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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024)レポート

レポーター紹介San Antonio Breast Cancer Symposium 2024が12月10〜13日の間、ハイブリッド開催されました。100ヵ国を超える国々から計1万1,000人以上の参加者があり、乳がん治療の最適化、予防・早期発見、薬剤開発、トランスレーショナルリサーチ、バイオロジー等多岐にわたる視点から多くの発表が行われました。今年は、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。全身治療EMBER3試験(ER+/HER2-進行乳がん):NEJM掲載1)アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者において、経口SERDであるimlunestrant単剤治療およびアベマシクリブとの併用治療の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。対象患者874例が、imlunestrant群、標準内分泌療法群(エキセメスタンまたはフルベストラント)、imlunestrant+アベマシクリブ群に、1対1対1の割合で無作為化されました。前治療として1/3が術後治療のみの治療歴、2/3が進行乳がんに対して1ライン治療後、55.5%に内臓転移があり、59.8%がCDK4/6阻害薬による治療歴を有していました。ESR1変異陽性患者は32~42%、PI3K経路変異は約40%にみられました。主要評価項目は、治験医師評価による無増悪生存期間(PFS)で、ESR1変異陽性患者および全集団においてimlunestrant群と標準内分泌療法群を比較し、また全集団においてimlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の比較が行われました。本試験の結果、ESR1変異陽性患者256例において、PFS中央値はimlunestrant群5.5ヵ月vs. 標準内分泌療法群3.8ヵ月、ハザード比(HR):0.62(95%信頼区間[CI]:0.46~0.82、p<0.001)とimlunestrant群で38%のPFS改善がみられました。全集団(Imlunestrant群と標準内分泌療法群の計661例)では、PFS中央値はimlunestrant群5.6ヵ月vs.標準内分泌療法群5.5ヵ月、HR:0.87(95%CI:0.72~1.04、p=0.12)と統計学的有意差を認めませんでした。imlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の計426例におけるPFS中央値は、それぞれ9.4ヵ月vs.5.5ヵ月、HR:0.57(95%CI:0.44~0.73、p<0.001)とimlunestrant+アベマシクリブ群で43%のPFS改善を認めました。PFSのサブグループ解析の結果は、ESR1変異有無、PI3K経路変異有無、CDK4/6阻害薬による治療歴の有無にかかわらずimlunestrant+アベマシクリブ群で良好でした。同じSERDでもフルベストラント(筋注)とimlunestrant(経口)でなぜ効果が違うのでしょうか? ESR1変異細胞株を用いたin vitroの実験ではフルベストラントとimlunestrantの効果は変わらないことが知られています2)。この違いは投与経路によるbioavailabilityの差によるものと考えられており、臨床上効果の差はEMERALD試験、SERENA-2試験、aceIERA試験、ELAINE 1試験でも同様の傾向がみられます。本試験では2次治療でのimlunestrant±アベマシクリブの有効性を示したものですが、全生存期間(OS)の結果がimmatureであること、imlunestrant+アベマシクリブ群の40%がCDK4/6阻害薬の初回投与であること等を考慮すると慎重な解釈が必要です。経口SERDへのスイッチのタイミング、CDK4/6阻害薬・PI3K経路阻害薬のシークエンス、ESR1/PIK3CA dual mutation carrierの治療戦略構築は今後の課題といえるでしょう。PATINA試験(HR+/HER2+転移乳がん)抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサンによる導入療法後に病勢進行がみられないHR+/HER2+転移乳がん患者における維持療法として抗HER2療法+内分泌療法へのパルボシクリブ追加の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。本試験は、サイクリンD1-CDK4の活性化が抗HER2療法の耐性に関与しており、CDK4/6阻害薬と抗HER2療法の相乗効果が前臨床モデルで認められた3)という背景をもとにデザインされています。6~8サイクルの抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサン導入療法後に病勢進行がなかった対象患者518例が、トラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法+パルボシクリブ(パルボシクリブ追加群)とトラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法(抗HER2療法+内分泌療法群)に1対1に無作為化されました。患者特性として97%がペルツズマブを投与され、71%が周術期治療で抗HER2療法の治療歴を有し、導入療法の全奏効率(ORR)は69%でした。主要評価項目は治験医師評価によるPFSでした。本試験の結果、PFS中央値は、パルボシクリブ追加群44.3ヵ月vs.抗HER2療法+内分泌療法群29.1ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.58~0.94、p=0.0074)で、パルボシクリブ追加群における有意なPFS改善がみられました。PFSのサブグループ解析では、ペルツズマブ投与や周術期治療としての抗HER2療法歴の有無、導入療法への反応や内分泌療法の種類によらず、パルボシクリブ追加群で良好でした。本試験に日本は参加していませんが、導入療法後のPFSが15.2ヵ月延長した点において、世界的にはpractice changingである結果です。本試験で注目されたのは、まずコントロール群である抗HER2療法+内分泌療法群のPFS中央値が29.1ヵ月とCLEOPATRA試験に比べ、非常に良好である点です(CLEOPATRA試験のPFS中央値18.7ヵ月)。本試験のデザインの特徴として導入療法後に病勢進行がない患者を組み入れ対象としており、この時点で早期PD症例(CLEOPATRA試験では20~25%が早期PD)が除外され、比較的予後良好症例に絞られています。また維持療法中の内分泌療法がCLEOPATRA試験では許容されておらず、本試験は対象をHR+/HER2+に絞り、内分泌療法が全例に行われた点も良好なPFSに寄与していると考えられます。またパルボシクリブ追加群ではPFS中央値が44.3ヵ月と大きく延長し、HR+/HER2+転移乳がんにおけるCDK4/6阻害薬追加の有用性が示されましたが、副次評価項目のOSはimmatureですので最終解析が待たれます。今後はHR+/HER2+転移乳がんで導入療法の化学療法を省略できるのか、導入療法がADC製剤となった場合の維持療法、その他の標的治療(PI3K阻害薬、SERDs、PARP阻害薬等)の併用等が議論の焦点となるでしょう。また、どのサブタイプにもいえることですが、治療レスポンスガイド、分子バイオマーカーによる症例選択により、治療の最適化を図るのは非常に重要なポイントとなります。ZEST試験(早期乳がん)トリプルネガティブ乳がん(TNBC)または腫瘍組織のBRCA病的バリアント(tBRCAm)を有するHR+/HER2-乳がん患者(StageI~III)を対象に標準治療終了後、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)検査を2~3ヵ月ごとに行い、ctDNA陽性かつ画像的再発が検出されていない患者に対するPARP阻害薬ニラパリブの有効性を検討するランダム化比較第III相試験です。初めての血中の微小転移(MRD)を標的とした大規模第III相試験ということで注目を集めましたが、本試験は残念ながら無作為化に必要な十分な症例数が得られず早期終了しました。早期終了に至った経緯ですが、標準治療終了後、ctDNAサーベイランスに登録された症例1,901例のうち、147例(8%)がctDNA陽性となり、73例(ctDNA陽性症例の50%)が画像的再発を認め組み入れ対象外となりました。最終的にニラパリブ群およびプラセボ群への無作為化に進んだ症例は40例(2%)とごくわずかとなったためです。少数での解析にはなりますが、ctDNA陽性症例の中でTNBCが92%、tBRCAmを有するHR+/HER2-乳がんが8%、Stage IIIが54%でした。TNBCでctDNA陽性となった症例の約60%が標準治療終了後から6ヵ月以内にctDNA陽性となっており、かなり早い段階からMRDが検出されると同時に約半数に画像的再発を認めました。解釈には注意を要しますが、無再発生存期間(RFS)中央値は、ニラパリブ群11.4ヵ月vs.プラセボ群5.4ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.32~1.36)でした。本試験からはMRDに基づいた治療介入の有用性は示されませんでしたが、今後の試験デザインを組むうえで多くのヒントを残した試験といえます。今後は、よりハイリスク症例を組み入れる等の対象の選定、TNBCにおいてはより早期(術前化学療法直後)からのMRD評価、より感度の高いMRD検出法の確立等の課題が挙げられ、MRDを標的とした術後のより個別化された治療戦略構築が望まれます。局所治療INSEMA試験:NEJM掲載4)乳房温存療法を受ける予定の浸潤性乳がん患者で、腫瘍径≦5cmのcT1/2、かつ臨床的リンパ節転移陰性(cN0)の患者に対する、腋窩手術省略とセンチネルリンパ節生検の前向きランダム化比較試験(非劣性試験)です。対象患者5,154例が無作為化を受け、4,858例がper-protocol解析集団となりました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群に1対4で割り付けられました(腋窩手術省略群962例、センチネルリンパ節生検群3,896例)。主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)で腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性マージンは、5年iDFS率が85%以上で、浸潤性疾患または死亡のHRの95%CIの上限が1.271未満と規定されました。患者特性は50歳未満の患者は10.8%と少なく、cT≦2cmの症例が90%、96%がGrade1/2、95%がHR+/HER2-乳がんでした。また、センチネルリンパ節生検群では3.4%に微小転移、11.3%に1~3個の転移、0.2%に4個以上の転移を認めました。本試験の結果、観察期間中央値73.6ヵ月、per-protocol集団における5年iDFS率は腋窩手術省略群91.9% vs.センチネルリンパ節生検群91.7%、HR:0.91(95%CI:0.73~1.14)であり、腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性が証明されました。主要評価項目のイベント(浸潤性疾患の発症または再発、あるいは死亡)は525例(10.8%)に発生しました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群の間で、遠隔転移再発率に差はなく(2.7% vs.2.7%)、腋窩再発発生率は腋窩手術省略群で若干高いという結果でした(1.0% vs.0.3%)。副次評価項目の5年OS率は腋窩手術省略群98.2% vs.センチネルリンパ節生検群96.9%、HR:0.69(95%CI:0.46~1.02)と良好な結果でした。安全性については、腋窩手術省略群はセンチネルリンパ節生検群と比較して、リンパ浮腫の発現率が低く、上肢可動域が大きく、上肢や肩の動きに伴う痛みが少ないという結果でした。表:SOUND試験とINSEMA試験の比較画像を拡大する乳房温存療法におけるcN0症例の腋窩手術省略の可能性を検討したSOUND試験、INSEMA試験の結果から、閉経後(50歳以上)、cT≦2cm、HR+/HER2-、Grade1~2といった限られた対象で腋窩手術省略は検討可能であることが示唆されました。一方、閉経前、TNBC、HER2陽性乳がん、小葉がん、cT2 以上、Grade3については試験に組み入れられた症例数が少なくデータが不十分であること、腋窩のstagingが術後治療選択に関わることを踏まえるとセンチネルリンパ節生検を行うことが妥当であると考えられます。SUPREMO試験乳房全切除術を行った「中間リスク」浸潤性乳がん(pT1/2N1M0、pT3N0M0、pT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲あり)の乳房全切除後放射線照射(PMRT、胸壁照射のみ)の有用性を検討する前向きランダム化比較試験です。EBCTCGのメタアナリシス(1964~1986)では腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRTにより領域リンパ節再発率、乳がん死亡率を減少させることが報告されています6)。この解析はアロマターゼ阻害薬、抗HER2療法やタキサンが普及する前の解析であり、現在の周術期薬物療法の各再発率低減への寄与が高まる中、放射線療法の相対的な意義が低下している可能性があります。一方でPMRTを安全に省略できる条件については一定の見解はなく、今回のSUPREMO試験(2006~2013)は現代の周術期薬物療法が行われた浸潤性乳がんにおけるPMRTの有用性を改めて検証した試験となります。対象患者1,679例が胸壁照射なし群と胸壁照射あり群に、1対1の割合で無作為化されました。患者特性としてpN0が25%、腋窩リンパ節転移1個陽性が40%、腋窩リンパ節転移陽性症例には腋窩郭清(8個以上腋窩リンパ節を摘出)が行われました。本試験の結果、10年OS、無病生存期間(DFS)、MDFSに関してはPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は認めませんでした。胸壁再発に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.30、95%CI:0.11~0.82、p=0.01)。局所再発率に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.51、95%CI:0.27~0.96、p=0.03)。本試験の結果からpT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲ありの症例に対するPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は10年の観察期間内では証明されませんでした。pT3N0M0症例は11例しか含まれておらずPMRT(胸壁照射のみ)の有用性については不明です。さらに腋窩リンパ節転移1~3個陽性症例でのPMRT(胸壁照射のみ)による絶対的リスク低減効果はわずかであり、多遺伝子解析を含めた腫瘍の生物学的リスク、リンパ節転移個数等を加味し、症例選択のうえPMRTの省略を検討できる可能性があります。また近年、腋窩リンパ節に対する縮小手術のデータが蓄積されてきているため、腋窩手術と放射線治療間でのバランスも検討が必要であり、過不足のない周術期治療戦略を練る必要があります。最後に本学会に参加して、多くの演者が“One size does not fits all.”とコメントしていたのが印象的です。早期乳がんに関しては局所療法のde-escalationが進む中、腫瘍のバイオロジー・リスクに応じた全身治療の最適化(de-escalation/escalation)が検討されており、治療選択肢も増えて混沌としてきています。転移・再発乳がんに関しては治療のラインに伴い経時的に変化しうる腫瘍の性質をいかに捉え、病勢をコントロールするかさまざまな薬剤の組み合わせ、シークエンスを含めたエビデンスの構築が必要です。安全に周術期治療、転移・再発治療の最適化を行うためにも、乳がんのバイオロジーの理解、多職種連携により包括的に患者の病態を捉え、治療を行っていく必要性があると考えられます。参考1)Jhaveri KL, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 11. [Epub ahead of print]2)Bhagwat SV, et al. Cancer Res. 2024 Dec 9. [Epub ahead of print]3)Goel S, et al. Cancer Cell. 2016;29:255-269.4)Reimer T, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 12. [Epub ahead of print]5)Gentilini OD, et al. JAMA Oncol. 2023 Nov 01;9:1557-1564.6)EBCTCG (Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group) . Lancet. 2014;383:2127-2135.

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切除不能HCC、TACEにデュルバルマブ+ベバシズマブ併用でPFS改善(EMERALD-1)/Lancet

 肝動脈化学塞栓療法(TACE)対象の切除不能な肝細胞がん(HCC)患者において、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブの併用療法が新たな標準治療となりうることが、スペイン・Clinica Universidad de Navarra and CIBEREHDのBruno Sangro氏らEMERALD-1 Investigatorsによる国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「EMERALD-1試験」の結果で示された。TACEは20年以上前に標準治療として確立されたが、TACEに関するガイドラインの記載は世界各地域で異なり、病期や腫瘍の大きさ、肝機能、合併症などが異なる多様な患者がTACEを受けている。無増悪生存期間(PFS)中央値は依然として約7ヵ月であり、研究グループは、ベバシズマブ併用の有無を問わずデュルバルマブの併用によりPFSを改善可能か評価した。著者は「最終的な全生存期間(OS)の解析および患者報告のアウトカムなども含むさらなる解析は、塞栓術が可能なHCCにおける、デュルバルマブ+ベバシズマブ+TACEの潜在的な臨床ベネフィットを、さらに特徴付けるのに役立つだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年1月8日号掲載の報告。日本を含む18ヵ国157施設で試験、TACE単独療法と比較評価 EMERALD-1試験は、18歳以上のTACE対象の切除不能なHCCで、登録時ECOG PSが0または1、modified RECISTに基づく測定可能な肝内病変を少なくとも1つ有する患者を、日本を含む18ヵ国157施設(研究センター、総合および専門病院を含む)で登録して行われた。 適格患者を、TACEの手法、登録地域、門脈浸潤で層別化し、対話型音声応答またはweb応答システムを用いて、(1)TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群(4週ごとにデュルバルマブ1,500mg静脈内投与、その後3週ごとにデュルバルマブ1,120mg+ベバシズマブ15mg/kgの静脈内投与)、(2)TACE+デュルバルマブ併用療法群(ベバシズマブに代えてプラセボを投与)、(3)TACE単独療法群(デュルバルマブとベバシズマブに代えてそれぞれプラセボを投与)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。被験者、治験担当医師、アウトカム評価者はデータ解析まで治療割り付けを盲検化された。 主要評価項目は、ITT集団(治療に割り付けられた全被験者)におけるTACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群とTACE単独療法群を比較評価したPFS(RECIST ver1.1に基づく盲検下独立中央判定[BICR]による)であった。副次評価項目は、TACE+デュルバルマブ併用療法群とTACE単独療法群を比較評価したPFS(RECIST ver1.1に基づくBICRによる)およびOS、患者報告アウトカムの悪化などであった。 なお、被験者は、OSに関して引き続きフォローアップを受けており、OSと患者報告アウトカムについては後日公表される予定となっている。また安全性の評価は、治療に割り付けられ、試験治療(すなわちデュルバルマブ、ベバシズマブ、あるいはプラセボのいずれか)を受けた被験者を対象に解析された。TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群のPFSが改善 2018年11月30日~2021年7月19日に、887例がスクリーニングを受け、616例(ITT集団)がTACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群(204例)、TACE+デュルバルマブ併用療法群(207例)、TACE単独療法群(205例)に無作為に割り付けられた。年齢中央値は65.0歳(四分位範囲:59.0~72.0)、135/616例(22%)が女性、481/616例(78%)が男性。アジア人375例(61%)、白人176例(29%)、アメリカインディアン/アラスカ先住民22例(4%)、黒人/アフリカ系米国人9例(1%)、ハワイ先住民/他の太平洋諸島住民1例(<1%)、その他の人種33例(5%)であった。 データカットオフ時点(2023年9月11日、PFSに関する追跡期間中央値27.9ヵ月[95%信頼区間[CI]:27.4~30.4])のPFSは、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群15.0ヵ月(95%CI:11.1~18.9)、TACE+デュルバルマブ併用療法群10.0ヵ月(9.0~12.7)、TACE単独療法群8.2ヵ月(6.9~11.1)であった。 TACE単独療法群と比較したPFSのハザード比は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群0.77(95%CI:0.61~0.98、両側のp=0.032)、TACE+デュルバルマブ併用療法群0.94(0.75~1.19、両側のp=0.64)であった。 最も多くみられた最大Grade3~4の有害事象は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群では高血圧(9/154例[6%])、TACE+デュルバルマブ併用療法群では貧血(10/232例[4%])、TACE単独療法群は塞栓後症候群(8/200例[4%])であった。死亡に至った治療関連有害事象は、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ併用療法群では報告されなかったが、TACE+デュルバルマブ併用療法群では3/232例(1%)(動脈出血、肝損傷、多臓器不全症候群の各1例)、TACE単独療法群では3/200例(2%)(食道静脈瘤出血、上部消化管出血、皮膚筋炎の各1例)の報告があった。

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てんかん患者は網膜の神経軸索脱落が速い

 てんかんは、光干渉断層撮影(OCT)で観察される網膜神経軸索の脱落と関連しており、若年患者でも明らかな網膜の変化が見られることが知られている。また、てんかん患者における網膜神経軸索脱落の程度が、発作頻度や多剤併用療法と関連するとの報告もある。しかし縦断的研究が少ないことから、網膜変化の進行速度や発作頻度が与える影響については不明な点が多かった。ミュンヘン大学病院(ドイツ)のLivia Stauner氏らは、てんかん患者と健常者を対象に網膜の神経軸索脱落に関する追跡調査を実施。その結果の詳細が10月9日、「Epilepsia」に掲載された。 この研究の対象は、18~55歳のてんかん患者44人と健常者56人。加齢変化の影響を除外するため、年齢範囲の上限を55歳とした。患者群は平均年齢35.6±10.9歳、女性21人、健常者群(対照群)は32.7±8.3歳、女性37人であり、それぞれベースラインと7.0±1.5カ月後、6.7±1.0カ月後にOCT検査を行った。評価項目は、乳頭周囲網膜神経線維層(pRNFL)、黄斑部網膜神経線維層(mRNFL)、神経節細胞-内網状層(GCIP)、内顆粒層(INL)の厚み、および黄斑体積(TMV)であり、その変化と臨床パラメーターとの関連を検討した。 解析の結果、患者群では前記の全ての指標が追跡期間中に有意に低下しており、菲薄化や萎縮の進行が認められた。対照群もpRNFL以外の指標が有意に低下していた。一方、これらの変化を年率換算して比較すると、pRNFLでは患者群が-0.98±3.13%/年、対照群は0.42±2.38%/年(P=0.01)、GCIPでは同順に-1.24±2.56%/年、-0.85±1.52%/年(P=0.046)で、いずれも患者群の変化が速いことが示された。その他の指標の年変化率は、両群間に有意差がなかった。 サブグループ解析から、患者群のうち、pRNFLの年変化率が年齢と性別の一致する対照群より有意に大きかったのは、追跡期間中に1回以上の強直間代発作があった患者(P=0.03)のみであることが示された。追跡期間中に焦点発作のみが生じた患者(P=0.24)や発作を来さなかった患者(P=0.2)は、対照群と年変化率の有意差がなかった。 年変化率と関連のある臨床パラメーターを多重回帰分析で検討した結果、mRNFLの菲薄化は、併用している抗てんかん薬の数(β=-2.27、P=0.047)や年齢(β=-0.22、P=0.03)と有意な関連が認められた。 Stauner氏らは、併用している抗てんかん薬の数がmRNFLの菲薄化と関連していることについて、疾患活動性が反映された結果の可能性もあるとした上で、「より多くの抗てんかん薬を服用している患者は神経軸索脱落が加速するリスクがあるとも考えられ、よく考慮された効果的な薬物療法の重要性を示す結果と言える」と述べている。 なお、数人の著者が製薬企業などとの利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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2025年に医師会が掲げる4つの課題/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例会見を開催し、2025年の医師会の課題を語った。 新年の挨拶として松本氏は、年末年始にインフルエンザ患者の診療対応にあたった診療所の医師、医療者などに感謝の意を示すとともに、地域によっては予想を超えるインフルエンザ患者が来院したことを明らかにした。また、依然としてインフルエンザの検査キット、注射薬、治療薬などが不足していること、厚生労働省と協議し、各メーカーに増産を要請していることを述べるとともに、引き続き、マスクの着用や手指衛生など感染対策の実施と医療機関にはなるべく診療時間内に診療を受診するように述べた。 その他、年始に恒例となっている「箱根マラソン」に触れ、たすきを渡してゴールへ向かうチームの結束に思いを寄せ、医師会も次世代にたすきを渡し、継承を途切れることなく行っていきたいと決意を新たに語った。引き続く医療機関の経営悪化に適切な支援を望む 2025年の医師会の課題として4つを示し、説明を行った。1)参議院選挙について 先の衆議院議員選挙で少数与党となり、不安定な政局となっている。今夏に行われる参議院議員選挙は医療の未来を左右する重要な選挙と考えている。今後も医療現場の声を政府に的確につなげていく。2)令和8年度の診療報酬改定について 社会経済がインフレ局面であり、物価・賃金上昇に診療報酬が追いついていない現状。全国の医療・介護施設が赤字経営となり、逼迫性が増している。医療界では病院の経営が危機的な状況となっている。 昨年、医師会では物価高騰への考慮を政府にお願いし、今回補正予算で認められたことは評価している。しかし、人員の補充や設備投資に回せないなど支援はまだ不十分である。 これからも急騰していく物価などに対し、地域医療に影響がでないように補助金など機動的な経済対応をお願いしていく。 今回の診療報酬改定では、物価賃金の上昇に応じて、適切な仕組み作りが行われることを求めていく。併せて、地域医療機関の逼迫した経営状況を考慮し、まずは補助金での迅速な対応を希望し、必要があれば期中の改定も視野に要望していく。 また、財政の見直しを行い物価賃金の伸びに合わせた上昇をお願いし、骨太の方針に向けて別次元の対応を求めていく。 その他、小児・周産期医療では、急激な少子化により対象が減少しているだけでなく、医療の担い手も減少という相互に関連することであり、今後、抜本的な解決が必要とされる。3)新たな地域医療構想と医師の偏在の対策について 地域医療構想は、昨年、国が関係ガイドラインを策定し、実施が待たれるとともに、医師偏在対策では区域設定で是正プランができるなど実効性のある取り組みが期待される。医師会としては、これらの施策の中に「地域の実情を加味する」という文言が入り評価している。 医師会は昨年、医師偏在への提言を行い、厚生労働省から対策への総合パッケージが示された。この中には医師会の提言や要望も含まれており、解決にはあらゆる方策を相互に駆使して取り組む必要であることも示されるとともに、今回の総合パッケージには、若手医師だけでなく、すべての世代の医師への配慮もされていることも評価している。 一方、地域医療に従事しない医師などに「勧告」など罰則的な事項も掲げられており、こうした対応には反対する。医師会は、かかりつけ機能の充実に向け、地域医療の取り組みに一層取り組んでいく。4)かかりつけ医機能報告制度の施行について 2026年からスタートする「かかりつけ医機能報告制度」について、その目的は、地域医療機能と医療資源の不足などの把握と理解している。医師会としては、面としての地域かかりつけ医機能を発揮するためにも、より多くの医療機関に参加してもらうことが重要と考えている。 松本氏は、これらの課題について、「地域医師会とともに対応に向けて、情報発信をしっかりと行っていく」と述べ、新年の挨拶を終えた。 続いて、平成24年より開催されている「日本医師会 赤ひげ大賞」の第13回の受賞者5名と「赤ひげ功労賞」の受賞者14名が発表された。本賞は都道府県医師会からの推薦で決定され、今回は選考委員にはじめて医学生が加わったことが説明された。

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第249回 睡眠薬は睡眠中の脳の洗浄を妨げるらしい

睡眠薬は睡眠中の脳の洗浄を妨げるらしいアドレナリンの弟分の分子ノルアドレナリンの周期的放出と連動した血管収縮が、睡眠中の脳の老廃物を除去する脳脊髄液(CSF)流を生み出していることがマウスでの検討で示されました1~3)。また、定番の睡眠薬ゾルピデムは都合の悪いことに、ノルアドレナリンの周期的放出を抑制して脳のCSFの流れを妨げるようです。脳には体液を集めて移動させるリンパ管がありませんが、それに代わるグリンパティック系という仕組みを備えます。グリンパティック系は脳を浸すCSFを血管に沿った細道を伝わせることで、老廃物やその他の不要分子を洗い流します。グリンパティック系の流れは睡眠中に増えることが報告されています。グリンパティック系の発見を2012年に報告4)したロチェスター大学のMaiken Nedergaard氏らは、新たな研究で何が脳のCSFを流すのかをマウスを使って調べることにしました。血管を収縮させる神経伝達物質であるノルアドレナリンの量がマウスの脳で周期的に変動しており、およそ50秒ごとに最大になることが先立つ研究で知られています2)。Nedergaard氏らの新たな研究の結果、記憶や学習などの認知機能に不可欠な睡眠段階であるノンレム睡眠のときにノルアドレナリン量の増減に応じて脳の血管が伸縮して血液量が増減し、CSFが脳に入ったり出ていったりすることが示されました。そのようにしてノルアドレナリンの変動はノンレム睡眠時にポンプのようなグリンパティック系の働きを生み出します。覚醒しているときやレム睡眠時にはノルアドレナリンと血流量はあまり関連しませんでした。ノルアドレナリンがすべてではなくとも、グリンパティック系の流れの最も重要な原動力かもしれないとNedergaard氏は言っています2)。ヒトもマウスと同様に睡眠中にノルアドレナリンが周期的に放出されて血管が拍動するようであり、マウスと同様のポンプ機能がヒトの脳にもあるかもしれません。先立つ研究でゾルピデムは睡眠中の脳の活動や睡眠段階の長さを変えるらしいことが示されています。また、ゾルピデムに限らず睡眠薬はほぼどれもノルアドレナリンの生成を抑制します。そこで、Nedergaard氏らはマウス6匹にゾルピデムを投与してその影響を調べました3)。その結果、ゾルピデムを投与したマウスはプラセボ投与のマウスに比べて早く眠りについたものの、脳のCSFの流れが平均して30%ほど落ちていました。CSFの流れが滞ることは脳の洗浄が不調を来すことを意味しており、ノルアドレナリンを抑制する睡眠薬は脳が不要物を排出するのを妨げるかもしれません。今回の結果をもってゾルピデムの服用を止めるべきではありませんが、今ある睡眠薬が睡眠中の脳の毒素排出を実際に妨げるなら、そうしない新しい睡眠薬の開発が必要でしょう。さもなければ睡眠薬でむしろ睡眠が一層損なわれて脳が不調になってしまうかもしれません。別のチームが最近発表した研究で、睡眠中のマウスのノルアドレナリン量の周期的増減の幅が睡眠中の記憶増強に携わることも示されています5)。抗うつ薬のいくつかは睡眠薬とは反対に体内のノルアドレナリン量を上げる働きがあり、記憶に支障を来すかもしれません。睡眠中のノルアドレナリン量の波に影響しない薬の開発が必要だと研究者は言っています6)。参考1)Hauglund NL, et al. Cell. 2025 Jan 8. [Epub ahead of print] 2)Sleeping pills disrupt how the brain clears waste / NewScientist 3)Scientists uncover how the brain washes itself during sleep / Science4)Iliff JJ, et al. Sci Transl Med. 2012;4:147ra111.5)Kjaerby C, et al. Nat Neurosci. 2022;25:1059-1070.6)Stress transmitter wakes your brain more than 100 times a night – and it is perfectly normal / University of Copenhagen

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酸化Mg服用患者へのNSAIDs、相互作用を最小限に抑える消化管保護薬は?【うまくいく!処方提案プラクティス】第65回

 今回は、慢性腰痛に対するアセトアミノフェンをセレコキシブへ変更する際の消化管保護薬の選択について、既存の酸化マグネシウムとの相互作用を考慮して処方提案を行った事例を紹介します。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患脊柱管狭窄症、前立腺肥大症、認知症、骨粗鬆症在宅環境訪問診療を2週間に1回訪問看護毎週金曜日通所介護毎週水・土曜日処方内容1.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後2.ドネペジル錠5mg 1錠 分1 朝食後3.セレコキシブ100mg 2錠 分2 朝夕食後4.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後5.アルファカルシドール05μg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、腰部脊柱管狭窄症による慢性腰痛でアセトアミノフェンを服用していましたが、効果不十分のためセレコキシブ200mg/日への変更が検討されました。NSAIDsへの変更に伴い、高齢者は消化性潰瘍リスクが高い1)ため消化管保護薬の追加が必要と考えましたが、それに加えて酸化マグネシウムへの影響2)が懸念されました。酸化マグネシウムは胃内で水和・溶解することで薬効を発揮するため、胃内pHの上昇は本剤の溶解性と吸収に影響を与え、作用の減弱につながります。そのため、従来のPPIでは胃内pHの上昇により便秘を悪化させる可能性があります。そこで、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)であるボノプラザンの併用を提案することにしました。ボノプラザンは、従来のPPIと比較して、(1)24時間を通じて安定した胃酸抑制効果がある、(2)食事の影響を受けにくい、(3)酸化マグネシウムの溶解性への影響が比較的少ない、などの特徴があります2)。酸化マグネシウムとの相互作用が最小限であるということは、本症例のような高齢者の便秘管理において重要なポイントとなります。医師への提案と経過訪問診療に同行した際、医師と直接話をする機会を得ました。その場で、ボノプラザンの併用を提案しました。提案の際は、以下の点を具体的に説明しました2)。従来のPPIと異なる作用機序により、24時間を通じて安定した胃酸抑制効果が期待できる。食事の影響を受けにくく、服用タイミングの自由度が高い。従来のPPIと比較して酸化マグネシウムの溶解性への影響が少なく、便秘への影響を最小限に抑えられる可能性がある。医師からは、「高齢者の便秘管理は生活の質に直結する重要な問題であり、薬剤の相互作用を考慮した提案は非常に有用」と評価いただき、ボノプラザンが追加となりました。その後、患者さんは胃部不快感などの症状変化もなく、疼痛増悪もなく経過しています。このように、訪問診療という場面を生かした直接的なディスカッションにより、より深い薬学的介入が可能となった症例でした。なお、医療経済的考察として、P-CABを選択することで薬剤費が増加(約8倍)することが懸念されますが、便秘悪化による追加処方の回避、消化性潰瘍発症リスクの低減、服薬アドヒアランス向上による治療効果の安定化が期待できることから、潜在的なコスト削減効果があると思っています。1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 2020:BQ5-7.2)タケキャブ錠 インタビューフォーム

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片頭痛の引き金となる食べ物は?

 片頭痛は、激しい頭痛と一時的な運動および感覚障害を呈する神経疾患である。片頭痛の誘因には、発作に影響を及ぼす可能性のある内的および外的因子が関連している。片頭痛患者の中には、特定の食品摂取により発作が発現する患者も存在するが、アイスランドではこれらの関連は、これまで調査されていなかった。アイスランド・Landspitali National University HospitalのHadda Margret Haraldsdottir氏らは、アイスランドにおける片頭痛の症状と特定の食品摂取との関連を示す患者の割合を推定するため、本検討を実施した。Laeknabladid誌2024年12月号の報告。 アイスランドのFacebookグループ「Migreni」のメンバー(Facebook群)395人(回答率:Facebook群の19.6%)および神経内科医から治療を受けている患者(神経内科治療群)108人(回答率:神経内科治療群の65%)を対象に、電子アンケートを実施した。アンケートでは、特定の食品が片頭痛発作の引き金となる可能性があると思うかを調査した。アンケート回答の選択肢は、「全く/滅多にない」、「時々ある」、「頻繁にある」、「常にある」とした。その他の質問には、片頭痛の種類、薬物治療の有無、背景などを含めた。 主な結果は以下のとおり。・参加者466人中354人(76%)は、特定の食品摂取により片頭痛を引き起こすことが「頻繁にある」または「常にある」と回答した。・この割合は、Facebook群のほうが神経内科医治療群よりも高かった(78% vs.66%、p=0.007)。・最も一般的な食物関連の引き金は、赤ワインおよび食事を抜くこと(空腹)であり、50%以上で「頻繁にある」または「常にある」と回答した。・その他の食物関連因子として、白ワイン、リコリス、燻製肉などが報告され、参加者の20〜50%が回答した。 著者らは「これまで行われた他の研究と同様に、食物摂取は片頭痛の引き金となっている可能性が示唆された。しかし、これまでの研究では、食物関連因子としてリコリスの報告はなく、燻製肉はより一般的な因子であることが明らかとなった」と結論付けている。

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第245回 「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」まとまる、注目された「規制的手法」は大甘、「経済的インセンティブ」も実効性に疑問

浜松駅前、20年以上放置の4,600m2の更地に驚くこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年始年末は実家のある愛知に帰り、正月明けに大学時代の友人が住む浜松で新幹線を途中下車、一杯飲んで帰って来ました。浜松は数年に1度、この友人と飲むために訪れるのですが、年を追うごとにさびれて活気がなくなっている印象を受けます。今回、駅前を歩いて驚いたのは飲み屋街の近辺にある広大な更地です。今まで気が付かなかったのが不思議なくらいの異常な広さです。友人が言うには、20年以上前に老舗百貨店が潰れ、そこが更地になった後、さまざまな開発計画が持ち上がったもののその都度立ち消えとなり、土地活用の計画はまったく進んでいないとのことでした。調べてみるとその広さは実に4,600m2。仮に開発計画がまとまったとしても、最近の建築コスト増などで、今からの実現はほぼ不可能と言えるでしょう。東北地方や日本海側の町の不景気振り、凋落振りについてはこの連載でも度々書いてきましたが、太平洋側で新幹線沿線、しかも自動車やオートバイ、楽器などの製造でほかの地方都市より元気であるはずの浜松ですらこの有り様なのかと、ため息をつきながら帰りの新幹線に乗りました。さて、厚生労働省の2024年の最大の宿題でもあった「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」が年末にやっとまとまり、同省の医師偏在対策推進本部が 12月25日に公表しました。武見 敬三・前厚生労大臣が昨年4月のNHKの番組で「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことを我が国もやらなければならない段階に入ってきた」と突如発言したことをきっかけに検討がスタートし、「骨太方針2024」にも「24年末までに策定」と明記された今回の医師の偏在対策。8ヵ月かけてパズルを解くように厚労省がひねり出した「総合的な対策パッケージ」は、果たして実効性のあるものになったのでしょうか。医師確保計画の実効性の確保、地域の医療機関の支え合いの仕組みなど5本の柱、通常国会に医療法改正案提出の見込み「経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み、医師養成過程を通じた取り組みなどを総合的に組み合わせ、若手医師だけではなく、中堅・シニア世代を含む全ての世代の医師にアプローチするとともに、従来のへき地対策を超えた取り組みも実施する」という基本方針の下、策定された総合的な対策パッケージは次の5つの柱からなっています(図参照)。(1)医師確保計画の実効性の確保(2)地域の医療機関の支え合いの仕組み(3)地域偏在対策における経済的インセンティブ等(4)医師養成過程を通じた取組(5)診療科偏在の是正に向けた取組 医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ(概要)画像を拡大する※厚生労働省資料より今回の対策は、医療法に基づく「医療提供体制確保の基本方針」に位置付けるという方針も示され、今年の通常国会に医療法改正案が提出され、2026年度から実施される見込みです。そして、対策施行後5年を目処に効果を検証し、必要に応じ追加対策を講じる、としています。外来医師過多区域で都道府県の要請を受け入れずに開業した場合、診療報酬を下げる対応もまた、12月25日開かれた厚労省と財務省の大臣折衝では、「外来医師過多区域における要請等を受けた診療所に必要な対応を促すための負の動機付けとなる診療報酬上の対応とともに、その他の医師偏在対策の是正に資する実効性のある具体的な対応について更なる検討を深める」ことなども合意されました。「負の動機付けとなる診療報酬上の対応」とは穏やかではない表現ですが、具体的な方策については書かれていません。たとえば、外来医師過多区域で都道府県の要請を受け入れずに開業した場合、その医療機関だけ診療報酬単価を下げる、あるいは「外来医師過多区域減算」といったかたちで患者の診療報酬から一定点数減算する、などの対応が考えられます。いずれにせよ、「開業を止めたくなる」ような「負の動機付け」が、診療報酬の仕組みの中に導入されるわけです。外来医師過多区域での規制的手法は新規開業だけが対象さて、総合的なパッケージの中の具体策は先の図に示したように多岐に渡っていますが、まず注目されるのは、「(2)地域の医療機関の支え合いの仕組み」の中に盛り込まれた「2)外来医師過多区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等」です。都道府県の権限が今まで以上に強化され、都道府県は外来医師過多区域で新たに開業する医師に対し、診療内容を要請できるようになります。訪問診療や夜間・休日の救急対応など地域に足りない診療のほか、医師が不足する地域で土日の診療にあたることも対象となります。応じない場合、勧告や医療機関名の公表、補助金の不交付や前述したように診療報酬の引き下げも可能としました。また、要請に応じない場合などは、保険医療機関としての指定を通常の半分の3年とするなどの対策も盛り込まれました。武見前厚労相が強調していたいわゆる「規制的手法」です。しかし、既存の医療機関はそのままに、新規だけを対象としている点に対策の限界を感じます。また、訪問診療など足りない医療機能の提供を求めると言っても、そうした機能を”外部委託”するなどして、いくらでも抜け道はできそうです。財務省は元々、都道府県の要請に応じない場合は保険医療機関に指定しない措置を提案しており、規制的手法にしても11月の財政制度等審議会では「既存の保険医療機関も含めて需給調整をする仕組みの創設」が必要だと主張していました。今回の案を厚生労働省が日本医師会に配慮した結果と見る向きは多く、12月27日付の東京新聞は、「『医師の偏在』解消案を阻むラスボス・日本医師会」と題する記事で、「保険医療機関の不指定が見送られたのは『日医(日本医師会)の会長(松本吉郎)が最後まで首を縦に振らなかったからだ』」と書いています。既存の開業医のみならず、新規の開業医をも守ろうとする日医には、医師偏在を本気で解消しようという考えはさらさらないようです。重点医師偏在対策支援区域で承継・開業する診療所の施設整備への支援は税金の無駄遣い大甘の「規制的手法」に対して、「経済的インセンティブ」の内容はどうでしょうか。「(3)地域偏在対策における経済的インセンティブ等」の中に盛り込まれた「1)経済的インセンティブ」には、重点医師偏在対策支援区域において、承継・開業する診療所の施設整備・設備整備に対する支援、一定の医療機関に対する派遣される医師及び従事する医師への手当増額の支援、一定の医療機関に対する土日の代替医師確保等の医師の勤務・生活環境改善の支援、医療機関に医師を派遣する派遣元医療機関に対する支援などが盛り込まれました。「医師の手当増額」はまだ理解できますが、「重点医師偏在対策支援区域で承継・開業する診療所の施設整備への支援」はどうでしょう。一見すれば意味があるように見えますが、そもそも人口減で患者が少なく、医師不足になっている地域で今さら新規開業や承継開業を増やすのはナンセンスと言えます。10年、20年先にほぼ潰れることがわかっている医療機関への税金投入は、無駄遣い以外の何物でもありません。そもそも、地域で医療機関の再編を進める地域医療構想の考え方とも相容れません。5年目の見直しは必至だが、その時にはもういろんなことが手遅れになっているかもというわけで、今回の「総合的な対策パッケージ」、「規制的手法」にしても「経済的インセンティブ」にしても、全体的な詰めが甘く、付け焼き刃にもならない対策が多い印象です。パッケージには図にあるように、(4)医師養成過程を通じた取組、(5)診療科偏在の是正に向けた取組医師養成過程を通じた取組なども含まれ、それこそ総合対策という体裁になっていますが、5年、10年先にこれで医師偏在が解消されているかと言えば、なかなか難しいだろうというのが正直な感想です。日本経済新聞の12月30日の社説は「医師の偏在がこの対策で是正されるのか」のタイトルでこの問題を取り上げ、「担い手不足の地域で働く人材への経済支援の強化を打ち出す一方、医師が選択する勤務地や診療分野を制限する施策は弱い。2026年度からの実施で効果が出るのか不安が募る内容だ」と書いています。また、読売新聞の1月4日付の社説は「医師の偏在対策 実効性ある開業規制が要る」のタイトルで、「対策を議論した有識者会議では、医師が要請に応じない場合は保険医療機関への指定を許可しない、といった厳しい措置も一時検討されていた。だが、日本医師会が『職業選択の自由』などを理由に反発したため、見送られた。(中略)今回の規制も実効性に乏しかった場合には、さらなる措置に踏み切るべきだろう。誰もが一度は地方勤務を経験するような仕組みも含めて、多角的な対策が必要ではないか」と書いています。「総合的な対策パッケージ」はその効果を施行後5年目途に検証し、十分な効果が生じていない場合には、さらなる医師偏在対策を検討することになっています。個々の対策を見る限り、5年目(2031年)の見直しは必至と言えそうです。既存の医療機関も含めた本当の意味での「規制的手法」の導入は、それからになるかもしれませんが、その時には、開発の時期を完全に逸した浜松駅前の広大な更地のように、もういろいろなことが手遅れになっている気がしてなりません。

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第248回 GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連

GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とてんかん発作を生じにくくなることの関連が新たなメタ解析で示されました1)。たいてい60~65歳過ぎに発症する晩発性てんかん(late-onset epilepsy)を生じやすいことと糖尿病やその他いくつかのリスク要因との関連が、米国の4地域から募った45~64歳の中高年の長期観察試験で示されています2)。近年になって使われるようになったGLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を含む新しい血糖降下薬は多才で、糖尿病の治療効果に加えて神経保護や抗炎症作用も担うようです。たとえば血糖降下薬とパーキンソン病を生じ難くなることの関連が無作為化試験のメタ解析で示されており3)、血糖降下薬には神経変性を食い止める効果があるのかもしれません。米国FDAの有害事象データベースの解析では、血糖降下薬と多発性硬化症が生じ難くなることが関連しており4)、神経炎症を防ぐ作用も示唆されています。晩発性てんかんは神経変性と血管損傷の複合で生じると考えられています。ゆえに、神経変性を食い止めうるらしい血糖降下薬は発作やてんかんの発生に影響を及ぼしそうです。そこでインドのKasturba Medical CollegeのUdeept Sindhu氏らはこれまでの無作為化試験一揃いをメタ解析し、近ごろの血糖降下薬に発作やてんかんを防ぐ効果があるかどうかを調べました。GLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の27の無作為化試験に参加した成人20万例弱(19万7,910例)の記録が解析されました。血糖降下薬に割り振られた患者は半数強の10万2,939例で、残り半数弱(9万4,971例)はプラセボ投与群でした。有害事象として報告された発作やてんかんの発生率を比較したところ、血糖降下薬全体はプラセボに比べて24%低くて済んでいました。血糖降下薬の種類別で解析したところ、GLP-1 RAのみ有益で、GLP-1 RAは発作やてんかんの発生率がプラセボに比べて33%低いことが示されました(相対リスク:0.67、95%信頼区間:0.46~0.98、p=0.034)。発作とてんかんを区別して解析したところ、GLP-1 RAと発作の発生率の有意な低下は維持されました。しかし、てんかん発生率の比較では残念ながらGLP-1 RAとプラセボの差は有意ではありませんでした。試験の平均追跡期間は2.5年ほど(29.2ヵ月)であり、てんかんの比較で差がつかなかったことには試験期間が比較的短かったことが関与しているかもしれません。また、試験で報告されたてんかんがInternational League Against Epilepsy(ILAE)の基準に合致するかどうかも不明で、そのことも有意差に至らなかった理由の一端かもしれません。そのような不備はあったもの、新しい血糖降下薬が発作やてんかんを防ぎうることを今回の結果は示唆しており、さまざまな手法やより多様で大人数のデータベースを使ってのさらなる検討を促すだろうと著者は言っています1)。とくに、脳卒中患者などのてんかんが生じる恐れが大きい高齢者集団での検討を後押しするでしょう。参考1)Sindhu U, et al. Epilepsia Open. 2024;9:2528-2536.2)Johnson EL, et al. JAMA Neurol. 2018;75:1375-1382.3)Tang H, et al. Mov Disord Clin Pract. 2023;10:1659-1665.4)Shirani A, et al. Ther Adv Neurol Disord. 2024;17:17562864241276848.

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第247回 プラスチックの化学物質のたった1年間の影響で世界的に約60万例が死亡

プラスチックの化学物質のたった1年間の影響で世界的に約60万例が死亡世界の38ヵ国を調べたところ、プラスチックにたいてい含まれる3つの化学物質と関連する2015年のたった1年間の健康の害が1.5兆ドルの負担を強いました1,2)。言い換えると、それらの化学物質を使っていなければ1.5兆ドル分を浮かせられたことになります。メリーランド大学の経済学者Maureen Cropper氏らによる研究です。プラスチックは色付け、柔軟性、耐久性のために1万6,000を超える化学物質を使って製造されます。プラスチックから漏れ出した化学物質はそれらの普段使いによって多くの人に行き及んでいます。食品包装によく使われているプラスチック成分・ビスフェノールA(BPA)は内分泌を撹乱することで知られ、心血管疾患、糖尿病、生殖機能障害と関連します。食品加工、家庭用品、電気製品で使われるフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は心血管が原因の死亡や発育不調との関連が知られます。繊維、家具、その他家庭用品に添加される難燃剤・ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)は神経に差し障るようであり、妊娠中にPBDEを被った母親の子は認知発達を損ないます。プラスチックに含まれる化学物質の中で最もよく調べられているそれら3つと関連する健康の害に的を絞り、できるだけ多くの国におけるそれらの害の蔓延を調べることをCropper氏らは目指しました。Cropper氏らは情報がそろっていて最も万全な検討ができた2015年のデータを使って、38ヵ国でのBPA、DEHP、PBDEの健康や経済への影響を推定しました。その結果、BPAは540万例の虚血性心疾患、35万例弱の脳卒中と関連し、43万例強の死亡を引き起こしていました。それら死亡の経済的損失は1兆ドル弱です。DEHPは55~64歳の中高齢者の16万例強の死亡と関連し、4千億ドル弱の経済的損失をもたらしました。PBDEは2015年生まれの子の知能指数(IQ)1,170万点の損失をもたらし、800億ドルを超える生産性損失と関連しました。それらを総ずると、38ヵ国でBPAとDEHPを排除していたら約60万例が死なずに済みました。また、PBDEも含めて3つとも排除していたら1.5兆ドルを捻出できたことになります。米国、カナダ、欧州連合(EU)加盟国はすでにBPA、DEHP、PBDEを減らす手立てを始めており、成果も示唆されています。たとえば米国では製造業界の規制や自主的な制限のかいがあって、BPAに起因する心血管死が2003年から2015年に60%減じています。そのような前向きな取り組みの一方で、プラスチックに使われている7割超の化学物質は毒性が検査されないままです。プラスチックの化学物質の害から健康を守るには化学物質を扱う法律を根本から変える必要があると著者は言っており2)、それら化学物質の健康への影響を減らす国際的な合意が国連条約(United Nations Global Plastics Treaty)に基づいて確立されることを望んでいます3)。参考1)Cropper M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2412714121. 2)Health, Economic Costs of Exposure to 3 Chemicals in Plastic: $1.5T in a Year, Study Shows / University of Maryland3)These 3 plastic additives are lowering our IQ and killing us sooner, new study finds / MassLive.com

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糖尿病性腎症、コーヒーによるリスク減は摂取時間が重要

 糖尿病患者の食事内容、摂取タイミングに関する研究は多数あるが、コーヒー摂取量と摂取タイミングが糖尿病患者の慢性腎疾患(CKD)リスクと関連するかを検討した研究結果が報告された。中国・ハルビン医科大学のYiwei Tang氏らによる本研究は、Food Functon誌オンライン版2024年10月14日号に掲載された。 研究者らは、2003~18年のNHANES(全米国民健康栄養調査)から糖尿病患者8,564例を解析対象とした。24時間の食事調査を用いてコーヒーの摂取状況を評価し、摂取時間、または摂取の多い時間を4つの時間帯(1. 早朝から午前中[5:00~8:00]、2. 午前中から正午[8:00~12:00]、3. 正午から夕方[12:00~18:00]、4. 夕方から早朝[18:00~5:00])の4群に分類した。さらにコーヒー摂取量の多寡で3つに層別化した。CKDの定義は、eGFRが60mL/min/1.73m2未満、または尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が30mg/g以上とした。年齢、性別、BMI、生活習慣などの交絡因子を調整したロジスティック回帰モデルを用いて、コーヒー摂取量、摂取時間とCKDリスクの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・8,564例の糖尿病患者の平均年齢は61.9歳、男性4,480例(52.9%)だった。1人当たりのコーヒー摂取量の平均は2.83g/kgであり、CKD有病率は41.6%であった。・参加者のうちコーヒーを摂取しない人が3,331例(38.9%)、摂取者のうち1. 早朝から午前中に摂取する人が17.6%、2. 午前中から正午が27.6%、3. 正午から夕方が8.3%、4. 夕方から早朝が7.5%だった。・コーヒー摂取群は、非摂取群と比較してCKDの有病率が11%低かった(オッズ比[OR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.80~0.99)。・摂取のタイミングについては、1. 早朝から午前中に摂取する群は摂取しない群と比較してCKDのリスクが有意に低下した(OR:0.87、95%CI:0.77~0.98)。また、その中でもコーヒー摂取量が最も多い層のリスク低下が最も大きかった(OR:0.83、95%CI:0.70~0.98)。・一方で、3. 正午から夕方の摂取群では、コーヒー摂取量が最も多い層は最も少ない層と比較してCKDのリスクが上昇した(OR:1.35、95%CI:1.07~1.71)。4. 夕方から早朝の摂取群でも同様だった(OR:1.28、95%CI:1.01~1.64)。この結果はさまざまなサブタイプにおいても共通していた。 著者らは「研究結果から、コーヒー摂取のタイミングがCKDの予防に重要な役割を果たす可能性が示唆された。とくに、早朝から午前中に摂取することでリスクが低下する一方で、午後以降の大量摂取はリスクを増加させるという結果が得られた。この時間依存性の効果は、コーヒーに含まれるカフェインやその他の生理活性物質が代謝リズムやインスリン感受性に与える影響に関連している可能性がある。糖尿病患者の栄養指導においてコーヒー摂取のタイミングに関する知見を組み込むことで、CKD発症リスクを軽減する新たなアプローチが提案できる可能性がある」とした。

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2024年の消化器がん薬物療法の進歩を振り返る!【消化器がんインタビュー】第15回

1)【胃がん】HER2陽性胃がん1次治療、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブの上乗せ効果KEYNOTE-811試験はHER2陽性胃がんに対する1次治療として、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブ(PEMB)の上乗せ効果を検証するプラセボ使用無作為化第III相試験であり、奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)の結果より、欧米においてはすでに臨床導入されている。ESMO2024で全生存期間(OS)の最終解析結果が報告され(#1400O)、同時に論文発表もされた(Janjigian YY, et al. N Engl J Med. 2024;391:1360-1362.)。OSはPEMB群vs.プラセボ群で20.0ヵ月vs.16.8ヵ月と有意に延長し(ハザード比[HR]:0.80、p=0.0040)、PFSも10.0ヵ月vs.8.1ヵ月(HR:0.73)、ORRも72.6% vs.60.1%とPEMB群で良好であった。サブグループ解析では、PD-L1 CPS1以上の場合にはOSが20.1 vs.15.7ヵ月(HR:0.79)、PFSが10.9ヵ月vs.7.3ヵ月(HR:0.72)かつORRが73.2% vs.58.4%(奏効期間中央値:11.3ヵ月vs.9.5ヵ月)とより良好な結果であったのに対し、CPS1未満ではOSが18.2ヵ月vs.20.4ヵ月(HR:1.10)、PFSが9.5ヵ月vs.9.5ヵ月(HR:0.99)、ORRが69.2% vs.69.2%と、PEMBの上乗せ効果が弱まる傾向があった。一方、論文ではCPSのカットオフを10としたサブグループ解析も報告されており、CPS10以上ではOSが19.9ヵ月vs.17.1ヵ月(HR:0.83)、PFSが9.8ヵ月vs.7.8ヵ月(HR:0.74)に対し、CPS10未満ではOSが20.1ヵ月vs.16.5ヵ月(HR:0.83)、PFSが9.8ヵ月vs.7.8ヵ月(HR:0.75)であった。現在、欧米ではHER2陽性かつPD-L1がCPS1以上の症例に対してPEMBの併用が推奨されているが、本邦でどのような条件で保険承認されるのかが注目される。2)【大腸がん】切除不能な大腸がん肝転移に対する化学療法後の肝移植の可能性TransMet試験(NCT02597348)では、原発巣切除後、肝外病変がなく、化学療法を3ヵ月以上かつ3ライン以下投与して効果があった切除不能大腸がん肝転移の患者において、化学療法に続いて肝移植を行った場合と化学療法のみを行った場合が比較された(ASCO2024、#3500)。観察期間中央値は59ヵ月で、主要評価項目であるOSはITT解析でHR:0.37(95%信頼区間[CI]:0.21~0.65)、5年OS率は肝移植群57%、化学療法のみ群13%。per protocol解析でOSのHR:0.16(95%CI:0.07~0.33)、5年OS率は肝移植群73%、化学療法のみ群9%となっていた。切除不能な大腸がん肝転移は化学療法が標準治療だが、TransMet試験により、肝移植をすることで長期予後を得られる可能性が示唆された。日本においても先進医療が現在進行中であり、本邦からのエビデンス創出にも期待したい。3)【大腸がん】MSI-H/dMMRの再発転移大腸がん患者へのニボルマブ+イピリムマブCheckMate 8HW試験(NCT04008030)は、MSI-HまたはdMMRの再発または手術不能な進行大腸がん患者を対象に、ニボルマブ(Nivo)とイピリムマブ(Ipi)の併用投与とNivoの単剤投与、医師選択化学療法(mFOLFOX6またはFOLFILI±ベバシズマブまたはセツキシマブ)を比較した無作為化オープンラベル第III相試験である。医師選択化学療法群で増悪した患者は、Nivo+Ipi併用投与群へのクロスオーバーが認められていた。主要評価項目は、1次治療におけるNivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群のPFSの比較、およびすべての治療ラインにおけるNivo+Ipi併用投与群とNivo単剤投与群のPFSの比較である。ASCO-GI 2024(#LBA768)では、1次治療としてのNivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群のPFSが発表された。観察期間中央値24.3ヵ月でPFS中央値は、Nivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群で未達(95%CI:38.4~NE)vs.5.9ヵ月(95%CI:4.4~7.8)、HR:0.21(97.91%CI:0.13~0.35、p<0.0001)と有意にNivo+Ipi併用投与群で延長した。1年PFS率は、79% vs.21%、2年PFS率は72% vs.14%と大きな差がついた(Andre T, et al. N Engl J Med. 2024;391:2014-2026.)。近々、Nivo+Ipi併用投与群vs.Nivo単剤投与群における比較の結果報告も予定されており、同対象に対するIO-IO combinationとIO単剤療法による治療成績の違いも楽しみだ。4)【直腸がん】dMMR局所進行直腸がん患者に対するdostarlimabdMMR局所進行直腸腺がん患者に対するdostarlimabは、すでに6ヵ月のdostarlimab投与が完了した最初の14例すべてで臨床的な完全奏効(cCR)が得られ、ORRは100%だったことが報告されている(Cercek A, et al. N Engl J Med. 2022;386:2363-2376.)。ASCO2024においては、投与を完了した42例の結果が追加報告された(#LBA3512)。本試験は、dMMRの臨床病期II期/III期局所進行直腸腺がん患者を対象にdostarlimab 500mgを3週おきに6ヵ月投与し、その後に画像学的な評価および内視鏡評価を行い、cCRが得られた場合は4ヵ月ごとに観察、cCRが得られなかった場合は化学放射線療法や手術を受けるというデザインで実施された。主要評価項目はORR、病理学的完全奏効(pCR)率または12ヵ月後のcCR率であり、試験に参加した48例のうち、T3~T4の患者が8割、リンパ節転移陽性も8割強を占めたが、観察期間中央値17.9ヵ月で、dostarlimabの6ヵ月投与が完了した42例すべてでcCRが得られ、cCR率は100%であった。本邦においてもdMMR局所進行結腸がん患者に対するdostarlimabの臨床試験(AZUR-2試験)が開始されており、日本人に関する治療効果にも期待したい。本邦においてもdMMR局所進行結腸がん患者に対するdostarlimabの臨床試験(AZUR-2)が開始されており、日本人に関する治療効果にも期待したい。また、dMMR局所進行直腸がん患者に対しニボルマブによる術前治療を検討する医師主導治験であるVOLTAGE-2が症例登録中である(https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031220484)。対象患者を認めた際にはぜひ、治験実施施設へご紹介ください。5)【結腸がん】NICHE-2追加報告,局所進行dMMR結腸がんに対する術前Nivo+Ipi療法MSI-High(dMMR)の直腸がんについては、先のdostarlimabをはじめ、術前免疫療法が非常に奏効することが複数報告されている。一方、転移のあるdMMR結腸がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の有用性が報告されており、本邦でも切除不能dMMR結腸がんの1次治療の標準治療はPEMBであり、免疫チェックポイント阻害薬未投与例には2次治療以降でNivo+Ipiも選択可能である。NICHE-2試験は局所進行dMMR結腸がんに対する術前治療としてのNivo+Ipi療法の有効性を探索する単群第II相試験であり、1コース目にNivo+Ipi療法を行い、2コース目にNivo単剤療法を行った後、手術が実施された。主要評価項目は安全性と3年無病生存(DFS)率である。すでに高い病理学的奏効率と安全性は報告されていたが、ESMO2024で3年無病生存(DFS)率とctDNAのデータが報告された(#LBA24)。115例が登録され、T4が65%でT4bが29%、リンパ節転移ありが67%と局所進行例が登録されていた。pCR率は68%、3年DFS率は100%と非常に良好な治療効果が示唆された。ctDNAは治療前の段階では92%で陽性であったが、1コース後に45%が陰性となり、2コース後には83%が陰性となった。術後のctDNAを用いたMRDの探索では、全例がctDNA陰性であった(Chalabi M, et al. N Engl J Med. 2024;390:1949-1958.)。本試験により、局所進行dMMR結腸がんに対するNivo+Ipiは非常に魅力的な治療選択肢であることが示唆された。本治療は2コースで術前治療が終わり、手術まで6週と定義されており、短期間で良好な治療効果を認めている。ESMO2024では、同様の局所進行dMMR結腸がんに対してPEMBの有効性を探索したIMHOTEP試験や、Nivo+relatlimab(抗LAG-3抗体)の併用療法の有効性を探索したNICHE-3試験も報告があった。局所進行MSI-H/dMMR結腸がんの術前治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性は有望な治療法だが、至適投与期間や単剤/併用療法などについては、今後の検討が待たれる。6)【大腸がん】CodeBreaK 300最終解析KRAS G12C変異陽性の進行大腸がん患者に対する新規分子標的薬combinationCodeBreaK 300試験は、フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチンを含む1ライン以上の治療歴があるKRAS G12C変異陽性の進行大腸がん患者を対象に、High-doseソトラシブ(960mg)とパニツムマブを投与する群、Low-doseソトラシブ(240mg)とパニツムマブを投与する群、医師選択治療群(トリフルリジン・チピラシルとレゴラフェニブから選択)が比較された。主要評価項目は盲検下独立中央判定によるRECISTv1.1に基づくPFSであり、ASCO2024における最終解析でKRAS G12C阻害薬ソトラシブと抗EGFR抗体パニツムマブの併用は、標準的な化学療法よりもOSを延長する傾向があることが報告された(#LBA3510)。High-doseソトラシブ群の医師選択治療群に対するOSのHRは0.70(95%CI:0.41~1.18、p=0.20)、Low-doseソトラシブ群の医師選択治療群に対するOSは0.83(95%CI:0.49~1.39、p=0.50)と、医師選択治療群では後治療として3割の患者がKRAS G12C阻害薬へクロスオーバーしていたにもかかわらず、高用量群で30%のリダクションを認めた。ORRもHigh-doseソトラシブ群で30%(奏効期間10.1ヵ月)、Low-doseソトラシブ群が8%、それに対して医師選択治療群は2%であり、高用量では腫瘍縮小効果が期待された。本邦においても比較的早い時期に臨床実装されることが見込まれており、新たな治療選択肢として期待される。7)【膵消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)】NETTER-2試験(NCT03972488)は、高分化型(G2およびG3)の膵消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)患者において、1次治療として、従来の標準治療である高用量オクトレオチド長時間作用型(LAR)と「ルテチウムオキソドトレオチド:ルタテラ(177Lu)+低用量オクトレオチドLAR」併用療法とを比較した非盲検無作為化第III相試験である。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、病勢コントロール率、奏効期間、有害事象(AE)など。対象患者はソマトスタチン受容体陽性(SSTR+)かつG2およびG3のGEP-NETと診断された患者であった。両群でバランスは取れており、原発部位は膵臓(55%)、小腸(30%)、直腸(5%)、胃(4%)、その他(7%)であった。PFS中央値はルタテラ群と対照群でそれぞれ22.8ヵ月vs.8.5ヵ月、HR:0.28(95%CI:0.18~0.42、p<0.0001)とルタテラ群で有意に延長を認め、客観的奏効率は43% vs.9.3%(p<0.0001)とルタテラ群で良好な腫瘍縮小効果を認めた。ルタテラ群と対照群との比較において最もよく見られた(20%以上)全GradeのAEは、悪心(27.2% vs.17.8%)、下痢(25.9% vs.34.2%)、腹痛(17.7% vs.27.4%)であり、Grade3以上のAE(5%以上)はリンパ球数の減少(5.4% vs.0%)であった。進行期GEP-NET(G2/G3)患者における新たな第1選択薬として期待される結果であり、今後、OSおよび長期安全性を含む副次評価項目が報告予定である。

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第243回 レプリコンワクチンのデマが現場にも忍び寄る?あるアンケートで明らかに

通称レプリコンワクチンと呼ばれるMeiji Seikaファルマの新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン「コスタイベ」に関して、同社は12月25日、立憲民主党の衆議院議員・原口 一博氏を提訴する方針を明らかにした。この件についての詳細は、後日に改めて述べるが、近年SNS上では一部のワクチン懐疑論者が否定的な情報を拡散しており、その影響が実際に現れている別の事例を目にした。福祉施設入所者の接種状況とその理由12月10日に開催された東京都医師会の定例会見で、東京都老人保健施設協会が行ったインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの接種状況に関する緊急調査の結果1)が報告された。調査は都内の介護老人保健施設184施設を対象に行われ、11月28日に1回目、12月9日に2回目が実施され、回答率はそれぞれ49.5%、46.3%だった。それによると、入所者を対象にインフルエンザワクチンを接種した(予定も含む)施設は99%にのぼったのに対し、新型コロナワクチンに関しては81%に留まった。職員を対象とすると、インフルエンザワクチンは82%、新型コロナワクチンは40%とさらに大きな差が開いた。また、2回目の調査では入所者や職員のワクチン接種希望割合を聴取しており、インフルエンザワクチンでは、入所者の希望割合が「7割以上」だった施設は最多の49%、次いで「6割」が25%なのに対し、新型コロナワクチンでは最多が「3割未満」の31%、次いで「3割」が23%だった。ここでもインフルエンザワクチンに比べ、新型コロナワクチンでは明らかに接種に消極的な実態が浮かび上がった。入所者へ新型コロナワクチン接種を実施しない施設に、施設として実施しない理由を尋ねた結果、「体制不足」が35%、「安全性が心配」が15%、「その他」が50%だった。理由の自由記述では、「ワクチン費用が高い、補助金がない」「施設長(医師)の判断」「家族より心配との声」「コスト面と希望者が少ない」「インフルエンザ接種を優先、コロナは1月以降の実施予定」「独立型老健施設での接種は実費になる」「区からの接種券が使用できないので、家族に他の医療機関で接種してもらっている」「外出した際に病院・クリニックで接種してもらっている」「入所前に接種している」などが挙げられた。自由記述を概観すると、施設側としてはやはり体制の問題、とりわけ自治体発行の接種券が施設での集団接種の場合は使いにくいという事情が大きく影響しているとみられる。同時に見逃せないのは、「家族より心配との声」に代表されるような安全性への過度な不安が15%もあることだ。一方、新型コロナワクチン接種を実施する施設で、入所者が接種を希望しない理由を尋ねた結果、「安全性が心配」が33%、「費用負担」が30%、「その他」が37%と、安全性の問題がやや多かった。これに関連する自由記述は「家族の意向」「以前接種後(に)体調を悪くした」「『何回も打ったからいい』という方もいて以前より危機感が薄くなった様子」「使用ワクチンを『コスタイベ』と案内したところネット情報等で不安視し見合わせた家族が多数あり」「必要性を感じない」「罹患した方や、3~4回接種後から実施していない方などが多い印象」「効果が懐疑的という声あり」「自治体とのやり取りの手間」「外部と接触がないので、もう必要ないと思う」「施設で実施すると実費になり高額になるため」「流行していないから」だった。危機感が薄れているとともに、安全性について懐疑的あるいは恐怖を感じる人が少なくない印象だ。しかも、ここでまさに明らかになったように「コスタイベ」を不安視する家族の声で接種を希望しない入所者がいる現実は、外から眺めている私たちが思っていた以上に深刻と言えそうだ。また、職員に対するワクチン接種実施状況については、インフルエンザワクチンでは「原則として全員」が51%、「希望者のみ」が47%、「実施しない」が2%に対し、新型コロナワクチンでは「実施しない」が52%、「希望者のみ」が48%と、やはりここでもインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの差が明確になっている。新型コロナワクチン接種に対する施設側の意見、要望に関する自由記述もあり、その内容を以下にすべて列挙する。「コロナワクチンは無料と有料があり混乱」「できれば高齢者は無料にしてほしい」「65歳未満のコロナワクチンの費用が高すぎる」「65歳未満のコロナワクチンが今回から全額自己負担となり、高額であることから見合わせる職員が大部分。インフルエンザは年齢問わず自己負担額が低いため施設が職員へワクチン接種をすすめ易い」「各市町村によって手続きや費用が違って事務が煩雑、国に一本化してほしい」「コロナワクチンは高額のため希望しない職員が多い」「5類となり、施設負担(手技含む)特に経済的な問題が発生しており、今後、施設実施できない方向」「自治体に確認する手間がかかる為スムーズにいかない」「集団生活の場であり、より多くの方が接種することが望ましいかと思うが、やはり希望しない方に強制する必要もないと考えている」「施設職員に対してコロナワクチンの助成をして欲しい」「2種混合ワクチンがあると良い。高齢者施設では医療関連の手間をかけられない」このように見てみると、施設側やその職員が新型コロナワクチン接種に積極的とは言えない現実については、定期接種対象の高齢者でも一部費用負担が発生してこれが自治体によって異なること、自立型老健施設が主体の集団接種は施設側に費用負担が発生すること、65歳未満で基礎疾患がない職員などの場合は1回1万5,000円前後の高額な接種費用が全額自己負担など、制度や経済的な問題が主な理由と言える。ただ、接種対象の高齢者側が接種を希望しない理由では、新型コロナワクチンの安全性に関する、有体に言えばデマの“汚染”がすでに見過ごせない程度、浸透していることもわかる。もっとも一般論として考えると(アンコンシャスバイアスかもしれないが)、老健に入所している高齢者でSNS上のデマを直接目にしている人は少数派ではないだろうか。実際、ある程度限られた情報ではあるものの、自由記述を見ると安全性への懸念の表明元は入所者からよりも家族からのほうが多そうである。このようにしてみると、コスタイベを含む新型コロナのmRNAワクチンに関するデマは、もはやエコーチェンバーの枠を超え、現場にも迫りつつあるのだと改めて実感している。ちなみに今回、私の連載のご意見・ご質問欄を通じて介護職の方から「レプリコンワクチンはファイザー、モデルナのmRNAワクチンと同程度の安全性をもつと考えていいのでしょうか?」との問い合わせを受けたが、これに対する私の答えは「国内第III相試験の結果を見る限り、同程度と言えます。私は次回の新型コロナワクチン接種ではコスタイベを選択するつもりです」となる。参考1)東京都医師会定期記者会見(令和6年12月10日):令和6年秋冬の新型コロナワクチン定期接種の状況-東京都老人保健施設協会緊急調査結果から-

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タクシーと救急車の運転手、アルツハイマー病による死亡率低い/BMJ

 タクシーと救急車の運転手は、アルツハイマー病による死亡率がすべての職業の中で最も低いことが、米国・ハーバード医学大学院・ブリガム&ウィメンズ病院のVishal R. Patel氏らによる住民ベースの横断研究で示された。アルツハイマー病で最初に萎縮がみられる脳領域の1つに海馬がある。海馬は空間記憶とナビゲーションに使用される脳領域で、研究グループは、空間処理とナビゲーション処理を頻繁に必要とする職業のタクシーと救急車の運転手について、アルツハイマー病による死亡率を他職業と比較し分析した。先行研究で、タクシー運転手は一般集団と比較して、海馬の機能が強化されていることが示されていた。BMJ誌2024年12月17日号クリスマス特集号「Death is Just Around the Corner」掲載の報告。タクシーと救急車の運転手を含む443職業の、アルツハイマー病による死亡率を評価 研究グループは、米国住民ベースの全死亡レジストリである国家人口動態統計システム(National Vital Statistics System、NVSS)から、2020年1月1日~2022年12月31日のデータ(死亡時年齢18歳以上)を入手し分析した。データは死亡証明書に基づくもので、ICD-10に基づく死因、死亡時年齢、人種、民族、学歴などのほか、職業に関するデータが含まれている。職業欄は、以前は記述式だったが2020年にコード化され、2020~22年には米国人口の約98%をカバーしていた。 分析対象データセットには、443の職業が含まれていた。そのうち、タクシー運転手と救急車運転手および残り441の各職業の、アルツハイマー病による死亡率を調べ、死亡時年齢およびその他の社会人口学的要因で補正し評価した。タクシーと救急車の運転手の死亡率、全職業の中で最も低い 死者897万2,221例の職業情報が入手でき、そのうち死因としてアルツハイマー病が記載されていたのは3.88%(34万8,328例)であった。 アルツハイマー病による死亡率は、タクシー運転手が1.03%(171/1万6,658例)、救急車運転手は0.74%(10/1,348例)であった。死亡時年齢等で補正後、救急車運転手は0.91%(95%信頼区間[CI]:0.35~1.48)、タクシー運転手は1.03%(0.87~1.18)で、全職業の中で最も低かった。一般集団の死亡率は1.69%(95%CI:1.66~1.71)だった(タクシー運転手、救急車運転手との比較ではいずれもp<0.001)。また全職業において、アルツハイマー病による死亡の補正後オッズ比は、タクシー運転手と救急車運転手で最も低かった(最高責任者[chief executive]を参照群として比較した両職種統合のオッズ比:0.56[95%CI:0.48~0.65])。 こうした傾向は、リアルタイムな空間処理およびナビゲーション処理の必要度が低い他の輸送関連職(バス運転手、船長、航空機パイロット)ではみられず、また他の認知症タイプ(血管性、不特定)でもみられなかった。さらに、アルツハイマー病を主因とした場合と一因とした場合でも、結果は一貫していた。 著者は、「得られた所見は、タクシーや救急車の運転手が行っているようなナビゲーション処理タスクや空間処理タスクが、アルツハイマー病に対する何らかの保護効果に関与する可能性を提示するものであった」とまとめている。

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順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座【大学医局紹介~がん診療編】

九冨 五郎 氏(主任教授)佐々木 律子 氏(助教)板倉 萌 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴順天堂大学乳腺腫瘍学講座は、日本でも数少ない乳腺外科と乳腺内科で構成されている講座です。乳腺診療、とくに乳がん治療においては外科手術と薬物療法は2大治療ツールとされていますが、外科と内科が講座内で連携を取りながら日々診療・研究・教育に取り組んでいます。順天堂大学附属順天堂医院においては、2006年に大学病院では初めて乳腺センターが設立され、センターの診療において中心的な役割を果たしています。順天堂医院の乳腺センターはほかの関連診療科や診療部門と密に連携を取りながら、Patient Firstの精神で1人ひとりの患者さんに寄り添いながら最高の医療を届けられるように日々努力を続けています。当院における乳腺センターの取り組みは日本だけではなく海外からも評価を受け、毎年数多くの見学者を受け入れております。外科治療においては、最先端の機器を用いて新しい治療に取り組んでいます。縮小化にシフトしている外科治療の中でも手術で救える症例は確固たる技術で助けるというコンセプトで皆が精進しています。薬物療法に関しては、最新の臨床試験に数多く参加して最先端の治療を行っています。薬剤選択や薬剤の副作用マネージメントのみならず、再発症例においてはトータルマネージメント(治療、ACP、緩和等)を念頭に診療にあたっています。医局カンファレンス・外来カンファレンスの様子講座の研修先としての魅力 (1)豊富な症例数手術件数は本院で約500件、分院 (練馬・浦安・静岡)と併せて1,000件を超えています。年間の本院での化学療法実施数は3,864件(2023年度)で、治験も多数実施しています。(2)他科・多職種連携が充実診断から治療まで、放射線診断・治療医、病理医、形成外科医 (自家組織および人工乳房再建術)、臨床遺伝専門医 (遺伝カウンセリング外来併設)、腫瘍内科医(がん遺伝子パネル検査)、産科医 (妊孕性温存はリプロダクションセンターと連携)、認定看護師、乳腺科専属超音波技師、がん治療認定薬剤師とチーム医療を実践しています。(3)指導層の充実、各分野のエキスパートによる指導外科分野以外に腫瘍内科と遺伝診療の指導医が在籍。大学院では、幅広い基礎・臨床講座、連携研究施設との共同研究が可能です。医局の雰囲気指導医との距離が近く、相談しやすい雰囲気が特徴です。日常診療に加えて、学会発表や論文執筆の機会も積極的に提供されており、充実したサポート体制が整っています。また、最新の治療情報の共有も活発です。さらに、医師としての成長だけではなく、プライベートとの両立も重視しています。性別や年齢を問わず、ワークライフバランスのとれた勤務環境は、サステナブルな医局運営に繋がると考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ~当科で乳腺診療医の基礎を築きませんか~乳腺診療医の魅力は多岐にわたりますが、まず強調したいことは、その社会的ニーズの高さです。乳がんは女性が最も罹患する悪性腫瘍で、年々患者数が増加している一方で、乳腺専門医は全国的に不足しています。ニーズがあるため、乳がん治療は日々進化しています。個々の患者にとって最適な治療を考え、寄り添う新たな仲間をお待ちしています。また、乳腺診療は医師自身のライフステージに合わせて柔軟に関われる点も大きな魅力です。医師のキャリアは、専門医取得を目指す最初の10年が注目されがちですが、実際には定年まで40年近い長い道のりがあります。乳腺診療は、その期間を通じて、臨床や研究など多様な形で関わる可能性を広げられる分野です。その第一歩をふみだす環境として最適な当医局で、研鑽を積み、ぜひ一緒に乳腺診療の未来を築きましょう。気軽に見学へお越しください!これまでの経歴順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属静岡病院で初期研修を2年間行いました。初期研修開始時には内科志望でしたが、ローテーションで外科を回った際に手術の楽しさを知り、外科系の診療科へ興味が出てきました。診断から手術、薬物治療、緩和治療と一貫して患者さんに関わることができる点や、女性医師の需要が高い科である点に魅力を感じ、乳腺科を志望しました。同医局を選んだ理由順天堂大学に入局を決めた理由としては、母校であることに加え、手術件数が多く外科専門医や乳腺専門医を取得するための十分な症例数があること、大学病院として治験や研究に積極的であることが魅力的でした。私は同大学出身ですが、他大学出身者の医局員も多く、学閥もなく和気藹々とした雰囲気がある点も当医局の強みと感じています。現在学んでいること入局2年目までは、初期研修先である順天堂大学医学部附属静岡病院の消化器外科で外科の基礎を学ばせていただき、3年目から乳腺に主軸をおいた診療に携わっています。症例の相談もしやすい環境にあり、外来診療や手術、病棟管理を通じて上級医の先生方のご指導のもと、研鑽を積ませていただいています。毎年の学会発表や論文執筆も熱心にご指導いただきました。現在は大学院に入学し、研究に励む日々を送っています。乳腺科にご興味がある方はぜひ見学にいらしてください!順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座住所〒113-8431 東京都文京区本郷3-1-3問い合わせ先rt-sasaki@juntendo.ac.jp(医局長 佐々木 律子)breast-office@juntendo.ac.jp(医局秘書)医局ホームページ順天堂大学医学部乳腺腫瘍学講座【乳腺腫瘍学】順天堂大学医学部附属順天堂医院乳腺科(乳腺センター)専門医・認定医取得実績のある学会日本外科学会日本乳癌学会日本癌治療学会日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会日本人類遺伝学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)外科および乳腺専門医取得に必要な症例が十分経験できる(2)乳がんの診断から外科・薬物・放射線療法、そして緩和ケアまで網羅的に経験を積める(3)乳がん診療を提供するさまざまな領域のエキスパートが在籍しており、最新の情報を入手することができる詳細はこちら順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床研修センター 専門研修プログラム

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第244回  医学部ダブル合格者の進学先から見えてくる、親の経済的事情と私立医大序列の微妙な変化

「週刊東洋経済」、恒例の医師特集で医学部の序列の変化を報じるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いよいよ年末です。大学受験を控える子どもの親御さんは、正月どころではないでしょうね。そんな中、秋篠宮家の長男、悠仁さまが筑波大学生命環境学群の生物学類に早々と合格されたとの報道がありました。推薦入試での合格です。国立大に推薦合格、ということでいろんな憶測、批判もあるようですが、今の時代、皇位継承順2位の男性皇族が「生物学を学ぶ」というのは喜ばしく、とても好ましいことではないでしょうか。私の友人(大学の生物学科同窓)が某動物園に勤めていた頃、まだ幼い悠仁さまがお母さま(紀子さまですね)とよく開園時間外の動物園を訪れ、さまざまな動物や昆虫について個人講義を受けておられたそうです。今の”専門”はトンボということですが、根っからの生き物好きのようです。淡水域に生息するトンボほど環境変化に弱い昆虫はいません。動物生態学をかじった私としては、日本の環境保全にもつながるような研究に取り組まれることを願ってやみません。ということで、今回は大学受験について書いてみたいと思います。「週刊東洋経済」11月30日号の第1特集のタイトルは「医者・医学部崖っぷち」で、毎年恒例の医師特集でした。働き方改革が診療現場に与えている影響、医師偏在の現状、美容医療の実情などを多角的に取材していてなかなか読ませます。大学医学部関連では、「医学部の序列に変化 歴史から見るヒエラルキーと『ダブル合格者』の進学先」というタイトルの記事が興味深く参考になりました。順天堂大と日本医大との組み合わせでは順天堂大57.1%この記事では、大学医学部にダブル合格したらどちらに進むかについて、東進ハイスクールの最新データ(過去5年)を紹介しています。それによれば、慶應大と国公立医学部のダブル合格者では、国公立大が東大・京大だった場合は全員国立大を選択。阪大、東京医科歯科大(現・東京科学大)でも国立大が優勢(阪大進学83.3%、東京医科歯科大進学78.6%)。これが千葉大になると同大が55.6%と、慶應とほぼイーブンとなっていました。一昔前なら、千葉大と慶應大なら迷わず慶應大を選択する人が大半だったのではと思いますが、親の経済的事情なども影響していると考えられます。私大同士のダブル合格はどうでしょうか。本連載の前々回、「第242回 病院経営者には人ごとでない順天堂大の埼玉新病院建設断念、『コロナ禍前に建て替えをしていない病院はもう建て替え不可能、落ちこぼれていくだけ』と某コンサルタント」でも取り上げた順天堂大と、ほかの私大(関東圏で慶應大を除く、以下同)とのダブル合格については、対慈恵医大では慈恵医大が72.2%、対日本医大では順天堂大が57.1%という結果でした。そして、その他の私大とのダブル合格については順天堂大が100%という結果でした。順大医学部は学費下げの戦略などが奏功し、近年偏差値も上昇、私立医大の新御三家(慶應大、慈恵医大、順大)と呼ばれていますが、それが数字にも表れたというわけです(元々の御三家は慶應大、慈恵医大、日本医大)。なお、慈恵医大とほかの私大とのダブル合格では、対東京医大では慈恵医大が91.7%、対日本医大では慈恵医大94.7%、その他の私大では慈恵医大100%と圧倒的な強さでした。早稲田大、慶應大のダブル合格者の進学率では早稲田大の追い上げ顕著医学部以外の大学のトレンドも簡単に見ておきましょう。こちらは、「週刊ダイヤモンド」11月16日号の特集「大学格差」の記事が参考になります。ここにも「W合格者に選ばれる大学」という記事があります。同記事は、「難関私学である『早慶上理』における『ダブル合格者の進学率』の勝負で、これまでは慶應義塾大学が他の3大学に全勝してきた。しかし2025年度入試は、早稲田大学全勝にひっくり返る可能性が高い」として、ここ7年あまりのあいだに早稲田大が急速に追い上げている実態をレポートしています。同記事も東進ハイスクールのデータを基にしていますが、それによれば、早稲田大と慶應大のダブル合格者の進学率は、2018年度は早稲田大28.5%、慶應大71.5%だったものが、2024年度は早稲田大48.4%、慶応大51.6%とほぼイーブンになってきているとのことです。興味深いのは、主要な同系統学部8学部の比較です。2018年度は慶應大が全勝していたのに、2024年度は早稲田大が7勝1敗となっているのです。同系統学部の比較とは「早大・政治経済vs.慶大・法」、「早大・政治経済vs.慶大・経済」、「早大・文vs.慶大・文」、「早大・基幹理工vs.慶大・理工」といった組み合わせでの比較です。2024年に早稲田が1敗しているのは「法学部」で、「慶大・法」が64.5%でした。ちなみに、早稲田大の看板学部である「政治経済」は、2018年度は「慶大・法」に対して28.6%、「慶大・経済」に対して44.4%と負けていましたが、2024年度は各55.6%、85.7%と勝っています。この大きな変化の理由について同記事は、「早稲田大は21年度に看板学部である政治経済学部の入試科目で数学を必須にした。また、同学部を含む3学部で大学共通テストを必須化。私立文系に特化した受験生から敬遠され、志願者数は減少した。その分、受験生に占める早稲田本命層や国公立大学本命層の割合が増え、早慶W合格者に選ばれやすくなったのだろう」と分析しています。数十年先には地方の国立大医学部の統廃合や、私立医大の廃校も現実味この分析が正しいとすれば、教育体制や研究力、就職実績といった大学の実力の違いによって受験生が進学先を選択しているというより、そもそも早稲田に入って欲しい学生を受験科目等によって大学側がセレクションしているということになります。それも、文系なのに数学を必須にしたり、大学共通テストを必須化したりと、敢えて入試を難しくすることで……。それはそれで相当な見識であり、高度な経営判断と言えるでしょう。今後、少子化による人口減、受験生減が避けられない中、より優秀な学生を受け入れて大学のレベルを上げていくことでしか、大学は生き残っていけないからです。それに対し、大学の医学部の多くは早稲田大のように10年先、20年先のことを考えて学生を獲得しようとしているのか、甚だ疑問です。地域の医師確保等を名目に、医学部の定員は依然増加を続けています。さらに相変わらずの医学部人気。放っておいても受験生は集まるので、入試をことさら工夫する動機は今のところ希薄でしょう。しかし、このような状況がいつまでも続くわけがありません。数十年先には地方の国立大医学部の統廃合や、私立医大の廃校も現実味を帯びてくるでしょう。早稲田大と慶應大というお互いしのぎを削るトップ私学の経営に、国公立、私立含め、大学医学部が学ぶ点は多いと思います。

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オンコタイプDX再発スコア≧31のHR+/HER2ー乳がん、アントラサイクリンによるベネフィット得られる可能性(TAILORx)/SABCS2024

 21遺伝子アッセイ(Oncotype DX)による再発スコア(RS)≧31の、リンパ節転移のないホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳がん患者における術後療法として、タキサン+シクロホスファミド(TC)療法と比較したタキサン+アントラサイクリン/シクロホスファミド(T-AC)療法の5年無遠隔再発期間(DRFI)および無遠隔再発生存期間(DRFS)における有意なベネフィットが確認された。とくに明確にこのベネフィットが認められたのは、腫瘍径>2cmの患者であった。TAILORx試験の事後解析結果を、米国・シカゴ大学のNan Chen氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で報告した。 TAILORx試験では、Oncotype DXによるRSに基づき低リスク(RS:0〜10)、中間リスク(同:11〜25)、高リスク(同:26〜100)に分類している。今回の解析では中~高リスク患者のうち、T-ACまたはTCによる化学療法を受けた患者のデータが分析された。中間リスクの患者は内分泌療法のみまたは内分泌療法+医師選択による化学療法のいずれかに無作為に割り付けられ、高リスクの患者は内分泌療法+医師選択による化学療法を受けていた。 年齢、RS、腫瘍グレード、腫瘍サイズ、エストロゲン/プロゲステロン受容体の状態による調整ハザード比(aHR)を使用して、T-AC群とTC群におけるDRFI率、DRFS率、および全生存期間(OS)を比較。結果はRS<31または≧31で層別化された。 主な結果は以下のとおり。・本解析の適格条件を満たした2,549例のうち、438例がT-AC療法、2,111例がTC療法を受けていた。・患者特性は年齢中央値がT-AC群53.0歳vs.TC群55.1歳、閉経後が58.4% vs.64.4%、RS 11〜25が44.7% vs.73.6%/26〜30が15.8% vs.11.9%/31〜100が39.5% vs.14.5%であった。・T-AC療法群でのレジメンは、dose-dense AC-T療法が42.5%、標準的AC-T療法が25.1%、TAC療法が13.0%、その他のアントラサイクリン/タキサンレジメンが19.4%であった。・5年DRFI率は、RS<31の患者ではT-AC群97.0% vs.TC群97.6%(aHR:1.24、p=0.484)、RS≧31の患者では96.1% vs.91.0%(aHR:0.32、p=0.009)となり、RS≧31の患者においてT-AC群で有意に改善した。・RS≧31の患者における5年DRFS率はT-AC群95.4% vs.TC群89.8%とT-AC群で有意に改善し(aHR:0.47、p=0.031)、5年OS率は97.3% vs.93.5%とT-AC群で良好な傾向がみられた(aHR:0.546、p=0.167)。・RS≧31の患者における5年DRFI率およびDRFS率のサブグループ解析の結果、DRFI率はすべてのサブグループにおいてT-AC群で良好な傾向がみられたが、DRFS率については腫瘍径>2cmではT-AC群で良好(HR:0.23、95%信頼区間[CI]:0.08~0.69)であった一方、≦2cmではTC群で良好な傾向がみられた(HR:1.32、95%CI:0.51~3.43)。・RS≧31の患者において、閉経状態ごとに5年DRFI率をみると、閉経前の患者でT-AC群96.9% vs.TC群84.4%(aHR:0.20、p=0.032)、閉経後の患者で95.6% vs.93.4%(aHR:0.25、p=0.028)であり、閉経状態によらずT-AC群で良好な傾向がみられた。・スプライン回帰モデルによりTC療法と比較したT-AC療法のDRFIへの影響は、RS 20ではaHR:0.96(95%CI:0.53~1.75)、RS 30ではaHR:0.79(95%CI:0.45~1.39)、RS 40ではaHR:0.60(95%CI:0.34~1.05)、RS 50ではaHR:0.45(95%CI:0.21~0.96)と推定され、RSの増加に伴いアントラサイクリンによるベネフィットが増すことが示唆された。 Chen氏は、事後解析であるため今回のエンドポイントを評価するために設計されていないことなどを限界として挙げたうえで、多遺伝子アッセイで高リスク、リンパ節転移陰性のHR陽性HER2陰性乳がん患者では、アントラサイクリンの使用が検討されるべきではないかとしている。

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敷地内薬局の賃料はいくら?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第142回

医療機関の敷地内にある保険薬局、いわゆる敷地内薬局が2024年度の調剤報酬でさらに厳しい立場になったことは皆さんご存じかと思います。敷地内薬局は集患に有利であるものの、医療機関に払う土地・建物代は高額と想像できますが、賃料はいくらくらいなのでしょうか? 厚生労働省による調査の結果が公表されました。厚生労働省は16日の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で、病院の敷地内薬局に関する調査結果を報告した。誘致元の医療機関に支払っている月額賃料に関しては37薬局と限定的な回答数だったものの、最も多かった回答は「100万~200万円」の8件だった。「300万円以上」と回答した薬局も2件あった一方、「2万円以下」との回答も2件あった。公募要件に関しても回答は少なかったが、医療機関から「駐車場」や「会議室」「コンビニ、カフェ、レストラン」などの整備を求められている実態が明らかとなった。(2024年12月17日付 RISFAX)なかなかの高額賃料ですね…。賃料だけでなく、薬局が敷地内にあるというだけで病院から施設の整備を求められるなど、利益供与ともいえるいびつな状況が明らかになっています。一方で、一度開設した敷地内薬局を閉めて撤退するという話があったり、公募しても手が上がらなかったりするなど、点数も低く、病院の言いなりになる敷地内薬局には関わりたくないという判断をする薬局も多くなっているのかもしれません。敷地内薬局には、「日本が目指してきた医薬分業ではない」という誰が聞いてもそうだよなという意見があり、そういう意味では薬局側の意識が本来の医薬分業にきちんと向いている気がします。2025年は一般用医薬品のリスク分類を見直し2024年もあとわずかとなりました。12月に紙の保険証が廃止されて新規発行されなくなり、2025年からは原則としてマイナ保険証に1本化となります。団塊の世代が全員75歳以上になるという「2025年問題」の年がいよいよ到来し、薬局を取り巻く環境にも変化が生じるかもしれません。一般用医薬品のリスク分類の見直しもある予定です。私としては、そろそろ医薬品の供給が安定化してほしいなと思います。今年も1年、ありがとうございました。来年も楽しい話題を届けられたらと思います!

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整形外科の病態と診察・診断

診断の精度を上げ、患者満足度を高める「ニュースタンダード整形外科の臨床」第1巻整形外科の実臨床に真に役立つテキストシリーズ。本シリーズは整形外科日常臨床で使える具体的な知識と技術を提供治療は保存療法を中心に解説リアルな診断・治療の動画を多数掲載最新知識、専門知識、Topics、診療のコツなどを適宜コラムやサイドメモで掲載を特長としている。シリーズ最初の第1巻では、整形外科の病態と診察法・診断法について各分野のエキスパートが執筆。第1章では骨・関節・靱帯・関節包・筋肉・末梢神経の病態生理と治癒機転を、第2章では体表解剖で痛みやしびれのある部位から想定される病態を、第3章では診察法を動画などを交えて解説。第4章では整形外科で代表的な障害・疾患と重要な周辺領域を含めて構成。臨床に役立つ動画多数(80ファイル)。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する整形外科の病態と診察・診断定価12,100円(税込)判型B5判頁数418頁(動画80ファイル)発行2024年11月専門編集・編集委員井尻 慎一郎(井尻整形外科)編集委員田中 栄(東京大学)松本守雄(慶應義塾大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第246回 カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見

カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見現代は定期的な食事に重きが置かれていますが、古く古代より断食(カロリー制限)の効用が説かれています1)。また、古代(紀元前16世紀)のエジプトのパピルス古文書には浣腸やその他の治療として胆汁(bile)が使用されたとの記載があり、胆汁の重要な役割は古代の医師にとって自明の理だったようです2)。中国からの最新の研究成果により、古代より知られていたその2つの効能を関連付ける仕組みが判明しました。先週水曜日にNatureに掲載されたその研究の結果、カロリー制限が抗老化作用をもたらすことに胆汁酸の一種であるリトコール酸(LCA)が寄与すると判明しました3)。餌を減らした研究用の動物の寿命が伸びることが知られています。ヒトも同様の絶食で健康が改善するようです。しかし、カロリーを抑えた食事を長く続けられる人はおよそ皆無でしょう4)。そこで、ほぼ継続不可能なカロリー制限をせずとも、その効果を引き出すカロリー制限模倣化合物(CRM)を探す取り組みが始まっています。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はCRMの有望な標的の1つです。AMPKはヒトを含め真核生物ならおよそ持ち合わせており、カロリー制限で活性化し、カロリー制限の効能になくてはならない分子です。たとえばカロリー制限のマウスの筋肉はAMPKが活発で、萎縮し難くなることが知られています5)。糖尿病薬メトホルミンやワインに含まれる植物成分レスベラトロールはAMPKを活性化するCRMであり、種々の生物の寿命や健康生存を伸ばしうることがわかっています。そういうCRM探しが進展する一方で、カロリー制限への代謝順応がどのような仕組みでAMPKを活性化して健康を維持し、寿命を伸ばすのかは不明瞭であり、多くの疑問が残っています。そこで中国のチームはカロリー制限で変化する特定の代謝産物がAMPKの調節に携わるかもしれないと当たりをつけて研究を始めました。まず初めにカロリー制限したマウスの血清のAMPK活性化作用を調べ、加熱しても損なわれずにAMPKを活性化しうる低分子量の代謝産物が確かに存在することが示されました。続いて、カロリーを制限したマウスとそうでないマウスの血中の1,200を超える代謝分子が解析され、カロリー制限で増える212の代謝産物が見つかりました。それらを培養細胞に与えて調べた結果、LCAがAMPKを活性化することが突き止められました。LCAは肝臓で作られる胆汁酸の2次代謝産物です。その前駆体であるコール酸(CA)やケノデオキシコール酸(CDCA)が肝臓から腸に移行し、そこで乳酸菌、クロストリジウム、真正細菌などの腸内細菌の手によってLCAが作られます。特筆すべきことに、LCAは絶食で増える血清の代謝産物の1つであることが健康なヒトの試験で示されています6)。カロリー制限していないマウスにLCA入りの水を与えたところ、どうやら代謝がより健康的になり、インスリン感受性が向上してミトコンドリアの性能や数が上向きました。また、体力も向上するようで、いつもの水を飲んだマウスに比べてより長く速く走れ、より強く握れるようになりました。LCAが老化と関連する衰えを解消しうることをそれらの結果は示唆しています6)。研究はさらに進み、LCAがAMPKを活性化する仕組みも判明しました。LCAはTULP3というタンパク質を受容体とし、LCAと結合したTULP3で活性化したサーチュイン遺伝子がAMPK活性化を導くことが解明されました7)。LCAに延命作用があるかどうかは微妙です。ショウジョウバエや線虫の寿命を延ばしたものの、マウスの検討では有意な延命効果は認められませんでした3,6)。ヒトと同じ哺乳類のマウスがLCAで延命しなかったことは興ざめ4)ですが、その効果がないと結論付けるのはまだ早いようです。ヒトで言えば中年のマウスで試しただけであり、より若いうちからLCAを与えてみるなどの種々の切り口での研究が必要です。中国の研究チームは先を急いでおり、サルでのLCAの効果を調べる研究をすでに開始しています4)。参考1)A bile acid could explain how calorie restriction slows ageing / Nature2)Erlinger S. Clin Liver Dis (Hoboken). 2022;20:33-44.3)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]4)Restricting calories may extend life. Can this molecule do it without the hunger pangs? / Science 5)A bile acid may mimic caloric restriction / C&EN6)Fiamoncini F, et al. Front Nutr. 2022;9:932937.7)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]

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