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父親の厳しい子育てが子供のメンタルヘルスに影響

 青年期における厳しい子育ては、抑うつ症状のリスクを高める可能性がある。しかし、その影響には個人差があり、リスクを増悪または軽減させる要因を明らかにする必要がある。睡眠の問題は、対処能力を低下させるだけでなく、厳しい子育てを増幅させる可能性もある。米国・ニューメキシコ大学のRyan J. Kelly氏らは、青年期の睡眠を調整因子として、青年期の厳しい子育てとその後の抑うつ症状の関係を調査した。Sleep Health誌オンライン版2025年9月17日号の報告。 9年間にわたる5wave(子供の年齢が16、17、18、23、25歳)研究を実施した。16歳で研究に参加した家族は245組(女性の割合:52%、白人/ヨーロッパ系米国人:67%、黒人/アフリカ系米国人:33%)、5waveすべてに参加した家族は132組であった。母親と父親は、16〜18歳までに子供に行った厳しい子育て(言葉による虐待および身体的な虐待)の頻度について報告した。16〜18歳までの子供の睡眠時間および睡眠の質(睡眠維持効率、長時間覚醒エピソード)の測定には、アクティグラフィーを用いた。抑うつ症状は、5waveのすべてで自己申告により評価した。 主な結果は以下のとおり。・自己回帰効果をコントロールした後、構造方程式モデルを用いて、青年期における父親の厳しい子育てと成人初期の抑うつ症状との関連を悪化させる因子は、青年期における睡眠時間の短縮、睡眠維持効率の低下、長時間覚醒エピソードの増加であることが明らかとなった。【青年期における睡眠時間の短縮】β=-0.16、p<0.03【睡眠維持効率の低下】β=-0.30、p<0.001【長時間覚醒エピソードの増加】β=0.24、p=0.004・母親の厳しい子育ては、青年期の睡眠状況に関わらず、リスク変化に影響しなかった。 著者らは「青年期における父親の厳しい子育てと睡眠障害との相互作用は、成人初期の抑うつ症状を予測する可能性が示された。これらの結果は、父親の厳しい子育てを受けた子供のメンタルヘルスを改善するうえで、睡眠を考慮することの重要性を示唆している」と結論付けている。

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ナルコレプシー治療にパラダイムシフト、oveporextonが第III相試験の評価項目をすべて改善、先駆的医薬品にも指定/武田

 武田薬品工業の経口オレキシン2受容体(OX2R)選択的作動薬oveporexton(TAK-861)はナルコレプシータイプ1(NT1)に対する第III相試験で有望な結果を示した。その結果は世界睡眠学会で発表された。また、同薬は国内では先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定された。 NT1は、脳内のオレキシンニューロンが減少することで引き起こされる慢性かつまれな神経疾患であり、日常生活に支障を来すさまざまな症状を引き起こす。oveporextonはオレキシンの欠乏に対処することで、NT1の広範な症状を改善する。現在、NT1の原因となるオレキシン欠乏を標的とする治療薬はなく、認可されればoveporextonがファースト・イン・クラスとなる。世界睡眠学会「World Sleep 2025」での第III相試験結果 2025年9月に行われた世界睡眠学会「World Sleep 2025」では、oveporextonに対する2つの国際共同第III相試験(FirstLightとRadiantLight試験)のデータが発表された。両試験には19ヵ国273例の被験者が登録されている。両試験の主要・副次すべての評価項目で統計学的に有意な改善が認められた。以下が主な項目の結果である。 日中の過度の眠気(EDS):12週時点の覚醒維持検査(MWT)による、平均睡眠潜時およびエプワース眠気尺度(ESS)スコアのベースラインからの変化とも、プラセボ群と比べoveporexton群で統計学的に有意な改善を示した。とくに2mg×2/日投与群においては、被験者の大多数で平均睡眠潜時が正常範囲内(≧20分)まで改善し、健康成人と同程度のESSスコア(≦10)を達成した被験者は85%近くであった。 カタプレキシー(情動脱力発作)発現率:1週間あたりのカタプレキシー発現率(WCR)はプラセボ群に比べ、oveporexton群で12週にわたり有意に低下した(ベースラインからの変化率の中央値は80%超)。oveporexton群におけるカタプレキシーが発現しない日の頻度は、ベースライン時の0日/週から12週時には4〜5日/週に改善した。 症状の重症度:ナルコレプシー重症度尺度(NSS-CT)の総スコアにおいて、プラセボ群に比べ、oveporexton群で統計学的に有意な変化を示した。70%を超える被験者が最低重症度(軽度、スコア0〜14)を示した。 安全性プロファイル:oveporextonの忍容性はおおむね良好であり、安全性プロファイルはこれまでの臨床試験と同様で、治験薬と関連のある重篤な有害事象の報告はなかった。先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定 oveporexton(TAK-861)は、2025年9月29日、NT1を予定される効能又は効果として厚生労働省より先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定された。今回の指定は国際共同第IIb相臨床試験(TAK-861-2001試験)の結果に基づくものである。 なお、oveporextonは同国際共同第IIb相臨床試験のデータに基づき、米国食品医薬品局(FDA)および中国国家食品薬品監督管理局からも、NT1患者の日中の過度の眠気に対する治療薬としてブレークスルーセラピーに指定されている。

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災害時に不眠を訴える避難者への対応【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第7回

災害時に不眠を訴える避難者への対応大地震の後、余震が続く避難所において、不眠を訴える高齢の避難者がいます。本人はこれまで睡眠障害を経験したことはないものの、慣れない避難生活により睡眠が十分に取れず、体調を崩すことへの不安を口にしています。こうした状況にどのように対応すればよいでしょうか?災害時の不眠私自身、東日本大震災の医療支援として南三陸町に入った際、小学校の校舎を避難所として使用しました。当時は灯油が不足し、暖房が使えない中、寝袋にくるまっても寒さでまったく眠れなかった経験があります。避難者は、住居の損壊、親族の安否への不安、さまざまな環境要因により、十分な睡眠が得られないことは容易に想像できます。事実、東日本大震災後には、東京において不眠を訴える人が普段の1.5~2倍に増加し、被害の少なかった大阪でも、繰り返される被災映像の影響で急性ストレス障害に似た症状が現れ、不眠が増加したことが報告されています1)。避難所や車中泊は、自宅と比較して、睡眠環境(騒音・寒冷/暑熱・硬い寝具・プライバシー欠如)が悪く、睡眠連続性を悪化させ、自律神経・血糖変動にも影響することが示されました2)。今回は、災害時の睡眠障害について、その対応を概説します。DPATの介入が必要な不眠避難者に対して、まずせん妄や精神病症状の有無を確認することが大切です。強い不眠を訴え、その後、朦朧状態になったり、不穏・興奮状態のほか、手の震えや発汗、動悸などがみられればせん妄を疑います。習慣的に飲酒のある方が震災後に急に断酒した後、せん妄が出現することがあります(振戦せん妄)。また、大切な人を亡くして自殺念慮がある場合もあります。これらの症状がみられた場合には、DPAT(災害派遣精神医療チーム)へ相談が必要です3)。DPATは、被災地域の支援を目的とした専門的な研修・訓練を受けた災害派遣精神医療チームであり、私は何度も一緒に活動したことがありますが、とても親身になり専門的な介入をしてくれます。非薬物療法が原則せん妄や精神症状でない場合には、原則、非薬物療法が最優先されます。「眠れないから薬がほしい」と希望される方もいますが、災害など大きな精神的ストレスがかかった直後の睡眠問題は一般的であり、決して珍しいことではないこと、自然軽快が多いことを説明します。避難所の管理者と相談し、環境を整えるように努めることも大切です。具体的には、マットや毛布など寝具の整備、夜間の騒音・光の低減、就寝スペースの区画、耳栓・アイマスク配布などが推奨されています2)。夜間に消灯して眠る、というのは実は容易ではなく、逆に目がさえることもあり、寝なくてはいけない、という強迫観念も不眠を助長します。そのようなときは、昼寝を取り入れる、夜中起きていられるスペースを作ってあげることも有効です。不眠には、睡眠に対する考え方(認知)が関与しているといわれています。睡眠に対する考え方を指導してくれるCognitive Behavior Therapy for Insomnia(CBT-I)と呼ばれる不眠症に対する認知行動療法があり4)、これもDPATに相談してもいいでしょう。実際の例として、私自身も不眠を感じるときにはYouTubeで漫才を聴くようにしています。すると条件反射のように眠りにつくことができ、漫才を最後まで聴き終えたことはほとんどありません。やむを得ない場合の薬物療法もともと不眠で睡眠薬が処方されている場合、離脱症状が出現する場合があるので継続することが必要です。残量が少ない場合には錠剤を半分に割るといった工夫をするように指導します。どうしてもやむを得ない場合には、短期間のベンゾジアゼピン系の睡眠剤を短期間使用することもありますが、依存性・転倒のリスクもあり、例外的です。小児や思春期には原則処方しないこととされています5)。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の三島 和夫先生が書かれた「震災時の睡眠マニュアル6)」はわかりやすく、とても読みやすいので参考にしていただければ幸いです。また、非専門家や一般の方向けに、被災者や犯罪の被害を受けた方などと関わる時の対応として、「サイコロジカルファーストエイド(心理的応急処置)」を知っておくことが推奨されています7)。WHOが中心となって開発したものが最も広く用いられています。 1) Sugiura H, et al. Prevalence of Insomnia Among Residents of Tokyo and Osaka After the Great East Japan Earthquake: A Prospective Study. Interact J Med Res. 2013;2:e2. 2) Ogata H, et al. Evaluation of Sleep Quality in a Disaster Evacuee Environment. Int J Environ Res Public Health. 2020;17:4252. 3) DPAT(災害派遣精神医療チーム) 4) Edinger JD, et al. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17:255-262. 5) Sateia MJ, et al. Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2017;13:307-349. 6) 三島和夫. 震災に関連した不眠・睡眠問題への対処について. 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 7) 国立精神・神経医療研究センター ストレス・災害時こころの情報支援センター. WHO版PFAマニュアル

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大豆製品の摂取と不眠症との関係

 不眠症は、中高年にさまざまな悪影響を及ぼす疾患である。食生活の調整により、不眠症の改善が期待できることが注目を集めている。中国・温州医学大学のLanrong Sun氏らは、中高年における大豆製品の摂取と不眠症の関連性を調査し、炎症性因子の役割を検証するため、横断的研究を実施した。Nature and Science of Sleep誌2025年8月13日号の報告。 対象は、台州市温嶺病院の心臓内科を受診または入院した45歳以上の中高年877例(女性の割合:35.01%)。大豆製品の摂取量は、食品摂取頻度質問票(FFQ)を用いて評価した。睡眠状態は、不眠症重症度指数(ISI)を用いて定量化した。大豆製品の摂取量の中央値(IQR)は週1回以下(週1回以下、週2~6回)であり、不眠症スコアの平均値は、5.43±5.13であった。 主な結果は以下のとおり。・中国の中高年成人において、大豆製品の摂取量は不眠症(|r|s≧0.117、ps<0.001)と負の相関を示した。・また、C反応性タンパク質(CRP、調整済みβ:-0.139、95%信頼区間[CI]:-0.265~-0.012)、腫瘍壊死因子α(TNF-α、調整済みβ:-0.049、95%CI:-0.091~-0.006)、トリグリセライド(TG、調整済みβ:-0.043、95%CI:-0.085~-0.000)との負の相関を示した。・大豆製品の摂取量と白血球数、好中球絶対数、血小板数、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-6、ヘモグロビン、赤血球数、低密度リポタンパク質コレステロール、高密度リポタンパク質コレステロール、総コレステロールとの間に有意な相関は認められなかった。 著者らは「中高年において、大豆製品の摂取量が少ないと不眠症の発生率が高くなることが示された。さらに、大豆製品の摂取量は、末梢血のCRP、TNF-α、TGレベルと負の相関関係にあることも明らかとなった。バランスの取れた食事を通じて中高年の睡眠を改善するための新たな臨床的視点を提示するものであり、睡眠には炎症や脂質が重要な役割を果たす可能性があることが示唆された」と結論付けている。

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経口抗凝固療法中の慢性冠症候群患者、アスピリン併用は?/NEJM

 経口抗凝固薬を服用中のアテローム血栓症リスクが高い慢性冠症候群患者において、アスピリンの追加投与はプラセボと比較し、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術または急性下肢虚血の複合アウトカムのリスクを増加させ、さらに全死因死亡および大出血のリスクも高める。フランス・リール大学のGilles Lemesle氏らが、同国の51施設で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化試験「Assessment of Quitting versus Using Aspirin Therapy in Patients with Stabilized Coronary Artery Disease after Stenting Who Require Long-Term Oral Anticoagulation trial:AQUATIC試験」の結果を報告した。長期経口抗凝固療法中の高リスク慢性冠症候群患者に対する適切な抗血栓療法のレジメンは依然として明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2025年8月31日号掲載の報告。ステント留置後6ヵ月以上経過した経口抗凝固療法中の慢性冠症候群患者が対象 研究グループは、登録の6ヵ月以上前に冠動脈ステント留置術を受け、アテローム血栓症リスクが高く長期にわたり経口抗凝固療法を受けている慢性冠症候群成人患者を対象とし、アスピリン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、経口抗凝固療法継続下でそれぞれ100mgを1日1回投与した。 継続する抗凝固療法が経口抗凝固薬と1種類の抗血小板薬であった場合、その1種類の抗血小板薬がアスピリンであればアスピリン継続投与群または中止群に無作為に割り付け、経口抗凝固薬単独であった場合は、アスピリン開始群または非開始群に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、全身性塞栓症、冠動脈血行再建術、急性下肢虚血の複合であった。安全性の主要アウトカムは大出血(国際血栓止血学会[ISTH]の定義による)とした。アスピリン追加で全死因死亡率が増加 2020年5月~2024年4月に計872例が無作為化され、アスピリン群433例、プラセボ群439例に割り付けられた。 なお、本試験は追跡期間中央値2.2年後、アスピリン群における全死因死亡率の増加が認められため、独立データ安全性モニタリング委員会(IDSMB)の勧告に基づき、2024年4月16日に患者登録が中止された(最終追跡調査日2025年5月16日)。 有効性の主要アウトカムのイベントは、アスピリン群で73例(16.9%)、プラセボ群で53例(12.1%)に発生した(補正後ハザード比[HR]:1.53、95%信頼区間[CI]:1.07~2.18、p=0.02)。全死因死亡の発生は、それぞれ58例(13.4%)、37例(8.4%)であった(補正後HR:1.72、95%CI:1.14~2.58、p=0.01)。 大出血は、アスピリン群で44例(10.2%)、プラセボ群で15例(3.4%)に認められた(補正後HR:3.35、95%CI:1.87~6.00、p<0.001)。アスピリン群およびプラセボ群で、それぞれ201例467件、192例395件の重篤な有害事象が報告された。

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RSウイルスワクチンの1回接種は高齢者を2シーズン連続で守る

 米国では、60歳以上の人に対するRSウイルス感染症を予防するワクチン(RSウイルスワクチン)が2023年より接種可能となった。米疾病対策センター(CDC)は、75歳以上の全ての人と、RSウイルス感染症の重症化リスクがある60〜74歳の人は1回接種を推奨している。このほど新たな研究で、高齢者はRSウイルスワクチンの1回接種により2シーズン連続でRSウイルス関連の入院を予防できる可能性のあることが示された。米ヴァンダービルト大学医療センターのWesley Self氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月30日掲載された。 Self氏は、「これらの結果は、RSウイルスワクチンにより高齢者のRSウイルス感染による入院や重症化を予防できることを明確に示している。この新しいワクチン接種プログラムが公衆衛生に有益であることを目の当たりにするのは本当に喜ばしいことだ」と話している。 研究グループによると、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて60歳以上の高齢者に深刻な影響を及ぼし、毎年15万人が入院、8,000人が死亡しているという。Self氏らは今回、2023年10月1日~2024年3月31日、または2024年10月1日~2025年4月30日のRSウイルス流行期に急性呼吸器疾患により米国20州の26病院に入院した60歳以上の人6,958人(年齢中央値72歳、女性50.8%)を対象に、RSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性を検討した。対象者のうち、821人(11.8%)はRSウイルス感染症症例(症例群)、6,137人が対照群とされた。また、1,829人(26.3%)は免疫抑制状態にあった。 RSウイルスワクチンを接種していたのは、症例群で63人(7.7%)、対照群で966人(15.7%)だった。2シーズンを合わせたワクチンの有効性は58%と推定された。また、RSウイルス感染症の発症と同じシーズンに接種した場合のワクチンの有効性は69%、前シーズンに接種した場合の有効性は48%であったが、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.06)。さらに、2シーズンを合わせたワクチンの有効性は、免疫抑制状態にない群で67%であったのに対し、免疫抑制状態にある群では30%と有意に低かった。同様に、非心血管疾患患者でのワクチン有効性は80%であったのに対し、心血管疾患を有する群では56%と有意に低かった。 Self氏は、「われわれのデータは、RSウイルスワクチンの有益な効果は時間の経過とともに弱まる傾向があることを示している」とヴァンダービルド大学のニュースリリースで述べている。 CDCのウェブサイトには、「すでに1回接種を受けた人(昨年を含む)はワクチン接種を完了と見なされ、現時点で追加の接種を受ける必要はない」と記載されている。Self氏は、「本研究結果は、ガイドラインの見直しが必要である可能性があることを示している。初回接種後、一定の間隔を置いてワクチンを再接種することは、より長期間にわたりRSウイルスに対する予防効果を維持するための戦略となり得る」と述べている。その上で同氏は、「単回接種後の効果の持続期間や再接種の必要性について理解するために、ワクチンの有効性を今後も綿密にモニタリングしていくことが重要だろう」との見方を示している。

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ほら貝を吹くと、睡眠時無呼吸の症状が改善【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第290回

ほら貝を吹くと、睡眠時無呼吸の症状が改善「睡眠時無呼吸の治療に“ほら貝”?」——そんな一見ユニークな研究が、ERJ Open Research誌に掲載されました。インドの研究チームが挑んだのは、ほら貝を吹くことによる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)への効果検証です。Sharma KK, et al. Efficacy of blowing shankh on moderate sleep apnea: a randomised control trial. ERJ Open Res. 2025 Aug 10. [Epub ahead of print]OSAは気道の閉塞により夜間低酸素や睡眠分断を繰り返し、日中の眠気や生活の質低下をもたらす疾患です。ゴールドスタンダードはCPAP(持続陽圧呼吸療法)ですが、実臨床では「使い続けられない」という問題にしばしば直面します。とくに中等症の患者では「症状はあるけれど、CPAPをすぐ導入するほどではない」というケースも多く、より取り組みやすい代替療法が模索されてきました。ほら貝の演奏は、強い呼気を伴うため、口腔・咽頭・胸郭の筋肉を鍛え、気道の虚脱を減らすのではないかと考えられています。研究者の一部は、臨床経験として「ほら貝吹奏習慣のあるOSA患者が症状改善を示した」と報告しており、それを科学的に検証したのが今回の試験です。対象となったのは、平均年齢約50歳、BMIが29前後の中等症OSA患者30例です。ランダムに2つの群に分けられ、一方はほら貝を吹き、もう一方は深呼吸運動(sham群)を行いました。いずれも1日15分、週5日、半年間続けるという条件でした。主要評価項目には日中の眠気を測定するエプワース睡眠スケール(ESS)が用いられ、副次的に睡眠の質(PSQI)や無呼吸低呼吸指数(AHI)も調べられました。結果は興味深いものでした。ほら貝を吹いた群ではESSが平均で5点低下し、34%という改善がみられました。この変化は深呼吸運動を行ったsham群と比較しても有意であり、PSQIも有意に改善し、AHIは平均で毎時4回以上減少しました。とくにREM睡眠期の無呼吸は20%以上減少しており、sham群ではむしろ増加がみられたのに対して、臨床的に意義のある差と評価できるものでした。さらに頸囲の縮小や夜間最低SpO2の改善も観察され、全体として「気道が保たれやすくなった」ことを示唆する所見が揃いました。「日中の眠気がよくならない」と相談されたら、「ほら貝、やってみますか?」なんてアドバイスをする日が来るかも?

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レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?【外来で役立つ!認知症Topics】第33回

レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?認知症には70以上もの原因疾患があるが、レビー小体型知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)、血管性認知症に次ぎ3番目に多い。ADのMCI(軽度認知障害)の特徴はわかっていても、「MCIレベルのDLBの特徴は?」と問われると、筆者は最近まで「はて?」という状態であった。DLB研究の元祖である小阪 憲治先生の名言に「DLBを知れば知るほど、その幅広さがわかってくる」というものがある。臨床の場でこの病気の患者さんを診ていると、一言でDLBといっても、見られる症候は実にさまざまであり、この言葉はまさに至言である。また、この病気の大脳病理について経験豊かな友人が次のように教えてくれた。「レビー小体病といっても、さまざまな病変分布や病理の程度にグラデーションがあって、検査前の見込みと検査結果はしょっちゅう乖離する。ADのほうがずっと簡単」と。DLBの診断では、激しい寝ぼけ(レム睡眠行動障害)、幻視、パーキンソン症候、そして認知機能などの変動が大きいことが軸である。DLBの権威であるIan G. McKeith氏らによれば、MCIレベルのDLBには3つの表現型がある。まず「精神症状初発型」、次に「せん妄初発型」、さらに認知機能障害パターンから分類される「MCI-LB」タイプである。今回は、この3つについてまとめてみたい。1)精神症状初発型他の認知症性疾患と比べたとき、DLBの初発症状として、老年期になって初発する大うつ病や精神病は、とても際立っている。代表的な症状としては、人の姿が見えるといった幻視、家族を偽物だと思い込むような妄想や誤認がある。また、アパシー(無気力)、不安がある。こうした症状で初発する認知症性疾患は他にまずないため、これらの症状はDLBを疑う大きなヒントになる。レム睡眠行動障害(RBD)も有用な着眼点になるが、抗うつ薬を使うことによってRBDが生じることもあるので、ここは要注意である。また、DLB を疑ううえで、パーキンソン症状の中で、動作緩慢よりも振戦や筋硬直のほうが、より有用である。なお、精神病発症型のDLB発症時では、パーキンソン症候、認知機能の変動、幻視、RBDという典型症候がみられたのは、わずか3.8%にすぎなかったという報告がある1)。この数字が語るのは、目の前の患者さんは「精神疾患に間違いない、まさかDLBとは!」と誰もが思ってしまう落とし穴だろう。2)せん妄初発型認知機能の変動、意識の清明度・覚醒度の変化は、DLBの中核症状である。そのため、せん妄で初発する人も多い。これまで認知機能障害がなかった人で、いきなりせん妄が生じるのはなぜだろうか? まずDLBという病態はせん妄を来しやすい素地を持っているのかもしれないし、あるいは曇りを伴う重篤な意識の変動をせん妄とみている可能性もある。さらにはこれら両者なのかもしれないが、答えはわからない。ところで、せん妄初発のDLBの存在に留意することには別の意義もある。というのは、一般的なせん妄に対する第1選択薬は抗精神病薬とされるが、もしこの型のDLBにこうした薬剤を投与したら、症状が悪化する可能性が高いからである。なお、せん妄や意識変動はDLB患者の介護者の43%が報告するほど多く、4人に1人のDLB患者がせん妄を繰り返し、累積の回数はAD患者のそれの約4倍といわれる。また、DLBが診断される前にみられるせん妄は、ADに比べて6倍近く高い。高齢患者においてせん妄が長引く場合、実は背後にDLBが隠れていると考えるべきとされる。つまり、「病歴にせん妄が多ければDLBを想起!」である。3)MCI-LBMCIの概念は、1990年代のRonald C. Petersen氏による提唱で有名になったが、それは「アルツハイマー病前駆状態では、他の認知機能は保たれているのに記憶のみが障害される」というものであった。このオリジナルの概念に改変がなされ、現在では「記憶障害」対「非記憶の認知機能障害」、障害される認知領域が「単数」対「複数」という基準で4つのMCI亜型に分類されるようになった。Petersen氏の提唱したオリジナルMCIは、ADの予備軍における「記憶障害」+「単数」である。しかし、レビー小体型認知症の前駆状態であるMCI-LBは、「非記憶障害」が基本で、障害領域は「単数」も「複数」もある。とくに最初期には、本人も介護者も記憶障害を訴えないことが珍しくない。つまり記憶障害は比較的軽い一方で、主に注意や遂行機能障害といった前頭葉の機能障害がみられる。また錯視など、視覚認知に障害を認める例もある。いずれにせよ、記憶障害単独型MCIのADコンバートに対して、「非記憶型」のMCI-LBがADになることはまれで、その10倍もDLBになりやすい。4)その他の留意点DLBにおけるRBDの意味RBD(レム睡眠行動障害)はDLB診断において重要である。ある12年間の追跡調査では、RBDを持つ人の73.5%が、 DLBなど神経変性疾患にコンバートしたという報告もある2)。悪夢は周囲の人によって気付かれ、RBD診断の手がかりになるが、鑑別すべきものに睡眠時無呼吸症候群、睡眠中のてんかん発作などがある。確実な診断には、ポリソムノグラフィによる測定が望まれる。どんなタイプのMCIであれ、RBDを伴うときはDLBを想起すべきである。自律神経症状などDLB患者で、初診時に自律神経障害を認めることもまれではない。便秘、立ちくらみ、尿失禁、勃起障害、発汗増加、唾液増加などのどれか1つ以上が、25~50%の患者で見つかる3)。しかし、こうした症状は他のさまざまな疾患でも見られるため、それらがあるからといって必ずしもDLBだと思う必要もない。なお、無嗅覚症もDLBのMCI期によくみられるが、その原因は数多あるため(たとえば新型コロナウイルス感染症など)、診断的価値がとくに高いわけではない。1)Gunawardana CW, et al. The clinical phenotype of psychiatric-onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review. J Neurol. 2024;271:606-617.2)Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. 2019;142:744-759.3)McKeith IG, et al. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. 2020;94:743-755.

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長らく日の目を見なかったアミリンが抗肥満薬として復活した(解説:住谷哲氏)

 アミリン(amylin)、別名膵島アミロイドポリペプチド(islet amyloid polypeptide:IAPP)は、インスリンと同時に膵β細胞から分泌されるホルモンである。アミリンには消化管運動調節作用があり食後の血糖上昇を抑制することから、すでに20年前にアミリンアナログであるpramlintideが商品名SymlinとしてFDAに血糖降下薬として承認されている(日本では未承認)。しかしpramlintideは半減期が短く、1日3回の注射が必要であるためほとんど使用されていない。 アミリンは当初から食欲中枢に作用して食欲を低下させることが知られていた1)。そこでアミリンの分子構造を変化させることで週1回投与を可能にしたcagrilintideが抗肥満薬として開発された。プラセボと比較した第II相試験では、cagrilintide 2.4mgはプラセボと比較して9.7%の体重減少をもたらした2)。さらに本試験の前段階である第Ib相の臨床試験において、cagrilintide 2.4mg+セマグルチド2.4mg(CagriSema)の投与は17.1%の体重減少をもたらすことが報告されている3)。 本論文は2型糖尿病を合併していない肥満患者に対するCagriSemaの体重減少作用をプラセボおよびcagrilintide、セマグルチドそれぞれ単剤と比較した第IIIa相試験の報告である(2型糖尿病合併肥満患者に対する試験はREDEFINE 2として同誌に同時掲載されている)。その結果はCagriSemaの最大投与量2.4mgで53.6%の患者に20%以上の体重減少が認められた。この結果は、CagriSemaがGLP-1受容体作動薬を含めた抗肥満薬のなかでは最も強力であることを示している。有害事象もcagrilintideとセマグルチド単剤と同様に消化器症状が中心であり、CagriSemaによる新たな有害事象は認められなかった。唯一の懸念材料はCagriSema群で2例の死亡があり、そのうち1例が自殺とされている点である。 わが国では現在セマグルチド(商品名:ウゴービ)およびチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が抗肥満薬として使用可能である。随時服用可能な経口GLP-1受容体作動薬であるorforglipronも近々抗肥満薬として承認申請予定であり、GIP/GLP-1/Glucagonのトリプルアゴニストであるretatrutideも抗肥満薬として遠からず申請されると思われる。まさに抗肥満薬の百花繚乱時代であるが、専門医としては体重減少の先にある臨床アウトカムの改善を見据えて、適切な薬剤を適切な患者に選択するという基本を忘れてはならない。

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肥満手術、SADI-SはRYGBを凌駕するか/Lancet

 2007年以来、Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB)に代わる肥満治療として、スリーブ状胃切除術+単吻合十二指腸バイパス術(SADI-S)が提案されている。フランス・Hospices Civils de LyonのMaud Robert氏らSADISLEEVE Collaborative Groupは、2年のフォローアップの結果に基づき、肥満治療ではRYGBよりもSADI-Sの有効性が高いとの仮説を立て、これを検証する目的で多施設共同非盲検無作為化優越性試験「SADISLEEVE試験」を実施。術後2年の時点で、RYGB群と比較してSADI-S群は優れた体重減少効果を示し、安全性プロファイルは両群とも良好であったことを報告した。研究の詳細は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。超過体重減少率を比較 本研究では、2018年11月~2021年9月にフランスの22の肥満治療施設で参加者を募集して行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18~65歳、BMI値40以上、またはBMI値35以上かつ1つ以上の肥満関連合併症(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸、変形性関節症)を併発し、初回手術として、またはスリーブ状胃切除術後の再手術として、SADI-SまたはRYGBが予定されている患者であった。スリーブ状胃切除術以外の減量手術歴、炎症性腸疾患、1型糖尿病、未治療のヘリコバクター・ピロリ感染を有するなどの患者は除外した。 被験者を、SADI-Sを受ける群またはRYGBを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、2年時点での超過体重減少率(%EWL)とした。%EWLは、([2年後受診時の体重-ベースライン体重]/[ベースライン体重-理想体重])×100の式で算出し、理想体重は各参加者のBMI値が25となる体重と定義した。%EWLが有意に良好、優越性を確認 381例を登録し、190例をSADI-S群、191例をRYGB群に割り付けた。全体の平均年齢は44.4(SD 10.64)歳(範囲:20~65)、265例(70%)が女性で、平均BMI値は46.2(SD 6.4)であった。ベースラインで119例(31%)が2型糖尿病、168例(44%)が高血圧、132例(35%)が脂質異常症、262例(69%)が閉塞性睡眠時無呼吸症候群を有しており、79例(21%)がスリーブ状胃切除術を受けていた。 ITT集団における2年時の平均%EWLは、RYGB群が-68.09(SD 28.70)%であったのに対し、SADI-S群は-76.00(26.65)%と有意に良好であり(平均群間差:-6.71%[95%信頼区間[CI]:-12.64~-0.80]、p=0.026)、SADI-S群の優越性の仮説が確証された。 per-protocol解析でも同様の結果が得られ、%EWLはSADI-S群で有意に優れた(平均%EWL:SADI-S群-76.55[SD 25.95]%vs.RYGB群-67.74[28.48]%、平均群間差:-7.39[95%CI:-13.25~-1.54]、p=0.014)。安全性プロファイルも良好 手術関連の早期(≦30日)合併症は、SADI-S群で10例(6%)、RYGB群で3例(2%)に発現し(p=0.042)、それぞれ4例および3例で早期の再手術を要した。また、手術関連の後期(>30日)合併症は、それぞれ18例(10%)および3例(2%)で発現した(p=0.0009)。平均入院期間は4.8日および2.8日(p<0.001)、30日以内の再入院は3例(2%)および5例(3%)(p=0.49)に発生した。 すべての手術患者を含む安全性評価集団における手術手技に関連した重篤な有害事象の発現件数は、SADI-S群で40件(吻合部縫合不全3件、重症下痢8件など)、RYGB群で35件(ヘルニア5件、重症腹痛5件[2件で診断に腹腔鏡検査を要した]など)であった。 著者は、「両群間で重篤な有害事象や合併症の発現に大きな差はなく、綿密なフォローアップを行えば栄養学的な追加リスクは生じない」「SADI-Sは、初回手術として、およびスリーブ状胃切除術後の再手術の選択肢として考慮することができ、とくにスリーブ状胃切除術を受けた経験がなく、2型糖尿病を有する患者において、より大きな体重減少と良好な代謝転帰をもたらすと考えられる」としている。

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内リンパ嚢減荷術が回転性めまいと片頭痛に有効

 内リンパ嚢減荷術(ELSD)は片頭痛を伴うメニエール病(MD)に有効であり、術後に回転性めまいと片頭痛が緩和したという研究結果が、「Acta Oto-Laryngologica」に4月30日掲載された。 北京大学(中国)のLin Han氏らは、104人のMD患者を対象にMDと片頭痛の関連を検討した。ELSD前後の効果を評価するため、回転性めまいの月間発現回数と片頭痛指標を用いた。対象者を、片頭痛を併発するMD患者とMDのみを有する患者に分け、回転性めまいの緩和率を比較した後、片頭痛を併発するMD患者を対象に術後の回転性めまいと片頭痛の緩和について評価した。 解析の結果、術後の回転性めまい緩和率は、MDのみの患者で46.7%、片頭痛を併発するMD患者で40.68%であり、有意差は認められなかった。術後の回転性めまいの月間発現回数と片頭痛指標は、片頭痛を併発するMD患者で有意に低下した。回転性めまいと片頭痛の転帰のカッパ値は0.505であった。高血圧でないことは、回転性めまいと片頭痛の緩和の独立した予測因子であった。また、男性であることは、片頭痛緩和の独立した予測因子であった。 著者らは、「術後の回転性めまいと片頭痛の緩和にある程度の一致が認められ、これら2つの疾患には、炎症に関連する共通の病因があることが示唆される」と述べている。

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カフェインは夜より日中の眠気に影響!?

 カフェイン含有飲料の摂取が増加すると睡眠パターンが乱れることが知られている。英国・ブリストル大学のNilabhra R. Das氏らは、カフェイン摂取量、カフェイン代謝、睡眠特性の指標として遺伝子変異を用いて、睡眠に対するカフェインの直接的な影響を検証した。Journal of Sleep Research誌オンライン版2025年7月14日号の報告。 対象は、英国バイオバンクを含む複数の研究から特定されたカフェイン摂取量(40万7,072人)、カフェイン代謝(9,876人)、クロノタイプ(44万9,734人)、日中の昼寝(45万2,633人)、日中の眠気(45万2,071人)、朝の起床(38万5,949人)、不眠症(45万3,379人)、睡眠時間(44万6,118人)。これらに関連する遺伝子変異を用いて、一連の単変量メンデルランダム化解析により、カフェインと睡眠の双方向の因果関係を調査した。カフェイン摂取が睡眠行動に直接的に及ぼす影響を、代謝と睡眠行動をそれぞれ調整しながら探索するため、多変量メンデルランダム化解析を用いた。 主な内容は以下のとおり。・カフェイン摂取量の増加は、日中の眠気を減少させた(βunivariable=−0.044、95%信頼区間[CI]:−0.065〜−0.023、p<0.001;βmultivariable=−0.034、95%CI:−0.058〜−0.009、p=0.010)。・一方、カフェイン代謝の速さは、摂取した飲料1杯当たりのカフェイン曝露量が少ないことを示唆しており、日中の昼寝の可能性を減少させた(βunivariable=−0.024、95%CI:−0.037〜−0.011、p<0.001;βmultivariable=−0.021、95%CI:−0.042〜0.000、p=0.051)。・夜型人間はカフェイン摂取量の少なさと関連していた(βunivariable=−0.044、95%CI:−0.078〜−0.010、p=0.010)。・カフェイン摂取量/代謝は、睡眠時間または不眠症との因果関係が認められなかった。・現在、カフェインを摂取していない人において、多面的効果の可能性を評価した結果、カフェイン摂取量/代謝が睡眠に及ぼす影響について明確なエビデンスは得られなかった。 著者らは「全体として、カフェインは睡眠に影響を与えており、夜間の睡眠特性ではなく、日中の覚醒状態に影響していると考えられる。しかし、カフェイン代謝に関する指標が弱いことや有意な異質性が存在することから、カフェインと睡眠の因果関係をより深く理解するためには、より大規模かつ多様なサンプルを用いたさらなる研究が必要である」としている。

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1型糖尿病への同種β細胞移植、拒絶反応なく生着/NEJM

 同種細胞移植では、術後に免疫系の抑制を要するが、これにはさまざまな副作用が伴う。スウェーデン・ウプサラ大学のPer-Ola Carlsson氏らの研究チームは、拒絶反応を回避するよう遺伝子編集されたヒト低免疫化プラットフォーム(hypoimmune platform:HIP)膵島細胞製剤(UP421)を、罹病期間が長期に及ぶ1型糖尿病患者の前腕の筋肉に移植した。免疫抑制薬は投与しなかったが、12週の時点で拒絶反応は発現しなかった。本研究は、Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustの助成を受けて行われ、NEJM誌オンライン版2025年8月4日号で報告された。症例:罹病期間37年の42歳・男性 本研究は、UP421(遺伝子編集ヒトHIP膵島細胞製剤)の安全性と有効性の評価を目的とする研究者主導の非盲検first-in-human研究である。対象は1例のみで、症例の追加登録はしなかった。 患者は、1型糖尿病の罹病期間が37年に達する42歳の男性であった。ベースラインの糖化ヘモグロビン値は10.9%(96mmol/mol)、内因性インスリンの産生は検出限界未満(Cペプチドは測定不能)であり、疾患の自己免疫性の指標となるグルタミン酸脱炭酸酵素と膵島抗原2自己抗体は検出可能であった。被験者は、1日32単位のインスリンの連日投与を受けていた。B2M遺伝子とCIITA遺伝子を不活化、CD47相補的DNAを導入 糖化ヘモグロビン値6.0%(42mmol/mol)の60歳のドナーから血液型O型適合膵臓を得た。拒絶反応を回避するための遺伝子編集として、ヌクレアーゼCas12b(CRISPR-CRISPR関連タンパク質12b)とガイドRNAを用いてドナー膵島細胞のB2M遺伝子(HLAクラスIの構成要素をコード)とCIITA遺伝子(HLAクラスIIの転写のマスターレギュレータをコード)を不活化した後、CD47の相補的DNAを含むレンチウイルスベクターを導入した。 最終的な細胞製剤(UP421)には次の3種類の細胞が含まれた。(1)CD47が高発現しHLAが完全に除去されたHIP膵島細胞、(2)CD47が内因性CD47の水準を保持したHLAクラスIおよびIIダブルノックアウト細胞、(3)CD47レベルが変動しHLAの発現が保持された膵島細胞(野生型)。また、この研究で使用された膵島細胞の約66%はβ細胞だった。 全身麻酔下に、被験者の左腕橈骨筋の部分の皮膚を切開し、合計7,960万個のHIP膵島細胞を17回に分けて筋肉内に注入、移植した。被験者は合併症の観察のため一晩入院し、翌日退院した。グルココルチコイド、抗炎症薬、免疫抑制薬の投与は行わなかった。HIP膵島細胞への免疫反応や試験薬関連有害事象はない 野生型細胞とダブルノックアウト細胞に対する免疫反応が継続している間も、HIP膵島細胞は被験者の免疫細胞によって殺傷されず、抗体の誘導も認めなかった。また、被験者の末梢血単核細胞(PBMC)や血清(抗体、補体を含む)と混ざり合っても、HIP膵島細胞はあらゆる免疫コンポーネントから逃れ、生存した。したがって、研究期間中に、HIP膵島細胞を標的とした免疫反応は発現しなかった。 移植後12週の時点で、糖化ヘモグロビン値が約42%低下した。これは、おそらく外因性インスリンへの反応と考えられた。また、4週目および8週目のMRI検査で、膵島移植片の残存が確認された。 12週時にも遺伝子編集細胞に対する拒絶反応はみられず、Cペプチド測定では安定したグルコース反応性のインスリン分泌を認めた。被験者の容体は良好で、有害事象は4件発現したが、重篤なものはなく、試験薬との関連もなかった。 著者は、「早期の移植片機能は長期的な臨床アウトカムと関連するとの報告があり、これを考慮すると、今回の研究結果は有望と考えられる」「同種移植における免疫寛容の誘導は、長らく困難な探求の対象とされてきた。本研究は予備的なものではあるが、免疫回避は同種拒絶反応を避けるための新たな考え方となる可能性を示唆する」としている。

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帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第17回

ワクチンで予防できる疾患帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染後、脊髄後根神経節、脳神経節に潜伏感染しているVZVが再活性化によって、支配神経領域に疼痛を伴う水疱が集簇して出現する疾患である。合併症として発症後3ヵ月以上にわたり痛みが持続する帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)のほかに髄膜炎、脳炎、ラムゼイ・ハント症候群といった生命の危険や神経学的後遺症を来す疾患が知られている。国内で実施されている大規模疫学調査にて、1997~2020年の間で帯状疱疹は年々増加傾向を認め、罹患率は50代から上昇し、70代(2020年度10.45/千人・年)でピークを示した。別の調査では、50歳以上の帯状疱疹患者の19.7%がPHNを発症し、年齢別では80歳以上で32.9%と高齢になるほど発症しやすい傾向を認めた。ワクチンの概要帯状疱疹ワクチン接種の目的は、「帯状疱疹発症率を低減させ、重症化を予防すること」である。国内で2つのワクチンを使用することができるので表に概要を示す。表 帯状疱疹ワクチンの概要画像を拡大する2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象となった。接種の対象者は、以下に該当する方である。65歳を迎える方60~64歳で対象となる方(※1)2025~29年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となられる方※1ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方※2100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となる。帯状疱疹発症、年齢以外のリスク因子帯状疱疹は、前述した年齢のほかに罹患率を上げるリスクが知られている。HIV/AIDS(相対リスク[RR]3.22)、悪性腫瘍(RR2.17)、SLE(RR2.08)などの免疫不全疾患だけではなく、慢性疾患としての心血管疾患(RR1.41)、COPD(RR1.41)、糖尿病(RR1.24)。他にも精神的ストレス(RR1.47)、身体的外傷(RR2.01)、家族歴(RR2.48)もリスク要因としてあげられる。リスク因子のある方に帯状疱疹が発症した場合は、生命を脅かす疾患となってくるため、ワクチン接種を推奨する意義は高い。免疫不全状態では、生ワクチンは接種不適当であり、シングリックスが推奨される。今後の課題・展望2025年4月からすべての国民で65歳時以降に定期接種として帯状疱疹ワクチンを接種する機会を得ることになった。喜ばしいことではあるが、任意接種としてでも接種を勧めたい対象者が65歳まで接種を待ってしまう可能性が出てくる。前述した高リスク群の方々(とくに免疫不全疾患)には、定期接種を待つことのデメリットを伝え、適切な時期に接種を勧めることも重要である。近年、帯状疱疹と水痘の流行様式に変化がみられる。2014年に小児水痘ワクチンが定期接種となり、水痘患者数の減少と罹患年齢の上昇傾向がある。水痘は罹患年齢が上がるほど重症化する。妊婦が水痘に罹患すると流産や先天性水痘症候群になるリスクがある。接種率の低い任意接種期間でかつ低年齢期に水痘に罹患しなかった若者が、重症化リスクの高い年齢になってきている。2021年9月の国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)の報告によると入院水痘患者は成人割合が71.2%となっており、もはや水痘は麻疹・風疹と同じく成人疾患として重要になりつつある。留意すべきは感染経路であり、水痘感染源として帯状疱疹の割合が増加傾向を認める。増加する帯状疱疹患者から重症水痘患者を発生させないためには、小児期に水痘に罹患せずかつ水痘ワクチン接種も受けていない若者に対する水痘ワクチンのキャッチアップ推奨と中高齢者に対しては今後も帯状疱疹ワクチンを推奨していくことが、今後しばらくの間のVZV感染症対策として必要である。参考となるサイト1)帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版2)こどもとおとなのワクチンサイト 帯状疱疹ワクチン3)乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」添付文書4)シングリックス筋注用 添付文書5)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化~感染症発生動向調査より・2021年第26週時点~講師紹介

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高齢者への不眠症治療、BZD使用で睡眠の質が低下

 高齢者の不眠症治療は、ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)およびベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)の頻繁な使用と関連しており、慢性的な使用により睡眠調節や認知機能に悪影響を及ぼすことが報告されている。しかし、高齢者の記憶において、きわめて重要であるNREM低周波波動(SO)および紡錘波に対するBZD/BZRAの影響については、ほとんどわかっていない。カナダ・Concordia UniversityのLoic Barbaux氏らは、BZD/BZRAの慢性的な使用が、睡眠メカニズム、脳波の相対的パワー、SOおよび紡錘波の特性、結合に及ぼす影響について調査した。Sleep誌オンライン版2025年6月17日号の報告。 高齢被験者101例(年齢:66.05±5.84歳、年齢範囲:55〜80歳、女性の割合:73%)を対象に、習慣化ポリソムノグラフィー(PSG)後2夜目のデータを解析し、睡眠良好群(28例)、不眠症群(26例)、BZD/BZRA慢性使用不眠症群(47例、ジアゼパム換算6.1±3.8mg/回、週3夜超)の3群に分類した。睡眠構造、脳波(EEG)相対スペクトル、関連する脳波活動について、SOおよび紡錘波、そしてそれらの時間的結合に焦点を当て、包括的に比較した。 主な結果は以下のとおり。・BZD/BZRA慢性使用不眠症群は、不眠症群および睡眠良好群と比較し、N3持続時間が短く、N1持続時間とスペクトル活動が高く、睡眠構造が乱れ、睡眠関連脳振動の同期性に変化が認められた。・探索的相互作用モデルでは、1回の使用量がより高用量での慢性的な使用が、睡眠の微小構造および脳波スペクトルのより顕著な乱れと相関していることが示唆された。 著者らは「BZD/BZRAの慢性的な使用は、睡眠の質の低下と関連していることが示唆された。このようなマクロレベル、微細構造レベルでの睡眠調節の変化は、高齢者におけるBZD/BZRAの使用と認知機能低下との関連性に影響を及ぼしている可能性がある」と結論付けている。

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第276回 幼い子が昼寝すると夜に眠れなくなるという心配は杞憂らしい

幼い子が昼寝すると夜に眠れなくなるという心配は杞憂らしい夜に眠れなくなるかもしれないと心配して、親は子に昼寝しないようにするかもしれません。フランスでの試験結果によるとその心配はどうやら不要で、幼い子のしばしの昼寝は夜の眠りに差し障ることなく睡眠総量を増やすようです1,2)。赤ちゃんや幼い子はたいてい昼寝します。その習慣は記憶の発達に不可欠なようです。3~5歳ぐらいになると昼寝の習慣はたいていなくなります。しかしその時期はまちまちなので、多くの親は子の昼寝の扱いに悩まされます。昼寝が夜の睡眠を妨げたり貴重な学習時間が減ったりしてしまうのではないかと懸念する親や先生もいます。そこでフランスのリヨン大学のStephanie Mazza氏らは、同国の6つの幼稚園の子を募って幼い子の昼寝がはたして夜の睡眠に実害を及ぼすかどうかを調べました。手関節につける睡眠計を2~5歳の85人に渡し、平均8日弱(7.8日間)の睡眠時間が測定されました。その記録と親の睡眠日誌から、昼寝1時間当たり平均して夜の睡眠時間が13.6分短縮し、入眠時間(sleep onset latency)が6分ほど延長しました。24時間の総睡眠時間はというと、昼寝した日には45分ほど長くなっていました。米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)や世界保健機関(WHO)によると、3~5歳の小児は1日に少なくとも10時間の睡眠が必要です3,4)。今回の試験の小児の1日当たりの平均睡眠時間は9時間20分であり、必要な時間に40分ほど足りていませんでした。しかし昼寝した日は総睡眠時間が45分ほど多いので、学会やWHOが指南する最低必要量にだいたい到達します。昼寝は就寝をいくらか遅らせるかもしれないものの睡眠総量を増やすことを今回の試験結果は示唆しており、親は6歳前の子が昼寝を依然として必要としていたとしても気に病む必要はない、とMazza氏は言っています2)。同氏によると、子の昼寝は問題視するに及ばず、貴重な休息時間とみなすべきです。刺激的な環境で過ごす子にとってはとくにそうでしょう。ところで大人はどうなのかというと、昼寝が認知機能不良の印らしいとする報告がある一方で、有益らしいことも示唆されています。とくに、計画的な昼寝は認知や記憶の検査成績を良くするらしく、頭の働きを最適化する手段となりうるようです5)。一方、何らかの基礎疾患の現れとして昼間の過度の眠気や昼寝が生じることもあるようです。過度の眠気や昼寝は心血管疾患やその危険因子6-10)、腎臓の不調11)、はては死亡率上昇12)などと関連することが示されており、それら事態の発見や対策の手がかりとしても役立つようです。 参考 1) Reynaud E, et al. Research Square. 2025 Jul 1. 2) Why you shouldn't worry a nap will stop your child sleeping at night / NewScientist 3) Paruthi S, et al. J Clin Sleep Med. 2016;12:1549-1561. 4) Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age / WHO 5) Leong RLF, et al. Sleep Med Rev. 2022;65:101666. 6) Blachier M, et al. Ann Neurol. 2012;71:661-667. 7) Newman AB, et al. J Am Geriatr Soc. 2000;48:115-123. 8) Wannamethee SG, et al. J Am Geriatr Soc. 2016;64:1845-1850. 9) Tanabe N, et al. Int J Epidemiol. 2010;39:233-243. 10) Zonoozi S, et al. BMJ Open. 2017;7:e016396. 11) Ye Y, et al. PLoS One. 2019;14:e0214776. 12) Leng Y, et al. Am J Epidemiol. 2014;179:1115-1124.

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昼~午後早い時間の昼寝、死亡リスクが上昇する可能性

 中高年層にとって午後の昼寝は魅惑的かもしれないが、大きな代償を伴う可能性があるようだ。特定の昼寝パターンを持つ人では、全死因死亡リスクが高まる可能性のあることが、米マサチューセッツ総合病院のChenlu Gao氏らによる研究で明らかになった、この研究結果は、米国睡眠医学会(AASM)と米睡眠学会(SRC)の合弁事業であるAssociated Professional Sleep Societies, LLC(APSS)の年次総会(SLEEP 2025、6月8〜11日、米シアトル)で報告された。 Gao氏は、「健康や生活習慣の要因を考慮しても、日中に長く眠る人や日中の睡眠パターンが不規則な人、正午から午後の早い時間に多く眠る人は全死因死亡のリスクが高かった」とAPSSのニュースリリースで述べている。 この研究でGao氏らは、UKバイオバンク参加者8万6,565人(試験参加時の平均年齢63歳、範囲43〜79歳、女性57%)のデータを分析した。これらの参加者は、シフト勤務の経験がなく、腕時計型のデバイスを1週間装着して睡眠習慣をモニタリングされた。研究グループは、測定データを基に以下の3つの指標で昼寝の習慣を評価した。1)午前9時〜午後7時の間の昼寝の平均時間、2)昼寝時間の日ごとの個人内変動(以下、個人内変動)、3)午前9〜11時、午前11時〜午後1時、午後1〜3時、午後3〜5時、午後5〜7時における昼寝時間の割合。その上で、これらの指標と全死因死亡との関連を検討した。 参加者の昼寝時間の中央値は1日当たり0.40時間(24分)、個人内変動は0.39時間(23分)であった。昼寝の時間帯別の割合を見ると、午前9〜11時が34%、午前11時〜午後1時が10%、午後1〜3時が14%、午後3〜5時が19%、午後5〜7時が22%であった。最長8年間の追跡期間中に2,950人(3.4%)の参加者が、試験参加から平均4.19年で死亡していた。 解析の結果、昼寝時間が長いほど、また個人内変動が大きいほど、死亡リスクは有意に上昇することが明らかになった。具体的には、それぞれの指標が1標準偏差増加するごとに全死因死亡リスクは、昼寝時間で20%、個人内変動で14%上昇していた。さらに、午前11時〜午後1時と午後1〜3時の時間帯に占める昼寝時間が1標準偏差増加するごとに、全死因死亡リスクはそれぞれ7%有意に上昇していた。 午前11時から午後3時の間に昼寝をする人で全死因死亡リスクの上昇が見られたことを受け研究グループは、「午後の早い時間帯に20〜30分以内の『パワーナップ』を推奨するAASMのガイドラインと矛盾している」と指摘する。AASMは、30分以内の「パワーナップ」は日中の覚醒度とパフォーマンスを向上させ得るが、30分を超える昼寝は起床後も眠気で頭がぼんやりとする「睡眠惰性」を引き起こし、その結果、昼寝による短期的なパフォーマンス向上の効果を低減させる可能性があるとしている。 Gao氏は、「興味深いことに、正午から午後の早い時間帯の昼寝が全死因死亡リスクの上昇と関連するというデータは、昼寝についてわれわれが現在知っていることと矛盾している。そのため、この関連性についてはさらなる研究が必要だろう」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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看護師の不眠に解決策!? シフト勤務に特化したデジタル認知行動療法の効果【論文から学ぶ看護の新常識】第23回

看護師の不眠に解決策!? シフト勤務に特化したデジタル認知行動療法の効果交代勤務の看護師が抱える不眠に対し、デジタル認知行動療法(CBT-I)「SleepCare」が有効であることが、Hanna A. Bruckner氏らの研究結果から示された。International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月7日号に掲載された。交代勤務睡眠障害のある看護師の不眠症に対するデジタル認知行動療法の有効性:ランダム化比較試験研究チームは、交代勤務睡眠障害に罹患している看護師に対し、不眠症を軽減するためのデジタル認知行動療法プログラム「SleepCare」の有効性を調査することを目的にランダム化比較試験を行った。交代勤務睡眠障害に罹患している看護師74名を、「SleepCare」介入群と、ドイツ睡眠学会が公開している交代勤務に特化した心理教育群に割り当て、効果を比較した。主要評価項目は、ランダム化前のベースライン時、8週間後、および3ヵ月後の不眠症の重症度(不眠症重症度指数[Insomnia Severity Index]で測定)とした。副次評価項目として、メンタルヘルス指標、および長期的な毛髪中コルチゾール濃度を評価した。主な結果は以下の通り。Intention to treat(治療意図)に基づく共分散分析により、介入群は心理教育群と比較して、介入直後(d=1.11、95%信頼区間[CI]:0.7~1.6)および追跡調査時(d=0.97、95%CI:0.5~1.4)の両方で、より大きな不眠症重症度の軽減を示した。この結果は、不眠症重症度指数において、それぞれ5.0ポイントおよび5.3ポイントの群間差に相当する。参加者の56%が、6セッションのうち5セッション以上を完了し、これらの介入完了者においては、それぞれd=1.49およびd=1.28と、より大きな効果が示された。統計的に有意な効果は、睡眠関連の指標では認められたが、ストレスや抑うつといった他のメンタルヘルス指標では認められなかった。「SleepCare」群では、介入後に毛髪中コルチゾール濃度の低下が認められた(V=82、p=0.008、Δ=−1.8 pg/mg、ベースラインから44%減少)。「SleepCare」は、不眠症の症状を臨床的に意味のあるレベルまで軽減する上で有効であった。また、看護師の交代勤務に対するニーズに応えるための特定のエクササイズを取り入れ、不眠症のための認知行動療法を応用した、最初のデジタル配信プログラムの一つでもある。介入完了者においては、大幅に大きな効果が認められたことから、治療アドヒアランス(治療の継続・遵守)を促進するための効果的な戦略の開発が必要である。交代勤務に従事する看護師の方々にとって、交代勤務睡眠障害は深刻な問題ですが、多忙かつ不規則なスケジュールから従来の対面式の認知行動療法(CBT-I)は利用しにくいという課題がありました。本研究で検証されたデジタルCBT-I「SleepCare」は、この状況に対する画期的なアプローチと言えます。交代勤務特有のニーズに合わせて調整され、時間や場所を選ばずに利用できるこのプログラムは、実際に不眠重症度を臨床的に有意に改善しました。とくに、介入完了者でより高い効果が認められたこと、そして客観的なストレス指標である毛髪コルチゾール濃度が改善したことは注目に値します。一方で、ストレスや抑うつといった睡眠関連以外の精神的健康課題への直接的な効果は認められず、治療アドヒアランスの向上が重要であるという点は、今後の課題です。これらは近年のデジタル系の研究全体でよく述べられている限界点です。この研究で示されたアプローチは、私たちの日常にもヒントを与えてくれます。例えば、夜勤明けはサングラスをかけて帰宅する、夜勤の勤務後半にはカフェインなどの刺激物を避ける、といった工夫が睡眠障害の予防につながるでしょう。本研究は困難な勤務環境にある私たち看護師の睡眠問題に対し、実用的かつ効果的なデジタルヘルスソリューションの可能性を力強く示した点で、非常に価値が高いと言えます。論文はこちらBruckner HA, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

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1型糖尿病薬zimislecelが膵島機能を回復/NEJM

 1型糖尿病の患者において、同種多能性幹細胞由来の完全分化型膵島細胞療法薬zimislecel(VX-880)は、生理的膵島機能の回復をもたらし、血糖コントロールを改善し、治療関連有害事象やインスリン投与量管理の負担などのインスリン補充療法の短所を解消する可能性があることが、カナダ・トロント大学のTrevor W. Reichman氏らVX-880-101 FORWARD Study Groupが実施した「VX-880-101 FORWARD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月20日号に掲載された。第I/II相試験の予定外の中間解析結果 VX-880-101 FORWARD試験は、1型糖尿病患者におけるzimislecelの安全性と有効性の評価を目的とする、北米と欧州の施設が参加した進行中の第I/II/III相試験であり、今回は事前に予定されていなかった第I/II相部分の中間解析の結果が報告された(Vertex Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~65歳の1型糖尿病で、低血糖を自覚しにくく(低血糖の発症を感知する能力が低下している)、過去1年間に少なくとも2回の重症低血糖イベントを経験し、5年以上インスリン依存状態にある患者を対象とした。 パートAでは、zimislecelの半量(0.4×109細胞)を門脈へ単回投与し、必要な場合は初回投与から2年以内に残りの半量を単回投与することとした。パートBとパートCでは、zimislecelの全量(0.8×109細胞)を単回投与した。全例に、グルココルチコイドを含まない免疫抑制療法を行った。 パートAの主要エンドポイントは安全性であった。パートCの主要エンドポイントは、zimislecel投与後90~365日に重症低血糖イベントの発生がなく、180~365日における複数回の受診時にHbA1c値が7%未満であること、またはHbA1c値がベースラインから1%ポイント以上低下していることとした。被験薬関連の重篤な有害事象はない 少なくとも12ヵ月の追跡期間を終了した14例(平均糖尿病罹患期間22.8年[範囲:7.8~47.4]、平均総インスリン投与量/日39.3単位[範囲:19.8~52.0])を解析の対象とした。2例がzimislecelの半量投与を受け(パートA)、12例(平均年齢42.7歳、女性4例)は全量投与を受けた(パートB:4例、パートC:8例)。パートAの1例は、初回投与後9ヵ月の時点で2回目の半量投与を受け、その約3ヵ月後に同意を撤回した(有害事象が原因ではない)。 C-ペプチドは、ベースラインでは14例全例が検出不能であったが、zimislecel投与後は全例で検出されたことから、移植細胞の生着と膵島機能の回復が証明された。 有害事象の重症度はほとんどが軽度または中等度であった。頻度の高い有害事象は、下痢(11例[79%])、頭痛(10例[71%])、悪心(9例[64%])、新型コロナウイルス感染症(7例[50%])、口腔内潰瘍形成(7例[50%])、好中球数減少(6例[43%])、皮疹(6例[43%])であった。 試験の中止に至った有害事象は認めなかった。経過観察のために入院期間の延長に至った重篤な有害事象として好中球数減少が3例に発現し、重篤な急性腎障害が2例にみられた。担当医によってzimislecel関連またはその可能性が高いと判定された重篤な有害事象はなかった。 2例が死亡した。1例(パートB)は、手術に伴う頭蓋底損傷に起因する重篤なクリプトコッカス髄膜炎が原因で、担当医により免疫抑制薬関連死と判定された。もう1例(パートA)は、既存の神経認知障害の進行に起因するアジテーションを伴う重度認知症が原因であった。この症例には、試験登録前の交通事故による重度の外傷性脳損傷の既往歴があり、この事故は重症低血糖イベントが原因だった。全量単回投与の全例でHbA1c値<7%、10例でインスリン非依存 パートB/Cの12例では、重症低血糖イベントは発現せず、365日目の受診時にすべての患者でHbA1c値が7%未満であった。ベースラインから365日目までに、HbA1c値は平均1.81%ポイント低下した。 持続血糖測定器(CGM)を用いて、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間の割合を評価したところ、ベースラインで70%を超える患者はなく、平均値は49.5%(範囲:19.0~66.2)であった。これに対し、150日目には全例が70%以上を達成し、その後の追跡期間を通じて全例でこの良好な血糖コントロールの状態が持続した。365日時の血糖値が目標範囲内にある時間の割合の平均値は93.3%(範囲:79.5~96.9)だった。 外因性インスリンの使用は、追跡期間中に12例全例で減量または中止されていた。ベースラインから365日目までに、インスリン使用量の平均値は92%低下した。150日目までに10例(83%)がインスリン非依存を達成し、この10例は365日の時点で外因性インスリンを使用していなかった。 著者は、「この結果は、多様な患者集団を対象とする、より大規模で長期にわたる試験においてzimislecelのさらなる検討を進めることを支持する」「これらの知見は、多能性幹細胞から膵島を作製し、1型糖尿病の治療に使用することは実質的に可能であるとのエビデンスを提供するものである」としている。

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肥満を伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群、治療法の好みに医師と患者で違い

 肥満を伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に対する治療法の好みは、医師と患者の間で異なることが新たな研究で示された。医師は、睡眠中に専用のマスクを介して一定の空気圧を鼻から気道に送って気道を開いた状態に保つ持続陽圧呼吸(CPAP)療法を支持する一方、患者は、肥満症治療薬の一種であるGLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)による治療を望む傾向にあることが明らかになったという。この研究は米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)呼吸器・集中治療・睡眠医学部門のAhmed Khalaf氏らによるもので、米国睡眠医学会(AASM)と米睡眠学会(SRC)の合弁事業であるAssociated Professional Sleep Societies, LLC(APSS)の年次総会(SLEEP 2025、6月8〜11日、米シアトル)で発表された。 Khalaf氏は、「この結果により、リアルワールドにおけるCPAP療法とチルゼパチドの相対的な有効性に関するデータの必要性、そして肥満とOSAが併存した場合の管理をめぐって患者と医師の間に選好の不一致が存在する可能性が浮き彫りになった」とニュースリリースの中で述べている。  米国では、約3000万人の成人にOSAがあると推定されている。これまで、OSAの標準治療はCPAP療法とされてきたが、使う装置の大きさや騒音を気にする患者もいる。米ハーバード大学医学大学院によると、CPAP療法を処方された患者の約50%が十分な頻度で専用の装置を使用できないか、わずらわしさから使い続けられないと感じているという。使用者がよく挙げる問題点は、マスク装着時の不快感や口の乾燥、呼吸のタイミングが合わない感覚、装置から出る音などである。 米食品医薬品局(FDA)は2024年末、肥満とOSAを有する患者に対する初の治療薬としてゼップバウンドを承認した。AASMは当時、この承認に際して「OSAに対して新たな治療選択肢が加わったことは、患者と臨床医にとって大きな前進である」とする声明を発表した。ただし、AASMは、ゼップバウンドが肥満とOSAを有する人にのみ適応されることを強調。また、ゼップバウンドは体重減少を通じてOSAの重症度を軽減する可能性はあるが、根治には至らない可能性もあるとしている。 Khalaf氏らは今回の研究で、全米規模で実施されたオンライン調査に回答した365人の患者データを分析するとともに、UCSDの睡眠医学の専門家17人を対象に聞き取り調査を実施した。その結果、医師側は53%がCPAP療法を支持し、ゼップバウンドを支持していたのは26%であったのに対し、患者側は48%がゼップバウンドを支持し、CPAP療法を支持していたのは35%だった。また、医師と患者の双方がCPAP療法とゼップバウンドによる併用療法を支持していたが、医師の方が併用療法に対してより積極的であり、その割合は患者の61%に対して88%と高かった。 さらに、患者の治療に対する好みは、自身の経験が影響している可能性が高いことも分かった。調査結果によると、患者の78%が現在CPAP療法を受けているか、過去にCPAP療法を受けたことがあると回答していた。これに対し、ゼップバウンドや他のGLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(商品名オゼンピック)を使用したことがあると答えた患者の割合はわずか23%だった。 主任研究者でUCSD医学部助教のChristopher Schmickl氏は、患者と医師の間でこれほどまでに意見の相違があることに驚きを示している。同氏は、「治療に対する考え方の違いを認識しておくことは、現実的かつ達成可能な行動計画を立てる上で極めて重要だ。今後、こうした治療に対する選好の背景にある要因を明らかにするためのさらなる研究によって、医師が治療方針の決定を助ける価値のある情報が得られるだろう」と述べている。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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