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1.

アトピー性皮膚炎患者に最適な入浴の頻度は?

 アトピー性皮膚炎患者にとって入浴は判断の難しい問題であり、毎日の入浴が症状の悪化を引き起こすのではないかと心配する人もいる。こうした中、新たなランダム化比較試験で、入浴の頻度が毎日でも週に1~2回でも、入浴がアトピー性皮膚炎の症状に与える影響に違いはないことが明らかになった。 この試験を実施した英ノッティンガム大学臨床試験ユニットのLucy Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎の人でも自分に合った入浴頻度を選べることを意味するこの結果は、アトピー性皮膚炎の症状に苦しむ人にとって素晴らしい知らせだ」と述べている。この臨床試験の詳細は、「British Journal of Dermatology」に11月10日掲載された。 アトピー性皮膚炎は、皮膚の水分保持力の低下や外的刺激や病原体から体を守る力(バリア機能)の低下により、皮膚の乾燥、かゆみ、凹凸などが生じる疾患である。今回の試験では、438人のアトピー性皮膚炎患者(16歳未満108人)を対象に、入浴の頻度が症状に与える影響が検討された。入浴は、シャワーだけを浴びる場合とバスタブに身体を浸す場合の双方を含めた。対象者は、4週間にわたり、週に1〜2回入浴する群(220人)と毎日(週に6回以上)入浴する群(218人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、週に1回、POEM(patient oriented eczema measure)を使って患者が報告したアトピー性皮膚炎の症状であった。 その結果、ベースライン、および1、2、3、4週目の平均POEMスコアは、毎日入浴した群でそれぞれ14.5点、11.7点、12.2点、11.7点、11.6点、週1〜2回入浴した群ではそれぞれ14.9点、12.1点、11.3点、10.5点、10.6点であった。両群間の4週間の平均POEMスコアの調整差は−0.4(95%信頼区間−1.3~0.4、P=0.30)であり、有意な差は認められなかった。 共著者の1人であり、自身もアトピー性皮膚炎に罹患しているノッティンガム大学Centre of Evidence Based Dermatology(CEBD)のAmanda Roberts氏は、「この研究結果には非常に安心した」と話す。同氏は、「日常生活の中にはアトピー性皮膚炎の症状に影響する可能性があるものがたくさんある。そのため、入浴やシャワーの頻度はそこに含まれないと知っておくのは、心配事が一つ減って喜ばしいことだ」と話している。 研究グループは次の研究で、アトピー性皮膚炎の再発の治療において、ステロイド薬をどのくらいの期間使用すべきかを調べる予定だという。Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎患者と緊密に協力しながらこの研究を共同設計できたことは素晴らしい経験だった。われわれは、これまでの研究では十分に注目されてこなかった、アトピー性皮膚炎患者の生活にまつわる疑問に答えを見つけ始めたところだ」と述べている。

2.

成人期発症ネフローゼ症候群、リツキシマブで再発抑制/JAMA

 成人期発症の頻回再発型ネフローゼ症候群(FRNS)またはステロイド依存性ネフローゼ症候群(SDNS)患者において、リツキシマブはプラセボと比較し49週時の再発率を有意に改善し、再発予防にリツキシマブが有用であることが示された。大阪大学大学院医学系研究科の猪阪 善隆氏らが、国内13施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果を報告した。FRNSまたはSDNSの成人患者におけるネフローゼ症候群再発に対するリツキシマブの有効性は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年11月5日号掲載の報告。リツキシマブまたはプラセボを、1週時、2週時、25週時に投与、1年間追跡 研究グループは、2020年9月1日~2022年6月28日に、直近の再発に対するステロイド治療開始後の尿検査で尿蛋白<0.3g/gCrを2回以上認めたFRNS(6ヵ月間に2回以上再発するネフローゼ症候群)またはSDNS(ステロイド薬を減量・中止後に再発を2回以上繰り返し、ステロイド薬を中止できないネフローゼ症候群)の成人患者を登録した。適格患者をリツキシマブ群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、375mg/m2/回を1週時、2週時および25週時に静脈内投与し、49週間追跡した(最終追跡調査日2024年3月15日)。 主要アウトカムは、49週時点でネフローゼ症候群の再発が認められなかった患者の割合とした。再発は、尿蛋白1g/gCr以上を連続2回測定した場合と定義した。49週時の無再発率はリツキシマブ群87.4%、プラセボ群38.0% 計72例がリツキシマブ群(36例)とプラセボ群(36例)に無作為化された。患者背景は、平均年齢47.9歳、女性56.1%であった。このうち、66例(92%)が少なくとも1回試験薬を投与され、解析対象集団に含まれた。 49週時の無再発率は、リツキシマブ群で87.4%(95%信頼区間[CI]:69.8~95.1)、プラセボ群で38.0%(95%CI:22.1~53.8)であった(p<0.001、片側log-rank検定)。層別Coxモデルでは、リツキシマブ群のプラセボ群に対する再発のハザード比は0.16(95%CI:0.05~0.46;p<0.001)であった。 無再発期間中央値は、リツキシマブ群で>49.0週(範囲:4~≧50)、プラセボ群で30.8週(2~≧51)であった。 最も発現頻度が高い有害事象はインフュージョンリアクション(リツキシマブ群13例[40.6%]、プラセボ群1例[2.9%])であった。Grade3の有害事象は、リツキシマブ群で15.6%(5/32例)、プラセボ群で5.9%(2/34例)に認められた。

3.

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、テゼペルマブの日本人データ(WAYPOINT)/日本アレルギー学会

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)に対し、生物学的製剤の適応拡大が進んでいるが、生物学的製剤使用患者の約40%は全身性ステロイド薬を用いていたという報告があるなど、依然としてコントロール不十分な患者が存在する。そこで、抗TSLP抗体薬のテゼペルマブのCRSwNPに対する有用性が検討され、国際共同第III相試験「WAYPOINT試験」において、テゼペルマブは鼻茸スコア(NPS)と鼻閉重症度スコア(NCS)を有意に改善したことが、NEJM誌ですでに報告されている1)。本試験の結果を受け、テゼペルマブは米国およびEUにおいて2025年10月にCRSwNPに対する適応追加承認を取得した。 そこで、WAYPOINT試験の日本人集団の解析結果について、櫻井 大樹氏(山梨大学大学院総合研究部医学域 耳鼻咽喉科・頭頸部外科講座)が第74回日本アレルギー学会学術大会(10月24~26日)で発表した。本解析の結果、日本人集団においてもテゼペルマブの有効性・安全性は全体集団と一貫していたことが示された。試験デザイン:国際共同第III相無作為化二重盲検比較試験対象:既存治療でコントロール不十分(NPS 5以上、各鼻腔のスコア2以上)の18歳以上のCRSwNP患者408例(日本人33例)試験群(テゼペルマブ群):テゼペルマブ210mgを4週に1回皮下投与+鼻噴霧用ステロイド薬※ 203例(日本人17例)対照群(プラセボ群):プラセボ+鼻噴霧用ステロイド薬※ 205例(日本人16例)評価項目:[共主要評価項目]投与52週時のNPSのベースラインからの変化量、投与52週時のNCSのベースラインからの変化量[副次評価項目]鼻茸に対する手術決定/全身性ステロイド薬投与までの期間、嗅覚障害重症度スコア、22項目の副鼻腔に関する評価質問票(SNOT-22)合計スコア、LMKスコア(副鼻腔混濁度の指標)、全症状スコア(TSS)、喘息合併患者における気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)など※:日本人集団では併用を必須としない 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・日本人集団の患者背景は、性別を除いて両群間でバランスがとれていた。日本人集団は65歳以上の割合が多い(テゼペルマブ群23.5%、プラセボ群25.0%)、BMI(kg/m2)が低い(25.8、25.4)、手術歴ありの割合が少ない(52.9%、56.3%)、総IgE(IU/mL)が高い(260.8、362.6)、アレルギー性鼻炎の合併が多い(29.4%、37.5%)などの特徴があった。・ベースライン時のNPS(平均値±標準偏差)は、テゼペルマブ群6.2±1.0、プラセボ群6.5±1.3であった。同様に、NCSはそれぞれ2.5±0.6、2.5±0.5であった。・NPSの改善は初回評価時点(投与4週時)から認められ、投与52週時のNPSのベースラインからの変化量(平均値)は、テゼペルマブ群-2.30(全体集団:-2.46)、プラセボ群-1.24(同:-0.38)であった(群間差[最小二乗平均値]:-1.063、95%信頼区間[CI]:-2.315~0.190)。・投与52週時のNCSのベースラインからの変化量(平均値)は、テゼペルマブ群-1.63(全体集団:-1.74)、プラセボ群-1.08(同:-0.70)であった(群間差[最小二乗平均値]:-0.548、95%CI:-1.097~0.002)。・日本人集団においても、テゼペルマブ群はプラセボ群と比較して、嗅覚障害重症度スコア、SNOT-22合計スコア、LMKスコア、TSSが改善していた。各スコアの投与52週時のベースラインからの変化量の群間差(95%CI)は以下のとおり。 嗅覚障害重症度スコア:-0.652(-1.176~-0.128) SNOT-22合計スコア:-20.300(-36.152~-4.448) LMKスコア:-5.524(-7.444~-3.604) TSS:-3.512(-7.040~0.015)・日本人集団では、テゼペルマブ群で手術決定/全身性ステロイド薬投与に至った患者は0例であった(プラセボ群は2例)。・投与52週時の喘息合併患者の気管支拡張薬投与前のFEV1のベースライン時からの変化量(平均値±標準偏差)は、テゼペルマブ群369±544mL、プラセボ群-57±197mLであった。同様に、6項目の喘息コントロール質問票(ACQ-6)スコアの変化量は、それぞれ-0.94±1.415、-0.46±1.172であった。・有害事象はテゼペルマブ群58.8%、プラセボ群68.8%に発現した。両群とも投与中止に至った有害事象や死亡に至った有害事象は認められなかった。 本結果について、櫻井氏は「WAYPOINT試験で得られた日本人集団の結果は、日本人CRSwNP患者におけるテゼペルマブの良好なベネフィット・リスクプロファイルを支持するものであった」とまとめた。

4.

免疫性血小板減少症への新治療薬による診療戦略/Sobi Japan

 希少・難治性疾患治療に特化し、ストックホルムに本社を置くバイオ医薬品企業のSwedish Orphan Biovitrum Japan(Sobi Japan)は、アバトロンボパグ(商品名:ドプテレット)が新たな適応として「持続性および慢性免疫性血小板減少症」の追加承認を取得したことに合わせ、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、免疫性血小板減少症(ITP)の診療に関する講演や同社の今後の展望などが説明された。約2万例の患者が推定されるITP はじめに「免疫性血小板減少症について」をテーマに、加藤 亘氏(大阪大学医学部附属病院輸血・細胞療法部 部長)が、本症の概要を説明した。 出血時の止血に重要な役割を担う血小板は、巨核球が血管内に行くことで血小板となり、体内で約7~10日間活動する。正常15~35万/μLの血小板数があり、10万/μL以下で血小板減少症、1万/μL以下では重篤な出血症状を呈する。そして、ITPは血液中の血小板が免疫により減少する疾患である。症状としては、皮膚の紫斑、粘膜出血などの出血症状の繰り返しがあり、健康な人よりもわずかに高い死亡率となる。 また、近年の研究からITPは血小板に対する自己抗体によって起こる自己免疫疾患とされ、「特発性」という言葉から「免疫性」に変更された。 わが国には約2万例の患者が推定され、毎年約3,000例が新規発症しており、その半数は高齢者である。本症は、指定難病であり、小児慢性特定疾患であるが、医療費助成の対象はステージ2以上の比較的重症の患者となっており、特定医療費受給者証所持者数は2023年時点で約1万7,000人となっている。 難病申請データに基づくITPの出血症状としては、紫斑が88.2%、歯肉出血が26.8%、鼻出血が18.1%の順で多く、その症状は血小板減少の程度、年齢と相関する。とくに血小板数1~1.5万/μL、60歳以上では重篤な出血リスクが増大するといわれている1)。 ITPの治療戦略としては、(1)リンパ球による抗血小板自己抗体の産生抑制、(2)破壊される以上に血小板を多く産生する、の2つがあり、治療の流れとしては『成人特発性血小板減少性紫斑病 治療の参照ガイド 2019改訂版』により治療が行われる(わが国独自の治療にピロリ菌除去療法がある)。 治療目標は、血小板を正常に戻すことではなく、重篤な出血を予防することであり、治療薬の副作用による患者QOLの低下を考慮し、過剰な長期投与は避けることとされている。 本症の1次療法としては、副腎皮質ステロイド療法が行われる。次に1次療法で効果がみられない場合、2次療法としてトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)、リツキシマブ、脾臓摘出術などが考慮される。2次療法については大きな優劣はなく、ただ、近年では脾臓摘出術はほぼ行われていない。 わが国でのITP治療薬の使用状況について、2015~21年で比較すると、TPO-RAが35.71%から61.37%へと増加し、リツキシマブも0%から3.3%へと増加したという報告がある2)。 多く使用されているTPO-RAは奏効率は高いものの、長期使用の場合は肝機能障害などの副作用の課題もある。治療の選択では、各治療の特徴を踏まえ、患者の希望・背景に合わせた治療選択が望まれる。 また、現在、解決が必要とされる課題として5つが指摘されている。(1)治療薬の使い分け、併用法(2)完治を目指す治療の開発(3)妊娠中、出産時の血小板数コントロール(4)出血症状、血小板数の改善のみではなく、症例ごとのQOLに配慮した治療・薬剤選択(5)ITP診断の改善(特異的な診断法開発の必要性)約6割のITP患者に投与8日以内で反応あり 今回、アバトロンボパグは新たな適応である「持続性および慢性免疫性血小板減少症」の承認を2025年8月25日に取得した。適応追加に係るわが国での第III相試験は、慢性ITPの患者19例を対象に、26週間の投与期間中に救援療法なしに血小板反応(血小板≧50×109/L)が得られた累積週数を主要評価として行われた。試験対象者の平均年齢は56.0歳で、女性が78.9%だった。 試験の結果、血小板反応(≧50×109/L)について、26週間の投与期間中、臨床的に意義のある累積週数の基準(閾値:8.02週)を達成し、患者の63.2%が8日以内に反応を示した。安全性では、治療に関係する重篤な有害事象はなく、一般的な有害事象として、新型コロナウイルス感染症、上気道感染症、鼻咽頭炎などが報告された。 最後に加藤氏は、「アバトロンボパグは慢性ITPを有する日本人成人患者に対し有効であった。安全性・忍容性も良好で、海外の主要な第III相試験3)および中国の患者の第III相試験4)と同様の血小板反応を日本人でも示した。長期的な有効性と安全性は、現在進行中の延長期で評価をする予定」と展望を述べ、講演を終えた。 同社では、今後新たに5つの希少疾患に対する製品の上市を目指しており、「これらの薬剤を早く日本の患者さんに届けられることを使命とし、希少疾患薬におけるドラッグラグやドラッグロスという問題の解決の一助となるようにしていきたい」と抱負を語っている。

5.

蕁麻疹に外用薬は非推奨、再確認したい治療の3ステップ

 かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみ(膨疹)が一時的に現れて、しばらくすると跡形もなく消える蕁麻疹は、診察時には消えていることも多く、医師は症状を直接みて対応することが難しい。そのため、医師と患者の間には認識ギャップが生まれやすく、適切な診断・治療が選択されない要因となっている。サノフィは9月25日、慢性特発性蕁麻疹についてメディアセミナーを開催し、福永 淳氏(大阪医科薬科大学皮膚科学/アレルギーセンター)がその診療課題と治療進展について講演した。 なお、蕁麻疹の診療ガイドラインは現在改訂作業が進められており、次改訂版では病型分類における慢性(あるいは急性)蕁麻疹について、原因が特定できないという意味を表す“特発性”という言葉を加え、“慢性(急性)特発性蕁麻疹”に名称変更が予定されている。蕁麻疹の第1選択は経口の抗ヒスタミン薬、外用薬は非推奨 慢性特発性蕁麻疹は「原因が特定されず、症状(かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみが現れて消える状態)が6週間以上続く蕁麻疹」と定義され、蕁麻疹患者全体の約6割を占める1)。幅広い世代でみられ40代に患者数のピークがあり1)、女性が約6割と報告されている2)。医療情報データベースを用いた最新の研究では、慢性特発性蕁麻疹の推定有病割合は1.6%、推定患者数は約200万人、1年間の新規発症者数は約100万人と推計されている3)。 蕁麻疹診療ガイドライン4)で推奨されている治療ステップは以下のとおりで、内服の抗ヒスタミン薬が治療の基本だが、臨床現場では蕁麻疹に対してステロイド外用薬が使われている事例も多くみられる。福永氏は「蕁麻疹に対するステロイド外用薬はガイドラインでは推奨されておらず、エビデンスもない」と指摘した。[治療の3ステップ]Step 1 抗ヒスタミン薬Step 2 状態に応じてH2拮抗薬*1、抗ロイコトリエン薬*1を追加Step 3 分子標的薬、免疫抑制薬*1、経口ステロイド薬*2を追加または変更*1:蕁麻疹、*2:慢性例に対しては保険適用外だが、炎症やかゆみを抑えることを目的に、慢性特発性蕁麻疹の治療にも使われることがある分子標的薬の登場で、Step 3の治療選択肢も広がる 一方で、Step 1の標準用量の第2世代抗ヒスタミン薬による治療では、コントロール不十分な患者が60%以上いると推定されている5,6)。Step 2の治療薬はエビデンスレベルとしては低く、国際的なガイドラインでは推奨度が低い。エビデンスレベルとしてはStep 3に位置付けられている分子標的薬のほうが高く、今後の日本のガイドラインでの位置付けについては検討されていくと福永氏は説明した。 原因が特定されない疾患ではあるが、薬剤の開発により病態の解明が進んでいる。福永氏は、「かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるという出口戦略としての治療に頼る状況から、アレルギー反応を引き起こす物質をターゲットとした分子標的薬が使えるようになったことは大きい」とした。約4割が10年以上症状継続と回答、医師と患者の間に生じている認識ギャップ 症状コントロールが不十分(蕁麻疹コントロールテスト[UCT]スコア12点未満)な慢性特発性蕁麻疹患者277人を対象に、サノフィが実施した「慢性特発性じんましんの治療実態調査(2025年)」によると、39.0%が最初に症状が出てから現在までの期間が「10年以上」と回答し、うち27.8%は現在も「ほぼ毎日症状が出続けている」と回答した。福永氏は、「蕁麻疹は誰にでも起こりうるありふれた病気として、時間が経てば治ると思っている患者さんは多い。しかしなかには慢性化して、長期間症状に悩まされる患者さんもいる」とし、診療のなかでその可能性についても説明できるとよいが、現状なかなかできていないケースも多いのではないかと指摘した。 また、慢性特発性蕁麻疹をどのような疾患だと思うかという問いに対しては、「治療で完治を目指せる病気」との回答は5.1%にとどまり、コントロール不十分な慢性特発性蕁麻疹患者の多くが完治を目指せるとは思っていないことが明らかになった。福永氏は、「治療をしてもすぐには完治しないが、症状が出ていないときも治療を継続することが重要」とした。 原因を知りたいから検査をしてほしいという患者側のニーズと、蕁麻疹との関連が疑われる病歴や身体的所見がある場合に検査が推奨される医療者側にもギャップが生じることがある。福永氏は、「必ず原因がわかる病気ではなく、原因究明よりも治療が重要ということを説明する必要がある」と話し、丁寧な対話に加え、患部の写真撮影をお願いする、UCTスコアを活用するといった、ギャップを埋めるため・見えないものを見える化するための診療上の工夫の重要性を強調して講演を締めくくった。■参考文献1)Saito R, et al. J Dermatol. 2022;49:1255-1262.2)Fukunaga A, et al. J Clin Med. 2024;13:2967.3)Fukunaga A, et al. J Dermatol. 2025 Sep 8. [Epub ahead of print]4)秀 道広ほか. 蕁麻疹診療ガイドライン 2018. 日皮会誌. 128:2503-2624;2018.5)Guillen-Aguinaga S, et al. Br J Dermatol. 2016;175:1153-1165.6)Min TK, et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2019;11:470-481.

6.

アブレーション後の再発予防、スタチンが最適か~ネットワークメタ解析

 心房細動(AF)はアブレーションや薬物療法を実施しても再発率が高く、大きな臨床課題となっている。AFの再発リスクには炎症が影響しているともされ、抗炎症作用を有する薬剤が再発抑制の補助療法として注目されている。今回、米国・ユタ大学のSurachat Jaroonpipatkul氏らは、コルヒチンとスタチンが炎症と心房リモデリングの軽減における潜在的な役割を担い、アブレーション後早期での最も有望な治療法であることを示唆した。Journal of Cardiovascular Electrophysiology誌オンライン版2025年7月9日号掲載の報告。 本研究では、アブレーション後のAF再発予防における抗炎症作用の有効性を評価するため、アブレーション後のAF再発を検討したランダム化比較試験に対し、PRISMA-NMAガイドラインに基づくシステマティックレビューとネットワークメタ解析を実施した。対象試験で投与されていたのは、コルヒチン、スタチン(アトルバスタチン)、コルチコステロイド(メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン)、ACE阻害薬(ペリンドプリル)、アスコルビン酸であった。今回、直接比較と間接比較を統合させ、治療成績の順位付けは累積順位曲線下面積(Surface Under the Cumulative Ranking、SUCRA)を、エビデンスの質はCINeMA(Confidence in Network Meta-analysis)を用いて評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・21試験群を対象とした13研究の2,283例が解析対象となった。・プラセボと比較し、コルヒチンとスタチンはAF再発率を有意に減少させ(コルヒチンのリスク比[RR]:0.59[95%信頼区間:0.46~0.77、p<0.001]、スタチンのRR:0.57、[同:0.38~0.86、p=0.008])、スタチンはSUCRAランキングで最高の評価を得た。・コルヒチンは、CRPやIL-6などの炎症マーカーを抑制させることで、早期再発率を顕著に減少させる有効性を示した。・コルチコステロイドとACE阻害薬は再発率に有意な影響を与えず、アスコルビン酸には効果が認められなかった。・対象研究間の異質性は最小限であり、感度分析により堅牢性が確認された。 なお、本研究の限界として、研究間でのAF再発定義のばらつきや治療エビデンスが少ない試験を対象とした点などがあった。

7.

未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

8.

下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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副作用編:副腎不全(irAE)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第5回

今回は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中の「副腎不全」についてです。副腎不全はICIにより引き起こされる内分泌関連の免疫関連有害事象(irAE)の1つです。副腎不全が進行すると倦怠感、食欲不振、低血圧、低Na血症などを呈し、場合によっては急性副腎クリーゼに至ることもあります。治療機関が遠方の場合には、自宅近くのクリニックを受診するケースもあります。今回は、副腎不全で受診された際に有用な鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】65歳、男性主訴倦怠感、食欲低下病歴進行胃がんに対し、SOX+ニボルマブ療法を開始。3コース終了後より、全身倦怠感、食欲低下を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。バイタルサイン血圧 92/60mmHg、脈拍 96/分、体温 36.3℃身体所見皮膚冷感あり、軽度の脱水徴候を認める。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の倦怠感や食欲不振のほとんどが使用中の抗がん剤によるものですが、ICI使用時はさまざまなirAEを念頭におく必要があります。他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)倦怠感や食欲不振の原因服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染、腫瘍進行、代謝性疾患ほか)との鑑別。倦怠感以外の症状やバイタルの変動を確認。鑑別疾患とポイント画像を拡大する(2)症状からirAEを推察する(逆引きマニュアル)クリニックなど一次診療の場では、詳細な画像検査や内分泌・免疫関連の特殊検査を行うことは困難です。そのため、まず症状から「もしかするとirAEかもしれない」と推測することが大切になります。たとえば、倦怠感や食欲不振といった一見よくある症状でも、その背景に副腎不全や甲状腺のトラブルといった免疫関連の副作用が隠れていることがあります。以下の表は症状から想定されるirAEを逆引きマニュアルとして作成しました。逆引きマニュアル画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。来院時は倦怠感が強く、血圧も低下傾向でした。化学療法はSOX+ニボルマブ療法をすでに3コース実施していましたが、詳しく問診すると最初の2コースはそれほどの倦怠感や食欲不振はありませんでした。わずかに冷汗もあり、血糖測定を実施したところ低値であったため、グルコースを含んだ輸液を行い、治療機関へ救急搬送を行いました。搬送先の病院で精査が行われ、下垂体前葉機能低下による副腎皮質機能低下症(irAE)と診断されました。ホルモン補充療法を実施され、現在も化学療法を継続中です。副腎皮質機能低下症患者における急性副腎不全(副腎クリーゼ)の対応急性副腎不全(副腎クリーゼ)は、副腎ホルモンが急激に不足し、放置すれば致死的となる緊急病態です。主な原因は、(1)慢性副腎不全患者に感染や外傷などのストレスが加わり、必要量が急増した場合、(2)長期ステロイド治療中の患者で不適切な減量・中止を行った場合、の2つが多いです。発症の誘因としては、とくに胃腸炎などの感染症の頻度が高く、そのような場合は通常量の1.5~3倍のヒドロコルチゾン(コートリル)の補充が必要となります。もし、コルチゾール補充療法を行っている患者が発熱などを主訴に来院した場合は、副腎クリーゼの可能性を勘案し、医療機関の指示どおり手持ちのコートリルを通常用量より多く内服したか確認を行い、直ちに治療機関へ受診もしくは連絡するよう指導いただければ幸いです。1)柳瀬 敏彦. 日本内科学会雑誌.2016;105:645-646.2)日本肺癌学会. 肺癌. 2021;61.

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喘息合併の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、デュピルマブvs.オマリズマブ(EVEREST)/ERS2025

 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎と喘息は、病態の中心に2型炎症が存在することが多く、両者の合併も多い。また、合併例は重症例が多く全身性ステロイド薬による治療が必要となる場合もある。そこで、喘息を合併する鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象に、デュピルマブとオマリズマブ(本邦で鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎への適応を有するのはデュピルマブのみ)を比較する海外第IV相無作為化二重盲検比較試験「EVEREST試験」が実施された。その結果、デュピルマブがオマリズマブと比較して鼻茸スコア(NPS)や嗅覚障害などを改善した。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Enrico Marco Heffler氏(イタリア・IRCCS Humanitas Research Hospital)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月27日号に同時掲載された1)。試験デザイン:海外第IV相無作為化二重盲検比較試験対象:低~高用量のICSを用いてもコントロール不良(喘息コントロール質問票[ACQ]スコア1.5以上)の喘息を有し、NPS 5以上の両側性鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者360例試験群:デュピルマブ300mgを2週に1回皮下投与(181例)対照群:オマリズマブを試験実施国の承認用量で投与(179例)投与方法:4週間のrun-in期間にモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、2群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24週間実施した。24週間の治療期間中もモメタゾンフランカルボン酸エステル点鼻液を毎日噴霧し、全身性ステロイド薬の使用や手術による救済治療も可能とした。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のNPS、ペンシルベニア大学嗅覚識別検査(UPSIT)スコアのベースラインからの変化量[副次評価項目]投与24週時の嗅覚障害重症度スコア、鼻閉重症度スコアなど 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群間でバランスがとれており、全体集団の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の罹病期間(平均値)は13.3年、手術歴を有する割合は79.4%であった。ベースライン時のICSの用量は低用量が35%、中/高用量が65%であった。非ステロイド性抗炎症薬過敏喘息の病歴を有する割合は40%であった。・主要評価項目である投与24週時のNPSのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-2.65、オマリズマブ群-1.05であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:-1.60、95%信頼区間[CI]:-1.96~-1.25、p<0.0001)。・もう1つの主要評価項目である投与24週時のUPSITスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群12.7、オマリズマブ群4.7であり、デュピルマブ群が有意に改善した(群間差:8.0、95%CI:6.3~9.7、p<0.0001)。なお、デュピルマブ群のUPSITスコア(平均値)は無嗅覚の閾値である18を超えて改善した。・投与24週時の嗅覚障害重症度スコアのベースラインからの変化量、鼻閉重症度スコアのベースラインからの変化量もデュピルマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.0001)。・投与24週時の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群0.29L、オマリズマブ群0.14Lであった(群間差:0.15L、95%CI:0.05~0.26、名目上のp=0.003)。・投与24週時のACQ-7スコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、デュピルマブ群-1.92、オマリズマブ群-1.44であった(群間差:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31、名目上のp<0.0001)。・安全性に関して、両群に差はみられなかった。 本試験結果について、Heffler氏は「本試験は呼吸器領域で初の生物学的製剤の直接比較試験である。本試験において、事前に規定した階層的検定のすべての評価項目で、デュピルマブがオマリズマブと比較して改善を示した。この結果は、2型炎症を伴う呼吸器疾患を併存する患者におけるデュピルマブの有効性を支持するものである」とまとめた。

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BUD/GLY/FOR配合薬が喘息にも有効(KALOS/LOGOS)/ERS2025

 吸入ステロイド薬(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)でコントロール不良の喘息において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬として用いられるブデソニド・グリコピロニウム臭化物・ホルモテロールフマル酸塩水和物(BUD/GLY/FOR)のトリプル製剤が有効であることが示された。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、Alberto Papi氏(イタリア・フェラーラ大学)が、国際共同第III相試験「KALOS試験」および海外第III相試験「LOGOS試験」の統合解析の結果を報告した。KALOS試験・LOGOS試験のデザイン(両試験とも同様のデザインで実施)試験デザイン:第III相無作為化二重盲検比較試験対象:中~高用量のICS/LABAでコントロール不良(7項目の喘息コントロール質問票[ACQ-7]スコア1.5以上)の12~80歳の喘息患者4,311例(有効性解析対象4,304例)試験群1:BUD/GLY/FOR 320/28.8/10μgを1日2回(高用量群:1,179例)試験群2:BUD/GLY/FOR 320/14.4/10μgを1日2回(低用量群:725例)対照群1:BUD/FOR(エアロスフィア製剤)320/10μgを1日2回(1,208例)対照群2:BUD/FOR(タービュヘイラー製剤)320/9μgを1日2回(1,192例)投与方法:4週間のrun-in期間にBUD/FOR(エアロスフィア製剤)320/10μgを1日2回投与し、4群に無作為に割り付けた。無作為化後は割り付けられた治療を24~52週間実施した。評価項目:[主要評価項目]投与24週時のトラフ1秒量(FEV1)値のベースラインからの変化量[主要な副次評価項目]投与24週時の投与0~3時間後のFEV1値の曲線下面積(FEV1 AUC0-3)[統合解析の主要解析]重度の喘息増悪の年間発現率 試験実施国によって解析計画が異なるが、今回は欧州での解析計画に基づいて報告された(対照群1および2を統合して解析)。主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の投与24週時のトラフFEV1値のベースラインからの変化量は、KALOS試験ではBUD/GLY/FOR高用量群が対照群と比べて有意に改善し、LOGOS試験では高用量群および低用量群のいずれも対照群と比べて有意に改善した。対照群に対するトラフFEV1値の群間差(95%信頼区間[CI])、p値は以下のとおり。 <高用量群> KALOS試験:56mL(31~82)、p<0.001 LOGOS試験:97mL(70~123)、p<0.001 統合解析:76mL(57~94)、名目上のp<0.001 <低用量群> KALOS試験:25mL(-7~56)、p=0.126 LOGOS試験:103mL(73~134)、p<0.001 統合解析:65mL(43~88)、名目上のp<0.001・投与24週時のFEV1 AUC0-3値のベースラインからの変化量は、いずれの試験においてもBUD/GLY/FOR高用量群および低用量群が対照群と比べて改善した。対照群に対するFEV1 AUC0-3値の群間差(95%CI)およびp値は以下のとおり。 <高用量群> KALOS試験:69mL(44~94)、p<0.001 LOGOS試験:112mL(87~138)、p=0.001 統合解析:90mL(72~108)、名目上のp<0.001 <低用量群> KALOS試験:45mL(15~76)、名目上のp=0.003 LOGOS試験:115mL(85~145)、p<0.001 統合解析:81mL(60~103)、名目上のp<0.001・重度の喘息増悪の年間発現率(回/人年)は、対照群が0.63であったのに対し、BUD/GLY/FOR高用量群0.54(レート比:0.86、95%CI:0.76~0.97、p=0.01)、低用量群0.53(同:0.84、0.73~0.97、p=0.02)であり、BUD/GLY/FOR高用量群および低用量群が改善した。・治験薬との関連が否定できない有害事象の発現割合は、対照群が3.6%であったのに対し、BUD/GLY/FOR高用量群5.4%、低用量群4.6%であった。治験薬の中止に至った有害事象の発現割合は、それぞれ0.9%、1.1%、1.2%であった。 本試験結果について、Papi氏は「ICS/LABAでコントロール不良の喘息患者において、BUD/GLY/FORの単一デバイスによる3剤併用療法は、呼吸機能の改善および重度の喘息増悪の改善について、ICS/LABAに対する優越性を示した。BUD/GLY/FORの安全性プロファイルはBUD/FORと同等であった」とまとめた。

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タルラタマブ、サイトカイン放出症候群の警告追記/厚労省

 タルラタマブについて、サイトカイン放出症候群が生じて死亡に至った症例が3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例は1例)報告されていることを受け、厚生労働省は2025年9月17日に添付文書の改訂指示を発出し、「警告」の項に追記がなされた1)。 改訂後の警告の記載は以下のとおり(下線部が変更箇所)。1. 警告1.1 本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。1.2 重度のサイトカイン放出症候群及び神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)があらわれることがあり、サイトカイン放出症候群では死亡に至った例も報告されているので、本剤の投与にあたっては、以下の事項に注意すること。1.2.1 特に治療初期は入院管理等の適切な体制下で本剤の投与を行うこと。1.2.2 重度のサイトカイン放出症候群があらわれることがあるので、サイトカイン放出症候群に対する前投与薬の投与等の予防的措置を行うとともに、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、製造販売業者が提供するサイトカイン放出症候群管理ガイダンス等に従い、適切な処置を行うこと。1.2.3 重度の神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、製造販売業者が提供する免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群管理ガイダンス等に従い、適切な処置を行うこと。 なお、サイトカイン放出症候群として報告された国内副作用症例が2025年8月15日時点で268例集積し(推定使用患者数848例)、うちGrade3が8例、Grade4が1例、転帰死亡が3例報告されていることを受け、アムジェンは「適正使用のお願い『サイトカイン放出症候群』について(第2版)」を発出した2)。投与中のモニタリング、サイトカイン放出症候群に対する対処に関して、サイトカイン放出症候群管理ガイダンスに従ってサイトカイン放出症候群の症状(体温、血圧、パルスオキシメトリー等)を定期的に確認すること、症状発現後は副腎皮質ホルモン(デキサメタゾン)、トシリズマブ(遺伝子組換え)の投与を検討すべきことが注意喚起されている。

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透析患者におけるアルドステロン拮抗薬の位置付けを再考する―ALCHEMIST試験の結果から(解説:石上友章氏)

 アルドステロンは副腎皮質球状帯より分泌される鉱質コルチコイドであり、その主要な作用部位は腎臓遠位尿細管に属するアルドステロン感受性遠位ネフロン(aldosterone-sensitive distal nephron:ASDN)である。アルドステロンは核内因子である鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)と結合し、アルドステロン誘導性タンパク(aldosterone-inducible protein:AIP)の遺伝子発現を活性化することにより、ナトリウム再吸収およびカリウム排泄を促進する。この作用特異性は、11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11βHSD2)によって担保される。血中に高濃度に存在し、かつMR親和性においてアルドステロンを凌駕するコルチゾールが、11βHSD2により不活性型のコルチゾンへ変換されることで、MR結合がアルドステロンに選択的に保証されているのである。この点において、アルドステロンは生理的に特異的なシグナル伝達を遂行するホルモンと位置付けられる。 一方で、腎臓以外の臓器においてアルドステロンは線維化、炎症、血管硬化を誘導しうることが知られ、心血管・腎保護的な観点からMR拮抗薬の臨床応用が注目されてきた。小規模試験や観察研究では、心血管イベント抑制効果を示唆する報告も散見されたが、バイアスや症例数の制約から解釈には限界があった。こうした背景の下に実施された大規模二重盲検無作為化試験が、今回Lancet誌に報告されたALCHEMIST試験である。 ALCHEMISTは血液透析中の腎不全患者で、かつ心血管リスクを有する症例を対象に、スピロノラクトン25mg/日とプラセボを比較した多施設共同試験である。主要複合エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全入院)の発症率は両群で同等であり(ハザード比:1.00、95%信頼区間:0.73~1.36)、有意差は認められなかった。さらに、既報の無作為化比較試験を統合したメタ解析においても、MR拮抗薬は全死亡あるいは心血管死亡を減少させないことが明らかとなった。安全性の面でも高カリウム血症の発症率に有意差はなく、臨床的便益を裏付ける根拠は得られなかった。 本試験の結果は、透析患者においてアルドステロン拮抗薬の腎外臓器保護効果が臨床的アウトカムの改善に結び付かないことを明確に示している。腎不全透析患者に特徴的な病態、すなわちRAAS活性やアルドステロン作用の修飾が背景にある可能性は否定できないが、いずれにしても現時点で「腎外保護」を目的としたMR拮抗薬の透析患者への投与は支持されない。 以上より、アルドステロンの生理的特異性を再確認するとともに、その腎外作用を臨床応用へと展開するには、病態特異的なメカニズム解明と適格集団の同定が不可欠であることを示唆する結果と解釈される。

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

 今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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慢性咳嗽のカギ「咳過敏症」、改訂ガイドラインで注目/杏林

 8週間以上咳嗽が持続する慢性咳嗽は、推定患者数が250〜300万例とされる。慢性咳嗽は生活へ悪影響を及ぼし、患者のQOLを低下させるが、医師への相談割合は44%にとどまっているという報告もある。そこで、杏林製薬は慢性咳嗽の啓発を目的に、2025年8月29日にプレスセミナーを開催した。松本 久子氏(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 主任教授)と丸毛 聡氏(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 呼吸器内科 主任部長)が登壇し、慢性咳嗽における「咳過敏症」の重要性や2025年4月に改訂された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』に基づく治療方針などを解説した。慢性咳嗽により労働生産性が約3割低下 松本氏は「知ってますか? 『長引く咳』と『咳過敏症』」と題し、慢性咳嗽のQOLへの影響や病態、咳過敏症の臨床像やメカニズムなどについて解説した。 慢性咳嗽はQOLを大きく低下させる。心理的側面では「咳をすると周囲の目線が気になる」「咳をすることが恥ずかしい」「会話や電話ができない」などの悪影響が生じる。また、食事への影響が生じたり、とくに女性では尿失禁が起こったりする場合もある。症状が強い場合には、咳失神や肋骨骨折にもつながる。このように、慢性咳嗽患者は日常生活においてさまざまな困りごとを抱えており、労働生産性の損失率は約30%にのぼるという報告がなされている。 慢性咳嗽の原因はさまざまであり、主な疾患として、喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、副鼻腔気管支症候群などが挙げられる。そこで問題となるのが、これらの疾患は画像検査や呼吸機能検査、血液検査で特異的な所見がみられないことが多いという点である。そのため、慢性咳嗽の診断・治療では、咳の出やすいタイミングや随伴する症状などを問診で明らかにし、原因疾患に対する治療を行いながら経過を観察していくこととなる。しかし、これらの疾患に対する治療を行っても、約2割が難治性慢性咳嗽となっているのが現状である。難治性慢性咳嗽の背景にある咳過敏症 松本氏は、「難治性慢性咳嗽の背景にあるのが咳過敏症症候群である」と指摘する。咳過敏症症候群は「低レベルの温度刺激、機械的・化学的刺激を契機に生じる難治性の咳を呈する臨床症候群」と定義され1)、煙や香水などの香り、会話や笑うことなどのわずかな刺激により咳が出て止まらなくなる状態である。 2023年に公開された英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)では、慢性咳嗽の「treatable traits(治療可能な特性)」として12項目が示され、このなかの1つに「咳過敏症」が示されている。これについて、松本氏は「慢性咳嗽という大きな括りのなかには、さまざまな原因疾患があり、加えて咳過敏症もあるという考えである。難治化した慢性咳嗽患者は咳過敏症を有していると考えることもできる」と述べ、咳過敏症に対する対応の重要性を強調した。改訂ガイドラインでtreatable traitsを明記 続いて、丸毛氏が「長引く咳に関する診療の進め方-最新の診療ガイドラインをふまえて-」と題して講演した。そのなかで、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2025』の咳嗽パートの改訂のポイントから、「慢性咳嗽のtreatable traits」「咳過敏症の重要性」「難治性慢性咳嗽についての詳説」の3項目を取り上げ、解説した。 容易に原因の特定ができない狭義の成人遷延性・慢性咳嗽の対応として、本ガイドラインでは、喀痰がある場合は「副鼻腔気管支症候群」への治療的診断を行い、喀痰がない、あるいは少量の場合は「咳喘息」「アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(慢性)」「GERD」「感染後咳嗽」に対する診断的治療を行って、咳嗽の改善を評価することが示されている。ここまでは前版と同様であるが、前版では原因疾患への対応で改善がみられない場合の治療法は示されていなかった。しかし、改訂ガイドラインでは、その先の対応として「treatable traitsの検索」「P2X3受容体拮抗薬の使用の検討」が示された。 treatable traitsの概念は、患者の病態のなかで、「明確に評価・測定できる」「臨床的に意義があり、予後や生活に影響する」「有効な介入手段が存在する」という条件を満たすものである。treatable traitsは患者によって単一の場合もあれば、複数の場合もある。また、複数の場合は個々のtraitsが占める割合も患者によって異なる。 従来の診療は、喘息であれば吸入ステロイド薬、COPDであれば気管支拡張薬など、診断名に応じて標準治療を一括適用するという考えであった。しかし、treatable traitsを考慮した治療では、同じ診断名でも個々の病態の構成要素は異なるため、それらをしっかりと見極めて治療を行う。これは「プレシジョン・メディシンに近い考え方である」と丸毛氏は述べる。 改訂ガイドラインでは、英国胸部学会の最新のガイドライン「成人慢性咳嗽に関するClinical Statement」2)で示されたtreatable traitsが採用されており、「GERD」「喘息などの呼吸器系基礎疾患」「睡眠時無呼吸症候群」「肥満」「ACE阻害薬の服用」など、12項目が示されている。そのなかの1つに「咳過敏症」がある。これについて、丸毛氏は「慢性咳嗽の難治化の要因となる咳過敏症がtreatable traitsとして示されたのは非常に重要なことである。改訂ガイドラインは、非専門医の先生方にも個別化医療を実践しやすく作成されているため、ぜひ活用いただきたい」と述べ、ガイドラインの普及による咳嗽診療レベルの向上への期待を語った。選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサント」の登場 咳過敏症に対する初の分子標的薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント(商品名:リフヌア)である。咳のメカニズムの1つとして、P2X3受容体の関与がある。炎症や刺激により気道上皮細胞などから放出されたATPが、感覚神経に存在するP2X3受容体を刺激することで咳過敏性が亢進する。ゲーファピキサントはこれを抑制することで、咳嗽を改善させる。ゲーファピキサントは難治性の慢性咳嗽を改善するほか、日常生活や睡眠の質の改善も報告されている。 ゲーファピキサントは発売から3年以上が経過し、使用経験も積み重ねられている。改訂ガイドラインでも、フローチャートに難治性咳嗽の選択肢として掲載された。これについて、丸毛氏は「咳嗽は非専門医の先生方が多く診られているため、咳嗽の診療に慣れた先生であれば、非専門医であっても選択肢として提示可能であると判断され、ガイドラインにも記載されている」と説明した。 ゲーファピキサントには代表的な有害事象として、味覚に関連する有害事象があり、マネジメントが重要となる。そこで、味覚に関連する有害事象への対応について松本氏に聞いたところ「亜鉛が欠乏すると味覚障害が強くなりやすいため、亜鉛欠乏に注意することが必要である。また、後ろ向き研究ではあるが、麦門冬湯を併用していると味覚障害が軽かったというデータもあるため、麦門冬湯の併用も選択肢の1つになるのではないか」との回答が得られた。

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救急診療所では不適切な処方が珍しくない

 救急診療所では、抗菌薬、ステロイド薬、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)が効かない症状に対してこれらの薬を大量に処方している実態が、新たな研究で示された。研究論文の筆頭著者である米ミシガン大学医学部のShirley Cohen-Mekelburg氏は、「過去の研究では、ウイルス性呼吸器感染症など抗菌薬が適応とならない疾患に対しても抗菌薬が処方され続けており、特に、救急診療所でその傾向が顕著なことが示されている」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 この研究では、2018年から2022年の間に行われた2242万6,546件の救急診療に関する医療データが分析された。これらの診療において、抗菌薬が278万3,924件(12.4%)、ステロイド薬のグルココルチコイドが203万8,506件(9.1%)、オピオイドが29万9,210件(1.3%)処方されていた。 これらの処方を検討した結果、相当数が、患者の診断を考慮すると「常に不適切」または「通常は不適切」な処方であることが判明した。抗菌薬の処方が「常に不適切」とされる診断のうち、中耳炎の30.7%、泌尿生殖器症状の45.7%、急性気管支炎の15.0%において同薬剤が処方されていた。また、グルココルチコイドの処方が「通常は不適切」とされる診断のうち、副鼻腔炎の23.9%、急性気管支炎の40.8%、中耳炎の7.9%において同薬剤が処方されていた。一方、オピオイドについては、処方が「通常は不適切」とされる背部以外の筋骨格系の痛みの4.6%、腹痛・消化器症状の6.3%、捻挫・筋挫傷などの4.0%において処方されていた。 Cohen-Mekelburg氏らは、「これらの結果は、ウイルス性呼吸器感染症の治療としての不適切な抗菌薬処方が最も多いのは救急医療であることを示した最近の研究結果と一致している」と述べている。同氏らによると、これらの薬が不適切に処方されるのは、救急医療スタッフの知識不足、患者による特定の薬剤の要求、処方を決める際のバックアップサポート体制の欠如などが原因になっている可能性が高いという。 これらの処方がもたらす影響は広範囲に及ぶ可能性がある。例えば、抗菌薬の過剰使用により、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が大きな脅威となりつつある。また、米国でのオピオイド危機は、あいまいな理由で大量の鎮痛薬が処方されてきたことによって悪化してきた。 こうしたことからCohen-Mekelburg氏らは、救急診療所が適切な病状に適切な薬を処方していることを確認するために、薬剤管理プログラムが必要であると結論付けている。「抗菌薬、グルココルチコイド、オピオイドの不適切な処方を減らすには、多角的なアプローチが必要だ。救急医療センターの医療従事者がこうした薬剤の処方について判断を下す際には、より多くの支援とフィードバックが役立つだろう」と述べている。

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インフルエンザ脳症、米国の若年健康児で増加/JAMA

 米国では2024~25年のインフルエンザシーズン中、大規模な小児医療センターの医師たちから、インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の小児患者数が増加したと報告があった。このことから、同国・スタンフォード大学のAndrew Silverman氏らIA-ANE Working Groupは、全米を対象とした直近2シーズンの症例集積研究を実施。主として若年で直前までは健康であった小児の集団において、IA-ANEの罹患率および死亡率が高かったことを明らかにした。急性壊死性脳症(ANE)は、まれだが重篤な神経系疾患であり、疫学データおよび治療データは限られていた。JAMA誌オンライン版2025年7月30日号掲載の報告。2024~25年インフルエンザシーズンのANE小児を調査 研究グループは、IA-ANEと診断された米国の小児における臨床症状、介入およびアウトカムを明らかにするため、ANEと診断された小児を対象に多施設共同集積研究にて長期追跡調査を行った。 症例募集は、学会、公衆衛生機関を通じたほか、同国内76の大学医療センターの小児専門医に直接コンタクトを取り、2023年10月1日~2025年5月30日の症例の提供を要請して行った。 対象基準は、放射線学的な急性視床障害および臨床検査によりインフルエンザ感染が確認された21歳以下の急性脳症患者とした。 主要アウトカムは、主な症状、ワクチン接種歴、検査値および遺伝学的所見、介入、臨床アウトカム(修正Rankinスケールスコア[0:症状なし、1~2:軽度障害、3~5:中等度~重度障害、6:死亡]など)、入院期間、機能的アウトカムであった。39例(95%)がインフルエンザAに感染 提供された58例のうち、23病院からの41例(女児23例、年齢中央値5歳[四分位範囲[IQR]:2~8])が対象基準を満たした。31例(76%)は重大な病歴を有していなかったが、5例(12%)は複雑な疾患を有していた。 主な臨床症状は、発熱38例(93%)、脳症41例(100%)、けいれん発作28例(68%)であった。39例(95%)がインフルエンザA(A/H1pdm/2009:14例、A/H3N2:7例、サブタイプ不明:18例)、2例がインフルエンザBに感染していた。 検査所見で異常値が認められたのは、肝酵素の上昇(78%)、血小板減少症(63%)、脳脊髄液タンパク質の上昇(63%)などであった。 遺伝子検査を受けた32例(78%)のうち、15例(47%)にANEリスクに関連する可能性がある遺伝的リスクアレルがあり、11例(34%)はRANBP2変異を有していた。季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみ ワクチン接種歴が入手できた38例のうち、年齢に応じた季節性インフルエンザワクチンの接種を受けていたのは6例(16%)のみだった。 ほとんどの患者は複数の免疫調節療法を受けていた。メチルプレドニゾロン(95%)、免疫グロブリン静注(66%)、トシリズマブ(51%)、血漿交換(32%)、anakinra(5%)、髄腔内メチルプレドニゾロン(5%)などであった。 ICU在室期間中央値は11日(IQR:4~19)、入院期間中央値は22日(7~36)。11例(27%)が症状発症から中央値3日(2~4)で死亡し、主な死因は脳ヘルニア(91%)であった。90日間の追跡調査を受けた生存児27例のうち、17例(63%)が中等度以上の障害(修正Rankinスケールスコア3以上)を有していた。

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幹細胞移植で移植患者の免疫抑制薬が不要に?

 米ミネソタ州出身のMark Welterさんは腎臓移植を必要としていたが、移植後は死ぬまで免疫抑制薬を服用し続けなければならないことに納得していなかった。免疫抑制薬は移植された臓器の拒絶反応を防ぐために不可欠ではあるものの、頭痛や振戦などの重篤な副作用や、感染症、がんリスクの増加など多くの欠点を伴うからだ。しかし、米メイヨー・クリニックのMark Stegall氏らが実施した第3相臨床試験において、免疫寛容を誘導するために、臓器移植に加えて幹細胞移植を用いる方法により、免疫抑制薬を生涯にわたって使用する必要がなくなる可能性のあることが示された。この試験の詳細は、「American Journal of Transplantation」7月号に掲載された。 Stegall氏らがこの臨床試験で検討したアプローチは、臓器移植とともに、ドナーから採取された造血幹細胞などから成る細胞製剤(MDR-101)を投与するというもの。これにより患者の免疫系がリセットされ、ドナーの臓器を受け入れるように仕向けることができる可能性があるという。試験では、2つのヒト白血球型抗原(HLA)ハプロタイプが一致する生体ドナー(兄弟姉妹)からの腎臓移植を受ける患者30人を2対1の割合で、MDR-101を投与する治療群(20人)と標準治療を受ける対照群(10人)にランダムに割り付けた。治療群は、骨髄非破壊的な前処置として抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリンと低用量全リンパ節照射(10回)を受け、移植後11日目にMDR-101が点滴投与された。ステロイド薬の投与は移植後10日目までに、免疫抑制薬のミコフェノール酸は移植後39日目までに中止された。 その結果、治療群では、移植片対宿主病(GVHD)は一例も認められず、19人(95%)が移植後約1年で全ての免疫抑制薬の中止に至った。さらに15人(75%)が主要評価項目である「免疫抑制薬なしを2年以上維持」を達成した。一方、4人が免疫グロブリンA腎症の再発や拒絶反応、境界型生検変化などの理由で免疫抑制薬の再開が必要になった。 遺伝性疾患である多発性嚢胞腎を患っていたWelterさんも、この移植アプローチを検討する臨床試験に4年前に参加し、妹から腎臓と幹細胞の両方の移植を受けた。その後、3年以上も免疫抑制薬を一切服用していないという。Welterさんは、「最高の気分だ。今の自分は移植を受ける前の自分と変わらないと感じられるのが、何より素晴らしいことだと思う」とニュースリリースの中で述べている。 Stegall氏は、「私は30年以上にわたり移植研究に携わり、数々の素晴らしい成果を上げてきた。この研究はまさにその頂点に立つものだ」と話す。同氏は、「移植患者を安全に免疫抑制状態から解放するという目標は、私がこの仕事に携わるよりもはるか前から胸に抱いていた。だから、われわれは今回の結果に興奮している」と語っている。 ただし研究グループは、この移植アプローチを広く利用できるようになるまでにはさらなる研究が必要だと述べている。例えば、ドナーが適合性のあまり高くない兄弟姉妹であっても、幹細胞移植により拒絶反応を予防できるかどうかを確認する必要がある。

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足の親指が腫れて痛みます【漢方カンファレンス2】第2回

足の親指が腫れて痛みます以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代男性主訴左母趾の痛み既往高血圧、高尿酸尿症、痛風発作病歴数日前から左母趾に違和感があった。1日前から腫れて痛みを伴うようになったため手持ちのNSAIDsを内服したが痛みがつらく、歩行困難が続くため発症から2日目に受診した。現症身長162cm、体重75kg。体温36.8℃、血圧140/80mmHg、脈拍70回/分 整。左母趾に熱感・腫脹あり。経過初診時ロキソプロフェン錠60mg 3錠 分3を継続し、「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2日後腫れがひいて、痛みは半分程度まで軽減した。5日後痛みはほとんどなくなって普通に歩けるようになった。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 入浴ではお湯に長く浸かりますか? 暑がりです。 冷えの自覚はありません。 長風呂ではありません。 患部に熱感を感じますか? 冷水で冷やすと痛みはどうですか? 入浴で温めるとどうですか? 左母趾を中心に体全体が熱っぽいです。 冷ますと痛みが楽です。 あまりお風呂で温めたくありません。 <飲水・食事> のどが渇きますか? 冷たい飲み物と温かい飲み物のどちらを飲みたいですか? 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃腸は弱いですか? のどが渇いて冷たい水が飲みたいです。 1日およそ1.5L程度です。 食欲はあります。 もともと胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はかいていますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 便秘や下痢はありませんか? 少し汗ばみます。 尿は1日4〜5回です。 夜間にトイレは行きません。 毎日、形のある便が出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 足がむくみませんか? 倦怠感はありませんか? 足はつりませんか? 足の痛みでよく眠れません。 左足が腫れてむくみっぽいです。 倦怠感はありません。 足はつりません。 ほかに困っている症状はありますか? 困っているのは足の痛みだけです。腫れているので靴が履けません。 【診察】顔色はやや紅潮。脈診ではやや浮・やや強の脈。また、舌は乾燥した白黄苔が中等量、舌下静脈の怒張あり、腹診では腹力は中等度より充実、腹直筋の緊張を認めた。皮膚は発汗し湿潤傾向で、患部は紅斑・腫脹・熱感があった。カンファレンス 今回の診断は既往にもある痛風発作ですね。NSAIDsを内服しているので標準的治療はすでに行っています。アレルギーや消化性潰瘍などのためNSAIDsが用いにくい場合はプレドニゾロンという選択肢もあります。 痛風発作の治療は現代医学的な治療で十分でしょう…と思いたくなりますね。とはいえここは漢方カンファレンス、痛風発作を漢方だけで治療というわけにはいきませんが、漢方薬の併用も考えていきましょう。さあ、漢方診療のポイントに沿ってみていきましょう。 漢方診療のポイント(1)の病態の陰陽は、暑がり、体熱感があり、冷水を好む、患部にも熱感があることなどから陽証です。 今回のような急性疾患では慢性疾患より陰陽の判断がわかりやすいね。一般的に病気の発症初期は、熱が主体の陽証で始まることが多いといえるよ。ただし急性の腰痛などで、温めたほうが気持ちがよいという場合は陰証の場合もあるから注意が必要だね。 漢方診療のポイント(2)の虚実は闘病反応の程度だからわかりやすいですね。今回のように患部の局所反応が盛んな症例は闘病反応が充実していると考えて、実証と考えてよいでしょう。 今回の症例は、暑がり、冷えの自覚なし、冷水を好む、患部の熱感などから陽証、さらに局所反応も熱感や腫脹がありますし、脈:やや強、腹力:充実と実証ですね。 そうですね。さらに冷水で冷ますと痛みが楽というのも前回の症例の「入浴で温めると楽になる痛み」とは逆で陽証ですね(陽証については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。現代医学的にも、足関節捻挫で、氷で冷やしたり、冷湿布を貼ったりして治療します。足関節捻挫の急性期にお風呂で温めても楽にはならないですね。 前回の帯状疱疹後神経痛と同じく足関節捻挫もよい例だね。局所の炎症反応は時間の経過とともに消退して、古傷になると熱感や腫脹はなくなるけど冷えると悪化するなどという特徴が出てくれば、陰証・虚証になっていくとイメージできるね。 漢方治療では同じ足関節捻挫でも、陰陽に応じて治療が変わるのが特徴です。冷湿布を使うか、温湿布を使うかのイメージでしょうか。 そうだね。どちらの湿布を貼りたいかという情報も陰陽の判断に使えるかもね。ただし温湿布は皮膚がかぶれてしまう人が多いから、漢方で温めた方がよいよね。 症例に戻りましょう。陽証・実証まで確認できました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうですか? 患部の腫脹や下肢の浮腫は水毒です。舌下静脈の怒張があるので瘀血です。食欲不振や倦怠感はないので気虚はないようです。 尿の回数が4〜5回/日と少なめなことは尿不利、口渇があることも水毒としてよいでしょう。 今回の症例をまとめよう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?顔面やや紅潮、暑がり、冷水を好む、患部の熱感→陽証(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:やや充実、強い局所反応→実証(3)気血水の異常を考える尿不利・口渇、患部の腫脹・下肢浮腫→水毒、舌下静脈の怒張→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む局所の熱感・腫脹解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証で熱と水毒に対応する越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)で治療しました。【解説】越婢加朮湯は、関節の紅斑・腫脹・熱感が使用目標になります。越婢加朮湯には麻黄(まおう)、石膏(せっこう)、朮(じゅつ)が含まれ、熱を冷ましながら浮腫を改善させる作用(清熱利水[せいねつりすい]作用)があります。石膏を含むため、自汗傾向・口渇などの自覚症状も使用目標です。陽証・実証の水毒に対する漢方薬で、体表面を主とする水毒、体内に熱がこもった状態と考えて六病位では太陽病〜少陽病に分類されます。本症例のような急性関節炎、蜂窩織炎、帯状疱疹などに歴史的に活用されており、膝関節炎に用いた症例1)やNSAIDsが無効、または投与困難な急性腰痛症やcrowned dens syndromeなどの整形外科の疼痛性疾患に対して越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の併用が有効であった2)とする症例報告があります。使用上の注意点として、麻黄が含まれることから胃弱、虚血性心疾患の既往、前立腺肥大など尿閉のリスクがある場合は慎重投与です。今回のポイント「陽証」の解説漢方治療では生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式について、熱性の病態を「陽証」、寒性の病態を「陰証」の2型に分類します。寒熱のほか、陽証では活動性、発揚性、陰証では非活動性、沈降性などの特徴があります。大まかに寒熱≒陰陽と考えてよいですが、一般的に寒熱は局所の病態を表し、陰陽では体全体の性質を総合的に判断します。一方、病因と生体の闘病反応の程度・病態の充実度を虚実とよびます。闘病反応が充実している場合を実証、闘病反応が乏しい病態が虚証です。主に虚実は脈や腹壁の反発力・緊張度により判定しますが、本症例のように局所反応の程度も参考になり、患部の熱感や腫脹などの局所の炎症が強い場合も実証を示唆します。陽証は、太陽病、少陽病、陽明病の3つに分類でき、病位は、太陽病が体表面の表(ひょう)、陽明病では裏(り)、少陽病はその中間の半表半裏(はんぴょうはんり)になります。一方、陰証の太陰病・少陰病・厥陰病ではすべて病位は裏になります。陽証では体力も充実していることから実証となりやすい傾向にありますが、体力が低下して闘病反応が弱い陽証・虚証の漢方薬も数多く存在します。陽明病は、熱の極期で闘病反応が充実していることから実証のみになります。今回の鑑別処方越婢加朮湯以外にも陽証の関節・皮膚疾患に用いる漢方薬を紹介します。越婢加朮湯よりもややマイルドな作用の桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)は長期投与に向きますが、エキス剤がないため桂枝湯と越婢加朮湯で代用します。黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は浮腫や腫脹(水毒)が目立たず、熱感と暗赤色の紅斑が主体の皮膚疾患に適応になります。柴苓湯(さいれいとう)は、小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を組み合わせた漢方薬で、抗炎症作用と利水作用をもちます。少陽病ですから体表面より少し病気が侵入した場合に用いるのが典型ですが、蕁麻疹やリンパ浮腫に対してしばしば使用されています。麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、石膏が含まれず、清熱作用は弱くなりますが、利水作用をもつ薏苡仁(よくいにん)が含まれ、熱感や腫脹があまり目立たない関節痛や筋肉痛に用いられます。本症例も時間が経過して局所反応が軽減したものの痛みが持続する場合は麻杏薏甘湯の適応になるでしょう。また麻杏薏甘湯は経験的に疣贅や頭のフケなどの皮膚疾患にも使用されます。薏苡仁湯(よくいにんとう)はさらに慢性化した関節痛や筋肉痛に適応となります。足底腱膜炎やアキレス腱炎など筋腱の痛みによいとされます。さらに皮下出血を認める打撲や局所の血流障害を伴う場合は瘀血と考えて治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を用いる、もしくは併用する場合もあります。 1) 星野綾美 ほか. 日東医誌. 2008;59:733-737. 2) 福嶋祐造 ほか. 日東医誌. 2019;70:35-41.

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肺がんに対する免疫療法、ステロイド薬の使用で効果減か

 非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対しては、がんに関連した症状の軽減目的でステロイド薬が処方されることが多い。しかし新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療開始時にステロイド薬を使用していると、ICIの治療効果が低下する可能性のあることが示された。米南カリフォルニア大学(USC)ケック・メディシンの腫瘍内科医であり免疫学者でもある伊藤史人氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer Research Communications」に7月7日掲載された。伊藤氏は、「がんの病期や進行度といった複数の要因を考慮しても、ステロイド薬の使用は特定の免疫療法で効果が得られないことの最も強い予測因子であった」と話している。 伊藤氏らはこの研究で、ICI単独、またはICIと他の治療法の併用のいずれかによる治療を受けたNSCLC患者277人(USCの患者189人、ロズウェルパーク総合がんセンターの患者88人)の医療記録を分析した。これらの患者のうちの21人(8%)は、ICI開始時にステロイド薬を使用していた。ステロイド薬はがん患者の倦怠感や嘔吐、脳の腫れ、肺の炎症といった症状を軽減するために広く使用されており、免疫系を抑制することで炎症を軽減する作用がある。 分析の結果、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していることは奏効率の低下と関連することが明らかになった。また、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していた患者では、使用していなかった患者に比べて無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が有意に短いことも示された。さらに、ICIによる治療開始時のステロイド薬の使用はPFSとOSの独立した予後不良因子であり、ステロイド使用者では非使用者と比べて、病態の進行リスクが2.7〜4.3倍、死亡リスクが2.4〜3.2倍高かった。 ステロイド薬を使用している患者では、ベースライン時にがん進行の指標となる血液中を循環する免疫のバイオマーカー(CX3CR1+CD8+T細胞)が有意に少ないことも示された。伊藤氏は、「この血中バイオマーカーがないと、がんの治療方針を判断する手がかりを得ることができず、腫瘍内科医は最適な治療を行えなくなる。その結果、患者が最善の治療を受けられなくなる可能性がある」と言う。このほか、実験用マウスを用いた検討からは、ICIによる治療前または治療中にステロイド薬を投与すると、T細胞が成熟する過程が妨げられることも示された。 伊藤氏は、「この研究結果から、ステロイド薬は体にもともと存在している免疫細胞であるT細胞の成熟を妨げることが明らかになった。その結果、T細胞は通常のようにがん細胞を攻撃することができず、患者の予後が悪化するのだ」と言う。同氏はまた、「ステロイド薬が免疫療法に干渉する可能性があることは他の研究でも示されているが、本研究は、その推定される因果関係を示した最初の研究の一つだ」と話している。 伊藤氏らは、本研究で認められた関連性をより深く理解するためには、さらなる研究が必要であるとの見解を示している。伊藤氏は、「患者によっては、がんの症状を管理する上でステロイド薬が不可欠だ。ステロイド薬が今後も肺がん治療において重要な役割を果たすことは間違いないが、その限界についても理解しておくことが重要である。自身のニーズに最も適した治療計画を立てるために、どの患者も主治医とよく話し合うべきだ」と助言している。

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