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終末期がん患者の反跳性離脱症状を発見して処方再開を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第70回

 今回は、終末期がん患者における薬剤性の反跳性離脱症状を早期に発見し、処方再開を提案した症例を紹介します。がん患者では、疼痛管理や不眠に対して複数の薬剤が併用されることがありますが、全身状態の悪化に伴い服用が困難になることがあります。服用困難という理由だけで急に中止するのではなく、離脱症状のリスクを総合的に評価し、適切な漸減・代替薬への切り替えを検討することが重要です。患者情報79歳、男性(施設入居)基礎疾患小細胞肺がん(T2aN3M1c、StageIV ED)、頸髄損傷後遺症、神経因性膀胱、狭心症(時期不明)治療経過2025年6月に小細胞肺がんと診断され、7月より薬物治療(カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ)を開始した。しかし発熱性好中球減少症・敗血症性ショックにより再入院。8月に家族へ病状を説明した後、緩和ケアへ移行する方針となり、施設へ転院・入居となった。社会・生活環境ほぼ寝たきり状態、自宅受け入れ困難のため施設入居ADLほぼ寝たきり状態処方内容1.ベザフィブラート錠50mg 1錠 分1 朝食後2.アジルサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エチゾラム錠0.5mg 1錠 分1 就寝前4.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後5.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後6レンボレキサント錠5mg 1錠 分1 就寝前7.トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 3錠 分3 毎食後8.ドキサゾシン錠1mg 1錠 分1 就寝前9.トラゾドン錠25mg 2錠 分1 就寝前10.プレガバリンOD錠75mg 1錠 分1 就寝前11.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後12.ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 分1 夕食後13.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント施設に入居して約1ヵ月後、誤嚥リスクと覚醒(意識)レベルの低下により全内服薬が一時中止となりました。食事摂取量は0~5割とムラがあり、尿路感染症に対してST合剤内服を開始しました。その後、患者さんは右足先の疼痛を訴え、アセトアミノフェン坐剤を開始しても効果が不十分な状態となりました。傾眠傾向にはあるものの、夜間の入眠困難もありました。問題点の評価患者さんの状態から、プレガバリン(半減期約6時間)とトラゾドン(半減期約6時間)の中断により、反跳性離脱症状が出現した可能性があると考えました。プレガバリンは電位依存性Caチャネルのα2δサブユニットに結合し、神経伝達物質の放出を抑制する薬剤であり、突然の中止により不眠、悪心、疼痛の増悪などの離脱症状が出現することが報告されています。トラゾドンについても、抗うつ薬の中止後症候群として不安、不眠、自律神経症状(悪心・嘔吐)が出現することがあります。また、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の中断による除痛効果の喪失と、プレガバリンの中断による中枢性GABA様調節の急変が、疼痛と自律神経症状の悪化に関与している可能性もあります。頸髄損傷後遺症を有する本患者にとって、プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効かつ重要な薬剤と推察しました。医師への提案と経過診察へ同行した際に、医師に以下の内容を伝えました。【現状報告】全内服薬中止後に右足先の疼痛が持続し、アセトアミノフェン坐剤では十分な除痛効果が得られていない。夜間の入眠困難が続いている。傾眠傾向はあるものの睡眠の質が低下している。【懸念事項】プレガバリンとトラゾドンの急な中止により反跳性離脱症状が出現している可能性がある。プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効であり、頸髄損傷後遺症を有する患者にとって重要な薬剤である。プレガバリンの中止により中枢性GABA様調節の急変が自律神経症状の悪化に寄与している可能性がある。その上で、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することを提案しました。就寝前の1回投与にすることで服薬負担を最小限にしつつ、離脱症状の軽減と疼痛・睡眠の改善を図ることができるためです。また、疼痛と睡眠状態のモニタリングを継続し、効果判定を行うことも提案しました。医師に提案を採用いただき、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することになりました。再開後、疼痛は軽減傾向を示し、アセトアミノフェン坐剤の使用頻度も減少しました。睡眠状態も改善し、夜間の入眠が得られるようになりました。覚醒(意識)レベルについても徐々に軽快しました。振り返りと終末期がん患者での注意点本症例では、疼痛の増悪が単に疾患の進行によるものではなく、プレガバリンの離脱による反跳性の症状である可能性を考慮しました。このような薬剤性の症状を見逃さないためには、処方歴の確認と薬剤の薬理作用・半減期の理解が不可欠です。さらに、症状の原因を多角的に評価することが重要になるため、医師や施設スタッフとの密な連携により、症状の経時的変化を把握して適切なタイミングで処方調整を提案することが求められます。終末期がん患者における薬物療法の最適化では、不要な薬剤を中止することも重要ですが、必要な薬剤を適切に継続・再開することも同様に重要です。本症例では、離脱症状のリスクを評価し、患者さんのQOL維持のために必要な薬剤の再開を提案することで、服薬負担を最小限にしつつ離脱症状を回避することができました。薬剤師として、薬剤の薬理作用と離脱症状のリスクを理解し、患者さんの症状変化を注意深く観察することで、終末期患者の苦痛緩和に貢献できます。参考文献1)厚生労働省医薬食品局:医薬品・医療機器等安全性情報No.308(2013年12月)2)トラゾドン添付文書情報

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ESMO2025レポート 肺がん(後編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催された。善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が肺がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説。後編では、Presidential symposiumの2演題とドライバー陰性切除不能StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)の1演題、進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の1演題を取り上げ、解説する。前編はこちら[目次]Presidential symposium1.HARMONi-62.OptiTROP-Lung04ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.SKYSCRAPER-03ED-SCLC4.DeLLphi-303Presidential symposium1.進行扁平上皮NSCLCの初回治療として、化学療法+チスレリズマブと化学療法+ivonescimabを比較する第III相試験:HARMONi-6本試験は、StageIII~IVでEGFR、ALK遺伝子異常のない、未治療進行扁平上皮NSCLCを対象に、標準治療群としてカルボプラチン(AUC 5、Q3W)+パクリタキセル(175mg/m2、Q3W)+チスレリズマブ(PD-1阻害薬)と、試験治療群のカルボプラチン+パクリタキセル+ivonescimab(20mg/kg、Q3W)を比較する第III相試験で、中国のみで実施された。ivonescimabは、PD-1とVEGFを標的とする二重特異性抗体である。ivonescimab群と標準治療群にそれぞれ266例ずつ割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。扁平上皮NSCLCでは一般的に抗VEGF抗体が使用されない、中枢病変や大血管浸潤、空洞のある患者や喀血の既往歴がある患者も含まれた。今回の発表は、事前に規定された中間解析の結果であり、観察期間中央値は10.28ヵ月であった。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ivonescimab群/標準治療群で11.14ヵ月/6.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.46~0.78]、p<0.0001)であり、ivonescimab群が良好であった。奏効割合(ORR)は75.9%/66.5%(p=0.008)とivonescimab群で高く、PD-L1の発現状況によらずivonescimab群が良好であった。Grade3以上の有害事象は、ivonescimab群/標準治療群で63.9%/54.3%に認められ、治療関連死亡や免疫関連有害事象(irAE)の頻度は両群で大差なく、ivonescimab群でVEGFに関連する毒性を認めたが、多くはGrade1~2であった。<結論>化学療法+ivonescimabは進行扁平上皮NSCLCにおいて、有意にPFSを延長し、今後の新規治療になりうる。<コメント>事前に規定された中間解析で観察期間が短いが、PFSは有意に化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と比較し延長したことは評価したい。しかしながら、標準治療となるにはOSの延長が必要であり、さらなるフォローアップデータが求められる。2.EGFR-TKI治療後に増悪したEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する、プラチナ製剤併用化学療法とsacituzumab tirumotecan (sac-TMT)を比較する第III相試験:OptiTROP-Lung04本試験は、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)治療後の増悪例、もしくは第1、2世代EGFR-TKI治療増悪後にT790M陰性かつEGFR感受性変異陽性例に対して、化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド)とsacituzumab tirumotecan(sac-TMT:TROP2標的抗体薬物複合体[ADC])(5mg/kg IV、Q2W)を比較する第III相試験である。本試験も中国のみで実施された。sac-TMT群、化学療法群にそれぞれ188例ずつ割り付けられた。患者背景は両群でバランスがとれており、初回治療で第3世代EGFR-TKIによる治療を受けた患者は、sac-TMT群/化学療法群で118例(62.8%)/117例(62.2%)、EGFR遺伝子サブタイプはEx19delが106例(56.4%)/118例(62.8%)、L858Rが84例(44.7%)/71例(37.8%)、脳転移ありは33例(17.6%)/36例(19.1%)であった。主要評価項目であるPFSの中央値は、sac-TMT群/化学療法群で8.3ヵ月(95%CI:6.7~9.9)/4.3ヵ月(同:4.2~5.5)であり、sac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.49[95%CI:0.39~0.62])。さらにOSは、sac-TMT群/化学療法群で未到達(95%CI:21.5~推定不能)/17.4ヵ月(同:15.7~20.4)であり、こちらもsac-TMT群で有意な延長を認めた(HR:0.60[95%CI:0.44-0.82])。ORRはsac-TMT群/化学療法群で60.6%/43.1%(群間差17.0%[95%CI:7.0~27.1])であった。後治療は72.3%/85.5%で実施された。毒性について、有害事象の頻度は両群で差がなく、sac-TMT群の主な有害事象は貧血(85%)、白血球減少(84%)、脱毛(84%)、好中球数減少(75%)、胃炎(62%)であった。眼関連の有害事象を9.6%に認めたが多くはGrade1~2であり、ILDは認めなかった。<結論>sac-TMTはEGFR-TKI治療後に増悪した進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいて、化学療法と比較してPFS、OSを延長し有望な治療選択となる。<コメント>中国のみで実施された第III相試験で、薬剤の承認にglobal試験の必要性が問われる。今後は同対象への初回治療での試験が進行中であり、進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療は目まぐるしく変わっていくと予想される。ドライバー陰性切除不能StageIII NSCLC3.切除不能StageIII NSCLCに対する、プラチナ同時併用放射線治療後のデュルバルマブとアテゾリズマブ+tiragolumabを比較する第III相試験:SKYSCRAPER-03本試験は、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子異常を除く、切除不能StageIII NSCLCに対して、化学放射線治療(CRT)後に、標準治療であるデュルバルマブ群と試験治療群であるアテゾリズマブ+tiragolumab群を比較する第III相試験である。アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群にそれぞれ413/416例が割り付けられ、患者背景は両群でバランスがとれていた。白人は55.7%/59.6%、PD-L1<1%は49.4%/49.5%、1~49%は25.7%/28.1%、≧50%は24.9%/22.4%、扁平上皮がんは59.1%/59.9%であった。主要評価項目であるPD-L1≧1%集団のPFSの中央値は、アテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で19.4ヵ月/16.6ヵ月(HR:0.96[95%CI:0.75~1.23]、p=0.7586)、副次評価項目であるOSの中央値はアテゾリズマブ+tiragolumab群/デュルバルマブ群で未到達/54.8ヵ月(HR:0.99(95%CI:0.73~1.34)であり、いずれもアテゾリズマブ+tiragolumab群は延長を示せなかった。毒性については、両群で有害事象の頻度に差がなく、アテゾリズマブ+tiragolumab群で掻痒感、皮疹などが多く認められた。<結語>本試験は主要評価項目であるPFSの延長を示せず、新規治療とはならなかった。毒性は新規プロファイルのものはなかった。<コメント>2018年にCRT後のデュルバルマブが標準治療として確立されて7年経過するが、新規治療法の承認がされていない。近年、術前導入化学免疫療法が良好な成績を示しており、StageIII NSCLCの治療戦略は大きく変化している。SCLC4.ED-SCLCに対するプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬+タルラタマブの治療成績:DeLLphi-303(パート2、4、7)初回治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)の併用療法を1サイクル実施したED-SCLC患者を対象に、導入療法と維持療法へのタルラタマブ上乗せの安全性、有効性を確認する第Ib相試験(パート2、4、7)が実施された。96例が登録され、PD-L1阻害薬の内訳はアテゾリズマブ56例(58.3%)、デュルバルマブ40例(41.7%)であった。全体で男性が67%、アジア人が16%、白人が74%、非喫煙者が7%であった。全体で、タルラタマブ開始時からのORR、奏効期間中央値はそれぞれ71%、11.0ヵ月であった。OS中央値は未到達で、1年OS割合は80.6%であった。毒性について、サイトカイン放出症候群(CRS)と免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、いずれもサイクル1での発現が多く、ほとんどがGrade1/2であった。タルラタマブに関連した死亡は認められていない。<結論>標準治療であるプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬および維持療法としてのPD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、有望な治療成績を示した。現在、初回治療におけるプラチナ製剤+エトポシド+デュルバルマブおよび維持療法としてのデュルバルマブと比較するDeLLphi-312試験(NCT07005128)が進行中である。<コメント>タルラタマブは2次治療、初回治療へ順次適応範囲を広げていく予定である。初回治療での化学療法+PD-L1阻害薬との併用は、有効性、安全性ともに問題なく、第III相試験の結果が待たれる。ADC製剤の開発も盛んに行われており、SCLCも治療が数年で目まぐるしく変わっていくと予想される。

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非小細胞肺がんにおける新たな治療「TTフィールド:腫瘍治療電場療法」とは?【肺がんインタビュー】第117回

第117回 非小細胞肺がんにおける新たな治療「TTフィールド:腫瘍治療電場療法」とは?非小細胞肺がん(NSCLC)の治療は目覚ましい進歩を遂げているが、まだ多くの課題が残る。このような背景の中、2025年に承認された腫瘍治療電場(TTフィールド)療法「オプチューンルア」が、新たな治療モダリティとして注目されている。オプチューンルアの作用機序、臨床試験結果、使用方法についてノボキュア株式会社代表取締役の小谷 秀仁氏に聞いた。TTフィールドの主な2つの作用――TTフィールドの作用メカニズムについて教えてくださいTTフィールドは、tumor -treating field、腫瘍治療電場を指すものです。電場とは何か?と疑問をいただく先生方も多くおられると思います。私たちは地球の重力や磁場に引っ張られて生活しています。電場もこれと同様のもので、プラスとマイナスの電荷の間に起きる力です。私たちは痛みも痒みも感じないまま電場と共に生活しています。ヒトの細胞のタンパク質は、プラス・マイナスの電荷を帯びています。通常、細胞は電場の中で安定しているのですが、プラスとマイナスが絶えず入れ替わる交流電場が両脇に存在すると不安定になります。TTフィールドは、この交流電場をがん治療に応用したものです。TTフィールド抗がん作用は主に2つと考えられます。1つは直接作用としての有糸分裂阻害です。細胞分裂にはチューブリンの重合が必要ですが、この重合はプラスとマイナス電荷の作用で起こります。そこに交流電場があると重合が阻害されることで細胞分裂が阻害され、細胞のアポトーシスが誘導されます。画像を拡大する株式会社ノボキュア提供もう1つは間接作用としての免疫原性細胞死による全身的な抗腫瘍効果です。直接作用によってアポトーシスを起こします。いわゆるdamps(damage-associated molecular patterns、ダメージ関連分子パターン)状態になるため異物とみなされ、活性化した全身的な抗腫瘍免疫により免疫原性細胞死に至らされます。つまり、電場が作用している部位(インフィールド)だけでなく、離れた部位(アウトフィールド)においても抗腫瘍効果を示すことで、原発巣のみならず転移巣への効果も期待されています。この2つ以外にもさまざまなメカニズムが考えられますが、現在研究中です。――正常細胞には影響しないとお聞きしていますが。これには2つの理由があります。1つは腫瘍細胞と正常細胞で電場に対する最適な周波数が異なることです。今回の肺がん細胞では150kHz、脳腫瘍細胞では200kHzで、治療もそれの周波数で設定されています。一方、正常細胞が最も影響を受ける周波数は、それよりかなり低く、この違いによって腫瘍細胞への選択性が生じます。もう1つは細胞分裂の強さによる選択性です。TTフィールドは有糸分裂阻害によって細胞分裂を阻害するため、急速に分裂する腫瘍細胞に選択性がより高くなります。正常細胞への影響が少ないこともあり、膠芽腫、膵臓がん、NSCLCの臨床試験における機器関連の有害事象としてはアレイ(電極)貼付による接触皮膚炎が主なもので、そのほとんどがGrade 1、2でした1,2,3)。――肺がんにおけるTTフィールド開発の背景について教えてください。ノボキュア社には、難治性がん患者さんのために最善を尽くすというミッションがあります。TTフィールドでは、肺がん以外にも、膠芽腫、膵がん、中皮腫という予後不良ながんの治療応用に取り組んでいます。肺がん治療においては、2000年以降に多くの抗がん剤が上市され、多くの患者さんを助けたと思います。とくに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は非常に画期的で、肺がん治療を大きく変えました。ただし、ICI後の2次治療については新たな選択肢が出てきていないという実態があります。そこで非小細胞肺がん(NSCLC)のプラチナ含有化学療法後の2次治療に対して、TTフィールド「オプチューンルア」の開発を行いました。ICIの有効性をさらに向上させた肺がん試験の結果――NSCLCの2次治療ではLUNAR試験3)が行われています。主要結果はどのようなものでしたか?LUNAR試験は国際多施設共同非盲検第III相試験です。プラチナ含有化学療法またはICIで進行したステージIVのNSCLCを対象に、オプチューンルアとICIまたはドセタキセルとの併用療法と、ICIまたはドセタキセルの単独療法を比較しました。組み入れ患者数は291例です。当初は倍の症例数を計画していたのですが、中間解析の時点で独立データモニタリング委員会の勧告で、組み入れ数を約半数に、観察期間も短縮して試験を終了しています。本試験の結果、全体集団(ITT集団)における全生存期間(OS)中央値は、標準治療群(単独群)が9.9ヵ月であったのに対し、オプチューンルア併用群は13.2ヵ月と、3.3ヵ月の有意な延長が認められました(p=0.035)。とくにICI併用においては、オプチューンルア併用群で19.0ヵ月、ICI単独群では10.8ヵ月と、併用群でさらに大きなOS延長効果が示されています(p=0.02)。ドセタキセル併用においては、オプチューンルア併用群で11.1ヵ月、ドセタキセル単独群では8.7ヵ月で、統計的な有意差は証明されませんでしたが(p=0.28)、併用群で良好な傾向が示されています。※※オプチューンルアの日本国内での適応はICI併用のみ――オプチューンルアの有効性はICIとの併用群でとくに良好ですが、この結果は抗腫瘍免疫の活性化によるものでしょうか?膠芽腫に対するペムブロリズマブとの併用における研究でもLUNAR試験と同様の結果が出ています4)※。ICIは非常に有効性の高い薬であるにもかかわらず、LUNAR試験においてはオプチューンルアの併用でOSを10.8ヵ月から19.0ヵ月と倍近く延長しています。このことからも、腫瘍免疫を活性化する作用が強い可能性はあると思っております。※新規膠芽腫患者におけるTTフィールド(TTF)+テモゾロミド(TMZ)+ペムブロリズマブ(PEM)の第II相2-THE-TOP試験において、TTF+TMZ群(ヒストリカルコントロール)に比べ、TTF+TMZ+PEM群でPFS(p=0.00261)及びOS(p=0.0477)が有意に改善した。悪性度の高い病態に希望をもたらす新たな治療選択肢――オプチューンルアの使用方法について教えていただけますか。同キットの使用に際しては、トランスデューサーアレイ(電極)とTTフィールドジェネレーター(TTフィールド発生器)を用います。アレイをコードでTTフィールドジェネレーターに接続します。肺がん患者さんの場合、右胸、左背中、左胸、右背中の4枚のアレイを90度交差した2つのペアとして貼付し、胸部全体に電場を形成します。なぜ2つのペアが必要なのかと聞かれるのですが、がん細胞には向き(極性)があるため、なるべく多くの細胞を腫瘍電場の中で捉えていくために、90°に交差した2つのペアを使っています。治療は1日18時間以上を推奨しております。――18時間以上装着とのことですが、連続していなくてもよいのでしょうか?治療効果を最大限に引き出すための推奨ですので、連続していなくても問題ありません。オプチューンルアの効果発現のカットオフ値は1日平均12時間(使用時間率月間平均50%)以上ですが、膠芽腫では長く使うほど抗腫瘍効果が強くなることが確認されています。アレイの電源はコンセントからも携帯用のバッテリーからもとれますので、家でも外出先でも使用できます。お風呂に入る時には剥がして、お風呂から出たら新しいアレイを貼っていただいたり、自宅にいる時に使って外出する時は外したり、患者さんの生活に合わせて適用していただければと思います。画像を拡大する株式会社ノボキュア提供――先生方にメッセージをお願いします。和泉市立総合医療センターの光冨 徹哉先生から、LUNAR試験の結果について、コメントいただいております。「オプチューンルアが進行NSCLCの患者さんに対し、重大な副作用を伴うことなく全生存期間を改善し、大きな恩恵をもたらすことが示されました。同機器が厚生労働省に承認されたことにより、この悪性度の高い疾患に新たな治療選択肢を提供し、希望をもたらすことができました」というものです。先生方へのメッセージとしては、この言葉が最も適していると思っています。患者さんの受け取り方もユニークで「自分が治療に積極的に関与しているという感覚を得られる」という感想をいただきます。先生方におかれましては、適正使用のもと、この新しい治療選択肢を患者さんのためにご活用いただければ幸いです。※TTフィールド療法としては2015年3月15日に再発膠芽腫、2016年12月20日に初発膠芽腫にNovoTTF-100Aシステム(ブランド名:オプチューンジオ)が承認され、本年(2025年)9月12日に「白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で増悪が認められた切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんと診断された成人患者」に対しPD-1/PD-L1阻害剤との併用でオプチューンルアが承認された。参考1)Stupp R, et al.JAMA.2017;318:2306-2316.2)Babiker HM, et al. J Clin Oncol.2025;43:2350-2360.3)Leal T, at al. Lancet Oncol.2023;24:1002-1017.4)Chen D, et al. Med.2025;6:100708.5)オプチューンルア承認プレスリリース(株式会社ノボキュア)

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ESMO2025 レポート 乳がん(転移再発乳がん編)

レポーター紹介2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。[目次]転移再発乳がん編ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.evERA2.VIKTORIA-1HER2陽性乳がん3.DESTINY-Breast09トリプルネガティブ乳がん4.ASCENT-035.TROPION-Breast02ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.evERA:ESR1陽性HR+/HER2-転移乳がんに対するgiredestrant(経口SERD)+エベロリムス併用療法の有効性の報告evERAは、ホルモン受容体(ER)陽性、HER2陰性の進行/転移乳がん患者に対する新規経口SERD「giredestrant(ギレデストラント)」にエベロリムス(mTOR阻害薬)併用の、対照群として医師選択の内分泌療法(エキセメスタン/タモキシフェン/フルベストラント)+エベロリムスに対する、有効性と安全性を検証した国際第III相臨床試験である。対象は、CDK4/6阻害薬による治療歴があるER陽性/HER2陰性進行/転移乳がん患者(ESR1変異陽性も含む)であった。373例が参加し、日本人患者も参加していた。ITT集団において、giredestrant+エベロリムス群の無増悪生存期間(PFS)中央値は8.77ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.60~9.59)に対し、対照群(内分泌療法+エベロリムス)では 5.49ヵ月(95%CI:4.01~5.59)(ハザード比[HR]:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。ESR1変異陽性サブ集団では、PFS中央値が9.99ヵ月(95%CI:8.08~12.94)に対し、対照群で5.45ヵ月(95%CI:3.75~5.62)、PFSのHR:0.38(95%CI:0.27~0.54、p<0.0001)であり、統計学的有意にgiredestrant群のPFSが良好であった。全生存期間(OS)データは未成熟だが、ITT集団ではHR:0.69(95%CI:0.47~1.00、p=0.0473)、ESR1変異陽性ではHR:0.62(95%CI:0.38~1.02、p=0.0566)と、良好な傾向であった。安全性については、giredestrant+エベロリムス併用群は、既知の薬剤プロファイルに準じた有害事象(AE)が観察され、新たな安全信号は確認されていないと報告。主要な有害事象としては、口内炎(stomatitis)、下痢、貧血など、エベロリムスでよく知られた有害事象が中心であり、giredestrantに特徴的な有害事象としてはGrade 1/2の徐脈(3.8%)であり、忍容性は良好と報告されていた。日本ではあまり積極的に使用されていないエキセメスタンなどの内分泌療法とエベロリムスの併用療法であるが、欧米ではCDK4/6阻害薬治療後の2次治療での主要な選択肢になっている。このため、evERAの結果を受けて、今後のCDK4/6阻害薬による治療で病勢進行した場合の主要な選択肢としてgiredestrantとエベロリムスが期待される結果となった。PFSとOSのトレンドとしては、ESR1変異のある症例での有効性に、ITTも引っ張られている様子で、ESR1変異のない集団では試験治療群と対照群のPFSやOSの差はほとんどない様子であった。このため、これまでのほかの経口SERD同様に、ESR1変異のある症例での承認を目指していくことと思われる。2.VIKTORIA-1:PAM経路(PI3K/AKT/mTOR)阻害によるホルモン耐性乳がんの克服VIKTORIA-1は、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬による治療後に進行したHR+/HER2-/PIK3CA野生型進行乳がん患者を対象とした第III相ランダム化試験である。VIKTORIA-1にはPIK3CA変異コホートもあるが、今回は報告されていない。392例の患者が、「gedatolisib(ゲダトリシブ)」(PI3K/mTORC1/mTORC2阻害薬、点滴)+パルボシクリブ+フルベストラント(3剤併用群)、gedatolisib +フルベストラント(2剤併用群)、またはフルベストラント単独群にランダム割付された。3剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.24、95%CI:0.17~0.35、p<0.0001と、PFSを改善させた。PFSの中央値は3剤併用群9.3ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月(差:+7.3ヵ月)であった。2剤併用群は、フルベストラント単独群と比較して、HR:0.33(95%CI:0.24~0.48、p<0.0001)と、PFSを改善させた。PFSの中央値は2剤併用群7.4ヵ月に対してフルベストラント単独群2.0ヵ月であった。gedatolisibベースの治療は良好に忍容され、治療関連有害事象により中止した患者はごく少数であった。これまでも、CDK4/6阻害薬耐性HR+乳がん患者に対して、PAM経路標的化は新しい治療戦略を提供することを示唆してきた。gedatolisibの二重特異的阻害特性により、より強力な細胞周期制御と耐性機序の同時阻害が期待されるが、VIKTORIA-1の結果は、トリプレット療法がこの高度に耐性のある患者集団に対してとくに有望であることを示唆した。CDK4/6阻害薬の治療後にCDK4/6阻害薬のbeyond progressionの使用の有効性を示したpostMONARCHやMAINTAINは別のCDK4/6阻害薬からの変更が主体であったが、VIKTORIA-1で3剤併用群のパルボシクリブ併用の症例のうち約4割はパルボシクリブによる前治療歴があり、パルボシクリブのシークエンスでもある程度上乗せ効果が期待できる可能性を示唆している。また、VIKTORIA-1は日本では実施されておらず、今後はドラッグロスの1つとなる可能性が懸念される。来年度以降の1次、2次内分泌療法のシークエンス(予想)は以下のとおり。画像を拡大するHER2陽性乳がん3.DESTINY-Breast09サブグループ解析:サブグループによらずT-DXd+PERが標準治療にDESTINY-Breast09(第III相、トラスツズマブ デルクステカン[T-DXd]+ペルツズマブ[T-DXd+PER群]vs.標準療法:タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ[THP群])は、ASCO2025で、すでにその主要評価項目が発表され、T-DXd+PER群のTHP群に対するPFSの優越性が検証された。今回ESMO Congress 2025では、すべてのサブグループでT-DXd+ペルツズマブがPFSを大きく延長したことが報告された。T-DXd+PER群のPFSのHRや中央値は既存標準治療を大きく上回る結果で、今後、1次治療の標準になる可能性が示された。サブグループ解析結果のまとめを以下に示す。画像を拡大するトリプルネガティブ乳がん4.ASCENT-03:PD-L1陰性のTNBCの初回治療にサシツズマブ ゴビテカンが名乗りを上げるASCENT-03は、免疫療法が適応とならないPD-L1陰性またはPD-1/PD-L1阻害薬不適格の未治療転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者を対象とした第III相ランダム化試験である。558例が、サシツズマブ ゴビテカン(SG)群または化学療法(パクリタキセル、アルブミン懸濁パクリタキセル、またはゲムシタビン+カルボプラチン)群にランダム割付された。中央値13.2ヵ月のフォローアップで、PFSの中央値はSG群で9.7ヵ月、化学療法群で6.9ヵ月(HR:0.62、p<0.0001)であり、統計学的有意にPFSの改善を示した。奏効期間(DOR)の中央値はSG群で12.2ヵ月、化学療法群で7.2ヵ月で、SG群で著しく長かった。奏効率(ORR)は両群で同程度であった(48%vs.46%)。発表時点でOSデータはまだ未成熟であったが、試験としては、対照群では2次治療以降で希望者は企業提供によりSG治療のクロスオーバーが可能であった。このため、82%が2次治療以降でSGを受けたとされる。有害事象は、SG群の好中球数減少など、これまでに知られている内容から大きな違いはなかった。約40~60%の転移TNBC患者はPD-L1陰性であり、そういった患者に対するより有効な治療が期待されている。本試験結果は、現在2次治療以降で使用されているSGが初回治療の標準治療となりうる可能性を示した重要な結果であった。5.TROPION-Breast02:もう1つのADC TNBC初回治療成績TROPION-Breast02は、免疫療法が適応とならない未治療の転移・局所再発TNBC患者644例を対象に、抗TROP2 ADC「ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)」の1次治療としての有効性・安全性を主治医選択の化学療法と比較した国際第III相試験である。主要評価項目はPFSとOSであった。結果として、PFS中央値はDato-DXd群10.8ヵ月、化学療法群5.6ヵ月であり、PFSのHR :0.57(95%CI:0.47~0.69、p<0.0001)、OS中央値はDato-DXd群23.7ヵ月、化学療法群18.7ヵ月であり、OSのHR:0.79(95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)と、いずれも統計学的有意にDato-DXd群が良好であった。ORRもDato-DXd群62.5%、化学療法群29.3%と、Dato-DXd群が良好であった。安全性としては主なGrade3以上有害事象は口内炎・粘膜炎、視覚障害であり、これまでの報告に比べて新たな有害事象報告は認めなかった。以下に、ASCENT-03とTROPION-Breast02の違いをまとめる。なお、対照群の治療内容が異なるため、奏効率も各試験で異なっている。ASCENT-03は人道的配慮から、企業が対照群の病勢進行後のSGを提供することでクロスオーバーを許容しており、OSの差が検出されづらくなっていた。一方でTROPION-Breast02はクロスオーバーが実質的に不可能であるため、OSの差が中間解析の段階で検証されたと思われる。奏効率に関しては、試験治療群の結果を見る限りでは、Dato-DXdのほうが高いように思われた。来年以降将来的には、PD-L1陽性群ではSG+ペムブロリズマブがASCENT-04に基づいて初回治療として検討され、PD-L1陰性群ではSGまたはDato-DXdが検討される時代になると想定される。その際には、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するか、次治療で別のTROP2 ADCへのシークエンスをどうするか、HER2低発現でT-DXdへのシークエンスをどうするか、などの検討が生まれるだろう。現時点でのデータの状況であれば、SGまたはDato-DXdのいずれを優先するかについては、有害事象の違いを考慮する必要があるが、OS利益がはっきりしているDato-DXdのほうに分があるように思われる。画像を拡大する終わりに今回のESMO Congress2025では、数多くのランダム化第III相試験の結果が報告され、実臨床を大きく変える研究結果が報告された。各試験の限界や問題点を考慮しつつ、来年以降の標準治療のあるべき姿と、生まれてきた新たなクリニカルクエスチョンに関して、創出すべきエビデンスを考えていきたいと思う。

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進行扁平上皮NSCLCの1次治療、ivonescimab併用がICI併用と比較しPFS改善(HARMONi-6)/Lancet

 未治療の進行扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、ivonescimab+化学療法はチスレリズマブ+化学療法と比較して、PD-L1の発現状態を問わず無増悪生存期間(PFS)を有意に改善させ、安全性プロファイルは管理可能なものであった。中国・上海交通大学のZhiwei Chen氏らが、同国50病院で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「HARMONi-6試験」の結果で示された。扁平上皮NSCLCは非扁平上皮NSCLCと比べて臨床アウトカムが不良で、治療選択肢は限られている。今回の結果を踏まえて著者は、「本レジメンは扁平上皮NSCLC患者集団における1次治療として使用できる可能性がある」とまとめている。Lancet誌2025年11月1日号掲載の報告。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)で層別化 HARMONi-6試験では、進行扁平上皮NSCLC患者に対する1次治療として、ivonescimab+化学療法(ivonescimab群)の有効性と安全性をチスレリズマブ+化学療法(チスレリズマブ群)と比較した。対象は、年齢18~75歳、未治療・切除不能な病理組織学的に確認されたStageIIIB/IIICまたはStageIVの扁平上皮NSCLCで、ECOG PSスコア0または1の患者とした。 被験者は、ivonescimab群またはチスレリズマブ群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、ivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)+パクリタキセル(175mg/m2)およびカルボプラチン(AUC 5mg/mL/分)をいずれも静脈内投与で3週ごとに4サイクル受けた後、維持療法としてivonescimab(20mg/kg)またはチスレリズマブ(200mg)の単独療法を受けた。臨床病期(IIIB/IIIC期vs.IV期)、PD-L1発現(TPS≧1%vs.<1%)によって層別化された。 主要評価項目は、無作為化された全被験者におけるPFS(RECIST v1.1に基づく独立画像判定委員会判定)であった。また、安全性(治療に関連した有害事象および重篤な有害事象ならびに免疫またはVEGF阻害に関連した有害事象と定義)は、割り付け治療の試験薬を少なくとも1回投与された全被験者を対象に解析が行われた。PFS中央値はivonescimab群11.1ヵ月、チスレリズマブ群6.9ヵ月 2023年8月17日~2025年1月21日に761例が適格性についてスクリーニングを受け、532例(70%)が試験に登録・無作為化された(ivonescimab群266例、チスレリズマブ群266例)。ベースライン特性は両群間でバランスが取れており、被験者は、ほとんどが現在または元喫煙者で(92%と86%)、両群ともPD-L1 TPS<1%は39%であった。 データカットオフ日の2025年2月28日時点で、ivonescimab群で162例(61%)、チスレリズマブ群で134例(50%)が割り付け治療を継続していた。追跡期間中央値は10.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.0)で、PFS中央値は、ivonescimab群11.1ヵ月(95%CI:9.9~評価不能)、チスレリズマブ群6.9ヵ月(5.8~8.6)であった(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.46~0.78、片側p<0.0001)。ivonescimab群のPFS改善、PD-L1発現状態にかかわらず ivonescimab群におけるPFSベネフィットは、PD-L1の発現状態にかかわらず一貫して認められた(TPS≧1%群のHR:0.66[95%CI:0.46~0.95]、<1%群:0.55[0.37~0.82])。 ivonescimab群で170例(64%)、チスレリズマブ群で144例(54%)にGrade3以上の治療関連有害事象が認められ、ivonescimab群で24例(9%)、チスレリズマブ群で27例(10%)にGrade3以上の免疫関連有害事象が認められた。Grade3以上の治療関連出血は、ivonescimab群で5例(2%)、チスレリズマブ群で2例(1%)に認められた。

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ESMO2025 レポート 乳がん(早期乳がん編)

レポーター紹介2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。[目次]早期乳がん編ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.monarchEHER2陽性乳がん2.DESTINY-Breast053.DESTINY-Breast11トリプルネガティブ乳がん4.PLANeTその他5.POSITIVEホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.monarchE:HR陽性/HER2陰性早期乳がん患者における術後療法の全生存期間の改善効果monarchEは、高リスクホルモン受容体陽性(HR+)、HER2陰性早期乳がん患者における術後療法の有効性を評価する第III相ランダム化試験である。5,120例が内分泌療法単独または2年間のアベマシクリブと内分泌療法の組み合わせにランダム割付された。高リスク患者は、腋窩リンパ節≧4個陽性、または1~3個陽性で組織学的グレード3および/または腫瘍径≧5cm、あるいはKi67≧20%と定義された。中央値76ヵ月のフォローアップで、アベマシクリブ+ホルモン療法はホルモン療法単独と比較して、死亡リスクを15.8%低下させた(ハザード比[HR]:0.842、p=0.0273)。7年時点での無浸潤疾患生存(iDFS)イベントリスクの低下は26.6%(名目上のp<0.0001)、無遠隔再発生存(DRFS)イベントリスクの低下は25.4%(名目上のp<0.0001)であった。約7年追跡時点で、標準内分泌療法+アベマシクリブ群の全生存(OS)率は86.8%、内分泌療法単独群は85.0%であり、絶対差は1.8%であった。これらの成績は、アベマシクリブ中止後も長期間持続し、乳がん術後内分泌療法におけるCDK4/6阻害薬併用が微小転移性疾患を持続的に抑制する可能性を示している。術後治療でHR陽性HER2陰性乳がんのみに限定して、全生存期間の改善を示した臨床試験は限られており、その意味でも非常に意義深い結果である。HER2陽性乳がん:T-DXdの“治癒可能”病期への本格進出2.DESTINY-Breast05:HER2陽性乳がん再発高リスク患者における術前薬物療法後に残存病変を有する症例に対するトラスツマブ デルクステカンの追加効果の検証DESTINY-Breast05は、術前薬物療法後に非pCR(残存浸潤病変を有する)の高リスクHER2陽性早期乳がん患者を対象とした、第III相ランダム化試験である。本試験では、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と、標準治療であるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した。1,635例が登録され、3年iDFS率はT-DXd群92.4%(95%信頼区間[CI]:89.7~94.4)に対し、T-DM1群83.7%(95%CI:80.2~86.7)であった。浸潤性再発または死亡のリスクはT-DXd群で53%減少した(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.0001)。Grade3以上の有害事象発生率は両群でほぼ同等であった(T-DXd群50.6%、T-DM1群51.9%)。ただし、薬剤性間質性肺疾患(ILD)はT-DXd群でより多く報告され(9.6%vs.1.6%)、2例の致死例(Grade 5)が認められた。左室機能障害は低率であった(1.9%)。これらの結果は、T-DXdが治癒を目指す術前療法領域に進出しうることを示唆しており、高リスク残存病変例における新たな標準治療候補として位置付けられる。さらに、本試験結果を実臨床で運用する上でのILDの評価と早期介入が必要であることを示唆した。DB-05とKATHERINEの患者対象の違いは以下のとおり。画像を拡大する3.DESTINY-Breast11:HER2陽性乳がんにおける術前抗がん剤治療におけるアントラサイクリン除外戦略DESTINY-Breast11は、高リスクHER2陽性早期乳がんに対し、アントラサイクリン非使用戦略を評価した第III相試験である。T3以上、リンパ節転移陽性、または炎症性乳がんを対象に、640例がT-DXd-THP(T-DXd単独→パクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ)群またはddAC-THP(ドキソルビシン+シクロホスファミド→THP)群に割り付けられた。pCR(病理学的完全奏効)割合はT-DXd-THP群で67.3%、ddAC-THP群で56.3%(差:11.2ポイント、95%CI:4.0~18.3、p=0.003)であった。ホルモン受容体状態にかかわらず一貫した傾向を示した。無イベント生存期間(EFS)ではT-DXd-THP群に有利なトレンドがみられた(HR:0.56、95%CI:0.26~1.17)。有害事象(Grade≧3)はT-DXd-THP群で37.5%、ddAC-THP群で55.8%と低率で、左室機能障害も少なかった(1.9%vs.9.0%)。ILDの発生は両群で低頻度かつ同等であった。この結果から、HER2陽性乳がんの周術期治療としてアントラサイクリンの使用が必須ではないことが示唆され、T-DXdを基盤とする新術前療法が高い奏効割合と毒性の低減を両立しうることが検証された。とくに海外においては、アントラサイクリン系抗がん剤の使用に対する忌避が強く、カルボプラチンとドセタキセル併用のレジメンが中心となってきているが、今回の結果はアントラサイクリン系の省略に向けたさらなる示唆を提示した。早ければ来年度中に、本邦でもDB05、DB11レジメンが適応拡大される可能性がある。先のDB05と相まって、いずれも選択可能となった場合に、術前療法でT-DXdを使用するのか、EFSなど長期成績がT-DXd群で改善することが証明されてからDB11が運用されていくべきなのか、pCR割合の改善をもって標準治療としてよいと考えるか、現在議論になっている。画像を拡大するトリプルネガティブ乳がん4.PLANeT:TNBCの周術期治療における低用量ペムブロリズマブの併用PLANeTは、インド・ニューデリーのがん専門施設単施設において実施された第II相ランダム化試験である。StageII~IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対して、標準的術前化学療法に「低用量ペムブロリズマブ(50mg/6週間ごと×3回)」を併用する群vs.化学療法単独群(dose dense AC療法とdose denseパクリタキセル療法)の比較であった。主要評価項目は術前化学療法+低用量ペムブロリズマブ併用群と化学療法単独群のpCR割合の比較であり、副次評価項目にiDFSやQOLが含まれていた。すでに、TNBC患者に対する周術期治療におけるペムブロリズマブの通常用量(200mg/3週間ごとなど)の併用は、KEYNOTE-522試験においてpCR割合、EFS、OS改善が証明されており、標準治療となっている。一方で、低〜中所得国・医療資源制限環境では高額薬剤/免疫療法アクセスが課題となっており、“低用量併用”戦略がコスト・アクセス面で代替案になりうる可能性が検討されている。本試験では、157例が各群に割り付けられ(低用量併用群78例、対照群79例)、治療が実施された。ITT解析でのpCR割合は低用量併用群53.8%(90%CI:43.9~63.5)、対照群40.5%(90%CI:31.1~50.4)、絶対差:13.3%(90%CI:0.3~26.3、片側p=0.047)であり、ペムブロリズマブ低用量併用による、統計学的有意なpCR割合の改善が示された。また、有害事象としても、Grade 3以上の有害事象は低用量併用群50%、対照群59.5%で、重篤毒性はむしろ低率であった。とくにirAEとして、甲状腺機能障害は低用量併用群10.3%と、KEYNOTE-522試験よりも低めであった。ただし、低用量併用群で1例の治療関連死亡(中毒性表皮壊死症)が報告された。本試験はフォローアップ期間・無病生存データ・最終OSデータなどはまだ不十分で、「仮説生成的(hypothesis‐generating)」段階であるものの、コスト・アクセス改善(低用量による医療経済性改善)を重視した設計であり、とくに資源制約のある地域で免疫療法併用治療を普及させる可能性が示唆された。ただ、問題としてはペムブロリズマブ50mgという投与量が十分か? という科学的根拠はほとんどない様子であり、KEYNOTE-522試験レジメンが使用可能な国における標準治療に影響を与えるものではない。その他5.POSITIVE:妊娠試みによる内分泌療法中断の予後や出産児に与える影響の検討POSITIVE(Pregnancy Outcome and Safety of Interrupting Therapy for young oNco‐breast cancer patients)は、若年HR+乳がん患者において、術後内分泌療法を一時中断して、再発リスクを増やさずに妊孕(妊娠を試みること)可能かを検証した前向き試験である。ESMO Congress 2025では、5年フォローアップ成績が報告されており、“妊娠試みによる内分泌療法中断”が少なくとも5年時点では再発リスクを有意に増加させていないという結果が報告された。518例のHR陽性 StageI~III乳がん患者が、術後18~30ヵ月内分泌療法を継続した後、最大2年間の内分泌療法中断で妊娠を試み、その安全性と妊孕性、再発への影響を評価された。登録時の平均年齢は35~39歳が最多。対象の75%は出産歴がなく、62%が化学療法も受けていた。5年乳がん無発症割合(BCFI)は、POSITIVE群12.3%、外部対照のSOFT/TEXT群13.2%と差は−0.9%(95%CI:−4.2%~2.6%)であった。5年無遠隔再発率(DRFI)はPOSITIVE群6.2%、SOFT/TEXT群8.3%(差:−2.1ポイント%、95%CI:−4.5%~0.4%)で、内分泌療法一時中断による再発・転移リスク増加は認められなかった。HER2陰性のサブ解析でも同様の結果。年齢やリンパ節転移、化学療法歴などで層別しても有意差なしだった。試験期間中、76%が少なくとも一度妊娠し、91%が少なくとも一度生児出産。365人の子供が誕生した。出生児の8.6%が低出生体重、1.6%が先天性欠損だったが、これは一般母集団と同等であった。また、ART(胚・卵子凍結など)を利用した女性でも再発リスクは非利用者と同等であり、母乳育児も高率で実現し、安全であることも確認された。内分泌療法中断後、82%が内分泌療法を再開した。POSITIVE試験は、妊娠希望のHR陽性乳がん女性が、内分泌療法を最大2年中断して妊娠・出産しても短期再発リスクは増加しないこと、妊娠やART、母乳育児の成績・安全性も良好で、安心材料となるエビデンスを提供しており、患者さんへのShared decision makingに非常に役立つ結果であった。

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高用量MTX療法中のST合剤継続を発見し、重篤な副作用を予防【うまくいく!処方提案プラクティス】第69回

 今回は、病棟研修での処方提案の一例を紹介します。Tリンパ芽球性リンパ腫に対する高用量メトトレキサート(MTX)療法中に、ニューモシスチス肺炎予防目的のスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠が継続投与されていることに気付き、能動的に処方調整を提案しました。がん化学療法では、支持療法として開始された薬剤が治療変更時にも継続され、重大な薬物相互作用を引き起こすリスクがあるため注意が必要です。患者情報36歳、女性(入院)基礎疾患Tリンパ芽球性リンパ腫治療経過:Hyper-CVAD療法※継続中(3コース目)※Hyper-CVAD療法:悪性リンパ腫に対する強力な多剤併用化学療法主な使用薬剤:シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメタゾンビンクリスチン投与による末梢神経障害のモニタリング中MA療法※として高用量MTXを投与(地固め療法)※MA療法:MTX+シタラビン薬学的管理開始時の処方内容:1.ランソプラゾール錠15mg 1錠 分1 朝食後2.スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後(調節)4.ピコスルファート内用液(レスキュー) 適宜自己調節他科受診・併用薬特記事項なし本症例のポイント介入2日前にMA療法として高用量MTX療法が開始されました。介入当日(MTX投与Day3)、前回のHyper-CVAD療法による末梢神経障害の評価および排便コントロール状況の確認のため病室を訪問しました。薬歴確認中に、高用量MTX投与中にもかかわらず、ニューモシスチス肺炎予防目的のスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠(ST合剤) 1錠/日が継続投与されていることを発見しました。MTXとST合剤はともに葉酸代謝拮抗作用を有し、併用により相加的に作用が増強します。スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠添付文書1)およびMTX添付文書2)において両剤の併用は「併用注意」とされ、以下のリスクが記載されています。(1)MTXの作用が増強スルファメトキサゾール・トリメトプリムとMTXは共に葉酸代謝阻害作用を有するため、MTXの作用を増強し、汎血球減少を引き起こす可能性があります。(2)骨髄抑制などの重篤な副作用リスク高用量MTX療法は、投与72時間のMTX血中濃度が1×10-7モル濃度未満になるまでロイコボリン救援療法※が必要となります。この期間中のST合剤併用は葉酸代謝阻害を相加的に増強し、骨髄抑制、肝・腎障害、粘膜障害などの重篤な副作用を引き起こすリスクが高まります。※ロイコボリン救援療法:MTXの葉酸代謝拮抗作用を中和し、正常細胞を保護する目的で投与本症例では、スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠はニューモシスチス肺炎予防の投与量(1錠/日)でしたが、MTX投与後48時間(Day3)であり、MTXの血中濃度が依然として高値を維持している可能性がありました。この時点のST合剤継続は、たとえ予防用量であっても相互作用により骨髄抑制などを引き起こす可能性があると考えました。医師への提案と経過MTX投与Day3の時点で、主治医に以下の内容について病棟カンファレンスにて情報提供を行いました。【現状報告】高用量MTX療法Day3の時点でスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠が継続投与されている。MTX血中濃度が依然高値を維持している可能性がある。【懸念事項】MTXとST合剤の併用により葉酸代謝拮抗作用が相加的に増強する。骨髄抑制、肝・腎障害、粘膜障害のリスクが増大する。高用量MTX療法に対するロイコボリン救援療法が増量・延長するなどの影響がある。【提案内容】1.スルファメトキサゾール・トリメトプリム錠を休薬する。2.MTX血中濃度が安全域まで低下したことを確認してから再開を検討する(Day5で判断)。主治医よりスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠の休薬指示を受け、翌日より休薬しました。MTX血中濃度を適切にモニタリングしながら、ロイコボリン救援療法は計画どおり実施されました。Day4(MTX投与72時間後)にMTX血中濃度が0.1μmol/L未満であることを確認後、Day5(MTX投与96時間後)からスルファメトキサゾール・トリメトプリム錠によるニューモシスチス肺炎予防を再開しました。その後、重篤な骨髄抑制、肝・腎機能障害、粘膜障害の発現はなく経過し、安全に高用量MTX療法を完遂することができました。予防的スルファメトキサゾール・トリメトプリムはMTX曝露増加につながる可能性があるものの、骨髄抑制、急性腎障害(AKI)、肝毒性の発生率には影響しないという報告3)もあるため、今後の症例介入で生かしていきたいと考えています。参考文献1)バクトラミン配合錠添付文書(相互作用の項)2)メトトレキサート点滴静注液添付文書(併用禁忌・併用注意の項)3)Xu Q, et al. Ann Hematol. 2025;104:457-465.

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免疫療法の対象とならない進行TN乳がん1次治療、Dato-DXdがPFSとOSを延長(TROPION-Breast02)/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)が化学療法に比べ有意に全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を延長したことが第III相TROPION-Breast02試験で示された。シンガポール・National Cancer Center SingaporeのRebecca Dent氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない未治療の局所再発切除不能/転移TNBC・試験群:Dato-DXd(3週ごと6mg/kg点滴静注)323例・対照群:治験責任医師選択化学療法(ICC)(nab-パクリタキセル、カペシタビン、エリブリン、カルボプラチンから選択)321例・評価項目:[主要評価項目]OS、盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2025年8月25日)の追跡期間中央値は27.5ヵ月で、PFSイベントが63%に、OSイベントは54%で発生していた。被験者の再発までの期間(DFI)別の割合は、de novoが34%、0~12ヵ月が21%(0~6ヵ月は15%)、12ヵ月超が約45%であった。・BICRによるPFS中央値は、Dato-DXd群が10.8ヵ月とICC群(5.6ヵ月)より有意に延長した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.47~0.69、p<0.0001)。この傾向は、臨床的に重要なサブグループで一貫していた。・OS中央値は、Dato-DXd群が23.7ヵ月でICC群18.7ヵ月より5ヵ月延長し、有意に延長した(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)。この傾向はほとんどのサブグループで一貫していた。・BICR評価によるORRは、Dato-DXd群が62.5%とICC群(29.3%)の2倍以上、完全奏効率(CR)は3倍以上であった。この傾向はすべてのサブグループで一貫していた。・DOR中央値は、Dato-DXd群12.3ヵ月、ICC群7.1ヵ月であった。・治療期間中央値は、Dato-DXd群(8.5ヵ月)がICC群(4.1ヵ月)の2倍以上だったが、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は両群で同程度であり、中止率はICC群より低かった。Dato-DXd群の主なTRAEはドライアイ、口内炎、悪心であった。 Rebecca Dent氏は「本試験の結果は、免疫療法の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるTNBC患者における新たな1次治療の標準治療としてDato-DXdを支持する」と結論した。

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免疫療法の対象とならない進行TN乳がんの1次治療、SGがPFS延長(ASCENT-03)/ESMO2025

 PD-1/PD-L1阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、サシツズマブ ゴビテカン(SG)が化学療法より有意な無増悪生存期間(PFS)の延長と持続的な奏効をもたらしたことが、第III相ASCENT-03試験で示された。スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。なお、本結果はNEJM誌オンライン版2025年10月18日号に掲載された。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:PD-1/PD-L1阻害薬投与対象外(PD-L1陰性、PD-L1陽性でPD-1/PD-L1阻害薬の治療歴あり、併存疾患により不適格)で未治療(治療歴がある場合は6ヵ月以上無治療)の局所進行切除不能/転移TNBC患者・試験群:SG(21日サイクルの1日目と8日目に10mg/kg点滴静注)279例・対照群:化学療法(パクリタキセルもしくはnab-パクリタキセルもしくはゲムシタビン+カルボプラチン)279例、病勢進行後クロスオーバー可・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、BICRによる奏効率(ORR)・奏効期間(DOR)・奏効までの期間、安全性、QOL 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2025年4月2日)時における追跡期間中央値は13.2ヵ月、349例にPFSイベントが発生していた。患者の地域別の構成は米国/カナダ/西ヨーロッパが32%、その他が68%であった。・主要評価項目であるBICRによるPFSは、SG群が化学療法群に比べて有意に改善した(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.50~0.77、p<0.0001、中央値:9.7ヵ月vs.6.9ヵ月)。このベネフィットは、事前に規定された主要なサブグループで一貫して認められた。・ORRは、SG群が48%、化学療法群が46%と同程度であったが、DOR中央値はSG群(12.2ヵ月)が化学療法群(7.2ヵ月)より長かった。・OSは今回の解析ではimmatureであった。HRは0.98で、中央値はSG群で21.5ヵ月、化学療法群で20.2ヵ月であった。・PFS2(ランダム化から後続治療後の病勢進行/死亡までの期間)中央値は、SG群(18.2ヵ月)が化学療法群(14ヵ月)より長く、HRは0.70(95%CI:0.55~0.90)であった。・Grade3以上の治療関連TEAEは、SG群61%、化学療法群53%であった。TEAEによる治療中止割合は、SG群4%、化学療法群12%、減量に至った割合は、SG群で37%、化学療法群で45%であった。治療関連死はSG群で6例(すべて感染症による死亡)、化学療法群で1例報告された。・SGの有害事象は既知の安全性プロファイルと一致しており、Grade3以上の発現割合は好中球減少が43%、下痢が9%であった。 Javier Cortes氏は「本試験のデータは、PD-1/PD-L1阻害薬を投与できない未治療の転移TNBC患者における新たな標準治療の可能性としてSGを支持する」と結論した。

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小細胞肺がん1次治療、タルラタマブ上乗せで1年OS率80.6%(DeLLphi-303)/ESMO2025

 PS0/1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬、およびPD-L1阻害薬単剤による維持療法である。この標準治療による全生存期間(OS)中央値は12~15ヵ月と報告されており、さらなる治療成績の向上を目的として、タルラタマブの上乗せが検討されている。1次治療でのタルラタマブの安全性・有効性を検討する国際共同第Ib試験「DeLLphi-303試験」では、タルラタマブの上乗せ方法の1つとして、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬を1サイクル実施後にタルラタマブを上乗せし、維持療法にもタルラタマブを上乗せする治療法が検討されている(パート2、4、7)。その結果、タルラタマブ開始後のOS中央値は未到達、1年OS率80.6%と良好な治療成績が示されたことが、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)でMartin Wermke氏(ドイツ・ドレスデン工科大学)により報告された。DeLLphi-303試験パート2、4、7の概要試験デザイン:国際共同第Ib相試験対象:1次治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬の併用療法を1サイクル実施したED-SCLC患者96例投与方法:タルラタマブ(20mg、3週ごと)+プラチナ製剤(カルボプラチンAUC5、各サイクルのday1)+エトポシド(100mg/m2、各サイクルのday1~3)+PD-L1阻害薬(アテゾリズマブ1,200mgまたはデュルバルマブ1,500mg、3週ごと)を3サイクル→タルラタマブ(同)+PD-L1阻害薬(同)を病勢進行まで評価項目:[主要評価項目]用量制限毒性、治療中に発現した有害事象(TEAE)、治療関連有害事象(TRAE)[副次評価項目]OS、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)など 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は63.0歳(範囲:37~86)、男性の割合は67%、PS1の割合は55%であった。ベースライン時に脳転移、肝転移を有していた割合はそれぞれ16%、45%であった。標的病変の径の和の中央値は82.3mmであった。PD-L1阻害薬の内訳はアテゾリズマブ56例、デュルバルマブ40例であった。・追跡期間中央値13.8ヵ月時点における治療期間中央値は46週(四分位範囲:14~60)であった。・用量制限毒性は3例(いずれもアテゾリズマブ使用集団)に認められた。・Grade3、4のTRAEの発現割合は、それぞれ43%、35%であった。死亡に至ったTRAEは1例報告された(カルボプラチン+エトポシドに関連する敗血性ショックと判定)。・タルラタマブの中止に至ったタルラタマブに関連するTRAEは6%に発現した。・サイトカイン放出症候群(CRS)のほとんどがサイクル1に発現し、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)はすべてサイクル1に発現した。これらのほとんどはGrade1/2であった。・タルラタマブ開始時を基準としたORRは71%(CRは5%)で、DOR中央値は11.0ヵ月であった。DCRは82%であった。・タルラタマブ開始後のOS中央値は未到達で、1年OS率は80.6%であった。・同様に、PFS中央値は10.3ヵ月であり、1年PFS率は43.1%であった。 本試験結果について、Wermke氏は「ED-SCLCの1次治療におけるプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、管理可能な安全性プロファイルと生存に関する有望な成績を示した。これは、タルラタマブ上乗せの有用性を標準治療との比較により検証する国際共同第III相試験『DeLLphi-312試験』の実施を支持する結果である」とまとめた。

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HER2+早期乳がんの術前療法、T-DXd→THPが標準治療を上回るpCR率(DESTINY-Breast11)/ESMO2025

 DESTINY-Breast11試験において、再発リスクの高いHER2陽性(+)早期乳がん患者の術前療法として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)投与後のパクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(THP療法)は、ドキソルビシン+シクロホスファミド投与後にTHP療法を行う現在の標準治療(ddAC-THP療法)に比べて、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある病理学的完全奏効(pCR)の改善を示したことを、ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。 DESTINY-Breast11試験は、高リスクのHER2+早期乳がん患者における術前療法としてのT-DXdの有効性と安全性を検討する第III相試験。患者は、(1)T-DXdのみを投与する群、(2)T-DXdに続いてTHPを投与する群、(3)ddACに続いてTHPを投与する群のいずれかに無作為に割り付けられた。なお、独立データモニタリング委員会の勧告により、T-DXd単独群への登録は2024年3月12日に中止された。・試験デザイン:第III相多施設共同非盲検無作為化試験・対象:高リスク(cT3以上でN0~3またはcT0~4でN1~3または炎症性乳がん)で未治療のHER2+早期乳がん患者・試験群(T-DXd-THP群):T-DXd(5.4mg/kg、3週間間隔)を4サイクル→THP療法を4サイクル 321例・対照群(ddAC-THP群):ddAC療法を4サイクル→THP療法を4サイクル 320例・評価項目:[主要評価項目]盲検下中央判定によるpCR(ypT0/Tis ypN0)[副次評価項目]盲検下中央判定によるpCR(ypT0 ypN0)、無イベント生存期間(EFS)、無浸潤疾患生存期間、全生存期間、安全性など・データカットオフ:2025年3月12日 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の年齢中央値はT-DXd-THP群50歳およびddAC-THP群50歳、アジア人が49.8%および49.1%、HER2ステータス IHC3+が87.2%および88.4%、HR+が73.5%および73.4%、cT0~2が54.8%および58.8%、リンパ節転移ありが89.4%および87.8%であった。・主要評価項目であるpCR率は、T-DXd-THP群67.3%、ddAC-THP群56.3%であった。絶対差は11.2%(95%信頼区間[CI]:4.0~18.3、p=0.003)であり、T-DXd-THP療法は統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるpCRの改善を示した。このベネフィットはHR+でもHR-でも同様に認められた。・残存腫瘍負荷(RCB)インデックス0~Iとなったのは、T-DXd-THP群81.3%、ddAC-THP群69.1%であった。このベネフィットもHR+でもHR-でも同様に認められた。・EFSはT-DXd-THP群で早期から良好な傾向がみられた(ハザード比:0.56、95%CI:0.26~1.17)。24ヵ月EFS率は、T-DXd-THP群96.9%(95%CI:93.5~98.6)、ddAC-THP群93.1%(95%CI:88.7~95.8)であった。・Grade3以上の有害事象(AE)はT-DXd-THP群37.5%およびddAC-THP群55.8%、重篤なAEは10.6%および20.2%に発現した。治療中断に至ったAEは37.8%および54.5%であった。・薬剤関連と判断された間質性肺疾患/肺臓炎はT-DXd-THP群4.4%(Grade3以上:0.6%)およびddAC-THP群5.1%(同:1.9%)、左室機能不全は1.3%(同:0.3%)および6.1%(同:1.9%)に発現した。 これらの結果より、Harbeck氏は「T-DXd-THP療法はddAC-THP療法よりも有効性が高く、毒性が少ない術前療法であり、高リスクのHER2+早期乳がんの新たな標準治療候補となる可能性がある」とまとめた。

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未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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PS不良の小細胞肺がん、デュルバルマブ+化学療法の有用性は?(NEJ045A)/ERS2025

 『肺癌診療ガイドライン2024年版』において、PS0~1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤/エトポシド併用療法+PD-L1阻害薬であるが1)、PS不良例での有効性・安全性は明らかになっていない。そのため、PS2ではプラチナ製剤+エトポシドまたはイリノテカン併用療法、PS3ではカルボプラチン+エトポシド療法またはsplit PE療法が標準治療とされている1)。そこで、PS2~3のED-SCLC患者を対象に、デュルバルマブ+カルボプラチン+エトポシドの有効性・安全性を検討する国内第II相単群試験「NEJ045A試験」が実施された。その結果、PSに応じて用量調節を行うことで、半数以上が導入療法を完遂し、良好な治療成績が得られた。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、渡部 聡氏(新潟大学医歯学総合病院 呼吸器・感染症内科)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月28日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国内第II相単群試験対象:未治療のPS2~3、20歳以上のED-SCLC患者投与方法:[PS2集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC4)+エトポシド(80mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(43例)[PS3集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC3)+エトポシド(60mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(13例)評価項目:[主要評価項目]忍容性(4サイクルの導入療法の完遂割合)[副次評価項目]中央判定に基づく奏効割合(ORR)、全生存期間(OS)、1年OS率、無増悪生存期間(PFS)、PSの改善、安全性※:2サイクル目以降は、カルボプラチンAUC5、エトポシド100mg/m2まで増量可とした 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、PS2が74歳(四分位範囲:69~77)、PS3が73歳(同:72~78)で、男性がそれぞれ74%、92%であった。併存疾患を有する割合はそれぞれ65%、69%であった。・主要評価項目である4サイクルの導入療法の完遂割合は、PS2が66.7%、PS3が50.0%であった。いずれも事前に規定した基準(PS2:33%、PS3:20%)を上回り、主要評価項目が達成された。・OS中央値は、PS2が11.3ヵ月、PS3が5.1ヵ月であった。1年OS率はそれぞれ50.0%、18.2%であった。・PFS中央値は、PS2が4.8ヵ月、PS3が4.6ヵ月であった。・ORRは、PS2が52.4%、PS3が45.5%であった。・PSが改善した患者の割合は、PS2が55%、PS3が46%であった。・PSの改善の有無別にみたOS中央値は、PSが改善した集団が9.2ヵ月、PSの改善がみられなかった集団が7.0ヵ月であり、両集団に有意差はみられなかった。・導入療法の完遂の有無別にみたOS中央値は、完遂集団が15.0ヵ月、未完遂集団が3.8ヵ月であり、完遂集団が良好であった(p<0.001、post-hoc解析)。・Charlson Comorbidity Index(CCI)別にみたOS中央値は、CCI=0集団が13.9ヵ月、CCI≧1集団が4.8ヵ月であり、CCI=0集団が良好であった(p=0.012、post-hoc解析)。・Grade3以上の治療関連有害事象の発現割合は93%(PS2:93%、PS3:92%)であった。G-CSF製剤の予防的投与は41%に行われたが、発熱性好中球減少症は16%(それぞれ12%、31%)に発現した。貧血は14%(それぞれ12%、23%)に発現した。 本試験結果について、渡部氏は「治療上の課題の多いPS不良の患者に対し、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せすることを支持するものである」とまとめた。

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化学療法の副作用にVRが有効か、婦人科がん患者のRCTで有効性を示唆

 婦人科がんの治療に使われる化学療法は、吐き気や気分の落ち込みなどの副作用が大きな課題となっている。今回、無作為化比較試験で、患者が没入型VRを用いることで副作用の悪化を防ぎ、制吐剤の追加を減らせる可能性が示された。研究は大阪大学大学院薬学研究科医療薬学分野の仁木一順氏、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室の上田豊氏、中川慧氏らによるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research(JMIR)」に8月14日掲載された。 卵巣がんの第一選択化学療法であるパクリタキセル/カルボプラチン(TC)療法または、TC+ベバシズマブ(TC+Bev)療法は、悪心や倦怠感、筋肉痛、関節痛などの副作用を伴い、患者の不安や治療中断につながることがある。薬剤追加による副作用増加や医療費の上昇も課題であり、安全で経済的な非薬物的手段が求められている。近年、デジタルセラピューティクス(DTx)が注目される中で、VRは疼痛や不安、抑うつの軽減に有効性が示されてきたが、従来の評価は単回使用による一時的な効果に限られていた。本研究では、婦人科がんの患者に対し、TCまたはTC+Bev療法中に7日間連続でVRを用い、その持続的効果を無作為化比較試験で検証した。 対象は、大阪大学医学部附属病院の産科婦人科に入院し、TCまたはTC+Bev療法を受けている患者とした。介入群の患者は、通常の支持療法に加え、治療初日から7日間連続で、1日あたり約10分間のVRを実施した。主要評価項目は、エドモントン症状評価システム改訂版(日本語版)(ESAS-r-J)を用いて測定した身体的および精神的症状の重症度の変化量であった。副次評価項目には、追加制吐剤の使用割合、悪心に対する完全奏効(CR)率、そして日本版状態-特性不安検査(STAI)Y-1を用いた不安の重症度が含まれた。非介入群の患者は、通常の支持療法および対症療法を受けた。VRヘッドマウントディスプレイとしてOculus Go(Meta Platforms, Inc)が使用された。VRに投影されるコンテンツはWander(Parkline Interactive, LLC)、Ocean Rift(Picselica Ltd)、YouTube VR(Google LLC)など8種類が用意された。効果量0.8を有意水準5%、検出力80%で検出するために、必要最小サンプル数を1群あたり26人と算出した。さらに約10%の脱落を考慮し、最終的なサンプルサイズは各群30人、合計60人と設定した。 7日間の試験期間を完了した介入群28人、非介入群30人を解析に含めた。ESAS-r-Jスコアの1日目から7日目までの変化量について、悪心においては、介入群では4日目のみ有意に悪化した(P<0.001)が、非介入群では3日目、4日目、5日目に有意な悪化がみられた(各P<0.001、P=0.001、P=0.035)。抑うつは、介入群では1日目以外に有意な悪化は認められなかったが、非介入群では4日目に有意な悪化を示した(P=0.036)。 2日目から7日目に追加の制吐剤を使用した患者の割合は、介入群で非介入群よりも有意に低かった(P=0.02)。また、TCまたはTC+Bev療法1日目におけるSTAI Y-1(状態不安の程度)の変化については、介入群ではVR体験前の平均43.8から体験後34.8へと有意に低下した(P<0.001)のに対し、非介入群では抗がん剤投与前後で有意差は認められなかった(44.9から43.9、P=0.54)。 試験終了時(7日目)にVR体験後のアンケートを行ったところ、操作の容易さについては回答者の89.3%(25/28人)がプログラムの簡便さを支持していた。また、「同じ状況を経験している友人に自信をもってこのVRプログラムを勧められるか?」という質問に対しては、回答者の92.9%(26/28人)が「ぜひ勧めたい」「機会があれば体験させたい」などと肯定的に回答した。 本研究について、著者らは「化学療法に伴う悪心・嘔吐の予防には不安の管理が有効であることが報告されている。さらなる検討は必要ではあるが、今回の研究では、VRを用いて不安を軽減し、遅発性悪心を防ぐとともに患者に前向きな感情をもたらす新たな治療法を提示したと考える」と述べている。

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adagrasib:KRAS G12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな選択肢(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 「KRYSTAL-12試験」の結果は、KRASG12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな標準選択肢が確立した点が重要と捉えられる。従来、1次治療であるプラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬による治療後に病勢進行したNSCLCに対しては、ドセタキセル±ラムシルマブなどが標準的であった。しかし、本試験ではKRASG12C変異を有する集団では従来の殺細胞性抗がん剤よりも標的治療adagrasibのほうが無増悪生存期間を延長し、腫瘍縮小効果も高いことが明確に示された。安全性プロファイルの観点でも、adagrasibは経口薬である利便性や重篤な骨髄抑制などが少ない点で有利と考えられる。消化器症状や肝機能上昇といった副作用はあるものの、治療継続困難となる症例割合は少ない。実際、治療関連有害事象による中止はadagrasib群で8%にとどまり、ドセタキセル群(14%)より少ない結果であった。 脳転移への有効性という点も注目される。本試験では安定した脳転移症例を含めて登録され、adagrasib群で頭蓋内病変の縮小効果(頭蓋内奏効)が確認された。ドセタキセル群では脳転移に対する奏効率が11%に対し、adagrasib群では24%と倍以上の奏効が認められた点も評価したい。この差は、基礎データで示されていたadagrasibの中枢神経系への移行性の高さを裏付けるものと考えられる。 2025年時点で実臨床で活用されているKRAS阻害薬ソトラシブは、第III相試験である「CodeBreaK 200試験」でドセタキセルとの直接比較が行われている。この試験ではPFS中央値5.6ヵ月vs.4.5ヵ月で、ハザード比0.66(p=0.0017)と、ソトラシブの有意なPFS延長が報告されている。しかしOSに関しては有意差が出ず、ソトラシブは「生存期間の延長」を明確に証明されなかった経緯がある。 今回の「KRYSTAL-12試験」でもPFSや奏効率の改善はソトラシブと同等に良好な結果であったが、OSが未成熟である点は共通しており今後の結果が待たれる。 現時点でソトラシブとadagrasibを直接比較した試験はないが、PFSのハザード比(ソトラシブ0.66 vs.adagrasib 0.58)やORR(28%vs.32%)はおおむね近い水準であり、臨床効果は同程度であると推測する。adagrasibは1日2回投与で作用が持続的であることが考えられ、安定した効果発現や脳内移行に利点がある可能性がある。 本論文でも指摘されているが、対照群レジメンの選択としてドセタキセル単剤が選ばれた点には議論の余地がある。現在2次治療の選択肢としては、ドセタキセル+ラムシルマブの併用レジメンが広く使われている。ドセタキセル単剤に比べ生存期間の延長(中央値+1.4ヵ月)を示した実績がある。本論文では、国際汎用性の観点からドセタキセル単独を対照群としたと説明されている。また、本試験ではOSの有意差は確認できておらず、ソトラシブが使用できる現在、adagrasibが生存に寄与するかは結論が出ていない。ドライバー遺伝子全般的に言えることであるが、クロスオーバーが倫理的にも妥当な措置と考えられ、最終的なOS解析で群間差が出にくいことが予想される。患者側から考えると生存期間の延長が最も重要な指標ではあるが、PFS延長や奏効率の高さも症状緩和やQOL維持につながると考え評価すべきと私は考えている。 本論文で示された中央追跡期間は約7~9ヵ月と短いため、まだ長期生存や毒性の評価が不十分であるが、中枢神経系転移への効果や耐性獲得の問題など、今後の解析結果が期待され注目すべき薬剤であることは間違いない。

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小細胞肺がん1次治療の維持療法、タルラタマブ上乗せで1年OS率82%(DeLLphi-303)/WCLC2025

 PS0/1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬であり、維持療法ではPD-L1阻害薬単剤の投与を継続する。PD-L1阻害薬+lurbinectedinによる維持療法の有用性を検討した「IMforte試験」では、維持療法開始時からの全生存期間(OS)中央値が併用群13.2ヵ月、PD-L1阻害薬単剤群10.6ヵ月と報告されており1)、アンメットニーズが存在する。そこで、PD-L1阻害薬単剤による維持療法にタルラタマブを上乗せする治療法が検討されている。世界肺がん学会(WCLC2025)において、ED-SCLCの1次治療の維持療法における、PD-L1阻害薬+タルラタマブの安全性・有効性を検討する国際共同第Ib試験「DeLLphi-303試験」の結果を米国・Providence Swedish Cancer InstituteのKelly G. Paulson氏が報告した。本試験において、治療関連有害事象(TRAE)による死亡は報告されず、維持療法開始後のOS中央値25.3ヵ月、1年OS率82%と良好な治療成績が示された。本結果はLancet Oncology誌オンライン版2025年9月8日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国際共同第Ib相試験対象:1次治療としてプラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬※を4~6サイクル実施後に病勢進行がみられず、維持療法への移行が可能であったED-SCLC患者88例試験群1:タルラタマブ(10mg、2週ごと)+アテゾリズマブ(1,680mg、4週ごと) 48例試験群2:タルラタマブ(同上)+デュルバルマブ(1,500mg、4週ごと) 40例評価項目:[主要評価項目]用量制限毒性、治療中に発現した有害事象(TEAE)、TRAE[副次評価項目]全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)など※:PD-L1阻害薬が使用できない場合は未使用も許容 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は64歳、男性の割合は63%、PS1の割合は59%であった。ベースライン時に脳転移、肝転移を有していた割合はそれぞれ25%、36%であった。1次治療開始から維持療法開始までの期間中央値は3.6ヵ月(範囲:2.9~5.8)であった。・追跡期間中央値18.4ヵ月時点において、各薬剤の治療期間中央値は、タルラタマブ35週、アテゾリズマブ28週、デュルバルマブ31週であった。・タルラタマブに関連するGrade3~4のTRAEの発現割合は27%であった。死亡に至ったTRAEは報告されなかった。・TEAEとしてのCRSの発現割合は56%であった。そのうちの多くは、投与開始3ヵ月未満に発現した。ICANSの発現割合は6%であった。全例が投与開始3ヵ月未満に発現した。・解析対象集団全体における維持療法開始時からのOS中央値は25.3ヵ月であり、1年OS率は82%であった。・同様に、PFS中央値は5.6ヵ月であり、1年PFS率は34%であった。・維持療法開始時を基準としたORRは24%、DOR中央値は16.6ヵ月であった。DCRは60%、病勢コントロール期間中央値は14.6ヵ月であった。 本試験結果について、Paulson氏は「ED-SCLCの1次治療の維持療法において、PD-L1阻害薬へのタルラタマブ上乗せは、管理可能な安全性プロファイル、持続的な病勢コントロール、前例のないOSの改善を示した」とまとめた。

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既治療KRAS G12C変異陽性NSCLC、adagrasib vs.ドセタキセル/Lancet

 既治療のKRASG12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、adagrasibはドセタキセルと比較して無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に延長し、新たな安全性上の懸念は認められなかった。フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Barlesi氏らKRYSTAL-12 Investigatorsが、22ヵ国230施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「KRYSTAL-12試験」の結果を報告した。adagrasibはKRASG12C阻害薬で、KRASG12C変異を有する進行NSCLC患者を対象とした第II相試験において有望な結果が示されていた。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。化学療法と免疫療法の前治療歴があるNSCLC患者を対象、主要評価項目はPFS KRYSTAL-12試験の対象は、KRASG12C変異を有する局所進行または転移のあるNSCLCで、プラチナ製剤を含む化学療法および抗PD-1または抗PD-L1抗体による前治療歴があり、ECOG PSが0または1の成人患者であった。 研究グループは適格患者を、adagrasib(1回600mg、1日2回経口投与)群またはドセタキセル(75mg/m2、3週ごとに静脈内投与)群に2対1の割合で無作為に割り付け、病勢進行、許容できない毒性発現、担当医師または患者の判断、あるいは死亡まで投与を継続した。無作為化は中央双方向Web応答システムを用い、地域(アジア太平洋地域以外vs.アジア太平洋地域)および前治療(逐次投与vs.併用投与)で層別化した。 ドセタキセル群では、盲検下独立中央判定(BICR)によるRECIST 1.1に基づく病勢進行が認められた場合、adagrasibへのクロスオーバーを可とした。 主要評価項目は、ITT集団(無作為化した全患者)におけるBICRによるRECIST 1.1に基づくPFSであった。安全性は、試験薬が投与されたすべての患者を対象に評価した。本試験は現在も進行中である(新規登録は終了)。PFS中央値はadagrasib群5.5ヵ月、ドセタキセル群3.8ヵ月 2021年2月23日~2023年11月16日に1,021例がスクリーニングされ、453例がadagrasib群(301例、66%)またはドセタキセル群(152例、34%)に無作為化された。それぞれ298例(99%)および140例(92%)が試験薬の投与を受けた。 追跡期間中央値7.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.8~8.7)において、ITT集団でのBICRによるPFS中央値はadagrasib群5.5ヵ月(95%CI:4.5~6.7)、ドセタキセル群3.8ヵ月(2.7~4.7)であり、ハザード比(HR)は0.58(95%CI:0.45~0.76、p<0.0001)であった。治験担当医師評価によるPFSも同様の結果が得られた(5.4ヵ月vs.2.9ヵ月、HR:0.57)。 副次評価項目であるBICRによる奏効率も、adagrasib群がドセタキセル群と比較し有意に高かった(32%[95%CI:26.7~37.5]vs.9%[5.1~15.0]、オッズ比:4.68[95%CI:2.56~8.56]、p<0.0001)。 治療関連有害事象(TRAE)は、adagrasib群(298例)で280件(94%)、ドセタキセル群(140例)で121件(86%)報告された。Grade3以上のTRAEは、adagrasib群で140件(47%)、ドセタキセル群で64件(46%)報告され、主なものはadagrasib群でALT上昇(8%)、AST上昇(6%)、下痢(5%)、ドセタキセル群で好中球数減少(11%)、好中球減少症(10%)、無力症(10%)であった。 治療関連死は、adagrasib群で4例(1%、てんかん、肝不全、肝虚血および原因不明が各1例)、ドセタキセル群で1例(1%、敗血症)が報告された。

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新たなエビデンス踏まえ薬物療法・ゲノム検査など改訂「膵癌診療ガイドライン」/日本膵臓学会

 2025年7月、「膵癌診療ガイドライン」が改訂された。2022年から3年ぶりの改訂で、第7版となる。Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づいて作成され、Background Question、Clinical Question(CQ)のほか、エビデンスが足りないなどでシステマティック・レビューができない項目はFuture Research Question(FRQ)として新設された。 7月25~26日に行われた第56回日本膵臓学会大会では、「膵癌診療ガイドライン 2025―改訂のポイント」と題したセッションが開催され、外科的治療、薬物療法、放射線治療、支持・緩和療法など、9つの専門グループから改訂点が発表された。同学会の教育セミナー「がん薬物療法・ゲノム医療」において森實 千種氏(国立がん研究センター中央病院)が紹介した内容と合わせ、薬物療法を中心に、本ガイドラインの主な改訂点を紹介する(文中下線は編集部)。【診断】 全体の治療アルゴリズムに大きな変更点はない。ほかのがん種と比較すると、StageIIIの中に「切除可能境界(BR)」カテゴリがあり、化学療法・化学放射線療法を行ってから再評価し、次の治療法を選択するというのが膵がんアルゴリズムの特徴だ。重複箇所を整理して総論でCQ5、各論でCQ16、FRQ4、コラム2つが新設または内容が変更されている。前版のコラムにあった病診連携、バイオマーカー、CTによるスクリーニングについては、今後期待される課題としてFRQに移した。CQ D4 膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察は推奨されるか?A.膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] サーベイランスを行った群のほうが5年生存率、生存期間共に有意な延長を認めたというエビデンスの蓄積を受けて本CQを新たに追加した。【補助療法】CQ RA1 切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?A.切除可能膵癌に対する術前補助療法としてゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:D(非常に弱い)] 日本で行われたPrep 02/JSAP05試験の結果から、術前補助療法の有用性が2019年に示され、本ガイドラインでも2019年版で初めて切除可能膵がんに対する術前治療を提案することが明記された。前版でもこの記載は変わらなかったが、今版の作成時点ではPrep-02/JSAP05試験が論文化されていなかったことを踏まえ、エビデンスの確実性(強さ)をC(弱)からD(非常に弱い)に一段階下げた。今版作成後に論文化されたため、次版ではこれを精読した上で改めて推奨度・エビデンスレベルを決定することになるだろう。【薬物療法】CQ LC1 局所進行切除不能膵癌に対して一次化学療法は何が推奨されるか?A.局所進行切除不能膵癌に対する一次化学療法として、1)FOLFIRINOX療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]2)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]上記が行えない場合、3)ゲムシタビン塩酸塩単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]4)S-1単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] 今版で大きく内容が変わったCQとなる。FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GnP療法)は、Prodige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したが、どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験だった。国内で行われたJCOG1407試験は、局所進行膵がん患者を対象としてmFOLFIRINOX療法とGnP療法の有効性と安全性を検討した試験であり、いずれもゲムシタビン単剤と比べて優越性を示した。この結果を踏まえ、FOLFIRINOXとGnP療法を標準治療とし、忍容性などの問題でこれらが使えなかった場合にゲムシタビン単剤またはS-1単剤を提案するとした。CQ MC1 転移性膵癌の一次化学療法として、何が推奨されるか?A. 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法として、1)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]2)FOLFIRINOX療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]3)NALIRIFOX療法(日本では適応外)を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):B(中)]ただし、全身状態や年齢などから上記治療が適さない患者に対しては、4)ゲムシタビン塩酸塩単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]5)S-1単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)] 転移のある膵がんに対して複数の治療選択肢が存在し、患者の年齢や体調などの諸条件により、標準治療の推奨度は変化する。未治療の転移を有する膵がんを対象に行われたJCOG1611試験では、GnP療法をmFOLFIRINOX、S-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)と比較した結果、GnP療法が3剤併用の他レジメンより有用との結果だった。この結果から、今版ではGnP、FOLFIRINOXの順に推奨とした。 さらに近年には、新たなレジメンであるNALIRIFOX(ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)がGnPを上回ったというNAPOLI-3試験の結果が報告されている。この結果を受け、遠隔転移例ではGnP療法とFOLFIRINOXに加え、NALIRIFOX療法も提案に入れている。NAPOLI-3試験は日本が参加しておらず、NALIRIFOX療法は現時点では未承認だが、本レジメンの国内承認を目指すブリッジングスタディが行われ、今学会で有効性と安全性が報告されており、承認が待たれる状況だ。【プレシジョン・メディシン】CQ D1(P) 切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査は推奨されるか?A.切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] BRCA変異例はプラチナレジメンの治療効果が高く、かつPARP阻害薬オラパリブによる維持療法が有用との報告があり、このコンパニオン診断になるという点を踏まえ「提案する」とした。膵がんとしてはこれが初の承認されたゲノム診療となる。FRQ DI(P) 切除不能膵癌患者に対して、がん遺伝子パネル検査は推奨されるか?A.1)がん遺伝子パネル検査は治療選択肢を増やす可能性があるが、現時点でエビデンスは不十分である。2)検査を企図した時点で腫瘍組織を利用できない場合、腫瘍組織を新たに採取すべきか、血液検体を用いたがん遺伝パネル検査を実施すべきかについては今後明らかにされるべき課題である。3)標準治療終了を待たずに早めのタイミングで遺伝子パネル検査を実施することは治療アクセスの観点から妥当で、膵癌を含む臓器横断的研究で臨床的有用性が示されているが、膵癌においてのデータの蓄積が今後の課題である。 前版ではがん遺伝子パネル検査を「やるか・やらないか」というシンプルなクエスチョンだったものを、今版では膵がん固有の臨床課題に落とし込んで作成した。前版ではCQだったものを今回はFRQに押し戻すかたちとなったが、エビデンスの蓄積が足りず、検査の種類などについても、まだ明確な推奨を出すには至らないと判断した。 エビデンスを重視しながらも利益や不利益、医療費など実地診療にも配慮して作成したガイドラインだ。ぜひ一読いただき、膵がんの早期発見・治療の向上に活かしていただきたい。

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HER2+炎症性乳がん、術前アントラサイクリン上乗せは有用か?

 HER2陽性乳がんの術前療法にアントラサイクリンを追加することによるベネフィットは、無作為化臨床試験において示されなかったが、炎症性乳がんにおける有効性は明らかになっていない。HER2陽性の炎症性乳がんを対象とした後ろ向き研究の結果、術前療法でのアントラサイクリン追加は病理学的完全奏効(pCR)との関連は示されなかったものの、疾患コントロール期間の延長に寄与する可能性が示唆された。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの岩瀬 俊明氏らによるBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年8月2日号への報告。 2014~21年に、MDアンダーソンがんセンター、IBCネットワーク関連施設、ダナ・ファーバーがん研究所にて術前療法と胸筋温存乳房切除術を受けたHER2陽性原発性炎症性乳がん患者を対象に後方視的な検討が行われた。主要評価項目はpCR率、副次評価項目には、局所・領域再発までの期間(TLRR)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)が含まれた。単変量解析および多変量解析が、臨床的に関連する交絡因子を調整したうえで実施された。 主な結果は以下のとおり。・対象となった101例のうち、39例はドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(TCHP)を受け、62例はドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドキソルビシン+シクロホスファミド併用療法(THP-AC)を受けた。追跡期間中央値は3.02年であった。・pCR率は治療レジメン間で有意差を認めなかった(TCHP:48.7%vs.THP-AC:53.2%、p=0.659)。・年齢とエストロゲン受容体の状態で調整した多変量ロジスティック回帰分析において、pCR率と治療レジメンの間に関連はみられなかった。・一方、多変量Cox比例ハザードモデルでは、THP-AC群においてTLRR(ハザード比[HR]:0.279、95%信頼区間[CI]:0.102~0.765、p=0.0131)およびEFS(HR:0.462、95%CI:0.228~0.936、p=0.032)が有意に良好であったが、全生存期間(OS)には差を認めなかった。

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