2.
1 疾患概要■ 概念・定義炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)は、クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎の両疾患の総称である。CDは原因不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる肉芽腫性炎症性疾患である。主として若年者に発症し、小腸・大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、 腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態が生じる。すでに18~19世紀に現在のCDに相当すると考えられる症例報告があり、その後1932年、米国・ニューヨークのMount Sinai HospitalのBurrill B. Crohn氏、Leon Ginzburg氏、Gordon D. Oppenheimer氏の3人が、終末回腸炎14例を“Regional Ileitis:A Pathologic and Clinical Entity”として発表した。現在では口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に起こりうることが判明している。消化管以外にも種々の合併症(腸管外合併症)を伴うため、全身性疾患としての対応が必要である。■ 疫学もともと白人やユダヤ人種に多いとされていたが、近年わが国をはじめとするアジア地域や南米などで患者が急増しグローバル化してきている。2023年に実施された全国疫学調査による推定患者数(軽症者を含む)はCD9万6,000人、令和5年度特定疾患医療受給者証所持者数は5万2,108人である。わが国および東アジアでは男性患者の割合が多く、欧米では男女差は認められない。発症年齢のピークは10代後半~20代とされている。日本人初発CD患者において小腸に病変を有するのは82.7%、狭窄や瘻孔を有しているのは36.5%、肛門病変を有しているのは48.9%と報告されている。■ 病因炎症性腸疾患の病態はまだ完全には解明されていないが、疾患関連遺伝子に代表される遺伝学的素因を背景に、食事や衛生環境などの環境因子の変化に伴う腸内微生物叢と宿主の免疫機構との間の恒常性維持の破綻により引き起こされる多因子疾患と考えられている。CDの腸管局所ではTNF-α、IL-23、IFN-γといった炎症性サイトカイン・ケモカインの過剰産生が起こっている。■ 症状臨床像は病変の部位や範囲により異なる。下痢や腹痛などの消化管症状と発熱や体重減少・栄養障害などの全身症状を認め、貧血、関節炎、虹彩炎、皮膚病変などの合併症に由来する症状も呈する。小児では成長障害で見つかることもある。病状が進行すれば腸管合併症(狭窄、瘻孔)を生じ、通過障害や皮膚瘻からの排膿などを来すことがある。また、肛門病変を合併すると排便時痛、排膿や圧痛を伴う肛門部の腫脹・発赤・結節を認める。■ 予後外科手術率でみると2000年以前は発症後10年間での手術率は46.5%であったのに対して2000年以後は26.2%と低下している。しかし、依然として手術率の高い疾患である。腸管切除の主たる理由は小腸狭窄である。また、CDによる大腸炎も潰瘍性大腸炎と同様に炎症性発がんのリスクとなる。その他、わが国では肛門管がん、痔瘻がん合併の報告が欧米と比較して多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は難治性炎症性腸管障害に対する調査研究班の診断基準(表)に基づく。CDの診断では鑑別診断として潰瘍性大腸炎、腸管ベーチェット病、感染性腸炎などの疾患を否定する必要がある。縦走潰瘍、敷石像といった特徴的所見を内視鏡検査あるいはX線造影検査で検出する(図1)。生検病理での非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の検出は特異的所見である。また、CT検査、MRI検査、腸管エコーは全層性炎症、瘻孔、腹腔内膿瘍、肛門病変の評価に有用である。表 クローン病診断基準診断の基準(1)主要所見A.縦走潰瘍B.敷石像C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(2)副所見a.消化管の広範囲に認める不整形~類円形潰瘍またはアフタb.特徴的な肛門病変c.特徴的な胃・十二指腸病変確診例:[1]主要所見のAまたはBを有するもの。[2]主要所見のCと副所見のaまたはbを有するもの。[3]副所見のa、b、cすべてを有するもの。疑診例:[1]主要所見のCと副所見のcを有するもの。[2]主要所見のAまたはBを有するが潰瘍性大腸炎や腸管型ベーチェット病、単純性潰瘍、虚血性腸病変と鑑別ができないもの。[3]主要所見のCのみを有するもの。[4]副所見のいずれか2つまたは1つのみを有するもの。(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;38.を一部改変)図1 クローン病の内視鏡像画像を拡大する3 治療 (治験中のものも含む)CDの治療では腸の炎症を抑えて症状を改善し、再燃や腸の合併症を防ぐことを目指す。栄養療法、薬物療法、手術療法を、病状に応じて組み合わせることが基本となる(図2~4)。発症から1.5年以内の早期に適切な生物学的製剤による疾患コントロールが長期予後改善に重要とされている。図2 令和7年度クローン病治療指針(内科)(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;47.より出典)画像を拡大する図3 クローン病治療フローチャート(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;48.より出典)画像を拡大する図4 クローン病肛門病変診療フローチャート(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 令和7年度 改訂版. 2026;49.より出典)画像を拡大する■栄養療法栄養状態を改善するとともに、腸への負担を軽くする治療。栄養剤を飲む「経腸栄養療法」が中心で、通常の食事と組み合わせる場合もある。病状が安定していれば、過度な食事制限は必要ない。炎症が強いときや腸が狭くなっているときは、脂肪や食物繊維を控えるなど、病状に合わせた調整が必要となる。■薬物療法腸の炎症を抑えるため、以下のような治療薬を使用する。5-ASA製剤副腎皮質ステロイド免疫調節薬生物学的製剤(抗TNF-α抗体、抗α4β7インテグリン抗体、抗IL-12/23p40抗体、抗IL-23p19抗体)JAK阻害薬ステロイドは炎症を速やかに抑えるが、長期使用には適さないため、症状が改善したら減量・中止する。中等症から重症では、生物学的製剤やJAK阻害薬の適応となる。症状の改善だけでなく、内視鏡検査などで腸の炎症を確認し、将来の狭窄や手術を防ぐことが重視されている。■血球成分除去療法(GMA)血液をいったん体外に取り出し、炎症に関係する白血球(顆粒球・単球)を吸着してから体内に戻す治療。他の治療と組み合わせる補助療法として行われることが多い。■手術療法消化管すべての部位が標的となり得るCDでは外科手術は根治治療とはならない。腸閉塞、狭窄、穿孔、膿瘍、瘻孔、大量出血などがある場合や、薬物療法で十分な効果が得られない場合には、手術が必要になることがある。手術は病変のある腸を切除する、狭くなった部分を広げるために行う。手術後も再発する可能性があるため、定期検査と薬物療法・栄養療法を続けることが大切である。■開発中の治療現在、炎症や腸の線維化に関係する「TL1A」を標的とした薬、免疫細胞が腸へ移動するのを抑える内服薬、腸内細菌を利用した治療などの研究が進められている。治験中に参加する場合は、担当医から詳しい説明を受ける必要がある。4 今後の展望近年、分子標的薬をはじめとする薬物療法の進歩により、CDの治療成績は大きく向上し、腸管切除を必要とする患者は減少している。その一方で、狭窄や瘻孔などの合併症がある場合には、適切な時期に手術を行うことが生活の質(QOL)の改善につながる。将来の腸管障害を防ぐためには、早期に正確な診断を行い、必要な治療を適切な時期に開始することが重要である。また、これまで治療が難しかった肛門病変や小腸病変に対しても、新しい治療薬の有効性が示されつつある。今後は、患者ごとに最適な薬を選ぶ「個別化医療」の発展が期待される。さらに、病気そのものの治療だけでなく、就学、就労、妊娠・出産などを支える社会的な支援体制の充実も重要である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、肛門科(肛門病変)、小児科(小児発症の場合)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター クローン病(指定難病96) (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人 日本炎症性腸疾患学会(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO法人 IBDネットワーク(患者とその家族および支援者の会) 1) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班). 潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針令和7年度 改訂版. 2026. 2) Tsutsui A, et al. J Gastroenterol. 2025;60):1513-1522. 3) Matsuoka K, et al. J Gastroenterol. 2022;57:867-878. 4) Tsai L, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021;19:2031-2045. 公開履歴初回2026年9月10日