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ペムブロリズマブがHER2陽性切除不能胃がん1次治療に承認、14年ぶりのパラダイムシフト

 2025年5月、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がんの1次治療において免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ペムブロリズマブ併用療法が承認された。これまでもHER2陰性胃がんには化学療法+ICI併用療法が使われてきたが、今回の適応拡大によりHER2発現にかかわらず、ペムブロリズマブが1次治療の選択肢として加わることになる。 6月23日にMSDが開催したメディアセミナーでは、愛知県がんセンターの室 圭氏が登壇し、「胃がん一次治療の新たな幕開け~HER2陽性・陰性にかかわらず免疫チェックポイント阻害薬が使用可能に~」と題した講演を行った。室氏 今回新たに承認されたペムブロリズマブ併用レジメンは、CAPOXまたはFP+トラスツズマブ+ペムブロリズマブという「4剤併用療法」だ。承認の根拠となったのは第III相国際共同KEYNOTE-811試験であり、未治療のHER2陽性胃がん患者を対象に、これまでの標準治療であるトラスツズマブ+化学療法(CAPOXまたはFP)にペムブロリズマブを上乗せする群と、プラセボ群を上乗せする群を比較した。 結果として、ペムブロリズマブ群は全生存期間(OS)・無増悪生存期間(PFS)ともに有意な延長が確認された。具体的には、CPS1以上の集団におけるOSのハザード比(HR)は0.79、PFSのHRは0.70と、いずれも統計学的有意差をもってICI併用の有用性が証明された。免疫関連有害事象として甲状腺機能低下、肺臓炎、大腸炎などが報告されたが、おおむねマネジメント可能な範囲だった。 ただし、本試験ではCPS1未満の患者には有効性が認められず、今回の承認もHER2陽性かつCPS1以上の症例に限定された。バイオマーカーとして、HER2およびPD-L1の両方を測定し、いずれも陽性であることが投与条件となる。とくにPD-L1はコンパニオン診断薬として22C3抗体を用いたCPS測定が必須となる点には注意が必要だ。 HER2陽性胃がんにおいては、ToGA試験でトラスツズマブ+化学療法が承認された2011年以降、長年1次治療が変わっていなかった。今回の改訂により、初めてICIが1次治療に組み込まれ、14年ぶりのパラダイムシフトが起きたといえる。4バイオマーカー同時検査が一層重要に ほかのがん種同様、胃がん診療においてもバイオマーカー検査が非常に重要となっている。現在の胃がん治療では、「HER2」「PD-L1」「MSI」「Claudin18.2」の4つのバイオマーカー検査が推奨されている。 日本胃癌学会では2024年4月に「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」を発出し、1次治療開始前に4つのバイオマーカー検査を同時実施するよう推奨してきた。同時実施が難しい場合には1次治療の決定に直結するHER2とClaudin18.2検査を優先するよう推奨したが、今回のペムブロリズマブ承認を受け「手引き」を改訂し、PD-L1検査とMSI/MMR検査もできる限り一緒に検査すること(4検査同時)を強く推奨するかたちとなった。加えて、施設や患者さんの事情等でそれがかなわない場合もあるため、状況に応じて適宜適切に対応するように、との旨が付記された。 また、PD-L1検査にはニボルマブに対する28-8検査とペムブロリズマブに対する22C3検査の2種類がある。1次治療前のPD-L1検査はペムブロリズマブのコンパニオン診断薬である22C3検査に限定されるが、ペムブロリズマブ非適応の場合には、この検査値を読み替えることでニボルマブ投与も検討できるとした。新規治療で大きな変化、バイオマーカー二重陽性など治療選択の難しさも残る 今回、切除不能胃がんの1次治療は、HER2陽性・陰性にかかわらずICIを含むレジメンが標準の選択肢となった。日本における胃がん罹患率・死亡率はともに減少傾向にあるが、それでも依然として高い水準にあり、とくに高齢者層での罹患が増加している。実臨床では70歳以上の患者が大半を占め、90代も珍しくない印象だ。高齢・多疾患併存の患者に対し、治療選択には柔軟性と個別化が求められる中で、ICI+抗HER2療法の1次治療導入により、HER2陽性例における免疫治療の地位が確立されたことは治療戦略に大きな変化をもたらすと考えられる。 一方、HER2陽性かつCPS1以上という適応は、全体の胃がん患者の約10~15%と限られており、HER2陰性であればICI+化学療法やClaudin18抗体ゾルベツキシマブ+化学療法など、多様なレジメンから選択する必要がある。また、HER2陽性かつClaudin 18.2陽性など、バイオマーカーがオーバーラップする症例における治療選択の難しさもある。こうした依然残る臨床上の課題に対し、今後の議論や一層の治療開発が待たれる。

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ASCO2025 レポート 乳がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日にかけて開催されたASCO2025は、”Driving Knowledge to Action:Building a Better Future”というテーマで実施された。昨年つらい思いをした円安も若干改善され(1ドル145円前後)、航空運賃の高騰は変わらないものの、若干参加しやすくなったと言えるだろうか(とはいえ、ハンバーガーとコーラで2,500円はつらい…)。乳がん領域では明日からの臨床が変わる演題が多数公表された。トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の試験は昨年に引き続き、Plenary session押し出しの早朝専用セッションが設けられていた。本稿では、日常臨床を変える4演題と、日本からの発表の1演題を概説する。SERENA-6試験ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がんでは、内分泌耐性をどう乗り越えるかが重要な話題となっており、ASCO2025でも複数の演題が発表された。SERENA-6試験は、HR陽性HER2陰性進行乳がんにおいて、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(CDK4/6i)治療中に循環腫瘍DNA(ctDNA)で検出されたESR1変異を有する患者を対象とした盲検化ランダム化第III相試験である。この試験では、画像上の病勢進行(PD)前にAIを経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるcamizestrantに切り替えることで無増悪生存期間(PFS)の改善が得られるかを検証した。主要評価項目である主治医評価によるPFSは、16.0ヵ月vs.9.2ヵ月(ハザード比[HR]:0.44(95%信頼区間[CI]:0.31~0.60、p<0.00001)とcamizestrant群で有意に良好であった。副次評価項目のPFS2(次治療でPDとなるまでの期間)についてもHR:0.52(95%CI:0.33~0.81、p=0.0038)とcamizestrant群で有意に良好であった。また、EORTC QLQ-C30を用いたQOL評価では、QOL悪化をイベントとしたtime to deterioration(TTD)がエンドポイントとされ、TTD中央値が23.0ヵ月vs.6.4ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.33~0.82、p<0.001)とcamizestrant群で有意に良好であった。Grade3以上の有害事象は33.2%にみられたが、忍容性はおおむね良好であり、ctDNAを用いた個別化介入の有用性を示した重要な結果といえる。なお、この結果はNew England Journal of Medicine(NEJM)に同日掲載された(Bidard FC, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 1. [Epub ahead of print])。ctDNAでESR1変異の出現をモニタリングし画像PDとなる前に治療を変更する戦略は、すでにPADA-1試験でその有効性が示され期待されている(Bidard FC, et al. Lancet Oncol.2022;23:1367-1377. )。PADA-1試験ではSERDとして注射剤のフルベストラントが使用された。SERENA-6試験では経口SERDが用いられており、効果ならびに投与の簡便性の向上が期待される画期的な試験であると言える。その一方で、本試験の結果を日常臨床で用いるには多くの懸念点が残る。ESR1変異の出現をモニタリングして治療を変更する群と変更しない群を比較する試験というのは、治療戦略(画像PDを待つか待たないか)を比較する試験である。PADA-1試験ではAI継続群でフルベストラント+CDK4/6iへのクロスオーバーが許容されていたが、SERENA-6試験ではcamizestrant±CDK4/6iにクロスオーバーされているのはわずかに3%である。本来は「早く治療変更するか」「画像PDを待って治療変更するか」を比較するべき試験であるにもかかわらず、クロスオーバーされないということは戦略を比較する試験とはなっていない、と言わざるを得ない。ESR1変異はAI耐性の予測因子であり、AI群でPFSが短いことは当然の帰結である。PFS2の結果についてもcamizestrantへのクロスオーバーがなく他の経口SERDがどの程度使用されたか不明である以上、評価が困難である(camizestrant群では常に薬剤の使用ラインが多いため、比較できない)。本試験のデザインでは、真にこの戦略が有効であるかどうかは、全生存期間(OS)の結果を見なければ判断できないが、それも後治療に不均衡があれば評価できない。QOLについてもTTDがcamizestrant群で良好なのは当然で、AI群のほうが早く病勢進行するため、症状出現によるQOL低下で説明できる。さらなる問題はESR1変異を検出するctDNA検査を2~3ヵ月ごとに行うコストの問題である。本試験ではリキッドバイオプシーとしてGuardant360が使用されていたが、非常に高価である。ESR1に特化した独自アッセイの開発とバリデーションが必要である。またESR1のサーベイランスに参加した3,256例のうち、ESR1変異が検出されたのは548例(画像PDを伴うものを含む)、ランダム化されたのは315例と10%弱である。果たしてこの10%のために高価な検査を定期的に実施することが有効であろうか? またサーベイランス期間中にESR1変異が検出されず、PDともならなかった患者は1,949例である。CDK4/6i併用1次内分泌療法のPFSが30ヵ月程度と考えられる中で、全例にctDNAの評価をし続けるのか? 本試験結果を日常臨床に用いるには、OSを含めた「戦略の有効性」の証明と、ctDNAサーベイランスの対象となる症例群の絞り込みが必要であろう。VERITAC-2試験内分泌耐性をこれまでと異なる作用機序で克服しようとしたのがVERITAC-2試験である。vepdegestrantはPROTACと呼ばれる薬剤であり、エストロゲン受容体(ER)のユビキチン化を促進してERを分解する新たな機序を有する。VERITAC-2試験は、vepdegestrantの2次治療における有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。ESR1にフォーカスしたSERENA-6試験と異なり、作用機序そのものが違う薬剤の効果を確認している。前治療として1レジメンまでの内分泌療法歴がある患者を対象に、vepdegestrantとフルベストラントが比較された。主要評価項目であるESR1変異陽性集団における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSは、5.0ヵ月vs.2.1ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.42~0.77、p<0.001)とvepdegestrant群で有意に良好であった。一方、もう1つの主要評価項目である全患者集団におけるPFSは3.7ヵ月vs. 3.6ヵ月(HR:0.83、95%CI:0.68~1.02、p=0.07)と両群間の有意差を認めなかった。主治医評価によるPFSも同様の結果であった。有害事象はGrade 3以上が23%vs.18%とvepdegestrant群でやや多い傾向であり、倦怠感の頻度が最も高かった。本試験もNEJMに同日掲載された(Campone M, et al. N Engl J Med. 2025 May 31. [Epub ahead of print])。PROTACはこれまでの内分泌療法とはまったく異なる機序で効果を発揮する薬剤で、今後が期待される。一方で、なぜERを分解する作用を有する薬剤にもかかわらず(ESR1変異の有無にかかわらず効果が期待できると考えられる)、ESR1変異を有する場合にのみフルベストラントに対する優越性を示せたのかは、現時点では不明である。また、今後臨床に応用するには試験デザインに課題が残る。CDK4/6i併用内分泌療法後の治療としては、PIK3CAやAKT1、PTENなどの変異の有無によって、SERDとAKT阻害薬(Turner NC, et al. N Engl J Med. 2023;388:2058-2070.)やPI3K阻害薬(Andre F, et al. N Engl J Med 2019;380:1929-1940.)、あるいはCDK4/6iの併用(Kalinsky K, et al. J Clin Oncol. 2025;43:1101-1112.)が行われる。CDK4/6i後の治療として内分泌療法単独が選択されることは多くなく、vepdegestrantも他の分子標的薬との併用療法の開発が期待される。DESTINY-Breast09(DB-09)試験HER2陽性進行乳がんの治療は、2010年代はじめのペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の承認で大きく変化したが(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.、Verma S, et al. N Engl J Med. 2012;367:1783-1791.)、2019年のT-DXdの登場はまた新たに大きく地図を塗り替えた(Modi S, et al. N Engl J Med. 2020;382:610-621.、Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1143-1154.)。T-DXdはHER2陽性乳がんに対する試験で既存治療と比較して圧倒的な有効性を示し、2次治療以降の標準治療となっている。一方で、血球減少や悪心、またT-DXdを特徴付ける有害事象である薬剤性肺障害(ILD)など、長期間有効であるからこそ悩ましい有害事象の管理が必要である。DB-09試験は、HER2陽性進行/転移乳がんの初回治療として、T-DXd+ペルツズマブ(T-DXd+P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。対照群は標準治療であるタキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)で、主要評価項目はBICRによるPFSであった。結果は、PFS中央値40.7ヵ月vs.26.9ヵ月(HR:0.56、95%CI:0.44~0.71、p<0.00001)とT-DXd+P群がTHP群に対して圧倒的に良好な結果となった。主治医判定のPFSではTHP群のPFSが若干悪く(20.7ヵ月、95%CI:17.3~23.5)、非盲検化試験であることによるバイアスの存在が疑われるものの、傾向としてはBICRと同様であった。また、奏効率(ORR)は85.1%vs.78.6%で、PRの割合は70%と両群間で差がないものの、CRは15.1%vs.8.5%とT-DXd+P群で良好であった。OSはimmatureなものの、HR:0.84(95%CI:0.59~1.19)とT-DXd+P群でやや良好な傾向がみられた。後治療としてTHP群ではT-DXdやT-DM1などの抗体薬物複合体(ADC)が用いられている割合が多かったが、T-DXd+P群では抗HER2抗体を含むレジメンが多かった。2次治療までのPFSであるPFS2もHR:0.60(95%CI:0.45~0.79、p=0.00038)と、T-DXd+Pで良好であった。Grade 3以上の毒性の頻度は両群間で差はなかったが、 ILDの発現頻度は12.1%vs.1.0%とT-DXd+P群で多いものの大多数はGrade 2までであり、大きな安全性の懸念はないと考えられた。実臨床で使う中で、THPは非常に有効な治療であることは臨床医全員が実感していることだと思う。DB-09試験の結果から、T-DXd+P療法はHER2陽性初回治療の新たな選択肢となる可能性が示された。一方で、いくつかの懸念点が残る。DB-09試験ではペルツズマブを併用しないT-DXd群が設定されていたが、その結果はまだ発表されていない。ペルツズマブを併用しないことで、有害事象が軽減する可能性がある。また、T-DXd±P群では毒性によるT-DXd中止後に、抗HER2抗体による維持療法が許容されていたが、実際に維持療法が行われた症例はわずか8.7%であった。一方で、THP群の約70%は毒性もしくは別の理由(タキサンは通常6~10コースの投与後に中止する)でタキサンが中止されている。THP群でタキサン中止後はHP(ほとんど有害事象が気にならない)による維持療法を実施するが、現在は皮下注製剤があり投与時間も大幅に短縮されている。したがって、T-DXd+Pの有効性は圧倒的であるものの、有害事象が継続し、さらに時間毒性という点ではTHPに軍配が上がると言わざるを得ない。有効な治療でありPFSが非常に長いからこそ、いかに患者負担を減らすことができるかが今後の課題となる。ASCENT-04試験PD-L1陽性進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)併用化学療法により予後が改善したが(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022;387:217-226.、Schmid P, N Engl J Med.2018;379:2108-2121.)、それでも十分ではない。また、TNBCに対してはサシツズマブ・ゴビテカン(SG)(Bardia A, et al. N Engl J Med.2021;384:1529-1541.)や、HER2低発現に対するT-DXd(Modi S, et al. N Engl J Med.2022;387:9-20.)など、ADCの導入により予後の改善が期待される。では、PD-L1陽性進行TNBCに対してADCとICIの併用は有用なのであろうか。ASCENT-04試験は、未治療のPD-L1陽性進行TNBCに対して、SG+ペムブロリズマブ(P)併用の有効性を検証した非盲検ランダム化第III相試験である。比較対照は化学療法+Pで、主要評価項目であるBICR評価によるPFSは、SG+P群で11.2ヵ月 vs.7.8ヵ月(HR:0.65、95%CI:0.51~0.84、p<0.001)と、SG+P群で有意に良好であった。主治医評価PFSも同様であった。OSはHR:0.89(95%CI:0.62~1.29)とSG+P群で良さそうな傾向はみられたものの、immatureで統計学的な差は認めなかった。ORRは60%vs.53%とSG+P群でやや良好な傾向がみられ、とくにCRが13%vs.8%とSG+P群で多かった。安全性については、Grade 3以上の下痢(10%vs.2%)がSG+P群で多かった以外に両群間に差はなく、好中球減少症(約65%)や過敏反応(約20%)など予測された毒性がみられたが、許容範囲内であった。本試験の結果をもって、SG+P療法はPD-L1陽性進行TNBCの初回治療における新たな標準療法となった。CECILIA試験最後に日本から発表された試験を紹介する。タキサンによる末梢神経障害(CIPN)は対処の難しい有害事象であり、冷却や圧迫による予防が試みられている(Hanai A, et al. J Natl Cancer Inst. 2018;110:141-148.、Tsuyuki S, et al.Breast. 2019;47:22-27.)。一方、冷却による苦痛で予防を継続できない患者も少なくない。CECILIA試験は、パクリタキセルによるCIPN予防のために四肢冷却装置を用いる際に、13℃と25℃の冷却温度における有効性を検証したランダム化比較試験である。パクリタキセルによる治療を受ける乳がん患者を対象に、13℃による冷却の25℃(最低限の予防効果が期待される冷却温度)に対する優越性を検証するデザインとなっている。主要評価項目はパクリタキセル終了時点でのPNQ(patient neurotoxicity questionnaire)スコアD以上の割合とされた。結果は、25℃群で29.3%(95%CI:19.4~21.0)、13℃群で33.3%(95%CI:22.8~45.2)、p=0.76と両群間の差は検出されなかった。他の評価項目であるパクリタキセル終了3ヵ月時点でのPNQスコアD以上は25℃で16.2%、13℃で32.0%(p=0.035)と25℃で少ない傾向を認めた。CTCAE、患者報告CTCAEによるGrade 2以上のCIPNは両群間に差がなかった。手足の表面温度は13℃群で低かった。これらから、CIPN予防として手足を冷却する際には25℃で十分な可能性があるが、あくまでも13℃の優越性を検証する試験で、優越性を示せなかったという結果であり、真の至適温度については今後も検討が必要である。

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副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第2回

今回は化学療法中によく遭遇する「下痢」についてです。私自身が消化器内科医でもあるので下痢はお手のもの! と言いたい所ですが、下痢は非常に奥が深く、難渋することもあります。このコラム1回分ではとても語り尽くせませんので、抗がん剤治療中に下痢を生じた患者さんが、紹介元であるかかりつけ医を受診した際に有用な下痢の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】64歳、女性主訴下痢病歴進行胃がん(StageIV)に対して緩和的化学療法を実施中。昨日から水様性下痢が発現し、回数が増えてきた(2→4回)ため、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取割合は6割程度。内服抗がん剤S-1 120mg/日(Day12)【症例2】80歳、男性主訴尿量減少病歴進行直腸がん術後再発に対して緩和的化学療法を実施中。昨日からストーマ排泄量が増加した。口渇感と尿量減少を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、腹部圧痛なし。食事摂取問題なし。抗がん剤10日前にイリノテカンを含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤による下痢は、早発性の下痢と遅発性の下痢に大きく分類できます。早発性の下痢は抗がん剤投与中または投与直後~24時間程度にみられることが多い一方で、遅発性の下痢は投与後数日〜数週間程度でみられることが多いため、鑑別が難しいこともあります。抗がん剤以外の他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)下痢の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染性腸炎、食事内容、他の薬剤など)との鑑別。抗がん剤による免疫抑制中は、感染性腸炎の可能性(発熱、血便、白血球減少時の腸炎など)を常に考慮。また、抗がん剤治療中は治療機関(大学病院や高次医療機関)から発熱時に抗菌薬を処方されていることがあり、抗菌薬内服後の場合は、クロストリジオイデス・ディフィシル関連腸炎も鑑別に挙げる。下痢を生じやすい抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など画像を拡大する(2)重症度の評価回数(例:1日5~6回以上)、持続時間、血便、発熱、脱水症状の有無を確認。食事摂取状況や全身状態もチェック。脱水所見(口渇、皮膚乾燥)があれば、経口補水や点滴を検討。高齢者や併存疾患がある患者はより注意が必要。CTCAE ver5.0画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、下痢回数はCTACEという化学療法中の重症度分類でGrade1相当の下痢となります。発熱はなく、食事摂取も減少しているものの経口補液も可能でした。症状としては軽度であり、感染性腸炎を疑う現病歴がなければ、治療機関から下痢時の対応薬(ロペラミド)などが処方されている場合は内服を勧めてもよいと思います。このケースでは、受診時に輸液を実施し、抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、患者申告ではCTACEでGrade1相当の下痢で食事摂取も問題ありませんが、口渇や尿量減少から高度の脱水が示唆される所見です。直ちに治療機関への連絡を行い、入院加療となりました。ストーマ排泄量は患者さん自身では把握が難しい場合もあるため、脱水所見の有無やストーマ排泄量*の確認が重要です。*ストーマから1日2,000mL以上排泄される場合、排液過多とみなす。抗がん剤治療中の下痢対応フロー画像を拡大する内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「食事が半分以上食べられない場合や下痢が5回以上続く場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。下痢に対して輸液や整腸剤を投与してもよいか?軽度の下痢であれば、輸液や整腸剤の支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の下痢のみでも長期に続く場合や、十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため、治療機関へご紹介ください。また、クリニックで輸液を実施しても翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。なお、イリノテカンによる遅発性下痢の場合は整腸剤による増悪やロペラミド高用量療法が必要なこともあるため、主治医への確認が望ましいです。下痢だと思ったら腸閉塞寸前!?婦人科がんや胃がんの腹膜播種症例、直腸がん症例の中には骨盤底部の播種病変の増悪や原発狭窄により直腸狭窄を来し、少量の下痢が持続することがあります。患者さんからの「下痢が多い」という訴えをよく確認すると、「少量の下痢」が「1日に十数回あり、制御できない」という症状で、腸閉塞の一歩手前であったという症例を時折経験します。狭窄した腸管の脇から漏れ出るようにしか水様便が排出されないために起こる症状です。もし、そのような患者さんがいればすぐに治療機関へ相談してください。画像を拡大する<奥深い下痢>先日、下痢で難渋した患者さんの話です。免疫チェックポイント阻害薬を使用していた患者さんで、免疫関連有害事象で1型糖尿病と甲状腺機能低下症になってしまい、緊急入院となりました。さまざまな内分泌補充療法を実施して何とか退院したものの、今度は下痢で再入院…。短絡的に「まさか大腸炎も併発したのか!?」と思い、下部内視鏡検査や各種検査を実施してもまったく問題ありません。入院後は速やかに改善したので退院しましたが、数日経つと「下痢が治らない。食べたらすぐに下痢をする」と言って来院しました。結局、同期の大腸エキスパート医師に泣きついて診察してもらうと、CT検査で経時的に萎縮していた膵臓に目をつけ、「免疫関連有害事象からの膵萎縮に伴う膵酵素分泌低下に伴う下痢」と診断してくれました。早い話が慢性膵炎の下痢のようなものです。慢性膵炎に準ずる治療で下痢はすぐに改善し、今も元気に通院治療されています。免疫関連有害事象に伴う新たな下痢のカタチかも知れず、下痢はやはり奥が深いと実感した最近の一例でした。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版;2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.5)NCCN Guidelines:Palliative Care(Version 2. 2025)

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がん治療に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント 第2版

がん治療の完遂と患者さんのQOL向上に役立つ皮膚障害アトラス近年のがん治療ではさまざまな作用機序の薬剤を使用するため、その副作用として生じる皮膚障害も多様化している。皮膚障害への対応の遅れは薬物療法の完遂率低下や患者さんのQOL低下につながる可能性もあり早期の対応が求められる。本書では各治療で生じる皮膚障害を初版と同様にアトラスを用いてわかりやすくまとめるとともに、新たに放射線皮膚炎、感染症、支持療法の副作用についても記載した。予定通りのがん治療の完遂と患者さんのQOL維持・向上のために、臨床現場で役立つ1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん治療に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント 第2版定価4,180円(税込)判型B5判頁数256頁(図数:10枚、カラー図数:325枚)発行2025年5月編集日本がんサポーティブケア学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

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高齢の進行古典的ホジキンリンパ腫、ニボルマブ+AVDがBV+AVDより有用(S1826サブ解析)/JCO

 進行古典的ホジキンリンパ腫に対する1次治療としてニボルマブ(N)+AVD(ドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)とブレンツキシマブ ベドチン(BV)+AVDを比較した第III相S1826試験における高齢者(60歳以上)のサブセット解析で、N+AVDはBV+AVDより忍容性および有効性が高いことが示された。米国・Weill Cornell MedicineのSarah C. Rutherford氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年6月16日号で報告した。 第III相S1826試験は、StageIII~IVの古典的ホジキンリンパ腫と新たに診断された患者を対象に、N+AVD 6サイクルもしくはBV+AVD 6サイクルに無作為に割り付け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目として全生存期間(OS)、無イベント生存期間(EFS)、安全性を比較した試験である。 今回のサブセット解析の結果は以下のとおり。・60歳以上の登録患者103例のうち、99例が適格だった。・追跡期間中央値2.1年で、N+AVD群(50例)の2年PFS率は89%、BV+AVD群(49例)の2年PFS率は64%であった(ハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.09~0.63、層別片側log-rank検定p=0.001)。・2年OS率はN+AVD群で96%、BV+AVD群で85%であった(HR:0.16、95%CI:0.03~0.75、層別化片側log-rank検定p=0.005)。・N+AVD群は69%、BV+AVD群は26%が減量することなく6サイクル投与され、14%がニボルマブを中止し、55%がBVを中止した。・非再発死亡率はBV+AVD群で16%、N+AVD群で6%であった。・好中球減少はN+AVD群で多かったが、発熱性好中球減少症、敗血症、感染症はBV+AVD群で多く、末梢神経障害もBV+AVD群で多かった。・主要有害事象の患者報告アウトカムでは、N+AVDがBV-AVDより毒性プロファイルが改善されていることが確認された。 著者らは、「N+AVDはBV+AVDよりも忍容性が高く効果的であったことから、アントラサイクリン系薬剤の併用療法が適応となる高齢の進行古典的ホジキンリンパ腫患者に対する新たな標準治療となる」としている。

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既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

 切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。 今回、既治療のCLDN18.2陽性進行胃がん症例を対象として自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法(satri-cel)の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験の結果が2025年6月のLancet誌に掲載された。CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞であるT細胞に遺伝子導入して作成されたCAR-T細胞を患者に再び投与する治療法であり、日本でも2019年から悪性リンパ腫再発後の治療が保険適用となっているが、固形がんに対するCAR-T細胞療法に関するランダム化比較試験は本研究が世界初の報告である。 少なくとも2回の前治療が奏効せず、腫瘍組織がCLDN18.2陽性であった症例を対象として、CAR-T群と担当医が選択した標準治療群を比較した結果、主要評価項目のPFS中央値(3.25ヵ月vs.1.77ヵ月)およびOS中央値(7.92ヵ月vs.5.49ヵ月)は共にCAR-T群が有意に延長した。一方、安全性に関しては、CAR-T群はGrade3以上の有害事象が99%にみられ、血球減少、消化器症状、頻脈、肝障害、電解質異常、蛋白尿、皮疹、腹痛、体重減少など広範な臓器にわたり30〜90%の頻度で出現していたが、「サイトカイン放出症候群」の重篤化により死亡した症例は皆無であった。 種々の治療法によっても手術不能胃がん患者の生存率の飛躍的向上が認められていない現状では、新たな治療法であるCAR-T細胞療法に期待したいところである。しかしながら、報告された第II相試験の結果からは臨床現場における有効性と安全性を担保できるものとはいえず、今後予定されている精緻な研究デザインによる第III相試験の結果を待つ必要があると思われた。

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ASCO2025 レポート 肺がん

レポーター紹介ASCO Lung、Lung ASCOと呼ばれるほど、肺がんに関しては当たり年であった2024年のASCOとは異なり、2025年のASCOは肺がんのPlenary演題もないなど、やや小ぶりな前評判であった。ただ、実際に演題が発表されてみると、DeLLphi-304試験では小細胞肺がん(SCLC)の二次治療において初めて全生存期間(OS)を延長したタルラタマブの成績が報告され、肺がんのコミュニティとしてはPlenaryセッションでもよかったのではとの声も聞こえてきた。さらに日本では未承認であるが、進展型SCLC(ES-SCLC)の維持療法として、lurbinectedinが、無増悪生存期間(PFS)、OSともに延長を示したIMforte試験にも注目が集まった。IMforte試験の演者はスペインのLuis Paz-Ares先生で、くしくもPARAMOUNT試験において非小細胞肺がん(NSCLC)におけるペメトレキセドの維持療法をASCOで発表したのもPaz-Ares先生であり、印象的であった。これらの日常診療を変えうる発表に加え、将来につながる発表が、周術期領域、抗体医薬品の開発に関連して複数発表されている。周術期領域においては、EGFR遺伝子変異陽性肺がんに対してNeoADAURA試験の結果が、ALK遺伝子転座陽性肺がんに対してALNEO試験の結果が報告された。抗体医薬品の開発は引き続き盛んであり、抗体薬物複合体(ADC)、T-cell Engager(TCE)、さらにはCAR-T療法など、今後に期待が持たれる発表が、とくに中国から続いた。そんななか、新薬を使うのでも、手術をするのでもなく、免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングにより、治療効果に大きな違いをもたらした臨床試験の結果が中国から発表された。免疫チェックポイント阻害薬の奥の深さを感じるとともに、このようなタイムリーな研究成果が中国から報告されることに、新規薬剤の開発だけでなく、臨床試験の実施体制としても中国の成熟が感じられた。[目次]DeLLphi-304試験IMforte試験NeoADAURA試験ALNEO試験CheckMate 816試験HERTHENA-Lung02試験抗体医薬品の展開Time-of-Day試験最後にDeLLphi-304試験再発SCLCに対する治療選択肢の1つとして期待されているDLL3とCD3を標的としたTCEであるタルラタマブの有効性と安全性を評価した第III相試験がDeLLphi-304試験である。本試験は、プラチナ製剤ベースの初回化学療法を終了後、病勢進行を経験した再発SCLC患者を対象に、タルラタマブ(0.3mgで開始後、10mgを2週ごと投与)と化学療法(トポテカン、lurbinectedin、アムルビシン)を比較する国際共同多施設無作為化比較試験で、全体で509例が登録された。主要評価項目はOS、副次評価項目にはPFSや奏効割合(ORR)、安全性が設定された。主要評価項目であるOSにおいて、タルラタマブ群は化学療法群と比較して有意な生存期間延長を示し、OSの中央値はタルラタマブ群で13.6ヵ月、化学療法群で8.3ヵ月であり、ハザード比は0.60(95%CI:0.47~0.77)、p<0.001と統計学的に有意であった。PFSについても良好な傾向が認められ、中央値は4.2ヵ月と3.7ヵ月、ハザード比は0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。ORRについても40%と17%とタルラタマブ群で良好であった。安全性の観点では、タルラタマブ群に特徴的なサイトカイン放出症候群(CRS)は56%にみられたが、大半はGrade1~2で管理可能であり、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)などの神経学的有害事象も既知のプロファイルと一致した。治療関連死亡はなかった。今回のDeLLphi-304試験の成功により、20年以上にわたって進展のなかった再発SCLC治療において、新たな標準治療の登場が視野に入った意義深い試験結果である。DLL3はSCLCに特異的かつ高発現する治療標的として注目されており、新たなモダリティとしてTCEが治療の基軸になる状況が現実となった。今後、初回治療や限局型への展開、あるいは他がん腫への応用など、免疫系を活用した治療開発の広がりが期待される。IMforte試験ES-SCLCでは一次治療後の病勢進行率が高く課題とされてきた。lurbinectedinはアルキル化作用を持つ転写阻害剤であり、プラチナ製剤ベース化学療法後に病勢進行したSCLC患者において抗腫瘍活性が示されてきた。IMforte試験は、ES-SCLC患者において一次導入化学療法(アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド)後に病勢進行しなかった患者を対象として、アテゾリズマブによる維持療法にlurbinectedinを上乗せすることの意義を検証する国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者はlurbinectedin(3.2mg/m2)とアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに併用投与する試験治療群、またはアテゾリズマブ(1,200mg)を3週ごとに単独投与する標準治療群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目はIRF-PFS(独立画像判定によるPFS)およびOSとされた。試験治療群には242例、標準治療群には241例が登録された。試験治療群はIRF-PFSにおいて標準治療群に対して、PFS中央値5.4ヵ月と2.1ヵ月、ハザード比0.54(95%CI:0.43~0.67)、pNeoADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性の切除可能なNSCLCに対する術前治療として、オシメルチニブ単剤または化学療法併用の有効性と安全性を検証する第III相試験がNeoADAURA試験である。本試験は、StageII~IIIB(N2)に相当する切除可能EGFR遺伝子変異陽性(Exon19delまたはL858R)NSCLCを対象に、術前オシメルチニブ単剤群、オシメルチニブ+化学療法併用群、化学療法単独群を比較する国際共同無作為化試験で、全体で358例が登録された。主要評価項目はmajor pathologic response(MPR)であり、副次評価項目には無イベント生存期間(event-free survival;EFS)、病理学的完全奏効割合(pCR)、ORR、手術実施率、R0切除率、安全性などが含まれた。MPRにおいては、化学療法群で2%であったのに対して、オシメルチニブ単剤、併用群では25%、26%であり、オシメルチニブ併用による統計学的な優越性が確認された。pCRにおいては、化学療法群が2%であったのに対して、併用群で4%、オシメルチニブ単剤群で9%という結果であった。R0切除率はいずれの群でも90%以上と高率であり、手術遅延や手術不能例も少なく、安全に根治切除に導ける治療であることが示唆された。まだイベント数が少ない状態ではあるがEFSについても報告され、化学療法群に対して、ハザード比は併用療法群で0.50、オシメルチニブ単剤群で0.73であった。術後治療としては全例にオシメルチニブによる補助療法が予定されており、長期予後の追跡が期待される。ADAURA試験で術後オシメルチニブの有効性が示されて以来、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療パラダイムは大きく変化したが、本試験は術前段階からEGFR-TKIを導入することの意義を検討している。免疫チェックポイント阻害薬において病理学的奏効割合は高めだが画像上の奏効は50%程度にとどまっているという課題を有しており、画像上の高い奏効割合が期待できるEGFR-TKIの立ち位置については、今後さまざまな議論が展開されることになる。ALNEO試験ALNEO試験では、アレクチニブ600mgを1日2回術前に投与し、手術後も術後療法として継続することの有効性と安全性を検討する第II相試験である。主要評価項目はBICRによるMPRとされた。本試験にはイタリアの20施設が参加し、2021年5月から2024年7月にかけて患者が登録された。33例が登録され、全例が術前治療を完了し、28例が手術を受け、26例が術後療法を開始した。手術を受けなかった5例のうち、2例は患者の拒否、2例は臨床的判断、1例は臨床的進行のためであった。術後療法を受けなかった2例は、いずれもR0切除が得られなかったことがその理由であった。主要評価項目であるBICRによるMPRは42%(95%CI:28~58)であり、信頼区間の下限が事前に設定された閾値の20%を超えたことから、統計学的にも有意な結果であった。pCRは12%であった。副次評価項目として、ORRは67%であった。特筆すべきは、同時に報告されたNeoADAURA試験やこれまでのオシメルチニブによる術前治療において、pCRが0~10%未満にとどまっているのに対して、アレクチニブにおいては若干高めのMPRやpCRが報告されており、同じドライバー陽性肺がんにおいても標的や薬剤によって病理学的奏効に違いがあることが示唆されている点にある。今後、術前治療にドライバー遺伝子変異に伴うTKIを中心とした治療が導入されていくことが期待されているが、他の標的、他の薬剤による病理学的効果を含む効果についても注目したい。CheckMate 816試験すでに実臨床に導入されているCheckMate 816試験は、切除可能なStageIB(腫瘍径4cm以上)~IIIAのNSCLC患者(TNM分類第7版による)を対象とした第III相試験で、既知のEGFR遺伝子変異またはALK転座がない患者が登録された。患者はニボルマブ360mgと化学療法を3週間ごとに3サイクル併用するニボルマブ群、または化学療法単独を3週間ごとに3サイクル行う化学療法群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、独立中央病理審査(BIPR)によるpCRおよびEFSで、OSは有意水準αも割り付けられた主要な副次評価項目として設定され、今回、最低5年間の追跡期間で最終解析が行われた。ニボルマブ群は化学療法群に対して、ハザード比0.72(95%CI:0.523~0.998)、p=0.0479と統計学的に有意なOSの改善を示し、5年OS割合も65%と55%であり、10%の上乗せを示した。ニボルマブと化学療法の併用は、肺がん特異的生存期間においても化学療法単独と比較して継続的な効果を示した。安全性プロファイルはこれまでの報告と一貫していた。CheckMate 816試験は、切除可能な固形がんにおいて、術前化学免疫療法のみ(3サイクル)が統計学的に有意なOSのベネフィットを示すことを検証した唯一の第III相試験であり、術前+術後化学免疫療法によるKEYNOTE-671試験に続いて、周術期免疫チェックポイント阻害薬においてOSの延長を示した重要な試験となった。術前のみ、術前+術後いずれの免疫チェックポイント阻害薬による補助療法においてもOSの延長が示された状況は肺がんにおいてのみであり、術前+術後の治療方法しか存在しない他のがん腫との明らかな違いが生じている。今後その違いに基づき、さらなる議論が展開されることは間違いないと考えられる。HERTHENA-Lung02試験HERTHENA-Lung02試験は、第3世代EGFR-TKI後に病勢進行した局所進行または転移を有するEGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同多施設無作為化非盲検第III相試験である。患者は、HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと)群または標準治療(シスプラチンまたはカルボプラチンを3週ごとに4サイクル投与後、ペメトレキセド維持療法実施)群に1:1の割合で割り付けられた。主要評価項目は、BICRによるPFSとされ、主要な副次評価項目はOS、それ以外の副次評価項目として安全性、頭蓋内PFS、HER3タンパク発現と有効性の関連性評価とされた。本試験には586例の患者が登録され、HER3-DXd群に293例、標準治療群に293例が割り付けられた。HER3-DXd群のPFS中央値は5.8ヵ月であったのに対し、標準治療群は5.4ヵ月であり、ハザード比は0.77(95%CI:0.63~0.94)、p=0.011で、統計学的に有意な結果であった。ただ、中央値での差異は0.4ヵ月にとどまっていた。さらに、今回OSの解析結果として、OSの中央値がHER3-DXd群、標準治療群それぞれで16.0ヵ月、15.9ヵ月、ハザード比0.98(95%CI:0.79~1.22)であり、OSについてはNegative trialであることが明らかになった。ポジティブな結果が多かった今年のASCOにおいて、期待されていたADCについてNegativeな結果が報告されたことのインパクトは大きかった。DXd(デルクステカン)ベースのADCとしては、昨年TROP2-ADCであるDato-DXdが、同様の肺がん二次治療において、全体集団でのOSでNegativeであったことが報告されている。Dato-DXdについてはTROP2の発現についてAIも用いたタンパク発現の評価方法TROP2 QCS-NMR(Normalized Membrane Ratio of TROP2 by Quantitative Continuous Scoring)が効果予測になりうることが報告されている。そのため、HER3-DXdにおいても、HER3の発現について今後同様の試みがされることに期待したい。抗体医薬品の展開BL-B01D1(iza-bren)は、EGFRとHER3の二重特異性ADCであり、新規のトポイソメラーゼI阻害薬(Ed-04)をペイロードとしている。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しては、63.2%のORRを示したことがすでに報告されている。今回は、上記以外のドライバー遺伝子変異を持つNSCLC患者83例が登録され、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation(14例)、HER2変異(19例)、ALK/ROS1/RET融合(24例)、KRAS/BRAF/MET変異(26例)を有する患者が登録された。全患者のORRは46.2%、PFS中央値は7.0ヵ月であった。ORRはそれぞれ、EGFR exon20挿入変異・Uncommon mutation 69.2%、HER2変異52.9%、KRAS/BRAF/MET変異40%、KRAS G12C変異44.4%、ALK/ROS1/RET融合34.8%であった。ABBV-400(Telisotuzumab Adizutecan、Temab-A)はc-Met標的抗体(Telisotuzumab)とトポイソメラーゼIペイロードを組み合わせたものである。今回、プラチナベース化学療法およびTKIによる治療を受けた進行固形がん患者を対象とし、3ライン以上の治療歴のあるEGFR変異非扁平上皮NSCLCコホートのデータが報告された。その結果、ORRは63%であり、耐性変異の有無にかかわらず幅広い効果が確認された。ABBV-706は、高悪性度神経内分泌腫瘍(NENs)に発現しているSEZ6(Seizure-Related Homolog Protein 6)を標的としたTop1阻害薬をペイロードとしたADCである。NEN全体を対象としたコホートでは、ORRが36.9%、PFS中央値が7.62ヵ月であり、LCNECに限定した解析結果では、ORRが33.3%、PFS中央値が5.78ヵ月であることが報告された。低酸素応答性CEA CAR-T細胞療法の再発NSCLCに対する第I相試験についても報告された。ORRは47%、DCRは87%であり、一定の効果が示されたが、奏効期間(DoR)中央値は2ヵ月であり、この点についてはまだまだ改善の余地があることが示された。PRを達成した患者では、ベースライン血清CEAレベルが有意に高いなどのサブグループ解析も報告された。Time-of-Day試験Time-of-Day(ToD)試験は、進行NSCLC患者における化学免疫療法を、早めの時間(15:00より前)と遅い時間(15:00以降)で投与した場合の比較を行った無作為化第III相試験である。概日リズムは睡眠、疾患、治療に影響を与えることが知られており、前臨床試験では概日リズムと免疫細胞機能・分布の関連性、および免疫療法の有効性への影響が示唆されていた。また、20報以上の後ろ向き研究のメタ解析では、免疫チェックポイント阻害薬の投与が「遅い時間」よりも「早い時間」に行われた場合に効果の改善が示されている。StageIIIC~IV期のNSCLC患者210例が、標準化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブまたはsintilimab)の初回4サイクルについて、早めの時間(15:00より前)または遅い時間(15:00以降開始)に無作為に割り付けられた。主要評価項目はBICRによるPFS、副次評価項目はOS、BICRによるORR、全血リンパ球サブセット解析であった。早い時間に投与した場合のPFS中央値は11.3ヵ月であったのに対し、遅い時間では5.7ヵ月であり、ハザード比は0.42(95%CI:0.31~0.58)、p<0.0001で、統計学的に有意に早い時間に投与することの優越性が示された。OSにおいても、中央値がNot reachedと16.4ヵ月、ハザード比は0.45(95%CI:0.30~0.68)、p<0.0001であり、明らかに早い時間の投与で延長することが示された。有害事象発現割合については、若干の違いは認めるものの大きな違いは認められなかった。循環T細胞の解析では、早い時間群でCD8+T細胞とCD4+T細胞の有意な増加が示された一方で、遅い時間群では減少傾向がみられ、今回の試験結果を裏打ちする情報として示された。高額の薬剤を用いて新たな治療方法が模索されるなかで、投与時間の調整のみで大きなPFS、OSの違いをもたらした結果が、中国で実施された臨床試験から得られたことを会場の参加者は驚きをもって受け止めた。今後おそらくいくつかの追試が実施されるとともに、最適な投与時間のカットオフ(15時が最適か)についても検討が進められる見込みである。最後に今年のASCOは、肺がんによるPlenary演題はなかったものの、Plenaryであってもおかしくないインパクトを有する演題は複数発表された。注目すべきは、抗体医薬品を中心とした新たな薬剤の発表が続いたことだけでなく、周術期や免疫チェックポイント阻害薬の投与タイミングなど、肺がんの治療開発が実に幅広い領域で展開していることである。引き続き目が離せない状態が続くと考えられる。

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ASCO2025 レポート 消化器がん

レポーター紹介2025年5月30日~6月3日に、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)が米国・シカゴで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。高知大学の佐竹 悠良氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。胃がんMATTERHORN試験:周術期FLOTにおけるデュルバルマブ追加の意義(LBA5)切除可能II~IVA期の胃がん・食道胃接合部腺がんを対象に、欧米における標準治療である周術期FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法に対する抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ追加(D-FLOT療法)の有用性を検証したMATTERHORN試験。D-FLOT療法により病理学的完全奏効の改善がすでにESMO2023で報告され(19%vs.7%、オッズ比:3.08、p<0.00001)、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)における統計学的優越性もプレスリリースされていたが、今回学会にて正式に報告され、同時にNEJM誌でpublishされた。患者は術前・術後に2サイクルずつFLOT療法+プラセボもしくはD-FLOT療法を受け、その後プラセボもしくはデュルバルマブを10サイクル(術後補助化学療法として1年間)受けた。主要評価項目のEFS中央値はD-FLOT群未到達vs.プラセボ群32.8ヵ月であり、統計学的優越性を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。24ヵ月EFS率はD-FLOT群67%vs.プラセボ群59%であった(観察期間中央値:D-FLOT群31.6ヵ月vs.プラセボ群31.4ヵ月)。副次評価項目である全生存期間(OS)においても改善傾向(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)がみられたが、現時点では統計学的有意差には至っていない(観察期間中央値:D-FLOT群34.6ヵ月vs.プラセボ群34.6ヵ月)。免疫介在性有害事象はGrade3/4をD-FLOT群7%vs.プラセボ群4%に認めた。胃がん周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、KEYNOTE-585試験およびATTRACTION-5試験において有意な結果を示すことができなかったが、本試験において主要評価項目であるEFSでの有意な改善を認め、今後の標準治療となることが見込まれる。一方、本邦では周術期FLOT療法の経験は十分とは言えず、大型3/4型胃がんに対する術前FLOT療法およびDOS(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)療法を検討する第II相試験であるJCOG2204が進行中であり、結果が期待される。DESTINY-Gastric04試験:HER2陽性胃がんの2次治療におけるT-DXdの有効性を確立(LBA4002)HER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)の進行・再発胃がんまたは食道胃接合部腺がんに対し、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、6.4mg/kgを3週ごと)が、現在の標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル併用(RAM+PTX)療法と比較してOSを有意に延長することが国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏から報告され、こちらも同時にNEJM誌でpublishされた。本試験は前治療のトラスツズマブ不応後の生検によるHER2陽性例が対象であり、1,088例に腫瘍組織検体スクリーニングが実施され、450例(41%)は組織スクリーニングで脱落し、最終的に494例が1:1に割り付けされた。前治療としてICIの投与歴がある患者は両群ともに15%程度であり、後治療として抗HER2治療を受けた割合はT-DXd群3.2%vs.RAM+PTX療法群25.8%であった。主要評価項目のOS中央値は、T-DXd群14.7ヵ月vs.RAM+PTX療法群11.4ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.70、p=0.0044)。副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)および奏効率(ORR)においてもT-DXd群で有意に改善を示した(PFS中央値:6.7ヵ月vs.5.6ヵ月、HR:0.74、p=0.0074、ORR:44.3%vs.9.1%、p=0.0006)。Grade3以上の薬剤関連有害事象の割合も両群で同等であった(T-DXd群50.0%vs.RAM+PTX療法群54.1%)。ただし、間質性肺疾患はT-DXd群で13.9%(Grade3は1例のみ、0.4%)と、重篤例は多くないものの注意が必要である。今後、HER2陽性かつCPS陽性の進行・再発胃がんに対しては、KEYNOTE-811試験の結果から初回治療よりペムブロリズマブ併用が見込まれるが、本試験のサブグループ解析においては前治療ICI投与の有無にかかわらず、一貫してT-DXdによる生存改善傾向を認めており、HER2陽性胃がんにおける2次治療としてT-DXdが今後の標準治療の位置付けとされた。一方、本結果は試験組み入れ時のHER2再確認(再生検)により結果が導かれているが、40%前後は前治療不応時にHER2 lossが生じている可能性が示唆された。大腸がんATOMIC試験:StageIII dMMR大腸がん術後補助療法におけるアテゾリズマブ追加の意義(LBA1)StageIIIのdMMR結腸がんに対する術後補助療法として、mFOLFOX6化学療法にPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブを追加することで、無病生存期間(DFS)を有意に延長することが国際第III相試験ATOMIC試験により示された。試験治療群は術後補助化学療法としてmFOLFOX6+アテゾリズマブ併用療法を6ヵ月受けた後にアテゾリズマブ単剤を6ヵ月(計12ヵ月)投与され、対照群はmFOLFOX6療法を6ヵ月投与された。主要評価項目である3年DFS率はアテゾリズマブ併用群86.4%vs.対照群76.6%(HR:0.50、95%CI:0.34~0.72、p<0.0001)であり、統計学的有意差を認めた。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)は併用群72.3%vs.対照群59.2%とアテゾリズマブ併用群でやや多く、免疫関連有害事象として高血糖や甲状腺機能低下、大腸炎に伴う下痢や皮膚炎を認めたが、重篤なものは少なかった。本試験により、StageIIIのdMMR結腸がんにおいて術後免疫療法導入が長期予後を改善することが明らかとなり、補助療法の新たな標準となる可能性を示した。現在、本邦を含め切除可能なStage IIIまたはT4N0のdMMR/MSI‑High陽性結腸がん患者に対する周術期dostarlimabの有効性を検証する第III相試験であるAZUR-2試験が進行中である。同薬剤はすでに直腸がん領域で良好な有効性が確認されており、新しい治療ストラテジー確立が期待される。BREAKWATER試験:BRAF V600E変異陽性大腸がんに対する1次治療としてのEC+mFOLFOX6併用療法(#3500)進行・未治療のBRAF V600E変異陽性大腸がん患者を対象に、BRAF阻害薬エンコラフェニブ(E)+抗EGFR抗体セツキシマブ(C)に化学療法(mFOLFOX6)を加えた3剤併用療法(EC+mFOLFOX6)の標準治療(FOLFOX/FOLFOXIRI/CAPOX±BEV)に対するORRおよびOS(初回中間解析)における良好な結果は、一足先にASCO-GI 2025で発表されていたが、今回主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告され、PFS、ORR、OSにおける改善が明らかとなり、同時にNEJM誌でpublishされた。主要評価項目であるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月vs.標準治療群7.1ヵ月であり、統計学的優越性を示した(HR:0.53、95%CI:0.407~0.677、p<0.0001)。OS中央値(2回目の中間解析)はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月vs.標準治療群15.1ヵ月(HR:0.49、p<0.0001)だった。もう1つの主要評価項目であるORRの追加報告もあり、EC+mFOLFOX6群65.7%vs.EC群45.6%vs.標準治療群37.4%と良好であった。TRAE(Grade3/4)はEC+mFOLFOX6群76.3%vs.EC群15.7%vs.標準治療群58.5%であり、関節痛(29%)、皮疹(29%)に注意が必要である。本試験により、BRAF V600E変異大腸がんの1次治療として、EC+mFOLFOX6が新たな標準と位置付けられた。また、EC療法はmFOLFOX6療法などの抗がん剤治療が適応とならないフレイル症例に対する治療選択肢となる可能性が示唆された。AGITG DYNAMIC-III試験:術後ctDNA陽性は高リスク再発マーカー(#3503)術後StageIII結腸がん患者を対象に、circulating tumor DNA(ctDNA)の有無による再発リスクを評価した第II/III相試験であるDYNAMIC-III試験において、ctDNA陽性が強力な再発予測因子であることが示された。StageIII結腸がん患者を対象に術後4週時点でctDNAを評価し、ctDNA結果に基づいたマネジメント群(ctDNA-informed群、ctDNA陰性例ではde-escalation、ctDNA陽性はescalation[より強力な術後補助療法]を実施)と標準マネジメント群(主治医選択によるマネジメント、ctDNA結果は盲検)に無作為化して割り付けされた。全体で1,002例が登録され、それぞれctDNA-informed群502例vs.標準マネジメント群500例に割り付けられ、ctDNA陽性は各群129例(27%)vs.130例(27%)であった。ctDNA陽性例のうち、ctDNA-informed escalation群では3ヵ月以上のFOLFOXIRI実施が50%、6ヵ月のオキサリプラチンダブレット(FOLFOX/CAPOX)が44%に実施され、一方の標準マネジメント群では3ヵ月FOLFOX/CAPOXが45%、6ヵ月FOLFOX/CAPOXが41%に術後補助療法として実施された。3年無再発生存期間はctDNA-informed escalation群48%vs.標準マネジメント群52%であり、ctDNA結果に基づいた術後補助化学療法強化による再発抑制改善は認めなかった(HR:1.11、p=0.57)。後解析としてFOLFOXIRIとFOLFOX/CAPOXの無再発生存比較がなされたが、差を認めず(HR:1.09、p=0.662)、ctDNAクリアランス割合も同等であった(60%vs.62%)。術後補助化学療法終了時点におけるctDNAクリアランスの有無(HR:11.1)および術後ctDNA測定時のctDNA量が再発と相関することが示唆された(p<0.001)。既報と同様に、術後ctDNA検査のバイオマーカーとしての有用性および術後ctDNA量と再発リスクとの相関やctDNA陽性例に対する術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの重要性が報告された。一方で、 ctDNA陽性例に対してはオキサリプラチン併用レジメンからFOLFOXIRIへの治療強化では不十分である可能性も示唆され、今後さらなる治療開発の必要性が示唆された。本邦における臨床実装が待たれる。NCCTG N0147後方解析:ctDNAによるMRD評価が術後再発リスクを鋭敏に予測(#3504)術後StageIII結腸がんに対する術後補助FOLFOX±セツキシマブを検証した第III相試験であるNCCTG N0147試験におけるctDNAの後解析により、ctDNA評価は再発リスクを高精度に層別化できることが明らかとなった。術後補助療法開始前10週以内に血漿ctDNAをGuardant Reveal/Guardant360で測定(中央値42日)。 ctDNAは20.4%で検出可能であり、より進行例(T/Nステージ)やBRAF変異例、閉塞例や穿孔例などの術後再発高リスク例において検出されることが示唆された。ctDNA陽性例は陰性例に比し、DFS、OSともに大きく劣っていた(DFS-HR:3.74、p<0.0001、OS-HR:3.17、p<0.001)。一般的に術後予後良好とされているdMMR症例においても、ctDNA陽性例はpMMR例と比較してもDFSおよびOSが不良であった(DFS-HR:1.54、p=0.0114、OS-HR:1.77、p=0.0026)。術後病理評価による再発リスクとctDNA検出の有無による層別化ならびにctDNA検出量とDFSの相関性も示唆された。既報と同様に、術後ctDNA MRD評価の有用性が再確認され、早期の再発予測や治療強度決定に活用できる可能性を示した。TRIPLETE試験:初回治療でのmFOLFOXIRI+パニツムマブがOSを有意に延長(#3512)切除不能なRAS/BRAF野生型転移を有する大腸がん(mCRC)初回治療において、mFOLFOX+パニツムマブに対しmFOLFOXIRI+パニツムマブは、主要評価項目のORRおよびPFSは改善を認めないことがすでに報告されていた。一方、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)においては、RAS/BRAF野生型かつ左側原発例においてmFOLFOXIRI+セツキシマブ療法のmFOLFOXIRI+BEVに対する治療成績改善が示唆されていた。今回TRIPLETE試験におけるOSが報告され、mFOLFOXIRI+パニツムマブによる有意な生存期間延長が報告された(観察期間中央値:60.2ヵ月)。OS中央値はmFOLFOXIRI+パニツムマブ群41.1ヵ月vs.mFOLFOX6+パニツムマブ群33.3ヵ月であり、有意に改善を認めた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.049)。一方で、アップデートされたORRやPFS、奏効期間(DoR)、早期腫瘍縮小(ETS)およびR0切除割合は群間差を認めなかった。PPS(病勢進行後生存)はmFOLFOXIRI群で有意に延長(HR:0.73、p=0.012)しており、OS延長の主因と考えられた。トリプレット+抗EGFR抗体はDEEPER試験と同様にTRIPLETE試験でも、標準治療に対する良好な生存延長効果が示唆され、RAS/BRAF野生型mCRCの治療戦略においてトリプレット療法を選択肢の1つとして再評価する根拠と考えられる。ただし、PFSやORRに差がなかったことから、有効性の本質はPPSの改善に依存している可能性があり、治療強度と毒性のバランスに配慮した個別化治療が求められる。胆道がんGAIN試験:胆道がんに対する周術期GC療法の有効性が示唆(#4008)切除可能局所進行胆道がんに対して、本邦ではASCOT試験により切除後のS-1補助化学療法が標準治療とされているが、今回ドイツより術前・術後にゲムシタビン+シスプラチン(GC)を用いた周術期治療が、標準治療(手術+術後補助療法)と比較してOSおよびEFS、R0切除率を大きく改善する可能性が報告された。ドイツの21施設による第III相試験であり、登録数不足により68例の登録時点で早期終了となった。NEO群(周術期GC群)は術前GC 3サイクル後に切除がなされ、その後3サイクルの術後補助GC療法がプロトコール治療として規定されており、標準治療群は切除後に術後補助化学療法24週(主治医選択)が規定されていた。早期中止のためNEO群(32例)、標準治療群(30例)での報告。NEO群の術前GC療法平均投与コース数は2.8サイクルだが、術後補助療法の平均投与コース数は1.4サイクルであった。一方の標準治療群における術後補助療法はカペシタビン20%、ゲムシタビン3.3%、GC療法3.3%であった。OS中央値はNEO群(周術期GC群)27.8ヵ月vs.標準治療群14.6ヵ月と周術期GC療法による良好な結果が示唆された(HR:0.463、95%CI:0.222~0.964、p=0.0395)。 EFS(HR:0.351、p=0.0047)や R0切除率(NEO群83.3%vs.標準治療群40.0%)も大きな差を認めた。本試験は登録数の制限から統計的限界があるものの、術前GC療法が切除率や生存期間の向上に寄与しうる可能性を示した点で意義深く、今後の大規模前向き試験の展開が強く期待される。一方で現在、本邦では進行・再発胆道がんに対してGC+S-1(GCS)療法とGC+ICI併用療法の治療効果を検討するKHBO2201-YOTSUBA試験が進行中であり、周術期治療への応用が期待される。膵がんPANOVA-3試験:切除不能局所進行膵がんにおける腫瘍治療電場(TTFields)の有効性と安全性(LBA4005)切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)に対する新たな治療戦略として、腫瘍治療電場(Tumor Treating Fields:TTFields)の有効性が注目を集めた。PANOVA-3試験は、TTFieldsをGEM+nab-PTX(GnP)に追加することで、標準治療単独(GnP)と比較し全生存期間(OS)を有意に延長することを示した初の第III相試験である。本試験は本邦を含む20ヵ国198施設、571例を対象に1対1に割り付けて実施。主要評価項目であるOS中央値はTTFields群16.2ヵ月vs.GnP群14.2ヵ月であり、優越性を示した(HR:0.82、95%CI:0.68~0.99、p=0.039)。副次評価項目では、無痛生存期間(HR:0.74)、遠隔転移PFS(HR:0.74)、QOLにおいてもTTFields群が有意に良好な結果を示した。安全性に関しては、TTFields群で局所の皮膚関連有害事象が多くみられたが、主にGrade1/2で管理可能であり、有害事象でTTFieldsが中止となったのは8.4%であった。TTFieldsは非侵襲的かつ局所的な電場療法であり、がん細胞の分裂阻害効果や抗腫瘍免疫増強効果が報告されている。膠芽腫や悪性胸膜中皮腫・非小細胞肺がんに続く膵がんへの応用が今回初めて本格的に示され、遠隔転移制御効果も示唆された。今後の膵がん治療における集学的治療の一環として、TTFieldsの位置付けが期待される。

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NSCLCへの周術期ニボルマブ追加、OS中間解析(CheckMate 77T)/ASCO2025

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)におけるニボルマブを用いる周術期サンドイッチ療法(術前:ニボルマブ+化学療法、術後:ニボルマブ)は、国際共同第III相無作為化比較試験「CheckMate 77T試験」において、術前補助療法として化学療法を用いる治療と比べて無イベント生存期間(EFS)を改善したことが報告されている1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Mariano Provencio氏(スペイン・Hospital Universitario Puerta de Hierro)が、本試験のEFSのアップデート解析および全生存期間(OS)の第1回中間解析の結果を報告した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版)試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年 229例対照群(プラセボ群):プラセボ+プラチナ製剤を含む化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年 232例評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づくEFS[副次評価項目]BICRに基づく病理学的完全奏効(pCR)、OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月時点(データベースロック日:2024年12月16日)におけるEFS中央値は、ニボルマブ群46.6ヵ月、プラセボ群16.9ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.46~0.80)。30ヵ月EFS率は、それぞれ61%、43%であった。・循環腫瘍DNA(ctDNA)クリアランスは、ニボルマブ群66%(50/76例)、プラセボ群38%(24/64例)に認められ、そのうちpCRが達成された患者の割合は、それぞれ50%(25/50例)、12%(3/24例)であった。・治療群にかかわらず、ctDNAクリアランスとpCRの両方を達成した患者集団は、EFSが良好であった。・KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれかに変異がみられた集団におけるEFSは、ニボルマブ群28.9ヵ月、プラセボ群10.5ヵ月であった(HR:0.63、95%CI:0.32~1.23)。KRAS、KEAP1、STK11遺伝子のいずれにも変異がみられない集団では、それぞれ未到達、17.0ヵ月であった(同:0.65、0.39~1.10)。以上から、いずれの集団でもニボルマブ群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、ニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.85、95%CI:0.58~1.25)。30ヵ月OS率は、それぞれ78%、72%であった。・肺がん特異的生存期間中央値もニボルマブ群とプラセボ群はいずれも未到達であったが、ニボルマブ群が良好な傾向にあった(HR:0.60、95%CI:0.40~0.89)。30ヵ月肺がん特異的生存率は、それぞれ87%、75%であった。 本結果について、Provencio氏は「切除可能NSCLCにおいて、ニボルマブを用いる周術期治療は有用な治療選択肢の1つであることが支持された」とまとめた。

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「ICIの投与は早い時間が良い」をRCTで再現/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与は、午前中などの早い時間が良いという報告が多数存在する。しかし、これらは後ろ向き解析やそれらのメタ解析に基づくものであり、無作為化比較試験により検討された報告はこれまでにない。そこで、Yongchang Zhang氏(中国・中南大学湘雅医学院)らの研究グループは、ICIの投与時間が非小細胞肺がん(NSCLC)患者の予後へ及ぼす影響を検討する無作為化比較試験「PACIFIC15試験」を実施した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において本試験の結果が報告され、早い時間にICIを投与した群は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が良好であったことが示された。・試験デザイン:海外第III相無作為化比較試験・対象:ICI+化学療法を開始するドライバー遺伝子陰性のStageIIIC~IV NSCLC患者・試験群(早時間帯群):15時以前にICIの投与を開始 105例・対照群(遅時間帯群):15時1分以降にICIの投与を開始 105例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)評価によるPFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、早時間帯群90.5%、遅時間帯群90.5%であった。PD-L1発現状況は、PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明が、それぞれ39.0%/29.5%/24.8%/6.7%、44.8%/27.5%/21.0%/6.7%であった。ICIの内訳は、sintilimab/ペムブロリズマブが、それぞれ77.1%/22.9%、78.1%/21.9%であった。・追跡期間中央値23.2ヵ月時点において、主要評価項目のBICR評価によるPFS中央値は、早時間帯群11.3ヵ月、遅時間帯群5.7ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.31~0.58、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、PFSは早時間帯群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、早時間帯群未到達、遅時間帯群16.4ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(HR:0.45、95%CI:0.30~0.68、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、OSも早時間帯群が良好な傾向にあった。・ICI投与開始後、早時間帯群はCD8陽性T細胞がベースライン時より増加したが、遅時間帯群は減少した。・活性化T細胞(CD38陽性HLA-DR陽性CD8陽性T細胞)の疲弊T細胞(TIM3陽性PD-1陽性CD8陽性T細胞)に対する比率(活性化/疲弊比)は、ICI投与後に上昇したが、上昇幅は早時間帯群が遅時刻帯群と比べて大きかった。 本結果について、Zhang氏は「早時間帯群と遅時間帯群を比較すると、末梢血中のCD8陽性T細胞の状態に違いが認められた。サーカディアンリズムが免疫療法に及ぼす潜在的影響を考慮すると、免疫療法に関する臨床研究では投与時刻を記録することや投与時間で層別化することが推奨されるだろう」とまとめた。

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軽症の免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎へのステロイド、3週vs.6週(PROTECT)/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになり、免疫関連有害事象(irAE)マネジメントの重要性が高まっている。irAEのなかで比較的多いものの1つに、薬剤性肺障害(免疫関連肺臓炎)がある。免疫関連肺臓炎の治療としては、一般的にステロイドが用いられるが、適切な治療期間は明らかになっていない。そこで、免疫関連肺臓炎に対するステロイド治療の期間を検討する無作為化比較試験「PROTECT試験」が本邦で実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、藤本 大智氏(兵庫医科大学)が本試験の結果を報告した。本試験において、ステロイド治療期間を3週間とする治療レジメンは、6週間の治療レジメンに対する非劣性が示されなかった。 軽症の免疫関連肺臓炎に対する治療について、各種ガイドラインに記載されているステロイド治療期間は無作為化比較試験によって評価されたものではなく、専門家の意見により4~6週間と設定されている。また、軽症の免疫関連肺臓炎は死亡率が低く、長期のステロイド治療はICIの効果を損なう可能性が考えられ、有害事象を増加させる懸念がある。そこで、PROTECT試験では、ステロイド治療期間を3週間に短縮することが可能であるか検討した。・試験デザイン:国内無作為化比較試験・対象:ICIを投与中または投与後に、Grade1/2の免疫関連肺臓炎(CTCAE第5版)が認められた患者・試験群(3週群):プレドニゾロンを3週間かけて漸減・中止 51例・対照群(6週群):プレドニゾロンを6週間かけて漸減・中止 55例(1例は解析から除外)・評価項目:[主要評価項目]治療成功割合(ステロイド治療開始から8週後までSpO2≧90%[room air]、かつステロイドの増量・延長が必要な免疫関連肺臓炎の悪化・再燃なし)[副次評価項目]ステロイド中止までの期間、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、3週群76%、6週群85%であった。喫煙歴のある患者も多く、過去喫煙または現喫煙の割合は、それぞれ88%、83%であった。PS0/1/2の割合は、それぞれ27%/65%/8%、20%/72%/7%であった。肺がんの割合は、それぞれ59%、56%であった。・主要評価項目の治療成功割合は、3週群66.7%、6週群85.2%であり、3週群の6週群に対する非劣性は検証されなかった(群間差:-18.5%、80%信頼区間[CI]:-29.0~-7.9、非劣性のp=0.629[非劣性マージン:-16%])。・試験全体期間中における肺臓炎の再燃または悪化割合は、3週群41.1%、6週群24.1%であり、3週群が多かった(p=0.046)。・ステロイド治療中止までの期間中央値は、3週群25日(95%CI:21~30)、6週群41日(同:41~42)であり、有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%CI:0.63~1.52)。3週群では肺臓炎の再燃や悪化により、ステロイドの再開や増量に至った患者が多く、両群の生存曲線は交差した。・OS中央値は両群共に未到達で、有意差はみられなかった(HR:1.03、95%CI:0.46~2.29)。・Grade3以上の有害事象の発現割合は、3週群12%、6週群24%であり、3週群のほうが少ない傾向にあった。ステロイドの中止や減量に至った有害事象、死亡に至った有害事象はいずれの群にも認められなかった。高血糖(35%vs.50%)、皮膚障害(2%vs.13%)は6週群に多い傾向にあった。・間質性肺疾患に関する簡易健康状態質問票「K-BILD(King’s Brief Intestinal Lung Disease)質問票」に基づくQOLは、3週群と比べて6週群のほうが良好な傾向にあった。 本結果について、藤本氏は「ガイドラインに採用されている6週間のステロイド治療レジメンは、エビデンスに基づく免疫関連肺臓炎に対する標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

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昭和医科大学 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

堀池 篤 氏(教授)大熊 遼太朗 氏(講師)村 英美子 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴昭和医科大学腫瘍内科は、肺がんや消化器がんはもちろん、軟部肉腫や原発不明がんといった希少がんも含め、あらゆる固形がんの治療を担う国内有数の腫瘍内科講座です。最新の薬物療法に加え、患者さんに寄り添う緩和ケア・支持療法にも力を注いでいます。腸内細菌やバイオマーカーを用いた独自の臨床研究や、医師主導治験を企画・実施するなど、学際的な活動も精力的に行っています。生成AIの活用により、診療・研究の質と効率の向上を図るとともに、週休3日制や夏季2週間の休暇など、働きやすさにも配慮した環境を整備しています。日々の診療から教育・研究へとつなげる体制を構築し、がん医療のさらなる発展に貢献しています。医師の育成方針私たちは、「がんを診る」総合診療医、そして臨床に根ざした研究者の育成を目指しています。入局1年目から主治医として診療に携わり、患者さんと向き合う中で実践力を養っていただきます。カンファレンスやCancer Boardにも主体的に参加し、若手のうちから診療の中心を担える環境が整っています。がん薬物療法専門医や総合内科専門医の取得に加え、大学院進学や海外留学など、それぞれの希望に応じた幅広いキャリア形成にも対応しています。多様な価値観や働き方を尊重し、ライフワークバランスにも配慮した体制のもと、安心してキャリアを築ける環境を整えています。がん医療に誠実に、前向きに取り組みたい方を、私たちは心より歓迎します。力を入れている治療/研究テーマ昭和医科大学腫瘍内科では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に関する研究を中心に、がん免疫のメカニズム解明や、治療効果を予測するバイオマーカーの探索、さらに新規免疫療法の開発に取り組んでいます。2022~24年にかけてフランスに留学し、子宮頸がんや悪性黒色腫を対象としたトランスレーショナル研究を遂行した経験も活かし、国内外で通用する研究の実施を目指しています。大学院進学や海外留学など、個々のキャリアに応じた柔軟な研究支援体制が整っています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科は、臓器横断的に固形がん全般の薬物療法を担う、がん診療の中核的存在です。周術期から進行・再発症例まで幅広く関わり、生命予後を延ばすだけでなく、患者さんが元気に過ごす時間や大切な人と過ごす時間を支えることを重視しています。昭和医科大学は4つの大学病院を有し、多くのがん腫・希少がんに触れられる豊富な症例経験に加え、がん診療に関する情報を統括することにより、臨床データを活用した研究活動にも積極的に関わることができる環境が整っています。診療と研究の両方をバランス良く学べる環境で、腫瘍内科医としての専門性を着実に高めることが可能です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科では、専門的な知識とともに人間性も求められる場面が多く、緩和ケアから看取りまで患者さんと深く向き合えるのが特徴です。医局内は風通しがよく、若手の意見を歓迎する文化が根付いており、丁寧な指導と柔軟なキャリア支援が受けられる点も魅力です。腫瘍内科医を目指す先生方と出会える日を楽しみにしています。これまでの経歴都内の高校を卒業後、山形大学に進学し、3年生の実習で腫瘍内科の存在を知りました。もともとがん診療や総合内科に興味があった私にとって、臓器の垣根を越えてStageIVの患者さんたちに真剣に向き合う先生方の姿は非常に印象的でした。腫瘍内科のある病院で初期研修をしようと思い、卒後は地元の昭和医科大学病院に就職しました。同医局を選んだ理由カンファレンスで若手の先生方が活躍しているのを見て、風通しの良い医局だと思いました。出身大学もさまざまで、これまでの経歴も人それぞれで多様性があるため、いろいろなロールモデルがあって魅力的に感じました。また、それほど大所帯ではないので指導医や症例を独り占めできる環境です。学びやすい環境は人それぞれですが、私にはそういった環境が合っていると思い入局を決めました。実際、2年間の研修で患者さんの治療方針の決定、副作用のマネジメント、病状説明や終末期のケアなど、非常に多くの経験を積むことができました。現在学んでいること現在は内科専門研修の一環として、連携施設での研修を行っています。通常は医局の指定した連携施設に行くことがほとんどですが、昭和医科大学病院腫瘍内科では自分の学びたい施設・診療科を自由に選ぶことができます。私はこの機会に以前から興味のあった緩和ケアと総合診療を学びたいと思い、茨城の市中病院で研修をしています。こういった自由が利くところもこの医局の良いところです。ご興味のある方はぜひ見学にいらしてください!昭和医科大学 腫瘍内科住所〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8問い合わせ先reikosawa@cnt.showa-u.ac.jp医局ホームページ昭和医科大学病院 腫瘍内科腫瘍内科プライベートサイト専門医取得実績のある学会日本内科学会(内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)研修プログラムの特徴(1)臓器横断的ながん診療と専門医資格の取得あらゆる固形がんに対する薬物療法を主軸とし、幅広いがん診療のスキルが習得できますがん薬物療法専門医の取得に必要な症例を、当院だけで網羅的に経験可能経験豊富な専門医・指導医による丁寧なサポートのもと、専門医取得を着実に目指せます(2)活発なトランスレーショナルリサーチと学位取得企業治験に加え、大学主導の医師主導治験にも積極的に取り組んでいます昭和医科大学臨床薬理研究所と連携し、臨床と基礎をつなぐ研究活動が可能な環境です大学院進学による学位取得のためのサポート体制も充実しています(3)出身や経歴を問わないオープンな職場環境昭和医科大学の中でも最も新しい科の1つであり、学閥のない自由な雰囲気です初期研修後はもちろん、他科で専門医取得後の入局実績も豊富で、多様なキャリアに柔軟に対応しています

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食道がんへの術後ニボルマブ、長期追跡でもベネフィット示す(CheckMate 577)/ASCO2025

 日本も参加するCheckMate 577試験は、術前化学放射線療法(CRT)+手術後に残存病理学的病変を有する食道がん/胃食道接合部がん(EC/GEJC)患者における、術後ニボルマブ投与の有用性をみた試験である。すでにプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長したことが報告されている(22.4ヵ月対11.0ヵ月、ハザード比[HR]:0.69)1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、ベイラー大学医療センター(米国・ダラス)のRonan J. Kelly氏が、本試験の副次評価項目である全生存期間(OS)の最終解析結果およびDFSの長期追跡結果を報告した。・試験:多施設共同無作為化二重盲検第III相試験・対象:CRT後にR0切除、病理学的完全奏効とならなかったStageII/IIIのEC/GEJC患者・試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ240mg(2週ごと16週間)→ニボルマブ480mg(4週ごと最長1年)532例・対照群(プラセボ群):プラセボ(2週ごと16週間、その後4週ごと最長1年)262例・評価項目:[主要評価項目]DFS[副次評価項目]OS、無遠隔転移生存期間(DMFS)、安全性など・データカットオフ:2024年11月7日 主な結果は以下のとおり。・794例がランダム化され、ニボルマブ群とプラセボ群に2対1で割り付けられた。・追跡期間中央値78.3ヵ月におけるDFS中央値は、ニボルマブ群21.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.6~29.7)に対しプラセボ群10.8ヵ月(95%CI:8.3~14.3)であり、有意差のある改善を長期にわたって維持していた(HR:0.76)。・OS中央値はニボルマブ群51.7ヵ月(95%CI:41.0~61.6)に対しプラセボ群35.3ヵ月(95%CI:30.7~48.8)であり、ニボルマブ群で良好な傾向だったものの、統計学的有意差はなかった(HR:0.85、p=0.1064)。サブグループ解析ではPD-L1 CPSが1以上の群のHRは0.79だった一方、1未満の群ではニボルマブの優越性は示されなかった。・ニボルマブ群とプラセボ群の3年OS率は57%対50%、5年OS率は46%対41%だった。・DMFS中央値はニボルマブ群27.3ヵ月、プラセボ群14.6ヵ月だった(HR:0.75)。・有害事象は既報どおりであり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Kelly氏は「術後ニボルマブは、プラセボと比較して持続的な長期DFSのベネフィットとOSの改善を示した。安全性も長期にわたって耐容されるものだった。これらの結果は、この患者集団における術後ニボルマブの使用をさらに支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「すでにDFSの結果が発表されており、日本食道学会ガイドライン委員会からコメントも出されている2)。今回の発表でも、有意差はないものの著明なOSの延長がみられた。一方、本邦ではJCOG1109試験の結果から術前化学療法が標準治療とされており、術前CRT後のエビデンスである本試験をどのように外挿するかは議論のあるところだ。JCOG2206試験(術前化学療法後に根治手術が行われ、病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮がんにおける術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法を比較する第III相試験)の結果に注目したい」とコメントした。

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NSCLCの術前ニボルマブ追加、最終解析でOS延長(CheckMate-816)/NEJM

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者における術前補助療法について、3サイクルのニボルマブ+化学療法併用療法は、化学療法単独と比較し全生存期間(OS)を有意に延長したことが、アイルランド・Trinity College DublinのPatrick M. Forde氏らによる第III相無作為化非盲検試験「CheckMate 816試験」のOSに関する最終解析結果で報告された。CheckMate 816試験では、ニボルマブ+化学療法併用療法により、病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)を有意に改善したことが示されており、OSの最終解析が待たれていた。NEJM誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。重要な副次評価項目であるOSの最終解析 CheckMate 816試験では、IB期からIIIA期の切除可能なNSCLC患者(ECOG PS 0~1、EGFR遺伝子変異陰性/ALK転座なし、がんに対する全身療法歴なし)を、ニボルマブ+プラチナ製剤を含む化学療法併用群またはプラチナ製剤を含む化学療法単独群に無作為に割り付け、それぞれ3週(1サイクル)ごとに3サイクル投与した後、術前補助療法終了後6週間以内に手術を行った。 主要評価項目はEFSおよびpCR、重要な副次評価項目がOSであった。 2017年3月~2019年11月に、計358例がニボルマブ+化学療法併用群(179例)または化学療法単独群(179例)に割り付けられた。5年OS率、ニボルマブ+化学療法併用群65.4%vs.化学療法単独群55.0% OS最終解析のデータカットオフ時点において、追跡期間中央値は68.4ヵ月(範囲:59.9~85.2)で、150例が死亡した(information fraction:81%、ニボルマブ+化学療法併用群66例、化学療法単独群84例)。 5年OS率はニボルマブ+化学療法併用群65.4%(95%信頼区間[CI]:57.8~71.9)、化学療法単独群55.0%(47.3~62.0)、OSの中央値はそれぞれ未到達と73.7ヵ月であり、化学療法単独群と比較しニボルマブ+化学療法併用群でOSが有意に延長した(ハザード比:0.72、95%CI:0.523~0.998、p=0.048)。 探索的解析の結果、ニボルマブ+化学療法併用群における5年OS率は、pCRが得られた患者(43例)で95.3%(95%CI:82.7~98.8)、得られなかった患者(136例)で55.7%(46.9~63.7)、ベースラインで循環腫瘍DNA(ctDNA)が陽性で術前にctDNAが消失した患者(24例)では75.0%(95%CI:52.6~87.9)、消失しなかった患者(19例)では52.6%(28.7~71.9)であった。 安全性に関する新たな懸念は認められなかった。

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高リスク頭頸部がん、CRT+ニボルマブの術後補助療法が20年振りの新たな標準治療に(NIVOPOSTOP)/ASCO2025

 高リスクの局所進行(LA)頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)に対する術後の標準治療は、長らく補助療法としての化学放射線療法(CRT)であった。しかし、これらの治療にもかかわらず40%以上の患者で再発が認められ、より効果的な治療法が必要とされている。NIVOPOSTOP試験は、術後CRTにニボルマブを追加した群とCRT単独群を比較した試験である。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)のプレナリーセッションにおいて、Le Centre hospitalier universitaire vaudois(スイス)のJean Bourhis氏が本試験の結果を発表した。・試験:多施設共同無作為化第III相試験・対象:75歳未満、切除後の再発高リスク(術後のリンパ節被膜外浸潤、多発リンパ節転移、多発神経周囲浸潤および/または腫瘍断端陽性)のLA-SCCHN患者・試験群(NIVO群):ニボルマブ240mg→CRT(66Gy 放射線治療+シスプラチン100mg/m2)+ニボルマブ360mg(3週ごと3サイクル)→ニボルマブ480mg(4週ごと6サイクル)332例・対照群(標準治療群):CRT(3週ごと3サイクル)334例・評価項目:[主要評価項目]無病生存期間(DFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、QOL、安全性・データカットオフ:2024年4月30日 主な結果は以下のとおり。・計680例がランダム化され、対象となった666例がNIVO群332例、標準治療群334例に1対1で割り付けられた。追跡期間中央値は30.3ヵ月だった。・3年DFS率は、NIVO群で63.1%(95%信頼区間[CI]:57~68.7)、標準治療群で52.5%(95%CI:46.2~58.4%)だった。・PD-L1陽性患者全体において、NIVO群は標準治療群に比べてDFSが有意に改善されたものの、CPSはDFSと強い相関は示さなかった。・OSは未到達だったものの、NIVO群で改善傾向が認められた。・CRTの遵守率は両群で類似していた。Grade3の有害事象はNIVO群の63.1%、標準治療群の62.4%、Grade4は9.3%と5.2%に発現した。多かった有害事象は両群で類似しており、口内炎、放射線皮膚障害、嚥下障害などであった。 Bourhis氏は「術後CRTにニボルマブを追加した治療は、統計的および臨床的に有意なDFSの改善をもたらした。これは、切除後の再発高リスクLA-SCCHN患者に対し、過去20年間ではじめての新たな標準治療となる可能性があるものだ」とした。

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進行腎細胞がん1次治療としてのニボルマブ+イピリムマブ、9年長期追跡結果(CheckMate 214)/ASCO2025

 CheckMate 214試験において、進行淡明細胞型腎細胞がん患者の1次治療として、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はスニチニブ単剤療法と比較して有意な生存ベネフィットを示したことが報告されている。今回、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのRobert J. Motzer氏が追跡期間中央値9.3年の最終解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表。ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は全試験対象集団において生存の改善および持続的な奏効を示し、新たな安全性シグナルは確認されなかった。・対象:未治療の進行淡明細胞型腎細胞がん患者(≧18歳、KPS≧70%、RECIST v1.1に基づく測定可能病変あり)・試験群:ニボルマブ(3mg/kg)+イピリムマブ(1mg/kg)3週ごと4回→ニボルマブ2週ごと 550例(うちIMDC分類中/高リスク425例)・対照群:スニチニブ(50mg)1日1回4週→2週休薬 546例(うちIMDC分類中/高リスク422例)・評価項目:[主要評価項目]IMDC分類での中/高リスクの患者における全生存期間(OS)、独立画像判定委員会(IRRC)判定による無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)[副次評価項目]ITT集団におけるOS、IRRC判定によるPFS、ORR、安全性 主な結果は以下のとおり。IMDC分類中/高リスクの患者における主要結果・OS中央値:試験群46.7ヵ月vs.対照群26.0ヵ月(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.59~0.81)・PFS中央値:12.4ヵ月vs.8.5ヵ月(HR:0.73、95%CI:0.61~0.87)・ORR:42.4%vs.27.5%・奏効期間(DOR)中央値:82.8ヵ月vs.19.8ヵ月(HR:0.48、95%CI:0.33~0.69)ITT集団における主要結果・OS中央値:52.7ヵ月vs.37.8ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.62~0.82)・PFS中央値:12.4ヵ月vs.12.3ヵ月(HR:0.88、95%CI:0.76~1.04)・ORR:39.5%vs.33.0%・DOR中央値:76.2ヵ月vs.25.1ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.38~0.73)治療期間、後治療、安全性・治療期間中央値は7.9ヵ月vs.7.8ヵ月、治療関連有害事象(TRAE)による試験治療中止が24%vs.13%であった。・試験治療後に全身治療を受けた患者の割合は58%vs.70%で、試験群ではスニチニブが25%と最も多く、対照群ではいずれかのPD-1阻害薬が46%と最も多かった。・全GradeのTRAEの発現率は94%vs.98%と同等であったが、Grade3以上のTRAEの発現率は試験群で少なかった(49%vs.64%)。・試験群において発現した全Gradeの免疫介在性有害事象(imAE)のうち、発現率が高かったのは下痢(44%)、皮疹(29%)、甲状腺機能低下症(20%)などであった。試験群の患者のうち31%がimAEのマネージメントを目的として、コルチコステロイドの投与を受けていた。またimAEの多くが12ヵ月以内に発現していた。 Motzer氏は今回の結果について、進行淡明細胞型腎細胞がん患者の1次治療としてニボルマブ+イピリムマブ併用療法が標準治療であることを支持するものとまとめている。また、ニボルマブの皮下注製剤が静注製剤と同等の臨床効果を示したと報告されていることに触れ、本療法の維持療法における代替となる可能性があるとした。

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既治療CLDN18.2陽性胃がん、CAR-T療法satri-celがPFS改善(CT041-ST-01)/Lancet

 既治療のCLDN18.2陽性進行胃または食道胃接合部がん患者において、医師が選択した治療と比較してsatricabtagene autoleucel(satri-cel、自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体[CAR]T細胞療法)による治療は、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、全生存期間(OS)について有意差はないものの臨床的に意義のある改善をもたらし、安全性プロファイルは管理可能であることが、中国・Peking University Cancer HospitalのChangsong Qi氏らが実施した「CT041-ST-01試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年6月7日号に掲載された。中国の無作為化実薬対照比較第II相試験 CT041-ST-01試験は、既治療のCLDN18.2陽性進行胃・食道胃接合部がんにおけるsatri-cel治療の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験であり、2022年3月~2024年7月に中国の24施設で参加者のスクリーニングを行った(CARsgen Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18~75歳、CLDN18.2陽性の進行胃・食道胃接合部がんで、2ライン以上の前治療に不応であった患者を対象とした。被験者を、satri-cel(細胞量250×106、最大3回まで)を投与する群、または医師が選択した治療(TPC)を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。TPCは、標準治療薬(ニボルマブ、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、rivoceranib[apatinib])から1つを選ぶこととした。 主要評価項目は、ITT集団におけるPFSとし、盲検下独立中央判定とした。奏効率、病勢コントロール率も良好 156例(年齢中央値52.0歳[四分位範囲:44.5~59.0]、女性69例[44%]、胃腺がん136例[87%]、食道胃接合部腺がん20例[13%])を登録し、satri-cel群に104例、TPC群に52例を割り付けた。それぞれ88例(85%)および48例(92%)が実際に試験薬の投与を受けた。satri-cel群では、28例(27%)が3ライン以上の前治療を受けており、72例(69%)が腹膜転移を有していた。TPC群では、それぞれ10例(19%)および31例(60%)であった。 PFSの追跡期間中央値は、satri-cel群9.07ヵ月、TPC群3.45ヵ月だった。ITT集団におけるPFS中央値は、TPC群が1.77ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.61~2.04)であったのに対し、satri-cel群は3.25ヵ月(2.86~4.53)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.37[95%CI:0.24~0.56]、片側log-rank検定のp<0.0001)。 OS中央値は、satri-cel群が7.92ヵ月(95%CI:5.78~10.02)、TPC群は5.49ヵ月(3.94~6.93)であり(HR:0.69[95%CI:0.46~1.05]、片側log-rank検定のp=0.0416)、有意差はないもののsatri-cel群で臨床的に意義のある良好な傾向を認めた。 奏効率(完全奏効+部分奏効)はsatri-cel群22%、TPC群4%(部分奏効2例のみ)、病勢コントロール率(完全奏効+部分奏効+安定)はそれぞれ63%および25%であった。奏効期間中央値はsatri-cel群が5.52ヵ月で、TPC群の部分奏効の2例ではそれぞれ4.47ヵ月および5.42ヵ月だった。奏効までの期間中央値はsatri-cel群が1.94ヵ月、TPC群の部分奏効例はそれぞれ1.77ヵ月および2.96ヵ月であった。固形がんでの世界初の無作為化対照比較試験 安全性解析は、試験薬の投与を少なくとも1回受けたすべての患者で行った。試験治療下でのGrade3以上の有害事象は、satri-cel群で88例中87例(99%)、TPC群で48例中30例(63%)に発現した。試験治療下での有害事象による死亡は、それぞれ1例(播種性血管内凝固症候群による)および1例(血液凝固障害による)にみられた。 satri-cel群で最も頻度の高いGrade3以上の治療関連有害事象は、リンパ球数の減少(86/88例[98%])、白血球数の減少(68例[77%])、好中球数の減少(58例[66%])であった。サイトカイン放出症候群は、satri-cel群の84例(95%)で発現した。 著者は、「本試験は、固形がんにおけるCAR T細胞療法の世界初の無作為化対照比較試験と考えられる」「これらの結果は、satri-celが進行胃・食道胃接合部がんの既治療患者における標準治療となる可能性を示唆しており、より早期の治療ラインでのさらなる検討を支持するものである」としている。

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胃がん周術期、FLOTにデュルバルマブ上乗せでEFS改善(MATTERHORN)/ASCO2025

 欧米において、化学療法FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)は切除可能な胃がんにおける術前術後の標準治療だが、再発率は依然として高い水準にある。胃がんにおける免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、切除不能例において化学療法との併用で承認されているが、術前術後療法では承認されていない。 MATTERHORN試験は切除可能な胃がん患者を対象に、術前術後療法としてFLOTにICIであるデュルバルマブ上乗せの有用性をみた試験である。すでに病理学的完全奏効(pCR)率を有意に改善したことが報告されているが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)プレナリーセッションにおいてYelena Y. Janjigian氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)を含む第2回中間解析の結果を報告した。この結果はNEJM誌オンライン版2025年6月1日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同二重盲検ランダム化第III相試験・対象:切除可能なStageII~IVA期局所進行胃がん/食道胃接合部腺がん 948例・試験群:術前術後にFLOT+デュルバルマブ1,500mgを4週ごと2サイクル、術後にデュルバルマブ1,500mg 4週ごと10サイクル(デュルバルマブ群)474例・対照群:術前術後にFLOT+プラセボを4週ごと2サイクル、術後にプラセボを10サイクル(プラセボ群)474例・評価項目:[主要評価項目]EFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、pCR、安全性など・データカットオフ:2024年12月20日 主な結果は以下のとおり。・計948例がデュルバルマブ群474例、プラセボ群474例にランダム化された。追跡期間中央値は31.5ヵ月だった。・デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して、EFSで統計学的に有意な改善を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。EFS中央値はデュルバルマブ群では未到達(95%CI:40.7~未到達)、プラセボ群で32.8ヵ月(95%CI:27.9~未到達)だった。2年EFS率は、デュルバルマブ群でプラセボ群よりも高かった(67%対59%)。・OS中央値は、デュルバルマブ群で未到達、プラセボ群で47.2ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)であった。・pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%だった。・Grade3/4の有害事象の発生率は両群で類似していた。デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して手術や補助療法の開始を遅らせなかった。 Janjigian氏は「デュルバルマブ+FLOTは、プラセボ+FLOTと比較してEFSで統計学的に有意な改善を示し、OSの有望な傾向を示した。これらの結果は、デュルバルマブを切除可能な胃がん周術期の新たな標準治療として支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「EFS、OSが改善したポジティブな結果だった。一方で、日本におけるStageII/III胃がんの術後化学療法はS-1が中心でFLOTレジメンは使われていない。また、サブグループ解析ではアジア人においては両群に有意差がなかった。こうした点から、この治療戦略を日本の臨床に取り入れるべきかどうかは意見の分かれるところであり、さらなるデータが必要となりそうだ。今年のASCOの消化器がん演題の中で、最も議論を呼ぶ結果ではないか」とコメントした。

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