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気管支拡張症への高張食塩水とカルボシステイン、肺増悪を改善せず/NEJM

 気管支拡張症の患者に対する高張食塩水およびカルボシステインはいずれも、52週間にわたる肺増悪の平均発生率を有意に低下させなかった。英国・Queen's University BelfastのJudy M. Bradley氏らCLEAR Investigator Teamが、同国20病院で行った非盲検無作為化2×2要因試験の結果で示された。粘液活性薬は作用機序によってさまざまであり、去痰薬(例:高張食塩水)、粘液調整薬(例:カルボシステイン)、粘液溶解薬(例:N-アセチルシステイン)、粘膜潤滑薬(例:サーファクタント)などがある。気管支拡張症ガイドラインでは、粘液活性薬の有効性に関して一貫性がなく、その使用は地域によって異なり、安全性と有効性を評価するための大規模な試験が必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年9月28日号掲載の報告。高張食塩水群vs.非高張食塩水群、カルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で比較 試験には、非嚢胞性線維症気管支拡張症で頻回の肺疾患増悪(過去1年間に2回以上[COVID-19パンデミック以降は1回以上])と日常的な喀痰産生を有する18歳以上の成人患者を登録した。無作為化時点で喫煙者および無作為化前30日間に粘液活性薬による治療を受けた患者は除外した。 すべての被験者は標準治療を受け、さらに(1)高張食塩水群、(2)併用群(高張食塩水とカルボシステイン)、(3)カルボシステイン群の3つの粘液活性薬群のいずれか、もしくは標準治療のみを受ける群へ均等に無作為化された。 比較は、高張食塩水群vs.非高張食塩水群、およびカルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で行った。 主要アウトカムは、52週間における肺増悪回数。重要な副次アウトカムは、疾患特異的な健康関連QOL評価スコア(QoL-Bなど)、次の増悪までの期間および安全性であった。肺増悪の平均回数、使用群に有意な効果は認められず 2018年6月27日~2023年9月28日に、合計288例が無作為化された。ベースラインの各群の被験者特性は類似していた。高張食塩水とカルボシステインの交互作用のエビデンスは認められなかった(p=0.60)。 52週間における確定肺増悪の平均回数は、高張食塩水群0.76回(95%信頼区間[CI]:0.58~0.95)vs.非高張食塩水群0.98回(0.78~1.19)であり(補正後平均群間差:-0.25、95%CI:-0.57~0.07、p=0.12)、カルボシステイン群0.86回(95%CI:0.66~1.06)vs.非カルボシステイン群0.90回(0.70~1.09)であった(補正後平均群間差:-0.04、95%CI:-0.36~0.28、p=0.81)。 副次アウトカムおよび有害事象(重篤な有害事象を含む)は、比較グループ間で類似していた。

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小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】第7回

小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)は、2000年ごろから急速に認知が広がった比較的新しい疾患概念であり、新生児・乳幼児を中心に増加しています。嘔吐や下痢を主訴に受診する乳児では、感染症や外科的疾患に加えて、食物蛋白誘発胃腸症を鑑別に挙げることが重要です。今回は、代表的な新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の一型である食物蛋白誘発胃腸炎(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome:FPIES[エフパイス])を中心に解説します。症例2ヵ月、男児。授乳2時間後に大量に嘔吐を繰り返したため救急外来を受診。普段は完全母乳栄養だが、本日は祖母に預けるため普段は使わない人工乳を使用したとのこと。受診時には活気良好で、腹部所見なし。食物蛋白誘発胃腸症の特徴と分類一般的に食物アレルギーというと、蕁麻疹や呼吸症状を伴う即時型(IgE依存型)アレルギーを想起するでしょう。しかし、食物蛋白誘発胃腸症はIgEが関与せず、主に消化管粘膜で炎症反応が起こる非即時型(非IgE依存型)アレルギーです。食物摂取後、数時間~数日かけて症状が出現し、皮膚症状や呼吸器症状を伴わないことが大きな特徴です。新生児・乳児の消化管アレルギーはわが国独自の疾患概念として扱われていましたが、小児の消化器分野や国際的な概念を鑑みて「食物蛋白誘発胃腸症」として再定義されました。食物蛋白誘発胃腸症は経過や症状から下記のようにいくつかのサブグループに分けられます。画像を拡大する最も代表的なものはFPIESです。日本での有病率は約1.4%と報告されており、決してまれな疾患ではありません。FPIESは経過により急性型と慢性型に分けられます。急性型は原因食物摂取後1~6時間に反復する強い嘔吐が出現し、顔色不良やぐったりするなど全身状態の悪化を伴うこともあります。重症例では、輸液やステロイド投与による全身管理が必要になることがあります。なお、急性期の対応として即時型アレルギーのようにエピネフリン筋注を行っても効果は期待できません。一般的には摂取を中止すると数時間で速やかに改善し、経過は短いのが特徴です。一方、慢性型は原因食物の摂取を続けることで数日~数週かけて嘔吐や下痢、体重増加不良が現れ、除去後も改善までに時間を要します。画像を拡大する実際には症状が重なり合っているためサブグループに分けられないことがしばしばあり、そのために診断や治療に支障を来す場合も見受けられます。日本ではNomuraらによる「嘔吐と血便の有無」で4群に分けるクラスター分類が提唱され、臨床的な整理に有用です。原因となる食物原因となる食物は国や地域によって異なりますが、国際的には乳、魚、鶏卵、穀物、大豆の順になっています。日本の13施設による多施設共同研究(成育医療センター・筑波大学ほか)では、食後1~4時間以内に遅延性の嘔吐を呈した小児225例を対象に解析を行った結果、FPIESの原因食物は鶏卵が最も多く(58.0%)、続いて大豆・小麦(各11.1%)、魚(6.6%)、牛乳(6.2%)でした。鶏卵では94%が卵黄によるものでした。牛乳が原因で発症した児の月例の中央値は1ヵ月と最も早い結果でした。原因食物の違いは各国の離乳食事情によるようで、初期に摂取するものが原因になりやすいと考えられています。診断と治療の基本FPIESには、下記のような診断基準が設けられています。臨床的には、(1)被疑食物を除去して症状が改善すること(食物除去試験)、(2)再度摂取することで症状の再現性があること(食物負荷試験)、(3)他の疾患に当てはまらないこと、を確認します。とくに、小児領域では腹部症状や体重増加不良を来す疾患が多数あるため、他疾患がないか十分に確認することが重要です。FPIESを含む食物蛋白誘発胃腸症は非IgE依存性であるため、一般的なIgE依存性の食物アレルギーで行うような血液検査やプリックテストでは診断できません。末梢血好酸球数、アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(ALST)、便粘液好酸球検査、消化管内視鏡検査などを補助的に行うこともありますが、いずれも条件が限定されており、その所見のみで確定診断できるほど有用な検査ではありません。画像を拡大する治療の基本は原因物質の除去です。人工乳(乳)が原因の場合には、代わりに加水分解乳やアミノ酸乳といった栄養剤を使用します。食物除去によって栄養素が不足しないよう、病院の管理栄養士と相談しながら、適宜栄養素の内服や補助食品などを併用します。一般的にFPIESの予後は良好と考えられています。寛解率や時期は原因食物によって異なりますが、幼児期のうちに治ることが多いと報告されており、除去している原因食物が食べられるようになったかどうか、定期的な食物負荷試験で確認します。冒頭の症例では、追加の問診で「半月ほど前にも一度祖母に預けた際に人工乳を使用して2~3時間後に大量に嘔吐した」との情報があり、症状の再現性が確認されました。人工乳の使用を一旦中止し、これまで母乳では症状が出ていなかったため母乳での対応を継続しました。母が不在で母乳の供給が困難な場合には、アレルギー用ミルクである加水分解乳(ニューMA1など)を選択しました。その後、症状の反復がないこと、体重増加が良好であることなどを確認し、症状寛解後数ヵ月を経て経口負荷試験を行いました。離乳食の進み具合に合わせて、他の食材に関しても相談しながら通院中です。保護者への対応の工夫発症予防として、妊娠中の食物制限や離乳食の開始時期を遅らせることは、医学的根拠に乏しく推奨されません。また、「なんとなく怖いから卵はまだ与えていない」といった安易な食物摂取制限も避けるべきです。過度な制限は成長や発達に影響を及ぼすこともあるため、そのリスクを共有し、バランスのとれた摂取を勧めましょう。食物蛋白誘発胃腸症に限らず、食物アレルギーは子供の成長・発達や将来にも関わるため、保護者の心理的負担は非常に大きいものです。長期的な予後や今後の方針を丁寧に共有することで、不安の軽減につながります。FPIESは多くの場合、1~3歳ごろまでに自然寛解することが知られています。日本の報告では、卵黄、乳、小麦、大豆などの原因食品を対象とした場合、発症から12ヵ月後には約半数の児が寛解し、24ヵ月後にはおよそ8~9割が耐性を獲得していました。とくに乳製品が原因の場合、耐性を獲得する月齢の中央値は約17ヵ月と報告されています。冒頭の症例のように乳が原因の場合、乳児の栄養源の中心であるため成長に直結する大きな課題となります。保護者の不安に寄り添いながら、現実的な栄養管理の方法を一緒に模索していくことが重要です。次回は、絶対に見逃してはならない疾患の1つ、「精巣捻転」について取り上げます。夜風が涼しくなり、ようやく過ごしやすい季節になってきました。季節の変わり目、どうぞお身体にお気をつけてお過ごしください。ひとことメモ:よくあるQ&A妊娠中に特定の食物を控えれば、子供のアレルギー発症を抑えられるって本当?発症予防を目的とした母の妊娠・授乳中の抗原食物の制限、除去は推奨されない。完全母乳栄養であれば、赤ちゃんのアレルギー発症を予防できるって本当?母乳中には食物由来ペプチド、サイトカインが含まれており、児が食物に対して寛容を誘導するのに適している。ただし、母乳が原因で食物蛋白誘発胃腸症を発症することもある。他のアレルギーの可能性は?他の即時型アレルギーとは別の疾患概念であるため、必ずしも他の食物アレルギーを発症する可能性が高いとは限らない。離乳食の開始を遅らせると、アレルギー発症を防げるって本当?離乳食を遅らせることは予防・治療には繋がらず、むしろ成長を妨げることもあるため、安易に遅らせるべきではない。参考資料1)食物アレルギー診療ガイドライン20212)Nomura I, et al. J Allergy Clin Immunol. 2011;127:685-688.3)国立成育医療研究センターホームページ4)好酸球性消化管疾患(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)(指定難病98)/難病情報センター5)早野 聡ほか. 浜松医科大学小児科学雑誌. 2025;5:12-18.

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第285回 訪問看護と有料老人ホームに規制強化の動き、現場からは「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられるのか」との厳しい声も

ホスピス型住宅の「実態ない診療報酬請求」事件に関連して厚生労働省などで規制の動きこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、百名山ハンターをしている山仲間に付き合って、紀伊半島の大峰山(八経ヶ岳)と大台ケ原(日出ヶ岳)を登ってきました。東京から京都経由で橿原神宮に入り、レンタカーでぐるりと回って3日間で2峰を落とす(しかも雨の中)という強行軍です。というわけで高市 早苗・自民党新総裁の故郷、奈良県の山間の細い国道、県道を250キロ近く走って実感したのですが、奈良を含め紀伊半島はとても山深くかつ神秘的ですね。中でも大峰山(熊野古道の一部も走っています)は修験道の山としても知られており、山上ヶ岳は今でも宗教的理由から女人禁制が守られており、女人結界門から先は女性の入山が認められていません。日本ではもうほとんどないと言われる女人規制の山が存在する県から、日本初の女性総理が誕生するかもしれないとは……。昨今の政治状況を鑑みるになかなかに意味深なことであるなあと思いながら奈良を後にしました。さて今回は、「第280回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、『医心館』で発覚した『実態ない診療報酬請求』、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(前編)」、「第281回 同(後編)」で書いた、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件に関連して、厚生労働省などで興味深い動きがありましたので、それについて書いてみたいと思います。報告書は“グレー”と言っているのに“我々はシロだった”と強引に解釈アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。この報告書を受けてアンビスホールディングスは「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」などと、意図的な不正請求はなかった点を強調するコメントを出しました。報告書は”グレー”と言っているのに”我々はシロだった”と強引に解釈しているようで違和感を覚えたのですが、厚労省もやはり同様の違和感を抱いたようです。2026年改定では、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り頻繁な提供を認める方針厚労省は10月1日、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、有料老人ホームなどで訪問看護を過剰に提供する事業者への規制を強化する方針を明らかにしました。ホスピス型有料老人ホームの入居者らを対象に、一部の事業者による不正な診療報酬請求の横行が疑われることを踏まえたものです。「不正」とは具体的には、必要ないのに「1日3回」の頻繁な訪問や、複数人での訪問、報酬加算が得られる早朝・夜間や深夜の実施などです。2026年度の診療報酬改定で、主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認めることになりそうです。報酬自体も引き下げられるかもしれません。ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることなどを禁止に続く10月3日、厚労省は「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、これまでの議論の課題と論点を整理した取りまとめの素案を提示しました。同検討会は住宅型有料老人ホームなどでの過剰な介護サービスの提供、いわゆる「囲い込み」や、高齢者住まいの入居者紹介事業者への高額な紹介手数料の問題などを議論してきました。素案では、入居契約とケアマネジメント契約が独立していること、契約締結やケアプラン作成の順番といったプロセスにかかる手順書やガイドラインをまとめておき入居希望者に対して明示すること、契約締結が手順書やガイドライン通りに行われているかどうかなどを行政が事後チェックできる仕組みを作ることなどが挙げられています。また入居契約において、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を契約条件とすることや、そうした外付けサービスを利用する場合に家賃優遇といった条件付けを行うことや、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を利用者に強要することを禁止する措置を設ける方針も挙げられました。さらに、中重度の要介護者や医療ケアを要する要介護者などを⼊居対象とする有料⽼⼈ホームについては、現⾏の届け出制から登録制に切り替える案も提示されました。アンビスが運営しているホスピス型住宅は、施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフではなく、外部(といっても、併設の訪問看護ステーション、訪問介護事業所を使うケースが大半ですが)スタッフによって看護・介護を提供します。この素案が仮にそのまま制度化されるとなると、ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所や居宅介護支援事業所の利用を強制できなくなるわけで、現実にそんなことが可能かどうかは別として、経営的には少なからぬダメージとなるでしょう。医療法人理事長と訪問看護会社の社長がホスピス型住宅の適正化を要望このように、悪質な有料老人ホームへの締め付けは一見強まっているように見えますが、まだまだ「甘い」と指摘する人もいます。10月3日付のメディファクスは、ホスピス型住宅で不正・過剰請求や居者の不利益が生じていることに関連して、医療法人社団悠翔会の佐々木 淳理事長と、訪問看護の会社Graceの西村 直之代表取締役が厚労省を訪問、鰐淵 洋子厚労副大臣らに要望書を提出、適正化を訴えたと報じています。同記事によれば、「要望書では、ホスピス型住宅を運営する企業で、不正請求が明らかになった事例を指摘。不正が発覚した企業への監査が必要だとした。さらに、他の企業でも不正・過剰請求が起きているのではないか、と懸念を示している」としています。対応した鰐淵副大臣も問題意識を示したとのことです。悠翔会の佐々木氏は首都圏を中心に多数の在宅医療のクリニックを経営するとともに、内閣府の規制改革推進会議専門委員(健康・医療・介護)も務める論客です。その佐々木氏は自身のXにこの厚労省訪問についてポスト、中医協が検討する「主治医が指示書に必要性を明記している場合に限り、頻繁な提供を認める」案では甘く「このままだと例によって本丸は無傷、まじめな事業所のとばっちりで終わるパターンだと思います」と書いています。さらに佐々木氏は「こんなもので本当にホスピス型住宅における過剰なサービス提供にブレーキをかけられると思っているのでしょうか。すでに私たちは一部のホスピス型住宅運営者から『1日3回の訪問看護が必要と指示書に記載せよ』と具体的なリクエストを受けています。もちろん週に数回の訪問で十分な安定した患者にそんな指示を書けるわけがありません。しかし、この要求を拒絶すれば、主治医としての関わりが終わるだけ。結局、言われるがままに指示書を書いてくれる医者を囲い込み、ますますブラックボックス化するのでしょう」と中医協案への懸念を示しています。「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいい」そして佐々木氏は「事実上の施設看護を在宅・訪問看護として取り扱うことの弊害」を指摘、「ホスピス型住宅を新しい施設類型に定義し直し、特定施設と同様、包括報酬にすればいいのではないでしょうか。無駄な看護を押し売りする必要はなくなるし、無駄な社会保障費の支出も大幅に圧縮できるはずです」と大胆な改革案を提案しています。まったくの正論と言えるでしょう。住宅型とは名ばかりで、併設するステーションから自前のスタッフに頻回に訪問させているのでは、介護付き有料老人ホーム、すなわち特定施設と何ら変わりはありません。介護付き有料老人ホームとは異なる特定施設の新類型をつくり、報酬もマルメて(包括化して)しまえば、そうそうアコギなことはできなくなるのではないでしょうか。しかしながら、残念なことに来年は介護報酬改定がありません。再来年の改定に向けて、有料老人ホームの類型や特定施設の制度の抜本的見直しが進むことを期待したいと思います。

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国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。 J-LAAOレジストリは、全7学会(日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脳卒中学会、日本不整脈心電学会)共同の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象とした経皮的左心耳閉鎖システムによる塞栓予防の有効性・安全性を調査した多施設レジストリ研究である。今回、脳梗塞スコア(CHADS2またはCHA2DS2-VASc)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高い患者、抗凝固療法が推奨される患者で、とくに出血リスクスコア(HAS-BLED)が3点以上の出血リスクが高い患者を選択基準とし、本レジストリ登録者のうち7,036例の急性期の手技情報、有害事象、術後の抗凝固療法などが解析された。留置後の薬物療法としては、海外試験のレジメンにならい、留置~45日はワルファリン+アスピリン、45日~6ヵ月は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、その後はアスピリン単剤療法を推奨している。 主な結果は以下のとおり。 ※いずれの結果も各デバイスでフォローアップ期間が異なる点には注意・平均年齢は78.0歳(FLX Pro群:79.0歳)であった。・各スコアの中央値は、CHADS2が3点、CHA2DS2-VAScが5点、HAS-BLEDが3点であった。・アブレーション治療歴は約1/3にみられ、心房細動の種類としては発作性が2,780例(39.5%)、持続性が4,252例(60.4%)であった。・モヤモヤエコー(smoke like echo)は1,971例(28.0%)にみられた。・最終留置デバイスモデルは約11.3%で40mm、全体の2/3で31mmを超えるデバイスが選択されていた。・手術情報について、手術成功例は97.9%、手術時間は平均52.0分(G2.5:60.0分、FLX:51.0分、FLX Pro:47.0分)で、透視時間も短縮傾向、造影剤投与量も減少傾向であった。・心嚢液リスクはデバイスの形状変化に伴い減少し、G2.5は23例(3.1%)、FLXは40例(0.9%)、FLX Proは9例(0.6%)で認められた。・術45日後の左心耳有効閉鎖率(complete sealもしくは残留血流の最大幅が5mm以下の症例)はG2.5で99.7%、FLXで98.3%、FLX Proで98.3%に認められた。・術45日後の残留血液はG2.5で27%、FLXで13%、FLX Proで9.4%に認められた。・有害事象について、術直後のデバイスごとの心タンポナーデと心嚢液貯留の発生率(G2.5、FLX、FLX Proの順)は、心タンポナーデで0.7%vs.0.2vs.0.1%、心嚢液貯留で1.7%vs.1.0%vs.1.1%であった。・このほかの有害事象は、以下のような結果であった。◯デバイス血栓3.2%(G2.5:36例[4.8%]、FLX:170例[3.7%]、FLX Pro:19例[1.3%])◯うっ血性心不全4.5%(73例[9.7%]、226例[4.9%]、21例[1.4%])◯脳卒中2.5%(36例[4.8%]、131例[2.8%]、11例[0.7%])・死亡者数は全体で415例(5.8%)、G2.5では92例(12.2%)、FLXでは298例(6.5%)、FLX Proでは25例(1.7%)であった。・デバイス移動は全11例(0.16%)、機器の外科的摘出は全9例(0.13%)、経皮的デバイス抜去は全3例(0.04%)であった。 本結果について草野氏は「患者背景をみると、日本人は米国人と比べて発作性心房細動症例の割合が少なく、左心耳入口部が比較的大きい。その点が選択デバイスの大きさに反映されていた。残留血液量も減少傾向にあり、心タンポナーデの発生率の少なさからも安全に手技が行われていたことがうかがえる」とコメントした。外科的摘出の原因として、デバイス血栓・脱落、左房血栓などがみられた点については、「1年以上経過後に発生していることに留意が必要」とし、加えて「FLXでは手術当日にデバイス血栓を生じている症例が複数例あった。一方で、留置後2年後にも生じているケースも散見される。デバイス血栓を発症した患者はシリアスな病態には至っていないものの、これらの結果を踏まえて継続的なフォローアップを行ってほしい」と強調した。なお、いずれの結果を見るうえで、FLX Proは発売からフォローアップまでの期間が短いことには注意が必要である。国内ガイドラインでの推奨は… 日本での左心耳閉鎖術に関する推奨は、『2021年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈非薬物治療』1)において、「NVAFに対する血栓塞栓症の予防が必要とされ、かつ長期的な抗凝固療法の代替が検討される症例に左心耳閉鎖術を考慮してもよい(推奨クラスIIB、エビデンスレベルB)」となっていた。しかし、2024年にフォーカスアップデート版として公開された『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療』では、症例数の乏しさから左心耳閉鎖術に関する項目に変更は示されず“長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切ではない患者においては、左心耳閉鎖デバイスを用いた経皮的左心耳閉鎖術や胸腔鏡下左心耳閉鎖術を症例に応じて考慮してもよい”(p.59)にとどまっている。これについて草野氏は「J-LAAOを経年的に見ても、植込み対象での出血2次予防の割合が減少し、塞栓予防目的の植込みが増加している。今後は海外ガイドラインに準じて、脳梗塞高リスク例への広がりが期待される」と述べた。 最後に国内の状況について、同氏は「米国と日本では左心耳閉鎖術の実施件数に10倍もの差があり、欧米に比べると国内での実施件数は少ない。またレジストリでは、少数ながら脱落が外科手術に至った例があり、安全を心がけた植込み術も重要である」と締めくくった。

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第264回 「2040年を見据えた地域医療構想」医師はどう乗り越えるか?

地域医療構想が実現した日本の医療の姿厚生労働省が地域医療構想に着手して10年が経過しました。当時、厚労省は2025年の医療需要を踏まえた全国の二次医療圏ごとに必要病床数を定め、各都道府県に対して、病床機能報告をもとに4つの病床機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)で必要病床数119.1万床が、2023年度で119.2万床となったため、行政サイドはほぼ目標を達成したとしています(日本医師会雑誌2025年7月号)が、コロナ禍が収束した現在、多くの急性期病院の課題は、稼働率が以前のレベルまで回復せず、大学病院や公立病院を含めて大幅に赤字となっており経営危機が叫ばれています。すでに地域によっては医師や看護師不足のフェーズから、外来患者数の減少や入院患者の減少が予想より早く訪れており、大都市を除くと医師や看護師不足のフェーズから人口減少のため「患者不足時代」に突入したことが明らかになっています。これから迎える高齢患者増加の未来に、地域の医療機関は対応していく必要性があることは間違いありません。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2040年に向けた新たな地域医療構想とは厚労省の令和7年版厚生労働白書によれば、2040年の日本の人口は、生産年齢人口(15~64歳)を中心に1,000万人減少する一方、85歳以上を中心に高齢者数は2040年まで増加し続け、高齢化率が35%を超えると見込まれています。少子化の加速で、労働人口が減少するため、医療・介護ニーズは増えてもそれを支える人材が不足する社会に変化することが明らかになっています。とくに85歳以上の高齢者は医療・介護の複合ニーズを有するため、85歳以上人口の増加によって85歳以上の高齢者の救急搬送は、2020年と比較して、75%増加し、85歳以上の在宅医療の需要は62%も増加することが見込まれています。(注:新たな地域医療構想に関するとりまとめ)このため高齢化によって手術などの急性期医療のニーズが減少すると、慢性期や在宅医療へ医療需要が変化するため、現状の医療提供体制のままでは持続不可能となってしまいます。画像を拡大する平成4(1992)年の段階(第8次医療計画及び地域医療構想に関する状況)で、すでに全国の外来患者数は2025年にピークを迎えることが予想され、今後は外来患者のうち65歳以上が占める割合はさらに上昇し、2040年には約6割となることが見込まれています。そして、すでに2020年までに214の医療圏では外来患者数のピークを迎えていると見込まれている一方、在宅医療の需要のピークは2040年以降と推測されています。このため厚労省では、今年の7月24日から「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を立ち上げています。その第1回の資料(地域医療構想及び医療計画等に関する検討会)によれば、救急医療、小児科、周産期など提供体制について討議。次の第9次医療計画に反映されるよう、地域医療構想の策定状況や医療計画などの課題を国と県で共有することを目的として、検討を開始しています。厚労省は2029年度までの「第8次医療計画」や、「新たな地域医療構想ガイドライン」で、「治す医療」から「治し支える医療」への構造転換を明確に打ち出しています。また、厚労省は各都道府県に命じて、二次医療圏ごとに医療計画の立案を行うと同時に、地域医療構想で、急性期・回復期・慢性期・在宅の病床機能を明確化し、将来、必要とされる病床数を推計して、地域で完結できる体制を整えることを求めています。つまり地域社会の人口構成が変化することに応じて、病院もクリニックも、変わるべきタイミングが訪れてきていることがわかります。今後の人口減少によって、人口30万人を下回る二次医療圏では急性期拠点の集約化を進め、少なくとも1ヵ所の「急性期拠点病院」を確保することが指針とされています。これによって、2040年までに中小病院の統廃合・機能転換が加速し、勤務医の配置・専門医研修にも直接的な影響が及んできます。具体的にどういった動きが医師のキャリアや働き方に影響が出るかみていきましょう。地域医療構想の進捗における課題1)急性期医療の集約化と地域偏在中央社会保険医療協議会(中医協)の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」によれば、急性期病棟で最上位の急性期一般入院料1を届け出る病院は近年減少傾向にあり、とくに人口20万人未満の二次医療圏では、急性期充実体制加算を持つ病院が存在しない地域が約8割に上っています。このため、救急医療・手術・産科・小児などの医療人材が不足している地域では、1~2の中核病院への集約が不可避となってきます。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するすなわち地域の拠点病院に重症患者や医師を集めて、高度医療の中核的な病院を作って、周辺の病院には、(従来は回復期リハビリテーション病棟や地域包括医療・ケア病棟が新たに呼称変換されます)「包括期病棟」を備え、回復期の患者や軽症の救急患者の対応や、医療・介護連携の強化に動くことが求められます(新地域医療構想、「急性期拠点病院の集約化」「回復期病棟からsub acuteにも対応する包括期病棟への改組」など行う-新地域医療構想検討会[Gem Med])。このような病院の再編は、医療資源の効率化を狙う一方で、勤務医にとっては地域医療を守るために、マルチモビディティ(多疾患併存)の高齢患者のために総合的・全人的にアプローチしていく「総合的な診療能力」を持つ医師の働き方が求められるようになります。2)小児・周産期医療の地域完結は困難集約化で問題になるのは「小児・周産期医療」です。少子化により出生数は2024年時点で68万人台にまで落ち込み、分娩を扱う医療機関数も20年間で半減しています。すでに地域によっては分娩取扱施設が10ヵ所未満となり、二次医療圏外への妊産婦の救急搬送が発生している自治体も出てきているはずです。このため、産婦人科・小児科医の偏在と負担集中が顕著化し、都市部の周産期センターでは24時間体制維持が困難となっています。地域の医療提供体制の再編の過程で、産科・小児科の閉鎖や統合が進む地域では、勤務医の確保策と合わせて、医師の労働環境だけでなく、キャリア支援・女性医師復帰支援が課題となってくると思われ、その対応が急がれると思います。本年10月から厚労省は「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を立ち上げており、今後の議論の推移を見守る必要があると感じています。3)都道府県での医師の偏在対策厚労省は2020年度以降、全国の二次医療圏・三次医療圏ごとに、医師の偏在の状況を全国ベースで客観的に示すために、「医師偏在指標」を算出し、上位3分の1を医師多数区域、下位3分の1を医師少数区域として区分しています。このデータをもとに、都道府県に対して医師の確保の方針を踏まえ、目標医師数を達成するための具体的な施策「医師確保計画」を策定し、3年ごとにPDCAを回す仕組みが導入されています。この「医師確保計画」では、短期的には大学医局からの医師派遣調整、中長期的には地域枠・地元出身枠の増加により地域定着を図る方針が明記されています。しかし、「医師少数区域への医師派遣」は大学医局に依存しており、大学側の派遣余力の限界もあり、地域の高度急性期病院にも医師派遣機能を求めるなど対策が強化される見込みです。画像を拡大する4)養成段階での地域偏在是正大学側も医師の偏在対策のため、医学部の「地域枠」や「地元枠」の拡大や奨学金貸与により医師育成数の増加も相まって、若手医師の地方病院での研修医が増えるなど、改善の傾向がみられるものの、若手医師にとっては勤務地域・診療科の拘束が強まり、キャリア選択の自由度が減少しています。また、専門研修として、日本専門医機構によって、専攻医シーリング(診療科・都道府県別上限)が設けられたことで、女性に人気のマイナー診療科では入局待機など都市部での定員が厳格化されたことで、選択肢が少なくなってしまう可能性があります。しかし、これらの方策によって、地域での若手医師の定着率は一定の改善がみられますが、診療科での医師偏在(産科・小児・救急・外科医不足)は依然として深刻なため、若手医師のキャリア志向やQOL重視のライフスタイルとの乖離が広がっているという見方もあり、これについてはさらに見直されると思います。地域医療再編と医師への影響1)医療再編の「担い手リスク」地域医療構想に基づく病床再編は、病院間連携や統廃合を前提としていますが、その過程で医師の異動や配置転換が行われる見込みです。とくに人口20万未満の医療圏では、救急・外科系医師の不足が慢性化し、医師によっては複数施設を兼務する勤務形態が制度的に定着する可能性もあり、医師の働き方改革(時間外960時間上限)との両立が困難となり、結果的に地域医療を支える医師の離職リスクを伴っていますが、地方で医師が充実するには時間がかかるため、大学など派遣側からの協力で耐えるしかないと考えます。画像を拡大する2)医療機関の機能転換とキャリア再構築回復期リハビリテーションや在宅医療への転換が進む中で、急性期医療中心で育成された医師が、慢性期病棟や「包括期病棟」を備えた病院に配置転換されるケースが増加していくとみられます。こうした医師に対し、自治体や医学部が「キャリア形成プログラム」を策定し、医師不足地域勤務と能力開発の両立を支援する仕組みを整えていますが、まだ実際の運用は都道府県による地域差が大きく、実質的には「大学医局による医師派遣の延長線」に留まることも多いなど、さらに再考の余地はあると思われます。今後の重点課題と展望大学と自治体の連携による医師供給調整の実効性では、大学の医局依存から脱却し、地域医療支援センターを中心とした医師配置調整を強化する必要があります。とくに女性医師や家庭のある医師の地域勤務継続支援が鍵となるとみられます。1)医師のキャリアパスの一体化「医師養成-専門研修-配置」の全段階を通じ、地域医療経験を評価するキャリアモデルを確立しなければ、地域勤務は恒常的な人材流出に陥ります。2)医療機関再編と診療科維持の両立急性期集約化の中で、産科・小児・外科を維持できる体制を構築するには、複数の圏域連携型の周産期・小児医療ネットワーク化が必要になると思いますが、まだ地域によっては再編が進まず自治体ごとに周産期医療を開設しようとする動きもあり、地方への働きかけも必要と考えます。3)医師労働環境改革との整合医療再編と同時に、長時間労働の是正と夜間救急体制維持という難題をどう解決するかが最大の焦点となります。結論-将来の地域医療構想は広く医療環境を再編すべき2040年に向けた地域医療構想は、単なる病床数調整ではなく、医師の再配置・育成・労働環境改革を包括する「医療人材の再編」の一環と考えるべきです。人口が減少した地域では医療機関の統廃合は避けられず、医師の勤務場所・診療領域・働き方に直接的な影響を与えると思います。したがって、今後の医療提供体制改革の成否は、医師偏在対策の実効性と、再編後も医師が持続的に働ける場所やキャリア設計にも重要な転換点に差しかかっていると考えます。地域医療構想の最終的な目的は「均質な医療提供」ではなく、限られた医師資源を最適に循環させ、地域の生活インフラである地域医療を絶やさない仕組みの再構築にあると考え、われわれ医師もその流れに乗っていく必要があると感じています。参考 1) 地域医療構想と地域包括ケア-2025と2040(日医雑誌) 2) 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会【第1回】(厚生労働省) 3) 新たな地域医療構想に関するとりまとめ(同) 4) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(同) 5) 医師確保計画を通じた医師偏在対策について(同) 6) 医師偏在対策について(同) 7) 第1回小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(同) 8) 新地域医療構想、「急性期拠点病院の集約化」「回復期病棟からsub acuteにも対応する包括期病棟への改組」など行う-新地域医療構想検討会(Gem Med)

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リンパ浮腫のコメントへのお返事と知識のアップデート【非専門医のための緩和ケアTips】第109回

リンパ浮腫のコメントへのお返事と知識のアップデート第103回でリンパ浮腫について取り上げたのですが、読者の方からコメントをいただきました。私もアップデートできていない部分だったので勉強になりました。今回の質問第103回のリンパ浮腫についてですが、「採血は健側で行う」とあります。最近のリンパ浮腫のガイドラインでは「生活関連因子(採血・点滴、血圧測定、空旅、感染、温度差、日焼け)は続発性リンパ浮腫の発症、増悪の原因となるか?」というCQがあります。これに対する回答は「採血、血圧測定、空旅がリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる可能性は少ない」となっています。これを踏まえ、患者さんには「採血は健側で行えば無難ですが、困れば反対でもよい」と伝えています。こちらは乳腺外科の先生からいただいたものです。コメント、ありがとうございます。該当するのは『リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版』ですね。存在は知っていたのですが、恥ずかしながら内容まで確認していなかったので、今回のご指摘で勉強になりました。患側の採血・点滴、血圧測定は原則禁忌と思っていたのですが、必ずしもそうではないのですね。患者さんの生活や受ける医療の内容にも関わることであり、重要な臨床疑問に対してガイドラインでしっかりと指針を示していることが素晴らしいと感じました。さて、今回のコメントを通じて、私があらためて感じたことです。「緩和ケア」のように臓器横断的な分野を専門にしていると、各領域の最新知識や専門知識をどこまで学ぶか、という問題が常に付きまといます。緩和ケアの実践ではさまざまな疾患や分野に関わる必要があり、その多くが自分の専門領域ではありません。大前提として、膨大な医学情報のすべてを把握することは不可能です。一方で、「専門領域以外は一切わからない」となると、対応可能な患者さんが限られ、緩和ケアを多くの方に届けることが難しくなります。このジレンマに対し、何ができるのでしょうか?私自身が心掛けていることは、まずは「自分がアップデートできていない領域がある」ときちんと認識することです。そしてもう1つは、今回のように専門の先生に教えてもらえる関係を維持することと、教えてもらった時は感謝とともに自分でもできる範囲で学ぶことです。今回は緩和ケアの実践の際に、重要な生涯学習に近い内容を扱いました。おそらく緩和ケアに限らず、医師としてキャリアを積むうえで、ある程度の年齢になれば誰でも直面する問題だと思います。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips自分なりの知識をアップデートしていく工夫と、専門家から学ぶ姿勢を持ち続けることが大切。

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がん治療関連心機能障害のリスク予測モデル、性能や外部検証が不十分/BMJ

 オランダ・アムステルダム大学のClara Gomes氏らは、がん治療関連心機能障害(CTRCD)のリスクを予測するために開発または検証されたすべての予測モデルのシステマティックレビューと、性能の定量的解析を目的としたメタ解析を行った。その結果、現存するCTRCD予測モデルは臨床応用に先立ち、さらなるエビデンスの蓄積が必要であることを報告した。現存するモデルについては、重要な性能指標に関する報告が不足し外部検証も限られていたことが正確な評価を妨げており、Heart Failure Association-International Cardio-Oncology Society(HFA-ICOS)ツールは、とくに軽度CTRCDに関する性能が不十分であった。著者は、「今後は、さまざまながん種を対象とする大規模なクラスター化データセットを用い、既存モデルの検証と更新を進め、その性能、汎用性および臨床的有用性を高めるべきである」とまとめている。BMJ誌2025年9月23日号掲載の報告。CTRCDのリスク予測モデルを開発または検証した56件の研究について解析 研究グループは、Medline(Ovid)、Embase(Ovid)、およびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、データベース開始から2024年8月23日までに発表された文献を検索した。 適格基準は、がん患者またはがん生存者におけるCTRCDリスクを推定するための予測モデルの開発・検証・更新を報告している論文で、欧州心臓病学会(ESC)のcardio-oncologyガイドラインに記載されているCTRCDのいずれかを含み、CTRCDが主要アウトカムもしくは複合心血管アウトカムの一部であり、対象集団が化学療法または分子標的治療(チロシンキナーゼ阻害薬、モノクローナル抗体、免疫療法など)を受けた患者で、予測モデルは少なくとも2つ以上の予測因子を含み、予測モデルの使用予定時期が全身性抗がん治療の開始前または治療後のサバイバー期であることであった。適格基準を満たせば、非がん患者向けに開発された心血管リスク予測モデルの外部検証研究も対象とした。放射線誘発性心毒性に関する研究は除外した。 2人の評価者がそれぞれ研究のスクリーニングとデータ抽出を行い、Prediction model Risk Of Bias ASsessment Tool(PROBAST)を用いてバイアスリスクを評価した。予測モデルの性能はランダム効果メタ解析で統合した。 1万935件の論文がスクリーニングされ、適格基準を満たした56件の研究が解析対象となった。このうち29件が1つ以上の予測モデルを開発し、20件が外部検証を実施し、7件が開発と外部検証の両方を実施していた。ほぼすべてのモデルでバイアスリスク高、HFA-ICOSツールは軽度CTRCDを過小評価 最終的にがん患者またはがん生存者におけるCTRCDリスク予測モデルとして51件が特定された。67%(34/51件)は成人データから開発され、その多くは乳がん(20/34件、59%)または血液悪性腫瘍(6/34件、18%)を対象とし、治療前リスクの予測を目的としていた(33/34件、97%)。一方、小児・青年・若年成人(39歳以下)を対象としたモデルでは、大半(16/17件、94%)ががん生存者を研究対象とし、血液悪性腫瘍や胚細胞腫瘍を含む多様ながん種(14/17件、82%)が含まれた。 開発モデル51件のうち25%(13件)、外部検証44件のうち14%(6件)でのみ性能指標や較正指標が報告されていた。ほぼすべてのモデルで、バイアスリスクが高かった。 開発モデル51件中12件(24%)(若年群4/17件[24%]、成人群8/34件[24%])が開発モデルに対して外部検証を受けていた。最も多く検証されたのはHFA-ICOSツール(11回)であり、主にHER2標的療法を受ける乳がん患者(5/11件、45%)で使用されていた。このツールは、すべての外部検証でリスクを過小評価する傾向を示し、とくに軽度CTRCDが多く報告された研究では、観察されたイベント発生率が予測リスクを上回っていた。抗HER2治療を受けた乳がん患者における統合C統計量は0.60(95%信頼区間:0.52~0.68)であった。同集団にて観察されたイベント発生率は、低リスク群で12%(予測値<2%)、中リスク群で15%(2~9%)、高リスク群で25%(10~19%)、超高リスク群で41%(≧20%)であった。

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第284回 自由診療クリニックで相次ぐ再生医療等安全性確保法がらみの事件(後編)  個人輸入のウイルスベクターがカルタヘナ法に抵触し治療中止、怪しげな遺伝子治療はこれで駆逐に向かうか?

高市新総裁誕生で社会保障政策はどうなる?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党に初の女性総裁が誕生しました。高市 早苗総裁はこのまま行けば、日本初の女性総理大臣に就任します。社会保障分野での目立った実績はありませんが、第3次安倍内閣で総務大臣をしていた2015年には、「新公立病院改革ガイドライン」の策定に関与し、地域医療構想に沿った公立病院の病床機能分化・連携強化を推し進めました。菅 義偉元首相と同様、病院経営や病院リストラに関しては一定の素養がある(石破 茂現首相はそうした素養ゼロ)とみられます。総裁選のマニフェストに「地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援を行います」と書いていることを踏まえると、苦境に立つ医療機関(とくに病院)経営を考慮して、来年の診療報酬改定にはそれなりの追い風となる気もしますが、一方で、病院再編に向けては大ナタを振るうかもしれません。とは言え、社会保障財源不足の状況は変わりません。また、連立政権の枠組みも不安定で、法案成立にも相当苦労するでしょう(「新たな地域医療構想」を定めた医療法改正案はまだ成立していません)。総理大臣就任後の社会保障政策を注視したいと思います。さて、今回も前回に引き続き、都内のクリニックで発覚した、再生医療等安全性確保法がらみの事件について書いてみたいと思います。こちらは、同法に加えて遺伝子改変した動植物が拡散することを防ぐ「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」にも抵触したケースでした。中国から個人輸入した未承認の医薬品を進行・末期がんの患者に対し自由診療で使用8月22日付の朝日新聞等の報道によると、厚生労働省と環境省は同日、医療法人社団DAP・北青山D.CLINIC(東京都渋谷区)の阿保 義久院長に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を下し、手続きを経ていない製剤の適切な廃棄などを命じました。カルタヘナ法に基づく自由診療への措置命令は初めてとのことです。同クリニックは「CDC6shRNA治療」と称して、中国から個人輸入した未承認の医薬品を進行・末期がんの患者に対し自由診療で使用していました。「CDC6shRNA治療」はがん細胞の無限増殖を促すタンパク質であるCDC6を標的とした遺伝子治療で、CDC6に対応するshRNAをレンチウイルスベクターを使ってがん細胞に送達し、CDC6の発現をノックダウンするというもの。ウイルスベクターを用いる治療法のため、カルタヘナ法に基づく届け出が必要にもかかわらず、届け出が行われていませんでした。 遺伝子治療は、昨年改正された再生医療等安全性確保法で新たに規制対象に含まれることになりました(施行は2025年5月31日)。改正前は「細胞加工物」を用いる治療が規制対象であり、体内で直接遺伝子の導入・改変を行う治療法(核酸やウイルスベクター等を用いたもの)は対象外でした。しかし、多種多様、有象無象の遺伝子治療が自由診療の医療機関などで広がりを見せていることを背景に、安全性・信頼性を担保するために、新たに規制対象となりました。同クリニックは改正再生医療等安全性確保法に則った届け出の準備を進める過程で、「CDC6shRNA治療」がカルタヘナ法に基づいた承認も必要だと認識し、厚労省に相談したことでカルタヘナ法に違反した状態だったことが判明、今回の措置命令となりました。遺伝子組換え生物等を取り扱う際に、生物多様性への悪影響を未然に防止するために規制措置を講じることを目的としたカルタヘナ法カルタヘナ法は、遺伝子組換え生物等を取り扱う際に、生物多様性への悪影響を未然に防止するために規制措置を講じることを目的とした法律です。バイオセーフティに関する国際合意「カルタヘナ議定書」に基づいて2004年に施行されました。医療分野に限らず、農業分野、食品分野など遺伝子組換え生物を扱うあらゆる分野が対象となります。遺伝子治療を実施する際は、遺伝子組換え生物ごとに第一種使用(環境中への拡散を防止しないで行う使用等)、第二種使用(環境中への拡散を防止しつつ行う使用等)の認定を受け、厚生労働省への申請および承認が必要となります。今回のレンチウイルスを用いたin vivo(患者体内)の遺伝子治療は第一種使用に該当し、同法の規制対象だったわけですが、用いたウイルスは「複製能力を持たず自然条件下で組み換えを起こすことは極めて低いこと」等の理由で、同クリニックは規制対象外だと判断していたとのことです。患者への同意文書には「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去するための遺伝子を投与する」と記載 各紙報道によれば、同クリニックでは、この「CDC6shRNA治療」を2009年以降、末期がん患者等3,000人以上に提供していました。患者への同意文書には「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去するための遺伝子を投与する」と記載、治療は1週間に1〜2回の頻度で、9月3日付の日経バイオテクの報道によれば、「料金は1回当たり約30万円〜80万円」だったそうです。ちなみに、現在、「CDC6shRNA治療」が保険適用されている国はどこにもなく、臨床試験にも至っていません。国内では、がん患者などを対象に、科学的根拠が十分ではない遺伝子治療が、全額患者の自費負担になる自由診療として多く実施されています。実際、この「CDC6shRNA治療」も、インターネットで検索すると北青山D.CLINIC以外にも実施していそうなところがいくつか出てきます。こうした医療機関においても、仮にウイルスベクターを用いているとすれば、すぐにでも再生医療等安全性確保法とカルタヘナ法に則った対応が必要になります。北青山D.CLINICのホームページに掲載された「遺伝子治療の現況と経緯」と題する報告には、「遺伝子治療の一時停止」を詫びるとともに、「本治療の早期再開が必要な患者さん方の期待に応えられるよう速やかに治療の再開を果たすべく再生医療等安全性確保法及びカルタヘナ法の手続きに急ぎ着手しております。同法の申請手続きにおいて、行政府の承認、許可を得るのに相応の時間を要すると聞いておりますが、可及的速やかに治療の再開が果たせるように尽力いたします」と書かれています。しかし、現実問題としてその再開は難しそうです。遺伝子治療がダメでもエクソソーム療法が、規制当局と医療機関のイタチごっこはまだまだ続く改正された再生医療等安全性確保法では、核酸等を用いる医療技術は最も高いリスクが想定される「第一種再生医療等技術」に分類されました。これによって、適用対象の治療を提供するには、医療機関が第一種再生医療等提供計画を作成し、特定認定再生医療等委員会を経た上で、厚生労働大臣へ計画を提出。厚生科学審議会(再生医療等評価部会)への諮問を経て、承認されることが必要です。さらに、医療機関が国内外の施設に製剤の製造を委託するには、特定細胞加工物等製造施設を届け出た上で、医薬品医療機器総合機構の調査を経て、許可や認定を受けなければなりません。今回のケースでは、製造元の中国企業の製造施設を届け出て調査を受ける必要が出てきます。9月8日付の日経バイオテクはこうした手続きと承認に至るまでのハードルの高さを指摘、「『事実上、きちんとしたエビデンスが蓄積された提供計画でないと厚生科学審議会は通らないと見られる。また、PMDAの調査もハードルは高い』と厚労省の関係者は指摘します」と書いています。というわけで、エビデンスが希薄にもかかわらず患者から暴利を貪る怪しげな遺伝子治療は、日本においては実質的に駆逐に向かいそうです。しかし、再生医療に詳しい知人の記者は、「まだまだ抜け道がある。その一つがエクソソーム療法だ」と話します。「第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中」でも書いたように、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等安全性確保法の対象外となっています。インターネットで検索するとエクソソームを用いたがん治療を提供している自由診療の医療機関がたくさんヒットします。怪しげながん治療法を提供している医療機関の中には、法律のハードルが高くなった遺伝子治療からエクソソーム療法に鞍替えするところも多数出てくるでしょう。前回書いた「一般社団法人」の問題とあわせて、自由診療の医療機関で提供される怪しげな治療法を巡っては、規制当局と医療機関のイタチごっこはまだまだ続きそうです。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アジテーションは、苦痛を伴う神経精神症状であり、アルツハイマー病の約半数にみられる。また、アルツハイマー病に伴うアジテーションは、認知機能の低下を促進し、介護者の負担を増大させる一因となっている。セロトニンおよびドーパミンを調節するブレクスピプラゾールは、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する有効性が示されている薬剤であるが、高齢者における有効性、安全性、適切な使用については、依然として不確実な点が残っている。ブラジル・Federal University of PernambucoのAnderson Matheus Pereira da Silva氏らは、アルツハイマー病高齢者のアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年8月31日号の報告。 本研究は、PRISMA 2020ガイドラインおよびコクランハンドブックに従い、実施した。分析対象には、臨床的にアルツハイマー病と診断された高齢者を対象に、ブレクスピプラゾール(0.5〜3mg/日)とプラセボを比較したRCTを組み入れた。主要アウトカムは、アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状、有害事象とした。アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状の評価には、それぞれCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)を用いた。リスク比(RR)、平均差(MD)、95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて統合した。ランダム効果メタ解析は、頻度主義モデルおよびベイズモデルver.4.3.0を用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・5件のRCT、1,770例を分析に含めた。・ブレクスピプラゾール治療は、CMAIのアジテーション(MD:-5.79、95%CI:-9.55〜-2.04、予測区間:-14.07〜-2.49)の減少、CGI-Sスコア(MD:-0.23、95%CI:-0.32〜-0.13、予測区間:-0.39〜-0.06)の改善との関連が認められた。・NPIスコアに有意な差は認められなかった。・錐体外路症状や日中の眠気などの有害事象は、ブレクスピプラゾール群でより多く発現したが、その範囲は広く、有意ではなかった。・メタ回帰分析では、用量または投与期間は、効果修飾因子として同定されなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、認知機能の悪化を伴わずに、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対し、短期的に中程度の効果をもたらす可能性があるが、安全性に関するシグナルは依然として不明確な部分が残っている。しかし、予測区間には相当の不確実性があり、ブレクスピプラゾール使用は個別化され、綿密にモニタリングすべきであることが示唆された。今後の試験では、長期的なアウトカムや患者中心の指標を優先的に評価すべきである」と結論付けている。

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第263回 インフルエンザ全国で流行入り、ワクチンは11月末までに接種を/厚労省

<先週の動き> 1.インフルエンザ全国で流行入り、ワクチンは11月末までに接種を/厚労省 2.公立・大学病院の赤字拡大が過去最大に、人件費高騰で持続性に黄信号/総務省 3.機能強化型在支診・在支病を再定義へ 緊急往診・看取りなどの評価へ/中医協 4.周産期・小児医療の集約化が本格議論へ、地域単位での再編を/厚労省 5.医療事故調査制度創設10年、医療事故判断のプロセスを明文化へ/厚労省 6.有料老人ホーム、囲い込み禁止へ 登録制で参入規制強化へ/厚労省 1.インフルエンザ全国で流行入り、ワクチンは11月末までに接種を/厚労省厚生労働省は、9月22日~28日のインフルエンザの定点報告で患者数4,030人、定点当たり1.04人とし、全国流行入りを公表した。昨季より約5週早く、過去20年で2番目の早さである。定点1を超えたのは15都府県で、沖縄8.98、東京1.96、鹿児島1.68などが高かった。保育園・学校などの休校・学級閉鎖は135施設(前週比増)、東京都内でも9月だけで61件の集団感染が報告された。流行前線は、観光地を含む関東・関西・九州・沖縄で目立ち、今季は台湾・香港で夏に流行したA型(H3N2)が国内でも主流になる可能性が指摘されている。インバウンドや海外渡航を介したウイルス流入が早期流行に影響したとの見方が有力。一方、新型コロナの定点は5.87(前週比0.85倍)と2週連続の減少で、呼吸器感染症の鑑別と同時流行への備えが求められる。新型コロナウイルスの流行は例年どおり12月末~2月と見込まれているが、寒冷化とともに患者は増えるため、高齢者・基礎疾患・小児にはワクチン接種を推奨する。なお、インフルエンザワクチンとして、2~18歳には、経鼻生ワクチン(商品名:フルミスト)が昨季から接種可能で、発症リスクを約28.8%低下させる国内成績がある。副反応は、鼻閉・咳などが多く、妊娠・免疫不全・重度喘息、授乳や同居に免疫不全者がいる場合は不活化ワクチンを用いる。基本対策(手洗い、混雑場面でのマスク、体調不良時の外出回避)を徹底し、学齢期の動向に留意した上で、重症化リスクへの早期介入(抗インフルエンザ薬の適応判断、合併症監視)を行いたい。なお、定点数縮小に伴い今季は「流行レベルマップ」と全国推計患者数の公表が停止されている。 参考 1) インフルエンザ全国で流行入り 厚労省、過去20年で2番目の早さ(日経新聞) 2) インフルエンザ、はや流行期入り 昨シーズンより5週早く 厚労省(朝日新聞) 3) インフルエンザ流行入り、2023年除き2番目の早さ…専門家「訪日客の増加が影響」(読売新聞) 2.公立・大学病院の赤字拡大が過去最大に、人件費高騰で持続性に黄信号/総務省総務省が明らかにした地方公営企業決算によると、2024年度の公立病院事業の経常赤字は3,952億円と過去最大(前年2,099億円の約2倍)となった。844病院のうち83.3%が赤字に陥った。要因は賃上げによる人件費の増加、医薬品や診療材料費の上昇、エネルギー価格の高騰で、2025年度の経営状態について、各団体の試算・発言からは厳しい発言が相次いでいる。四病院団体協議会の定期調査でも、2025年6月単月の経営は前年同月よりさらに悪化しており、24年度通年も医業収支・経常収支とも悪化し、赤字病院割合の上昇が報告された。大学病院の打撃はより深刻とされており、全国医学部長病院長会議の集計では、81大学病院の24年度経常赤字は計508億円に拡大(医薬品費+14.4%、診療材料費+14.1%、給与費+7.0%)している。国立大学病院は25年度、経常赤字が400億円超へ拡大する見通しで、42病院中33病院が現金収支赤字に転落する見込み。このため医療機器の更新や建物整備の先送りが常態化し、高度医療や医学研究や人材育成に支障が出始めている。赤字拡大を受けて、病院団体からは2026年度の診療報酬改定に向けて診療報酬の引き上げ要求が相次いでいる。物価・賃金上昇の「2年分」を本体に反映する大幅プラス改定(四病協・大学病院団体は10%超~約11%を要望)、必要なら期中改定の実施も求めている。このほか、急性期の入院基本料や救急・周産期・小児などの基礎コストを底上げし、夜間・時間外、救急搬送受け入れ、重症患者対応の評価を拡充も求めている。さらに働き方改革に伴う人件費増(医師時間外上限、看護職の処遇改善など)を恒常費として補填も求めている。さらに医薬品・診療材料の市況高騰を包括点数や出来高評価に機動的に転嫁(DPC包括の原価乖離補正、材料価格スライド)するほか、高額な医薬品については費用対効果評価の厳格化・再算定を進め、真に臨床的価値の高い薬剤の適正評価を求めている。また、緊急の補正予算による機器更新・老朽施設更新の原資を確保するほか、地域医療構想のために、地域医療が弱体化しないように、過疎・離島や大学の医師派遣機能に配慮した加算の新設を求めている。同じく大学病院団体側は「このままでは高度医療・人材育成・研究の基盤が損なわれる」とし、診療報酬と公的支援の両輪による早期の資金手当てを求めている。今後、患者負担・給付と負担の議論が行われ、次年度の改定を前に政府で社会保障費について検討される見込み。 参考 1) 令和6年度地方公営企業等決算の概要(総務省) 2) 「令和6年度大学病院の経営状況」(国立大学病院長会議) 3) 全国の公立病院、24年度は過去最大の赤字 人件費増が重荷に(日経新聞) 4) 病院経営がさらに悪化、「かなり深刻」四病協調査 6月単月で(CB news) 5) 国立大病院の赤字、今年度は過去最大400億円超の見通し 物価高や人件費上昇(産経新聞) 6) 81大学病院の経常赤字は昨年より悪化、計508億円の赤字に(日経メディカル) 7) 2024年度に大学病院全体で「508億円の経常赤字」、22年度比で医薬品費が14.4%増、診療材料費が14.1%増と経営圧迫-医学部長病院長会議(Gem Med) 3.機能強化型在支診・在支病を再定義へ 緊急往診・看取りなどの評価へ/中医協厚生労働省は、10月1日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、2026年度改定に向け在宅医療の評価見直しを議論した。2020年から2040年にかけて、85歳以上の救急搬送は75%増加し、85歳以上の在宅医療需要は62%増加することが見込まれ、これに対して在宅医療の質的な充実が求められている。連携型の機能強化型在支診・在支病について、24時間往診体制の「実質的な貢献度」に応じた評価を導入すべきだと支払側が主張する一方、診療側は撤退誘発を懸念し、反対した。厚労省提示のデータでは、連携型在支診の往診体制時間は「常時」と「極めて短い」で二極化しており、緊急往診・看取り実績は在宅緩和ケア充実加算の要件超えが多数認められ、重症患者比率が高い施設も一定数あった。これらを踏まえ、(1)地域の中核として、十分な医師配置を行い、在宅での看取りや重症対応を実施して他機関を支援し、さらに医育機能も担う在宅医療機関を評価すること、(2)在宅緩和ケア充実加算を統合して再設計すること、の2点を主要論点として位置付けた。一方、診療側は、要件を強化したり医育機能を加算の要件に組み込んだりする案に反対を示した。併せて、包括的支援加算の算定にばらつきが生じていることから、要介護度の低い患者の割合を報酬に反映させる支払側の提案に対して、診療側は「要介護度が低くても、通院困難で在宅医療が必要な患者が多数存在する」ため、要介護度のみに着目した評価に反対した。へき地診療所については、派遣元が時間外対応を担う場合に在医総管・施設総管を算定できるようにする方向で双方が賛同した。さらに、退院直後の訪問栄養食事指導を新たに評価することも検討し、入退院支援から急変対応・看取りに至るまで在宅医療を整備し、評価にメリハリを付ける方針を、改定の論点として示した。今後、これらの論点についてさらに検討の上、来年度の改定に盛り込まれる見込み。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループにおける検討事項等について(同) 3) 訪問診療の報酬に「患者の状態」反映、厚労省案 要介護度低い割合など(CB news) 4) 「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」の初会合が開催(日経メディカル) 5) 24時間往診体制への貢献度に応じた評価に意見が分かれる(同) 4.周産期・小児医療の集約化が本格議論へ、地域単位での再編を/厚労省厚生労働省は、10月1日に「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を開催し、少子化と医師偏在の進行を踏まえ、周産期医療と小児医療の提供体制を抜本的に見直す方針を示した。従来の二次医療圏にこだわらず、地域の実情に応じて柔軟に医療圏を設定し、分散した医療資源を集約化する方向性である。小児医療・周産期医療のワーキンググループ(WG)で論点が示され、2025年度末までに一定の取りまとめを行う見通し。周産期医療では、ハイリスク分娩に限らず、一般的な分娩を含む医療圏の再編が検討される。出産件数の減少により、分娩取扱施設は全国で減少傾向にあり、とくに地方では産婦人科医や小児科医、助産師の確保が課題となっている。厚労省は、263ヵ所ある周産期医療圏を再構築し、妊婦健診や産後ケアを担う施設との連携を強化するとともに、周産期母子医療センターの整備や無痛分娩の安全提供体制も検討課題とした。参加した委員からは出生数が減ると分娩を取り扱う医療機関の経営が成り立たなくなるとの指摘もあり、さらに分娩施設の急減は安全確保に影響する可能性があり、早期の結論が求められている。一方、小児医療では、全国1,690病院のうち約48%が常勤小児科医2人以下にとどまり、医療資源の薄い分散配置が明らかとなった。厚労省は「小児医療圏」単位での集約化・重点化を提案し、2030年度から始まる第9次医療計画で具体化する考えを示した。小児医療圏は現行306ヵ所で、救急機能を含め常時小児診療を提供できる体制の確保を求める方針。また、地域で小児科の診療所が不足する場合には、病院の小児科が一般診療に参加し、内科医との連携やオンライン診療、「#8000」電話相談などを組み合わせて医療提供体制を維持する方策も提示された。厚労省は、今後の議論を通じて、人口減少下でも「安全に産み育てられる地域医療体制」の再構築を進める方針である。 参考 1) 第1回小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(厚労省) 2) 常勤小児科医2人以下の病院が約半数 厚労省(CB news) 3) 周産期医療、ハイリスク分娩以外も集約化へ 年度末をめどに取りまとめ 厚労省(同) 5.医療事故調査制度創設10年、医療事故判断のプロセスを明文化へ/厚労省厚生労働省は、10月1日に開いた「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」で、医療事故調査制度の創設から10年を迎えるのに合わせ、医療機関が医療事故を判断する体制や手順を自ら定め、医療安全管理指針に明記する方針を示した。患者の予期せぬ死亡が「医療に起因するか」について医療機関と遺族が対立する事例が相次いでおり、判断の質と透明性を高める狙いがある。同制度は2015年に導入され、病院や診療所、助産所で医療に起因する、またはその疑いがある予期せぬ死亡が発生した場合、第三者機関への報告を義務付けている。しかし、事故に該当するかの判断を管理者が単独で行うことが多く、施設間で判断基準にばらつきがあった。今回の見直しでは、全死亡例を対象としたスクリーニング体制を構築し、疑義がある場合の検討過程を記録として残すことを求める。新たな指針では、医療事故に該当するかの検討を行う際の工程や、遺族からの申し出に応じて再検討する仕組みを明文化する。さらに、判断に至った理由、遺族への説明経過などを保存し、事後検証可能な形で管理することを義務付ける方針。また、厚労省は、管理者に対して医療事故調査制度の研修受講を促すとともに、未修了の場合は修了者である医師や看護師など実務担当者が支援できる体制を整えるとした。日本病院会の岡 俊明副会長は、「全死亡例を対象にスクリーニングし、判断根拠を明確に残すことが制度の信頼性向上につながる」と述べている。同制度は今年3月末までに3,338件の報告があり、厚労省は今後、関連指針の改訂を進める方針。 参考 1) 第4回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(厚労省) 2) 医療事故の判断、指針明記へ 遺族対応も、調査制度創設10年(共同通信) 3) 医療事故の判断プロセス、安全管理指針に明記へ 判断理由の記録も保存を 厚労省(CB news) 6.有料老人ホーム、囲い込み禁止へ 登録制で参入規制強化へ/厚労省厚生労働省は、10月3日に「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開き、有料老人ホームをめぐる規制強化の方針を示した。中重度の要介護者や医療ケアが必要な高齢者を受け入れる施設の一部について、現行の「届け出制」から「登録制」へ移行する方向で検討を進める。事業計画の不備や虐待などの行政処分歴がある事業者の参入を拒否できる仕組みを設け、質の担保と安全性確保を狙う。これまで届け出制では、行政が開設を拒めないことから、不適切な事業者が参入し、給与未払い・集団退職・転居強要などのトラブルも相次いだ。登録制では、参入要件を満たさない事業者に対し、開設制限をかけることが可能になる。同時に、介護サービス事業者との「囲い込み」の是正も進める。住宅型ホームで、入居契約時に提携する居宅介護支援事業所や介護サービスの利用を条件としたり、家賃優遇などで自法人サービスを誘導したりする行為を禁止する。さらに、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を迫る行為も明確に禁止される。厚労省は、契約の透明化と利用者の選択権を守る観点から、契約締結・ケアプラン作成手順のガイドライン整備を義務付け、行政が事後的にチェックできる仕組みを設ける方針。今後、パブリックコメントを経て報告書をまとめ、老人福祉法改正を視野に制度化を進める。医療現場への影響としては、入居者の医療的ケア連携が明確化され、外部医師の関与が阻まれるリスクが減る点が挙げられる。今後は、地域医療連携室や在宅医が入居後も継続的に介入できる体制が求められ、医療と介護の分断是正に資する動きとなりそうだ。 参考 1) 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会 とりまとめ素案(厚労省) 2) 重度者向け老人ホームに登録制検討 厚労省、質懸念なら参入拒否(日経新聞) 3) 老人ホーム「囲い込み」是正 ケアマネ変更の誘導・強要を禁止 厚労省 ルール厳格化へ(JOINT) 4) 有料老人ホーム、家賃優遇の条件付け禁止へ「囲い込み」対策 厚労省(CB news)

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PS不良の小細胞肺がん、デュルバルマブ+化学療法の有用性は?(NEJ045A)/ERS2025

 『肺癌診療ガイドライン2024年版』において、PS0~1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤/エトポシド併用療法+PD-L1阻害薬であるが1)、PS不良例での有効性・安全性は明らかになっていない。そのため、PS2ではプラチナ製剤+エトポシドまたはイリノテカン併用療法、PS3ではカルボプラチン+エトポシド療法またはsplit PE療法が標準治療とされている1)。そこで、PS2~3のED-SCLC患者を対象に、デュルバルマブ+カルボプラチン+エトポシドの有効性・安全性を検討する国内第II相単群試験「NEJ045A試験」が実施された。その結果、PSに応じて用量調節を行うことで、半数以上が導入療法を完遂し、良好な治療成績が得られた。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、渡部 聡氏(新潟大学医歯学総合病院 呼吸器・感染症内科)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月28日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国内第II相単群試験対象:未治療のPS2~3、20歳以上のED-SCLC患者投与方法:[PS2集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC4)+エトポシド(80mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(43例)[PS3集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC3)+エトポシド(60mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(13例)評価項目:[主要評価項目]忍容性(4サイクルの導入療法の完遂割合)[副次評価項目]中央判定に基づく奏効割合(ORR)、全生存期間(OS)、1年OS率、無増悪生存期間(PFS)、PSの改善、安全性※:2サイクル目以降は、カルボプラチンAUC5、エトポシド100mg/m2まで増量可とした 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、PS2が74歳(四分位範囲:69~77)、PS3が73歳(同:72~78)で、男性がそれぞれ74%、92%であった。併存疾患を有する割合はそれぞれ65%、69%であった。・主要評価項目である4サイクルの導入療法の完遂割合は、PS2が66.7%、PS3が50.0%であった。いずれも事前に規定した基準(PS2:33%、PS3:20%)を上回り、主要評価項目が達成された。・OS中央値は、PS2が11.3ヵ月、PS3が5.1ヵ月であった。1年OS率はそれぞれ50.0%、18.2%であった。・PFS中央値は、PS2が4.8ヵ月、PS3が4.6ヵ月であった。・ORRは、PS2が52.4%、PS3が45.5%であった。・PSが改善した患者の割合は、PS2が55%、PS3が46%であった。・PSの改善の有無別にみたOS中央値は、PSが改善した集団が9.2ヵ月、PSの改善がみられなかった集団が7.0ヵ月であり、両集団に有意差はみられなかった。・導入療法の完遂の有無別にみたOS中央値は、完遂集団が15.0ヵ月、未完遂集団が3.8ヵ月であり、完遂集団が良好であった(p<0.001、post-hoc解析)。・Charlson Comorbidity Index(CCI)別にみたOS中央値は、CCI=0集団が13.9ヵ月、CCI≧1集団が4.8ヵ月であり、CCI=0集団が良好であった(p=0.012、post-hoc解析)。・Grade3以上の治療関連有害事象の発現割合は93%(PS2:93%、PS3:92%)であった。G-CSF製剤の予防的投与は41%に行われたが、発熱性好中球減少症は16%(それぞれ12%、31%)に発現した。貧血は14%(それぞれ12%、23%)に発現した。 本試験結果について、渡部氏は「治療上の課題の多いPS不良の患者に対し、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せすることを支持するものである」とまとめた。

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ネット上の血圧測定の写真の多くが間違った測り方を示している

 家庭血圧を測定しようとする人の中には、インターネットの画像検索で測定方法を知ろうとしている人がいるかもしれないが、新たな研究によると、その調べ方は要注意なようだ。ネット上に存在する血圧測定シーンの写真の大半が、正しい測定方法を示していないとする論文が、「Hypertension」に9月8日掲載された。 この研究は、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)のAletta Schutte氏らによるもので、ネット上にある血圧測定写真のうち、正しい測り方を示した写真は7枚中1枚に過ぎないことが明らかになった。論文の上席著者である同氏は、「半分程度は正確な測定法を示しているだろうと考えていたが、結果は予想よりも悪かった。人々は、文章の説明よりも画像の方をよく覚えている傾向がある。これは画像優位性効果と呼ばれるものだ。ネット上の誤った血圧測定画像は、この効果を介して、公衆衛生に深刻な影響を及ぼす可能性がある」と語っている。 研究者らによると、近年は家庭血圧測定の重要性が高まっており、臨床ガイドラインでは家庭血圧のデータを患者と医師で共有し、血圧管理を進めることが推奨されているという。それにもかかわらず、家庭血圧計を持っている人の中で、「正しい測定方法を教わったことがある」と回答したのは5人に1人にも満たないという報告があり、多くの人はネット情報を頼りにしているのが実情のようだ。 Schutte氏らの研究では、11種類の画像検索サイトで「血圧測定」という用語で検索をかけ、ヒットした1,100枚以上の写真を分析した。その結果、正しい方法で測定している画像は、わずか14%だった。臨床ガイドラインと照らし合わせると、主に以下のような点が誤りと判断された。・背筋を伸ばして椅子に座っていない(73%)・前腕全体を平らな面やテーブルの上に置いていない(55%)・上腕式電子血圧計ではなく、手動ポンプ式の血圧計を用いている(52%)・足を床に着けずに、ぶらぶらさせている(36%)・腕の中央を心臓と同じ高さにしていない(19%)・測定中に会話をしている(18%)・足を組んで座っている(13%)・測定用のカフを衣服の上から巻いている(12%)・座位ではなく、立ったり横になったりして測定している(5%) 興味深いことに、家庭血圧の測定シーンよりも、診察室内での医療従事者による測定シーンの方が、正しい写真が少なかった。具体的には、前者は約25%が正確だったのに対し、後者はその割合が約8%だった。Schutte氏によると、大学や著名な医療機関のサイトでさえ、不正確な画像を使用しているとのことだ。同氏は、「不正確な測定方法では、真の血圧値より高すぎたり低すぎたりする結果が表示されるため、誤った血圧管理に陥る危険がある」と警告している。

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京都大学医学部 乳腺外科【大学医局紹介~がん診療編】

増田 慎三 氏(教授)福井 由紀子 氏(特定助教)石井 慧 氏(助教)服部 響子 氏(医員)樋上 明音 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴私たちの診療科は、先進的な乳腺診療を推進し、一人ひとりに寄り添う信頼の医療を目指しています。乳がんは最も罹患率が高く、検診、ブレストアウェアネスの普及により、早期の非浸潤がんの段階で発見される機会も増えています。生物学的特徴に関する研究、薬物療法を中心とした集学的かつ個別化治療の進歩から、治療成績は向上しています。乳腺専門医は、診断から手術、薬物療法、フォローアップと長年にわたり、患者さんのトータルヘルスケアを担います。ガイドラインに準拠した標準治療の枠を超え、さまざまなエビデンスに、多様な経験と知識の涵養により、その考動プロセスを実際の診療に適応し、コンセンサスを構築する姿勢もまさしく私たちの特徴です。“よりよい生活“を目標とした臨床試験や、新規薬剤の開発治験を進めるとともに、大学院生はスタッフとのチーム制で、診療に有益なシーズ(種)を求めて、自由な発想で基礎研究にも取り組んでいます。斬新かつ安心感のある診療を通して、多くの方に笑顔をお届けできればと願っています。次世代の育成に貢献患者数増、複雑化する乳がん治療を担う乳腺専門医やそれを支えるメディカルスタッフがまだまだ不足している状況です。京都大学医学部の「自由の学風」にあるように、全国からbreast oncologyに興味を持つ個性豊かな若い世代が集うことを期待しています。新しい柔軟なアイデアを取り込みながら、ぜひ一緒に未来の乳腺診療を創造していきましょう。次世代育成を通して、がん医療の進歩に少しでも貢献したいと思います。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力関連病院での臨床、大学院での研究生活を経て、現在は大学病院で臨床と研究を行っています。臨床、研究の両方の面から乳がん医療に取り組めることに、大きな充実感を得ています。臨床カンファレンスでは、乳腺外科に加え、病理診断科、放射線診断科、放射線治療科、腫瘍内科の先生方と検査所見や治療方針を1例1例検討しています。標準治療にとどまらず、最新のエビデンスや臨床試験を取り入れた治療が可能な環境です。また骨転移や脳腫瘍、irAE、cardio-oncology、遺伝性腫瘍、リンパ浮腫などの専門ユニットも充実しており、病院全体で最適な医療提供を目指せることも魅力です。そして、臨床で得た課題を研究に展開しています。総合大学だからこそ分野横断的な研究アプローチも可能で、研究成果を患者さんに還元できることに非常にやりがいを感じています。医局の雰囲気は和やかでありながら、互いに高め合える素晴らしいチームです。患者さんに寄り添い、最適な乳がん医療を目指す仲間をお待ちしています。カンファレンスの様子力を入れている治療/研究テーマ乳腺再生に関する基礎的な実験を行っています。また、AIを活用した高精度の画像診断や、医師の診療を支援するシステムの構築にも取り組んでいます。古典的な基礎実験から最先端のシステム開発まで幅広い領域を扱い、さまざまな角度から新しい世界にアプローチしています。医局の雰囲気・魅力カンファレンスではスタッフ・若手を問わず、自由に意見を述べられる雰囲気があります。根拠や考え方を建設的に精査しながら議論を深めています。臨床試験の結果をただ当てはめるのではなく、分子レベルの考察や臨床試験の背景まで踏まえ、「この患者さんに最適かどうか」を分け隔てなく話し合える土壌があります。また、多くの臨床試験を経験できる数少ない医局の1つであり、乳がん診療の最前線に触れることができます。医学生/初期研修医へのメッセージ女性の罹患率が最も高いにもかかわらず、専門医が非常に少ない乳腺外科。治療開発は日進月歩で進み、専門性はますます高くなっています。やりがいだけでなく、クリニック外来や中核病院勤務、緩和治療など、ライフイベントや希望に合わせて多様な働き方が可能です。京大乳腺外科で共に世界の最先端を走りましょう!これまでの経歴と同医局を選んだ理由これまでは大学病院で専攻医として研鑽を積んだ後、福井赤十字病院、京都市立病院で勤務してきました。同医局を選んだ理由としては、大学病院と都市部・地域の基幹病院の両方で、医師として幅広い経験ができる環境が整っているからです。大学病院の研修の特徴としては、乳がんユニット、病理・画像診断、乳房再建、骨転移、HBOC、cardio-oncologyなど多彩な専門カンファレンスを通じて、各分野のエキスパートから実践的な研修を受けることが可能です。また、プロジェクションマッピングによる蛍光ガイド下リンパ節生検や乳房専用PET、FES PETなどの最先端の手術手技や画像診断装置に触れることもできます。治験や臨床試験にも積極的に関わり、新薬に早期から触れることも可能です。都市部・地域の基幹病院でも、診断から治療、緩和ケアまで一貫した研修を受けることができます。いずれの研修先も診療科が充実しており、薬物療法に伴う副作用にも安心して対応できる体制が整っています。来年は大学院進学予定で、臨床で感じた疑問を深く探究し、今後の診療に活かしていければと考えております。これまでの経歴と同医局を選んだ理由京都大学でレジデントとして経験を積んだ後、市中病院で多くの患者さんと向き合ってきました。主治医として診療を重ねる中、一定の臨床経験を積んだ今、自分の知見をさらに広げ、より広い視野で乳がん診療に取り組む力を身につけたいと考え、大学院進学を決意しました。京都大学を選んだ理由は、臨床で抱いた疑問を基礎と臨床の両面から深く探求できる恵まれた研究環境があると感じたためです。入学後は、専門性の高い先生方のご指導のもと、自分の興味を形にする機会に恵まれ、大変充実した日々を送っています。昨年出産し、現在は育児中ですが、医局の理解ある環境で柔軟に対応いただき、安心して研究に専念できています。臨床とは異なる難しさと面白さを感じながら学びを深めており、この経験を活かして将来的には臨床と研究をつなぐ役割を果たしたいと考えています。京都大学大学院医学研究科 乳腺外科学(附属病院 乳腺外科)住所〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54問い合わせ先nyusen@kuhp.kyoto-u.ac.jp医局ホームページ京都大学医学部附属病院 乳腺外科京都大学大学院医学研究科 乳腺外科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本乳癌学会日本臨床腫瘍学会日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会日本リンパ浮腫学会研修プログラムの特徴(1)豊富なエキスパートによる専門カンファレンスでのトレーニングとフィードバックが可能です。(2)研究活動・学会発表の支援体制が充実しています。(3)大学病院と地域連携施設の両方で幅広い臨床経験を積むことができます。(4)近畿各府県および静岡県主幹の乳腺カリキュラムと、京都大学乳腺カリキュラムの協働により、体系的かつ包括的な専門研修を受けることができます。画像を拡大する

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第262回 風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO

<先週の動き> 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO厚生労働省は9月26日、「わが国が風疹の『排除状態』にあると世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から認定を受けた」と発表した。「排除」とは、国内に定着した風疹ウイルスによる感染が3年間確認されないことを指し、わが国では2020年3月を最後に土着株の感染例が報告されていなかった。風疹は、発熱や発疹を引き起こす感染症で、妊婦が感染すると先天性風疹症候群を発症した子供が生まれるリスクがある。国内では2013年に約1万4千人が感染し、2018~19年にも流行が発生。過去には妊婦の感染により、45例の先天性風疹症候群が報告されていた。流行の中心は予防接種の機会がなかった40~50代の男性であり、国は2019年度からこの世代を対象に無料の抗体検査とワクチン接種を実施した。その結果、2021年以降は年間感染者数が10人前後に抑えられ、感染拡大は収束した。今回の認定はこうした取り組みの成果を示すもので、厚労省は「引き続き適切な監視体制を維持し、ワクチン接種を推進する」としている。一方で、海外からの輸入例は依然としてリスクが残る。今後も免疫のない世代や妊婦への周知徹底が課題となる。風疹排除はわが国の公衆衛生政策の大きな成果だが、維持のためには医療現場と行政が協力し続ける必要がある。 参考 1) 世界保健機関西太平洋地域事務局により日本の風しんの排除が認定されました(厚労省) 2) 風疹の土着ウイルス、日本は「排除状態」とWHO認定…2020年を最後に確認されず(読売新聞) 3) WHO 日本を風疹が流行していない地域を示す「排除」状態に認定(NHK) 4) 日本は風疹「排除状態」、WHO認定 土着株の感染例確認されず(朝日新聞) 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁救急現場での情報確認を迅速化する「マイナ救急」が、10月1日から全国の消防本部で導入される。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急隊員が、患者の受診歴や処方薬情報を即時に確認できる仕組みである。患者本人や家族が説明できない状況でも、カードリーダーで情報を読み取り、オンライン資格確認システムに接続して必要な医療情報を閲覧できるようになる。これにより、救急隊は持病や服薬を把握した上で適切な搬送先を選定し、受け入れ先の医療機関では治療準備を事前に進めることが可能となる。患者が意識不明の場合には、例外的に同意なしで情報参照が認められる。2024年5月から実施された実証事業では、救急隊員から「服薬歴の把握が容易になり、搬送判断に役立つ」との評価が寄せられた。わが国では高齢化に伴い、多疾患併存やポリファーマシーの患者が増加している。救急現場での服薬歴不明は治療遅延や薬剤相互作用のリスクにつながるため、本制度は臨床現場の安全性向上に資する。その一方で、救急時に確実に活用するためには、患者自身がマイナ保険証を常時携帯することが前提となる。厚生労働省と消防庁は「とくに高齢者や持病のある方は日頃から携帯してほしい」と呼びかけている。マイナ保険証の登録件数は、2025年7月末時点で約8,500万件に達しているが、依然として所持率や利用登録の偏りは残る。医師にとっては、救急現場から搬送される患者情報がより早く共有されることで、初期対応の迅速化や医療安全の強化が期待される。他方、情報取得の精度やシステム障害時の対応など、運用上の課題にも注意が必要となる。「マイナ救急」は、地域を越えて情報を共有し、救急医療の質を底上げする国家的インフラの一環であり、今後の運用実績を踏まえ、医療DXの具体的成果として浸透するかが注目される。 参考 1) あなたの命を守る「マイナ救急」(総務省) 2) 救急搬送時、マイナ保険証活用 隊員が受診歴など把握し適切対応(共同通信) 3) 「マイナ救急」10月から全国で 受診歴や服用薬、現場で確認(時事通信) 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省厚生労働省が公表した「令和6年医療施設(動態)調査・病院報告」によれば、2024年10月1日現在、全国の一般病院で産婦人科や産科を掲げる施設は計1,245施設となり、前年より9施設減、34年連続の減少で統計開始以来の最少を更新した。小児科を有する一般病院も2,427施設と29施設減少し、31年連続の減少となった。全国的に病院数そのものが減少傾向にあり、とくに周産期・小児医療を担う診療科の縮小は地域医療体制に大きな影響を及ぼすとみられる。調査全体では、全国の医療施設総数は18万2,026施設で、うち活動中は17万9,645施設。病院は8,060施設で前年比62施設の減、一般病院は7,003施設と62施設の減、診療所は10万5,207施設で微増、歯科診療所は6万6,378施設で440施設の減となった。病床数でも全体で約1万4,663床減少し、とくに療養病床と一般病床が減少した。病院標榜科の内訳をみると、内科(92.9%)、リハビリテーション科(80.5%)、整形外科(69.1%)が多い一方で、小児科は34.7%、産婦人科15.0%、産科2.8%にとどまる。産婦人科と産科を合わせた比率は17.8%であり、地域により分娩を担う施設が極端に限られる状況が続いている。また、病院報告では、1日当たりの外来患者数が前年比1.7%減の121万2,243人と減少した一方、在院患者数は113万3,196人で0.8%増加し、平均在院日数は25.6日と0.7日短縮した。医療需要は依然高水準である一方で、入院期間短縮と医療資源の集約化が進む姿が浮かんだ。今回の結果は、産科・小児科医師の偏在や医師不足が長期的に続いている現実を裏付けるものであり、医師にとっては、地域における出産・小児救急の受け皿が細り続ける中で、救急搬送の広域化や勤務負担の増大が避けられない。各地域での分娩体制再編や周産期医療ネットワーク強化の重要性が一層高まっている。 参考 1) 令和6年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(厚労省) 2) 産婦人科・産科が最少更新 34年連続、厚労省調査(東京新聞) 3) 産婦人科・産科がある病院1,245施設に、34年連続の減少で最少を更新 厚労省調査(産経新聞) 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連健康保険組合連合会(健保連)は9月25日、「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」を発表した。1ヵ月の医療費が1,000万円を超える件数は2,328件(前年度比+8%)で10年連続の最多更新となり、過去10年で6倍超に増加した。上位疾患の約8割は悪性腫瘍で、CAR-T療法や遺伝子治療薬などの登場が背景にある。最高額は約1億6,900万円で、単回投与型の薬剤を用いた希少疾患治療が占めた。これらの薬剤は患者に新たな治療選択肢を提供し、長期生存やQOL改善につながる一方で、健保組合の財政に直結する。健保連の制度により高額事例は共同で負担される仕組みだが、件数増加は拠出金を押し上げ、結果として保険料率や現役世代の負担増につながる。実際に2024年度の平均保険料率は9.31%と過去最高となり、1/4の組合は「解散ライン」とされる10%を超えた。臨床現場にとっても影響は現実に及ぶ。新規薬剤を希望する患者からの説明要請が増えており、医師は「なぜこの薬が高額なのか」「自分に適応があるのか」「高額療養費制度でどこまで自己負担が軽減されるのか」といった質問に直面している。加えて、長期投与が前提となる免疫療法や分子標的薬では、累積コストや再投与リスクについても説明が欠かせない。患者や家族が治療継続の是非を判断する際、経済的側面を含めた十分な情報提供が求められる。今後は、がん免疫治療の投与拡大、希少疾患への新規遺伝子治療薬導入などにより、高額レセプトはさらに増加すると予測される。薬価改定で一定の調整は行われるが、医療費全体に占める薬剤費の比重は確実に高まり、制度改革や患者負担の見直し議論は避けられない。現場の医師には、エビデンスに基づく適正使用とともに、経済的影響を含めた説明責任がより重くのしかかる局面にある。 参考 1) 令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要(健保連) 2) 高額レセプト10年連続で最多更新 24年度は2,328件 健保連(CB news) 3) 「1,000万円以上」の高額医療8%増 費用対効果の検証不可欠(日経新聞) 4) 綱渡りの健康保険 組合の4分の1、保険料率10%の「解散水準」に(同) 5) 健保1,378組合の半数近く赤字、保険料率が過去最高の月収9.3%…1人あたりの年間保険料54万146円(読売新聞) 6) 健保連 昨年度決算見込み 全体は黒字も 半数近くの組合が赤字(NHK) 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国米国トランプ大統領は9月22日、解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(パラセタモール)が「妊婦で自閉スペクトラム症(ASD)リスクを大幅に上げる」として服用自粛を促した。これに対し、わが国の自閉スペクトラム学会は「十分な科学的根拠に基づく主張とは言い難い」と懸念を表明している。米国産科婦人科学会(ACOG)も「妊娠中に最も安全な第一選択肢」と反論。WHO、EU医薬品庁、英国規制当局はいずれも「一貫した関連は確認されていない」とし、現行推奨の変更不要とした。一方、米国の現政権は葉酸関連製剤ロイコボリンのASD治療薬化にも言及したが、大規模試験の根拠は乏しい。わが国の医療現場にも余波は広がり、妊婦・家族からの不安相談が増加する懸念や、自己判断での服用中止による解熱の遅延、SNS起点の誤情報拡散が想定されている。妊娠中の高熱は、胎児に不利益を与え得るため、わが国の実務ではアセトアミノフェンは適応・用量を守り「必要最小量・最短期間」で使用するのが原則となっている。他剤(NSAIDs)は妊娠後期で禁忌・慎重投与が多く、安易な切り替えは避けるべきとされる。診療現場では、現時点で因果を支持する一貫した証拠はないこと、高熱の速やかな改善の利点、自己中断せず受診・相談すること、市販薬も含む総服薬量の確認を丁寧に説明することが求められる。ASDの有病増加には、診断基準変更やスクリーニング拡充も影響し、単一因子で説明できない点もあり、過度な警告は受療行動を阻害し得る。医師には、ガイドラインや専門学会の公的見解に基づく対応が求められる。 参考 1) 自閉症の原因と治療に関するアメリカ政府の発表に関する声明(自閉スペクトラム学会) 2) WHO アセトアミノフェンと自閉症「関連性は確認されず」(NHK) 3) トランプ政権“妊婦が鎮痛解熱剤 自閉症リスク高” 学会が反対(同) 4) トランプ氏「妊婦の鎮痛剤、自閉症リスク増」主張に日本の学会が懸念(日経新聞) 5) 解熱剤と自閉症の関連主張 トランプ大統領に批判集中(共同通信) 6) 「鎮痛剤が自閉症に関係」 トランプ政権が注意喚起へ(時事通信) 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪救急搬送の「選定療養費」徴収を導入した2つの自治体で、適正利用の進展が確認された。三重県松阪地区では、2024年6月~2025年5月に基幹3病院で入院に至らなかった救急搬送患者の一部から7,700円の徴収を開始した。1年間の救急出動は1万4,184件で前年同期比-10.2%、搬送件数も-10.6%。軽症率は55.4%から50.0%へ-5.4ポイント、1日50件以上の多発日は86から36日へ減少した。搬送1万4,786人(乳幼児193人を含む)のうち帰宅は7,585人(51.3%)、徴収は1,467人(全体の9.9%)。疼痛・打撲・めまいなどが多かった。並行して1次救急(休日・夜間応急診療所)受診が31%、救急相談ダイヤル利用が34%増え、受診先の振り分けが進んだ。茨城県の検証(2025年6~8月)でも、対象22病院の徴収率は3.3%(673/20,707)と限定的ながら、県全体の救急搬送は-8.3%、うち軽症などは-19.0%、中等症以上は+1.7%と、救急資源の選別利用が進んだ。近隣5県より減少幅が大きく、呼び控えによる重症化や大きなトラブルの報告は認められなかった。なお、電話相談で「出動推奨」だった例は徴収対象外とし、誤徴収は月1件程度で返金対応としている。現場の医師は、徴収対象と除外基準の周知徹底、乳幼児や高齢者などへの配慮のほか、1次救急・電話相談との連携による適正振り分け、会計時の説明の一貫性などが課題となる。今後は「安易な利用抑制」と「必要時にためらわず利用できる安心感」の両立を、医師と行政が協働して救急現場に反映させることが問われている。 参考 1) 救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について(概要版)(茨城県) 2) 一次二次救急医療体制あり方検討について(第四次報告)(松阪市) 3) 軽症者の救急搬送19%減 茨城県が「選定療養費制度」を検証(毎日新聞) 4) 選定療養費 軽症搬送、前年比2割減 6~8月 茨城県調査「一定の効果」(茨城新聞) 5) 救急搬送の一部患者から費用徴収、出動件数は1年間で10.2%減 松阪市「適正利用が進んだ」(中日新聞) 6) 救急車「有料化」で出動数1割減 「持続可能な医療に寄与」と松阪市(朝日新聞)

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9月29日 世界ハートの日(世界心臓デー)【今日は何の日?】

【9月29日 世界ハートの日(世界心臓デー)】〔由来〕全世界で毎年、心臓血管病(心臓病や脳卒中など)で1,750万人の命が失われており、2030年にはその数は2,300万人に達すると予測されている。こうした中で世界心臓連合(World Heart Federation)は、2000年から心疾患を予防啓発することを目的に、毎年9月29日を「世界ハートの日」と定め、世界規模の心臓血管病予防キャンペーンを展開している。この日を中心にフォーラムやイベントが各地で開催されている。関連コンテンツ心不全バイオマーカー【診療よろず相談TV】Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター女性を悩ます第3の狭心症や循環器障害の指標とは/日本循環器協会循環器病予防に大きく寄与する2つの因子/国立循環器病研究センター冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン、11年ぶりに改訂/日本循環器学会

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HFpEF/HFmrEFの今:2025年JCS/JHFS心不全診療ガイドラインに基づく新潮流【心不全診療Up to Date 2】第4回

HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)は、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)および軽度低下した心不全(HFmrEF)の診療における歴史的な転換点を示すものであった。長らく有効な治療法が乏しかったこの領域は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン[商品名:ジャディアンス]またはダパグリフロジン[同:フォシーガ])や非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド[同:ウゴービ皮下注]、チルゼパチド[同:マンジャロ])*といった医薬品の新たなエビデンスに基づき、生命予後やQOLを改善しうる治療戦略が確立されつつある新時代へと突入した。本稿では、最新心不全診療ガイドラインの要点も含め、HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流を概説する。*セマグルチドは肥満症のLVEF≧45%の心不全患者へ、チルゼパチドは肥満症のLVEF≧50%の心不全患者に投与を考慮する定義と病態の再整理ガイドラインでは、Universal Definition and Classification of Heart Failure**に準拠し、左室駆出率(LVEF)に基づく分類が踏襲された。HFpEFはLVEFが50%以上、HFmrEFは41~49%と定義される。とくにHFpEFは、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。**日米欧の心不全学会が合同で2021年に策定した心不全の世界共通の定義と分類一方、HFmrEFはLVEF40%以下の心不全(HFrEF)とHFpEFの中間的な特徴を持つが、過去のエビデンスからは原則HFrEFと同様の治療が推奨されている。ただ、HFmrEFはLVEFが変動する一過程(transitional state)をみている可能性もあり、LVEFの経時的変化を注意深く追跡すべき「動的な観察ゾーン」と捉える臨床的視点も重要となる。診断の要点:見逃しを防ぐための多角的アプローチ心不全診断プロセスは、症状や身体所見から心不全を疑い、まずナトリウム利尿ペプチド(BNP≧35pg/mLまたはNT-proBNP≧125pg/mL)を測定することから始まる。次に心エコー検査が中心的な役割を担う。LVEFの評価に加え、左室肥大や左房拡大といった構造的異常、そしてE/e'、左房容積係数(LAVI)、三尖弁逆流最大速度(TRV)といった左室充満圧上昇を示唆する指標の評価が重要となる。安静時の所見が不明瞭な労作時呼吸困難例に対しては、運動負荷心エコー図検査や運動負荷右心カテーテル検査(invasive CPET)による「隠れた異常」の顕在化が推奨される(図1)2)。(図1)HFpEF早期診断アルゴリズム画像を拡大するさらに、心アミロイドーシスや肥大型心筋症など、特異的な治療法が存在する原因疾患の鑑別を常に念頭に置くことが、今回のガイドラインでも強調されている(図2)。(図2)HFpEFが疑われる患者を診断する手順画像を拡大する治療戦略のパラダイムシフト本ガイドラインが提示する最大の変革は、HFpEFに対する薬物治療戦略である(図3)。(図3)HFpEF/HFmrEFの薬物治療アルゴリズム画像を拡大するHFrEFにおける「4つの柱(Four Pillars)」に比肩する新たな治療パラダイムとして、「SGLT2阻害薬を基盤とし、個々の表現型に応じた治療薬を追加する」という考え方が確立された。EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験の結果に基づき、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず、LVEF>40%のすべての症候性心不全患者に対し、心不全入院および心血管死のリスクを低減する目的でクラスI推奨となった3,4)。これは、HFpEF/HFmrEF治療における不動の地位を確立したことを意味する。これに加えて、今回のガイドライン改訂で注目すべきもう一つの点は、nsMRAであるフィネレノン(商品名:ケレンディア)がクラスIIaで推奨されたことである。この推奨の根拠となったFINEARTS-HF試験では、LVEFが40%以上の症候性心不全患者を対象に、フィネレノンがプラセボと比較して心血管死および心不全増悪イベント(心不全入院および緊急受診)の複合主要評価項目を有意に減少させることが示された5)。一方で、従来のステロイド性MRAであるスピロノラクトンについては、TOPCAT試験において主要評価項目(心血管死、心停止からの蘇生、心不全入院の複合)は達成されなかったものの、その中で最もイベント数が多かった心不全による入院を有意に減少させた6)。さらに、この試験では大きな地域差が指摘されており、ロシアとジョージアからの登録例を除いたアメリカ大陸のデータのみを用いた事後解析では、主要評価項目も有意に減少させていたことが示された7)。これらの結果を受け、現在、HFpEFに対するスピロノラクトンの有効性を再検証するための複数の無作為化比較試験(SPIRRIT-HFpEF試験など)が進行中であり、その結果が待たれる。その上で、個々の患者の表現型(フェノタイプ)に応じた治療薬の追加が推奨される。うっ血を伴う症例に対しては、適切な利尿薬、利水薬(漢方薬)の投与を行う(図3)8)。また、STEP-HFpEF試験、SUMMIT試験の結果に基づき、肥満(BMI≧30kg/m2)を合併するHFpEF患者には、症状、身体機能、QOLの改善および体重減少を目的としてGLP-1受容体作動薬がクラスIIaで推奨された9,10)。これは、従来の生命予後中心の評価軸に加え、患者報告アウトカム(PRO)の改善が重要な治療目標として認識されたことを示す画期的な推奨である。さらに、PARAGON-HF試験のサブグループ解析から、LVEFが正常範囲の下限未満(LVEFが55~60%未満)のHFpEF患者やHFmrEF患者に対しては、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、サクビトリルバルサルタンナトリウム[同:エンレスト])が心不全入院を減少させる可能性が示唆され11,12)、クラスIIbで考慮される。併存症管理と今後の展望HFpEFの全身性症候群という概念は、併存症管理の重要性を一層際立たせる。本ガイドラインでは、併存症の治療が心不全治療そのものであるという視点が明確に示された。SGLT2阻害薬(糖尿病、CKD)、GLP-1受容体作動薬(糖尿病、肥満)、フィネレノン(糖尿病、CKD)など、心不全と併存症に多面的に作用する薬剤を優先的に選択することが、現代のHFpEF/HFmrEF診療における合理的かつ効果的なアプローチである。今後の展望として、ガイドラインはLVEFという単一の指標を超え、遺伝子情報やバイオマーカーに基づく、より詳細なフェノタイピング・エンドタイピングによる個別化医療の方向性を示唆している13)。炎症優位型、線維化優位型、代謝異常優位型といった病態の根源に迫る治療法の開発が期待される。 1) Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819. 2) Yaku H, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2025 Jul 17. [Epub ahead of print] 3) Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461. 4) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098. 5) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 6) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 7) Pfeffer MA, et al. Circulation. 2015;131:34-42. 8) Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312. 9) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 10) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 11) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620. 12) Solomon SD, et al. Circulation. 2020;141:352-361. 13) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55.

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性的マイノリティ女性は乳がん・子宮頸がん検診受診率が低い、性特有の疾患における医療機関の課題

 性的マイノリティ(SGM)の女性は、乳がんや子宮頸がんの検診受診率が非SGM女性に比べて低いことが全国調査で明らかになった。大腸がん検診では差がみられず、婦人科系がん特有の課題が示唆されたという。研究は筑波大学人文社会系の松島みどり氏らによるもので、詳細は「Health Science Reports」に8月4日掲載された。 がん検診は、子宮頸がんや乳がんの早期発見と死亡率低下に重要な役割を果たしている。先進国と途上国を含む10カ国以上では、平均的なリスクを持つ全年齢層で20%の死亡率低下が報告されている。しかし、日本では2022年時点での子宮頸がん・乳がんの検診受診率はそれぞれ43.6%、47%にとどまっている。この受診率の低さの背景として、教育や所得の問題が議論されてきたが、日本ではSGMの問題という重要な視点が欠けていた。 海外の調査では、SGMの女性は子宮頸がんや乳がん検診を受ける可能性が低いことが明らかになっている。その背景には、拒絶や差別への恐れ、性的指向の隠蔽などが影響していると指摘される。また日本では、子宮頸がんや乳がんの検診が通常産婦人科で行われることから、この日本特有の状況も受診の障壁となっている可能性がある。このような背景から、本研究ではSGM女性は非SGM女性よりも子宮頸がんおよび乳がん検診を受ける可能性が低いという仮定を立て、全国規模のオンライン調査データを用いて検証した。また、大腸がん検診も対象に加え、結果が女性特有のがんに限られるのかどうかを調べた。 本研究では、オンライン縦断調査プロジェクトである「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS Study)」のデータベースより、JACSIS 2022モジュールのデータを使用した。2022モジュールは、2022年9月12日~10月19日の間に行われた追跡調査であり、合計3万2,000のサンプルが含まれた。サンプルを20~69歳の女性に限定した結果、最終的な解析対象は1万2,305人(SGM女性1,371人、非SGM女性1万934人)となった。 調査の結果、子宮頸がん検診の受診率はSGM女性で36.2%、非SGM女性で47.4%、乳がん検診は41.8%対50.1%であり、いずれもSGM女性の方が有意に低かった(いずれもカイ二乗検定、P<0.001)。一方、大腸がん検診の受診率はSGM42.5%、非SGM45.2%であり、その差は小さく統計学的な有意差は認められなかった(カイ二乗検定、P=0.23)。 また、人口統計学的特性および社会経済的地位を考慮したロジスティック回帰分析の結果、SGM女性は非SGM女性に比べて子宮頸がん検診(オッズ比〔OR〕 0.78、95%信頼区間〔CI〕 0.69~0.88、P<0.001)および乳がん検診(OR 0.77、95%CI 0.64~0.93、P<0.01)を受ける可能性が低いことが明らかになった。一方、大腸がん検診についてはSGM女性と非SGM女性の間に有意な差は認められなかった(OR 0.96、95%CI 0.80~1.16)。 著者らは、「本研究は、SGMの女性が子宮頸がんや乳がんなど女性特有のがん検診を受けにくい現状を明らかにし、この分野の理解を深めるものとなっている。結果は、医療現場でSGMの問題に配慮するための政策の重要性を示しており、具体的にはガイドラインの整備や性的に配慮したコミュニケーションの研修、さらに自己採取型HPV検査の導入などが挙げられる。なお、本データでは約12.5%の女性が性的マイノリティであると回答しており、受診率の低さが課題の日本において、国の政策としても決して看過されるべき課題ではない」と述べている。 なお、本研究の限界として、サンプル数の少なさから対象をSGMと非SGMの2群に単純化している点が挙げられる。この単純化により、SGM内の特定のグループ(トランスジェンダーなど)が抱える経験やニーズが見落とされていた可能性がある。著者らは、こうしたグループの独自の医療ニーズや課題を明らかにするためには、より大規模で多様なサンプルを用いた研究が必要であると指摘している。

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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僧帽弁クリップ術やアブレーションによる心房中隔欠損が問題に、その対策とは/日本心臓病学会

 第73回日本心臓病学会学術集会が9月19~21日に高知にて開催された。シンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」において、赤木 禎治氏(心臓病センター榊原病院 循環器内科)が、「医原性心房中隔欠損の現状と治療」と題し、心血管インターベンション治療の普及に伴い増加傾向にある心房中隔裂開の対策や課題などについて報告した。医原性心房中隔欠損、臨床上で問題となる要因とは 経カテーテル僧帽弁形成、左心耳閉鎖やアブレーションなどの心血管インターベンション治療中に心房中隔を損傷し、中隔が裂けて発生する心房中隔欠損(ASD)を医原性心房中隔欠損(iASD)と呼ぶ。カテーテル操作に起因する中隔裂開として発生するが、術者の技量に関係なく一定の頻度で発生し、一部の患者では急激な血行動態の破綻を招くという。 このiASDが生じる要因として、「右房圧の亢進した状況(肺高血圧症、右心機能不全)」「重度三尖弁逆流(TR)の存在」「欠損孔と下大静脈(IVC)の流入血流との位置関係」などが挙げられ、これらの発生直後に低酸素血症や循環動態の破綻、遠隔期に病態悪化を来すことで、奇異性脳塞栓リスクが高まる。赤木氏は「急激な血行動態の悪化で、右→左シャントでチアノーゼが起こったり、左→右シャントで全身の血圧が急激に下がったりすることで、危機的な状況を招く」と説明した。発生数が増加する背景 近年、iASDの発生件数が増加している背景には、大きなカテーテルを用いる経心房中隔手術、とくにMitraClipデバイスの導入が大きく関わっているという。もともと重症TRがある場合、iASDの穴が小さくてもそこからTRの血流が左心房に吹き込み、急激に酸素飽和度が低下することがある。MitraClipを行う症例ではTRを合併していることも多いため、これが大きな懸念事項となり得る。また、同氏は2022年に岡山大学の髙谷 陽一氏がまとめた国内の経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClipによるMTEER、以下MTEER)後のiASDに関するデータ1)を示し、「約3,000例を実施した時点で29例、約1%のiASDが当時報告された。この手技の最大の問題点はMTEERにより僧帽弁が修復できる施設であっても、心房中隔閉鎖手技の認定を受けていない施設の場合、発生したiASDを閉じることができないことであった。MTEER実施施設で中隔が裂けた場合に、誰がどう対応するのかという問題も生じている。報告された29例中1例において、MTEERは成功したもののiASDの閉鎖ができず、最終的に心不全で死亡した。この報告は日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)でも非常に大きな問題として取り上げられた」と指摘した。現在、MTEERの実施施設は200件近くにのぼるが、ASDの治療ができる施設は半数程度に限られている。 iASDの大きさについては、「大体10mm前後でiASDと判断しているが、実際には3mmや4mmといった報告もあり、本当にいつどこで起こるかわからない」とし、発生のタイミングについても「国内状況を調べると、MTEER直後の急激な酸素飽和度の低下のほか、遠隔期に酸素飽和度の低下が見られ、閉鎖が必要になる症例があることが明らかになってきている」とも強調した。榊原病院の森川 喬生氏がまとめた海外データ2)によると、MTEERの5%程度に右→左シャントを伴う症例が発生しており、同氏は「国内でも同程度の可能性はある」と話した。 さらにiASDはアブレーションでも報告が挙げられており、約630例に行ったアブレーション施行6ヵ月後の経胸壁心エコーで、iASDが4%に遺残していた3)。現時点で奇異性塞栓症リスクまでを考慮した治療ガイドラインは確立されていないが、アブレーションによるiASDで塞栓リスクがあるか否かについては検討課題であるという。現時点でできる対応方法や今後の取組 このような問題を解決するために、アボットのAmplatzer Septal Occluderの医原性心房中隔欠損(iASD)閉塞術に対する適応拡大がPMDAにより承認され、CVITは2025年7月23日付で適正使用指針をホームページに公開している。そして、同学会はASD閉鎖術が行われていなかった施設でもiASDを閉鎖できるようなプログラムを用意し、学会ホームページへ「iASD閉鎖術に関する施設・術者申請に関するお知らせ」を掲載している(9月3日更新)。同氏は「このプログラムでは、既にASDもしくは卵円孔開存(PFO)の閉鎖ができる医師を最初にトレーニングし、その後、CVIT認定医もしくは専門医でこの教育プログラムを受けた医師がiASDを閉鎖できるよう進めている」と説明し、あわせてiASDのレジストリ登録についての協力も呼びかけた。

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RSウイルスワクチンの1回接種は高齢者を2シーズン連続で守る

 米国では、60歳以上の人に対するRSウイルス感染症を予防するワクチン(RSウイルスワクチン)が2023年より接種可能となった。米疾病対策センター(CDC)は、75歳以上の全ての人と、RSウイルス感染症の重症化リスクがある60〜74歳の人は1回接種を推奨している。このほど新たな研究で、高齢者はRSウイルスワクチンの1回接種により2シーズン連続でRSウイルス関連の入院を予防できる可能性のあることが示された。米ヴァンダービルト大学医療センターのWesley Self氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月30日掲載された。 Self氏は、「これらの結果は、RSウイルスワクチンにより高齢者のRSウイルス感染による入院や重症化を予防できることを明確に示している。この新しいワクチン接種プログラムが公衆衛生に有益であることを目の当たりにするのは本当に喜ばしいことだ」と話している。 研究グループによると、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて60歳以上の高齢者に深刻な影響を及ぼし、毎年15万人が入院、8,000人が死亡しているという。Self氏らは今回、2023年10月1日~2024年3月31日、または2024年10月1日~2025年4月30日のRSウイルス流行期に急性呼吸器疾患により米国20州の26病院に入院した60歳以上の人6,958人(年齢中央値72歳、女性50.8%)を対象に、RSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性を検討した。対象者のうち、821人(11.8%)はRSウイルス感染症症例(症例群)、6,137人が対照群とされた。また、1,829人(26.3%)は免疫抑制状態にあった。 RSウイルスワクチンを接種していたのは、症例群で63人(7.7%)、対照群で966人(15.7%)だった。2シーズンを合わせたワクチンの有効性は58%と推定された。また、RSウイルス感染症の発症と同じシーズンに接種した場合のワクチンの有効性は69%、前シーズンに接種した場合の有効性は48%であったが、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.06)。さらに、2シーズンを合わせたワクチンの有効性は、免疫抑制状態にない群で67%であったのに対し、免疫抑制状態にある群では30%と有意に低かった。同様に、非心血管疾患患者でのワクチン有効性は80%であったのに対し、心血管疾患を有する群では56%と有意に低かった。 Self氏は、「われわれのデータは、RSウイルスワクチンの有益な効果は時間の経過とともに弱まる傾向があることを示している」とヴァンダービルド大学のニュースリリースで述べている。 CDCのウェブサイトには、「すでに1回接種を受けた人(昨年を含む)はワクチン接種を完了と見なされ、現時点で追加の接種を受ける必要はない」と記載されている。Self氏は、「本研究結果は、ガイドラインの見直しが必要である可能性があることを示している。初回接種後、一定の間隔を置いてワクチンを再接種することは、より長期間にわたりRSウイルスに対する予防効果を維持するための戦略となり得る」と述べている。その上で同氏は、「単回接種後の効果の持続期間や再接種の必要性について理解するために、ワクチンの有効性を今後も綿密にモニタリングしていくことが重要だろう」との見方を示している。

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