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1.

多発性骨髄腫と共に“生きる”選択を―Well-beingから考える

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年4月4日、「多発性骨髄腫患者のWell-being向上も考慮した治療目標を」と題したメディアセミナーを開催した。多発性骨髄腫は、根治が難しいものの、治療の進歩により長期生存が可能となってきている疾患である。本セミナーは、患者が「治療と生活を両立」させるために必要な視点として「Well-being」に焦点を当て、医療者と患者双方の視点からその意義を共有することを目的として開催された。 セミナーでは、群馬大学大学院医学系研究科 血液内科学分野の半田 寛氏が「診断から最新治療、そして患者自身ができること」について講演を行い、続いて日本骨髄腫患者の会代表の上甲 恭子氏が登壇し「Well-beingとは“一人一人が今どのように生きたいか”」をテーマに患者の視点から語った。「多発性骨髄腫の治療を諦めず、やりたいことも諦めないために」 多発性骨髄腫の診断・治療は、この20年間で著しい進歩を遂げてきた。新たな薬剤の登場により、生存期間は大幅に延伸し、治療の選択肢も増えている。一方、治療の選択肢の多様化は、治療の複雑化という新たな課題を生んでいる。 こうした状況において、半田氏は「治療の目標は深い奏効、すなわちMRD(微小残存病変)検出感度未満の達成に向かっている。そのうえで、いかに患者のQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)を損なわずに治療を継続できるかが今後の大きな課題である」と指摘した。たとえ根治が難しくとも「治療をしながら、自分らしく生きる」ことの両立が、これからの治療においてますます重要になってくるという。 その鍵となるのが「どう生きたいか」という価値観を、患者と医療者が共有する“Shared Decision Making(共同意思決定)”であると半田氏は述べる。治療法を選ぶ際、注射か内服か、治療期間の長短、通院頻度、生活の目標など、個々の患者の価値観に沿って擦り合わせていくことが不可欠であると強調した。「“いい塩梅”の暮らしを支える:患者のWell-beingを考える」 「治療のために生きるのではなく、生きるために治療をする」。多発性骨髄腫の治療が進歩する中で、患者にとって大切なのは「今をどう生きるか」であると、日本骨髄腫患者の会で代表を務める上甲氏は語った。講演では、自身の家族の経験や患者支援の活動を通して見えてきた、多発性骨髄腫患者における「Well-being」の在り方について紹介した。 上甲氏は、Well-beingという概念を「絶妙なバランス、つまり“よい塩梅”」と表現し、患者調査の結果から「長生きしたい」よりも「自分らしく、元気に過ごしたい」と考える傾向が高齢患者に多いことを紹介した。一方で、痛みや不安、外見の変化に苦しむ声も届くことを紹介。ある患者の「病院には薬をもらいに行っているだけ」「主治医との会話にも虚無感がある」といった実情に対し、上甲氏は「医療者との対話の重要性、そして患者自身が正しい知識を持ち、信頼関係を築くこと」の必要性を訴えた。医師と患者、すれ違う“目標”と本音 パネルディスカッションでは、医師と患者それぞれの「治療目標」に関する意識の違いが調査結果を交えて紹介された。 患者が挙げた目標として最も多かったのは「以前と変わらない生活を送りたい」、次いで「好きなことを続けたい」であった。一方、医師は「生存期間の延長」など、科学的エビデンスに基づいた数値を重視していた。 これについて半田氏は、「医師は“提供できるもの”として科学的な指標を挙げているが、患者は“どう生きたいか”を大切にしている」と説明。上甲氏も「“治療目標”という言葉は患者には伝わりにくい。“どんな生活を望んでいるか”と問うことで、初めて本音が語られる」と述べた。日常の充実が、治療を支える 「治療以外の時間の充実」が治療に与える影響についての調査では、医師の92%、患者の96%が「かなり良い影響を与える」または「やや良い影響を与える」と回答した。 上甲氏は「夢中になれることを持っている患者は、生きる力が明らかに違う」と述べ、半田氏も「やりたいことを伝えてもらえれば、それを実現できる治療を一緒に考えられる」と応じた。まとめ 多発性骨髄腫の治療は進歩し続けている。しかし、医学的な成功が必ずしも患者の幸福と一致するとは限らない。治療を続けながらも、自分らしい生活、すなわちWell-beingを実現するためには、医療者と患者が対等な立場で治療目標を共有することが求められる。科学的根拠に基づく治療と、患者が描く人生の在り方。その両輪がかみ合ってこそ、多発性骨髄腫の治療は本当の意味で“前進”していくと考えられる。

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最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは

 今春のスギ・ヒノキの花粉総飛散量は、2024年の春より増加した地域が多く、天候の乱高下により、飛散が長期に及んでいる。そのため、外来などで季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)を診療する機会も多いと予想される。花粉症診療で指針となる『鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症- 2024年 改訂第10版』(編集:日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)が、昨年2024年3月に上梓され、現在診療で広く活用されている。 本稿では、本ガイドラインの作成委員長である大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科学 教授)に改訂のポイントや今春の花粉症の終息の見通し、今秋以降の花粉飛散を前にできる対策などを聞いた。医療者は知っておきたいLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念 今回の改訂では、全体のエビデンスなどの更新とともに、皮膚テストや血清特異的IgE検査に反応しない「LAR(local allergic rhinitis)血清IgE陰性アレルギー性鼻炎」が加わった。また、図示では、アレルギー性鼻炎の発症機序、種々発売されている治療薬について、その作用機序が追加されている。そのほか、「口腔アレルギー症候群」の記載を詳記するなど内容の充実が図られている。それらの中でもとくに医療者に読んでもらいたい箇所として次の2点を大久保氏は挙げた。(1)LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎の概念の導入: このLAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎は、皮膚反応や血清特異的IgE抗体が陰性であるにもかかわらず、鼻粘膜表層ではアレルギー反応が起こっている疾患であり、従来の検査や所見でみつからなくても、将来的にアレルギー性鼻炎や気管支喘息に進展する可能性が示唆される。患者さんが来院し、花粉症の症状を訴えているにもかかわらず、検査で抗体がなかったとしても、もう少し踏み込んで診療をする必要がある。もし不明な点があれば専門医へ紹介する、問い合わせるなどが必要。(2)治療法の選択の簡便化: さまざまな治療薬が登場しており、処方した治療薬がアレルギー反応のどの部分に作用しているのか、図表で示している。これは治療薬の作用機序の理解に役立つと期待している。また、治療で効果減弱の場合、薬量を追加するのか、薬剤を変更するのか検討する際の参考に読んでもらいたい。 実際、本ガイドラインが発刊され、医療者からは、「診断が簡単に理解でき、診療ができるようになった」「『LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎』の所見をみたことがあり、今後は自信をもって診療できる」などの声があったという。今春の飛散終息は5月中~下旬頃の見通し 今春の花粉症の特徴と終息の見通しでは、「今年はスギ花粉の飛散が1月から確認され、例年より早かった一方で、寒い日が続いたため、飛散が後ろ倒しになっている。そのために温暖な日が続くとかなりの数の花粉が飛散することが予測され、症状がつらい患者さんも出てくる。また、今月からヒノキの花粉飛散も始まるので、ダブルパンチとなる可能性もある」と特徴を振り返った。そして、終息については、「例年通り、5月連休以降に東北以外のスギ花粉は収まると予測される。また、東北ではヒノキがないので、スギ花粉の飛散動向だけに注意を払ってもらいたい。5月中~下旬に飛散は終わると考えている」と見通しを語った。 今秋・来春(2026年)の花粉症への備えについては、「今後の見通しは夏の気温によって変わってくる。暑ければ、ブタクサなどの花粉は大量飛散する可能性がある。とくに今春の花粉症で治療薬の効果が弱かった人は、スギ花粉の舌下免疫療法を開始する、冬季に鼻の粘膜を痛めないためにも風邪に気を付けることなどが肝要。マスクをせずむやみに人混みに行くことなど避けることが大事」と指摘した。 最後に次回のガイドラインの課題や展望については、「改訂第11版では、方式としてMinds方式のCQを追加する準備を進める。内容については、花粉症があることで食物アレルギー、口腔アレルギー症候群(OAS)、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)など複雑に交錯する疾患があり、これが今問題となっているので医療者は知っておく必要がある。とくに複数のアレルゲンによる感作が進んでいる小児へのアプローチについて、エビデンスは少ないが記載を検討していきたい」と展望を語った。主な改訂点と目次〔改訂第10版の主な改訂点〕【第1章 定義・分類】・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加【第2章 疫学】・スギ花粉症の有病率は38.8%・マスクが発症予防になる可能性の示唆【第3章 発症のメカニズム】・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要・アレルギー鼻炎(AR)はタイプ2炎症【第4章 検査・診断法】・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示【第5章 治療】・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギ舌下免疫療法(SLIT)の効果を追加〔改訂第10版の目次〕第1章 定義・分類第2章 疫学第3章 発症のメカニズム第4章 検査・診断第5章 治療・Clinical Question & Answer(1)重症季節性アレルギー性鼻炎の症状改善に抗IgE抗体製剤は有効か(2)アレルギー性鼻炎患者に点鼻用血管収縮薬は鼻噴霧用ステロイド薬と併用すると有効か(3)抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎のくしゃみ・鼻漏・鼻閉の症状に有効か(4)抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2(PGD2)・トロンボキサンA2(TXA2薬)はアレルギー性鼻炎の鼻閉に有効か(5)漢方薬はアレルギー性鼻炎に有効か(6)アレルギー性鼻炎に対する複数の治療薬の併用は有効か(7)スギ花粉症に対して花粉飛散前からの治療は有効か(8)アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の効果は持続するか(9)小児アレルギー性鼻炎に対するSLITは有効か(10)妊婦におけるアレルゲン免疫療法は安全か(11)職業性アレルギー性鼻炎の診断に血清特異的IgE検査は有用か(12)アレルギー性鼻炎の症状改善にプロバイオティクスは有効か第6章 その他Web版エビデンス集ほかのご紹介

3.

リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

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レブリキズマブ、日本人アトピー患者におけるリアルワールドでの有効性・安全性

 既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎患者に対する治療薬として、2024年5月に発売された抗ヒトIL-13モノクローナル抗体製剤レブリキズマブについて、日本の実臨床における良好な有効性と安全性が示された。日本医科大学千葉北総病院の萩野 哲平氏らによるDermatitis誌オンライン版2月20日号への報告より。 本研究は2施設の共同研究であり、中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者126例が対象。患者はレブリキズマブに外用コルチコステロイド薬を併用する16週間の治療を受けた。治療期間中に、以下の各指標が評価された:Eczema Area and Severity Index(EASI)/Investigator's Global Assessment(IGA)/Peak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)/睡眠障害NRS/Atopic Dermatitis Control Tool(ADCT)/Dermatology Life Quality Index(DLQI)/Patient Oriented Eczema Measure(POEM)/IgE抗体/Thymus and Activation-Regulated Chemokine(TARC)/乳酸脱水素酵素(LDH)/末梢血好酸球数(TEC) 主な結果は以下のとおり。・レブリキズマブは4週時点ですべての臨床指標を改善し、その効果は16週まで維持された。・16週時点のEASI-50、75、90、100、IGA 0/1の達成率はそれぞれ83.1%、57.1%、27.3%、11.7%、33.3%であった。・16週時点のPP-NRS、睡眠障害NRS、DLQIの≧4ポイントの改善、ADCT<7ポイント、POEM≦7ポイントの達成率は、それぞれ75.9%、68.8%、65.9%、76.9%、80.4%であった。・検査指標については、治療期間中にIgE、TARC、LDHは減少したが、TECは増加した。・新たな安全性上の懸念は認められなかった。

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標準治療+アニフロルマブが全身性エリテマトーデス患者の臓器障害の進行を抑制

 全身性エリテマトーデス(SLE)は、炎症を通じて肺、腎臓、心臓、肝臓、その他の重要な臓器にさまざまな障害を起こす疾患であり、臓器障害が不可逆的となることもある。しかし、新たな研究で、標準治療へのSLE治療薬アニフロルマブ(商品名サフネロー)の追加が、中等症から重症の活動性SLE患者での臓器障害の発症予防や進行抑制に寄与する可能性のあることが示された。サフネローを製造販売するアストラゼネカ社の資金提供を受けてトロント大学(カナダ)医学部のZahi Touma氏らが実施したこの研究は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に2月1日掲載された。 SLEの標準治療は、ステロイド薬、抗マラリア薬、免疫抑制薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを組み合わせて炎症を抑制するのが一般的である。しかし、このような標準治療でSLEによる臓器障害を防ぐことは難しく、場合によっては障害を悪化させる可能性もあると研究グループは指摘する。 アニフロルマブは、炎症亢進に重要な役割を果たす1型インターフェロン(IFN-1)受容体を標的とするモノクローナル抗体であり、2021年に米食品医薬品局(FDA)によりSLE治療薬として承認された。今回の研究では、標準治療にアニフロルマブを追加することで、標準治療単独の場合と比べて中等症から重症の活動性SLE患者での臓器障害発生を抑制できるのかが検討された。対象者は、標準治療(糖質コルチコイド、抗マラリア薬、免疫抑制薬)に加え、アニフロルマブ300mgの4週間ごとの静脈内投与を受けたTULIP試験参加者354人(アニフロルマブ群)と、トロント大学ループスクリニックで標準治療のみを受けた外部コホート561人(対照群)とした。 主要評価項目は、ベースラインから208週目までのSLE蓄積障害指数(Systemic Lupus International Collaborating Clinics/American College of Rheumatology Damage Index;SDI)の変化量、副次評価項目は、最初にSDIが上昇するまでの期間であった。SDIは0〜46点で算出され、スコアが高いほど臓器障害が進行していることを意味する。なお、過去の研究では、SDIの1点の上昇は死亡リスクの34%の上昇と関連付けられているという。 その結果、ベースラインから208週目までのSDIの平均変化量はアニフロルマブ群で対照群に比べて0.416点有意に低いことが明らかになった(P<0.001)。また、208週目までにSDIが上昇するリスクは、アニフロルマブ群で対照群よりも59.9%低いことも示された(ハザード比0.401、P=0.005)。 こうした結果を受けてTouma氏は、「アニフロルマブと標準治療の併用は、4年間にわたって標準治療のみを行う場合と比較して、臓器障害の蓄積を抑制し、臓器障害の進行までの時間を延ばすのに効果的である」と結論付けている。

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活動性ループス腎炎に対する新しいタイプの抗CD20抗体の治療効果(解説:浦信行氏)

 活動性ループス腎炎(LN)は全身性エリテマトーデス(SLE)の中でも重症病態の1つであり、LN患者の約20%が15年以内に末期腎不全に至る。B細胞はSLE発症の重要なメディエーターであるが、この病原性B細胞の減少を来すことがSLEの治療となりうる可能性が以前から指摘されていた。 CD20はB細胞の表面に存在するタンパク質で、B細胞の活性化や増殖に関与する細胞表面マーカーである。この病態に対する治療的アプローチとして、当初はタイプI抗CD20モノクローナル抗体(mAb)であるリツキシマブ(RTX)が検討された。しかし、臨床試験においてその評価は無効とするものもあり、有効とするものでも反復投与例に、B細胞の枯渇が不完全な二次無効が存在することが報告されている。 今回は、タイプIIヒト化CD20mAbのオビヌツズマブの臨床試験の成績が報告された。その結果は2025年2月20日配信のジャーナル四天王に詳しく紹介されているので詳細はここでは述べないが、大変良好な効果を示す成績であった。タイプI抗体は、CD20と結合後Fc受容体IIBを介して細胞内移行するためCD20発現低下となり、部分的にRTXの作用を免れてB細胞が残ってしまうため効果が減弱し、二次無効を来すことが知られている。タイプII抗体のオビヌツズマブのCD20の細胞内移行率は低く、より効果的にB細胞枯渇を達成できることが両者の差異である。少数例の研究ではあるが、SLEに対するRTXの二次無効例に対してオビヌツズマブ投与が著効を示したとの報告もある。

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硬膜外ステロイド注射は慢性腰痛に効果あり?

 特定のタイプの慢性腰痛患者において、痛みや障害の軽減を目的とした硬膜外ステロイド注射(epidural steroid injection;ESI)の効果は限定的であることが、米国神経学会(AAN)が発表した新たなシステマティックレビューにより明らかになった。このレビュー結果は、「Neurology」に2月12日掲載された。 ESIは、脊柱の硬膜外腔と呼ばれる部分にステロイド薬や局所麻酔薬を注入して炎症を抑え、痛みを軽減する治療法である。このレビューの筆頭著者である米ロマリンダ大学医学部のCarmel Armon氏は、「慢性腰痛は一般的だが、動作や睡眠、日常的な活動を困難にして、生活の質(QOL)に悪影響を及ぼし得る」とAANのニュースリリースで述べている。 今回のシステマティックレビューでは、2005年1月から2021年1月の間に発表された90件のESIに関するランダム化比較試験を対象に、神経根症および脊柱管狭窄症に対するESIの痛み軽減効果に焦点を当てて分析が行われた。神経根症は、主に頸椎や腰椎の変性により神経根が圧迫されることで、脊柱管狭窄症は脊柱管(背骨の中の神経の通り道)が狭くなって脊髄や神経が圧迫されることで生じ、いずれも痛みやしびれなどが生じる。分析結果は、研究ごとに有効性の指標が大きく異なるため、短期的(治療後3カ月まで)および長期的(治療後6カ月以上)に見て、ESIを受けた患者(ESI群)において治療により良好な転帰を達成した割合がESIを受けていない対照群と比べてどの程度多いか(success rate difference;SRD)に基づき報告された。 その結果、頸部または腰部神経根症の場合、ESI群では対照群と比較して短期的に痛みが軽減した人の割合が24%(SRD −24.0%、95%信頼区間−34.9〜−12.6)、障害が軽減した人の割合が16%(同−16.0%、−26.6〜−5)多いことが示された。また長期的に見ても、ESI群では障害が軽減した人の割合が対照群より約11%多い可能性が示された(同−11.1%、−25.3〜3.6)。ただし、対象研究の多くは腰部神経根症の人が中心であり、頸部の疾患に対する治療については十分な研究がなかった。そのため、頸部の神経根症に対するESIの効果は不明であるという。 一方、脊柱管狭窄症の場合、ESI群では対照群と比較して、短期的にも長期的にも障害が軽減した人の割合が、それぞれ26%(SRD −26.2%、95%信頼区間−52.4〜3.6)と12%(同−11.8%、−26.9〜3.8)多い可能性が示唆されたが、統計学的な有意性は確認されなかった。また、短期的に痛みを軽減する効果については、統計学的に有意な差は確認されず(同−3.5%、−12.6〜5.6)、長期的に痛みを軽減する効果については、エビデンスが十分ではなく不明とされた。全ての研究が腰部脊柱管狭窄症の人を対象にしていたため、頸部脊柱管狭窄症に対するESIの効果は不明であった。 共著者の1人である、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのPushpa Narayanaswami氏は、「われわれの研究は、特定の慢性腰痛に対するESIの短期的な効果は限定的であることを裏付けている」とニュースリリースで述べている。同氏はまた、「治療を繰り返すことの有効性や、治療が日常生活や仕事復帰に及ぼす影響について検討した研究は見当たらなかった。今後の研究では、こうしたギャップを解消する必要がある」と付言している。

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AIPL1関連重度網膜ジストロフィー、アデノ随伴ウイルスベクターで視力改善/Lancet

 AIPL1関連重度網膜ジストロフィーの幼児4例において、ヒトロドプシンキナーゼプロモーター領域によって制御されるヒトAIPL1コード配列を組み込んだ組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV8.hRKp.AIPL1)の網膜下投与は、重篤な副作用を伴うことなく視力および機能的視覚を改善し、網膜変性の進行を、ある程度抑制することが認められた。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMichel Michaelides氏らが、AIPL1関連重度網膜ジストロフィーの遺伝子治療を評価するヒト初回投与試験の結果を報告した。AIPL1欠損による網膜ジストロフィーは、出生時から重度かつ急速に進行する視力障害を引き起こすが、4歳未満の小児では中心窩の視細胞が保存されており遺伝子治療が有効である可能性が示唆されていた。Lancet誌2025年2月22日号掲載の報告。1~3歳の患児4例に、rAAV8.hRKp.AIPL1を網膜下投与 研究グループは、AIPL1遺伝子の両アレルに病的遺伝子変異を有する1.0~2.8歳の重度網膜ジストロフィーの幼児を対象に、非ランダム化単群臨床試験を英国で実施した。rAAV8.hRKp.AIPL1は、英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)のSpecials Licenceの下で製造され、倫理委員会の審査承認を得たうえで患児に提供された。 各患児の片眼に、rAAV8.hRKp.AIPL1を網膜下投与するとともに、炎症による有害事象を予防するため経口プレドニゾロンを投与した。 アウトカム評価は、視力(新たに開発されたタッチスクリーンテストによる評価)、機能的視覚(患児の視覚的行動や視覚誘導課題の遂行能力を観察・記録することにより評価)、視覚誘発電位(VEP)(白黒フリッカー刺激に対する大脳皮質の電気生理学的反応の記録により評価)、網膜構造(携帯型光干渉断層撮影[OCT]および広角眼底撮影により評価)とした。 また、炎症や網膜剥離などの有害事象を確認するため、細隙灯顕微鏡検査と散瞳眼底検査を実施するとともに、視力検査、眼底検査、携帯型OCTおよび広角眼底撮影で安全性も評価した。治療眼で視力が改善 2019年7月12日~2020年3月16日に、4例が本治療の対象として選ばれた。治療前の両眼の視力は光覚弁に限られていた。 治療後平均3.5年(範囲:3.0~4.1)において、治療眼の視力は、治療前の2.7 logMAR相当から治療後は平均0.9 logMAR(範囲:0.8~1.0)まで改善した。一方、未治療眼の視力は最終追跡調査時には測定不能となった。 視力検査が可能であった2例の患児では、視力の客観的評価により視機能の改善が確認され、VEP測定により治療眼に特異的な視覚野の活動亢進が示された。また、3例の患児では、治療眼の網膜外層の層構造が未治療眼よりも良好に保持されており、4例全例で網膜厚の保持が未治療眼よりも治療眼のほうが良好と思われた。 安全性については、1例で治療眼に嚢胞様黄斑浮腫が発現したが、その他の安全性に関する懸念は認められなかった。

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世界初、遺伝子編集ブタ腎臓の異種移植は成功か/NEJM

 米国・マサチューセッツ総合病院の河合 達郎氏らは、遺伝子編集ブタ腎臓をヒトへ移植した世界初の症例について報告した。症例は、62歳男性で、2型糖尿病による末期腎不全のため69の遺伝子編集が施されたブタ腎臓が移植された。移植された腎臓は直ちに機能し、クレアチニン値は速やかに低下して透析は不要となった。しかし、腎機能は維持されていたものの、移植から52日目に、予期しない心臓突然死を来した。剖検では、重度の冠動脈疾患と心室の瘢痕化が認められたが、明らかな移植腎の拒絶反応は認められなかった。著者は、「今回の結果は、末期腎不全患者への移植アクセスを拡大するため、遺伝子編集ブタ腎臓異種移植の臨床応用を支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2025年2月7日号掲載の報告。69の遺伝子編集を組み込んだブタ腎臓を2型糖尿病による末期腎不全患者に移植 移植に用いたブタ(Yucatanミニブタ)は、3つの主要な糖鎖抗原を除去し、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を導入して過剰発現させ、ブタ内在性レトロウイルスを不活性化するなど、計69の遺伝子編集を組み込んだ。 レシピエントは、2型糖尿病による末期腎不全の62歳男性であった。心筋梗塞、副甲状腺摘出術が既往で、2018年に献腎移植を受けたが、2023年5月にBKウイルス感染および糖尿病性腎症の再発により移植腎が機能不全となり、血液透析中であった。 マサチューセッツ総合病院の集学的チームによる包括的評価と、独立した精神科医および倫理委員会による評価を経て、移植を実施した。 免疫抑制療法は、前臨床研究に基づき、抗胸腺細胞グロブリン(ウサギ)、リツキシマブ、Fc修飾抗CD154モノクローナル抗体(tegoprubart)および抗C5抗体(ラブリズマブ)、タクロリムス、ミコフェノール酸とprednisoneを併用した。移植腎は機能していたが、糖尿病性虚血性心筋症に伴う不整脈で心臓突然死 移植手術は、冷虚血時間4時間38分で終了した。移植したブタ腎臓は移植後5分以内に尿を産生し、最初の48時間で6L超に達した。その後、尿量は1日1.5~2Lで安定した。患者の血漿クレアチニン値は、術前の11.8mg/dLから術後6日目には2.2mg/dLに低下した。 術後8日目に血漿クレアチニンが2.9mg/dLに上昇し、発熱、圧痛、尿量の減少を認めたが、感染症の検査は陰性であった。抗体介在性拒絶反応が疑われたため、メチルプレドニゾロン、トシリズマブを投与した。投与前の腎生検で、急性T細胞介在性拒絶反応(Banffグレード2A)が確認された。 術後9日目および10日目にメチルプレドニゾロンおよび抗胸腺細胞グロブリンを投与し、タクロリムスとミコフェノール酸を増量し、さらに補体C3阻害薬のペグセタコプランを投与した。トシリズマブの追加投与は行わなかった。その後、患者の尿量は増加し、血漿クレアチニン値は低下した。 術後18日目、血漿クレアチニン値2.5mg/dLで退院した。34日目に再び上昇したが、水分補給により1.57mg/dLまで低下した。推算糸球体濾過量(eGFR)は40~50mL/分/1.73m2であった。 術後25日目に皮下創感染症が発生し、外科的に一部切開するとともに、抗菌薬(リネゾリド、メロペネム)の投与を開始し、排膿ドレナージを実施した。緑膿菌陽性の後腹膜貯留液が排出された。切開は37日目に閉鎖し、2週間培養陰性および腹部CTにより貯留液の消失が確認されことから、51日目にドレーンを抜去した。 術後51日目、患者は外来を受診した。水分摂取量が少なく血漿クレアチニン値が2.7mg/dLと比較的高値であったため、補液を実施した。それ以外は、うっ血性心不全の症状はなく、身体所見も腎臓超音波検査でも異常は認められなかった。血圧、心拍数、呼吸数もすべて正常であった。 しかし、夕方に突然、呼吸困難に陥り、蘇生に努めたが術後52日目に亡くなった。剖検の結果、重度のびまん性冠動脈疾患を伴う心臓肥大、びまん性左室線維化などが認められ、これらはすべて糖尿病性虚血性心筋症によるものと考えられた。急性心筋梗塞、肺塞栓症、肺炎、他の臓器の炎症または薬物毒性は認められなかったことから、重症虚血性心筋症に伴う不整脈による心臓突然死と結論付けられている。

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活動性ループス腎炎、オビヌツズマブ+標準治療の有効性を確認/NEJM

 活動性ループス腎炎の成人患者において、タイプIIのヒト化抗CD20モノクローナル抗体オビヌツズマブ+標準治療は標準治療単独と比較して、完全腎反応をもたらすのに有効であることが、米国・Northwell HealthのRichard A. Furie氏らREGENCY Trial Investigatorsが行った第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果で示された。オビヌツズマブは、標準治療を受けているループス腎炎患者を対象とした第II相試験において、プラセボと比較して有意に良好な腎反応をもたらすことが示されていた。NEJM誌オンライン版2025年2月7日号掲載の報告。76週時点の完全腎反応を評価 試験は15ヵ国で行われ、生検で活動性ループス腎炎と診断された18~75歳の成人患者を、オビヌツズマブを2種類の投与スケジュール(1,000mgを1日目、2週目、24週目、26週目、50週目、52週目に投与もしくは50週目は投与しない)のいずれかで投与する群、もしくはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。全患者は無作為化時にミコフェノール酸モフェチルと経口prednisoneによる標準治療を開始し、経口prednisoneは12週目までに7.5mg/日、24週目までに5mg/日を目標用量として投与した。 主要エンドポイントは76週時点の完全腎反応とし、尿蛋白/クレアチニン比<0.5(尿蛋白、クレアチニンともmg単位で測定)、推算糸球体濾過量(eGFR)値がベースライン値の85%以上、および中間事象(レスキュー治療、治療失敗、死亡または早期の試験中止など)がないことと定義した。 76週時の重要な副次エンドポイントには、64~76週目のprednisone投与量が7.5mg/日以下で完全腎反応を得られていたこと、尿蛋白/クレアチニン比<0.8で中間事象がないことなどが含まれた。完全腎反応はオビヌツズマブ群46.4%、プラセボ群33.1%で有意差 計271例が無作為化され、135例がオビヌツズマブ群(全投与スケジュール群)に、136例がプラセボ群に割り付けられた。ベースライン特性は両群でバランスが取れており、平均年齢(±標準偏差)はオビヌツズマブ群33.0±10.5歳、プラセボ群32.7±10.0歳、女性がそれぞれ114例(84.4%)および115例(84.6%)であった。また、ループス腎炎の初回診断時からの期間中央値は36.6ヵ月と34.3ヵ月、尿蛋白/クレアチニン比は3.14±2.99および3.53±2.76、eGFR値は102.8±29.3および101.9±32.2mL/分/1.73m2などであった。 76週時点で完全腎反応が認められた患者の割合は、オビヌツズマブ群46.4%、プラセボ群33.1%であった(補正後群間差:13.4%ポイント[95%信頼区間[CI]:2.0~24.8]、p=0.02)。 64~76週目のprednisone投与量が7.5mg/日以下で76週時点に完全腎反応が認められた被験者は、オビヌツズマブ群がプラセボ群と比較して有意に多かった(42.7%vs.30.9%、補正後群間差:11.9%ポイント[95%CI:0.6~23.2]、p=0.04)。また、尿蛋白/クレアチニン比<0.8で中間事象がなく76週時点に完全腎反応が認められた被験者は、オビヌツズマブ群がプラセボ群と比較して有意に多かった(55.5%vs.41.9%、補正後群間差:13.7%ポイント[2.0~25.4]、p=0.02)。 新たな安全性シグナルは確認されなかった。重篤な有害事象は、主として感染症およびCOVID-19関連イベントで、COVID-19関連肺炎はオビヌツズマブ群(7例)がプラセボ群(0例)と比較してより多く報告された。

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CKDを伴う関節リウマチにおけるJAK阻害薬の安全性・有効性

 虎の門病院腎センター内科・リウマチ膠原病科の吉村 祐輔氏らが慢性腎臓病(CKD)を伴う関節リウマチ(RA)患者におけるJAK阻害薬の有効性・安全性を評価し、腎機能が低下した患者における薬剤継続率を明らかにした。また、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満の患者については、帯状疱疹や深部静脈血栓症(DVT)の可能性を考慮する必要があることも示唆した。Rheumatology誌2025年1月25日号掲載の報告。 研究者らは、2013~22年にJAK阻害薬を新規処方されたRA患者216例について、多施設共同観察研究を実施。腎機能に応じたJAK阻害薬の減量ならびに禁忌については添付文書に従い、患者を腎機能とJAK阻害薬の各薬剤で分類した。主要評価項目は24ヵ月間の薬剤継続率で、副次評価項目は関節リウマチの疾患活動性評価の指標の1つであるDAS28-CRPの変化、プレドニゾロン投与量、およびJAK阻害薬の中止理由だった。 主な結果は以下のとおり。・eGFR(mL/分/1.73m2)を60以上、30~60、30未満に分類した。・eGFR分類ごとの24ヵ月薬剤継続率は、全JAK阻害薬では46.0%、44.1%、47.1%で、トファシチニブは55.9%、53.3%、66.7%だった。また、バリシチニブ*は64.2%、42.0%で、ペフィシチニブは36.4%、44.1%、40.0%であった。・腎機能が低下したグループでも、薬剤継続率は維持された(調整ハザード比:1.14、95%信頼区間:0.81~1.62、p=0.45)。・JAK阻害薬開始後6ヵ月で、患者のDAS28-CRPは低下し、プレドニゾロンの投与量も減少した。・帯状疱疹とDVTの発生率はeGFR30未満のグループで高かったものの、統計学的に有意ではなかった。・eGFR30未満は、JAK阻害薬の無効または感染による中止の危険因子ではなかった。*バリシチニブはeGFR30未満への投与は禁忌 同グループは2024年に生物学的製剤についてもCKD合併RA患者に対する安全性・有効性を報告している1)。今回のJAK阻害薬の報告とあわせて、メトトレキサートや非ステロイド性抗炎症薬の使用が制限されるCKD合併RA患者に対して、生物学的製剤、JAK阻害薬いずれもの安全性・有効性を示したことになる。

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1日1回、新規作用機序の潰瘍性大腸炎治療薬「ゼポジアカプセルスターターパック/カプセル0.92mg」【最新!DI情報】第31回

1日1回、新規作用機序の潰瘍性大腸炎治療薬「ゼポジアカプセルスターターパック/カプセル0.92mg」今回は、スフィンゴシン1-リン酸受容体調節薬「オザニモド(商品名:ゼポジアカプセルスターターパック/カプセル0.92mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、1日1回服用の新規作用機序の潰瘍性大腸炎治療薬であり、既存薬で効果不十分であった患者や利便性の向上を望む患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>中等症~重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)を適応として、2024年12月24日に製造販売承認を取得しました。本剤は、過去の治療において、ほかの薬物療法(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイドなど)で適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人にはオザニモドとして1~4日目は0.23mg、5~7日目は0.46mg、8日目以降は0.92mgを1日1回経口投与します。<安全性>重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[2.8%]、口腔ヘルペス[0.6%])など)、進行性多巣性白質脳症(頻度不明)、黄斑浮腫(0.6%)、肝機能障害(4.5%)、徐脈性不整脈(1.7%)、リンパ球減少(10.2%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)が報告されています。本剤投与による心拍数の低下は、漸増期間中に生じる可能性が高いので、循環器を専門とする医師と連携するなど適切な処置が行える管理下で投与を開始する必要があります。また、黄斑浮腫に備えて、眼底検査を含む定期的な眼科学的検査を実施する必要があります。その他の副作用は、頭痛、高血圧、γ-GTP増加、ALT増加(いずれも1%以上)、発疹や蕁麻疹を含む過敏症(1%未満)、上咽頭炎、末梢性浮腫、努力呼気量減少、努力肺活量減少(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.本剤は、中等症~重症の潰瘍性大腸炎に用いられる薬です。結腸に浸潤するリンパ球数が減少することで、潰瘍性大腸炎を改善すると考えられています。2.過去の治療において、ほかの薬物療法(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイドなど)で適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に使用されます。3.服用開始から徐々に用量を増やしていきますが、心拍数が低下することがあるので、異常を感じたら直ちに医師に連絡してください。4.服用中に重篤な眼疾患が現れることがあるので、異常を感じたら直ちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>潰瘍性大腸炎(UC)は、主として粘膜にびらんや潰瘍が生じる非特異性炎症疾患です。再燃と寛解を繰り返すことが多く、長期間の医学管理が必要となります。薬物療法には、5-アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイドが用いられますが、これらの治療薬が無効であった場合には、免疫調整薬やヤヌスキナーゼ阻害薬、抗TNF抗体製剤、抗IL-12/23抗体製剤などが使用されます。しかし、無効例や通院での注射投与が困難な場合のほか、安全性の問題などで治療薬の変更が生じる懸念もあることから、とくに中等症~重症のUC患者に対しては、既存薬と異なる新たな作用機序で、症状や粘膜損傷などの改善効果が高く、難治性に移行させない経口治療薬が求められていました。オザニモドは、1日1回の経口投与で中等症~重症のUCに効果を示します。オザニモドは、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体のサブタイプ1(S1P1)と5(S1P5)に対して高親和性で結合し、リンパ球の遊走を抑制します。これにより、循環血中のリンパ球数が減少することで、炎症性細胞のさらなる動員や炎症性サイトカインの局所的な放出を防ぎ、腸粘膜が継続的に損傷する状況を改善します。日本人の中等症~重症の活動性UC患者を対象とした国内第II/III相試験(J-True North試験)において、主要評価項目である投与12週時点の完全Mayoスコアに基づく臨床的改善率は、本剤0.92mg群で61.5%、プラセボ群で32.3%と、本剤群で統計学的に有意に高い改善が認められました(p=0.0006)。同様に、副次評価項目である投与12週時点の臨床的寛解率は、本剤群で24.6%、プラセボ群で1.5%と、本剤群で統計学的に有意に高い改善が認められました(p=0.0002)。

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副腎性クッシング症候群〔Adrenal Cushing's syndrome〕

1 疾患概要■ 定義クッシング症候群は、副腎皮質から慢性的に過剰産生されるコルチゾールにより、中心性肥満や満月様顔貌といった特徴的な臨床徴候を示し、糖・脂質代謝異常、高血圧などの合併症を伴う疾患である。手術により治癒が期待できる内分泌性高血圧症の1つである。 広義のクッシング症候群は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)依存性クッシング症候群(下垂体性のクッシング病や異所性ACTH産生腫瘍など)とACTH非依存性クッシング症候群(副腎性クッシング症候群)に大別され、本稿では副腎性クッシング症候群について解説する。■ 疫学厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班による全国実態調査では、日本全国で1年間に約50症例の副腎性クッシング症候群の発症が報告されている。CT検査などが行われる機会が増えた現在では、副腎偶発腫を契機に診断される症例が増加していると考えられる。副腎腺腫によるクッシング症候群の男女比は1: 4と女性に多く、30~40代に好発する。■ 病因副腎皮質の腺腫やがんなどにおいてコルチゾールが過剰産生される。その分子メカニズムとしてcAMP-プロテインキナーゼA(protein kinase A:PKA)経路およびWNT-βカテニンシグナル経路の異常が示されている。顕性クッシング症候群を生じる症例の約85%で症例の副腎皮質腺腫において、PKAの触媒サブユニットをコードするPRKACA(protein kinase A catalytic subunit α)遺伝子、およびアデニル酸シクラーゼを活性化することによりcAMP産生に関わるタンパク質をコードするGNAS(α subunit of the stimulatory G protein)遺伝子、WNTシグナル伝達経路の細胞内シグナル伝達因子であるβカテニンをコードするCTNNB1(β catenin)遺伝子の変異を認めることが報告されている。■ 症状クッシング症候群に特異的な症状として、中心性肥満(顔、頸部、体幹のみの肥満)、満月様顔貌、鎖骨上および肩甲骨上部の脂肪沈着(野牛肩:buffalo hump)、皮膚の菲薄化、皮下溢血、赤色皮膚線条、近位筋萎縮による筋力低下があり「クッシング徴候」と言う。その他、耐糖能異常、高血圧、脂質異常症や性腺機能低下症、骨粗鬆症、精神障害、ざ瘡、多毛を認めることもある。■ 分類副腎腫瘍によるもの、副腎結節性過形成によるものに大別される。副腎腫瘍には副腎皮質腺腫、副腎皮質がんがあり、副腎結節性過形成にはACTH非依存性大結節性過形成(primary bilateral macronodular adrenal hyperplasia:PBMAH)、原発性色素性結節状副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD)が含まれる。顕性クッシング症候群のうちPBMAH、PPNADの頻度は併せて5.8%とまれである。また、クッシング徴候を欠くがコルチゾール自律分泌を認める症例を「サブクリニカルクッシング症候群」と言う。■ 予後副腎皮質腺腫によるクッシング症候群は、治療によりコルチゾールを正常化できた症例では同年代とほぼ同程度の予後が期待できる。治療しなければ、感染症や心血管疾患のリスクが増加し、予後に影響することが示されており、早期発見、治療が重要である。一方、副腎皮質がんはきわめて悪性度が高く、急速に進行し、肝臓や肺などへの遠隔転移を認めることも多く予後不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)クッシング徴候や副腎偶発腫、また、治療抵抗性の糖尿病、高血圧、年齢不相応の骨粗鬆症を認めた際は、クッシング症候群を疑い精査を行う。まず、病歴、服薬状況の問診によりステロイド投与による医原性クッシング症候群を除外し、血中コルチゾール濃度に影響を及ぼす薬剤(表)の使用を確認する。表 クッシング症候群の診断に影響する可能性がある薬剤(左側は一般名、右側は商品名)画像を拡大する血中コルチゾール濃度は視床下部から分泌されるCRHの調節により早朝に高値になり、夜間には低値になる日内変動を示す。クッシング症候群ではCRHの調節を受けないため、コルチゾールの日内変動は消失し、デキサメタゾン内服により抑制されない。そのため、24時間尿中遊離コルチゾール高値、デキサメタゾン1mg抑制試験で翌朝血清コルチゾール値≧5μg/dL、夜間血清コルチゾール濃度≧5μg/dLのうち、2つ以上あればクッシング症候群と診断する。さらに早朝の血漿ACTH濃度を測定し、測定感度以下(<5μg/mL)に抑制されていれば副腎性クッシング症候群と診断する。図に診断のアルゴリズムを示す。図 クッシング症候群の診断アルゴリズム画像を拡大するただし、うつ病、慢性アルコール依存症、神経性やせ症、グルココルチコイド抵抗症、妊娠後期などでは視床下部からのCRH分泌増加による高コルチゾール血症(偽性クッシング症候群)を呈することがあり、抗てんかん薬内服ではデキサメタゾン抑制試験で偽陽性を示すことがあるため、注意が必要である。副腎腫瘍の有無の検索のため腹部CT検査を行う。副腎皮質腺腫は脂肪成分が多いため、単純CT検査で辺縁整、内部均一な10HU未満の低吸収値を認める。直径4cm以上で境界不明瞭、内部が出血や壊死で不均一な腫瘍の場合は副腎皮質がんを疑い、MRIやFDG-PETなどさらなる精査を行う。PBMAHでは著明な両側副腎の結節性腫大を認め、PPNADでは副腎に明らかな腫大や腫瘍を認めない。コルチゾールの過剰産生の局在診断のため131I-アドステロール副腎皮質シンチグラフィを行う。片側性副腎皮質腺腫によるクッシング症候群では、健側副腎に集積抑制を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)副腎皮質腺腫では腹腔鏡下副腎摘出術を施行することで根治が期待できる。術後、対側副腎によるコルチゾール分泌の回復までに6ヵ月~1年を要するため、その間は経口でのグルココルチコイド補充を行う。手術困難な症例や、片側副腎摘出術後の再発例、著明な高コルチゾール血症による糖代謝異常や精神異常、易感染性のため術前に早急なコルチゾールの是正が必要な症例に対しては、副腎皮質ステロイドホルモン合成阻害薬であるメチラポン(商品名:メトピロン)、トリロスタン(同:デソパン)、ミトタン(同:オペプリム)が投与可能である。11β-水酸化酵素阻害薬であるメチラポンは可逆性で即効性があることから最もよく用いられている。副腎皮質がんでは開腹による腫瘍の完全摘出が第1選択であり、術後アジュバント療法として、または手術不能例や再発例に対しては症状軽減のためミトタンを投与する。ミトタンは約25~30%の奏効率とされているが、副作用も少なくないため有効血中濃度を維持できない症例も多い。PBMAHでは、症状が軽微な症例や腫大副腎の左右差もあり、合併症などを考慮して症例ごとに片側あるいは両側副腎摘出術や薬物療法による治療方針を決定する。一部の症例でみられる異所性受容体に対する阻害薬が有効な場合もあるが、長期使用による成績は報告されていない。PPNADでは、顕性クッシング症候群を発症することが多いため、両側副腎全摘が第1選択となる。サブクリニカルクッシング症候群では、副腎腫瘍のサイズや増大傾向、合併症を考慮して症例ごとに経過観察または片側副腎摘出術を検討する。4 今後の展望唾液コルチゾール濃度は、外来での反復検査が可能で、遊離コルチゾール濃度との相関が高いことが知られており、欧米では、夜間の唾液コルチゾール濃度がスクリーニングの初期検査として推奨されているが、わが国ではまだ保険適用ではなくカットオフ値の検討が行われておらず、今後の課題である。また、2021年3月に11β-水酸化酵素阻害薬であるオシロドロスタット(同:イスツリサ)の使用がわが国で承認された。メチラポンと比べて服用回数が少なく、多くの症例で迅速かつ持続的にコルチゾールの正常化が得られるとされており、長期使用成績の報告が待たれる。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生省特定疾患副腎ホルモン産生異常症調査研究班 副腎ホルモン産生異常に関する調査研究(医療従事者向けのまとまった情報)1)出村博ほか. 厚生省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査研究班 平成7年研究報告書. 1996;236-240.2)Lacroix A, et al. Lancet. 2015;386:913-927.3)Yusuke S, et al.Science. 2014;344:917-920.4)Rege J, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107:e594-e603.5)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.182-187.6)Nieman Lk, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93:1526-1540.公開履歴初回2025年1月23日

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添付文書改訂:SGLT2阻害薬にケトアシドーシス注意喚起/レキサルティにアルツハイマー型認知症に伴う焦燥感など追加【最新!DI情報】第30回

SGLT2阻害薬<対象薬剤>選択的SGLT2阻害薬(商品名:スーグラ錠、ジャディアンス錠、カナグル錠/OD錠、フォシーガ錠、デベルザ錠、ルセフィ錠/ODフィルム)<改訂年月>2024年12月<改訂項目>[追加]重要な基本的注意本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと。<ここがポイント!>SGLT2阻害薬全般において、重要な基本的注意に「投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関する注意喚起」が追記されました。国内において、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積されています※。改訂前にも、SGLT2阻害薬の使用上の注意としてケトアシドーシスに関連する注意喚起がなされていましたが、遷延に関する事象は予測できないことから、今回追記が行われました。※投与中止後3日以上遷延するケトアシドーシスとして承認取得者ごとの基準により抽出された症例レキサルティ錠<対象薬剤>ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ錠1mg/2mg、OD錠0.5mg/1mg/2mg、製造販売元:大塚製薬)<改訂年月>2024年9月<改訂項目>[追加]効能・効果アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動[追加]用法・用量通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回0.5mgから投与を開始した後、1週間以上の間隔をあけて増量し、1日1回1mgを経口投与する。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日1回2mgに増量することができるが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと。[追加]効能・効果に関連する注意高齢認知症患者への抗精神病薬投与により死亡リスクが増加するとの海外報告がある。また、本剤の国内プラセボ対照試験において、治験薬投与との関連性は明らかではないが死亡例が本剤群のみで報告されている。本剤の投与にあたっては上記リスクを十分に考慮し、臨床試験における有効性及び安全性の結果等を熟知した上で、慎重に患者を選択すること。また、本剤投与中は患者の状態を注意深く観察すること。<ここがポイント!>本剤は2018年1月に「総合失調症」の効能で製造販売承認を取得し、2023年12月には「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」の効能が追加されました。さらに、2024年9月には「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動または攻撃的言動」の効能も国内において初めて追加されました。アルツハイマー型認知症の約半数の患者に過活動や攻撃的言動が認められ、これにより家族・介護者の負担が増大し、生活の質が低下します。本適応の追加により、アルツハイマー型認知症の患者と介護者の双方にとって、重要な転換点となることが期待されます。ヌーカラ皮下注<対象薬剤>メポリズマブ(遺伝子組換え)製剤(商品名:ヌーカラ皮下注100mgペン/シリンジ、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)<改訂年月>2024年8月<改訂項目>[追加]効能・効果鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)[追加]用法・用量通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回100mgを4週間ごとに皮下に注射する。[追加]効能・効果に関連する注意本剤は全身性ステロイド薬、手術等ではコントロールが不十分な患者に用いること。<ここがポイント!>100mgペンおよび100mgシリンジの適応症は、これまで「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)」および「既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」でしたが、2024年8月に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」※が追加されました。鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の患者では、鼻閉や嗅覚消失、顔面圧迫、睡眠障害、鼻汁などの症状がみられ、身体的・精神的負担が大きい疾患です。治療はステロイド薬や内視鏡下副鼻腔手術などが行われていますが、再発が多く、長期間のコントロールも困難です。本剤の適応追加によって、手術や全身ステロイドに代わる新たな治療選択肢が増えました。※最適使用推進ガイドライン対象レボレード錠<対象薬剤>エルトロンボパグ オラミン(商品名:レボレード錠12.5mg/25mg、製造販売元:ノバルティスファーマ)<改訂年月>2024年11月<改訂項目>[追加]用法・用量(小児患者に対する追加)<慢性特発性血小板減少性紫斑病>通常、成人及び1歳以上の小児には、エルトロンボパグとして初回投与量12.5mgを1日1回、食事の前後2時間を避けて空腹時に経口投与する。なお、血小板数、症状に応じて適宜増減する。また、1日最大投与量は50mgとする。[追加]効能・効果に関連する注意診療ガイドライン等の最新の情報を参考に、本剤の投与が適切と判断される患者に使用すること。<ここがポイント!>慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の小児患者は多くが自然寛解しますが、重症化すると脳出血などの重篤かつ致死的な出血症状を引き起こすことがあります。本剤は海外では1歳以上の患者に使用が承認されていましたが、国内では成人のみに使用できる状況でした。しかし、国内の診療ガイドラインでは、副腎皮質ステロイド治療などに効果が不十分な小児患者の2次治療として本剤が推奨されています。このため、日本小児血液・がん学会から要望書が提出され、小児患者(1歳以上)に対する用法・用量の追加の公知申請※が行われました。この効能追加によって、ガイドラインで推奨される治療を添付文書上の適応症に沿って実施できるようになりました。※公知申請:医薬品(効能追加など)の承認申請において、その有効性や安全性が医学的に公知であるとして、臨床試験の全部または一部を新たに実施することなく承認申請を行うことができる制度

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「クリスマス咳嗽」の理由【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第271回

「クリスマス咳嗽」の理由クリスマスの時期になると、呼吸器内科では喘息や気管支炎の増悪で来院する人が多くなります。年末年始にかけて受診できないと困りますので、早めの軽症の状態で受診しようという理由もあるでしょうが。今日紹介するのは、まさにクリスマス咳嗽の典型ともいえる症例。Carsin A, et al.When Christmas decoration goes hand in hand with bronchial aspiration…Respir Med Case Rep. 2017 Sep 29;22:266-267.2歳2ヵ月の女児が、クリスマスの2日前に、急性の咳嗽と喘鳴を起こしました。かかりつけ医を受診したところ、両側に喘鳴があることを発見し、既往歴として喘息があったことも踏まえ、喘息の急性増悪として対応しました。吸入サルブタモールと経口プレドニゾロンで治療を行いました。しかし、治療開始3週間後も、臨床状態は変わらずの状態。ほかに何か原因があるのではないかと疑い、胸部単純X線検査が行われました。すると、なんと、左主気管支に異物が存在していました。「これは…アレだよね?」というのは誰しもわかるX線写真です。これは…LED電球です!両親によると、そういえばクリスマスツリーの装飾に使っていたLED電球が1つなくなっていたそうです。なんと、女児はLED電球を誤嚥していたのです。―――というわけで、全身麻酔のもと、気管支鏡によってLEDは無事除去されました。クリスマスの時期に誤嚥を起こすと、時期的にも喘息や気管支炎と誤診されやすいので注意が必要、と当該論文の著者は述べています。とくに今回は、喘息の既往があったため、初期治療として吸入β2刺激薬と経口ステロイドが処方されてしまいました。確かにLEDは小さいので、誤嚥しやすいと思います。中国でも右主気管支にLEDを誤嚥した事例が報告されています1)。皆さんも、お子さんのクリスマス咳嗽にはご注意を!1)Lau CT, et al. A light bulb moment: an unusual cause of foreign body aspiration in children. BMJ Case Rep. 2015:2015:bcr2015211452.

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限局性強皮症〔Localized scleroderma/morphea〕

1 疾患概要限局した領域の皮膚およびその下床の組織(皮下脂肪、筋、腱、骨など)の免疫学的異常を基盤とした損傷とそれに続発する線維化を特徴とする疾患である。血管障害と内臓病変を欠く点で全身性強皮症とは明確に区別される。■ 疫学わが国における有病率、性差、好発年齢などは現時点では不明だが、2020~2022年にかけて厚生労働省強皮症研究班により小児期発症例を対象とした全国調査が行われた。今後疫学データが明らかとなることが期待される。■ 病因体細胞モザイクによる変異遺伝子を有する細胞が、何らかの誘因で非自己として認識されるようになり、自己免疫による組織傷害が生じると考えられている。事実、外傷やワクチン接種など、免疫の賦活化が誘因となる場合があり、自己抗体は高頻度に陽性となる。病変の分布はブラシュコ線(図1)に沿うなど、体細胞モザイクで生じる皮疹の分布(図2)に合致する。頭頸部の限局性強皮症(剣創状強皮症[後述]を含む)は皮膚、皮下組織、末梢神経(視覚、聴覚を含む)、骨格筋、骨、軟骨、脳実質を系統的に侵す疾患だが、頭頸部ではさまざまな組織形成に神経堤細胞が深く関与しているためと考えられている(図3)。図1 ブラシュコ線1つのブラシュコ線は、外胚葉原基の隆起である原始線条に沿って分布する1つの前駆細胞に由来する。前駆細胞にDNAの軽微な体細胞突然変異が生じた場合、その前駆細胞に由来するブラシュコ線は、他のブラシュコ線と遺伝子レベルで異なることになり、モザイクが生じる。我々の体はブラシュコ線によって区分される体細胞モザイクの状態となっているが、通常はその発現型の差異は非常に軽微であり、免疫担当細胞によって異物とは認識されない。一方、外傷などを契機にその軽微な差異が異物として認識されると、ブラシュコ線を単位として組織傷害が生じ、萎縮や線維化に至る。(Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.より引用)図2 体細胞モザイクによる皮疹の分布のパターンType 1alines of Blaschko, narrow bandsType 1blines of Blaschko, broad bandsType 2checkerboard patternType 3leaf-like patternType 4patchy pattern without midline separationType 5lateralization pattern.(Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.より引用)図3 神経堤細胞と剣創状強皮症の病態メカニズム画像を拡大する神経堤は、脊椎動物の発生初期に表皮外胚葉と神経板の間に一時的に形成される構造であり、さまざまな組織に移動して、その形成に重要な役割を果たす。体幹部神経堤は、主に神経細胞と色素細胞に分化するが、頭部神経堤は顔面域や鰓弓に集まり、頭頸部の骨、軟骨、末梢神経、骨格筋、結合組織などに分化する。頭部神経堤が多様な組織の形成に関与している点に鑑みると、神経堤前駆細胞に遺伝子変異が生じた場合、その異常は脳神経細胞やブラシュコ線に沿った多様な組織に分布することになる。この仮説に基づけば、剣創状強皮症は皮膚、皮下組織、末梢神経、骨格筋、骨、軟骨、脳実質に系統的に影響を及ぼし、症例によって多様な症状の組み合わせが出現すると考えられる。たとえば、皮膚病変のみの症例、骨格筋の萎縮や骨の変形を伴う症例、脳実質病変を伴う症例などが存在する。なお、これらの組織に共通する遺伝子変異の存在は現時点では確認されていない。■ 症状個々の皮疹の形状は類円形や線状など多様性があり、広がりや深達度もさまざまである。典型例では「境界明瞭な皮膚硬化」を特徴とするが、色素沈着や色素脱失あるいは萎縮のみで硬化がはっきりしない病変、皮膚の変化はないが脂肪の萎縮のみを認める病変や下床の筋・骨の炎症や破壊のみを認める病変など、極めて多彩な臨床像を呈する。病変が深部に及ぶ場合、患肢の萎縮・拘縮、骨髄炎、顔面の変形、筋痙攣、小児では患肢の発育障害、頭部では永久脱毛斑・脳波異常・てんかん・眼合併症(ぶどう膜炎など)・聴覚障害・歯牙異常などが生じうる。しばしば他の自己免疫疾患を合併し、リウマチ因子陽性の場合や“generalized morphea”[後述]では関節炎・関節痛を伴う頻度が高い。抗リン脂質抗体が約30%で陽性となり、血栓症を合併しうる。■ 分類現在、欧州小児リウマチ学会が提案した“Padua consensus classification”が世界的に最も汎用されている。“circumscribed morphea” (斑状強皮症)、“linear scleroderma” (線状強皮症)、“generalized morphea”(汎発型限局性強皮症)、“pansclerotic morphea”、“mixed morphea”の5病型に分類される。Circumscribed morpheaでは、通常は1~数個の境界明瞭な局面が躯幹・四肢に散在性に生じる。Linear sclerodermaでは、ブラシュコ線に沿った線状あるいは帯状の硬化局面を呈し、しばしば下床の筋肉や骨にも病変が及ぶ。剣傷状強皮症は、前額部から頭部のブラシュコ線に沿って生じた亜型で、瘢痕性脱毛を伴う。Generalized morpheaでは、これらのすべてのタイプの皮疹が全身に多発する。一般に「直径3cm以上の皮疹が4つ以上あり(皮疹のタイプは斑状型でも線状型のどちらでもよい)、かつ体を7つの領域(頭頸部・右上肢・左上肢・右下肢・左下肢・体幹前面・体幹後面)に分類したとき、皮疹が2つ以上の領域に分布している」と定義される。Pansclerotic morpheaでは、躯幹・四肢に皮膚硬化が出現し、進行性に頭頸部も含めた全身の皮膚が侵され、関節の拘縮、変形、潰瘍、石灰化を来す。既述の4病型のうち2つ以上の病型が共存するものがmixed morpheaである。■ 予後内臓病変を伴わないため生命予後は良好である。一方、整容面の問題や機能障害を伴う場合は、QOLやADLが障害される。一般に3~5年で約50%の症例では、疾患活動性がなくなるが、長期間寛解を維持した後に再燃する場合もあり、とくに小児期発症のlinear sclerodermaでは再燃率が高く、長期間にわたり注意深く経過をフォローする必要がある。数十年間にわたり改善・再燃を繰り返しながら、断続的に組織傷害が蓄積し、全経過を俯瞰すると階段状に症状が悪化していく症例もある。疾患活動性がなくなると皮疹の拡大は止まり、皮膚硬化は自然に改善するが、皮膚およびその下床の組織の萎縮や機能障害(関節変形や拘縮)は残存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診療ガイドライン1)に記載されている診断基準は以下の通りである。(1)境界明瞭な皮膚硬化局面がある(2)病理組織学的に真皮の膠原線維の膨化・増生がある(3)全身性強皮症、好酸球性筋膜炎、硬化性萎縮性苔癬、ケロイド、(肥厚性)瘢痕、硬化性脂肪織炎を除外できる(ただし、合併している場合を除く)の3項目をすべて満たす場合に本症と診断する。なお、この診断基準は典型例を抽出する目的で作成されており、非典型例や早期例の診断では無力である。診断のために皮膚生検を行うが、典型的な病理組織像が得られないからといって本症を否定してはならない。診断の際に最も重要な点は、「体細胞モザイクを標的とした自己免疫」という本症の本質的な病態を臨床像から想定できるかどうか、という点である。抗核抗体は陽性例が多く、抗一本鎖DNA抗体が陽性の場合は、多くの症例で抗体価が疾患活動性および関節拘縮と筋病変の重症度と相関し、治療効果を反映して抗体価が下がる。病変の深達度を評価するため、頭部ではCT、MRI、脳波検査、四肢や関節周囲では造影MRIなどの画像検査を行う。頭頸部に病変がある場合は、眼科的・顎歯科的診察が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の一般方針は以下の通りである1)。(1)活動性の高い皮疹に対しては、局所療法として副腎皮質ステロイド外用薬・タクロリムス外用薬・光線療法などを行う。(2)皮疹の活動性が関節周囲・小児の四肢・顔面にある場合で、関節拘縮・成長障害・顔面の変形がすでにあるか将来生じる可能性がある場合は、副腎皮質ステロイド薬の内服(成人でプレドニゾロン換算20mg/日、必要に応じてパルス療法や免疫抑制薬を併用)を行う。(3)顔面の変形・四肢の拘縮や変形に対して、皮疹の活動性が消失している場合には形成外科的・整形外科的手術を考慮する。なお、2019年にSHARE(Single Hub and Access point for paediatric Rheumatology in Europe)から小児期発症例のマネージメントに関する16の提言と治療に関する6の提言が発表されている2)。全身療法に関連した重要な4つの提言は以下の通りである。(1)活動性がある炎症期には、ステロイド全身療法が有用である可能性があり、ステロイド開始時にメトトレキサート(MTX)あるいは他の抗リウマチ薬(DMARD)を開始すべきである。(2)活動性があり、変形や機能障害を来す可能性のあるすべての患者はMTX15mg/m2/週(経口あるいは皮下注射)による治療を受けるべきである。(3)許容できる臨床的改善が得られたら、MTXは少なくとも12ヵ月間は減量せずに継続すべきである。(4)重症例、MTX抵抗性、MTXに忍容性のない患者に対して、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の投与は許容される。わが国の診療ガイドラインにおいても基本的な治療の考え方は同様であり、疾患活動性を抑えるための治療はステロイドおよび免疫抑制薬(外用と内服)が軸となり、活動性のない完成した病変による機能障害や整容的問題に対しては理学療法や美容外科的治療が軸となる。4 今後の展望トシリズマブとアバタセプトについてはpansclerotic morpheaやlinear scleroderma、脳病変やぶどう膜炎を伴う剣創状強皮症など、重症例を中心に症例報告や症例集積研究が蓄積されてきており、有力な新規治療として注目されている3)。ヒドロキシクロロキンについては、メイヨークリニックから1996~2013年に6ヵ月以上投与を受けたLSc患者84例を対象とした後方視的研究の結果が報告されているが、完全寛解が36例(42.9%)、50%以上の部分寛解が32例(38.1%)と良好な結果が得られたとされている(治療効果発現までに要した時間:中央値4.0ヵ月(範囲:1~14ヵ月)、治療効果最大までに要した時間:中央値12.0ヵ月(範囲:3~36ヵ月)、HCQ中止後あるいは減量後の再発率:30.6%)。JAK阻害薬については、トファチニブとバリシチニブが有効であった症例が数例報告されている。いずれも現時点では高いエビデンスはなく、今後質の高いエビデンスが蓄積されることが期待されている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 限局性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)浅野 善英、ほか. 限局性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン委員会. 限局性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:2039-2067.2)Zulian F, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1019-1024.3)Ulc E, et al. J Clin Med. 2021;10:4517.4)Kouzak SS, et al. An Bras Dermatol. 2013;88:507-517.公開履歴初回2024年12月12日

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喘息やCOPDの増悪に対する新たな治療法とは?

 英国、バンベリー在住のGeoffrey Pointingさん(77歳)は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪がもたらす苦痛を表現するのは難しいと話す。「正直なところ、増悪が起きているときは息をすることさえ困難で、どのように感じるのかを他人に伝えるのはかなり難しい」とPointingさんはニュースリリースの中で述べている。しかし、既存の注射薬により、こうした喘息やCOPDの増悪の恐ろしさを緩和できる可能性のあることが、新たな臨床試験で示された。「The Lancet Respiratory Medicine」に11月27日掲載された同試験では、咳や喘鳴、息苦しさ、痰などの呼吸器症状の軽減という点において、モノクローナル抗体のベンラリズマブがステロイド薬プレドニゾロンよりも優れていることが明らかになった。論文の上席著者である英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)呼吸器科のMona Bafadhel氏は、「この薬は、喘息やCOPDの患者にとってゲームチェンジャーになる可能性がある」と期待を示している。 ベンラリズマブは、肺の炎症を促す好酸球と呼ばれる特定の白血球を標的としている。米食品医薬品局(FDA)は2017年、同薬を重症喘息の管理を目的とした薬として承認している。研究グループによると、好酸球性増悪は、COPDの急性増悪の最大30%、喘息発作の約50%を占めているという。このようなエピソードでは、肺内で好酸球を含む白血球が急増し、喘鳴、咳、胸部の圧迫感を引き起こす。このことを踏まえてBafadhel氏らは今回の臨床試験で、喘息とCOPDの発作に対するベンラリズマブの有効性を評価した。 対象とされた158人の喘息またはCOPD患者(平均年齢57歳、男性46%)は、急性増悪時(好酸球数が300cells/μL以上)に、以下の3群にランダムに割り付けられた。1)プレドニゾロン30mgを1日1回、5日間経口投与し、ベンラリズマブ100mgを1回皮下注射する群(ベンラリズマブ+プレドニゾロン群、52人)、2)プラセボを1日1回、5日間経口投与し、ベンラリズマブ100mgを1回皮下注射する群(ベンラリズマブ群、53人)、3)プレドニゾロン30mgを1日1回、5日間経口投与し、プラセボを1回皮下注射する群(プレドニゾロン群、53人)。 その結果、90日後の治療失敗率は、プレドニゾロン群で74%(39/53人)、ベンラリズマブ群とベンラリズマブ+プレドニゾロン群を合わせた群(統合ベンラリズマブ群)で45%(47/105人)であり、統計学的に統合ベンラリズマブ群はプレドニゾロン群よりも治療失敗率が有意に低いことが示された(オッズ比0.26、95%信頼区間0.13〜0.56、P=0.0005)。また、28日目に症状をVAS(視覚的アナログスケール)で評価したところ、統合ベンラリズマブ群がプレドニゾロン群よりも49mm(95%信頼区間14〜84mm、P=0.0065)高い改善を示し、ベンラリズマブの方が症状の改善に効果的であることが示された。いずれの群でも致死的な有害事象は発生せず、ベンラリズマブの忍容性は良好であることも確認された。 これらの結果を受けて研究グループは、「すでに喘息の治療薬として承認されている薬が、喘息やCOPDの増悪を抑える手段としてステロイド薬に代わるものとなる可能性がある」との見方を示している。 この臨床試験に参加したPointingさんは、ベンラリズマブは「素晴らしい薬」であると言う。「ステロイド薬の錠剤を使用していたときには副作用があり、初日の夜はよく眠れなかったが、今回の臨床試験では初日の夜から眠ることができ、何の問題もなく自分の生活を続けることができた」とPointingさんは振り返っている。 今回の臨床試験では、医療従事者がベンラリズマブの皮下注射を行ったが、家庭や診療所でも安全に投与できる可能性があるとBafadhel氏らは話している。なお、本試験はベンラリズマブを製造するAstraZeneca社の助成を受けて行われた。

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」【最新!DI情報】第27回

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」今回は、カルシニューリン阻害薬「ボクロスポリン(商品名:ルプキネスカプセル7.9mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は、ループス腎炎に対する治療薬として承認された新規のカルシニューリン阻害薬であり、免疫抑制作用により予後が改善することが期待されています。<効能・効果>ループス腎炎の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤投与により腎機能が悪化する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2以下の患者では投与の必要性を慎重に判断し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では可能な限り投与を避けます。<用法・用量>通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルを併用します。<安全性>重大な副作用には、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染症(1.1%)を含む重篤な感染症(10.1%)があり、致死的な経過をたどることがあります。また、急性腎障害(3.4%)が生じることがあるため、重度の腎機能障害患者への投与は可能な限り避けるようにし、中等度の腎機能障害患者には投与量の減量を行います。その他の副作用は、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(いずれも10%以上)、インフルエンザ、帯状疱疹、高カリウム血症、食欲減退、痙攣発作、振戦、悪心、歯肉増殖、消化不良、脱毛症、多毛症(いずれも10%未満)があります。本剤は、主としてCYP3A4により代謝されるため、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(アゾール系抗真菌薬やリトナビル含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤など)との併用は禁忌です。また、P糖蛋白の基質であるとともに、P糖蛋白、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1およびOATP1B3への阻害作用を有するので、ジゴキシンやシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用には注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ループス腎炎の治療薬であり、体内の免疫反応を抑制します。2.飲み始めは原則としてステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルと併用します。3.この薬は、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。4.この薬を使用中に、感染症の症状(発熱、寒気、体がだるいなど)が生じたときは、ただちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で生じる腎機能障害です。この疾患は、尿蛋白や尿潜血を伴い、ネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎症候群を引き起こすことがあります。治療は、急性期の寛解導入療法と慢性期の寛解維持療法があり、急性期の寛解導入療法には強力な免疫抑制療法を実施し、尿蛋白や尿沈査、腎機能の正常化を目指します。治療薬はグルココルチコイド(GC)に加えてミコフェノール酸モフェチル(MMF)またはシクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)の併用投与が推奨されています。ボクロスポリンは、ループス腎炎の治療薬として開発された新規の経口免疫抑制薬です。最近の研究では、MMFとの併用療法がMMF単独療法に比べて、より有効であることが示されています。ボクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用を発揮します。ボクロスポリンの投与開始時は、原則として、GCおよびMMFを併用します。ループス腎炎患者を対象とした国際共同第III相試験(AURORA1試験)では、主要評価項目である投与開始52週時点の完全腎奏効患者の割合は、本剤群の40.8%に対してプラセボ群は22.5%と有意な差が認められました(p<0.001、ロジスティック回帰モデル)。なお、本剤群およびプラセボ群ともに、MMFとGCが併用されていました。

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急速進行性糸球体腎炎〔RPGN:Rapidly progressive glomerulonephritis〕

1 疾患概要■ 定義急速進行性糸球体腎炎(Rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、数週~数ヵ月の経過で急性あるいは潜在性に発症し、血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、貧血を伴い、急速に腎機能障害が進行する腎炎症候群である。病理学的には、多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性(管外増殖性)壊死性糸球体腎炎(crescentic[extracapillary]and necrotic glomerulonephritis)が典型像である。■ 疫学わが国のRPGN患者数の新規受療者は約2,700~2,900人と推計され1)、日本腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の登録では、2007~2022年の腎生検登録症例のうちRPGNは年度毎にわずかな差があるものの5.4~9.6%(平均7.4%)で近年増加傾向にある2)。また、日本透析医学会が実施している慢性透析導入患者数の検討によると、わが国でRPGNを原疾患とする透析導入患者数は1994年の145人から2022年には604人に約5倍に増加しており、5番目に多い透析導入原疾患である3)。RPGNは、すべての年代で発症するが、近年増加が著しいのは、高齢者のMPO-ANCA陽性RPGN症例であり、最も症例数の多いANCA関連RPGNの治療開始時の平均年令は1990年代の60歳代、2000年代には65歳代となり、2010年以降70歳代まで上昇している6)。男女比では若干女性に多い。■ 病因本症は腎糸球体の基底膜やメサンギウム基質といった細胞外基質の壊死により始まり、糸球体係蹄壁すなわち、毛細血管壁の破綻により形成される半月体が主病変である。破綻した糸球体係締壁からボウマン腔内に析出したフィブリンは、さらなるマクロファージのボウマン腔内への浸潤とマクロファージの増殖を来す。この管外増殖性変化により半月体形成が生じる。細胞性半月体はボウマン腔に2層以上の細胞層が形成されるものと定義される。細胞性半月体は可逆的変化とされているが、適切な治療を行わないと、非可逆的な線維細胞性半月体から線維性半月体へと変貌を遂げる4)。このような糸球体係蹄壁上の炎症の原因には、糸球体係締壁を構成するIV型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインを標的とする自己抗体である抗糸球体基底膜(GBM)抗体によって発症する抗GBM抗体病、好中球の細胞質に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するもの、糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の沈着により発症する免疫複合体型の3病型が知られている。■ 症状糸球体腎炎症候群の中でも最も強い炎症を伴う疾患で、全身性の炎症に伴う自覚症状が出現する。全身倦怠感(73.6%)、発熱(51.2%)、食思不振(60.2%)、上気道炎症状(33.5%)、関節痛(18.7%)、悪心(29.0%)、体重減少(33.5%)などの非特異的症状が大半であるが5)、潜伏性に発症し、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。また、腎症候として多いものは浮腫(51.2%)、肉眼的血尿(14.1%)、乏尿(16.4%)、ネフローゼ症候群(17.8%)、急性腎炎症候群(18.5%)、尿毒症(15.8%)5)などである。肺病変、とくに間質性肺炎の合併(24.5%)がある場合、下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する。■ 分類半月体形成を認める糸球体の蛍光抗体法所見から、(1)糸球体係蹄壁に免疫グロブリン(多くはIgG)の線状沈着を認める抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)抗体型、(2)糸球体に免疫グロブリンなどの沈着を認めないpauci-immune型、(3)糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の顆粒状の沈着を認める免疫複合体型の3型に分類される。さらに、血清マーカー、症候や病因を加味しての病型分類が可能で、抗GBM抗体病は肺出血を合併する場合にはグッドパスチャー症候群、腎病変に限局する場合には抗GBM腎炎、pauici-immune型は全身の各諸臓器の炎症を併発する全身性血管炎に対し、腎臓のみに症候を持つ腎限局型血管炎(Renal limited vasculitis)とする分類もある。このpauci-immune型の大半は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophi cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性であり、近年ではこれらを総称してANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)と呼ばれる。ANCAには、そのサブクラスにより核周囲型(peri-nuclear)(MPO)-ANCAと細胞質型(Cytoplasmic)(PR3)-ANCAに分類される。■ 予後RPGNは、糸球体腎炎症候群の中で腎予後、生命予後とも最も予後不良である。しかしながら、わが国のRPGNの予後は近年改善傾向にあり、治療開始からの6ヵ月間の生存率については1989~1998年で79.2%、1999~2001年で80.1%、2002~2008年で86.1%、2009~2011年で88.5%、2012~2015年で89.7%、2016~2019年で89.6%と患者の高齢化が進んだものの短期生命予後は改善している。6ヵ月時点での腎生存率は1989~1998年で73.3%、1999~2001年で81.3%、2002~2008年で81.8%、2009~2011年で78.7%、2012~2015年で80.4%、2016~2019年で81.4%であり、腎障害軽度で治療開始した患者の腎予後は改善したものの、治療開始時血清クレアチニン3mg/dL以上の高度腎障害となっていた患者の腎予後については、改善を認めていない6)。また、脳血管障害や間質性肺炎などの腎以外の血管炎症候の中では、肺合併症を伴う症例の生命予後が不良であることがわかっている。感染症による死亡例が多いため、免疫抑制薬などの治療を控えるなどされてきたが、腎予後改善のためにさらなる工夫が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)RPGNは、早期発見による早期治療開始が予後を大きく左右する。したがって、RPGNを疑い、本症の確定診断、治療方針決定のための病型診断の3段階の診断を速やかに行う必要がある。■ 早期診断指針(1)血尿、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、(2)GFRが60mL/分/1.73m2未満、(3)CRP高値や赤沈亢進を認める、の3つの検査所見を同時に認めた場合、RPGNを疑い、腎生検などの腎専門診療の可能な施設へ紹介する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。また、腎機能が正常範囲内であっても、腎炎性尿所見と同時に、3ヵ月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合にはRPGNを疑い、専門医への紹介を勧める。新たに出現した尿異常の場合、RPGNを念頭において、腎機能の変化が無いかを確認するべきである。■ 確定診断のための指針(1)病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認し、数週~数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行していることの確認。(2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。以上の2項目を同時に満たせば、RPGNと診断することができる。なお、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査、CT検査などにより、腎のサイズ、腎皮質の厚さ、皮髄境界、尿路閉塞などのチェックにより、慢性腎不全との鑑別を含めて、総合的に判断する。■ 病型診断可能な限り速やかに腎生検を行い、確定診断と同時に病型診断を行う。併せて血清マーカー検査や他臓器病変の評価により二次性を含めた病型の診断を行う。■ 鑑別診断鑑別を要する疾患としては、さまざまな急性腎障害を来す疾患が挙げられる。とくに高齢者では血尿を含めた無症候性血尿例に、脱水、薬剤性腎障害の併発がある場合などが該当する。また、急性間質性腎炎、悪性高血圧症、強皮症腎クリーゼ、コレステロール結晶塞栓症、溶血性尿毒症症候群などが類似の臨床経過をたどる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)入院安静を基本とする。本症の発症・進展に感染症の関与があること、日和見感染の多さなどから、環境にも十分配慮し、可能な限り感染症の合併を予防することが必要である。RPGNは、さまざまな原疾患から発症する症候群であり、その治療も原疾患により異なる。本稿では、ANCA陽性のpauci-immune型RPGNの治療法を中心に示す。治療の基本は、副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬による免疫抑制療法である。初期治療は、副腎皮質ホルモン製剤で開始し、炎症の沈静化を図る。早期の副腎皮質ホルモン製剤の減量が必要な場合や糖尿病などの併発例で血糖管理困難例には、アバコパンの併用を行う。初期の炎症コントロールを確実にするためにシシクロホスファミド(経口あるいは静注)またはリツキシマブの併用を行う。また、高度腎機能障害を伴う場合には血漿交換療法を併用する。これらの治療で約6ヵ月間、再発、再燃なく加療後に、維持治療に入る。維持治療については経口の免疫抑制薬や6ヵ月毎のリツキシマブの投与を行う。また、日和見感染症は、呼吸不全により発症することが多い。免疫抑制療法中には、ST合剤(1~2g 48時間毎/保険適用外使用)の投与や、そのほかの感染症併発に細心の注意をはらう。4 今後の展望RPGNの生命予後は各病型とも早期発見、早期治療開始が進み格段の改善をみた。しかしながら、進行が急速で治療開始時の腎機能進行例の腎予後はいまだ不良であり、初期治療ならびにその後の維持治療に工夫を要する。新たな薬剤の治験が開始されており、早期発見体制の確立と共に、予後改善の実現が待たれる。抗GBM腎炎については、早期発見がいまだ不能で、過去30年間にわたり腎予後は不良のままで改善はみられていない。現在欧州を中心に抗GBM腎炎に対する新たな薬物治療の治験が進められている7)。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 急速進行性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)旭 浩一ほか. 腎臓領域指定難病 2017年度新規受療患者数:全国アンケート調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎疾患に関する調査研究 平成30年度分担研究報告書.2019.2)杉山 斉ほか. 腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR) 2022年次報告と経過報告.第66回日本腎臓学会学術総会3)日本透析医学会 編集. 我が国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)4)Atkins RC, et al. J Am Soc Nephrol. 1996;7:2271-2278.5)厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 日腎誌. 2011;53:509-555.6)Kaneko S, et al. Clin Exp Nephrol. 2022;26:234-246.7)Soveri I, et al. Kidney Int. 2019;96:1234-1238.公開履歴初回2024年11月7日

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