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高用量MTX療法中のST合剤継続を発見し、重篤な副作用を予防【うまくいく!処方提案プラクティス】第69回

 今回は、病棟研修での処方提案の一例を紹介します。Tリンパ芽球性リンパ腫に対する高用量メトトレキサート(MTX)療法中に、ニューモシスチス肺炎予防目的のスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠が継続投与されていることに気付き、能動的に処方調整を提案しました。がん化学療法では、支持療法として開始された薬剤が治療変更時にも継続され、重大な薬物相互作用を引き起こすリスクがあるため注意が必要です。患者情報36歳、女性(入院)基礎疾患Tリンパ芽球性リンパ腫治療経過:Hyper-CVAD療法※継続中(3コース目)※Hyper-CVAD療法:悪性リンパ腫に対する強力な多剤併用化学療法主な使用薬剤:シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメタゾンビンクリスチン投与による末梢神経障害のモニタリング中MA療法※として高用量MTXを投与(地固め療法)※MA療法:MTX+シタラビン薬学的管理開始時の処方内容:1.ランソプラゾール錠15mg 1錠 分1 朝食後2.スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後(調節)4.ピコスルファート内用液(レスキュー) 適宜自己調節他科受診・併用薬特記事項なし本症例のポイント介入2日前にMA療法として高用量MTX療法が開始されました。介入当日(MTX投与Day3)、前回のHyper-CVAD療法による末梢神経障害の評価および排便コントロール状況の確認のため病室を訪問しました。薬歴確認中に、高用量MTX投与中にもかかわらず、ニューモシスチス肺炎予防目的のスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠(ST合剤) 1錠/日が継続投与されていることを発見しました。MTXとST合剤はともに葉酸代謝拮抗作用を有し、併用により相加的に作用が増強します。スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠添付文書1)およびMTX添付文書2)において両剤の併用は「併用注意」とされ、以下のリスクが記載されています。(1)MTXの作用が増強スルファメトキサゾール・トリメトプリムとMTXは共に葉酸代謝阻害作用を有するため、MTXの作用を増強し、汎血球減少を引き起こす可能性があります。(2)骨髄抑制などの重篤な副作用リスク高用量MTX療法は、投与72時間のMTX血中濃度が1×10-7モル濃度未満になるまでロイコボリン救援療法※が必要となります。この期間中のST合剤併用は葉酸代謝阻害を相加的に増強し、骨髄抑制、肝・腎障害、粘膜障害などの重篤な副作用を引き起こすリスクが高まります。※ロイコボリン救援療法:MTXの葉酸代謝拮抗作用を中和し、正常細胞を保護する目的で投与本症例では、スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠はニューモシスチス肺炎予防の投与量(1錠/日)でしたが、MTX投与後48時間(Day3)であり、MTXの血中濃度が依然として高値を維持している可能性がありました。この時点のST合剤継続は、たとえ予防用量であっても相互作用により骨髄抑制などを引き起こす可能性があると考えました。医師への提案と経過MTX投与Day3の時点で、主治医に以下の内容について病棟カンファレンスにて情報提供を行いました。【現状報告】高用量MTX療法Day3の時点でスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠が継続投与されている。MTX血中濃度が依然高値を維持している可能性がある。【懸念事項】MTXとST合剤の併用により葉酸代謝拮抗作用が相加的に増強する。骨髄抑制、肝・腎障害、粘膜障害のリスクが増大する。高用量MTX療法に対するロイコボリン救援療法が増量・延長するなどの影響がある。【提案内容】1.スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠を休薬する。2.MTX血中濃度が安全域まで低下したことを確認してから再開を検討する(Day5で判断)。主治医よりスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠の休薬指示を受け、翌日より休薬しました。MTX血中濃度を適切にモニタリングしながら、ロイコボリン救援療法は計画どおり実施されました。Day4(MTX投与72時間後)にMTX血中濃度が0.1μmol/L未満であることを確認後、Day5(MTX投与96時間後)からスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠によるニューモシスチス肺炎予防を再開しました。その後、重篤な骨髄抑制、肝・腎機能障害、粘膜障害の発現はなく経過し、安全に高用量MTX療法を完遂することができました。予防的スルファメトキサゾール・トリメトプリムはMTX曝露増加につながる可能性があるものの、骨髄抑制、急性腎障害(AKI)、肝毒性の発生率には影響しないという報告3)もあるため、今後の症例介入で生かしていきたいと考えています。参考文献1)バクトラミン配合錠添付文書(相互作用の項)2)メトトレキサート点滴静注液添付文書(併用禁忌・併用注意の項)3)Xu Q, et al. Ann Hematol. 2025;104:457-465.

2.

免疫療法の対象とならない進行TN乳がん1次治療、Dato-DXdがPFSとOSを延長(TROPION-Breast02)/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)が化学療法に比べ有意に全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を延長したことが第III相TROPION-Breast02試験で示された。シンガポール・National Cancer Center SingaporeのRebecca Dent氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない未治療の局所再発切除不能/転移TNBC・試験群:Dato-DXd(3週ごと6mg/kg点滴静注)323例・対照群:治験責任医師選択化学療法(ICC)(nab-パクリタキセル、カペシタビン、エリブリン、カルボプラチンから選択)321例・評価項目:[主要評価項目]OS、盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2025年8月25日)の追跡期間中央値は27.5ヵ月で、PFSイベントが63%に、OSイベントは54%で発生していた。被験者の再発までの期間(DFI)別の割合は、de novoが34%、0~12ヵ月が21%(0~6ヵ月は15%)、12ヵ月超が約45%であった。・BICRによるPFS中央値は、Dato-DXd群が10.8ヵ月とICC群(5.6ヵ月)より有意に延長した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.47~0.69、p<0.0001)。この傾向は、臨床的に重要なサブグループで一貫していた。・OS中央値は、Dato-DXd群が23.7ヵ月でICC群18.7ヵ月より5ヵ月延長し、有意に延長した(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)。この傾向はほとんどのサブグループで一貫していた。・BICR評価によるORRは、Dato-DXd群が62.5%とICC群(29.3%)の2倍以上、完全奏効率(CR)は3倍以上であった。この傾向はすべてのサブグループで一貫していた。・DOR中央値は、Dato-DXd群12.3ヵ月、ICC群7.1ヵ月であった。・治療期間中央値は、Dato-DXd群(8.5ヵ月)がICC群(4.1ヵ月)の2倍以上だったが、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は両群で同程度であり、中止率はICC群より低かった。Dato-DXd群の主なTRAEはドライアイ、口内炎、悪心であった。 Rebecca Dent氏は「本試験の結果は、免疫療法の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるTNBC患者における新たな1次治療の標準治療としてDato-DXdを支持する」と結論した。

3.

免疫療法の対象とならない進行TN乳がんの1次治療、SGがPFS延長(ASCENT-03)/ESMO2025

 PD-1/PD-L1阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、サシツズマブ ゴビテカン(SG)が化学療法より有意な無増悪生存期間(PFS)の延長と持続的な奏効をもたらしたことが、第III相ASCENT-03試験で示された。スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。なお、本結果はNEJM誌オンライン版2025年10月18日号に掲載された。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:PD-1/PD-L1阻害薬投与対象外(PD-L1陰性、PD-L1陽性でPD-1/PD-L1阻害薬の治療歴あり、併存疾患により不適格)で未治療(治療歴がある場合は6ヵ月以上無治療)の局所進行切除不能/転移TNBC患者・試験群:SG(21日サイクルの1日目と8日目に10mg/kg点滴静注)279例・対照群:化学療法(パクリタキセルもしくはnab-パクリタキセルもしくはゲムシタビン+カルボプラチン)279例、病勢進行後クロスオーバー可・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、BICRによる奏効率(ORR)・奏効期間(DOR)・奏効までの期間、安全性、QOL 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2025年4月2日)時における追跡期間中央値は13.2ヵ月、349例にPFSイベントが発生していた。患者の地域別の構成は米国/カナダ/西ヨーロッパが32%、その他が68%であった。・主要評価項目であるBICRによるPFSは、SG群が化学療法群に比べて有意に改善した(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.50~0.77、p<0.0001、中央値:9.7ヵ月vs.6.9ヵ月)。このベネフィットは、事前に規定された主要なサブグループで一貫して認められた。・ORRは、SG群が48%、化学療法群が46%と同程度であったが、DOR中央値はSG群(12.2ヵ月)が化学療法群(7.2ヵ月)より長かった。・OSは今回の解析ではimmatureであった。HRは0.98で、中央値はSG群で21.5ヵ月、化学療法群で20.2ヵ月であった。・PFS2(ランダム化から後続治療後の病勢進行/死亡までの期間)中央値は、SG群(18.2ヵ月)が化学療法群(14ヵ月)より長く、HRは0.70(95%CI:0.55~0.90)であった。・Grade3以上の治療関連TEAEは、SG群61%、化学療法群53%であった。TEAEによる治療中止割合は、SG群4%、化学療法群12%、減量に至った割合は、SG群で37%、化学療法群で45%であった。治療関連死はSG群で6例(すべて感染症による死亡)、化学療法群で1例報告された。・SGの有害事象は既知の安全性プロファイルと一致しており、Grade3以上の発現割合は好中球減少が43%、下痢が9%であった。 Javier Cortes氏は「本試験のデータは、PD-1/PD-L1阻害薬を投与できない未治療の転移TNBC患者における新たな標準治療の可能性としてSGを支持する」と結論した。

4.

小細胞肺がん1次治療、タルラタマブ上乗せで1年OS率80.6%(DeLLphi-303)/ESMO2025

 PS0/1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬、およびPD-L1阻害薬単剤による維持療法である。この標準治療による全生存期間(OS)中央値は12~15ヵ月と報告されており、さらなる治療成績の向上を目的として、タルラタマブの上乗せが検討されている。1次治療でのタルラタマブの安全性・有効性を検討する国際共同第Ib試験「DeLLphi-303試験」では、タルラタマブの上乗せ方法の1つとして、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬を1サイクル実施後にタルラタマブを上乗せし、維持療法にもタルラタマブを上乗せする治療法が検討されている(パート2、4、7)。その結果、タルラタマブ開始後のOS中央値は未到達、1年OS率80.6%と良好な治療成績が示されたことが、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)でMartin Wermke氏(ドイツ・ドレスデン工科大学)により報告された。DeLLphi-303試験パート2、4、7の概要試験デザイン:国際共同第Ib相試験対象:1次治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬の併用療法を1サイクル実施したED-SCLC患者96例投与方法:タルラタマブ(20mg、3週ごと)+プラチナ製剤(カルボプラチンAUC5、各サイクルのday1)+エトポシド(100mg/m2、各サイクルのday1~3)+PD-L1阻害薬(アテゾリズマブ1,200mgまたはデュルバルマブ1,500mg、3週ごと)を3サイクル→タルラタマブ(同)+PD-L1阻害薬(同)を病勢進行まで評価項目:[主要評価項目]用量制限毒性、治療中に発現した有害事象(TEAE)、治療関連有害事象(TRAE)[副次評価項目]OS、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)など 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は63.0歳(範囲:37~86)、男性の割合は67%、PS1の割合は55%であった。ベースライン時に脳転移、肝転移を有していた割合はそれぞれ16%、45%であった。標的病変の径の和の中央値は82.3mmであった。PD-L1阻害薬の内訳はアテゾリズマブ56例、デュルバルマブ40例であった。・追跡期間中央値13.8ヵ月時点における治療期間中央値は46週(四分位範囲:14~60)であった。・用量制限毒性は3例(いずれもアテゾリズマブ使用集団)に認められた。・Grade3、4のTRAEの発現割合は、それぞれ43%、35%であった。死亡に至ったTRAEは1例報告された(カルボプラチン+エトポシドに関連する敗血性ショックと判定)。・タルラタマブの中止に至ったタルラタマブに関連するTRAEは6%に発現した。・サイトカイン放出症候群(CRS)のほとんどがサイクル1に発現し、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)はすべてサイクル1に発現した。これらのほとんどはGrade1/2であった。・タルラタマブ開始時を基準としたORRは71%(CRは5%)で、DOR中央値は11.0ヵ月であった。DCRは82%であった。・タルラタマブ開始後のOS中央値は未到達で、1年OS率は80.6%であった。・同様に、PFS中央値は10.3ヵ月であり、1年PFS率は43.1%であった。 本試験結果について、Wermke氏は「ED-SCLCの1次治療におけるプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、管理可能な安全性プロファイルと生存に関する有望な成績を示した。これは、タルラタマブ上乗せの有用性を標準治療との比較により検証する国際共同第III相試験『DeLLphi-312試験』の実施を支持する結果である」とまとめた。

5.

HER2+早期乳がんの術前療法、T-DXd→THPが標準治療を上回るpCR率(DESTINY-Breast11)/ESMO2025

 DESTINY-Breast11試験において、再発リスクの高いHER2陽性(+)早期乳がん患者の術前療法として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)投与後のパクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(THP療法)は、ドキソルビシン+シクロホスファミド投与後にTHP療法を行う現在の標準治療(ddAC-THP療法)に比べて、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある病理学的完全奏効(pCR)の改善を示したことを、ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。 DESTINY-Breast11試験は、高リスクのHER2+早期乳がん患者における術前療法としてのT-DXdの有効性と安全性を検討する第III相試験。患者は、(1)T-DXdのみを投与する群、(2)T-DXdに続いてTHPを投与する群、(3)ddACに続いてTHPを投与する群のいずれかに無作為に割り付けられた。なお、独立データモニタリング委員会の勧告により、T-DXd単独群への登録は2024年3月12日に中止された。・試験デザイン:第III相多施設共同非盲検無作為化試験・対象:高リスク(cT3以上でN0~3またはcT0~4でN1~3または炎症性乳がん)で未治療のHER2+早期乳がん患者・試験群(T-DXd-THP群):T-DXd(5.4mg/kg、3週間間隔)を4サイクル→THP療法を4サイクル 321例・対照群(ddAC-THP群):ddAC療法を4サイクル→THP療法を4サイクル 320例・評価項目:[主要評価項目]盲検下中央判定によるpCR(ypT0/Tis ypN0)[副次評価項目]盲検下中央判定によるpCR(ypT0 ypN0)、無イベント生存期間(EFS)、無浸潤疾患生存期間、全生存期間、安全性など・データカットオフ:2025年3月12日 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の年齢中央値はT-DXd-THP群50歳およびddAC-THP群50歳、アジア人が49.8%および49.1%、HER2ステータス IHC3+が87.2%および88.4%、HR+が73.5%および73.4%、cT0~2が54.8%および58.8%、リンパ節転移ありが89.4%および87.8%であった。・主要評価項目であるpCR率は、T-DXd-THP群67.3%、ddAC-THP群56.3%であった。絶対差は11.2%(95%信頼区間[CI]:4.0~18.3、p=0.003)であり、T-DXd-THP療法は統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるpCRの改善を示した。このベネフィットはHR+でもHR-でも同様に認められた。・残存腫瘍負荷(RCB)インデックス0~Iとなったのは、T-DXd-THP群81.3%、ddAC-THP群69.1%であった。このベネフィットもHR+でもHR-でも同様に認められた。・EFSはT-DXd-THP群で早期から良好な傾向がみられた(ハザード比:0.56、95%CI:0.26~1.17)。24ヵ月EFS率は、T-DXd-THP群96.9%(95%CI:93.5~98.6)、ddAC-THP群93.1%(95%CI:88.7~95.8)であった。・Grade3以上の有害事象(AE)はT-DXd-THP群37.5%およびddAC-THP群55.8%、重篤なAEは10.6%および20.2%に発現した。治療中断に至ったAEは37.8%および54.5%であった。・薬剤関連と判断された間質性肺疾患/肺臓炎はT-DXd-THP群4.4%(Grade3以上:0.6%)およびddAC-THP群5.1%(同:1.9%)、左室機能不全は1.3%(同:0.3%)および6.1%(同:1.9%)に発現した。 これらの結果より、Harbeck氏は「T-DXd-THP療法はddAC-THP療法よりも有効性が高く、毒性が少ない術前療法であり、高リスクのHER2+早期乳がんの新たな標準治療候補となる可能性がある」とまとめた。

6.

未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

7.

下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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PS不良の小細胞肺がん、デュルバルマブ+化学療法の有用性は?(NEJ045A)/ERS2025

 『肺癌診療ガイドライン2024年版』において、PS0~1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤/エトポシド併用療法+PD-L1阻害薬であるが1)、PS不良例での有効性・安全性は明らかになっていない。そのため、PS2ではプラチナ製剤+エトポシドまたはイリノテカン併用療法、PS3ではカルボプラチン+エトポシド療法またはsplit PE療法が標準治療とされている1)。そこで、PS2~3のED-SCLC患者を対象に、デュルバルマブ+カルボプラチン+エトポシドの有効性・安全性を検討する国内第II相単群試験「NEJ045A試験」が実施された。その結果、PSに応じて用量調節を行うことで、半数以上が導入療法を完遂し、良好な治療成績が得られた。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、渡部 聡氏(新潟大学医歯学総合病院 呼吸器・感染症内科)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月28日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国内第II相単群試験対象:未治療のPS2~3、20歳以上のED-SCLC患者投与方法:[PS2集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC4)+エトポシド(80mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(43例)[PS3集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC3)+エトポシド(60mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(13例)評価項目:[主要評価項目]忍容性(4サイクルの導入療法の完遂割合)[副次評価項目]中央判定に基づく奏効割合(ORR)、全生存期間(OS)、1年OS率、無増悪生存期間(PFS)、PSの改善、安全性※:2サイクル目以降は、カルボプラチンAUC5、エトポシド100mg/m2まで増量可とした 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、PS2が74歳(四分位範囲:69~77)、PS3が73歳(同:72~78)で、男性がそれぞれ74%、92%であった。併存疾患を有する割合はそれぞれ65%、69%であった。・主要評価項目である4サイクルの導入療法の完遂割合は、PS2が66.7%、PS3が50.0%であった。いずれも事前に規定した基準(PS2:33%、PS3:20%)を上回り、主要評価項目が達成された。・OS中央値は、PS2が11.3ヵ月、PS3が5.1ヵ月であった。1年OS率はそれぞれ50.0%、18.2%であった。・PFS中央値は、PS2が4.8ヵ月、PS3が4.6ヵ月であった。・ORRは、PS2が52.4%、PS3が45.5%であった。・PSが改善した患者の割合は、PS2が55%、PS3が46%であった。・PSの改善の有無別にみたOS中央値は、PSが改善した集団が9.2ヵ月、PSの改善がみられなかった集団が7.0ヵ月であり、両集団に有意差はみられなかった。・導入療法の完遂の有無別にみたOS中央値は、完遂集団が15.0ヵ月、未完遂集団が3.8ヵ月であり、完遂集団が良好であった(p<0.001、post-hoc解析)。・Charlson Comorbidity Index(CCI)別にみたOS中央値は、CCI=0集団が13.9ヵ月、CCI≧1集団が4.8ヵ月であり、CCI=0集団が良好であった(p=0.012、post-hoc解析)。・Grade3以上の治療関連有害事象の発現割合は93%(PS2:93%、PS3:92%)であった。G-CSF製剤の予防的投与は41%に行われたが、発熱性好中球減少症は16%(それぞれ12%、31%)に発現した。貧血は14%(それぞれ12%、23%)に発現した。 本試験結果について、渡部氏は「治療上の課題の多いPS不良の患者に対し、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せすることを支持するものである」とまとめた。

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化学療法の副作用にVRが有効か、婦人科がん患者のRCTで有効性を示唆

 婦人科がんの治療に使われる化学療法は、吐き気や気分の落ち込みなどの副作用が大きな課題となっている。今回、無作為化比較試験で、患者が没入型VRを用いることで副作用の悪化を防ぎ、制吐剤の追加を減らせる可能性が示された。研究は大阪大学大学院薬学研究科医療薬学分野の仁木一順氏、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室の上田豊氏、中川慧氏らによるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research(JMIR)」に8月14日掲載された。 卵巣がんの第一選択化学療法であるパクリタキセル/カルボプラチン(TC)療法または、TC+ベバシズマブ(TC+Bev)療法は、悪心や倦怠感、筋肉痛、関節痛などの副作用を伴い、患者の不安や治療中断につながることがある。薬剤追加による副作用増加や医療費の上昇も課題であり、安全で経済的な非薬物的手段が求められている。近年、デジタルセラピューティクス(DTx)が注目される中で、VRは疼痛や不安、抑うつの軽減に有効性が示されてきたが、従来の評価は単回使用による一時的な効果に限られていた。本研究では、婦人科がんの患者に対し、TCまたはTC+Bev療法中に7日間連続でVRを用い、その持続的効果を無作為化比較試験で検証した。 対象は、大阪大学医学部附属病院の産科婦人科に入院し、TCまたはTC+Bev療法を受けている患者とした。介入群の患者は、通常の支持療法に加え、治療初日から7日間連続で、1日あたり約10分間のVRを実施した。主要評価項目は、エドモントン症状評価システム改訂版(日本語版)(ESAS-r-J)を用いて測定した身体的および精神的症状の重症度の変化量であった。副次評価項目には、追加制吐剤の使用割合、悪心に対する完全奏効(CR)率、そして日本版状態-特性不安検査(STAI)Y-1を用いた不安の重症度が含まれた。非介入群の患者は、通常の支持療法および対症療法を受けた。VRヘッドマウントディスプレイとしてOculus Go(Meta Platforms, Inc)が使用された。VRに投影されるコンテンツはWander(Parkline Interactive, LLC)、Ocean Rift(Picselica Ltd)、YouTube VR(Google LLC)など8種類が用意された。効果量0.8を有意水準5%、検出力80%で検出するために、必要最小サンプル数を1群あたり26人と算出した。さらに約10%の脱落を考慮し、最終的なサンプルサイズは各群30人、合計60人と設定した。 7日間の試験期間を完了した介入群28人、非介入群30人を解析に含めた。ESAS-r-Jスコアの1日目から7日目までの変化量について、悪心においては、介入群では4日目のみ有意に悪化した(P<0.001)が、非介入群では3日目、4日目、5日目に有意な悪化がみられた(各P<0.001、P=0.001、P=0.035)。抑うつは、介入群では1日目以外に有意な悪化は認められなかったが、非介入群では4日目に有意な悪化を示した(P=0.036)。 2日目から7日目に追加の制吐剤を使用した患者の割合は、介入群で非介入群よりも有意に低かった(P=0.02)。また、TCまたはTC+Bev療法1日目におけるSTAI Y-1(状態不安の程度)の変化については、介入群ではVR体験前の平均43.8から体験後34.8へと有意に低下した(P<0.001)のに対し、非介入群では抗がん剤投与前後で有意差は認められなかった(44.9から43.9、P=0.54)。 試験終了時(7日目)にVR体験後のアンケートを行ったところ、操作の容易さについては回答者の89.3%(25/28人)がプログラムの簡便さを支持していた。また、「同じ状況を経験している友人に自信をもってこのVRプログラムを勧められるか?」という質問に対しては、回答者の92.9%(26/28人)が「ぜひ勧めたい」「機会があれば体験させたい」などと肯定的に回答した。 本研究について、著者らは「化学療法に伴う悪心・嘔吐の予防には不安の管理が有効であることが報告されている。さらなる検討は必要ではあるが、今回の研究では、VRを用いて不安を軽減し、遅発性悪心を防ぐとともに患者に前向きな感情をもたらす新たな治療法を提示したと考える」と述べている。

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adagrasib:KRAS G12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな選択肢(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 「KRYSTAL-12試験」の結果は、KRASG12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな標準選択肢が確立した点が重要と捉えられる。従来、1次治療であるプラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬による治療後に病勢進行したNSCLCに対しては、ドセタキセル±ラムシルマブなどが標準的であった。しかし、本試験ではKRASG12C変異を有する集団では従来の殺細胞性抗がん剤よりも標的治療adagrasibのほうが無増悪生存期間を延長し、腫瘍縮小効果も高いことが明確に示された。安全性プロファイルの観点でも、adagrasibは経口薬である利便性や重篤な骨髄抑制などが少ない点で有利と考えられる。消化器症状や肝機能上昇といった副作用はあるものの、治療継続困難となる症例割合は少ない。実際、治療関連有害事象による中止はadagrasib群で8%にとどまり、ドセタキセル群(14%)より少ない結果であった。 脳転移への有効性という点も注目される。本試験では安定した脳転移症例を含めて登録され、adagrasib群で頭蓋内病変の縮小効果(頭蓋内奏効)が確認された。ドセタキセル群では脳転移に対する奏効率が11%に対し、adagrasib群では24%と倍以上の奏効が認められた点も評価したい。この差は、基礎データで示されていたadagrasibの中枢神経系への移行性の高さを裏付けるものと考えられる。 2025年時点で実臨床で活用されているKRAS阻害薬ソトラシブは、第III相試験である「CodeBreaK 200試験」でドセタキセルとの直接比較が行われている。この試験ではPFS中央値5.6ヵ月vs.4.5ヵ月で、ハザード比0.66(p=0.0017)と、ソトラシブの有意なPFS延長が報告されている。しかしOSに関しては有意差が出ず、ソトラシブは「生存期間の延長」を明確に証明されなかった経緯がある。 今回の「KRYSTAL-12試験」でもPFSや奏効率の改善はソトラシブと同等に良好な結果であったが、OSが未成熟である点は共通しており今後の結果が待たれる。 現時点でソトラシブとadagrasibを直接比較した試験はないが、PFSのハザード比(ソトラシブ0.66 vs.adagrasib 0.58)やORR(28%vs.32%)はおおむね近い水準であり、臨床効果は同程度であると推測する。adagrasibは1日2回投与で作用が持続的であることが考えられ、安定した効果発現や脳内移行に利点がある可能性がある。 本論文でも指摘されているが、対照群レジメンの選択としてドセタキセル単剤が選ばれた点には議論の余地がある。現在2次治療の選択肢としては、ドセタキセル+ラムシルマブの併用レジメンが広く使われている。ドセタキセル単剤に比べ生存期間の延長(中央値+1.4ヵ月)を示した実績がある。本論文では、国際汎用性の観点からドセタキセル単独を対照群としたと説明されている。また、本試験ではOSの有意差は確認できておらず、ソトラシブが使用できる現在、adagrasibが生存に寄与するかは結論が出ていない。ドライバー遺伝子全般的に言えることであるが、クロスオーバーが倫理的にも妥当な措置と考えられ、最終的なOS解析で群間差が出にくいことが予想される。患者側から考えると生存期間の延長が最も重要な指標ではあるが、PFS延長や奏効率の高さも症状緩和やQOL維持につながると考え評価すべきと私は考えている。 本論文で示された中央追跡期間は約7~9ヵ月と短いため、まだ長期生存や毒性の評価が不十分であるが、中枢神経系転移への効果や耐性獲得の問題など、今後の解析結果が期待され注目すべき薬剤であることは間違いない。

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小細胞肺がん1次治療の維持療法、タルラタマブ上乗せで1年OS率82%(DeLLphi-303)/WCLC2025

 PS0/1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬であり、維持療法ではPD-L1阻害薬単剤の投与を継続する。PD-L1阻害薬+lurbinectedinによる維持療法の有用性を検討した「IMforte試験」では、維持療法開始時からの全生存期間(OS)中央値が併用群13.2ヵ月、PD-L1阻害薬単剤群10.6ヵ月と報告されており1)、アンメットニーズが存在する。そこで、PD-L1阻害薬単剤による維持療法にタルラタマブを上乗せする治療法が検討されている。世界肺がん学会(WCLC2025)において、ED-SCLCの1次治療の維持療法における、PD-L1阻害薬+タルラタマブの安全性・有効性を検討する国際共同第Ib試験「DeLLphi-303試験」の結果を米国・Providence Swedish Cancer InstituteのKelly G. Paulson氏が報告した。本試験において、治療関連有害事象(TRAE)による死亡は報告されず、維持療法開始後のOS中央値25.3ヵ月、1年OS率82%と良好な治療成績が示された。本結果はLancet Oncology誌オンライン版2025年9月8日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国際共同第Ib相試験対象:1次治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬※を4~6サイクル実施後に病勢進行がみられず、維持療法への移行が可能であったED-SCLC患者88例試験群1:タルラタマブ(10mg、2週ごと)+アテゾリズマブ(1,680mg、4週ごと) 48例試験群2:タルラタマブ(同上)+デュルバルマブ(1,500mg、4週ごと) 40例評価項目:[主要評価項目]用量制限毒性、治療中に発現した有害事象(TEAE)、TRAE[副次評価項目]全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)など※:PD-L1阻害薬が使用できない場合は未使用も許容 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は64歳、男性の割合は63%、PS1の割合は59%であった。ベースライン時に脳転移、肝転移を有していた割合はそれぞれ25%、36%であった。1次治療開始から維持療法開始までの期間中央値は3.6ヵ月(範囲:2.9~5.8)であった。・追跡期間中央値18.4ヵ月時点において、各薬剤の治療期間中央値は、タルラタマブ35週、アテゾリズマブ28週、デュルバルマブ31週であった。・タルラタマブに関連するGrade3~4のTRAEの発現割合は27%であった。死亡に至ったTRAEは報告されなかった。・TEAEとしてのCRSの発現割合は56%であった。そのうちの多くは、投与開始3ヵ月未満に発現した。ICANSの発現割合は6%であった。全例が投与開始3ヵ月未満に発現した。・解析対象集団全体における維持療法開始時からのOS中央値は25.3ヵ月であり、1年OS率は82%であった。・同様に、PFS中央値は5.6ヵ月であり、1年PFS率は34%であった。・維持療法開始時を基準としたORRは24%、DOR中央値は16.6ヵ月であった。DCRは60%、病勢コントロール期間中央値は14.6ヵ月であった。 本試験結果について、Paulson氏は「ED-SCLCの1次治療の維持療法において、PD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、管理可能な安全性プロファイル、持続的な病勢コントロール、前例のないOSの改善を示した」とまとめた。

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既治療KRAS G12C変異陽性NSCLC、adagrasib vs.ドセタキセル/Lancet

 既治療のKRASG12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、adagrasibはドセタキセルと比較して無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に延長し、新たな安全性上の懸念は認められなかった。フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Barlesi氏らKRYSTAL-12 Investigatorsが、22ヵ国230施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「KRYSTAL-12試験」の結果を報告した。adagrasibはKRASG12C阻害薬で、KRASG12C変異を有する進行NSCLC患者を対象とした第II相試験において有望な結果が示されていた。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。化学療法と免疫療法の前治療歴があるNSCLC患者を対象、主要評価項目はPFS KRYSTAL-12試験の対象は、KRASG12C変異を有する局所進行または転移のあるNSCLCで、プラチナ製剤を含む化学療法および抗PD-1または抗PD-L1抗体による前治療歴があり、ECOG PSが0または1の成人患者であった。 研究グループは適格患者を、adagrasib(1回600mg、1日2回経口投与)群またはドセタキセル(75mg/m2、3週ごとに静脈内投与)群に2対1の割合で無作為に割り付け、病勢進行、許容できない毒性発現、担当医師または患者の判断、あるいは死亡まで投与を継続した。無作為化は中央双方向Web応答システムを用い、地域(アジア太平洋地域以外vs.アジア太平洋地域)および前治療(逐次投与vs.併用投与)で層別化した。 ドセタキセル群では、盲検下独立中央判定(BICR)によるRECIST 1.1に基づく病勢進行が認められた場合、adagrasibへのクロスオーバーを可とした。 主要評価項目は、ITT集団(無作為化した全患者)におけるBICRによるRECIST 1.1に基づくPFSであった。安全性は、試験薬が投与されたすべての患者を対象に評価した。本試験は現在も進行中である(新規登録は終了)。PFS中央値はadagrasib群5.5ヵ月、ドセタキセル群3.8ヵ月 2021年2月23日~2023年11月16日に1,021例がスクリーニングされ、453例がadagrasib群(301例、66%)またはドセタキセル群(152例、34%)に無作為化された。それぞれ298例(99%)および140例(92%)が試験薬の投与を受けた。 追跡期間中央値7.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.8~8.7)において、ITT集団でのBICRによるPFS中央値はadagrasib群5.5ヵ月(95%CI:4.5~6.7)、ドセタキセル群3.8ヵ月(2.7~4.7)であり、ハザード比(HR)は0.58(95%CI:0.45~0.76、p<0.0001)であった。治験担当医師評価によるPFSも同様の結果が得られた(5.4ヵ月vs.2.9ヵ月、HR:0.57)。 副次評価項目であるBICRによる奏効率も、adagrasib群がドセタキセル群と比較し有意に高かった(32%[95%CI:26.7~37.5]vs.9%[5.1~15.0]、オッズ比:4.68[95%CI:2.56~8.56]、p<0.0001)。 治療関連有害事象(TRAE)は、adagrasib群(298例)で280件(94%)、ドセタキセル群(140例)で121件(86%)報告された。Grade3以上のTRAEは、adagrasib群で140件(47%)、ドセタキセル群で64件(46%)報告され、主なものはadagrasib群でALT上昇(8%)、AST上昇(6%)、下痢(5%)、ドセタキセル群で好中球数減少(11%)、好中球減少症(10%)、無力症(10%)であった。 治療関連死は、adagrasib群で4例(1%、てんかん、肝不全、肝虚血および原因不明が各1例)、ドセタキセル群で1例(1%、敗血症)が報告された。

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新たなエビデンス踏まえ薬物療法・ゲノム検査など改訂「膵癌診療ガイドライン」/日本膵臓学会

 2025年7月、「膵癌診療ガイドライン」が改訂された。2022年から3年ぶりの改訂で、第7版となる。Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づいて作成され、Background Question、Clinical Question(CQ)のほか、エビデンスが足りないなどでシステマティック・レビューができない項目はFuture Research Question(FRQ)として新設された。 7月25~26日に行われた第56回日本膵臓学会大会では、「膵癌診療ガイドライン 2025―改訂のポイント」と題したセッションが開催され、外科的治療、薬物療法、放射線治療、支持・緩和療法など、9つの専門グループから改訂点が発表された。同学会の教育セミナー「がん薬物療法・ゲノム医療」において森實 千種氏(国立がん研究センター中央病院)が紹介した内容と合わせ、薬物療法を中心に、本ガイドラインの主な改訂点を紹介する(文中下線は編集部)。【診断】 全体の治療アルゴリズムに大きな変更点はない。ほかのがん種と比較すると、StageIIIの中に「切除可能境界(BR)」カテゴリがあり、化学療法・化学放射線療法を行ってから再評価し、次の治療法を選択するというのが膵がんアルゴリズムの特徴だ。重複箇所を整理して総論でCQ5、各論でCQ16、FRQ4、コラム2つが新設または内容が変更されている。前版のコラムにあった病診連携、バイオマーカー、CTによるスクリーニングについては、今後期待される課題としてFRQに移した。CQ D4 膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察は推奨されるか?A.膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] サーベイランスを行った群のほうが5年生存率、生存期間共に有意な延長を認めたというエビデンスの蓄積を受けて本CQを新たに追加した。【補助療法】CQ RA1 切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?A.切除可能膵癌に対する術前補助療法としてゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:D(非常に弱い)] 日本で行われたPrep 02/JSAP05試験の結果から、術前補助療法の有用性が2019年に示され、本ガイドラインでも2019年版で初めて切除可能膵がんに対する術前治療を提案することが明記された。前版でもこの記載は変わらなかったが、今版の作成時点ではPrep-02/JSAP05試験が論文化されていなかったことを踏まえ、エビデンスの確実性(強さ)をC(弱)からD(非常に弱い)に一段階下げた。今版作成後に論文化されたため、次版ではこれを精読した上で改めて推奨度・エビデンスレベルを決定することになるだろう。【薬物療法】CQ LC1 局所進行切除不能膵癌に対して一次化学療法は何が推奨されるか?A.局所進行切除不能膵癌に対する一次化学療法として、1)FOLFIRINOX療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]2)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]上記が行えない場合、3)ゲムシタビン塩酸塩単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]4)S-1単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] 今版で大きく内容が変わったCQとなる。FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GnP療法)は、Prodige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したが、どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験だった。国内で行われたJCOG1407試験は、局所進行膵がん患者を対象としてmFOLFIRINOX療法とGnP療法の有効性と安全性を検討した試験であり、いずれもゲムシタビン単剤と比べて優越性を示した。この結果を踏まえ、FOLFIRINOXとGnP療法を標準治療とし、忍容性などの問題でこれらが使えなかった場合にゲムシタビン単剤またはS-1単剤を提案するとした。CQ MC1 転移性膵癌の一次化学療法として、何が推奨されるか?A. 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法として、1)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]2)FOLFIRINOX療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]3)NALIRIFOX療法(日本では適応外)を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):B(中)]ただし、全身状態や年齢などから上記治療が適さない患者に対しては、4)ゲムシタビン塩酸塩単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]5)S-1単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)] 転移のある膵がんに対して複数の治療選択肢が存在し、患者の年齢や体調などの諸条件により、標準治療の推奨度は変化する。未治療の転移を有する膵がんを対象に行われたJCOG1611試験では、GnP療法をmFOLFIRINOX、S-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)と比較した結果、GnP療法が3剤併用の他レジメンより有用との結果だった。この結果から、今版ではGnP、FOLFIRINOXの順に推奨とした。 さらに近年には、新たなレジメンであるNALIRIFOX(ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)がGnPを上回ったというNAPOLI-3試験の結果が報告されている。この結果を受け、遠隔転移例ではGnP療法とFOLFIRINOXに加え、NALIRIFOX療法も提案に入れている。NAPOLI-3試験は日本が参加しておらず、NALIRIFOX療法は現時点では未承認だが、本レジメンの国内承認を目指すブリッジングスタディが行われ、今学会で有効性と安全性が報告されており、承認が待たれる状況だ。【プレシジョン・メディシン】CQ D1(P) 切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査は推奨されるか?A.切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] BRCA変異例はプラチナレジメンの治療効果が高く、かつPARP阻害薬オラパリブによる維持療法が有用との報告があり、このコンパニオン診断になるという点を踏まえ「提案する」とした。膵がんとしてはこれが初の承認されたゲノム診療となる。FRQ DI(P) 切除不能膵癌患者に対して、がん遺伝子パネル検査は推奨されるか?A.1)がん遺伝子パネル検査は治療選択肢を増やす可能性があるが、現時点でエビデンスは不十分である。2)検査を企図した時点で腫瘍組織を利用できない場合、腫瘍組織を新たに採取すべきか、血液検体を用いたがん遺伝パネル検査を実施すべきかについては今後明らかにされるべき課題である。3)標準治療終了を待たずに早めのタイミングで遺伝子パネル検査を実施することは治療アクセスの観点から妥当で、膵癌を含む臓器横断的研究で臨床的有用性が示されているが、膵癌においてのデータの蓄積が今後の課題である。 前版ではがん遺伝子パネル検査を「やるか・やらないか」というシンプルなクエスチョンだったものを、今版では膵がん固有の臨床課題に落とし込んで作成した。前版ではCQだったものを今回はFRQに押し戻すかたちとなったが、エビデンスの蓄積が足りず、検査の種類などについても、まだ明確な推奨を出すには至らないと判断した。 エビデンスを重視しながらも利益や不利益、医療費など実地診療にも配慮して作成したガイドラインだ。ぜひ一読いただき、膵がんの早期発見・治療の向上に活かしていただきたい。

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HER2+炎症性乳がん、術前アントラサイクリン上乗せは有用か?

 HER2陽性乳がんの術前療法にアントラサイクリンを追加することによるベネフィットは、無作為化臨床試験において示されなかったが、炎症性乳がんにおける有効性は明らかになっていない。HER2陽性の炎症性乳がんを対象とした後ろ向き研究の結果、術前療法でのアントラサイクリン追加は病理学的完全奏効(pCR)との関連は示されなかったものの、疾患コントロール期間の延長に寄与する可能性が示唆された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの岩瀬 俊明氏らによるBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年8月2日号への報告。 2014~21年に、MDアンダーソンがんセンター、IBCネットワーク関連施設、ダナ・ファーバーがん研究所にて術前療法と胸筋温存乳房切除術を受けたHER2陽性原発性炎症性乳がん患者を対象に後方視的な検討が行われた。主要評価項目はpCR率、副次評価項目には、局所・領域再発までの期間(TLRR)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)が含まれた。単変量解析および多変量解析が、臨床的に関連する交絡因子を調整したうえで実施された。 主な結果は以下のとおり。・対象となった101例のうち、39例はドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(TCHP)を受け、62例はドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドキソルビシン+シクロホスファミド併用療法(THP-AC)を受けた。追跡期間中央値は3.02年であった。・pCR率は治療レジメン間で有意差を認めなかった(TCHP:48.7%vs.THP-AC:53.2%、p=0.659)。・年齢とエストロゲン受容体の状態で調整した多変量ロジスティック回帰分析において、pCR率と治療レジメンの間に関連はみられなかった。・一方、多変量Cox比例ハザードモデルでは、THP-AC群においてTLRR(ハザード比[HR]:0.279、95%信頼区間[CI]:0.102~0.765、p=0.0131)およびEFS(HR:0.462、95%CI:0.228~0.936、p=0.032)が有意に良好であったが、全生存期間(OS)には差を認めなかった。

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高リスク早期TN乳がんへの術前・術後ペムブロリズマブ追加、日本のサブグループにおけるOS解析結果(KEYNOTE-522)/日本乳癌学会

 高リスク早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、ペムブロリズマブ+化学療法による術前療法およびペムブロリズマブによる術後療法は、術前化学療法単独と比較して、病理学的完全奏効(pCR)割合および無イベント生存期間(EFS)を統計学的有意に改善し、7回目の中間解析報告(データカットオフ:2024年3月22日)において全生存期間(OS)についてもベネフィットが示されたことが報告されている(5年OS率:86.6%vs.81.7%、p=0.002)。今回、7回目の中間解析の日本におけるサブグループ解析結果を、がん研究会有明病院の高野 利実氏が第33回日本乳癌学会学術総会で発表した。・対象:T1c、N1~2またはT2~4、N0~2で、治療歴のないECOG PS 0/1の高リスク早期TNBC患者(18歳以上)・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごとに4サイクル投与し、術後療法としてペムブロリズマブを3週ごとに最長9サイクル投与(ペムブロリズマブ群)・対照群:術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与(プラセボ群)・評価項目:[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、EFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・日本で登録されたのは76例で、ペムブロリズマブ群に45例、プラセボ群に31例が割り付けられた。・ベースラインの患者特性は、全体集団と比較してPD-L1陽性の患者が若干少なく(日本:ペムブロリズマブ群71.1%vs.プラセボ群74.2%/全体集団:83.7%vs.81.3%)、毎週投与のカルボプラチンの使用割合が高かった(日本:80.0%vs.77.4%/全体集団:57.3%vs. 57.2%)。また日本では、T3/T4の症例(24.4%vs.16.1%)およびリンパ節転移陽性の症例(53.3%vs.41.9%)がペムブロリズマブ群で多い傾向がみられた。・5年EFS率は、ペムブロリズマブ群84.4%vs.プラセボ群73.2%、ハザード比(HR):0.54、95%信頼区間(CI):0.20~1.50であった(全体集団では81.2%vs.72.2%、HR:0.65、95%CI:0.51~0.83)。・5年OS率は、ペムブロリズマブ群88.9%vs.プラセボ群86.5%、HR:0.82、95%CI:0.22~3.04であった(全体集団では86.6%vs.81.7%、HR:0.66、95%CI:0.50~0.87)。・5年EFS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%(24例)vs.プラセボ群100%(15例)、pCRが得られなかった症例では71.4%(21例)vs.46.7%(16例)であった。・5年OS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%vs.プラセボ群100%、pCRが得られなかった症例では81.0%vs.73.7%であった。・Grade3~4の治療関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群82.2%vs.プラセボ群76.7%(全体集団では77.1%vs.73.3%)、うち治療中止に至ったのは24.4%vs.16.7%であった。プラセボ群と比較して多くみられたのは(全Grade)、貧血(75.6%vs.63.3%)、味覚障害(44.4%vs.23.3%)、皮疹(40.0%vs.10.0%)などであった。・Grade3~4の免疫関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群20.0%vs.プラセボ群3.3%であった(全体集団では13.0%vs.1.5%)。 高野氏は、日本のサブグループ解析結果について、症例数が少ないためこの結果をもって統計学的な判断はできないが、OSはグローバルの全体集団と同様にペムブロリズマブ群で良好な傾向を示したとし、EFSについても6年以上のフォローアップで引き続き有効な傾向を示しているとまとめた。また安全性についても、既知のプロファイルと同様の結果が確認されたとしている。

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選択的グルココルチコイド受容体拮抗薬はプラチナ抵抗性卵巣がんに有効も、日本ではレジメン整備に課題(解説:前田裕斗氏)

 グルココルチコイド受容体(GR)活性化は、化学療法抵抗性を誘導する。本研究はGR選択的拮抗薬であるrelacorilantとnab-パクリタキセルの治療効果をnab-パクリタキセル単独と比較した初のPhase3試験である。無増悪生存期間(Progression-free survival:PFS)が規定の評価基準を満たした(6.54ヵ月vs.5.52ヵ月)ため、全生存期間の最終解析を待たずに論文化となった。 プラチナ抵抗性の卵巣がんは予後不良で知られており、今回新たな機序で効果的な化学療法が登場したことは臨床的に価値がある。日本ではnab-パクリタキセルは卵巣がん適応外である。薬理学上は当然パクリタキセルとの併用でもいいわけだが、前処置でも用いるステロイド製剤の効果を減弱してしまうため、そう簡単にはいかないだろう。relacorilant自体は経口で化学療法3日前より連日の内服になるため使用は簡便だが、これを活かしたレジメンの整備が日本における課題となる。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(消化器内科編~消化管領域)

Multicentre randomised controlled trial of a self-assembling haemostatic gel to prevent delayed bleeding following endoscopic mucosal resection (PURPLE Trial)Drews J, et al. Gut. 2025;74:1103-1111.<PURPLE試験>:十二指腸・大腸内視鏡的粘膜切除術後の後出血予防における止血ゲル、後出血率の低下効果は認められず欧州で行われた本ランダム化比較試験では、10mm以上の十二指腸腫瘍または20mm以上の大腸腫瘍に対する十二指腸・大腸内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)後において、止血ゲル投与群の後出血率は11.7%(14/120例)、非投与群の後出血率は6.3%(7/112例)であり、止血ゲルの後出血予防効果は示されませんでした。止血ゲルは、内視鏡治療後の人工潰瘍出血に対する新規の止血予防でしたが、その有効性が証明されなかった点は、今後の内視鏡治療において重要な知見です。Perioperative Chemotherapy or Preoperative Chemoradiotherapy in Esophageal CancerHoeppner J, et al. N Engl J Med. 2025;392:323-335.<ESOPEC試験>:切除可能食道進行腺がんへの周術期化学療法(FLOT療法)、術前化学放射線療法(CROSS療法)と比較して3年および5年生存率を有意に改善欧州で行われた本ランダム化比較試験では、切除可能食道進行腺がんに対して、FLOT(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル)周術期化学療法(術前+術後)の3年生存率は57.4%、5年生存率は50.6%であり、CROSS(カルボプラチン+パクリタキセル)術前化学放射線療法の3年生存率50.7%、5年生存率38.7%と比較して優越性が認められました。進行食道腺がんにおける周術期化学療法の生存率向上効果を示した重要な知見です。Stool-Based Testing for Post-Polypectomy Colorectal Cancer Surveillance Safely Reduces Colonoscopies: The MOCCAS StudyCarvalho B, et al. Gastroenterology. 2025;168:121-135.<MOCCAS試験>:大腸ポリープ切除後のサーベイランス、便検査の活用で大腸内視鏡検査の実施回数を削減できる可能性欧州で行われた本試験では、大腸ポリープ切除および結腸直腸がん治療後、家族性大腸がんリスクを有する集団に対して、大腸内視鏡検査施行前に実施したmt-sDNA testと2種類の便潜血検査1回法(FIT:Fecal Immunochemical Test)によるadvanced neoplasiaに対する曲線下面積(AUC)は0.72、0.59~0.61でした。オランダ人口モデルを用いたシミュレーションにより、大腸内視鏡検査後のサーベイランスに便検査を行うことで、大腸内視鏡検査回数を低下させ、コスト効率の向上が期待できることが示唆されました。Effect of an Endoscopy Screening on Upper Gastrointestinal Cancer Mortality: A Community-Based Multicenter Cluster Randomized Clinical TrialXia C, et al. Gastroenterology. 2025;168:725-740.<食道がん・胃がん死亡率への上部消化管内視鏡検診の効果>:高リスク地域で1回の上部消化管内視鏡検診が食道がん・胃がん死亡率を有意に低下本試験は、中国の40~69歳の住民を対象とするクラスターランダム化比較試験です。食道がんおよび胃がんの年齢調整死亡率が全国平均の3倍以上の中国の高リスク地域において、1回の上部消化管内視鏡スクリーニングが食道がんおよび胃がんの死亡リスクを7.5年間で22%低下させることが示されました。本試験は、上部消化管内視鏡検診の有効性を明確に示した初めてのランダム化比較試験です。Vonoprazan as a Long-term Maintenance Treatment for Erosive Esophagitis: VISION, a 5-Year, Randomized, Open-label StudyUemura N, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2025;23:748-757.<VISION研究>:H. pylori未感染の逆流性食道炎患者に対するボノプラザン長期維持療法、5年間の安全性を証明強力な胃酸分泌抑制は、高ガストリン血症を引き起こし、胃がんや胃神経内分泌腫瘍のリスクと懸念されています。本ランダム化比較試験では、Helicobacter pylori(H. pylori)未感染で維持療法が必要な日本の逆流性食道炎患者に対して、ボノプラザン10mg群とランソプラゾール15mg群を比較しました。その結果、5年間の追跡で両群ともに胃がんおよび胃神経内分泌腫瘍の発生は0人でした。本試験は、H. pylori未感染患者におけるボノプラザンの長期安全性を支持する重要なエビデンスを示しました。

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ASCO2025 レポート 乳がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日にかけて開催されたASCO2025は、”Driving Knowledge to Action:Building a Better Future”というテーマで実施された。昨年つらい思いをした円安も若干改善され(1ドル145円前後)、航空運賃の高騰は変わらないものの、若干参加しやすくなったと言えるだろうか(とはいえ、ハンバーガーとコーラで2,500円はつらい…)。乳がん領域では明日からの臨床が変わる演題が多数公表された。トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の試験は昨年に引き続き、Plenary session押し出しの早朝専用セッションが設けられていた。本稿では、日常臨床を変える4演題と、日本からの発表の1演題を概説する。SERENA-6試験ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんでは、内分泌耐性をどう乗り越えるかが重要な話題となっており、ASCO2025でも複数の演題が発表された。SERENA-6試験は、HR陽性HER2陰性進行乳がんにおいて、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(CDK4/6i)治療中に循環腫瘍DNA(ctDNA)で検出されたESR1変異を有する患者を対象とした盲検化ランダム化第III相試験である。この試験では、画像上の病勢進行(PD)前にAIを経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantに切り替えることで無増悪生存期間(PFS)の改善が得られるかを検証した。主要評価項目である主治医評価によるPFSは、16.0ヵ月vs.9.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.44(95%信頼区間[CI]:0.31~0.60、p<0.00001)とcamizestrant群で有意に良好であった。副次評価項目のPFS2(次治療でPDとなるまでの期間)についてもHR:0.52(95%CI:0.33~0.81、p=0.0038)とcamizestrant群で有意に良好であった。また、EORTC QLQ-C30を用いたQOL評価では、QOL悪化をイベントとしたtime to deterioration(TTD)がエンドポイントとされ、TTD中央値が23.0ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.33~0.82、p<0.001)とcamizestrant群で有意に良好であった。Grade3以上の有害事象は33.2%にみられたが、忍容性はおおむね良好であり、ctDNAを用いた個別化介入の有用性を示した重要な結果といえる。なお、この結果はNew England Journal of Medicine(NEJM)に同日掲載された(Bidard FC, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 1. [Epub ahead of print])。ctDNAでESR1変異の出現をモニタリングし画像PDとなる前に治療を変更する戦略は、すでにPADA-1試験でその有効性が示され期待されている(Bidard FC, et al. Lancet Oncol.2022;23:1367-1377. )。PADA-1試験ではSERDとして注射剤のフルベストラントが使用された。SERENA-6試験では経口SERDが用いられており、効果ならびに投与の簡便性の向上が期待される画期的な試験であると言える。その一方で、本試験の結果を日常臨床で用いるには多くの懸念点が残る。ESR1変異の出現をモニタリングして治療を変更する群と変更しない群を比較する試験というのは、治療戦略(画像PDを待つか待たないか)を比較する試験である。PADA-1試験ではAI継続群でフルベストラント+CDK4/6iへのクロスオーバーが許容されていたが、SERENA-6試験ではcamizestrant±CDK4/6iにクロスオーバーされているのはわずかに3%である。本来は「早く治療変更するか」「画像PDを待って治療変更するか」を比較するべき試験であるにもかかわらず、クロスオーバーされないということは戦略を比較する試験とはなっていない、と言わざるを得ない。ESR1変異はAI耐性の予測因子であり、AI群でPFSが短いことは当然の帰結である。PFS2の結果についてもcamizestrantへのクロスオーバーがなく他の経口SERDがどの程度使用されたか不明である以上、評価が困難である(camizestrant群では常に薬剤の使用ラインが多いため、比較できない)。本試験のデザインでは、真にこの戦略が有効であるかどうかは、全生存期間(OS)の結果を見なければ判断できないが、それも後治療に不均衡があれば評価できない。QOLについてもTTDがcamizestrant群で良好なのは当然で、AI群のほうが早く病勢進行するため、症状出現によるQOL低下で説明できる。さらなる問題はESR1変異を検出するctDNA検査を2~3ヵ月ごとに行うコストの問題である。本試験ではリキッドバイオプシーとしてGuardant360が使用されていたが、非常に高価である。ESR1に特化した独自アッセイの開発とバリデーションが必要である。またESR1のサーベイランスに参加した3,256例のうち、ESR1変異が検出されたのは548例(画像PDを伴うものを含む)、ランダム化されたのは315例と10%弱である。果たしてこの10%のために高価な検査を定期的に実施することが有効であろうか? またサーベイランス期間中にESR1変異が検出されず、PDともならなかった患者は1,949例である。CDK4/6i併用1次内分泌療法のPFSが30ヵ月程度と考えられる中で、全例にctDNAの評価をし続けるのか? 本試験結果を日常臨床に用いるには、OSを含めた「戦略の有効性」の証明と、ctDNAサーベイランスの対象となる症例群の絞り込みが必要であろう。VERITAC-2試験内分泌耐性をこれまでと異なる作用機序で克服しようとしたのがVERITAC-2試験である。vepdegestrantはPROTACと呼ばれる薬剤であり、エストロゲン受容体(ER)のユビキチン化を促進してERを分解する新たな機序を有する。VERITAC-2試験は、vepdegestrantの2次治療における有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。ESR1にフォーカスしたSERENA-6試験と異なり、作用機序そのものが違う薬剤の効果を確認している。前治療として1レジメンまでの内分泌療法歴がある患者を対象に、vepdegestrantとフルベストラントが比較された。主要評価項目であるESR1変異陽性集団における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSは、5.0ヵ月vs.2.1ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.42~0.77、p<0.001)とvepdegestrant群で有意に良好であった。一方、もう1つの主要評価項目である全患者集団におけるPFSは3.7ヵ月vs. 3.6ヵ月(HR:0.83、95%CI:0.68~1.02、p=0.07)と両群間の有意差を認めなかった。主治医評価によるPFSも同様の結果であった。有害事象はGrade 3以上が23%vs.18%とvepdegestrant群でやや多い傾向であり、倦怠感の頻度が最も高かった。本試験もNEJMに同日掲載された(Campone M, et al. N Engl J Med. 2025 May 31. [Epub ahead of print])。PROTACはこれまでの内分泌療法とはまったく異なる機序で効果を発揮する薬剤で、今後が期待される。一方で、なぜERを分解する作用を有する薬剤にもかかわらず(ESR1変異の有無にかかわらず効果が期待できると考えられる)、ESR1変異を有する場合にのみフルベストラントに対する優越性を示せたのかは、現時点では不明である。また、今後臨床に応用するには試験デザインに課題が残る。CDK4/6i併用内分泌療法後の治療としては、PIK3CAやAKT1、PTENなどの変異の有無によって、SERDとAKT阻害薬(Turner NC, et al. N Engl J Med. 2023;388:2058-2070.)やPI3K阻害薬(Andre F, et al. N Engl J Med 2019;380:1929-1940.)、あるいはCDK4/6iの併用(Kalinsky K, et al. J Clin Oncol. 2025;43:1101-1112.)が行われる。CDK4/6i後の治療として内分泌療法単独が選択されることは多くなく、vepdegestrantも他の分子標的薬との併用療法の開発が期待される。DESTINY-Breast09(DB-09)試験HER2陽性進行乳がんの治療は、2010年代はじめのペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の承認で大きく変化したが(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.、Verma S, et al. N Engl J Med. 2012;367:1783-1791.)、2019年のT-DXdの登場はまた新たに大きく地図を塗り替えた(Modi S, et al. N Engl J Med. 2020;382:610-621.、Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1143-1154.)。T-DXdはHER2陽性乳がんに対する試験で既存治療と比較して圧倒的な有効性を示し、2次治療以降の標準治療となっている。一方で、血球減少や悪心、またT-DXdを特徴付ける有害事象である薬剤性肺障害(ILD)など、長期間有効であるからこそ悩ましい有害事象の管理が必要である。DB-09試験は、HER2陽性進行/転移乳がんの初回治療として、T-DXd+ペルツズマブ(T-DXd+P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。対照群は標準治療であるタキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)で、主要評価項目はBICRによるPFSであった。結果は、PFS中央値40.7ヵ月vs.26.9ヵ月(HR:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.00001)とT-DXd+P群がTHP群に対して圧倒的に良好な結果となった。主治医判定のPFSではTHP群のPFSが若干悪く(20.7ヵ月、95%CI:17.3~23.5)、非盲検化試験であることによるバイアスの存在が疑われるものの、傾向としてはBICRと同様であった。また、奏効率(ORR)は85.1%vs.78.6%で、PRの割合は70%と両群間で差がないものの、CRは15.1%vs.8.5%とT-DXd+P群で良好であった。OSはimmatureなものの、HR:0.84(95%CI:0.59~1.19)とT-DXd+P群でやや良好な傾向がみられた。後治療としてTHP群ではT-DXdやT-DM1などの抗体薬物複合体(ADC)が用いられている割合が多かったが、T-DXd+P群では抗HER2抗体を含むレジメンが多かった。2次治療までのPFSであるPFS2もHR:0.60(95%CI:0.45~0.79、p=0.00038)と、T-DXd+Pで良好であった。Grade 3以上の毒性の頻度は両群間で差はなかったが、 ILDの発現頻度は12.1%vs.1.0%とT-DXd+P群で多いものの大多数はGrade 2までであり、大きな安全性の懸念はないと考えられた。実臨床で使う中で、THPは非常に有効な治療であることは臨床医全員が実感していることだと思う。DB-09試験の結果から、T-DXd+P療法はHER2陽性初回治療の新たな選択肢となる可能性が示された。一方で、いくつかの懸念点が残る。DB-09試験ではペルツズマブを併用しないT-DXd群が設定されていたが、その結果はまだ発表されていない。ペルツズマブを併用しないことで、有害事象が軽減する可能性がある。また、T-DXd±P群では毒性によるT-DXd中止後に、抗HER2抗体による維持療法が許容されていたが、実際に維持療法が行われた症例はわずか8.7%であった。一方で、THP群の約70%は毒性もしくは別の理由(タキサンは通常6~10コースの投与後に中止する)でタキサンが中止されている。THP群でタキサン中止後はHP(ほとんど有害事象が気にならない)による維持療法を実施するが、現在は皮下注製剤があり投与時間も大幅に短縮されている。したがって、T-DXd+Pの有効性は圧倒的であるものの、有害事象が継続し、さらに時間毒性という点ではTHPに軍配が上がると言わざるを得ない。有効な治療でありPFSが非常に長いからこそ、いかに患者負担を減らすことができるかが今後の課題となる。ASCENT-04試験PD-L1陽性進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用化学療法により予後が改善したが(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;387:217-226.、Schmid P, N Engl J Med.2018;379:2108-2121.)、それでも十分ではない。また、TNBCに対してはサシツズマブ・ゴビテカン(SG)(Bardia A, et al. N Engl J Med.2021;384:1529-1541.)や、HER2低発現に対するT-DXd(Modi S, et al. N Engl J Med.2022;387:9-20.)など、ADCの導入により予後の改善が期待される。では、PD-L1陽性進行TNBCに対してADCとICIの併用は有用なのであろうか。ASCENT-04試験は、未治療のPD-L1陽性進行TNBCに対して、SG+ペムブロリズマブ(P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。比較対照は化学療法+Pで、主要評価項目であるBICR評価によるPFSは、SG+P群で11.2ヵ月 vs.7.8ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.51~0.84、p<0.001)と、SG+P群で有意に良好であった。主治医評価PFSも同様であった。OSはHR:0.89(95%CI:0.62~1.29)とSG+P群で良さそうな傾向はみられたものの、immatureで統計学的な差は認めなかった。ORRは60%vs.53%とSG+P群でやや良好な傾向がみられ、とくにCRが13%vs.8%とSG+P群で多かった。安全性については、Grade 3以上の下痢(10%vs.2%)がSG+P群で多かった以外に両群間に差はなく、好中球減少症(約65%)や過敏反応(約20%)など予測された毒性がみられたが、許容範囲内であった。本試験の結果をもって、SG+P療法はPD-L1陽性進行TNBCの初回治療における新たな標準療法となった。CECILIA試験最後に日本から発表された試験を紹介する。タキサンによる末梢神経障害(CIPN)は対処の難しい有害事象であり、冷却や圧迫による予防が試みられている(Hanai A, et al. J Natl Cancer Inst. 2018;110:141-148.、Tsuyuki S, et al.Breast. 2019;47:22-27.)。一方、冷却による苦痛で予防を継続できない患者も少なくない。CECILIA試験は、パクリタキセルによるCIPN予防のために四肢冷却装置を用いる際に、13℃と25℃の冷却温度における有効性を検証したランダム化比較試験である。パクリタキセルによる治療を受ける乳がん患者を対象に、13℃による冷却の25℃(最低限の予防効果が期待される冷却温度)に対する優越性を検証するデザインとなっている。主要評価項目はパクリタキセル終了時点でのPNQ(patient neurotoxicity questionnaire)スコアD以上の割合とされた。結果は、25℃群で29.3%(95%CI:19.4~21.0)、13℃群で33.3%(95%CI:22.8~45.2)、p=0.76と両群間の差は検出されなかった。他の評価項目であるパクリタキセル終了3ヵ月時点でのPNQスコアD以上は25℃で16.2%、13℃で32.0%(p=0.035)と25℃で少ない傾向を認めた。CTCAE、患者報告CTCAEによるGrade 2以上のCIPNは両群間に差がなかった。手足の表面温度は13℃群で低かった。これらから、CIPN予防として手足を冷却する際には25℃で十分な可能性があるが、あくまでも13℃の優越性を検証する試験で、優越性を示せなかったという結果であり、真の至適温度については今後も検討が必要である。

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副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第2回

今回は化学療法中によく遭遇する「下痢」についてです。私自身が消化器内科医でもあるので下痢はお手のもの! と言いたい所ですが、下痢は非常に奥が深く、難渋することもあります。このコラム1回分ではとても語り尽くせませんので、抗がん剤治療中に下痢を生じた患者さんが、紹介元であるかかりつけ医を受診した際に有用な下痢の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】64歳、女性主訴下痢病歴進行胃がん(StageIV)に対して緩和的化学療法を実施中。昨日から水様性下痢が発現し、回数が増えてきた(2→4回)ため、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取割合は6割程度。内服抗がん剤S-1 120mg/日(Day12)【症例2】80歳、男性主訴尿量減少病歴進行直腸がん術後再発に対して緩和的化学療法を実施中。昨日からストーマ排泄量が増加した。口渇感と尿量減少を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取問題なし。抗がん剤10日前にイリノテカンを含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤による下痢は、早発性の下痢と遅発性の下痢に大きく分類できます。早発性の下痢は抗がん剤投与中または投与直後~24時間程度にみられることが多い一方で、遅発性の下痢は投与後数日〜数週間程度でみられることが多いため、鑑別が難しいこともあります。抗がん剤以外の他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)下痢の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染性腸炎、食事内容、他の薬剤など)との鑑別。抗がん剤による免疫抑制中は、感染性腸炎の可能性(発熱、血便、白血球減少時の腸炎など)を常に考慮。また、抗がん剤治療中は治療機関(大学病院や高次医療機関)から発熱時に抗菌薬を処方されていることがあり、抗菌薬内服後の場合は、クロストリジオイデス・ディフィシル関連腸炎も鑑別に挙げる。下痢を生じやすい抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など画像を拡大する(2)重症度の評価回数(例:1日5~6回以上)、持続時間、血便、発熱、脱水症状の有無を確認。食事摂取状況や全身状態もチェック。脱水所見(口渇、皮膚乾燥)があれば、経口補水や点滴を検討。高齢者や併存疾患がある患者はより注意が必要。CTCAE ver5.0画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、下痢回数はCTACEという化学療法中の重症度分類でGrade1相当の下痢となります。発熱はなく、食事摂取も減少しているものの経口補液も可能でした。症状としては軽度であり、感染性腸炎を疑う現病歴がなければ、治療機関から下痢時の対応薬(ロペラミド)などが処方されている場合は内服を勧めてもよいと思います。このケースでは、受診時に輸液を実施し、抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、患者申告ではCTACEでGrade1相当の下痢で食事摂取も問題ありませんが、口渇や尿量減少から高度の脱水が示唆される所見です。直ちに治療機関への連絡を行い、入院加療となりました。ストーマ排泄量は患者さん自身では把握が難しい場合もあるため、脱水所見の有無やストーマ排泄量*の確認が重要です。*ストーマから1日2,000mL以上排泄される場合、排液過多とみなす。抗がん剤治療中の下痢対応フロー画像を拡大する内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「食事が半分以上食べられない場合や下痢が5回以上続く場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。下痢に対して輸液や整腸剤を投与してもよいか?軽度の下痢であれば、輸液や整腸剤の支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の下痢のみでも長期に続く場合や、十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため、治療機関へご紹介ください。また、クリニックで輸液を実施しても翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。なお、イリノテカンによる遅発性下痢の場合は整腸剤による増悪やロペラミド高用量療法が必要なこともあるため、主治医への確認が望ましいです。下痢だと思ったら腸閉塞寸前!?婦人科がんや胃がんの腹膜播種症例、直腸がん症例の中には骨盤底部の播種病変の増悪や原発狭窄により直腸狭窄を来し、少量の下痢が持続することがあります。患者さんからの「下痢が多い」という訴えをよく確認すると、「少量の下痢」が「1日に十数回あり、制御できない」という症状で、腸閉塞の一歩手前であったという症例を時折経験します。狭窄した腸管の脇から漏れ出るようにしか水様便が排出されないために起こる症状です。もし、そのような患者さんがいればすぐに治療機関へ相談してください。画像を拡大する<奥深い下痢>先日、下痢で難渋した患者さんの話です。免疫チェックポイント阻害薬を使用していた患者さんで、免疫関連有害事象で1型糖尿病と甲状腺機能低下症になってしまい、緊急入院となりました。さまざまな内分泌補充療法を実施して何とか退院したものの、今度は下痢で再入院…。短絡的に「まさか大腸炎も併発したのか!?」と思い、下部内視鏡検査や各種検査を実施してもまったく問題ありません。入院後は速やかに改善したので退院しましたが、数日経つと「下痢が治らない。食べたらすぐに下痢をする」と言って来院しました。結局、同期の大腸エキスパート医師に泣きついて診察してもらうと、CT検査で経時的に萎縮していた膵臓に目をつけ、「免疫関連有害事象からの膵萎縮に伴う膵酵素分泌低下に伴う下痢」と診断してくれました。早い話が慢性膵炎の下痢のようなものです。慢性膵炎に準ずる治療で下痢はすぐに改善し、今も元気に通院治療されています。免疫関連有害事象に伴う新たな下痢のカタチかも知れず、下痢はやはり奥が深いと実感した最近の一例でした。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版;2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.5)NCCN Guidelines:Palliative Care(Version 2. 2025)

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ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

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