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脳の強化にはベリー類などの食品が良い可能性

 ベリー類やお茶をたくさん摂取すれば、加齢に伴う認知機能の低下速度を遅らせることができるかもしれない。米ラッシュ大学医療センターのThomas Holland氏らが、900人以上の成人を対象に実施した研究で、抗酸化物質のフラボノール類を含む食品や飲料は、高齢者の脳に有益な影響をもたらすことが示された。フラボノール類は、ベリー類などの果物や緑色の葉物野菜、茶、ワインなどに含まれている。この研究結果は、「Neurology」に11月22日掲載された。 この研究でHolland氏らは、認知症がない60〜100歳の研究参加者961人(平均年齢81歳)のデータを収集した。平均6.9年にわたる追跡期間中に、これらの参加者は年に1回の頻度で食事に関する質問票に回答しており、1日当たりのフラボノール類の摂取量に応じて5群に分けられた。参加者のフラボノール類の1日当たりの平均摂取量は、最も多い群で15mg(葉物野菜で約1カップ分に相当)、最も少ない群で5mgだった。認知機能については、参加者に対して1年に1回の頻度で実施された19種類の認知機能検査の結果を基に、包括的な認知機能スコアを算出した。 その結果、年齢や性別、喫煙の有無を考慮しても、1日当たりのフラボノール類の摂取量が最も多い群では、最も少ない群に比べて記憶力の低下速度が遅いことが示された。また、フラボノール類の種類(ケンぺロール、ケルセチン、ミリセチン、イソラムネチン)で分類して、それらの含有量の多い食品を調べたところ、ケンぺロールはケール、豆類、茶、ホウレンソウ、ブロッコリーに、ケルセチンはトマト、ケール、リンゴ、茶、ミリセチンは茶、ワイン、ケール、オレンジ、トマトに、イソラムネチンはナシ、オリーブ油、ワイン、トマトソースに多く含まれていることが判明した。 Holland氏は、「フラボノール類は抗炎症物質であるとともに抗酸化物質でもある。フラボノール類が含まれるこれらの食品はフリーラジカルを破壊し、脳、心血管系や腎臓、肝臓などの臓器の細胞を酸化のダメージから守ってくれる」と説明。また、同氏は、「フラボノール類はサプリメントからではなく食品から摂取するのが最も良い方法だ。食品からの方が、より多様な栄養素を摂取することができるからだ。サプリメントは、その名の通り、栄養補助食品として健康的な食事を補うものと捉えるべきだ」との考えを示している。 今回の研究では、フラボノール類の摂取量の多さと認知機能の低下速度の遅さとの間に関連が認められたが、Holland氏は、「これらが因果関係にあることを証明したわけではない」とし、慎重な解釈を求めている。また、摂取した食品に関する調査は人々の記憶に基づくものであるため、必ずしも正確ではない可能性にも言及している。 この研究には関与していない、米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルスの上級臨床栄養士であるSamantha Heller氏は、「植物性食品は、人々の健康に大きなベネフィットをもたらす効果的な栄養素の宝庫だ」と話す。 今回の研究は、食事に含まれるフラボノール類と認知機能との関連について着目したものだが、Heller氏は、「フラボノール類のみを摂取すれば良いという話ではない」と指摘。「われわれが摂取している食品にはフラボノール類以外にも、食物繊維やビタミン、ミネラルなどさまざまなファイトケミカル(植物栄養素)が含まれている。これらの栄養素の相乗的な効果が、健康にベネフィットをもたらす」と説明している。さらに、「おそらく、この研究で認知機能に最大のベネフィットを得たのは、植物由来の食品の摂取量が多かった人たちだと思う。ただ、その点については研究では検討されなかった」としている。 フラボノール類のみでは認知機能の低下を抑えるには不十分であるという点に関しては、Holland氏も同意見だ。同氏は、「心身の健康を維持する最善の方法は、果物や野菜を含む多様な食品で構成された食事を取り、運動するなどの健康的な生活習慣を心がけることに加え、日々新しいことを学ぼうと挑戦し続け、脳を鍛えることだ」と話す。さらに、「睡眠やストレス軽減といったことが全て合わさることで、全般的な健康に有益な影響がもたらされる」と説明している。

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重症化リスク因子を問わない軽症~中等症の新型コロナ治療薬「ゾコーバ錠125mg」【下平博士のDIノート】第112回

重症化リスク因子を問わない軽症~中等症の新型コロナ治療薬「ゾコーバ錠125mg」今回は、抗SARS-CoV-2剤「エンシトレルビル フマル酸錠(商品名:ゾコーバ錠125mg、製造販売元:塩野義製薬)」を紹介します。本剤は、重症化リスク因子の有無に関わらない軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症患者を対象とした初めての抗ウイルス薬であり、発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの症状が消失するまでの期間を短くすることが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2022年11月22日に緊急承認制度に基づく製造販売承認を取得しました。なお、重症度の高いSARS-CoV-2による感染症患者に対する有効性は検討されていません。<用法・用量>通常、12歳以上の小児および成人にはエンシトレルビルとして1日目は375mgを、2~5日目は125mgを1日1回経口投与します。SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始する必要があります。<安全性>国際共同第IIa相、第IIb相、第III相試験(T1221試験)において、5%以上に認められた副作用は、HDLコレステロール低下(16.6%)でした。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ウイルスの複製に必要な酵素を阻害することで、新型コロナウイルス感染症の症状を緩和します。発熱、鼻水、喉の痛み、咳などの症状が消失するまでの期間を短くすることが期待されています。2.初日は1日1回3錠を服用し、2~5日目は1日1回1錠を服用します。3.体調が良くなっても自己判断で中止せず、指示通りに服用を続けてください。4.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数ありますので、服用している薬剤や健康食品、サプリメント、嗜好品をすべて申告してください。5.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。<Shimo's eyes>新型コロナウイルス感染症の治療で、重症化リスク因子のない軽症~中等症患者を対象とした初めての抗ウイルス薬が登場しました。本剤はタンパク質合成過程における3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、新型コロナウイルスの増殖を抑制します。この作用機序は既存類薬のニルマトレルビルと同様です。投与対象は、高熱、強い咳症状、強い咽頭痛などの臨床症状があり、重症度の高くない患者(おおむね中等症II未満)で、症状発現から遅くとも72時間以内に投与を開始します。初日は3錠を1日1回投与し、2~5日目は1錠を1日1回投与します。第II/III試験(T1221試験)において、軽症~中等症のSARS-CoV-2感染者に本剤を5日間経口投与したとき、オミクロン株に特徴的な5症状(1.倦怠感または疲労感、2.熱っぽさまたは発熱、3.鼻水または鼻づまり、4.喉の痛み、5.咳)が快復するまでの時間の中央値は、プラセボ群192.2時間に対し本剤群では167.9時間と有意差をもって約1日短縮しました。また、投与4日目のウイルス量は本剤群でプラセボ群に比べて有意に減少しました。本剤はCYP3Aの基質であり、強いCYP3A阻害作用を有するとともに、P-gp、BCRP、OATP1B1およびOATP1B3阻害作用も有します。このため、併用禁忌薬が多いので、服薬中のすべての薬剤を確認することが必要です。また、本剤で治療中に新たに他の薬剤を服用する場合、事前に相談するよう患者さんに伝えましょう。流通については、安定的な供給が難しいことから、パキロビッドやラゲブリオの一般流通前と同様に、当面の間は厚生労働省が所有した上で、指定された医療機関または薬局に無償で配分されます。当初はパキロビッドの処方実績がある医療機関・薬局に限定されていましたが、2022年12月15日よりその限定が撤廃され、対象が拡大されました。ゾコーバ登録センターに登録し、同センターを通じて配分依頼を行い、患者に交付した後は投与実績を入力します。処方に際しては患者の同意書が必要であり、院外処方に際しては、対応薬局に処方箋とともに記入済みの「適格性情報チェックリスト」を送付する必要があります。本剤の提供時は、自宅療養や宿泊療養の患者さんが来局しなくても済むように「患者の居所への配送・持参」が基本で、患者さんが薬局を訪れることは原則禁止となります。患者さんの過度な期待から安易な不適正使用が行われないように、薬剤師は情報提供をしっかりと行うとともに、併用禁忌薬が多いため安全性監視も行っていきましょう。なお、包装単位は、1箱28錠(14錠PTPシートが2枚)で4人分です。薬価収載されて一般流通する際には1人分の包装単位も販売されることが期待されます。

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抗肥満薬「アライ」がダイレクトOTCとして薬局で購入可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第101回

脂質吸収抑制薬「オルリスタット(商品名:アライ)」の要指導医薬品としての承認が了承されました。久しぶりの新たなダイレクトOTCが誕生することになります。厚生労働省が11月28日に開催した薬事・食品衛生審議会要指導・一般用医薬品部会において肥満を対象とした大正製薬の「アライ」(成分名=オルリスタット)の要指導医薬品としての承認が了承された。同剤は、国内では医療用医薬品としての使用実績がない「ダイレクトOTC」で、国内初のOTCの肥満薬。承認は来年3月末の見込みで、2019年3月の申請から4年越しでの承認となる。(2022年11月29日付 日刊薬業) ダイレクトOTCという響きを久しぶりに聞きましたね。ダイレクトOTCとは、医療用医薬品としての使用実績がないままダイレクトにOTC医薬品として承認された医薬品です。原則として薬剤師のみが販売可能で、販売の際には薬の情報提供を行う必要があります。オルリスタットは、海外の多くの国ではすでに医療用医薬またはOTC医薬品として販売されている成分ですが、日本では2019年の申請からかなり慎重に審査され、ようやく要指導医薬品として承認の目途が立ちました。このオルリスタットの気になる作用機序は、消化管の中でリパーゼを不活性化し、食事に含まれる脂質の体内吸収を抑制することで、減量効果を得ようとするものです。効能・効果は「腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上の人における内臓脂肪および腹囲の減少(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る)」で、食事や運動などの取り組みの補助的な位置付けとなっています。対象は18歳以上で、1日3回、食事中か食後1時間以内に1カプセル服用します。審査に時間を要した理由として、「いかに対象者を適切に選択するか、適正使用をどう確保するかが難しい品目で、それらを検討するのに時間がかかった」と報じられています。対象となる「腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上の人」というのは、いわゆるメタボリックシンドロームの基準と同じで、本剤の必要のない人が過度なダイエットのために使用することを懸念しているのでしょう。なお、要指導医薬品ですのでオンラインでは販売できず、再審査期間が8年設定されます。1ヵ月前から腹囲や体重を記録し、薬剤師がチェックすでにインターネットなどでは「痩せ薬が承認!」などと話題になっていますので、販売されたらサプリメント感覚でオルリスタットを買いに来る患者さんも少なからずいると思います。主な副作用は、作用メカニズムに由来する脂肪便や下痢などですが、肝障害にも注意が必要です。処方薬としての実績がない成分であり、肥満を対象とした初めてのOTC医薬品ですので、痩せている人が使用して健康被害が続出!というのは避けなければなりません。不適切な患者さんの服用を避ける対策として、「服薬を始める1ヵ月前から腹囲や体重などを記録し、薬剤師のチェックを受け、6ヵ月服用しても効果がなければ使用をやめる」という使用上の注意が設けられるようです。久々のダイレクトOTCですので、販売を「薬局に任せてよかった」となることを期待しています。本当に本剤の服用が適しているかどうかを判断するとともに、副作用だけでなく過度な体重減少などが生じた場合の受診勧奨も忘れずに行いましょう。承認は2023年3月の予定ですが、現在パブリックコメントの募集が開始されています。年末までですので、興味のある方はコメントしてみてはいかがでしょうか。

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治療抵抗性高血圧に対する二重エンドセリン受容体拮抗薬の効果(解説:石川讓治氏)

 治療抵抗性高血圧は、降圧利尿薬を含む3種類の降圧薬の服用によっても目標血圧レベル(本研究では収縮期血圧140mmHg未満)に達しない高血圧であると定義されている。基本的な2種類としてカルシウムチャネル阻害薬およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンII受容体阻害薬といった血管拡張薬が選択されることが多く、この定義には、血管収縮と体液ナトリウム貯留といった2つの血圧上昇の機序に対して介入しても血圧コントロールが不十分であることが重要であることが含まれている。従来から、第4番目の降圧薬として、血管拡張と体液ナトリウム貯留の両方に作用する薬剤であるスピロノラクトンやミネラルコルチコイド受容体阻害薬が投与されることが多かったが、高齢者や腎機能障害のある患者では、高カリウム血症に注意する必要があった。 本研究においては、二重エンドセリン受容体拮抗薬であるaprocitentan 12.5mg、25mgとプラセボを治療抵抗性高血圧患者に投与して、診察室における収縮期血圧がaprocitentan 12.5mg投与群で15.3mmHg、aprocitentan 25mg投与群で15.2mmHg低下したことが報告された。本研究においてはプラセボ群においても11.5mmHgの収縮期血圧の低下が認められており、実際の投薬による収縮期血圧の降圧効果はそれぞれ3.8mmHgおよび3.7mmHgであったと推定されている。24時間自由行動下血圧における降圧効果も4.2mmHgと5.9mmHgであり、aprocitentanの治療抵抗性高血圧に対する有効性を示した報告であった。 治療抵抗性高血圧の研究において、研究者を悩ませるのが、プラセボ群においても血圧が大きく低下する(本研究では11.5mmHg)ことで、従来の研究においてはピルカウントや尿中の降圧薬血中濃度のモニタリングをしながら、服薬アドヒアランスを厳密に調整しないと統計学的な有意差がでないことがあった。本研究においてもaprocitentan内服による実質の収縮期血圧低下度(プラセボ群との差)はaprocitentan 12.5mg群で3.8mmHg、aprocitentan 25mg群で3.7mmHg程度でしかなかった。現在、わが国で使用されているエンドセリン受容体拮抗薬は、肺動脈性肺高血圧に対する適応ではあるが、非常に高価である。本態性高血圧に対するaprocitentan投与が実際にどの程度の価格になるのかは明らかではないが、わが国においては本態性高血圧の患者は4,300万人いるといわれており(日本高血圧治療ガイドライン2019)、約4mmHgのさらなる降圧のためにどの程度の医療資源や財源を投入すべきかといったことも今後の議論になると思われる。 有害事象として、浮腫や体液貯留がaprocitentan 12.5 mmHg群で約9%、25mg群で約18%も認められた。治療抵抗性高血圧の重要な要因である体液貯留が10%近くの患者に認められたことは注意が必要であると思われる。そのため、効果とリスクのバランスの評価が難しいと感じられた。治療抵抗性高血圧に対する4番目の降圧薬として、aprocitentanとミネラルコルチコイド受容体阻害薬のどちらを優先するのかといったことも今後の検討が必要になると思われた。

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ビタミンDで寿命延伸?

 ビタミンD不足のために骨がもろくなることはよく知られているが、そればかりでなく、早期死亡のリスクも高まることが、英国の30万人以上のデータを解析した結果として報告された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のJoshua Sutherland氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に10月25日掲載された。 ビタミンDは、食べ物から栄養素として吸収される以外にも、日光を浴びた時に皮膚で合成されることから“太陽のビタミン”と呼ばれる。ビタミンDの機能性としては古くから骨代謝との関連が知られている。ただし、ビタミンDの受容体は全身のさまざまな臓器や組織に発現していて、骨代謝以外の機能調節にも関わっていることが明らかになってきている。これを背景にSutherland氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UK Biobank」のデータを用いた解析により、ビタミンDの健康維持における重要性を検討した。 イングランド、スコットランド、ウェールズに住む約50万人のUK Biobank登録者から、健康状態に関する情報と遺伝関連情報の双方を利用可能な30万7,601人を抽出し解析対象とした。この解析対象者は2006年3月~2010年7月に登録されており、登録時の年齢は37~73歳の範囲だった。 2020年6月までの14年間の追跡で1万8,700人が死亡。非線形メンデルランダム化解析という手法で検討した結果、遺伝的に予測されるビタミンDレベルと全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが、L字型の非線形の関係にあることが分かった(P<0.001)。具体的には、ビタミンDレベルが50nmol/L以下では、そのレベルが高いほど全死亡リスクが急速に低下することが示された。また、ビタミンDレベルが25nmol/Lの人と50nmol/Lの人を比べると、前者の全死亡リスクが25%高かった。 死因別に見ると、遺伝的に予測されるビタミンD欠乏は、心血管死のリスクを25%、がん死リスクを16%、呼吸器関連疾患による死亡リスクを96%上昇させる可能性が浮かび上がった。さらにビタミンDレベルと死亡リスクとの関連は用量反応関係が認められ、極端な欠乏では全死亡や心血管死リスクは6倍、がん死リスクは3倍、呼吸器関連疾患死のリスクは12倍高くなる可能性が示された。 この研究で明らかになったことのうち、ビタミンDとがん死リスクとの関連について、米ジョージア大学のEmma Laing氏は、「両者の関連を裏付ける医学的なエビデンスがある」と語る。同氏によると、ビタミンDには抗炎症作用を含む多様な生物学的作用があり、がん細胞の増殖を遅らせることが示されているとのことだ。また、「ビタミンDは、血圧や心血管の健康にも関与しているようだ。ビタミンD摂取がコレステロールと血圧を低下させることが、複数の研究で示されている。ただ、それらの研究結果には一貫性がなく、より多くの研究が必要とされている段階だ」と話す。一方、Sutherland氏は「ビタミンD受容体が全身に見られることから、ビタミンDはいくつかの特定の疾患リスクを下げるだけでなく、人体にとってより基本的で重要な意味を持っているのではないか」と話す。 Sutherland氏、Laing氏はともに、「日光を十分に浴びていない人は、脂ののった魚、キノコ、牛乳などのビタミンDが豊富な食品を食べるべき」とし、また必要に応じたサプリメントの摂取も勧めている。さらにLaing氏は、「高齢者はビタミンDの吸収が低下していることが多い。食事からビタミンDを得ることができていない懸念がある場合は、医師にサプリメントの必要性を尋ねると良い」と述べている。

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魚油で脳機能が高まる可能性

 魚は「脳に良い食品」として知られているが、実際にその通りである可能性の高いことが、中年の男女を対象にした新たな研究で示唆された。この研究では、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高い中年の人では、特定領域の思考力の検査結果が優れていることが確認された。また、認知症を発症した高齢者では通常、記憶に関連する脳領域の萎縮が認められるが、オメガ3脂肪酸の血中濃度が高い中年の人ではその容積が大きいことも明らかになった。米テキサス大学健康科学センターのClaudia Satizabal氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に10月5日掲載された。 オメガ3脂肪酸として特によく知られているのは、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)である。これらはサーモンやマグロ、サバ、ニシン、イワシなど脂の多い魚に豊富に含まれている。また、DHAやEPAは魚油サプリメントから摂取することもできる。これまでにも数多くの研究で、オメガ3脂肪酸を多く摂取することで脳機能や認知症のリスクが低下する可能性が示されていた。しかし、そうした研究のほとんどは高齢者を対象としたものであった。Satizabal氏は、中年期は異常な脳の老化を示す兆候が生じ始める時期であるため、「脳の健康状態を保つために中年期にできることが何なのかを考える必要がある」と研究背景を説明している。 Satizabal氏らは今回、心臓病や脳卒中のリスク因子に関する長期研究プロジェクトであるフラミンガム心臓研究の参加者のデータを解析し、中年期でのオメガ3脂肪酸の摂取が脳の構造や機能に与える影響について調べた。解析対象者は認知機能に異常がなく、脳卒中の既往歴もない2,183人(平均年齢46歳、女性53%)で、脳MRI検査と記憶力および思考力を評価する標準的な検査を受けていたほか、ガスクロマトグラフィーを用いて赤血球中のDHAとEPAの濃度も測定されていた。 その結果、全般的にオメガ3脂肪酸の血中濃度が高い人では低い人に比べて、記憶に関与する脳領域である海馬の容積が大きかったほか、抽象的推論の検査結果も優れていた。抽象的推論とは高次脳機能の一つで、初めて遭遇した不慣れな問題を解決するために必要な能力がその一例である。 ただ当然ながら、積極的にオメガ3脂肪酸を食品あるいはサプリメントから摂取する人とそうではない人とでは、さまざまな点で違っている可能性はある。そこで、Satizabal氏らは、年齢や体重、喫煙習慣、高血圧や糖尿病の有無など、結果に影響する可能性のある多くの因子を考慮して解析した。しかし、その結果もオメガ3脂肪酸の血中濃度は脳の容積や認知機能検査のスコアに関連することを示していた。 Satizabal氏は、「今回の研究により、オメガ3脂肪酸と認知機能との間の因果関係が証明されたわけではない」としつつも、「他の研究でも、オメガ3脂肪酸が良好な認知機能に関連することが示されている。また、オメガ3脂肪酸が炎症を抑制し、海馬で細胞が死滅するのを防ぎ、新たな細胞の形成を促すことが動物実験で示されている」と付言している。 今回の研究には関与していない、米国の栄養と食事のアカデミー(AND)のスポークスパーソンで、米ジョージア大学のEmma Laing氏によると、一般的に成人は4オンス(約113g)の魚を週に2回摂取するべきだという。また、魚を食べる選択肢はないという人でも、魚油や海藻などのサプリメントからでもオメガ3脂肪酸は摂取できるとしている。 ただしLaing氏は、サプリメントを使用している人たちに対して、出血などの副作用が出る可能性があるため、過度の摂取に注意するよう呼び掛けている。同氏は、「米食品医薬品局(FDA)は、医療用に処方された場合を除き、EPAとDHAは1日当たり3g以上摂取しないよう勧告している」と説明している。

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第135回 long COVIDに依存症薬naltrexone低用量が有望

依存症治療薬ナルトレキソン(naltrexone)低用量(LDN)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(Post COVID-19 Syndrome;PCS)患者52人に試しに2ヵ月分処方したところ調べた7項目のうち6つの改善が認められました1,2)。naltrexoneは50 mg投与でオピオイド(アヘン)遮断作用を担いますが、その10分の1未満の1~4.5 mgの低用量投与は独特の免疫調節活性をどうやら有し、low dose naltrexoneにちなんでLDNと呼ばれ、いつもの用量のnaltrexoneとは区別されています。LDNに特有の作用はオピオイド成長因子受容体(OGF)遮断、Toll様受容体4炎症経路阻害、マクロファージ/マイクログリアの調節、T/B細胞の阻害などによるらしく、数々の病気への効果が小規模試験や症例報告で示唆されています。たとえばいつもの治療が不十分な炎症性腸疾患(IBD)患者47人への投与で寛解を促す効果3)、今では筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる慢性疲労症候群(CFS)の患者3人への投与でその治療効果4)が示唆されています。また、関節リウマチ(RA)、線維筋痛症、多発性硬化症、疼痛症候群患者へのLDN投与では抗炎症薬が少なくて済むようになりました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の感染症専門家John Lambert氏はライム病と関連する痛みや疲労の治療にLDNを使っていたことから、COVID-19罹患後症状へのLDNの使用を同僚に勧めました。するとすこぶる評判が良く、それではということで彼はCOVID-19罹患後症状、俗称long COVIDへのLDNのまずは安全性、さらには効果も調べる試験を計画しました2)。試験には52人が参加し、それらのうち38人がLDN服用を始めました。2人は有害事象を生じてLDNを中止し、36人が2ヵ月のLDN服用期間後の問い合わせに回答し、症状や体調の指標7つの変化が検討されました。結果は有望で、それら7つ中6つ(COVID-19症状、体の不自由さ、活力、痛み、集中、睡眠障害)の改善が認められました。気分は改善傾向を示したものの有意レベルではありませんでした。Lambert氏のライム病患者への使用目的と符合し、LDNは痛みに最も有効でした。今回に限らずLDNの慢性痛緩和効果はこれまでのいくつかの試験でも認められています。先立つ試験でも示唆されているとおりLDNはどうやら安全で、LDN服用中止に至る有害事象を生じたのは2人のみで、被験者のほとんど95%(36/38人)は無事にLDNを服用できたようです。今回の試験は対照群がないなどの不備があり、示唆された効果が全部LDNの手柄と判断することはできません。Lambert氏はLDNの効果の確かさを調べる大規模試験を計画しています。Lambert氏の他にもCOVID-19罹患後症状へのLDN の試験があります。米国ミシガン州のサプリメント企業AgelessRx社はCOVID-19罹患後症状患者の疲労の軽減や生活の質の改善を目当てとするLDNとNAD+併用の下調べ試験(pilot study)を実施しています5,6)。医薬品以外のCOVID-19罹患後症状治療の開発も進んでいます。その1つが嗅覚消失を脳刺激装置で治療する取り組みです7,8)。いわずもがな嗅覚消失はCOVID-19の主症状の1つであり、日にち薬で回復することも多いとはいえ一向に回復しないことも少なくありません。嗅覚や味覚の突然の変化を被ったCOVID-19患者およそ千人を調べた試験の最近の結果報告によると、COVID-19診断から少なくとも2年経つ267人のうち嗅覚消失が完全に解消していたのは5人に2人ほど(38%)で、半数超(54%)は部分解消にとどまっており、13人に1人ほど(7.5%)は全く回復していませんでした9)。そういった嗅覚消失患者の嗅覚の回復を目指して開発されている人工嗅覚装置は難聴を治療する人工内耳が脳で処理できる電気信号に音を変えるように匂いの信号を脳に移植された信号受信電極に送ります。それが匂い成分ごとに異なるパターンで脳の嗅球を刺激して匂いを把握できるようになることを目指します。販売に向けた協力体制も発足しており、そう遠くない未来、向こう5~10年に製品の発売が実現するかもしれません8)。参考1)O'Kelly B, et al. Brain Behav Immun Health. 2022;24:100485.2)Addiction drug shows promise lifting long COVID brain fog, fatigue / Reuters3)Lie MRKL, et al. J Transl Med. 2018;16:55.4)Bolton MJ, et al. BMJ Case Rep. 2020;13:e232502.5)AgelessRx Launches Pilot Post-COVID Clinical Trial / AgelessRx6)Pilot Study Into LDN and NAD+ for Treatment of Patients With Post-COVID-19 Syndrome(Clinical Trials.gov)7)Bionic nose could help people smell again / Nature8)WITH THIS BIONIC NOSE, COVID SURVIVORS MAY SMELL THE ROSES AGAIN / IEEE Spectrum9)McWilliams MP, et al. Am J Otolaryngol. 2022;43:103607.

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85歳以上で身体活動量が多い人の食習慣―慶大TOOTH研究

 85歳以上の日本人500人以上を対象に、食事の傾向や身体活動習慣を調査した結果が報告された。高齢者の食習慣の特徴が浮かび上がるとともに、多くの植物性食品を取っている人はそうでない人よりも身体活動量が有意に多いことなどが明らかになった。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子氏、於タオ氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に7月17日掲載された。 質の高い食生活や活発な身体活動が健康の維持・増進につながることは広く知られている。ただし、それら両者の相互関係は十分研究されておらず、また、食事や身体活動に関するこれまでの研究の多くは、非高齢者または高齢者の中でも比較的若い世代を対象に行われてきている。こうした中、同大学百寿総合研究センターの新井康通氏らは、85歳以上の高齢者の健康に関する包括的研究「TOOTH(The Tokyo Oldest Old Survey on Total Health)研究」を実施している。小熊氏らは、このTOOTH研究の参加者のベースラインデータを用いて、85歳以上の日本人の食習慣の特徴を探るとともに、身体活動量と関連のある食事パターンの特定を試みた。 TOOTH研究の参加者は、2008~2009年に同大学病院から6km以内に居住する85歳以上の住民から無作為に抽出され、研究参加に同意した542人が登録された。このうち、データ欠落のない519人を今回の研究の解析対象とした。年齢は中央値87.3歳、男性42.2%、BMI21.4、独居者33.9%であり、MMSE(認知機能の指標)は中央値27(四分位範囲25~29)、バーゼル指数〔日常生活動作(ADL)の指標〕は同100(95~100)であって、認知機能や身体機能が維持されている人が大半を占めていた。 登録時に行った、過去1カ月間での日常的な食品の摂取に関するアンケートの回答を基に、主成分分析という方法で特徴的なパターンを検討。その結果、緑黄色野菜などの多様な植物性食品、魚ときのこ、ご飯とみそ汁という3つの食品群の摂取割合の多寡により、食習慣を特徴付けられることが分かった。 1つ目の多様な植物性食品を特徴とする食事パターンの主成分得点(主成分分析で得られるスコアで-1~1の範囲で表し、1に近いほどその食事パターンへの傾向が高いことを意味する)の中央値で二分し、栄養素摂取量を比較。すると、植物性食品の摂取割合の高い群は低い群に比べて、タンパク質、脂質、食物繊維、および大半の微量栄養素(ビタミンとミネラル)の摂取量が多く、炭水化物の摂取量は少なかった。2つ目の魚ときのこの摂取割合の多寡で二分した比較も、それとほぼ同様の結果だった。3つ目の食事パターン(ご飯とみそ汁)の主成分得点の中央値で二分した比較では、タンパク質と炭水化物の摂取量は有意差がなく、脂質の摂取量はご飯・みそ汁の摂取割合が高い群の方が有意に少なかった。 次に、これら3つの違いで特徴付けられる食事パターンと、身体活動量との関連を検討。その結果、多様な植物性食品の摂取割合が高い群は低い群に比べて、ウォーキング、および、エクササイズ(筋力トレーニングや柔軟体操)による運動量(メッツ×時間)が多く、PAI(身体活動量の指標)が高いという有意差が認められた。また、2つ目の食事パターン(魚ときのこ)の高傾向群は低傾向群に比較し、エクササイズによる運動量が多いという有意差が認められたが、ウォーキングによる運動量やPAIには有意差がなかった。3つ目の食事パターンの低/高傾向群の比較では、ウォーキングやエクササイズでの運動量、PAIのいずれにも有意差がなかった。 続いて、年齢、性別、BMI、ADL、MMSE、喫煙習慣、教育歴、就労・経済状況、糖尿病・高血圧・脂質異常症・腎臓病・心臓病・がんの既往を調整後、食事パターンと身体活動との関連を検討した。すると、多様な植物性食品を特徴とする食事パターンへの傾向と、エクササイズによる運動量〔偏回帰係数(B)=0.64(95%信頼区間0.02~1.25)、P=0.04〕、およびPAI〔B=1.41(同0.33~2.48)、P=0.01〕との間に、有意な正の関連が認められた。 著者らは本研究を、「85歳以上の高齢者集団で食事パターンと身体活動量との関連を検討した初の研究」としている。限界点として、研究参加者が都心部に居住し、かつ外出可能な身体機能が維持されている人に限られていること、横断研究のため因果関係には言及できないことなどを挙げた上で、「85歳以上であっても、より健康的な食習慣が身体活動量の多さと関連していることが示唆された」と結論をまとめている。

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心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】第1回

第1回 心不全の分類とそれぞれの治療法UpdateKey Points心不全の分類として、まずはStage分類とLVEFによる分類を理解しよう心不全発症予防(Stage Aからの早期介入)の重要性を理解しようRAS阻害薬/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の偉大さを理解しようはじめに心不全の国際定義(universal definition)が日米欧の3つの心不全学会から昨年合同で提唱され、「器質的または機能的な心臓の異常を原因とする症候を呈し、Na利尿ペプチド上昇または肺・体うっ血の客観的エビデンスが認められる臨床症候群」とされた1)(図1)。また心不全のStage分類もそれぞれAt-risk for HF(Stage A)、Pre-HF(Stage B)、HF(Stage C)、Advanced HF(Stage D)と分かりやすく表現された(図1)。この心不全の予防、治療を理解する上で役立つ心不全の分類について、本稿では考えてみたい。画像を拡大する予防と治療を意識した心不全の分類まず覚えておくべき分類が、上記で記載した心不全Stage分類である(図1)。この分類は適切な治療介入を早期から行うことを目的にされており、とくにStage Aの段階からさらなるStage進展予防(心不全発症予防)を意識して、高血圧などのリスク因子に対する積極的な介入を行うことが極めて重要となる2)。次に、一番シンプルで有名な治療に関わる分類が、検査施行時の左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類で、HFrEF(LVEF<40%、HF with reduced EF)、HFmrEF(LVEF 40~49%、HF with mildly reduced EF)、HFpEF(LVEF≧50%、HF with preserved EF)に分類される(図1)。またLVEFは経時的に変化し得るということも忘れてはならない。とくにLVEFが40%未満であった患者が治療経過で40%以上に改善した患者群は予後が良く、これをHFimpEF (HF with improved EF)と呼ぶ3)。つまり、同じLVEF40%台でも、HFimpHFは、LVEFの改善がないHFmrEFとは生物学的にも臨床的にも同義ではないのである4)。そもそもLVEFとは…と語りたいところではあるが、字数が足りずまたの機会とする。慢性心不全治療のエッセンス慢性心不全治療は大きく2つに分類される。1つはうっ血治療、もう1つは予後改善のための治療である。まず、うっ血に対しては利尿薬が必要不可欠であるが、ループ利尿薬は慢性心不全患者において神経体液性因子を活性化させる5)など予後不良因子の1つでもあり、うっ血の程度をマルチモダリティで適正に評価し、利尿薬はできる限り減らす努力が重要である6)。次に予後改善のための治療について考えていく。1. HFrEFに対する治療生命予後改善効果が示されている治療法の多くは、HFrEFに対するものであり、それには深い歴史がある。1984年に発表された慢性心不全に対するエナラプリルの有効性を検証した無作為化比較試験(RCT)を皮切りに、その後30年以上をかけて数多くのRCTが行われ(図2)、現在のエビデンスが構築された(図3)7-9)。偉大な先人達へ心からの敬意を表しつつ、詳細を説明していく。画像を拡大する画像を拡大するまず、すべてのHFrEF患者に対して生命予後改善効果が証明されている薬剤は、ACE阻害薬/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬である(図3)。とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は、米国の映画に擬えて“the Fantastic Four”と呼ばれるようになって久しい10)。この4剤はすべて投与後早期から心不全入院抑制効果があるため、診断後早期に開始すべき薬剤である。また、一見安定しているように見える慢性心不全患者でも突然死が少なくないことをご存知だろうか11,12)。この“Fantastic Four”すべてに突然死予防効果もあり、症状がごく軽度(NYHA IIs)であってもぜひ積極的に投与を検討いただきたい13)。そして、この4剤を基本に、うっ血、心房細動、鉄欠乏、虚血、弁膜症の有無、QRS幅、心拍数に合わせて、さらなる治療を検討していくこととなる(図3)。2. HFmrEFに対する治療HFmrEFの発症機序や治療法に関する知識は、まだ完全に解明されているとはいえないが、現時点では、HFrEFにおいて予後改善効果のある4剤がHFmrEFにもある程度の効果を示すことから、この4剤を投与するという姿勢で良いと考えられる14-19)。では、LVEFがどれくらいまでこの4剤の効果が期待されるのか。HFmrEF/HFpEFを含めた慢性心不全に対するARB/ARNI、β遮断薬、MRAの有効性を検証したRCTの結果からは、LVEFが55%くらいまでは予後改善効果が期待される20)(図4)。つまり、左室収縮障害が少しでも伴えば、神経体液性因子が心不全の病態形成に重要な役割を果たしているものと考えられ、これらの薬剤が有用なのであろう。なお、SGLT2阻害薬においては、最近発表されたEmpagliflozinのLVEF>40%の慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Preserved試験の結果、心血管死または心不全入院の複合リスク(主に心不全による入院リスク)を有意に低下させることが報告された。ただし、LVEFが65%を超えるとその効果は認めなかった19)(図4)。画像を拡大する3. HFpEFに対する治療HFpEFは、2000年代前半までは「拡張期心不全」と呼ばれ、小さな左心室に著しい左心室肥大があり、拡張機能不全が主要な病態生理学的異常であると考えられていた。しかし、2000年代初頭からHFpEFはより複雑で複数の病態生理を持ち、多臓器の機能障害があることが明らかになってきた。現在HFpEFは、高血圧性リモデリング、心室・血管の硬化、肥満、代謝ストレス、加齢、座りがちな生活習慣などが関与する多面的な多臓器疾患であり、その結果として心臓、血管、および骨格筋の予備能低下につながると考えられている21)。このことからHFpEFの治療法が一筋縄では行かないことは容易に想像できるであろう。実際、本邦の心不全ガイドラインにおいても、うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療しか明記されていない3)。ただ最新のACC/AHAガイドラインでは、上記EMPEROR-Preserved試験の結果も含めSGLT2阻害薬が推奨クラスIIa、ARNI、MRA、ARBが推奨クラスIIbとなっている2)。ARNI、MRA、ARBについては「LVEFが50%に近い患者でより大きな効果が期待できる」との文言付であり、その背景は上記で説明した通りである20)。よって、今後はこの潜在性左室収縮障害をいかに早期にわれわれが認識できるかが鍵となるであろう。以上の通り、HFpEFに対してはまだ確立した治療法がなく、この複雑な症候群であるHFpEFを比較的均一なサブグループに分類するPhenotypingが今後のHFpEF治療の鍵であり、これについては今後さらに深堀していく予定である。1)Bozkurt B,et al. J Card Fail. 2021 Mar 1:S1071-9164. 00050-6.2)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.3)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019 Sep 25;83:2084-2184.4)Wilcox JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76:719-734.5)Bayliss J, et al. Br Heart J. 1987 Jan;57:17-22.6)Mullens W,et al. Eur J Heart Fail. 2019 Feb;21:137-155.7)Sharpe DN, et al. Circulation. 1984 Aug;70:271-8.8)Sharma A,et al. JACC Basic Transl Sci. 2022 Mar 2;7:504-517.9)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42:3599-3726.10)Bauersachs J. et al. Eur Heart J. 2021 Feb 11;42:681-683.11)Lancet.1999 Jun 12;353:2001-7.12)Kitai T, et al. JAMA Netw Open. 2020 May 1;3:e204296.13)Varshney AS, et al. Eur J Heart Fail. 2022 Mar;24:562-564.14)Vaduganathan M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2356-2362.15)Solomon SD, et al. Circulation. 2020 Feb 4;141:352-361.16)Solomon SD, et al. Eur Heart J. 2016 Feb 1;37:455-62.17)Cleland JGF, et al. Eur Heart J. 2018 Jan 1;39:26-35.18)Lund LH, et al. Eur J Heart Fail. 2018 Aug;20:1230-1239.19)Butler J, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 3;43:416-426.20)Böhm M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2363-2365.21)Shah SJ. J Cardiovasc Transl Res. 2017 Jun;10:233-244.

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腎結石の再発予防のための食事とは

 腎結石の痛みを経験したことのある人なら、目がくらむほどの激痛を二度とは経験したくないと思うことだろう。腎結石の再発予防に役立つ可能性のある食事スタイルが報告された。米メイヨー・クリニックのJohn Lieske氏らが行った前向き研究の結果であり、詳細は「Mayo Clinic Proceedings」に8月1日掲載された。 Lieske氏らは、腎結石の再発に食事スタイルが関与しているか否かを検討するために、2009年1月~2018年8月に腎結石の痛みのために同院で治療を受けた411人と、比較対照群384人の食物摂取状況を把握した上で、4.1年(中央値)追跡した。その結果、腎結石既往群の73人が追跡期間中に症状を再発した。 Cox比例ハザードモデルで、BMI、水分摂取量、摂取エネルギー量の影響を調整した解析の結果、カルシウムおよびカリウムの摂取量が少ないことが、腎結石の症状再発の有意な予測因子として特定された。調整因子に処方薬やサプリメントの利用などを加えても、カルシウムの摂取量が少ないことは引き続き、腎結石の症状再発の有意な予測因子だった。一方、カリウム摂取量が少ないことは、サイアザイド系利尿薬やカルシウムサプリメントを使用していない人でのみ、有意な予測因子として特定された。 この結果からLieske氏は、「腎結石の痛みを経験したことがない人は、食事スタイル変更のモチベーションはあまり高くないかもしれない。しかし、痛みを経験したことがある人が再発を避けたいと考えるのなら、食事に気を付けるべきだ」と述べている。また、再発予防のために重要なもう一つのポイントは、水を十分に飲むことだという。今回の研究では、水分摂取量は再発予測因子として特定されなかったが、それは、腎結石既往群の患者はその大半が医師から指導を受けて、積極的に水を飲んでいたためと考えられるという。 腎結石の痛みによる治療を受けた人の5年以内の再発率は、約3割に上ると報告されている。腎結石は耐え難い痛みだけでなく、慢性腎臓病や骨粗鬆症、心臓病などのリスクとの関連も示唆されている。では、腎結石の再発予防には、どのような食事スタイルが良いのだろうか? 今回の研究で再発リスクとの関連が明らかになったカルシウムとカリウムのうち、カルシウムについてLieske氏は、「低脂肪乳製品からの摂取を中心に、毎日1,200mgを取ることが理想的だ」としている。この値は、米国農務省(USDA)の成人向けの推奨値でもある。一方、カリウムについてUSDAは明確な推奨値を示していない。Lieske氏は、「果物や野菜をたくさん食べることのメリットが、多くの研究から示唆されている。果物や野菜にはカリウムだけでなく、腎結石の予防に役立つ可能性のあるクエン酸なども豊富に含まれている」とアドバイスしている。 一方、本研究には関与していない米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のGary Curhan氏は、「腎結石には複数のタイプがあり、最も一般的なタイプはシュウ酸カルシウム結石だ」と解説。その予防には、十分な水分の摂取と、カルシウムやカリウムの摂取を心がけるとともに、シュウ酸の多い食品の取り過ぎに注意が必要とのことだ。同氏は、「多くの人は腎結石の予防における食事の重要性を意識していないが、実際は極めて重要」と述べるとともに、「腎結石のタイプにより理想的な食事内容が異なるため、腎結石のタイプを評価できる専門家に食事の相談をすることがベストだ」と付け加えている。

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第53回 相関比の計算方法は?【統計のそこが知りたい!】

第53回 相関比の計算方法は?今回は、カテゴリーデータと数量データの相関関係を示す「相関比(Correlation ratio)」の計算方法について説明します。第52回の具体例のサプリメントごとの年齢幅をみると、サプリメントAを志向するグループは29~36歳、サプリメントBを志向するグループは38~48歳、サプリメントCを志向するグループは20~38歳と年齢幅に違いがみられます。これをグラフ(図1)にすると年齢幅の違いがより明確になります。図1 サプリメント別年齢データのグラフ図1のように年齢幅に違いがあるとき、サプリメントと年齢は関連があると考えます。年齢幅がどのようなときに最も関連が「ある」か「ない」かの見分け方は図2、図3の通りです。図2 関連が強い図3 関連が弱い■群内変動、群間変動とはグループ内の変動を「群内変動(Within-group variation)」と言います。では、表のサプリメント年齢別データについて、グループ内の変動を計算してみましょう。変動は偏差平方和で計算します。サプリメント年齢別データと偏差平方和画像を拡大する3つの偏差平方和を合計した値のことを「群内変動」と言い、「Sw」で表します。Sw=S1+S2+S3=30+58+266=354年齢幅が重複しないということは、年齢幅という3個のグループの変動が大きいことを意味します。逆に、年齢幅が重複するということは、3個のグループの変動が小さいことを意味します(図4)。図4 グループの変動の大小年齢幅の変動、すなわちグループ間の変動は、各グループの平均と全体平均との差から求められ、これを「群間変動(Between the groups change)」といい、Sbで表します(図5)。図5 群間変動のイメージ3個のグループの平均を全体平均をとします。また、3個のグループの回答人数をn1、n2、n3とします。このとき群間変動は、次に示すように個々の平均と全体平均の差の平方に各グループの人数を乗じて求められます。■相関比の計算方法グループ内の年齢のばらつきが小さく年齢幅が重ならない、すなわち「群内変動が小さく、群間変動が大きいとき、関連がある」と言えます。そこで、2つの変動合計に対する群間変動の割合を求めます。これを「相関比(Correlation ratio)」と言い、η2 (イータ2乗と読む)で表します。サプリメント年齢別データ数値をこの計算式に代入すると、相関比は下記の通り求められます。相関比の式をみると、最も関連が強いとき、群内変動Swは0、すなわちグループ内に属するデータがすべて同じになり、η2は1になります。逆に、最も関連が弱いとき、群間変動Sbは0、すなわちグループ平均がすべて同じになり、η2は0になります。〔相関比の目安〕0.1より大きい場合、関連性がある■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第27回 ANOVA(Analysis of Variance)とは? その1第28回 ANOVA(Analysis of Variance)とは? その2「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問25 F検定とは?

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食物繊維は何から摂取するのがベスト?

 普段の食事に食物繊維が不足している人は、摂取源が何であろうと食物繊維の摂取量を増やすことで腸への良い影響が期待できることが、米デューク大学のLawrence David氏らの研究で示された。この研究結果は、「Microbiome」7月29日号に発表された。 食物繊維は便通を良くする栄養素として広く知られている。その一方で、食物繊維は腸内細菌叢の構成にも大きな影響を及ぼしている。腸内では細菌が食物繊維を分解する際、大腸の細胞の主な栄養源となる短鎖脂肪酸が産生される。短鎖脂肪酸は、代謝や免疫防御といった重要な機能の調節にも関わっていることが示されている。しかし、数ある食物繊維のサプリメント(以下、サプリ)の中で、腸内細菌に対する作用が他よりも優れているものがあるのかどうかについては明らかになっていなかった。 そこでDavid氏らは今回、現在広く使用されている3種類の粉末タイプの食物繊維サプリが腸内細菌叢に与える影響について調べた。研究に使用したのは、1)イヌリン(チコリの根から抽出される食物繊維)、2)小麦由来のデキストリン(Benefiberの商品名で販売されているサプリ)、3)ガラクトオリゴ糖(Bimunoの商品名で販売されているサプリ)の3種類だった。1日当たりの用量は、イヌリンと小麦デキストリンが9g、ガラクトオリゴ糖が3.6gであった。研究参加者である28人の健康な成人には、これらの3種類のサプリをそれぞれ1週間ずつ摂取してもらった。あるサプリを1週間摂取してから別のサプリの摂取を開始する前には、1週間の間隔が設けられた。 その結果、研究参加者の腸内細菌叢に対する影響に関して、3種類のサプリの中で他の2種類よりも優れていることを示したものはなかった。いずれのサプリも、短鎖脂肪酸の一種である酪酸の産生量を増加させていた。酪酸は、腸壁のバリヤー機能を高めて病原体の侵入を防いだり、炎症抑制に重要な働きを担うとされている。ただし、サプリの種類による結果の違いはなくとも、サプリを摂取する人による違いは認められた。サプリによる酪酸の産生量増加が確認されたのは、普段の食事で食物繊維の豊富な食品をほとんど食べていない研究参加者のみであった。 この結果についてDavid氏は、「普段から食物繊維を多く摂取していた参加者では、どのサプリを摂取しても腸内細菌叢の変化があまり見られなかった。これはおそらく、これらの参加者ではすでに腸内細菌叢の最適なバランスが保たれていたためだろう。これに対して、食物繊維の摂取量が最も少なかった参加者では、摂取したサプリの種類に関わりなく、サプリの摂取による酪酸の産生量の増加が最も大きかった」と述べている。 なお、専門家らは、1日当たり女性で25g、男性で38gの食物繊維の摂取を推奨している。しかし、平均的な米国成人の食物繊維の摂取量はその30%程度であり、ほとんどの米国人で食物繊維の摂取量が不足していることを研究グループは指摘している。 この研究には関与していない専門家の一人で、栄養と食事のアカデミー(米国栄養士会)のスポークスパーソンを務めるNancy Farrell Allen氏は、「食物繊維を摂取するのであれば、サプリよりも食品からの摂取が望ましい」と指摘。その理由として、植物性の食品には食物繊維だけでなく、ビタミンやミネラル、さらに健康に有益なファイトケミカルが含まれていることを挙げている。 この点については研究グループの一員で同大学のJeffrey Letourneau氏も同意見で、「天然の未加工食品には、サプリでは補えない真の有益性がある」としている。しかし、食物繊維の重要性や食物繊維が不足した米国人の食事を考慮すれば、「摂取源にこだわらずに、できる限り多くの食物繊維を摂取することが望ましい」との見解を示している。

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第52回 相関比とは?【統計のそこが知りたい!】

第52回 相関比とは?「相関比(correlation ratio)」は、カテゴリーデータと数量データの相関関係を把握する解析手法です。具体例で説明しましょう。15人の対象者からアンケートを取って、健康のために服用している好きなサプリメントと年齢の関係を調べることにします。好きなサプリメントは「カテゴリーデータ」、年齢は「数量データ」です。カテゴリーデータと数量データの基本的な解析方法は、カテゴリー別平均を算出することです。そこでカテゴリー別平均として、サプリメント別の平均年齢を求めます。15人の回答データをサプリメント別に分類し、サプリメント別の平均年齢を計算すると表1のようになりました。表1表データからサプリメント別の平均年齢に違いがあることがわかります。「違いがある」ということは、「ある特定の年齢層で特定のサプリメントへの志向性が高まっている」ということで、「年齢と好きなサプリメントには関連がある」と判断できます。しかし、カテゴリー別平均からは関連性の強弱まではわかりません。■相関比で関連の強弱をはかるカテゴリーデータと数量データの関連性の強さを明らかにする解析手法が「相関比」です。相関比は0~1の間の値で、値が大きいほど関連性が強くなります。今回の例では相関比は0.604となります(相関比の計算方法は次回ご説明します)。相関比の数値はいくつ以上あれば関連性があるという統計学的基準はありません。平均をみる限りでは、関連性があると思えても相関の値は大きい値を示さないことを考慮して、一般的には表2のような基準が設けられています。今回の例では、この相関比から「強い関連がある」と判断できます。表2 相関比の判断基準■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その1)質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その2)質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その3)

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ビタミンD補給、中高年において骨折予防効果なし/NEJM

 ビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症を有していない概して健康な中高年以上の集団では、ビタミンD3を摂取してもプラセボと比較し骨折リスクは有意に低下しないことが、米国・ハーバード・メディカル・スクールのMeryl S. LeBoff氏らが行った「VITAL試験」の補助的研究で示された。ビタミンDサプリメントは、一般集団において骨の健康のために広く推奨されている。しかし、骨折予防に関するデータは一貫していなかった。NEJM誌2022年7月28日号掲載の報告。米国人男性50歳以上、女性55歳以上の計2万5,871例で骨折発生をプラセボと比較 VITAL試験は米国の50歳以上の男性と55歳以上の女性を対象に、ビタミンD3(2,000 IU/日)、n-3系脂肪酸(1g/日)、またはその両方の摂取により、がんや心血管疾患を予防できるどうかをプラセボと比較した2×2要因デザインの無作為化比較試験である。選択基準にビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症は含まれていない。 年1回、質問票によりレジメンの遵守、副作用、他のサプリメント(例:カルシウム、ビタミンD)や薬剤の使用、大きな病気、骨粗鬆症または関連する危険因子、身体活動、転倒、および骨折について調査し、骨折を報告した参加者にはさらに詳細な質問票を送付して調査するとともに、骨折の治療を行った施設から医療記録(股関節または大腿骨骨折の場合は放射線画像を含む)を入手し、中央判定を行った。 主要評価項目は全骨折、非椎体骨折、股関節骨折の初回発生で、intention-to-treat集団を解析対象として比例ハザードモデルを用いて治療効果を推定した。 計2万5,871例(女性50.6%、黒人20.2%)がビタミンD3+n-3系脂肪酸、ビタミンD3+プラセボ、n-3系脂肪酸+プラセボ、プラセボ+プラセボの4群に無作為に割り付けられた。全骨折、非椎体骨折および股関節骨折、いずれもプラセボ群と有意差なし 追跡期間中央値5.3年において、1,551例に1,991件の骨折が確認された。 初発全骨折は、ビタミンD群(ビタミンD3+n-3系脂肪酸群およびビタミンD3+プラセボ群)で1万2,927例中769例、プラセボ群(n-3系脂肪酸+プラセボ群およびプラセボ+プラセボ群)で1万2,944例中782例に認められた(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.89~1.08、p=0.70)。同様に非脊椎骨折はそれぞれ721例および744例(0.97、0.87~1.07、p=0.50)、股関節骨折は57例および56例(1.01、0.70~1.47、p=0.96)に認められ、いずれもビタミンD群とプラセボ群で有意差はなかった。 年齢、性別、人種/民族、BMI、血清25-ヒドロキシビタミンD値などベースラインの患者背景は、この結果に影響しなかった。 また有害事象は親試験で評価されたとおり、両群間で差はなかった。 なお、著者は研究の結果は限定的なものであり、骨粗鬆症または骨軟化症患者、高齢の施設入所者には一般化されない可能性があるとしている。

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妊娠中のビタミンD補充、児のアトピー性皮膚炎を予防?

 母体へのビタミンD補充が、出生児の4歳時までのアトピー性湿疹リスクを減少させたことが、英国・サウサンプトン大学のSarah El-Heis氏らによる無作為化試験「UK Maternal Vitamin D Osteoporosis Study(MAVIDOS)」で示された。これまで、母体へのビタミンD補充と出生児のアトピー性湿疹リスクとを関連付けるエビデンスは一貫しておらず、大半が観察試験のデータに基づくものであった。著者は、「今回のデータは、乳児のアトピー性湿疹リスクに対する胎児期のビタミンD(コレカルシフェロール)補充の保護効果に関する無作為化試験初のエビデンスであり、保護効果が母乳中のコレカルシフェロール値上昇による可能性を示唆するものであった」と述べ、「所見は、アトピー性湿疹への発育上の影響と、アトピー性湿疹への周産期の影響は修正可能であることを支持するものである」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2022年6月28日号掲載の報告。 研究グループは、二重盲検無作為化プラセボ対照試験「MAVIDOS」の被験者データを用いて、妊娠中の母体へのコレカルシフェロール補充と、出産児のアトピー性湿疹リスクへの影響を月齢12、24、48ヵ月の時点で調べる検討を行った。 MAVIDOSでは、妊産婦は、コレカルシフェロールを投与する群(1,000 IU/日、介入群)または適合プラセボを投与する群(プラセボ群)に無作為に割り付けられ、おおよそ妊娠14週から出産まで服用した。主要アウトカムは、新生児の全身の骨ミネラル含有量であった。 主な結果は以下のとおり。・出生児のアトピー性湿疹(UK Working Party Criteria for the Definition of Atopic Dermatitisに基づく)の有病率の確認は、月齢12ヵ月で635例、同24ヵ月で610例、同48ヵ月で449例を対象に行われた。・母体および出生児の特性は、介入群のほうで授乳期間が長期であったことを除けば、両群で類似していた。・母乳育児期間を調整後、介入群の出生児のアトピー性湿疹のオッズ比(OR)は、月齢12ヵ月時点では有意に低かった(OR:0.55、95%信頼区間[CI]:0.32~0.97、p=0.04)。・介入の影響は徐々に減弱し、月齢24ヵ月時(OR:0.76、95%CI:0.47~1.23)、月齢48ヵ月時(0.75、0.37~1.52)は統計学的な有意差は認められなかった。・月齢12ヵ月時の湿疹に関連した介入と母乳育児期間の統計学的相互作用について、有意性はみられなかった(p=0.41)。・ただし、介入群の乳児湿疹リスクの低下は、母乳育児期間が1ヵ月以上の乳児では有意差が認められたが(OR:0.48、95%CI:0.24~0.94、p=0.03)、1ヵ月未満の乳児では有意差は認められなかった(0.80、0.29~2.17、p=0.66)。

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サプリメントのCVDやがん予防効果に関するエビデンスは不十分

 心血管疾患(CVD)やがんの予防効果を期待してビタミンなどのサプリメント(以下、サプリ)を摂取している人は多い。こうした中、米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、ビタミンやミネラル、マルチビタミンなどのサプリの効果についてシステマティックレビューを実施し、CVDやがんの予防効果を裏付けるエビデンスは不十分であるとの結論に至ったことを発表した。CVDやがんの予防を目的としたサプリの摂取に関する今回の勧告は、2014年に発表された勧告の改訂版で、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に6月21日掲載された。 今回のUSPSTFの勧告は、妊婦を除いた健康な成人におけるマルチビタミンや1種類または2種類のサプリの摂取とCVDやがんの発症リスクの関係に関する84件の研究のシステマティックレビューに基づき策定された。その要点は、以下の通りである。 マルチビタミンを毎日摂取することで、がんのリスクがわずかに低下する可能性を示した研究はいくつかあるが、大局的に見ると、サプリがCVDやがんの予防に役立つと言うにはエビデンスが不十分である。これに対して、βカロテンとビタミンEのサプリについては、CVDやがんの予防に役立たないことを示すエビデンスが十分にあった。また、βカロテンに関しては、喫煙者やアスベストへの職業性曝露がある肺がんのハイリスク者において肺がんの発症リスクを高める可能性のあることを示す十分なエビデンスがあった。βカロテンはさらに、CVDによる死亡リスクを高める可能性も示された。 USPSTFの副委員長で米マサチューセッツ総合病院のMichael Barry氏は、「これはネガティブなメッセージではない。CVDやがんの予防において、ビタミンやミネラルの摂取は無益であると言っているわけではない」と説明し、慎重な解釈を求めている。その上で、「今後、より長期間にわたって追跡する研究や、異なる人種や民族を対象とした研究を重ねていき、結果にばらつきがあるかどうかを明らかにする必要がある」と付け加えている。 今回の勧告の策定に当たって実施された研究データの分析に関わった、米カイザー・パーマネンテEvidence-Based Practice Centerの副所長であるElizabeth O'Connor氏は、「ほとんどの場合、ビタミンやミネラルの補充によりがんやCVDの発症リスクが低下することはなかった」と説明している。 マルチビタミンのサプリを摂取した人では、プラセボを摂取した人と比べてがんの発症リスクがわずかに低下する(オッズ比0.93)ことを示す研究はあった。ただ、こうした研究には追跡期間が短いなどの限界があった。 また、重要な点として、今回の勧告は、栄養不足の人やその疑いがある人、妊娠中あるいは妊娠の可能性があり葉酸の摂取が必要な人などには当てはまらないことに留意しておく必要がある。 付随論評の執筆者で米ノースウェスタン大学のJenny Jia氏は、「ビタミンやミネラルサプリは健康な米国人にとっては特効薬とはならない」と指摘。サプリに頼るのではなく、果物や野菜が豊富なバランスの取れた食事や日常的な運動を心がけ、推奨されている検診を受けることが、CVDやがんの予防につながると話す。 一方、マルチビタミンに関しては、Jia氏とは異なる見方を示す専門家もいる。今回の研究には関与していない米ミシガン大学医療センターのMark Moyad氏は、「マルチビタミンはがんの発症リスクを低下させる可能性があり、その程度がわずかであっても小さなこととはいえない」と話している。

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国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」【下平博士のDIノート】第101回

国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」今回は、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「フィネレノン(商品名:ケレンディア錠10mg/20mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)の進行を防ぐMR拮抗薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月2日に発売されています。なお、原則としてACE阻害薬またはARBが投与されている患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはフィネレノンとして20mgを1日1回経口投与します。ただし、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の場合は10mgから投与を開始し、血清カリウム値・eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量します。なお、血清カリウム値が4.8mEq/L以下の場合は、投与量が10mgでもeGFRが前回の測定から30%を超えて低下していない限り20mgに増量します。一方、血清カリウム値が5.5mEq/L超える場合は投与を中止し、中止後に5.0mEq/Lを下回った場合には、10mgから投与を再開することができます。<安全性>2つの国際共同第III相試験(FIGARO-DKDおよびFIDELIO-DKD)では、安全性解析対象6,510例中1,206例(18.5%)において、臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。主な副作用は、高カリウム血症496例(7.6%)、低血圧92例(1.4%)、血中カリウム増加85例(1.3%)、血中クレアチニン増加69例(1.1%)、糸球体ろ過率減少67例(1.0%)などでした。また、重大な副作用として、高カリウム血症(8.8%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者における心臓や腎臓の機能低下を防ぎます。2.血圧が下がることにより、めまいやふらつきが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数あります。服用している薬剤や健康食品、サプリメントがあれば報告してください。4.グレープフルーツやグレープフルーツジュースは、薬の効果を強めてしまう恐れがあるため、摂取を避けてください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合はすぐに相談してください。また、カリウムの摂り過ぎや脱水、便秘には注意してください。6.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>近年、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が心腎保護作用の点から注目されています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)、エプレレノン(同:セララ錠)、エサキセレノン(同:ミネブロ)が発売されています。スピロノラクトンは女性化乳房などの副作用の課題があり、比較的それらの副作用が少ないエプレレノンも、中等度以上の腎機能障害患者(Ccr:50mL/min未満)や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。一方で、エサキセレノンは本剤と同様にステロイド骨格を持たないという特徴がありますが、適応は高血圧症のみとなっています。2つの臨床試験では、CKDステージが軽度~比較的進行した糖尿病性腎症の患者さんに、ACE阻害薬・ARBによる既存の治療を行った上で本剤を投与した結果、主要評価項目である心血管複合エンドポイントの発現リスクは13%、腎複合エンドポイントの発現リスクは18%、プラセボ群に比べ有意に低下させました。こういった結果をもたらした国内で初めてのMR拮抗薬であり、2型糖尿病合併CKDの適応を持つ唯一のMR拮抗薬です。相互作用で注意すべき点として、本剤は主にCYP3A4により代謝されるため、強力なCYP3A4阻害作用を持つ薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)を投与中の患者さんには禁忌となっています。また、併用注意の薬剤も多数あるので、併用薬はサプリメント等を含め、細やかに聞き取りましょう。MR拮抗薬といえば血清カリウム値上昇に注意が必要ですが、本剤はACE阻害薬あるいはARBとの併用が原則となっていることから、血清カリウム値のモニタリングが必須となります。対象患者の腎機能について、eGFRが60mL/min/1.73m2未満では投与量に制限があります。また、eGFRが25mL/min/1.73m2未満の場合は、本剤投与によりeGFRが低下することがあるため、リスクとベネフィットを考慮し投与の適否を慎重に判断することとされています。なお、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジン(同:フォシーガ)が2021年8月にCKDの適応を取得し、カナグリフロジン(同:カナグル)も、2022年6月に本剤と同じ2型糖尿病を合併するCKDに対する適応を取得しています。参考1)PMDA 添付文書 ケレンディア錠10mg/ケレンディア錠20mg

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熱中症の経験ありは35.7%、毎年経験は2.7%/アイスタット

 2022年の夏は、例年になく長く、猛暑になるとの予報がでている。そして、夏季に懸念される健康被害の代表として「熱中症」がある。厚生労働省から新型コロナウイルス感染症予防のマスクの着脱も夏を前に発表されたが、まだ時期早々という社会的な雰囲気からか浸透していない。実際、熱中症の経験や今夏のマスク着用の考え、熱中症の予防などについて、一般の人はどのよう考えているのだろうか。株式会社アイスタットは、6月13日にアンケートを実施した。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~69歳の有職者300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年6月13日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~69歳/全国の有職者)を対象アンケートの概要・熱中症の「経験あり」は35.7%、「経験なし」は64.3%。毎年経験は2.7%とわずか。・熱中症経験者の要因は、第1位「水分をこまめにとるのを忘れていた」の48.6%・熱中症の予防対策を行っている人は58%。熱中症の経験がある人ほど行っている。・「屋外でマスク着用を義務付けない」という新しい方針に対し、「常に着用する」が33%といまだ多い。・汗をかきやすいと回答した人の熱中症の経験有無は、大きな差がみられない。・熱中症の経験が「ある人」と「ない人」の飲みものの違い、第1位「麦茶」・熱中症の経験が「ある人」と「ない人」の生活習慣の違い、第1位「食欲不振が増える」・1年を通して健康障害が起りやすくなる時期は、第1位「8月」、第2位「7月」。熱中症経験者の夏季の水分補給は「麦茶」が人気 質問1で「今までに熱中症になったことがあるか」(単回答)を聞いたところ、「今までに一度もない」が64.3%、「今までに数回」が28.7%、「毎年ではないが経験したことは多い」が4.3%、「毎年、経験している」が2.7%の順だった。熱中症の経験の有無別に分類すると「経験あり」は35.7%、「経験なし」は64.3%で、3人に1人が熱中症を経験していた。また、「毎年、経験」を回答した人の属性をみると、「50代」「女性」「既婚」「関東地方」で多かった。一方、「今までに、一度もない」を回答した人の属性は、「60代」「男性」「未婚」「中国・四国・九州地方・沖縄」で多かった。 質問2で「(質問1で熱中症経験ありと回答した107名に対し)熱中症になったときの様子」(複数回答)を聞いたところ、「水分をこまめにとるのを忘れていた」が48.6%、同率で「寝不足や疲れなどで体調が悪かった」、「長時間、屋外にいた」、「真夏日・猛暑日であった」が41.1%だった。水分摂取不足だけでなく、複合的な要因で熱中症が起こることが示唆された。 質問3で「熱中症にならないように、毎年、予防対策を行っているか」(単回答)を聞いたところ、「どちらかといえば、行っている」が46.7%、「どちらかといえば、行っていない」が25.0%、「まったく行っていない」が17.0%、「常に行っている」が11.3%の順だった。熱中症の予防対策の有無別に分類すると、「行っている」は58%、「行っていない」は42%で、過半数を超える人が予防対策を行っている一方で、対策をしていない人も多く、これからの予防啓発の必要性をうかがわせる結果だった。 質問4で「夏シーズンが終わるまで、マスクの着用をどうするか」(単回答)を聞いたところ、「高温多湿の状況により、マスクの着用有無を使い分ける」が59%、「常にマスクを着用する」が33%、「常にマスクを着用しない」が8%の順だった。回答では状況を勘案して使い分ける人が多かったが、「常にマスクを着用」では、「熱中症経験なし」「20・30代」「男性」「北海道・東北地方」の回答者が多かった。その一方で「常にマスクを着用しない」では、「熱中症経験なし」「20・30代」「男性」「四国・中国・九州地方・沖縄」の回答者が多かったことから、回答に地域差がみられた。 質問5で「汗をかきやすいか」(単回答)を聞いたところ、「どちらかといえば、そう思う」が44.0%、「非常にそう思う」が28.0%、「どちらかといえば、そう思わない」が20.7%、「まったくそう思わない」が7.3%の順だった。汗のかきやすさ有無別に大きく分類すると、「そう思う」は72%、「そう思わない」は28%で回答者の約7割が「汗をかきやすい」と回答していた。 質問6で「夏の時期に毎日1回以上飲むもの」(複数回答)を聞いたところ、「水・ミネラルウォーター」が47.7%、「麦茶」、「緑茶・ウーロン茶など茶系統」が同率で35.7%だった。熱中症の経験が「ある人」と「ない人」の飲みものの主な違いは何かを「ある人」を基準に調べたところ8.5ポイントで「麦茶」、8.0ポイントで「アルコール」だった。「麦茶」は熱中症予防に良いと言われており、熱中症を経験したからこそ、リスク回避(予防)のために回答数が多いものと予想された。 質問7で「夏の生活習慣で、あてはまること」(複数回答)を聞いたところ、「冷たい物や飲み物をとる機会が増える」が63.0%、「入浴はシャワーですませることが多い」が37.0%、「運動不足がちとなる」の30.3%と続いた。なお、熱中症の経験が「ある人」と「ない人」の生活習慣の主な違いは何かを「ある人」を基準に調べたところ、「食欲不振が増える」が10.9ポイント、「シャワーや入浴の温度設定は平均39℃以下」が8.7ポイント、「寝不足・睡眠不足を感じる日が増える」が8.5ポイントの差であった。 質問8で「1年を通して、気圧・気温などの理由で、健康に障害が起りやすくなることがあるか。また、起りやすい月について」(複数回答)を聞いたところ、「なし」が42.3%、「8月」が20.0%、「7月」が18.7%、「6月」が15.7%の順だった。いずれも上位の月が暑い時期に集中し、夏季に健康障害が起りやすい傾向がうかがえた。

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オメガ3脂肪酸がニキビに効く?

 米国には5000万人のニキビ患者がいるとされる。人によってはニキビを恥ずかしいと感じたり、ときには痛みの症状を伴うことがある。このようなニキビに対する新たな治療法につながる研究結果が、欧州皮膚科学・性病学アカデミー(EADV)春季シンポジウム(5月12~14日、スロベニア・リュブリャナ)で発表された。この新しい治療法には、副作用の懸念がないという。 ルートヴィヒ・マクシミリアン大学(ドイツ)のAnne Gurtler氏らは、ニキビ患者100人を対象に血液中の栄養関連指標を検討。その結果、患者の約94%は、魚油やナッツ類に豊富に含まれている脂肪酸であるオメガ3脂肪酸(ω3FA)のレベルが、推奨される値よりも低いことが明らかになった。また、ニキビの生成を刺激することが知られている、インスリン様成長因子-1(IGF-1)のレベルが高かった。 本研究には関与していない、米国アーカンソー州の皮膚科医であるSandra Johnson氏はこの研究発表について、「非常に興味深い報告だ。われわれはニキビに有効な治療法を既に手にしているが、それらはコストがかかり、潜在的な副作用のリスクを伴う。それに対して食事療法は、より自然でリスクが少なくコストもかからない」と評価する。 Gurtler氏らの研究では、大半のニキビ患者のω3FAレベルが推奨される値を8~11%下回っていた。一方、ω3FAレベルが高い人は普段、ひまわり油を控え、ひよこ豆やレンズ豆を習慣的に食べていた。ひまわり油の過剰摂取はニキビを悪化させることが、過去の研究で示されている。Gurtler氏によると、ω3FAは抗炎症作用のあるプロスタグランジンE1やE3、およびロイコトリエンB5の生成を刺激し、IGF-1のレベルを下げることによって炎症を軽減するという。 IGF-1は、ニキビを誘発することが知られている。Gurtler氏らの研究からは、ω3FAレベルが低い患者は、IGF-1のレベルが高いことも示された。またω3FAレベルが極めて低い一部の患者は、IGF-1レベルが特に高かった。これらの研究結果を基に同氏は、「臨床医は、ニキビ治療の最新のアプローチの一つとして、食事の選択に関する情報を患者に提供する必要がある」と述べている。 なお、Johnson氏によると、ニキビに対する食事の影響はこれまでにも長年調査されてきたという。しかし、このテーマの研究には資金が十分集まらず、質の高い研究が少なかったとのことだ。本研究でニキビとの関連が示されたω3FAのほかには、グリセミック指数の高い食品、肥育ホルモンが使われている食肉、乳製品などについて、ニキビリスクを高める可能性を示唆する研究報告があるという。 米国ニューヨーク市の皮膚科医であるDebra Jaliman氏は、「ニキビの治療に際しては、患者が使っているスキンケア用品とともに、食事の好みについても把握するようにしている」と話す。Jaliman氏も本研究には関与していない。同氏は、「ω3FAはわれわれの食事において非常に重要な栄養素であり、多くの健康上のメリットと関連がある。今回の発表は観察研究のため、食事以外の因子が結果に関与している可能性もあるが、実際にω3FAには効果があるのではないか」と語っている。 ただ、研究者らは、血液中のω3FAレベルが低いニキビ患者にはω3FAサプリメントが有効と判断するのは、時期尚早であるとする。有効性を確かめる介入試験がまず必要とされる。またJohnson氏は、「ω3FAの潜在的な副作用リスクと、最適な投与量を確認する必要がある」と指摘している。Jaliman氏も「よりサンプル数の大きい研究が必要だ」と語る。ただ、同氏は「ω3FAサプリではなく、ω3FA含有量の高い食品を積極的に食べたとしても、それによる有害事象の心配はない」と話している。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

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添付文書改訂:カナグルに2型糖尿病CKD追加/ツートラムにがん疼痛追加/コミナティ、スパイクバックスに4回目接種追加/エムガルティで在宅自己注射が可能に/不妊治療の保険適用に伴う追記【下平博士のDIノート】第100回

カナグル:2型糖尿病患者のCKD追加<対象薬剤>カナグリフロジン水和物(商品名:カナグル錠100mg、製造販売元:田辺三菱製薬)<承認年月>2022年6月<改訂項目>[追加]効能・効果2型糖尿病を合併する慢性腎臓病。ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬については近年、心血管予後・腎予後の改善効果を示した大規模臨床研究が次々と発表されています。本剤は2型糖尿病患者の慢性腎臓病(CKD)に対する適応追加で、用法・用量は既承認の「2型糖尿病」と同じとなっています。2022年6月現在、類薬で「CKD」に適応があるのはダパグリフロジン(同:フォシーガ)、「心不全」に適応があるのはダパグリフロジンおよびエンパグリフロジン(同:ジャディアンス)となっています。ツートラム:がん疼痛が追加<対象薬剤>トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追加]効能・効果疼痛を伴う各種がん<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。今回の改訂で、がん患者の疼痛管理に本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマールOD錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。なお、ほかのトラマドール製剤(商品名:トラマール注、トラマールOD錠、ワントラム錠)は、すでにがん疼痛に対する適応を持っています。参考日本臓器製薬 ツートラム錠 添付文書改訂のお知らせコミナティ、スパイクバックス:4回目接種が追加<対象薬剤>コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:コミナティ筋注、製造販売元:ファイザー/商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追記]接種時期4回目接種については、ベネフィットとリスクを考慮したうえで、高齢者等において、本剤3回目の接種から少なくとも5ヵ月経過した後に接種を判断することができる。<Shimo's eyes>オミクロン株流行期において、ワクチン4回目接種による「感染予防」効果は短期間とはいえ、「重症化予防」効果は比較的保たれると報告されています。それを踏まえ、4回目の追加接種の対象は、60歳以上の者、18歳以上60歳未満で基礎疾患を有する者など、重症化リスクが高い方に限定されました。また、3回目以降の追加免疫の間隔はこれまで「少なくとも6ヵ月」となっていましたが、今回の改訂で「少なくとも5ヵ月」と短縮されました。追加免疫の投与量については、コミナティ筋注は初回免疫(1、2回目接種)と同じく1回0.3mL、スパイクバックス筋注の場合は、初回免疫は1回0.5mLですが、追加免疫では半量の1回0.25mLとなっています。参考ファイザー 新型コロナウイルスワクチン 医療従事者専用サイト武田薬品COVID-19ワクチン関連特設サイト<mRNAワクチン-モデルナ>エムガルティ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ガルカネズマブ(遺伝子組み換え)注射液(商品名:エムガルティ皮下注120mgオートインジェクター/シリンジ、製造販売元:日本イーライリリー)<承認年月>2022年5月<改訂項目>[追記]重要な基本的注意、副作用自己投与に関する注意<Shimo's eyes>薬価収載から1年が経過し、本剤の在宅自己注射が可能となりました。承認された経緯としては、日本頭痛学会および日本神経学会から要望書が出されていました。自己注射が可能になることで、毎月の通院が難しかったケースでも抗体医薬を用いた片頭痛予防療法を実施しやすくなることが期待されます。本剤の投与開始に当たっては、医療施設において必ず医師または医師の直接の監督の下で投与を行い、自己投与の適用についてはその妥当性を慎重に検討します。自己注射に切り替える場合は十分な教育訓練を実施した後、本剤投与によるリスクと対処法について患者が理解し、患者自らの手で確実に投与できることを確認したうえでの実施となります。参考日本イーライリリー 医療関係者向け情報サイト エムガルティフェマーラほか:不妊治療で使用される場合の保険適用<対象薬剤>レトロゾール錠(商品名:フェマーラ錠2.5mg、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<承認年月>2022年2月<改訂項目>[追加]効能・効果生殖補助医療における調節卵巣刺激[追加]用法・用量通常、成人にはレトロゾールとして1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間経口投与する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5mgに増量できる。<Shimo's eyes>2022年4月から、不妊治療の経済的負担を軽減するために生殖医療ガイドライン等を踏まえて、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」について、保険適用されることになりました。アロマターゼ阻害薬である本剤は、従前の適応は閉経後乳がんでしたが、不妊治療に用いる場合、閉経前女性のエストロゲン生合成を阻害する結果、卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌が誘導され、卵巣内にアンドロゲンが蓄積し、卵巣が刺激されて卵胞発育が促進されます。ほかにも、プロゲステロン製剤(商品名:ルティナス腟錠等)は「生殖補助医療における黄体補充」、エストラジオール製剤(同:ジュリナ錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」「凍結融解胚移植におけるホルモン補充周期」、さらに卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤(同:ヤーズフレックス配合錠、ルナベル配合錠等)は「生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整」の適応がそれぞれ追加されています。バイアグラほか:男性不妊治療に保険適用<対象薬剤>シルデナフィルクエン酸塩錠(商品名:バイアグラ錠25mg/50mg、同ODフィルム25mg/50mg、製造販売元:ヴィアトリス製薬)タダラフィル錠(商品名:シアリス錠5mg/10mg/20mg、製造販売元:日本新薬)<承認年月>2022年4月<改訂項目>[追加]効能・効果勃起不全(満足な性行為を行うに十分な勃起とその維持ができない患者)[追加]保険給付上の注意本製剤が「勃起不全による男性不妊」の治療目的で処方された場合にのみ、保険給付の対象とする。<Shimo's eyes>こちらも少子化社会対策として、従前の勃起不全(ED)の適応は変わりませんが、保険適用となりました。本製剤について、保険適用の対象となるのは、勃起不全による男性不妊の治療を目的として一般不妊治療におけるタイミング法で用いる場合です。参考資料 不妊治療に必要な医薬品への対応(厚労省)

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