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乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン2021年版

子どもを得たい…そのとき医療者はどう向き合うか乳癌患者の妊娠が再発や予後に与える影響、生殖補助医療による妊娠率や出産率への影響、さらには経済的負担やQOLなども加味し、複数のアウトカムの益と害を評価することで、患者の多様な価値観を反映できるよう臨床課題が検証された。妊娠・出産を希望する乳癌患者と医療者の協働意思決定支援に役立つガイドラインである。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン 2021年版定価3,520円(税込)判型B5判頁数228頁・カラー図数:9枚発行2021年10月編集日本がん・生殖医療学会

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抗CGRP抗体中止後の片頭痛の経過

 ドイツ国内および国際的なガイドラインにおいて、抗CGRP(受容体)モノクローナル抗体による6~12ヵ月の治療で片頭痛の予防を達成した後、薬剤の使用中止が推奨されている。ドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のBianca Raffaelli氏らは、抗CGRP(受容体)抗体中止4ヵ月後の片頭痛の経過を分析した。Cephalalgia誌オンライン版2021年9月27日号の報告。 抗CGRP(受容体)抗体を8ヵ月以上使用した後に中止した片頭痛患者を対象に、縦断的コホート研究を実施した。治療開始4週間前(ベースライン)、最終治療の前月、最終治療5~8週間後および13~16週間後の頭痛データを分析した。主要エンドポイントは、最終治療の前月から13~16週間後までの1ヵ月当たりの片頭痛日数の変化とした。副次的エンドポイントは、1ヵ月当たりの片頭痛日数および急性期治療薬使用日数の変化とした。 主な結果は以下のとおり。・対象は、抗CGRP受容体抗体エレヌマブおよび抗CGRP抗体ガルカネズマブまたはフレマネズマブの使用で均等に割り振られた62例。・最終治療の前月の1ヵ月当たりの片頭痛日数は、8.2±6.6日であった。・1ヵ月当たりの片頭痛日数は、最終治療5~8週間後で10.3±6.8日(p=0.001)、13~16週間後で12.5±6.6日(p<0.001)と徐々に増加していた。・最終治療13~16週間後の1ヵ月当たりの片頭痛日数は、ベースライン時と同程度であった(-0.8±5.4日、p>0.999)。・1ヵ月当たりの片頭痛日数および急性期治療薬使用日数の変化においても、同様の結果が認められた。 著者らは「片頭痛予防における抗CGRP(受容体)抗体の中止は、片頭痛の頻度および急性期治療薬の使用を有意に増加させることが示唆された」としている。

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問診が要の片頭痛、判断基準を整理しよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第8回

第8回 問診が要の片頭痛、判断基準を整理しよう!―Key Point―二次性頭痛の除外が最も大切である二次性頭痛が否定的ならば、片頭痛の特徴的症状がないかを問診で確認する三叉神経・自律神経性頭痛は片頭痛と治療が異なるので鑑別は重要症例:27歳 女性主訴)頭痛現病歴)生来健康な27歳女性。1ヵ月前から毎日1時間続く、ひどい頭痛を主訴に来院。いつも右の頭部に痛みがある。このような頭痛の経験はない。片頭痛の既往はなし。NSAIDs(商品名:ロキソニン)は効かない。2週間前から、頭痛時に頭痛と同じ右側の目から流涙、右鼻から鼻汁あり。ズキズキするひどい痛みが1時間続く。明け方4時30分頃や20時頃に、決まって毎日右側の頭痛あり。20~21時の頭痛は目をえぐられる感じ。頭痛時に落ち着きがなくなり歩き回る。既往歴)特になし薬剤歴)定期服用薬なし経過)症状から群発頭痛を疑った。酸素投与とトリプタン(皮下注)の投与を開始した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!雷鳴頭痛は内科エマージェンシー。くも膜下出血が最多三叉神経・自律神経性頭痛を見逃さない。群発頭痛が最多インドメタシンが著効する頭痛がある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】二次性頭痛を除外し、片頭痛なのか診断しよう■二次性頭痛を疑うred flag1)初めて経験する、または最悪の頭痛突然発症した雷鳴様頭痛増悪する、または今までとはまったく異なるパターンの頭痛脳神経学的異常所見あり50歳以上の新規発症頭痛担がん、凝固異常、免疫抑制状態の患者、妊婦に起こった新規の頭痛意識変容や意識障害を伴う頭痛体位、労作、性行為、バルサルバ法により誘発された頭痛これらがあれば、MRIでの精査が必要となる。■雷鳴頭痛*の鑑別診断1)*1分以内に最高となる突然発症の頭痛くも膜下出血(最多)、脳静脈洞血栓症、内頸動脈解離/椎骨動脈解離、可逆性脳血管攣縮症候群、可逆性後白質脳症症候群、下垂体卒中、緑内障発作、脳梗塞可逆性脳血管攣縮症候群は2番目に多い。入浴やシャワー、性行為、薬剤が誘引となり雷鳴頭痛を繰り返す■片頭痛なのか診断二次性頭痛が否定されれば、医療機関を訪れる患者の90%は片頭痛である片頭痛は軽症から重症までいろいろな表現形を持つ。緊張型頭痛と誤って診断される片頭痛は非常に多い。片頭痛の問診(POUND)2):3つ以上の項目が当てはまるなら、片頭痛と診断できる。PPulsatile quality(拍動性)O4-72 hOurs(4〜72時間続く)UUnilateral location(片側性)NNausea/vomiting(吐き気)DDisabling intensity(日常生活に支障)薬剤乱用頭痛、睡眠時無呼吸症候群、カフェイン中毒を否定することが大切である頭痛ダイアリーは診断に大いに役立つ【STEP2-2】三叉神経・自律神経性頭痛(TACs: trigeminal autonomic cephalalgias)を鑑別のために、次のいずれかの症状の有無を疑う■下記の自律神経症状(頭痛と同側に起こる)の発症、または発作中に興奮し落ち着きがなくウロウロ歩き回る結膜充血または流涙鼻閉または鼻汁眼瞼浮腫前額部と顔の発汗縮瞳または眼瞼下垂■群発頭痛(TACsでは最多)1,3)「キリで眼を突き刺されるような」かなり激しい片側性の頭痛かつては男性にほぼ特有の疾患と考えられていたが、最近の疫学統計では男女比は3~7:1発作の頻度は1日に1~8回、夜間決まった時刻に起こることが多い持続時間は15~180分で、数週〜数ヵ月続くアルコールが誘引となる■インドメタシンが著効する頭痛発作性片側頭痛(頻度:1~40回/日、持続:2~30分)や持続性片側頭痛(頻度:3~200回/日、時々悪化しながら持続する痛み)がある3)【STEP3】治療■片頭痛急性期治療はNSAIDs、トリプタン製剤、制吐薬である。いくつかを組み合わせて使うと効果的である頭痛が起こって1時間以内に薬を使うことが大切である皮膚アロディニア(感覚異常)が起こってからではトリプタン製剤の効果は減る。トリプタン製剤は十分な量を使用し、効果がなければ別のトリプタン製剤を試すと有効なことがある1ヵ月に10日以上、片頭痛発作があるときは、予防治療を考慮する。非薬物的療法として、規則正しい睡眠、分割した少量ずつの食事、十分な水分摂取を指導する。薬物ではプロプラノロール(商品名:インデラル)、トピラマート(商品名:トピナ)を用いる1)■群発頭痛治療は高流量の酸素投与(リザーバーマスクで12L/分、15分間)とスマトリプタン(商品名:イミグランキット)の皮下注を行う。経口トリプタン製剤は効果発現が遅いため役に立たない。群発頭痛の予防はベラパミル(商品名:ワソラン)を用いる。<参考文献・資料>1)ACP MKSAP19 Neurology. P1, 20212)Wilson JF, et al. Ann Intern Med. 2007;147:ITC11-1-ITC11-16.3)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 26th. Elsevier. 2020.p2316-2323.日本頭痛学会:頭痛ダイアリー日本神経学会、日本頭痛学会、日本神経治療学会:頭痛の診療ガイドライン2021

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がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?【見落とさない!がんの心毒性】第8回

がん患者における血栓症は、頻度が多いにも関わらず見逃されやすい病気です。慎重な身体診察と適切な検査を行うことで、早期診断、早期治療を行うことが重要です。近年、がん患者の血栓症の発症頻度は増加傾向にあり、がん関連血栓症(CAT :Cancer-Associated Thrombosis)と呼ばれて注目されています。とくに、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE :venous thromboembolism)の頻度が高く、入院中のがん患者では約20%に起こると報告されています1)。主な原因は、がんや治療による血液凝固能の異常な活性化、長期臥床や血管の圧迫などによる血流のうっ滞、検査や治療による血管内皮障害により静脈血栓が形成されやすくなることです。さらに、診断率の向上、がん治療の長期化、がん患者の高齢化、心血管毒性を有する抗がん剤の使用なども増加の一因と考えられています。一方、がん患者の動脈血栓塞栓症の頻度は1%以下ですが、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患などの重篤な病態の原因となり注意が必要です。本稿では、VTEの診断と治療のポイントを解説します。症状と診断VTEを診断するための重要なポイントは、症状を見逃さないように注意深く病歴を聴取し、全身の診察を怠らないことです。DVTの症状では、四肢の腫脹、疼痛、皮膚の色調変化が重要ですが、時に症状に乏しく突然のPTEを来たして診断されることもあります。PTEの症状では、呼吸困難、胸痛が多く、そのほかに咳嗽、喘鳴、動悸、失神などが見られます。急性PTEは致死率が高いため、Dダイマー上昇などの検査所見からVTE を疑うことも重要です。(表1)にDVT、PTEの診断を予測する代表的な「Wellsスコア」「改訂ジュネーブスコア」を示します。「Wellsスコア」では合計点数が3点以上では高リスクで精査が必要ですが、2点以下(低or中リスク)でDダイマー陰性であればDVTの可能性は低くなります2)。「改訂ジュネーブスコア」においてPTEの頻度は1点以下で7.7%(95%信頼区間[CI]:5.2~10.8)、2~4点で29.4%(%同:26.6~33.1)、5点以上では64.3%(同%:48.0~78.5) と予測されています3)。日本のガイドラインでも、問診・診察・Dダイマー検査を行い、DVTが疑われる場合は下肢静脈超音波検査・造影CT、PTEの場合は胸部造影CTなどで確定診断を行うことを推奨しています4)。(表1)DVT、PTE診断における代表的なスコア画像を拡大するVTEのリスク因子がん患者におけるVTE発症のリスク因子は(表2)に示すように患者・がん・治療関連の因子に大別されます。先天性血栓素因やVTEの既往などの一般的な患者関連リスク因子に加えて、がん関連またはがん治療関連リスク因子が報告されています。がんの原発部位別にみると、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍でVTEのリスクが高く、組織型、進行度も重要です。また、大手術や中心静脈カテーテル留置もリスクを上げます5)。化学療法中のがん患者は、非がん患者と比べるとVTE発症のリスクが6~7倍上昇すると報告され6)、とくに血管新生阻害薬、血液がんの治療に用いる免疫調整薬、ホルモン療法(タモキシフェンなど)では注意が必要です。(表2)がん患者のVTE発症リスク因子画像を拡大する管理法・治療法VTEの標準治療は抗凝固療法です。本邦で使用可能な抗凝固療法には点滴製剤である未分画ヘパリン(海外では低分子ヘパリンが推奨)、経口製剤としてワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどがあり、経口製剤単独もしくは点滴製剤と組み合わせて治療を行います。DOACは、がん患者を対象とした大規模臨床試験(Hokusai-VTE Cancer7)、CARAVAGGIO8)、SELECT-D9))において、VTE再発や重篤な出血に関して低分子ヘパリンと比較して遜色ない良好な成績が示されたことから、海外の最新のガイドラインではがん患者の急性VTEに対する治療として推奨されています10)。しかし、がん患者では抗がん剤と抗凝固薬との薬物相互作用(例:ワルファリンと5−FU)、抗凝固療法による出血リスクの上昇など、患者ごとに慎重な抗凝固療法の適応判断と薬剤選択を検討する必要があります。抗凝固療法の継続期間は、がん患者では再発リスクの観点から3ヵ月以上の長期的な使用が推奨されています。(表3)DOAC3剤とワルファリンの注意点画像を拡大するそのほかの治療として、血行動態が不安定となるような重症PTEに対して血栓溶解療法(商品名:クリアクター)や外科的血栓除去術を行うこともあります。また抗凝固療法が困難な症例や、抗凝固療法を行っているにもかかわらずVTEが増悪する症例に対しては下大静脈フィルターを留置し突然死を予防することもあります。VTEを発症した症例において、がん治療を中断・中止すべきかどうかは、個々の例の状況に応じて、腫瘍内科医と循環器内科医とが緊密に連携して検討する必要があります。1)Lecumberri R, et al. Thromb Haemost. 2013;110:184-190.2)Wells PS, et al. Lancet.1995;345:1326-1330.3)Klok FA, et al. Arch Intern Med. 2008;168:2131-2136.4)日本循環器学会編. 日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)2017年改訂版)5)Ay C, et al. Thromb Haemost. 2017;117:219-230.6)Blom JW, et al. JAMA. 2005,;293:715-722.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Stevens SM, et al. Chest. 2021 Aug 2.[Epub ahead of print]講師紹介

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国・地域により評価が分かれる研究(解説:野間重孝氏)

 チカグレロルはcyclo pentyl triazolo pyrimidine (CPTP)系の薬剤に分類される抗血小板薬である。クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系の薬剤がプロドラッグであり肝臓で代謝されることにより活性体となるのに対し、チカグレロルは自身が活性体であるためその作用の出現が速やかであるとともに肝代謝による影響を受けることがない。いずれの系統の薬剤も血小板のP2P12受容体に結合することによりその作用を発揮するが、チエノピリジン系の結合が非可逆的なものであるのに対し、チカグレロルの結合は可逆的である。そのため中止後の効果消失も速やかであるが、その反面作用時間が短いため1日2回の服用が必要である。 チカグレロルが注目を浴びるようになったのはPLATO studyによるものだったと言ってよい。同studyでは急性冠症候群患者(ACS)を対象としてアスピリンと併用する血小板2剤併用療法(DAPT)の比較研究がなされ、チカグレロル維持量90mg×2/日とクロピドグレル維持量75mg/日の比較において、死亡・心筋梗塞・脳卒中の発生頻度を減少させる点で、チカグレロルがクロピドグレルに比して優れているとの結果が得られたのである。この研究を踏まえ、欧州心臓病学会(ESC)では、ACSに対する際には使用禁忌がない場合にはアスピリン+チカグレロルを第1選択薬とした。しかしPLATO studyの事後サブグループ解析において非ST上昇型ACSにおいて総死亡率の低下が見られるいう結果は主要評価項目ではなかったため、あくまで探索的なものだったのではないかとの疑問もあった。事実、その後いくつか行われた臨床研究においてもチエノピリジン系薬剤に対してはっきりとした優位を示す結果は提出されていない。ACC/AHAガイドラインでは第1選択薬としての使用は認めているものの推奨度は低い(IIaB)。 JCSのガイドラインにおいては、East Asian paradoxという言葉があるように東アジア地域においては欧米よりも出血リスクが高く、血栓リスクが低いことが示されていることが勘案され、「アスピリンを含むDAPTが適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板薬の投与が困難な場合に限る」とされた(アテローム血栓症の発生頻度がとくに高いことが予想される病態がいくつか追加的適応として挙げられているが、ここでは省略する)。種々の研究において、チカグレロルはチエノピリジン系薬剤に比して出血の合併症が多いことが示されていたためである。なお、それ以外に呼吸困難感が比較的高頻度で生じることも知られている。このような理由からわが国においてはチカグレロルはほとんど使用されることがないが、わが国の臨床家たちがとくに不便を感じたという話を聞かない。さらに2020年の改訂で、チエノピリジン系がDAPT終了後の単独投与薬剤として認められたことも大きい(チカグレロルは認められていない)。 そこで本論文をどう評価するかという本題に入るが、この評価はESCのガイドラインを順守している国・地域であるのかどうかによってその価値評価が大きく異なることがまず指摘されなければならない。確かに本研究は著者らが言うように、いわゆるde-escalation therapy(この用語の妥当性自体が問題なのだが)が効果的かつ安全であることを示した初めての大規模臨床研究であると言える。しかし、もともとチカグレロルを第1選択薬としていない地域の医師たちにとっては関係のない論題だと言えるからである。そういう意味でこの研究の発端自体がESCのガイドラインに依存したものだったと言わなくてはならない。評者は、当たり前に思えることであってもあらためて証明することには価値があるということをこの欄で常々述べてきたが、この研究課題は普遍的な課題とはいえないと言わざるを得ないと思う。チカグレロルを第1選択薬とする必要がないことは米国や日本における血栓事故の発生率を見れば明らかなのだが、いったん決められたものを改めるには然るべき手続き(この場合研究)が必要だったと解釈される。 一方、本論文中で論じられている内容で、わが国の医師・国民の関心が薄い問題があることを指摘しておかなければならない。費用の問題である。韓国での薬価については調べることができなかったが、わが国ではクロピドグレル75mg錠が52.3円、チカグレロル(ブリリンタ)90mg錠が142円、つまり1日142×2=284円ということになる。わが国では国民皆保険制度が当たり前となっているため、薬価に対する関心が薄い。話題になるのは驚くほど高価な抗がん剤などが発売された場合などに限られるのではないだろうか。しかし一般諸外国ではこうした一般治療薬の価格についてもかなり関心が高く、議論の発端となりうることは知っておく必要がある。あらためて指摘する必要もないであろうが、わが国の保険財政は逼迫していることを忘れてはならない。 最後になるが、内容とは離れてこの論文の形態について一言述べておきたい。本論文では4ページ以上にわたってdiscussionが書かれているのだが、このような長大な考察を書く必要があったのだろうか。この研究の内容は決して分かりにくいものではなく、その内容も長く論述する必要のあるものとは思えない。評者は何年かにわたって『ジャーナル四天王』の論文評を担当させていただいているが、最近論文のスタイルの崩れが目立つように感じられてならない。仮にもLancet掲載論文なのである。評者が現役であった頃はこうした雑誌の査読者、編集者たちは論文の形態・形式についてもかなり厳しい注文をつけてきたことを記憶している。この論文評の最後にこのような一般的なことまで含めて書くのは申し訳ないとは思うが、一言苦言を呈したかったことをご理解いただきたい。

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がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版

がん治療に伴う外見変化への治療的・整容的対応、5年ぶりの改訂がん治療(手術・薬物療法・放射線療法)により皮膚障害や脱毛、爪の変形・変色などの外見(=アピアランス)の変化を生じた患者に医療者がより良いアピアランス支援を実践できるよう、医学・看護学・薬学・香粧品学・心理学の専門家が集結し、現在のエビデンスをもとに治療面と日常整容面のアプローチを分かりやすく解説。誤った情報に惑わされないために、がん診療に携わる医療者必読の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版定価2,860円(税込)判型B5判頁数204頁・図数:28枚・カラー図数:6枚発行2021年10月編集日本がんサポーティブケア学会

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原発性アルドステロン症〔PA:Primary aldosteronism〕

1 疾患概要原発性アルドステロン症(PA)は治癒可能な高血圧の代表的疾患である。副腎からアルドステロンが過剰に分泌される結果、腎尿細管からのナトリウム・水再吸収の増加による循環血漿量増加、高血圧を呈するととともに、腎からのカリウム排泄による低カリウム血症を示す。典型例では高血圧と低カリウム血症の組み合わせが特徴であるが、近年は、血清カリウムが正常な例も多く経験され、通常の診察のみでは本態性高血圧との区別がつかない。高血圧は頻度の高い生活習慣病であることから、日常診療において常にその診断に配慮する必要がある。頻度が高く、全高血圧の約3~10%を占めることが報告され、わが国の患者数は約100万人とも推計されている。典型例は片側の副腎腺腫が原因となる「アルドステロン産生腺腫」であるが、両側の副腎からアルドステロンが過剰に分泌される両側性の原発性アルドステロン症(「特発性アルドステロン症」と呼ばれてきた)もあり、最近では、前者より後者の経験数が増加している。腺腫による場合は病変側の副腎摘出により、高血圧、低カリウム血症が治癒可能で、治癒可能な二次性高血圧の代表的疾患である。一方、診断の遅れは治療抵抗性高血圧の原因となり、これに低カリウム血症、アルドステロンの臓器への直接作用が加わって、脳・心血管・腎などの重要臓器障害の原因となる。わが国の研究からも通常の高血圧より、脳卒中、心不全、心肥大、心房細動、慢性腎臓病の頻度が高いことが明らかにされていることから、早期診断と特異的治療が極めて重要である1)。腺腫によるPAでは、細胞膜のカリウムチャンネルの一種であるKCNJ5の遺伝子変異などいくつかの遺伝子異常が発見され、アルドステロンの過剰分泌の原因となることが明らかにされている。一方、両側性は肥満との関連が示唆2)されているが、病因は不明である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 自覚症状低カリウム血症がある場合は、四肢のしびれ、筋力低下、脱力感、四肢麻痺、多尿、多飲などを認める。正常カリウム血症の場合では、高血圧のみとなり、血圧の程度に応じて頭痛などを認めることもあるが、非特異的な症状であり、本態性高血圧との区別はつかない。■ どのようなケースで疑うか正常カリウム血症で特異的な症状を認めない場合は本態性高血圧症と鑑別が困難なことから、すべての高血圧患者でその可能性を疑う必要があるが、ガイドラインでは特にPAの頻度が高い高血圧患者を対象として積極的にスクリーニングすることを推奨している(表)3)。表 PAの頻度が高いため、特にスクリーニングが推奨される高血圧患者低カリウム血症合併(利尿薬投与例を含む)治療抵抗性高血圧40歳未満での高血圧発症未治療時150/100mmHg以上の高血圧副腎腫瘍合併若年での脳卒中発症睡眠時無呼吸症候群合併(文献3より引用)■ 一般検査所見代謝性アルカローシス(低カリウム血症がある場合)、心電図異常(U波、ST変化)を認めることがある。典型例では低カリウム血症を認めるが、正常カリウム血症の症例が多い。また、血清カリウム濃度は(1)食塩摂取量、(2)採血時の前腕の収縮・伸展、(3)溶血などのさまざまな要因で変動することから、適宜、再評価が必要である。■ スクリーニング検査血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)を測定し、両者の比率アルドステロン/レニン活性比(ARR)≧200以上かつPAC≧60pg/mLの場合に陽性と判定する。ARRは分母であるPRAに大きく依存することから、偽陽性を避けるためにPACが一定レベル以上であることを条件としている。従来、PACはラジオイムノアッセイにより測定されてきたが、本年4月から化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)に変更され、それに伴ってPAC測定値が大幅に低下した。このためARR100~200の境界域も暫定的に陽性とし、個々の例で患者ニーズと臨床所見を考慮して検査方針を判断することが推奨される。■ 機能確認検査スクリーニング陽性の場合、アルドステロンの自律性・過剰産生を確認するために機能確認検査を実施する。カプトプリル試験、生食負荷試験、フロセミド立位試験、経口食塩負荷試験がある。カプトプリル試験は外来でも実施可能である。フロセミド立位試験は起立に伴い低血圧を来すことがあるので、前2つの検査が実施困難な場合を除き、推奨されない。一検査が陽性の場合、機能的にPAと診断する。測定法の変更に伴い、陽性判定基準も見直されたため注意を要する。約25%にコルチゾール同時産生を認めるため、明確な副腎腫瘍を認める場合には、デキサメタゾン抑制試験(1mg)を実施する。降圧薬はレニン・アルドステロン測定値に影響するため、可能な限り、Ca拮抗薬、α遮断薬の単独あるいは併用が推奨されるが、血圧コントロールが不十分な場合は、血圧管理を優先し、ARBやACE阻害薬を併用する。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の影響は比較的大きいが、高血圧や低カリウム血症の管理が困難な場合は、適宜使用する必要がある。■ 局在・病型診断病変が片側性か両側性か、片側性の場合、右副腎か左副腎かを明らかにする。副腎摘出術の希望がある場合に実施する。まず副腎腫瘍の有無を確認するため造影副腎CTを実施するが、PAの腺腫は小さいことから、約60%はCTで腫瘍を確認できない。一方、明確な腫瘍を認めても非機能性腺腫の可能性があり、腫瘍の機能評価はできない。このため、確実な局在・病型診断には副腎静脈サンプリングが最も推奨される。副腎静脈血中のアルドステロン濃度/コルチゾール濃度比の左右差(Lateralized ratio)にて病変側を判定する。侵襲的なカテーテル検査であり、技術に習熟が必要であることなどから、専門医療施設での実施が推奨される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 主たる治療法副腎腫瘍を有する典型的な片側性PAでは腹腔鏡下副腎摘出術が第1選択、両側性や手術希望が無い場合は、MR拮抗薬を主とする薬物治療を行う。片側性PAでは手術による降圧効果が薬物治療より優れることが報告されている。通常の降圧薬のみで血圧コントロールが良好であっても、PAではアルドステロン過剰に対する特異的治療(手術、MR拮抗薬)による治療が推奨される。スクリーニング陽性であるが、機能確認検査を初めとする精査を実施しない場合、臨床所見の総合判断に基づき、MR拮抗薬投与の必要性を検討する。■ 診断と治療のアルゴリズム日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズムを図に示す3)。PAの頻度が高い高血圧患者でスクリーニングを行い、陽性の場合に機能確認検査を実施する。1種類の検査が陽性判定の場合に臨床的にPAとし、CT検査さらには、患者の手術希望に応じて副腎静脈サンプリングを実施する。機能確認検査以降の精査は、専門医療施設での実施が推奨される。局在・病型診断の結果に基づき、手術あるいは薬物治療を選択する。図 日本内分泌学会PAガイドラインにおける診療アルゴリズム3)画像を拡大する(文献3より引用)4 今後の展望局在・病型診断には副腎静脈サンプリングが標準的であるが、侵襲的検査であるため、代替えとなる各種バイオマーカー4)、PETを用いた非侵襲的画像診断法5)の開発が進められている。MR拮抗薬に変わる治療薬として、アルドステロン合成酵素の阻害薬の開発が進められている。PAの多くが両側性PAであることから、その病因解明、適切な診断、治療方針の確立が必要である。5 主たる診療科診断のスタートは高血圧の診療に従事する一般診療クリニック、市中病院の内科などである。スクリーニング陽性例は、内分泌代謝内科、高血圧内科などの専門外来に紹介する。副腎静脈サンプリングの実施が予想される場合は、それに習熟した専門医療施設への紹介が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)「重症型原発性アルドステロン症の診療の質向上に資するエビデンス構築(JPAS)」研究班(研究開発代表者:成瀬光栄)(医療従事者向けのまとまった情報)「難治性副腎疾患の診療に直結するエビデンス創出(JRAS)」研究班(研究開発代表者:成瀬光栄)(医療従事者向けのまとまった情報)「難治性副腎腫瘍の疾患レジストリと診療実態に関する検討」研究班(主任研究者:田辺晶代)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Ohno Y, et al. Hypertension. 2018;71:530-537.2)Ohno Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103:4456-4464.3)日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診療ガイドライン策定と診断水準向上」委員会 編集.原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021.診断と治療社;2021.p.viii.4)Nakano Y, et al. Eur J Endocrinol. 2019;181:69-78.5)Abe T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:1008-1015.公開履歴初回2021年11月11日

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乳がん放射線治療中、デオドラントの使用を継続してよいか~メタ解析/日本癌治療学会

 デオドラント製品を日常的に使用している日本人女性は多いが、放射線治療期間中に使用を継続した場合に放射線皮膚炎への影響はあるのだろうか? 齋藤 アンネ優子氏(順天堂大学)らは、放射線治療期間中のデオドラント使用に関連する放射線皮膚炎について調査した無作為化試験のメタ解析を実施し、第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)で報告した。なお、本解析は「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版」のために実施された。 2020年3月までに、PubMed、医中誌、Cochrane Library、CINAHLより、デオドラント使用が放射線皮膚炎に与える影響を検討した無作為化比較試験を中心に検索がされた。評価項目は腋窩の放射線皮膚炎の重症度(Grade2以上/ Grade3以上、NCI-CTC v5.0による評価)で、金属含有デオドラントと金属非含有デオドラントを別々に評価した。メタアナリシスの効果指標はリスク比(RR)とした。 主な結果は以下のとおり。・乳がん患者を対象とした前向き比較第III相試験が5編、アンケート調査1編の計6編の論文が特定され、定性的・定量的システマティックレビューが実施された。・金属含有デオドラント使用群とデオドラント禁止群の比較では、Grade2以上の皮膚炎(RR:1.01、95%信頼区間[CI]:0.85~1.20)、Grade3以上の皮膚炎(RR:0.79、95%CI:0.22~2.84)のいずれも有意な差はみられなかった。・金属非含有デオドラント使用群とデオドラント禁止群の比較では、Grade2以上の皮膚炎(RR:0.9、95%CI:0.5~1.6)、Grade3以上の皮膚炎(RR:0.76、95%CI:0.33~1.78)のいずれも有意な差はみられなかった。・QOLの評価は2編の論文で行われた。デオドラント使用群で汗の量は有意に少なかったが、QOLについては使用群と対照群の間で有意な差はなかった。しかし、1編のアンケート調査では、習慣的にデオドラントを使用しているとした乳がん患者のうち64%は、デオドラントを使用できないことで体臭が気になったと回答していた。 皮膚炎の評価にかかわる主な交絡因子としては、喫煙、化学療法、照射範囲・線量、体型などが考えられ、デオドラントの使用方法が規定されておらず、盲検化が行われていないため、エビデンスの強さとしては「非常に弱い」とされた。また金属非含有デオドラント使用群との比較については研究数が3~4編となった一方、金属含有デオドラント使用群との比較については研究数が2編のみとなり、さらにこの2編が類似のバイアスの影響を受けていると考えられるもので、エビデンスとしてはより脆弱と考えられた。 以上より、害と益のバランスとしては、下記のように評価された:・金属非含有のデオドラントによる放射線皮膚炎の増悪は、エビデンスは弱いが、認められなかった・習慣的にデオドラントを使用している患者には益が害を上回る ガイドラインにおける推奨文としては、「放射線治療中のデオドラント使用の継続を弱く推奨する」とされた。ただし、金属含有のデオドラントについては皮膚炎への評価をした研究のエビデンスの確実性が非常に低く、注意をしながら使用を継続することが推奨される。 実臨床で質問を受けたときに医療者が提供できる情報として、齋藤氏は、習慣的に使用している場合であれば金属非含有のものを使用するのがいいのではないかという点に加え、商品としてはアルミニウムフリーと明記されて販売されていることを挙げた。また、ミョウバン入りの商品について、ミョウバン=アルミニウムということを認識していない患者さんも多いため、補足して伝えることができればよいのではないかと話した。

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パーキンソン病のオフ現象を考え外来診療に同行【うまくいく!処方提案プラクティス】第42回

 今回は、パーキンソン病患者の外来診療に同行し、医師に直接処方提案をした事例を紹介します。医師や患者とその場でコミュニケーションを取ることで、経過や考えを擦り合わせてスムーズに意思決定をすることができました。薬剤師が外来診療に同行することはあまり一般的ではなく、ハードルも高い処方提案ではありますが、今後の薬剤師の処方提案スタイルとしては有用だと考えてしばしば行っています。患者情報70歳、男性(独居)基礎疾患パーキンソン病、レビー小体型認知症、脊柱管狭窄症、高血圧症介護度要介護1服薬管理服薬カレンダー(2週間セット)に訪問看護師がセット介護状況月〜金 食事・ごみ出し・買い物で訪問介護が60分介入火・金 訪問看護・リハビリ処方内容 下記内服薬は一包化指示1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.レボドパ・カルビドパ水和物錠 4.5錠 分3 朝昼夕食後4.ゾニサミドOD錠25mg 1錠 分1 朝食後5.ロピニロール塩酸塩貼付薬16mg 1枚 朝貼付6.リバスチグミン貼付薬9mg 1枚 朝貼付7.リマプロスト アルファデクス錠5μg 6錠 分3 朝昼夕食後8.デュロキセチン塩酸塩カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後本症例のポイント患者は独居ですが、服薬カレンダーを用いて管理を行い、アドヒアランスは良好でした。しかし、日中の眠気が間欠的に出現したり、すくみ足の症状から転倒を繰り返したりして困っていることを来局時に聞き取りました。患者本人の感覚としては、ロピニロール貼付薬を8mgから16mgに増量してから眠気の症状がひどくなった気がするため、薬の量を医師に相談するつもりとのことでした。さらに情報の聞き取りを進めてみると、眠気は決まって早朝、昼食後、15〜17時、20時ごろと規則性があることが判明しました。訪問看護・介護スタッフに普段の様子を聞き取ると、「規則的な眠気もあるが、本人が動かずに静止していることもあり、すくみ足の症状も同時間にひどくなっている。会話も聞き取りにくい」ということが確認できました。患者は薬の影響ではないかと思っているようですが、私は上記の状況経過からウェアリングオフ現象ではないかと考えました。ウェアリングオフ現象は、パーキンソン病の進行に伴ってL-ドパの効果が短くなる現象で、突然パーキンソン症状が現れるため日常生活に大きな影響をおよぼします。オフ現象がある場合は医師と上手に意思疎通ができないことを考慮し、また薬剤師の見解を伝えて直接処方提案をしたかったため、本人了承の下で外来診療に同行することにしました。処方提案と経過患者さんへの問診が終わったところで、患者および訪問看護・介護スタッフからの眠気やすくみ足の症状は薬剤が影響しているのではないかという不安を伝えるとともに、状況・経過などからウェアリングオフ現象の可能性を医師に伝えました。医師より、「今回の診察と状況経過から、薬剤性というよりもウェアリングオフ現象の可能性が高いため、ラサギリンを開始して様子を見よう」という回答がありました。しかし、患者はデュロキセチンを服用しており、デュロキセチンとラサギリンは併用禁忌であることから(参考:第39回「同効薬切り替え時の“痛恨ミス”で禁忌処方カスケードが生じてしまった事例」)、診療ガイドライン1)の推奨度BのCOMT阻害薬を代替薬として追加してはどうかと提案しました。その結果、オピカポン錠25mgを追加することになり、受診翌日より服用開始となりました。その後、患者さんは、服用開始7日目くらいで日中の眠気や話しにくさ、すくみ足が改善し、転倒することもなくなったと訪問看護・介護スタッフより聞き取ることができました。薬剤師が外来に同行して現行の課題や代替案を提案することで、より良い治療に一歩近づくことができたと実感したエピソードとなりました。1)「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会編. 日本神経学会監修. パーキンソン病診療ガイドライン2018. 医学書院;2018.

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初の十二指腸癌診療ガイドライン刊行

 十二指腸がんは消化器がんの中で代表的な稀少がんとされ罹患率は低いものの、近年増加傾向がみられており、診断モダリティの進歩により今後さらに発見される機会が増加することが予想される。日本肝胆膵外科学会と日本胃癌学会の協力のもとガイドライン作成委員会が立ち上げられ、「十二指腸癌診療ガイドライン 2021年版」が2021年8月に刊行された。 これまで本邦では確立された十二指腸がんの診療ガイドラインはなく、エビデンスも不足しているため、日常診療では、各医師の経験に基づいて胃がんや大腸がんに準じた治療が行われてきた。本ガイドラインでは、診断アルゴリズム(無症状/有症状)、治療アルゴリズム(切除可能/切除不能・再発)が示されたほか、「診断・内視鏡治療」「外科治療」「内視鏡・外科治療」「薬物療法」についてそれぞれClinical Questionが設けられ、推奨が示されている。 掲載されているClinical Questionは以下のとおり。<診断・内視鏡治療>CQ1-1 十二指腸癌の疫学についてCQ1-2 十二指腸癌のリスクは何か?CQ2-1 十二指腸腺腫は治療対象か?CQ2-2 十二指腸腫瘍における腺腫と癌の鑑別をどのように行うか?CQ3-1 粘膜内癌と粘膜下層癌の鑑別には何が推奨されるか?CQ3-2 遠隔転移診断に何が推奨されるか?CQ4-1 十二指腸腫瘍に対する各種内視鏡治療の適応基準は何か?CQ4-2 各種内視鏡治療の術者・施設要件は何か?CQ5 表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡治療後の偶発症予防は推奨されるか?CQ6-1 内視鏡治療後に外科的治療を行う推奨基準は何か?CQ6-2 内視鏡治療後局所再発ならびに異時性多発の早期発見のために、内視鏡によるサーベイランスは推奨されるか?<外科治療>CQ1 十二指腸癌に対する外科的治療においてリンパ節郭清は推奨されるか?CQ2 深達度や占居部位を考慮し、膵頭十二指腸切除術以外の術式を行うことは推奨されるか?CQ3 十二指腸癌外科切除後の再発診断にはどのようなフォローアップが推奨されるか?<内視鏡・外科治療>CQ1 閉塞症状を伴う切除不能十二指腸癌に対する消化管吻合術や内視鏡的ステント挿入は推奨されるか?<薬物療法>CQ1 切除可能十二指腸癌を含む小腸癌に周術期補助療法を行うことは推奨されるか?CQ2 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌にMSI検査、HER2検査、RAS遺伝子検査は推奨されるか?CQ3 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に全身薬物療法は推奨されるか?CQ4 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?十二指腸癌診療ガイドライン 2021年版編集:十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会定価:3,300円(税込)発行:金原出版発行日:2021年8月5日金原出版サイト

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第77回 コロナ経口薬「molnupiravir」、世界初承認は英国

<先週の動き>1.コロナ経口薬「molnupiravir」、世界初承認は英国2.COVID-19後遺症でも労災認定/兵庫県3.2018年度公立病院の廃止は前年度より4件減少/総務省4.2021年の出生数は昨年に続き85万人以下が確実/厚労省5.コロナ対策予算、35%の22兆円が未執行/会計検査院6.早期がんの診断件数が1年で8,000件減少/対がん協会1.コロナ経口薬「molnupiravir」、世界初承認は英国英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は4日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬「molnupiravir」を世界で初めて承認した。本剤は米・メルクによって開発された。軽症~中等症COVID-19の重症化リスク因子を有する成人患者を対象にした第III相MOVe-OUT試験の中間解析で、molnupiravirは発症後5日以内に投与した場合、入院または死亡リスクを約50%低減し、早期承認を目指して欧州で申請していた。これを受け、磯崎 仁彦官房副長官は5日の記者会見で、有効性や安全性を確認ののち、速やかに承認を進めるとコメントしている。また、米・ファイザー社が開発中の「パクスロビド(PAXLOVID)」は、発症後3日以内の患者に投与することで、投与していない群と比較して入院・死亡リスクが89%減ったことを発表しており、今後わが国での承認も目指す。(参考)米メルクのコロナ経口薬「モルヌピラビル」、英が飲み薬では世界初の承認(読売新聞)米ファイザーのコロナ飲み薬、入院・死亡リスク9割減(日経新聞)コロナ飲み薬「年内実用化へ全力」 官房副長官(日経新聞)2.COVID-19後遺症でも労災認定/兵庫県COVID-19の後遺症で労働災害が認められたことを、ひょうご労働安全衛生センターが明らかにした。今回、兵庫県内の特別養護老人ホームで働く理学療法士の男性が新型コロナウイルスに感染し、職場に復帰した後も強い倦怠感などが続いたため、約4ヵ月後に医師により「新型コロナウイルス感染後遺症」と診断され、労災と認められた。COVID-19に関する労災請求件数は、2021年9月30日時点で、全国1万8,637件、そのうち労災と認められたのは1万4,567件。78.1%と高い認定率だが、国内のCOVID-19患者総数は172万人以上に上っており、労災請求が進んでいない可能性もある。国は後遺症も労災の対象になるとして、労働基準監督署に相談するよう呼び掛けている。(参考)新型コロナ 後遺症でも労災認定 国が労基署への相談呼びかけ(NHK)新型コロナウイルス感染後遺症で労災申請 監督署が労災と認定(ひょうご労働安全衛生センター)3.2018年度公立病院の廃止は前年度より4件減少/総務省総務省は公営企業の経営改革について抜本的な改革を進めているが、2018年度に廃止となった公立病院が5件となり、前年度より4件減ったことを明らかにした。うち公立病院から公営企業型地方独立行政法人と指定管理者制度への移行がそれぞれ1件で、PFI(民間資金等活用事業)などの民間委託は0件だった。公立病院数および病床数は、ピーク時2012年の1,007病院(病床数:23万9,921床)から2020年度には853病院(同:20万3,882床)と大きく減少している。今年10月に立ち上げられた「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」では、これまで進めてきた再編・ネットワーク化・地域医療構想による改革について、公立病院が新型コロナ感染症対応において果たしている役割を考慮に入れつつ、引き続き第8次医療計画の策定スケジュールを踏まえて、公立病院改革の次期ガイドラインの策定について議論していく。(参考)公立病院の事業廃止4件、民営化・民間譲渡は1件 20年度(CBnewsマネジメント)公営企業における更なる経営改革の取組状況(総務省)持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会(総務省)4.2021年の出生数は昨年に続き85万人以下が確実/厚労省厚生労働省は、2021年8月分の人口動態統計速報で今年の1~8月の出生数の合計は55万5,080人と、前年の同期間と比べ、2万8,138人(4.8%)下回っていることを明らかにした。昨年のコロナウイルス感染拡大により、今年の1月の出生数は前年同月比で14.6%の減少となった。その後出生数は回復傾向だが、このまま推移すると、前年の出生数84万832人に続いて85万人を下回ることが確実となる。一方、死亡者数は前年の1~8月に比べて5万1,572人多く、前年の137万2,648人よりも3.7%ほど上回り、自然減が加速している。(参考)2021年の出生数・死亡数の見通しー新型コロナの影響は限定的だが、一部に見過ごせない動きも(日本総研)2021年の出生数、85万人割り込む恐れ コロナ禍での受診控えが“子づくり”にも影響(CBnewsマネジメント)人口動態統計速報(令和3年8月分)(厚労省)5.コロナ対策予算、35%の22兆円が未執行/会計検査院会計検査院は5日に提出した決算検査報告により、新型コロナウイルス対策で政府が計上した総額65兆4,165億円のうち3割超の22.8兆円余りが未執行となり、このうち21兆7,796億円が翌年度に繰り越されたことを明らかにした。コロナウイルスに関する個別事業については妥当性が検証され、接触確認アプリ「COCOA」の不具合やアベノマスク約8,200万枚が未配布のため、2020年8月~21年3月で保管費用の約6億円などが指摘され、会計検査院は適切な予算執行と国民への十分な説明を国に求めている。(参考)コロナ対策費22.8兆円使われず…検査院、国民への説明求める報告書(読売新聞)巨額投じた国の新型コロナ対策 浮かび上がるずさんな予算執行(朝日新聞)令和2年度決算検査報告の概要(会計検査院)6.早期がんの診断件数が1年で8,000件減少/対がん協会日本対がん協会は4日に、日本癌学会、日本鴈治療学会、日本臨床腫瘍学会と共同で実施した調査結果を発表した。調査はアンケートにより実施され、全がん協会加盟施設、がん診療連携拠点病院、がん診療病院、大学病院など486施設を対象に、今年の7~8月に5種類のがん(胃、大腸、肺、乳、子宮頸)の診断数、臨床ステージ、手術数、内視鏡治療件数などについて聞き取った。その結果、去年の胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの診断件数は8万660件と、一昨年より8,000件余り(9.2%)減少しており、コロナによる受診控えや検診受診者数の減少によって、がんの診断件数が減った可能性が明らかとなった。今後、進行がんの発見が増える恐れもあり、早期受診やがん検診受診率の向上を求めている。(参考)2020年のがん診断数9%減 コロナ禍で 日本対がん協会調査(毎日新聞)がん診断が1割減…コロナ禍で受診控え影響、進行がん増加懸念(読売新聞)“新型コロナで受診控え” がん診断件数 約9%減少(NHK)2020年のがん診断件数 早期が減少 進行期の増加を懸念 日本対がん協会とがん関連3学会が初の全国調査(日本対がん協会)

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熱傷診療ガイドライン改訂第3版が発刊

 前回の改訂より5年が経過したことを機に『熱傷診療ガイドライン 改訂第3版』が7月に発刊された。今回の改訂目的は、本邦における熱傷入院診療の標準治療を示すことで、本書で扱う熱傷は、「十分な診療リソースを利用できる環境にある本邦のような高所得国における」「概ね受傷後4週間以内」「入院治療が必要な程度にある重症度」。また、今回の改訂では、改訂第2版公開以降の新知見を十分な時間をかけ検討し、これまでの版で盛り込むことができなかった電撃傷・化学損傷などの特殊熱傷、鎮痛・鎮静、輸血、深部静脈血栓症対策のみならず、リハビリテーション、リエゾン・終末期・家族対応などを取り上げ、診療指針が示されている。対象とする患者集団小児から成人にいたる全年齢の患者において、おおむね受傷後4週間程度、集中治療室、熱傷ケアユニット、一般病棟で入院治療を必要とする重症度の熱傷。外来通院のみで治療が可能な重症度の熱傷は対象としていない。熱傷のなかには、気道損傷、化学損傷、電撃傷を含む。対象とする利用者(本ガイドラインの使用者)医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、熱傷診療にかかわるすべての医療従事者。治療の環境は、熱傷専門施設に限らず、本邦における日常診療を想定して患者に対し十分な診療リソースを利用できる環境とした。13領域69題のCQ 本書のclinical question(CQ)は2019 年 4 月にパブリックコメントを募集し、第45回日本熱傷学会総会学術集会で学会員の意見を求めた。得られた意見を参考にCQの修正を行い、ガイドライン作成グループで最終的に13領域69題のCQが決定された。―――・CQ 1 重症度評価・CQ2 気道損傷・CQ3 初期輸液療法・CQ4 初期局所療法・CQ5 外科的局所療法・CQ6 熱傷感染・CQ7 栄養・CQ8 特殊熱傷・CQ9 鎮痛・鎮静・CQ10 輸血・CQ11 深部静脈血栓症・CQ12 リハビリテーション・CQ13 リエゾン―――

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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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うつ病の初期治療と持続的治療反応との関連~メタ解析

 うつ病は、しばしば再発を繰り返す疾患である。そのため、患者を良い状態に導くだけでなく、良い状態を保つために最も効果的な治療法から選択すべきである。京都大学の古川 壽亮氏らは、成人うつ病患者の急性期治療における心理療法(PSY)、プロトコール化された薬物療法(PHA)、心理療法と薬物療法の併用(COM)、プライマリまたはセカンダリケアでの標準的治療(STD)、プラセボ治療についてランダム化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析を実施し、治療期間およびフォローアップ期間を通じた初期治療と持続的治療反応との関連を調査した。World Psychiatry誌2021年10月号の報告。 研究デザイン上、急性期治療は、維持期まで継続するか、別の治療法へ切り替えるか、任意の治療を行うか選択可能であった。対象は、81件のRCTより抽出された1万3,722例。持続的治療反応の定義は、急性期治療の反応が認められた後、維持期を通じて抑うつ症状の再発が認められなかった場合とした(平均期間:42.2±16.2週間、範囲:24~104週間)。12ヵ月目に最も近い時点で報告されたデータを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・COMは、COM治療が維持期まで継続された場合(OR:2.52、95%CI:1.66~3.85)と任意の治療が行われた場合(OR:1.80、95%CI:1.21~2.67)のいずれにおいても、PHAと比較し、持続的治療反応が認められた。・STDとの比較においても、COMは、COM治療が維持期まで継続された場合(OR:2.90、95%CI:1.68~5.01)と任意の治療が行われた場合(OR:1.97、95%CI:1.51~2.58)に同様の結果が得られた。・PSYは、PSY治療が維持期まで継続された場合(OR:1.53、95%CI:1.00~2.35)と任意の治療が行われた場合(OR:1.66、95%CI:1.13~2.44)のいずれにおいても、PHAと比較し、持続的治療反応がより維持された。・STDとの比較においても、PSYは、PSY治療が維持期まで継続された場合(OR:1.76、95%CI:0.97~3.21)と任意の治療が行われた場合(OR:1.83、95%CI:1.20~2.78)に同様の結果が得られた。・STDによる持続的治療反応率の平均値が29%であることを考慮すると、PHAまたはSTDに対するPSYまたはCOMの利点は、12~16%ポイントの範囲でリスク差に影響を及ぼすと考えられる。 著者らは「心理療法または心理療法と薬物療法の併用は、薬物療法単独よりも持続的治療反応が得られることが示唆された。これを踏まえて、臨床ガイドラインにおけるうつ病の第1選択治療に関する項は、改訂が必要になるかもしれない」としている。

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Stage IV乳がんの原発巣切除の意義とは?/日本癌治療学会

 わが国で実施されているJCOG1017試験(PRIM-BC)「薬物療法非抵抗性Stage IV乳がんに対する原発巣切除の意義(原発巣切除なしversusあり)に関するランダム化比較試験」は、来年8月に追跡期間が終了する予定で結果が待たれている。第59回日本癌治療学会学術集会(10月21~23日)におけるシンポジウム「乳癌治療におけるデエスカレーションとエスカレーション-さらなる個別化-」において、本試験の研究事務局である岡山大学の枝園 忠彦氏が、すでに発表されている海外での4つの前向きランダム化比較試験の結果と問題点を紹介し、それらのメタ解析の結果や今後の課題について発表した。de novo Stage IV乳がんに対する原発巣切除の役割とは? Stage IV乳がんの治療の目的は延命と症状緩和で、薬物療法が基本である。近年、薬物療法の進歩はめざましく、早期乳がんのみならず、転移している乳がんにおいても、体内のがん細胞が消失する割合が増えてきている。また、画像検査の精度が上がり、小さながん転移もみつけることが可能で、さらに血液中の微小転移も検出できる検査も確立してきている。このような時代の中で、再度、原発巣切除の役割を考えるというのが、これらの前向きランダム化比較試験の目的である。5つのランダム化比較試験の結果と問題点 de novo Stage IV乳がんに対する原発巣切除による予後の比較については、10年以上前から色々な施設から後ろ向き研究のデータが出ているが、ほとんどが原発巣切除するほうが予後がよいという結果となっている。それを受け、世界で5つの前向きランダム化比較試験が開始された。インドのTata Memorial Hospitalでの単施設試験(登録数350例)、トルコのMF07-01試験(274例)、オーストリアのABCSG28試験(90例)、米国のECOG2108試験(256例)、日本のJCOG1017試験(407例)の5つで、日本を除く4試験の結果がすでに報告されている。このうち、インド、米国、日本の試験は、全身療法で効果があった患者に対して切除の有無でランダム化しているのに対し、インドとオーストリアの試験ではStage IV乳がんと診断された時点ですぐにランダム化しているという違いがある。<インド・Tata Memorial Hospitalでの単施設試験>結果:全生存期間(OS)には差がなく、すべてのサブグループでも差がなかったが、局所の無増悪生存期間(PFS)は切除群のほうが良好だった。遠隔転移のPFSは切除群のほうが悪かった。問題点:生存期間中央値(MST)が20ヵ月未満と他の試験に比べて非常に短い。抗HER2療法を含めたNCCガイドラインに沿った薬物療法がなされていない。<トルコ・MF07-01試験>結果:切除群でOSが良好だった。サブグループ解析ではER/PR陽性、HER2陰性、55歳未満、単発性の骨転移で切除群のほうが良好だった。問題点:両群の背景に偏りがあった(切除群にER/PR陽性例が多く、非切除群にトリプルネガティブタイプが多い、など)。<オーストリア・ABCSG28試験>結果:OSには差がなかった。問題点:登録症例数が90例(予定は560例)と少ない。<米国・ECOG2108試験>結果:OSに差はなかったが、局所のPFSは切除群で良好であった。ただし、遠隔転移のPFSは差がなかった。サブグループ解析では、トリプルネガティブタイプのみ切除群でOSが悪かった。QOLは18ヵ月時点で切除群が有意に悪かった。問題点:非切除群の19%で切除を受けていた。4試験のメタ解析ではOSに差なし、JCOG1017試験が加わったときの結果は? 登録された症例や治療法は4つの試験間で均一ではなく、それぞれに問題点を抱えているが、これらをメタ解析するとOSは差がなく、どのサブグループでも差がなかった。一方、局所のPFSは切除群で有意に良好であり、局所制御を目的とした場合、切除が有効と考えられる。これらの結果より、乳がん診療ガイドライン2018年度版において「Stage IV乳がんに対する予後の改善を期待しての原発巣切除を行わないことを弱く推奨する」とされている。トルコの試験では単発性の骨転移には切除群で良好だったことから、枝園氏は「局所制御のための原発巣切除の適応となる患者の選別や、原発巣切除を含めたオリゴメタに対する治療方針をさらに検討する必要がある」と述べた。 日本のJCOG1017試験は来年8月に追跡期間が終わり、結果が発表される。「そのときにメタ解析の結果が変わるのか、いずれかのサブグループで差が出てくるのか、期待していただきたい」と枝園氏は締めくくった。

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心停止後昏睡患者の低体温療法、31℃ vs. 34℃/JAMA

 院外心停止後の昏睡状態の患者において、体温31℃を目標とした体温管理を行っても、34℃を目標とした体温管理と比較して180日死亡率や神経学的アウトカムは改善しないことが示された。カナダ・University of Ottawa Heart InstituteのMichel Le May氏らが、単施設での無作為化二重盲検優越性試験「CAPITAL CHILL試験」の結果を報告した。院外心停止後の昏睡状態の患者は死亡率が高く、重度の神経学的損傷を生じる。現在のガイドラインでは、目標体温32℃~36℃で24時間の体温管理が推奨されているが、小規模な研究においてより低い体温を目標とすることに利点があることが示唆されていた。JAMA誌2021年10月19日号掲載の報告。心停止後の昏睡状態の患者389例を、31℃と34℃に無作為に割り付け 試験は、カナダ・オンタリオ州東部の三次心臓医療センターで実施された。研究グループは、2013年8月4日~2020年3月20日の期間に、院外心停止後の昏睡状態(入院時のグラスゴー・コーマ・スケールスコアが8点以下)にある18歳以上の患者389例を登録し、目標体温31℃群(193例)または34℃群(196例)に無作為に割り付けて24時間の体温管理を行った(最終追跡調査2020年10月15日)。 主要評価項目は、180日時点での全死亡または不良な神経学的アウトカムの複合エンドポイント、副次評価項目は30日死亡、180日死亡、集中治療室在室期間など合計19項目とした。神経学的アウトカムはDisability Rating Scale(範囲:0~29、29は植物状態)を用いて評価し、スコアが>5を不良と定義した。180日時点の死亡および神経学的アウトカムが不良の患者の割合に有意差なし 389例のうち、割り付けられた治療を受け主要評価項目の解析対象となったのは367例(平均年齢61歳、女性69例[19%])で、このうち366例(99.7%)が試験を完遂した。 主要評価項目のイベントは、31℃群で184例中89例(48.4%)、34℃群で183例中83例(45.4%)に発生した(リスク差:3.0%[95%信頼区間[CI]:7.2~13.2]、相対リスク:1.07[95%CI:0.86~1.33、p=0.56])。 19の副次評価項目のうち、18項目では統計的な有意差は確認されなかった。集中治療室在室期間中央値は、31℃群で有意に延長した(10日 vs.7日、p=0.004)。180日死亡率は、31℃群43.5%、34℃群41.0%であった(p=0.63)。 有害事象については、深部静脈血栓症の発現率は31℃群11.4% vs.34℃群10.9%、下大静脈血栓症は3.8% vs.7.7%であった。

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管理薬剤師「実務経験5年以上」の実態は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第78回

2021年は調剤報酬の改定こそなかったものの、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)の改正や関連するガイドラインの発出など、さまざまなことがありました。これに関連して、日本保険薬局協会(NPhA)が会員企業を対象に法令遵守に関する調査を行い、その結果を公表しましたので紹介します。日本保険薬局協会は14日の定例会見で「薬局における法令遵守に関する調査」結果を公表した。医薬品医療機器法改正に伴って規定された管理薬剤師の選任要件に関して、社内基準を規定している会員企業の割合は84.7%、厚生労働省がガイドラインで示した「実務経験5年以上」を要件として課している会社は45.5%にとどまった。(RISFAX 2021年10月15日付)これってなんだっけ?と思っている方がいないことを願いますが、2021年8月の薬機法改正による法令遵守規定の施行に先立ち、2021年6月に「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」と「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」が出されました。上記記事は、NPhAがこのガイドラインに沿って薬局運営が行われているかを会員薬局に対して調査したものです。今回の薬機法改正に関しては、項目ごとに施行期日が異なっていて、「認定薬局」と「法令遵守体制の整備」は8月1日施行だったため、薬局ではかなり急ぎで手順書の改訂などの対応をされたのではないでしょうか。今回のアンケートは、まだ実施できていない薬局に注意喚起を行うとともに、業界団体としてどういったサポートができるかを探るという意味もあったのかもしれません。この記事にある「管理薬剤師の実務経験5年以上」という選任基準は、今回のガイドラインで推奨している内容の1つであり、実は薬機法そのものでは5年以上とは規定されていません。薬機法の管理薬剤師の責務を担ううえで、実務経験が5年以上あることを「推奨」しているだけです。業界の信頼を損ねないためにもある程度足並みをそろえる必要はあると思いますが、この調査結果を、「遵守は5割未満」というタイトルで報じている記事もあり、ちょっと悪意あるかも…?と思ったりもします。少し擁護しますと、管理薬剤師の選任基準として「実務経験5年以上」を要件として定めている薬局は45.5%であったものの、実際に管理薬剤師の実務経験が5年以上である薬局は89.3%でした。はっきりと選任基準に入れていなくても、実際はガイドラインに沿った人事であることがよくわかります。管理薬剤師の業務や責任を考えると、薬局経営者としても経験豊富な薬剤師に任せたいはずです。しかし、管理薬剤師が突然退職してしまった…などのいざというときのために基準には入れづらいのだと思います。NPhAの首藤 正一会長は「会員に遵守徹底を促す」とのことですので、同様の調査は今後も実施される可能性があります。安定した組織運営や患者さんからの信頼確保のため、ガイドラインを遵守しつつも臨機応変に動ける体制がつくれたらいいなと思います。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2【「実践的」臨床研究入門】第13回

コクラン・ライブラリー~該当フル・レビュー論文を読み込んでみるCQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか↓P:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:腎予後上記は、これまでブラッシュアップしてきた、われわれのCQとRQ(PECO)です。前回、コクラン・ライブラリーで”low protein diet”をキーワードに関連先行研究を検索したところ、読み込むべきフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)として、下記の2編が挙げられました。Low protein diets for non‐diabetic adults with chronic kidney disease(慢性腎臓病を有する非糖尿病成人のための低たんぱく食)1)Protein restriction for diabetic renal disease(糖尿病性腎疾患に対するたんぱく摂取制限)2)文献1)の書誌情報を確認してみると、連載第11回でUpToDate®の活用法を解説した際に引用した文献3)と論文タイトルが若干異なり、また筆頭著者名が変更され、出版年も2009から2020に変わっています。しかし、コクラン・ライブラリー収載フル・レビュー論文の固有IDであるCD番号(CD001892)は同一であり、文献1)は文献3)の「アップデート論文」であることに気が付きます。コクランでは新しいエビデンスを取り入れるために、定期的なフル・レビュー論文のアップデートを著者に求めています。コクラン・ライブラリーのホームページでこの最新のフル・レビュー論文1)を見ると、タイトル、著者名の直下に、Version published: 29 October 2020 Version historyとの記載があります。また、“Version history”には更新履歴のリンクが貼られており、クリックすると2000年11月出版の初版から、2006年4月、2009年7月3)、2018年10月、そして2020年10月の最新版まで計5回にわたってアップデートされていることがわかります。連載第11回執筆時点(2021年8月)では UpToDate®では2018年10月および2020年10月のアップデート論文1)はカバーされていないようでしたので、最新版1)のフル・レビュー論文の内容をチェックしてみましょう。UpToDate®で引用されたバージョン3)と比較すると、システマティック・レビュー(SR:systematic review)に組み込まれたランダム化比較試験(RCT:randomized controlled trial)は10編(解析対象患者数2,000名)から17編(解析対象患者数2,996名)に増えていました。また、UpToDate®で引用されたバージョン3)では行われていなかった、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)と超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)の比較もなされています。その結果は下記の様に記述されています。超低たんぱく食は低たんぱく食と比較して末期腎不全(透析導入)に到るリスクは35%減少する(相対リスク[RR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.49~0.85)が、推定糸球体濾過量(eGFR)の変化に影響を及ぼすかは不明であり、死亡のリスク(RR:1.26、95%CI:0.62~2.54)にはおそらく差はなかった(筆者による意訳)。われわれのリサーチ・クエスチョン(RQ) は0.5g/kg/標準体重/日未満という厳格な低たんぱく食の効果を検証しようとするものです。このRQにより役立つ先行研究からの知見が、UpToDate®では網羅されてない最新のフル・レビュー論文(Cochrane Reviews)で言及されていることに気が付きます。これまで述べてきたように、診療ガイドライン、UpToDate®、コクラン・ライブラリー、などの質の高い2次情報源を補完的に活用することにより、効率的で網羅的な関連先行研究のレビューを行うことができるのです。1)Hahn D et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 29;10:CD001892.2)Robertson L et al.Cochrane Database Syst Rev.2000;CD002181. 3)Fouque D et al. Cochrane Database Syst Rev.2009 Jul 08;3;CD001892.

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ESMO2021レポート 肺がん

レポーター紹介2021年のESMOは、6月のASCO、8月のWCLCに続く9月開催ということもあり、肺がん領域では大きなインパクトのある発表はないと思われましたが、重要な試験のアップデート、EGFR-TKIや免疫チェックポイント阻害薬の耐性後の治療開発、希少ドライバー変異に対する新薬や、がん免疫療法の第III相試験など、新たな知見の報告が多くありました。今回はその中から、とくに実臨床や近い将来に影響すると思われる演題について概括します。WJOG9717L試験EGFR遺伝子変異陽性、未治療進行再発、非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、オシメルチニブを標準治療に、オシメルチニブ+ベバシズマブの優越性を評価した無作為化第II相試験である。活性型EGFR遺伝子変異タイプの割合や約2割の術後再発症例を含むなど、患者背景は同じ対象の過去の試験と同様であった。122例が登録され1:1に割り付けられた。主要評価項目は中央判定による無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は主治医判定のPFS、全生存期間、奏効割合が設定されている。第1世代のEGFR-TKIであるエルロチニブにベバシズマブ(BEV)を併用することでPFS延長効果が第III相試験で示されており、オシメルチニブにBEVを併用することでPFSのさらなる延長効果に大きな期待が集まっていた試験である。BEV併用効果を示すことができなかった本試験の結果は、BEV併用群のPFS中央値22.1ヵ月、オシメルチニブ単剤群20.2ヵ月であった。生存曲線を見ると、治療開始早期から離れていたが24ヵ月あたりでほぼ重なってしまい、ハザード比0.862(95%信頼区間0.531~1.397)という結果だった。医師判定による結果も同様で、BEV併用群24.3ヵ月、オシメルチニブ単剤群17.1ヵ月であり、ハザード比0.801(95%信頼区間0.504~1.272)で差がなかった。サブ解析では、喫煙歴のある集団、del19の集団で併用群のPFSが良い傾向が認められた。奏効率は、BEV併用群82%、オシメルチニブ単剤群86%で同等であるが、Waterfall plotでは併用群は全例で縮小が認められた。しかし、血管新生阻害薬併用時に見られる腫瘍縮小の深さは見られなかった。有害事象で1つ興味深い結果があった。併用群でオシメルチニブに関連する肺臓炎発症頻度が少ないことである。オシメルチニブ単剤群18.3%、併用群3.3%であり、肺臓炎発症リスクを低減させる可能性が示唆される。この傾向は血管新生阻害薬併用の他試験でも見られている。本試験以外に、オシメルチニブにBEVを併用した試験は、T790M遺伝子変異陽性既治療症例を対象に実施された比較試験が2つあり(BOOSTER、WJOG8715L)、いずれも併用によるPFS延長効果を示すことができていない。血管新生阻害薬併用は単純ではなく、EGFR変異タイプ、胸水貯留や間質性肺炎の懸念など、使いどころを考える必要がある。DESTINY-Lung01試験HER2を標的としたADC(Antibody Drug Conjugate活性を:抗体薬物複合体)トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)の第II相試験である。本試験には、標的とするHER2の免疫染色による、HER2過剰発現、またはHER2遺伝子変異を対象とした2つのコホートがある。2020年のASCOでHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん42例の中間解析結果が発表されたが、今回は91例の結果が発表された。主要評価項目は独立評価による奏効割合である。観察期間中央値は13.1ヵ月、年齢中央値60歳、36.3%に脳転移を有し、変異部位はキナーゼドメインが93.4%であった。ほぼ全例が標準治療を受けた既治療例で、HER2-TKI既治療例も一部いた。解析時、15例(16.5%)が治療継続していた。CR 1.1%を含む、54.9%の奏効割合、病勢制御率は92.3%。HER2変異部位、蛋白発現や遺伝子増幅レベル、TKI既治療の有無に関係なく奏効していた。PFS中央値は8.2ヵ月、生存期間中央値は17.8ヵ月で、標準治療後の成績として有望な結果である。有害事象において特筆すべきは間質性肺疾患(ILD)である。24例(26.4%)に薬剤関連のILDが発現し、多く(75%)はGrade1/2であるが、死亡2例(2.2%)を認めた。細胞傷害性抗がん剤がリンカーで結合している薬剤のため、30%を超える消化器毒性と骨髄抑制の発現があり、50%を超える嘔気と倦怠感が最も多い減量理由であった。RET阻害薬が最近承認され、KRAS阻害薬は承認申請中であり、希少ドライバー変異に対する分子標的治療薬が臨床に届き始めた。HER2を標的にする阻害薬はなく、この試験結果から間違いなく期待される薬剤であるが、リスクベネフィットを考慮する必要がある。本研究は発表と同時にNEJM誌に掲載されている。ZENITH20試験(コホート4)HER2エクソン20挿入変異陽性、未治療の非小細胞肺がんを対象にした、経口の汎HERチロシンキナーゼ阻害薬poziotinibの第II相試験である。EGFRとHER2のエクソン20の挿入変異は、非小細胞肺がんにおいてそれぞれ約2~4%に認められ、変異全体の約10%を占めている。またエクソン20挿入変異は既存のTKIに対して耐性を示すことが知られている。HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対し有効な治療はない。本試験には7つのコホートがあり、主に既治療・未治療、EGFR・HER2のそれぞれに対する有効性を検討している。今回のコホートでは、最初の48例にpoziotinib 16mgを1日1回経口投与、以後登録される被験者には8mgが1日2回投与された。年齢中央値は60歳で肺がん試験では比較的若い。未治療48例中21例が奏効し、奏効率43.8%(95%信頼区間:29.5~58.8)であり、主要評価項目を達成した。PFS中央値は5.6ヵ月、そのうち26%の症例はPFSが12ヵ月を超えて持続していた。有害事象は、下痢(83%)、口内炎(81%)、皮疹(69%)、爪囲炎(46%)が認められ、投与中断割合88%、減量割合77%で治療中止割合は13%、と既存の第2世代EGFR-TKIと同程度であり、毒性がやや強いと思われる。治療薬がないドライバー変異に対する新規治療として有効性を示しているが、初回治療成績として臨床的に意義のある有効性とは言い難い。IMpower010試験完全切除された術後IBからIIIA期(UICC第7版)の非小細胞肺がんで、術後化学療法を最大で4サイクル受けた患者を対象に、アテゾリズマブを16サイクル投与する試験治療を経過観察と比較した第III相試験である。PD-L1(SP263)発現陽性54.6%、EGFRまたはALK遺伝子陽性例14.9%が含まれていた。無病生存期間(DFS)を主要評価項目とした中間解析の結果がすでにASCO2021で発表されており、アテゾリズマブは経過観察に比べて、再発または死亡リスクを34%低下させた(ハザード比:0.66、95%信頼区間0.50~0.88)。ASCO、WCLCでの発表に続く今回は、再発の詳細と再発後の治療についての発表で、少しずつ試験の全貌が明らかになってきている。再発率は、PD-L1 TC 1%以上でII~IIIA期の集団で、アテゾリズマブ群29.4%、経過観察群44.7%であった。PD-L1発現を問わずII~IIIA期の全集団では33.3%と43.0%、ITT集団(IB~IIIA期)では30.8%と40.8%であった。再発形式は局所または遠隔のみ、その両方と中枢神経再発別で比較しているが、2群間で大きな差はない。再発形式は、PD-L1 TC 1%以上のII~IIIA期の集団で、局所領域のみの再発はアテゾリズマブ群47.9%、経過観察群41.2%、遠隔再発のみは38.4%と39.2%、局所と遠隔再発は12.3%と16.7%、中枢神経再発のみは11.0%と11.8%だった。PD-L1発現を問わずII~IIIA期の全集団やITT集団でも、再発形式、その割合はほとんど一緒であり、2群間に大きな差はなかった。無作為化から再発までの期間は、PD-L1 TC 1%以上のII~IIIA期集団でアテゾリズマブ群のほうが経過観察群より長く、中央値がそれぞれ、アテゾリズマブ群17.6ヵ月(0.7~42.3ヵ月)、経過観察群10.9ヵ月(1.3~37.3ヵ月)であった。また、同集団の再発形式別に見た再発までの期間は、いずれもアテゾリズマブ群のほうが長かった。しかし、無作為化されたII~IIIA期の集団やITT集団では、2群間の再発までの期間中央値は差が小さかった。再発後の治療においても外科治療、放射線治療、化学療法いずれも2群ともほとんど同じ割合であり、免疫療法を受けた割合は経過観察群(35.3%)で、アテゾリズマブ群(11.0%)より多かった。アテゾリズマブ群の再発に関しては経過観察群と比べて特徴のある因子はなく、局所から脳転移などの遠隔転移まで、満遍なく制御していることでDFS延長効果を示した結果であった。また、PD-L1発現50%以上の強発現集団では、DFSのハザード比は0.43と報告されている。現在、アテゾリズマブは術後化学療法に対して承認申請を行っている。本試験の観察期間中央値が32ヵ月であり、生存曲線もテイルプラトーが見られておらず、本当の意味での術後治療の有効性を見極めるためにはもうしばらく時間が要りそうである。IMpower010試験のデータは、Lancet誌に掲載されている。PACIFIC-R Real-World Study切除不能III期非小細胞肺がんを対象として、根治的同時化学放射線療法(CRT)後にデュルバルマブ維持療法を1年間投与する治療を、プラセボと比較して検証したPACIFIC試験のリアルワールドデータである。今年のASCO2021でデュルバルマブ投与による5年生存割合40%と長期生存改善効果が報告され、切除不能III期の予後を大きく改善しているが、試験データがこの1つしかない。良好な治療成績を示したPACIFIC試験だが、プラセボ群の治療成績も良い。そのため、試験に登録された対象全体が全身状態を含め条件の良い症例であると考えられ、患者背景もさまざまな実臨床で治験と同様の成績が証明できるのか疑問があった。この試験は、PACIFICレジメンの実臨床における有効性を後ろ向きに評価した観察研究である。11ヵ国、29施設から登録された1,399例が解析対象となった。患者背景は年齢中央値66歳、StageIIIA 43.2%、扁平上皮がん35.5%、CRT同時併用は76.6%、PD-L1≧1%は72.5%であった。放射線治療終了からデュルバルマブ投与までの期間中央値は56日、デュルバルマブ投与回数中央値22回、PFS中央値は21.7ヵ月で治験成績(16.9ヵ月)より良好であった。デュルバルマブ投与完遂率47.1%、有害事象による中止率16.7%、PDによる中止率26.9%も治験と同様であった。切除不能III期非小細胞肺がんに対するCRT後のデュルバルマブ維持療法の有用性は、リアルワールドでも裏付けられた結果といえる。CASPIAN試験進展型小細胞肺がんを対象に、プラチナ+エトポシドを標準治療とし、デュルバルマブの併用、デュルバルマブ+tremelimumabの併用をそれぞれ評価した第III相試験である。主要評価項目である全生存期間の延長効果がデュルバルマブの上乗せによって示され、肺がん診療ガイドラインで推奨されている。最近、Lancet Oncology誌に掲載された2年フォローアップ解析の生存データの報告も新しい。今回の発表では、追跡期間中央値39.4ヵ月の3年生存割合のアップデート結果が示された。進展型小細胞肺がんで3年生存まで解析するのは珍しい。報告された生存に関する解析では、両群のハザード比が0.71、95%信頼区間0.60~0.86、3年生存割合が試験治療群17.6%、標準治療群5.8%という結果で、生存曲線の開きを維持しつつ、3年生存率の差が3倍になりテイルプラトーも見られた。小細胞肺がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の上乗せによる長期生存効果が確認できたが、非小細胞肺がんと違い、有望なバイオマーカーがなく、開発に期待したい。CheckMate-743試験切除不能進行、未治療悪性胸膜中皮腫の1次治療に対して、ニボルマブとイピリムマブ併用療法の試験治療を、標準化学療法であるペメトレキセドとシスプラチンまたはカルボプラチンと比較した第III相試験である。観察期間中央値29.7ヵ月で実施された事前指定の中間解析においてハザード比0.74(96.6%信頼区間:0.60~0.91、p=0.0020)と、ニボルマブとイピリムマブ併用療法による生存延長効果が示されているが、今回、観察期間中央値43.1ヵ月の3年長期生存結果と探索的バイオマーカーの解析結果が発表された。生存期間中央値は、ニボルマブとイピリムマブ併用群18.1ヵ月、標準治療群14.1ヵ月でハザード比0.73(95%信頼区間0.61~0.87)であった。3年生存割合は、23%と15%で、少しずつ年次生存率の差は小さくなっている。生存曲線はしっかり離れているがテイルプラトーは見え始めたような印象である。腫瘍組織のRNAシークエンスを用いてCD8A、STAT-1、LAG-3、PD-L1の4遺伝子の発現スコア、TMB、LIPI(Lung immune prognostic index、好中球/リンパ球比とLDHから算出される)と生存の関連が解析された。ニボルマブとイピリムマブ治療を受けた集団において、4遺伝子の発現スコアが高い集団で生存が良かった(21.8ヵ月vs.16.8ヵ月)。一方、化学療法群ではスコアによって生存に差がなかった。TMBやLIPIスコアに関係なく、ニボルマブとイピリムマブ群の生存が良い傾向が示された。WJOG9616L試験PD-1(L1)抗体が有効であった進行再発非小細胞肺がんに対して、ニボルマブ投与の有効性を検討した第II相試験である。主要評価項目は奏効割合、副次評価項目は無増悪生存期間、全生存期間などとなっている。標準治療を受けた既治療進行肺がんでは、前治療で奏効が得られた抗がん剤の再投与による治療は、比較的広く受け入れられている。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の再投与の有効性は、症例報告で散見されている程度である。対象は、CR、PRもしくは6ヵ月以上のSDの臨床的有効性が得られ、その後に増悪し、最終投与から60日以上経過している61症例で、59例で有効性が解析された。奏効割合は8.5%、無増悪生存期間中央値2.6ヵ月、全生存期間中央値は11.0ヵ月だった。診断時のPD-L1発現や前治療ICIの効果(41例がCRまたはPR)と有効性は関連性がなかった。ICI無効後のリチャレンジの有効性はない結果となったが、irAEなどで中止後の再投与とは違うと思われる。おわりに今回取り上げた演題以外にも知っていただきたい発表がたくさんありますが、臨床に反映できる内容が良いと考えて演題を選び概括させていただきました。まずはこのレポートが、多くの先生方に読んでいただき、今の臨床に役立つ内容になっていれば幸いです。

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切り傷の縫合処置(表皮縫合)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第7回

第7回 切り傷の縫合処置(表皮縫合)《解説》今回は、仕上げの表皮縫合を説明します。ついにキズモンスターをやっつけるぞ!最後に表皮縫合:目的は段差の修正!真皮縫合が終了した時点で創縁は寄っているため、表皮縫合では少しズレている創縁を揃えるように行います。きつく結紮する必要はありません。針糸は角針、非吸収性のモノフィラメント糸を使うことが多いです。太さは真皮縫合と同じか少し細くてもよいです。真皮縫合と同様に、針は皮膚に直角に刺入しますが、その際しっかり皮膚を外反させる必要があります。持針器を持つ手もクイッとしっかり返しましょう!ここまで説明したのは、一般的によく使われる「単純縫合」についてです。縫合の方法にはほかにも種類があり、緊張のかかり方や角質の厚さ等で選択します。水平マットレス縫合:手掌部など硬い皮膚の縫合に使用垂直マットレス縫合:創縁を確実に合わせたい場合に使用また、3つの創縁を寄せるときに使う「三点縫合法」という方法もあります。知っていると便利です!さて、縫合についての基本は確認できましたか。正しい道具と針糸、少しのコツを知るだけで、キズモンスターの発生をかなりの確率で防ぐことができます! 一緒に頑張りましょう!!参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.3)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.4)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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