等症以上では46.5%、軽症では39.1%にのぼった。なお、本調査では具体的な治療薬については調べていないため、すでにLAMA+LABA+ICSによる治療を行っているなど、治療の強化ができない患者も含まれている可能性があることには留意が必要である。 本調査結果について、石田氏は「COPD患者は大きな身体的、精神的負担を抱えながらも適切な支援を受けられていない実態があることが示された。とくに精神的負担への対応が不十分であり、相談できる環境の整備が急務である。増悪への患者の認識が不足していることも示され、患者教育の強化が必要であることも明らかとなった。そのため、これらの課題に対して実施できることを考えていく必要がある」とまとめた。COPDの診断率は低く、死亡者数は増加傾向に 続いて、室 繁郎氏(奈良県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)が、COPDの社会的・臨床的課題、デュピルマブの有用性と期待について解説した。 COPDの推定患者数は530万例とされるが、実際に治療を受けている患者数は36.2万例にとどまっているという報告がある。これについて、室氏は「見逃されているうちに進行し、重症化してから初めてCOPDと診断される場合があり、これは社会的な問題として捉えられている」と述べる。COPDによる死亡者数についても、2020年以降は徐々に増加する傾向にあり、2023年のCOPDによる死亡者数は1万6,941例、死亡率は10万例当たり14.0例と報告されている。 以上の背景から、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本方針である「健康日本21(第3次)」において、COPDは重要な生活習慣病の1つとして位置付けられ、2032年までにCOPDによる死亡率を減少させるという目標が設定されている。そこで、日本呼吸器学会では「木洩れ陽2032(COPD Mortality Reduction By 2032)」というプロジェクトを展開している。本プロジェクトは、COPDの認知を向上させることや、COPDを見逃さずに早期発見し、適切に治療介入することで、COPDによる死亡率を減少させることを目的としている。トリプル療法でも約半数が効果不十分 喘息病態非合併例では、LAMA+LABAによる治療でも頻回の増悪がみられ、かつ末梢血好酸球増多がみられる場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。また、喘息病態合併例では、ICS+LABAやICS+LAMAによる治療でも症状が悪化したり増悪がみられたりする場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。しかし、トリプル療法を行っても効果不十分な患者が存在し、その割合は51%にのぼるという調査結果も存在する。トリプル療法に加えて、マクロライド系抗菌薬やテオフィリン製剤、喀痰調整薬の追加が検討されることもあるが、十分な効果が見込めるとは限らず、これらの患者にはアンメットニーズが存在していた。そこで登場したのがデュピルマブである。2型炎症を有するCOPDの増悪抑制、呼吸機能改善 近年、COPDにおける2型炎症が注目されている。2型炎症は、主に2型ヘルパーT細胞や2型自然リンパ球が産生するIL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが関与するアレルギー性の炎症である。COPD患者のなかには、2型炎症を伴う患者や、喘息病態を合併する患者、アレルギー性鼻炎を合併する患者が、一定数存在すると報告されている。 デュピルマブは、2型炎症に関与するIL-4、IL-13受容体に対する抗体製剤であり、血中好酸球数高値(300/μL超)でLAMA+LABA+ICSで効果不十分なCOPD患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「BOREAS試験」1)において有用性が検証され、COPDに対する適応が追加となった。 BOREAS試験では、主要評価項目の中等度または重度のCOPD増悪イベントの年間発現率が、プラセボ群では1.113回/年であったのに対し、デュピルマブ群では0.788であり、デュピルマブ群が有意に改善した(リスク比:0.708、95%信頼区間:0.583~0.861、p=0.0005)。 重要な副次評価項目の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)の変化量は、12週時においてそれぞれ75mL、155mLであり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0002)。この改善は52週時においても保たれていた。なお、155mLという値について、室氏は「治療開始前の1割強の改善に当たる」と意義の大きさを指摘した。 また、COPD患者のQOLの指標であるSGRQ総スコアの変化量(52週時)は、それぞれ-6.463、-9.710であり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0026)。なお、臨床的に意義のある変化量とされる4以上の改善を示した割合は、それぞれ43.4%、51.2%であり、こちらもデュピルマブが有意に高率であった(p=0.0171)。 安全性に関しては、プラセボ群と大きな差はみられず、新たな懸念は認められなかった。 以上を踏まえて、室氏は「COPDは、過去10年間新薬が登場していなかった領域であり、最新の治療であるトリプル療法でもコントロール不十分の患者が多数存在していた。このような患者に対して、デュピルマブの有効性が示されており、リアルワールドでもベネフィットを届けていきたい」とデュピルマブへの期待を示して講演を締めくくった。

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コントロール不良の軽症喘息、albuterol/ブデソニド配合薬の頓用が有効/NEJM

 軽症喘息に対する治療を受けているが、喘息がコントロールされていない患者において、albuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる)単独の頓用と比較してalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用は、重度の喘息増悪のリスクが低く、経口ステロイド薬(OCS)の年間総投与量も少なく、有害事象の発現は同程度であることが、米国・North Carolina Clinical ResearchのCraig LaForce氏らBATURA Investigatorsが実施した「BATURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月19日号に掲載された。遠隔受診の分散型無作為化第IIIb相試験 BATURA試験は、軽症喘息に推奨される薬剤による治療を受けているが喘息のコントロールが不良な患者における固定用量のalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化イベント主導型・分散型第IIIb相比較試験であり、2022年9月~2024年8月に米国の54施設で参加者を登録した(Bond Avillion 2 DevelopmentとAstraZenecaの助成を受けた)。本試験は、Science 37の遠隔診療プラットフォームを用い、すべての受診を遠隔で行った。 年齢12歳以上で、短時間作用型β2刺激薬(SABA)単独またはSABA+低用量吸入ステロイド薬あるいはロイコトリエン受容体拮抗薬の併用療法による軽症喘息の治療を受けているが、喘息のコントロールが不良な患者を対象とした。 これらの参加者を、albuterol(180μg)/ブデソニド(160μg)配合薬(それぞれ1吸入当たり90μg+80μgを2吸入)またはalbuterol単独(180μg、1吸入当たり90μgを2吸入)の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で52週間投与した。 主要エンドポイントは、on-treatment efficacy集団(無作為化された治療の中止前、維持療法の強化前に収集した治療期間中のデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、time-to-event解析を行った。重度の喘息増悪は、症状の悪化によるOCSの3日間以上の使用、OCSを要する喘息による救急診療部または緊急治療のための受診、喘息による入院、死亡とし、治験責任医師によって確認された記録がある場合と定義した。 主な副次エンドポイントはITT集団(on-treatment efficacy集団のようなイベント[治療の中止や強化]を問わず、すべてのデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、副次エンドポイントは重度の喘息増悪の年間発生率と、OCSへの曝露とした。年齢18歳以上でも、2集団でリスクが低下 解析対象は2,421例(平均[±SD]年齢42.7±14.5歳、女性68.3%)で、albuterol/ブデソニド群1,209例、albuterol単独群1,212例であった。全体の97.2%が18歳以上で、ベースラインで74.4%がSABA単独を使用していた。事前に規定された中間解析で、本試験は有効中止となった。 重度の喘息増悪は、on-treatment efficacy集団ではalbuterol/ブデソニド群の5.1%、albuterol単独群の9.1%(ハザード比[HR]:0.53[95%信頼区間[CI]:0.39~0.73]、p<0.001)に、ITT集団ではそれぞれ5.3%および9.4%(0.54[0.40~0.73]、p<0.001)に発生し、いずれにおいても配合薬群で有意に優れた。 また、年齢18歳以上に限定しても、2つの集団の双方で重度の喘息増悪のリスクがalbuterol/ブデソニド群で有意に低かった(on-treatment efficacy集団:6.0%vs.10.7%[HR:0.54、95%CI:0.40~0.72、p<0.001]、ITT集団:6.2%vs.11.2%[0.54、0.41~0.72、p<0.001])。 さらに、年齢12歳以上のon-treatment efficacy集団における重度の喘息増悪の年間発生率(0.15vs.0.32、率比:0.47[95%CI:0.34~0.64]、p<0.001)およびOCSの年間総投与量の平均値(23.2vs.61.9mg/年、相対的群間差:-62.5%、p<0.001)は、いずれもalbuterol/ブデソニド群で低い値を示した。約60%がソーシャルメディア広告で試験に参加 頻度の高い有害事象として、上気道感染症(albuterol/ブデソニド群5.4%、albuterol単独群6.0%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(5.2%、5.5%)、上咽頭炎(3.7%、2.6%)を認めた。 重篤な有害事象は、albuterol/ブデソニド群で3.1%、albuterol単独群で3.1%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ1.2%、2.7%、治療関連有害事象は4.1%、4.0%にみられた。治療期間中に2つの群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験薬および喘息との関連はないと判定された。 著者は、「分散型試験デザインは患者と研究者の双方にとってさまざまな利点があるが、患者が費用負担を避けることによる試験中止のリスクがあり、本試験では参加者の約19%が追跡不能となった」「特筆すべきは、参加者の約60%がソーシャルメディアの広告を通じて募集に応じており、近隣の診療所や地元で募集した参加者のほうが試験参加を維持しやすい可能性があるため、これも試験中止率の上昇につながった可能性がある」「青少年の参加が少なく、今回の知見のこの年齢層への一般化可能性には限界がある」としている。

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咳嗽・喀痰の診療ガイドライン改訂、新規治療薬の位置付けは?/日本呼吸器学会

 咳嗽・喀痰の診療ガイドラインが2019年版以来、約6年ぶりに全面改訂された。2025年4月に発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』1)では、9つのクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、初めてMindsに準拠したシステマティックレビューが実施された。今回設定された咳嗽・喀痰の診療ガイドラインのCQには、難治性慢性咳嗽に対する新規治療薬ゲーファピキサントを含むP2X3受容体拮抗薬に関するCQも含まれている。また、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』は、治療可能な特性を個々の患者ごとに見出して治療介入するという考え方である「treatable traits」がふんだんに盛り込まれていることも特徴である。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』に関するセッションが開催され、咳嗽セクションのポイントについては新実 彰男氏(大阪府済生会茨木病院/名古屋市立大学)が、喀痰セクションのポイントについては金子 猛氏(横浜市立大学大学院)が解説した。咳嗽・喀痰の診療ガイドラインで喘息3病型を「喘息性咳嗽」に統一 咳嗽の治療薬について、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』では「咳嗽治療薬の分類」の表(p.38、表2)が追加され、末梢性鎮咳薬としてP2X3受容体拮抗薬が一番上に記載された。また、中枢性と末梢性をまたぐ形で、ニューロモデュレーター(オピオイド、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンが含まれるが、保険適用はモルヒネのみ)が記載された。さらに、今回の咳嗽・喀痰の診療ガイドラインからは疾患特異的治療薬に関する表も追加された(p.38、表3)。咳喘息について、前版では気管支拡張薬を用いることが記載されていたが、改訂版の疾患特異的治療薬に関する表では、β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が記載された。なお、抗コリン薬が含まれていない理由について、新実氏は「抗コリン薬は急性ウイルス感染や感染後の咳症状などに効果があるというエビデンスもあり、咳喘息に特異的ではないためここには記載していない」と述べた。 咳症状の観点による喘息の3病型として、典型的喘息、咳優位型喘息、咳喘息という分類がなされてきた。しかし、この3病型には共通点や連続性が存在し、基本的な治療方針も変わらないことから、1つにまとめ「喘息性咳嗽」という名称を用いることとなった。ただし、狭義の慢性咳嗽には典型的喘息、咳優位型喘息を含まないという歴史的背景があり、咳だけを呈する喘息患者の存在が非専門医に認識されるためには「咳喘息」という名称が有用であるため、フローチャートでの記載や診断基準は残している。 咳喘息の診断基準について、今回の咳嗽・喀痰の診療ガイドライン改訂では3週間未満の急性咳嗽では安易な診断により過剰治療にならないように注意することや、β2刺激薬は咳喘息でも無効の場合があるため留意すべきことが記されている。後者について新実氏は「β2刺激薬に効果がみられない場合は咳喘息を否定するという考えが見受けられるため、注意喚起として記載している」と指摘した。 喘息性咳嗽について、前版では軽症例には中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤で治療することが記載されていたが、喘息治療においてはICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)が基本となるため、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』でも中用量ICS/LABAを基本とすることが記載された。ただし、ICS+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やICS+LTRA、中用量ICS単剤も選択可能であることが記載された。また、本ガイドラインの特徴であるtreatable traitsを考慮しながら治療を行うことも明記されている。 胃食道逆流症(GERD)については、GERDを疑うポイントとしてFSSG(Fスケール)スコア7点以上、HARQ(ハル気道逆流質問票)スコア13点以上が追加された。また、治療についてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とアルギン酸が追加されたほか、treatable traitsへの対応を十分に行わないと改善しにくいことも記載されている。咳嗽・喀痰の診療ガイドラインでのゲーファピキサントの位置付けは 難治性慢性咳嗽は、治療抵抗性慢性咳嗽(Refractory Chronic Cough:RCC)、原因不明慢性咳嗽(Unexplained Chronic Cough:UCC)からなることが記されている。本邦では、RCC/UCCに適応のある唯一の治療薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬のゲーファピキサントである。咳嗽・喀痰の診療ガイドラインでは、RCC/UCCに対するP2X3受容体拮抗薬に関するCQが設定され、システマティックレビューの結果、ゲーファピキサントはLCQ(レスター咳質問票)合計スコア、咳VASスコア、24時間咳嗽頻度を低下させることが示された。ガイドライン作成委員の投票の結果、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])こととなった。 慢性咳嗽のtreatable traitsとして、気道疾患、GERD、慢性鼻副鼻腔炎などの12項目が挙げられている。このなかの1つとして、咳過敏症も記載されている。慢性咳嗽患者の多くはtreatable traitsとしての咳過敏症も有しており、このことを見過ごして行われる原因疾患のみの治療は、しばしば不成功に終わることが強調されている。新実氏は「原因疾患に対する治療をしたうえで、P2X3受容体拮抗薬により咳過敏症を抑えることで咳嗽をコントロールできる患者も実際にいるため、理にかなっているのではないかと考えている」と述べた。喀痰診療に関するガイドラインとして世界唯一 前版のガイドラインは、世界初の喀痰診療に関するガイドラインとして作成されたが、6年ぶりの改訂となる『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』も世界唯一のガイドラインであると金子氏は述べる。 喀痰に関するエビデンスは少なく、前版の作成時には、とくに国内のデータが不足していた。そこで、咳嗽・喀痰の診療ガイドライン改訂に向けてエビデンス創出のために多施設共同研究を3研究実施し(1:血痰と喀血の原因疾患、2:膿性痰の色調と臨床背景、3:急性気管支炎に対する抗菌薬使用実態)、血痰と喀血の原因疾患に関する研究の成果が英語論文として2件報告されたことから、それらのデータが追加された。 血痰と喀血の原因疾患として、前版では英国のプライマリケアのデータが引用されていた。このデータは海外データかつプライマリケアのデータということで、本邦の呼吸器専門施設で遭遇する疾患とは異なる可能性が考えられていた。そこで、国内において呼吸器専門施設での原因を検討するとともに、プライマリケアでの原因も調査した。 本邦での調査の結果、プライマリケアでの血痰と喀血の原因疾患の上位4疾患は急性気管支炎(39%)、急性上気道感染(15%)、気管支拡張症(13%)、COPD(7.8%)であり2)、英国のプライマリケアのデータ(1位:急性上気道感染[35%]、2位:急性下気道感染[29%]、3位:気管支喘息[10%]、4位:COPD[8%])と上位2疾患は急性気道感染という点、4位がCOPDという点で類似していた。 一方、本邦の呼吸器専門施設での血痰と喀血の原因疾患の上位3疾患は、気管支拡張症(18%)、原発性肺がん(17%)、非結核性抗酸菌(NTM)症(16%)であり、プライマリケアでの原因疾患とは異なっていた。また「呼吸器専門施設では年齢によって、原因疾患が大きく異なることも重要である」と金子氏は指摘する。たとえば、20代では細菌性肺炎が多く、30代では上・下気道感染、気管支拡張症が約半数を占め、40~60代では肺がんが多くなっていた。70代以降では肺がんは1位にはならず、70代はNTM症、80代では気管支拡張症、90代では細菌性肺炎が最も多かった3)。また、80代以降では結核が上位にあがって来ることも注意が必要であると金子氏は指摘した。近年注目される中枢気道の粘液栓 最近のトピックとして、閉塞性肺疾患における気道粘液栓が取り上げられている。米国の重症喘息を対象としたコホート研究「Severe Asthma Research program」において、中枢気道の粘液栓が多発していることが2018年に報告され、その後COPDでも同様な病態があることも示されたことから注目を集めている。粘液栓形成の程度は粘液栓スコアとして評価され、著明な気流閉塞、増悪頻度の増加、重症化や予後不良などと関連していることも報告されており、バイオマーカーとして期待されている。ただし、課題も存在すると金子氏は指摘する。「評価にはMDCT(multidetector row CT)を用いて、一つひとつの気管支をみていく必要があり、現場に普及させるのは困難である。そのため、現在はAIを用いて粘液スコアを評価するなど、さまざまな試みがなされている」と、課題や今後の期待を述べた。『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』のCQまとめ 『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』におけるCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。【CQ一覧】<咳嗽>CQ1:ICSを慢性咳嗽患者に使用すべきか慢性咳嗽患者に対してICSを使用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ2:プロトンポンプ阻害薬(PPI)をGERDによる咳嗽患者に推奨するかGERDによる咳嗽患者にPPIを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ3-1:抗コリン薬は感染後咳嗽に有効か感染後咳嗽に吸入抗コリン薬を勧めるだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ3-2:抗コリン薬は喘息による咳嗽に有効か喘息による咳嗽に吸入抗コリン薬を弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ4:P2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効かP2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効であり、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])<喀痰>CQ5:COPDの安定期治療において喀痰調整薬は推奨されるかCOPDの安定期治療において喀痰調整薬の投与を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ6:COPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与は有効かCOPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与することを弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])CQ7:喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法は推奨されるか喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法の推奨度決定不能である(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ8:気管支拡張症(BE)に対してマクロライド少量長期療法は推奨されるかBEに対してマクロライド少量長期療法を強く推奨する(エビデンスの確実性:A[強い])

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喘息治療における吸入薬投与の最適なタイミングとは

 喘息患者は、1日1回の吸入ステロイド薬を遅めの午後に使用することで、夜間の症状を効果的にコントロールできる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英マンチェスター大学のHannah Jane Durrington氏らによるこの研究結果は、「Thorax」に4月15日掲載された。 薬物投与のタイミングを体内時計に合わせる治療法はクロノセラピー(時間治療)と呼ばれ、薬の治療効果を高めることが期待されている。Durrington氏らによると、喘息には明確な日内リズムがあり、気流閉塞と気道炎症の主要な影響は夜間にピークに達する。実際、致死的な喘息発作の約80%は夜間に発生しているという。 このことを踏まえてDurrington氏らは、25人の喘息患者を対象にランダム化クロスオーバー試験を実施し、クロノセラピーの効果を検討した。対象患者は、吸入ステロイド薬のベクロメタゾンプロピオン酸エステルを、以下の3通りの投与法でランダムな順序で投与した。1)午前8〜9時の間に400μgを1日1回投与(午前投与)、2)午後3〜4時の間に400μgを1日1回投与(午後投与)、3)午前8〜9時の間と午後8〜9時の間の2回に分けて200μgずつ投与(2回投与)。投与期間は28日であり、各投与法の間には2週間のウォッシュアウト期間を設けた。 25人中21人が全ての投与法を完了した。治療により肺機能は全ての投与法でベースラインより改善していたが、改善のタイミングは投与法により異なり、午後10時のFEV1(1秒量)については、午後投与での改善が最も大きかった。FEV1とは、最大限に息を吸った後、できるだけ強く、速く息を吐き出した際の最初の1秒間の呼出量のこと。具体的には、午後投与では中央値で160mLの改善が認められたのに対し、2回投与では中央値で80mLの改善にとどまっており、午前投与では中央値で−20mLと改善は認められなかった。また、午後投与は夜間(午後10時と午前4時)の血中好酸球数の抑制に最も効果的だった。好酸球の増加は、気道の炎症や過敏性、狭窄の原因として知られている。 研究グループは、「これらの結果は、人の体内時計に合わせて投与のタイミングを調整するクロノセラピーの有効性を裏付けるものだ」と述べている。研究グループは、喘息の症状に関連する炎症の連鎖は午後半ばに始まる傾向があり、そのときに予防的な吸入薬を投与すると効果が高まる可能性がある」と指摘している。 一方、本論文の付随論評では、午後投与では肺機能と好酸球数の点で臨床的に重要な違いが確認されたものの、全体的な症状のコントロールが優れていたとは言えないことが指摘されている。ただし、それは対象者数の少なさと追跡期間の短さが原因である可能性はある。付随論評の著者の1人である英キングス・カレッジ・ロンドンのRichard Edward Russell氏は、「これらの研究結果を臨床実践に応用する場合、最大の課題は喘息治療の遵守になるだろう。一般人口の約30~40%が吸入ステロイド薬を指示通りに使用することに苦労している現状を考えると、使用時間を限定することは事態をさらに複雑にする可能性がある」と述べている。 研究グループは、本研究で確認された吸入ステロイド薬の投与のタイミングが夜間の発作に与える影響を確認するために、より大規模な試験の実施を推奨している。

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