ビタミンDで寿命延伸?

ビタミンD不足のために骨がもろくなることはよく知られているが、そればかりでなく、早期死亡のリスクも高まることが、英国の30万人以上のデータを解析した結果として報告された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のJoshua Sutherland氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に10月25日掲載された。
ビタミンDは、食べ物から栄養素として吸収される以外にも、日光を浴びた時に皮膚で合成されることから“太陽のビタミン”と呼ばれる。ビタミンDの機能性としては古くから骨代謝との関連が知られている。ただし、ビタミンDの受容体は全身のさまざまな臓器や組織に発現していて、骨代謝以外の機能調節にも関わっていることが明らかになってきている。これを背景にSutherland氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UK Biobank」のデータを用いた解析により、ビタミンDの健康維持における重要性を検討した。
イングランド、スコットランド、ウェールズに住む約50万人のUK Biobank登録者から、健康状態に関する情報と遺伝関連情報の双方を利用可能な30万7,601人を抽出し解析対象とした。この解析対象者は2006年3月~2010年7月に登録されており、登録時の年齢は37~73歳の範囲だった。
2020年6月までの14年間の追跡で1万8,700人が死亡。非線形メンデルランダム化解析という手法で検討した結果、遺伝的に予測されるビタミンDレベルと全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが、L字型の非線形の関係にあることが分かった(P<0.001)。具体的には、ビタミンDレベルが50nmol/L以下では、そのレベルが高いほど全死亡リスクが急速に低下することが示された。また、ビタミンDレベルが25nmol/Lの人と50nmol/Lの人を比べると、前者の全死亡リスクが25%高かった。
死因別に見ると、遺伝的に予測されるビタミンD欠乏は、心血管死のリスクを25%、がん死リスクを16%、呼吸器関連疾患による死亡リスクを96%上昇させる可能性が浮かび上がった。さらにビタミンDレベルと死亡リスクとの関連は用量反応関係が認められ、極端な欠乏では全死亡や心血管死リスクは6倍、がん死リスクは3倍、呼吸器関連疾患死のリスクは12倍高くなる可能性が示された。
この研究で明らかになったことのうち、ビタミンDとがん死リスクとの関連について、米ジョージア大学のEmma Laing氏は、「両者の関連を裏付ける医学的なエビデンスがある」と語る。同氏によると、ビタミンDには抗炎症作用を含む多様な生物学的作用があり、がん細胞の増殖を遅らせることが示されているとのことだ。また、「ビタミンDは、血圧や心血管の健康にも関与しているようだ。ビタミンD摂取がコレステロールと血圧を低下させることが、複数の研究で示されている。ただ、それらの研究結果には一貫性がなく、より多くの研究が必要とされている段階だ」と話す。一方、Sutherland氏は「ビタミンD受容体が全身に見られることから、ビタミンDはいくつかの特定の疾患リスクを下げるだけでなく、人体にとってより基本的で重要な意味を持っているのではないか」と話す。
Sutherland氏、Laing氏はともに、「日光を十分に浴びていない人は、脂ののった魚、キノコ、牛乳などのビタミンDが豊富な食品を食べるべき」とし、また必要に応じたサプリメントの摂取も勧めている。さらにLaing氏は、「高齢者はビタミンDの吸収が低下していることが多い。食事からビタミンDを得ることができていない懸念がある場合は、医師にサプリメントの必要性を尋ねると良い」と述べている。
[2022年10月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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