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統合失調症に対する抗精神病薬治療効果とテロメア長との関連

 統合失調症の重症度や認知機能障害に対する持続性注射剤(LAI)および経口剤の非定型抗精神病薬の有効性とテロメア長との関連について、インド・University College of Medical Sciences and Guru Teg Bahadur HospitalのNisha Pippal氏らが調査を行った。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2021年10月29日号の報告。 18~50歳の性別を問わない統合失調症患者60例を対象に、12週間の研究を実施した。LAI抗精神病薬と経口抗精神病薬を、それぞれ30例に投与した。ベースライン時および12週間時点で、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)およびインド国立精神衛生神経科学研究所(NIMHANS)の神経心理学的テスト・バッテリーを用いた評価を行った。テロメア長は、ベースライン時に推定した。 主な結果は以下のとおり。・12週間の治療後、両群ともにPANSSスコアおよびNIMHANSテスト・バッテリーのスコアの有意な改善が認められた(p<0.001)。・ベースライン時の平均テロメア長は、LAI抗精神病薬治療群で407.58±143.93、経口抗精神病薬治療群で443.40±178.46であった。・テロメア長の短さと、治療後のPANSS陰性症状スコアの平均変化との有意な関係が認められた(r=-0.28、p=0.03)。 著者らは「LAI抗精神病薬は、統合失調症における重症度の軽減および認知機能障害の改善に対し、経口抗精神病薬と同様の効果を有していた。また、テロメア長が短い患者では、PANSS陰性症状スコアのより大きな改善が認められた。そのため、統合失調症患者に対する抗精神病薬の治療反応を予測するうえで、テロメア長は有用である可能性が示唆された」としている。

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ブロナンセリン経皮吸収型製剤への切り替えによる錐体外路症状への影響

 ブロナンセリンは、統合失調症治療に用いられる第2世代抗精神病薬であり、経口剤(錠剤、散剤)だけでなく経皮吸収型製剤としても使用可能な薬剤である。岐阜大学の大井 一高氏らは、統合失調症患者に対しブロナンセリンの経口剤から経皮吸収型製剤への切り替えを行うことにより、錐体外路症状(EPS)の減少および/または薬物動態安定による抗パーキンソン薬の投与量減少に寄与するかについて、52週間の非盲検試験の事後分析を実施し、評価を行った。Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2021年11月3日号の報告。 統合失調症患者155例をコホート1またはコホート2のいずれかにエントリーした。コホート1では、97例に対しブロナンセリンの錠剤8~16mg/日を6週間投与した後、同薬剤の経皮吸収型製剤40~80mg/日へ切り替えて1年間投与を行った。なお、経皮吸収型製剤の投与量は、錠剤の投与量に基づき決定した。コホート2では、ブロナンセリンの経口剤(錠剤、散剤)投与後の58例に対し、同薬剤の経皮吸収型製剤40mg/日から開始し40~80mg/日に切り替える治療を1年間継続した。3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月の時点での経皮吸収型製剤開始後のEPSの変化および抗パーキンソン薬の投与量の変化は、薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)、抗パーキンソン薬のビペリデン換算量でそれぞれ評価した。 主な結果は以下のとおり。・155例中EPSにより経皮吸収型製剤を中止した患者は、コホート1の4例のみであった。・両コホートにおける経皮吸収型製剤開始後のDIEPSS合計スコアの平均変化では、統計学的に有意な改善が認められた。【コホート1】3ヵ月時点:-0.44±1.50(p=0.013)6ヵ月時点:-0.07±1.78(p=0.73)12ヵ月時点:-0.14±1.37(p=0.44)【コホート2】3ヵ月時点:-0.16±1.32(p=0.40)6ヵ月時点:-0.74±1.92(p=0.020)12ヵ月時点:-0.81±2.22(p=0.047)・抗パーキンソン薬のビペリデン換算量は、経皮吸収型製剤開始後、有意な変化は認められなかった。 著者らは「ブロナンセリンの経皮吸収型製剤は、同薬剤の錠剤や散剤と比較し、EPSのリスクを減少させるために効果的な投与経路であると考えられる」としている。

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抗精神病薬への治療反応と皮質厚との関係

 統合失調症では、クロザピン以外の抗精神病薬による治療で十分な効果が得られない治療抵抗性患者が一定数存在し、その割合は3分の1程度であるといわれている。昭和大学の板橋 貴史氏らは、治療抵抗性患者と治療反応患者において、異なる病態生理学的特徴が存在するかを調査した。NeuroImage: Clinical誌オンライン版2021年10月7日号の報告。 対象は、統合失調症患者110例(治療反応群:46例、治療抵抗性群:64例)および健康対照群52例。皮質厚に焦点を当て、MRIの国際マルチサイト断面データを用いて分析した。治療反応群または治療抵抗性群のいずれかに関連する脳領域を発見するため、L1正則化ロジスティック回帰を用いた。ネストされた10分割交差検証を行い、鑑別精度および曲線下面積(AUC)を算出した。次に、分類子の交換可能性を調査するため、治療反応群または治療抵抗性群の分類子をもう一方の群に適用させた。 主な結果は以下のとおり。・治療反応群と対照群の鑑別精度は65%、AUCは0.69であった(p=0.014、調整済み)。・治療抵抗性群と対照群の鑑別精度は78%、AUCは0.85であった(p<0.001、調整済み)。・治療反応群および治療抵抗性群のいずれにおいても、左側頭葉と左前島皮質/下前頭回の違いが認められた。・左縁上回の違いは治療反応群のみで認められ、右上側頭溝と右外側眼窩前頭皮質の違いは治療抵抗性群で認められた。・治療反応群の分類子によって対照群から治療抵抗性群を鑑別するためのAUCは0.78(p<0.001)、治療抵抗性群の分類子によって対照群から治療反応群を鑑別するためのAUCは0.69(p=0.015)であった。 著者らは「皮質厚によって、健康対照者から治療反応および治療抵抗性の統合失調症患者を鑑別可能である。治療反応および治療抵抗性の統合失調症患者において皮質厚に関する病理学的共通点が認められた。また、治療抵抗性患者では、特徴的な皮質厚所見が認められた」としている。

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そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 3

そもそもなんで家庭環境の影響が少ないの?子育ての正解は、厳し過ぎず、自由過ぎず、ほどほどに子育てをする自律的な子育てであることが分かりました。そして、その行動遺伝学的な根拠として、家庭環境の影響が、非認知能力にはほぼなく、認知能力には限定的であることをご説明しました。それでは、そもそもなぜ家庭環境の影響が少ないのでしょうか? ここで、能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説を立てます。そして、この仮説のもと、家庭環境の影響が少ない原因を、進化心理学的に3段階に分けて掘り下げてみましょう。(1)非認知能力はとても古くからあるから約5億年前に魚類が誕生し、有性生殖をするように進化しました。この生殖本能は、セックスをする「能力」と言い換えることができます。そして、その能力は、性欲として、食欲と並び、最も嗜癖性が強いと言えます。約3億年前に哺乳類が誕生し、親が哺乳行動(育児行動)を、そして子どもが愛着行動をするように進化しました。この育児と愛着の習性も、育児をする「能力」と親に愛着を持つ「能力」と言い換えることができます。そして、これらの能力も、かなり嗜癖性が強いと言えます。この詳細については、関連記事4をご覧ください。約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に家族をつくり、さらにその血縁から部族を作るようになりました。この時、狩りや子育てのために部族の中でお互いに協力し合うように進化しました(社会脳)。たとえば、それは、周りの人と心を通わせる力こと(共感性)、周りの人に対して自分を落ち着かせること(セルフコントロール)、そして周りの人とうまくやっていくために自分で考えて行動すること(自発性)です。これが、非認知能力の起源です。逆に言えば、それ以前の人類やそのほかの動物は、車に例えると、この向社会性というナビゲーションがなく、単純なアクセルである快感と単純なブレーキである恐怖だけで行動しており、非認知能力があるとは言えないでしょう。なお、社会脳のメカニズムの詳細については、関連記事5をご覧ください。1つ目の段階として、家庭環境の影響が非認知能力にほぼない原因は、セックス、育児、愛着ほどではないにしても、この能力がとても古くからあるからであることが考えられます。人類の最も古い能力の1つであり、その分、とても癖になりやすい(嗜癖性が強い)と言えるでしょう。そして、敏感に反応してしまうからこそ(遺伝形質が発現しやすいからこそ)、家庭環境の刺激の程度に違いがあっても、つまりどの親の関わりによっても、変わらない能力であると言えます。結果的に、家庭環境の影響に違いが出ず、影響度はほぼ0になってしまうのです。つまり、嗜癖性が強いものは、家庭環境の影響が入り込む余地がないと言えるでしょう。(2)言語的コミュニケーション能力は比較的最近に出てきたから約20万年前に現生人類が誕生して、喉の構造が変化して、複雑な発声ができるようになりました。この時、言葉を使う脳が進化しました。これが、言語的コミュニケーション能力の起源です。言語的コミュニケーション能力とは、発音、語彙の数、文法的な正確さなどの基本的な会話力であり、認知能力の基礎と言えます。この能力に限定した検査は、ウェクスラー式知能検査の下位項目の単語・類似・理解、京大NX知能検査の下位項目の単語完成・類似反対語・文章完成、日本語能力試験の下位項目の聴解などが挙げられます。しかし、現時点で、これらの検査の下位項目に限定した行動遺伝学的な研究は見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。そこで、語学力(外国語の才能)で代用します。そうするのは、語学力は、日本語における方言と標準語、タメ語と敬語の使い分けの延長とも捉えられ、言語的コミュニケーション能力の1つと考えられるからです。語学力においての遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、50%:23%:27%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響が20%強と出てきます。2つ目の段階として、家庭環境の影響が言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)にややあると考えられる原因は、この能力が比較的最近に出てきたからです。その分、やや癖になりにくい(嗜癖性が弱い)と言えるでしょう。非認知能力ほど敏感に反応する訳ではないので(遺伝形質がやや発現しにくいので)、言語環境(家庭環境)の刺激の程度に違いがあると、つまり親によって曝される言葉の数や質の違いによって、変わってしまう能力であると言えます。逆に言えば、言語環境が同じ家庭内では、言語的コミュニケーション能力が似ていく、つまり同じレベルになっていくと言えます。結果的に、家庭環境の影響に違いが出て、影響度が20%程度となってしまうのです。実際に、この嗜癖性の弱さは、語学力に7歳という臨界期がある点でも説明することができます。つまり、年齢とともに嗜癖性が弱くなっていくものは、家庭環境の影響が入り込む余地が出てくると言えるでしょう。たとえば、それが、親から伝えられる方言、敬語、外国語などの語彙の数や表現の仕方なのです。ちなみに、コミュニケーション能力には、この言語的コミュニケーション能力のほかに、準言語的コミュニケーション能力と非言語的コミュニケーション能力があります。これら3つは、それぞれ順に、言葉そのものの言語情報、声のトーンなどの聴覚情報、表情などの視覚情報に言い換えられます。これらの能力についての行動遺伝学的な研究は現時点で見当たらず、家庭環境の影響度は不明です。その代わりに、これらの心理的な影響度は、7%、38%、55%であるという実験結果があります(メラビアンの法則)。この影響度を、情報媒体としてより選ばれる、より好まれる、つまり嗜癖性が強いと解釈すると、この3つの能力の出現の順番は、非言語的→準言語的→言語的であることが推定できます。なお、メラビアンの法則の詳細については、関連記事6をご覧ください。(3)言語理解能力は最も最近に出てきたから約10万年前に現生人類は貝の首飾りを信頼の証にするなどシンボルを使うようになりました。この時、言葉によって抽象的に考えるようになりました。これが、概念化、つまり言語理解能力の起源です。さらに、約5千年前に、文字が発明されました。これが、読み書き、つまり学習能力の起源です。言語理解能力(京大NX知能検査の言語性知能)においての遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、14%:58%:28%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響が60%弱とかなり高まっています。3つ目の段階として、家庭環境の影響が言語理解能力にかなりある原因は、この能力が最も最近に出てきたからです。その分、とても癖になりにくい(嗜癖性がほとんどない)と言えるでしょう。あまり敏感に反応しないので(遺伝形質がとても発現しにくいので)、学習環境(家庭環境)の刺激の程度に違いがあると、つまり親の関わり(家庭学習)の程度の違いによって、かなり変わってしまう能力であると言えます。結果的に、家庭環境の影響に大きな違いが出て、影響度が60%程度となってしまうのです。ただし、先ほどの知能指数(IQ)においての家庭環境の影響度の変化でもご説明しましたが、この数値が高いのは一時的なもので、年齢とともに下がっていきます。つまり、嗜癖性がもともとほとんどないものは、家庭環境の影響が入り込む余地がかなりあると言えるでしょう。たとえば、それが、先ほどにもご説明した、本がたくさんある家庭環境なのです。なお、言語理解は、認知能力の1つです。認知能力を代表する知能指数(IQ)には、言語理解のほかに、ワーキングメモリー、知覚推理、処理速度があります。ほかの3つについての家庭環境の影響度は、どれも0%であることが分かっています。結果的に、知能指数(IQ)においての家庭環境の影響度は、トータルで評価されて、先ほど示した数値である約30%になってしまうのです。また、このことから、ワーキングメモリー、知覚推理、処理速度の3つの能力は、言葉が生まれる前に出現していたことが推定できます。そもそも、これらの能力は、視覚情報を介しており、言葉(聴覚情報)を介する必要がないです。たとえば、言葉が生まれる前の原始の時代を想像すると、人類は襲ってくる猛獣から身を交わしつつ、仲間と息を合わせて威嚇しつつ、自分の子どもを守りつつ、逃げ道を探したでしょう。これは、同時並行で作業を記憶するワーキングメモリーです。人類は、獲物を追いかけるために、野山を延々と駆け抜けたあと、道に迷わずに部族の集落に帰ってきたでしょう。これは、二次元の図形や三次元の立体を頭の中で思い描いて自在に回転するメンタルローテーション(知覚推理)です。ところで、知能指数(IQ)においての成人初期の家庭環境の影響度は、日本では約20%にとどまってしまうのに対して、欧米ではほぼ0%でなくなってしまうことが分かっています。これは、欧米人と比べて、日本人は成人しても実家暮らしが多いことが原因になっている可能性が指摘されています。しかし、嗜癖性の観点で考えると、欧米の言語よりも日本語のほうが難解であることが原因になっている可能性も指摘できます。なぜなら、それだけ学習に労力がかかり、嗜癖性がさらに弱くなるので、家庭環境の影響が残ってしまうからです。ちなみに、絶対音感(音楽の才能)や絵心(美術の才能)についても、家庭環境の影響度は0%であることが分かっています。このことから、これらの能力(才能)も、言葉が生まれる前に出現していたことが推定できます。とくに、音楽については、リズムやトーンが共通する点で、準言語的コミュニケーション能力と同時期に出現していた可能性が考えられるでしょう。そう考えると、準言語的、そして非言語的コミュニケーション能力は、音楽と同じく、言葉が生まれる前に出現しているため、家庭環境の影響は0%であることが推定できます。じゃあなんであの2つは家庭環境の影響があるのに癖になりやすいの?能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説は、非認知能力(正確には性格と自尊心)、言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)、言語理解能力の順番に、家庭環境の影響度が出てきて増えている点が傍証になりそうです。今後、厳密な意味での非認知能力や言語的コミュニケーション能力についての家庭環境の影響度の研究が望まれます。この仮説のもと、嗜癖性が弱い能力は、それだけ新しく出てきたものであり、家庭環境の影響が出てくることが分かりました。しかし、嗜癖性が強いのに家庭環境の影響が出ている心理的・行動的形質が、実は2つあります。それが、先ほど放任的な家庭環境のリスクでご説明した、素行の悪さ(反社会的行動)と嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)です。ここから、この2つの形質に家庭環境の影響がある原因を、「能力」という視点で、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。(1)素行の悪さという「能力」を文化的に発現させないようになったから約300万年前に人類は部族社会をつくり、助け合うようになりましたが、やはり飢餓の時は生き残るために奪い合いになります。そう切り替えられる種が、生存の適応度を上げるでしょう。つまり、助け合う能力と同時に出し抜く「能力」が進化したのでした。これが、反社会的行動の起源です。これは、同じ時期に出現した非認知能力と同じくらい嗜癖性が強いと言えるでしょう。数万年前に、部族同士の交流が盛んになり、反社会的行動が増えていきました。その抑止のために、獲物を仕留める飛び道具を武器として人に向けて威嚇する治安隊が生まれました。これが、警察の起源です。こうして、反社会的行動が、文化的に禁じられ、罰せられるようになりました。素行の悪さ(反社会的行動)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、もともとあったその「能力」を文化的に発現させないようになったからです。言語的コミュニケーション能力や言語理解能力のようにその能力を家庭環境によって促進するのではなく、逆に、反社会的行動という「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。たとえば、それが、野々宮家のようなしつけ(禁止行為の学習)です。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に素行の悪さという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が20%程度出てしまうのです。なお、反社会的行動の起源の詳細については、関連記事7をご覧ください。(2)嗜好品へのハマりやすさという「能力」を文化的に発現させないようになったからアルコールの製造は約1万年前、大麻は約5千年前、タバコは7世紀頃であると考えられており、比較的に最近です。当たり前の話ですが、これらの嗜好品は、ハマるように人工的に造られたため、ハマる(嗜癖性が強い)のです。嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、そのハマる「能力」を文化的に発現させないようになったからです。反社会的行動と同じように、嗜好品にハマる「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。たとえば、それが、野々宮家のようにコーラ(カフェイン)禁止、ゲームの時間制限などの家庭のルールです。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に嗜好品へのハマりやすさという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が15~30%程度出てしまうのです。たくさん本が目の前にある家庭環境が言語理解能力を促進するのと同じように、たくさんの嗜好品が目の前にある家庭環境はそれらにハマる「能力」を促進してしまうという訳です。なお、アルコール依存症の起源の詳細については、関連記事8をご覧ください。ちなみに、嗜好品ではないですが、嗜癖行動として、ギャンブルが挙げられます。この家庭環境の影響度は、嗜好品と同じように考えれば、ある程度の%があっても良さそうですが、0%であることが分かっています。この訳は、確かに、ギャンブルは、狩りをする能力(ギャンブル脳)として、太古の昔からすべての動物がやってきたことであり、嗜癖性が強いです。しかし、アルコールやタバコと違って家庭内に入り込むことが難しいため、結果的に家庭環境の影響が出なくなっています。もちろん、成人してから実際にパチンコ店に行くという家庭外環境によって刺激が繰り返されると、ハマる「能力」が発現するでしょう。なお、ギャンブルの起源の詳細については、関連記事9をご覧ください。ただし、昨今広がっているギャンブル性の高いゲームは別です。現時点で、これについての行動遺伝学的な研究は見たありません。家庭内に入り込むことができるギャンブルとして、ゲームは家庭環境の影響が出ることが推測できます。なお、ゲーム依存症の詳細については、関連記事10をご覧ください。癖になりにくいのに家庭環境の影響がある困った「能力」とは? その原因は?家庭環境とは、現代社会に望ましいながらも癖になりにくい(嗜癖性が弱い)能力を促進する文化的な「アゴニスト」(刺激薬)であると同時に、現代社会に望ましくないながらも癖になりやすい(嗜癖性が強い)「能力」を抑制する文化的な「アンタゴニスト」(遮断薬)であることが分かりました。ところが、現代社会に望ましくなく、癖にもなりにくいのに、家庭環境の影響が出てしまう、ある「能力」が例外的にあります。それは、統合失調症という心の病です。この遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度は、81%:11%:8%であることが分かっています。つまり、家庭環境の影響度が10%強と少ないながらあります。これは、なぜしょうか? その原因を、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。統合失調症の主症状は、幻聴と被害妄想です。このことから、その起源、つまり統合失調症という「能力」が完成したのは、言葉でコミュニケーションをして抽象的に考えるようになった約10万年前であることが推定されます。つまり、統合失調症は、言語理解能力と同じく、新しく出てきた「能力」であるため、嗜癖性は弱いことが分かります。当時から、幻聴は「神のお告げ」として、被害妄想は「神通力」として受け止められ、彼らは社会に溶け込んでいたでしょう。ところが、18世紀の産業革命によって合理主義や個人主義が世の中に広がっていきました。この価値観によって、その後、この「能力」は病としてネガティブに受け止められるようになりました。つまり、統合失調症は、現代社会で望ましくない「能力」になってしまいました。ここで、統合失調症の発症に影響を与える家庭環境が浮き彫りになってきます。それは、合理主義的ではない、個人主義的ではない親の関わりです。これが、10%強の家庭環境の影響度の正体であることが考えられます。たとえば、それは、信心深さ、スピリチュアリズム、勘ぐりの激しさなどの合理主義的ではない関わりでしょう。また、過保護、過干渉、巻き込み、バウンダリー(心理的距離)のなさなどの個人主義的ではない関わりでしょう。実際に、再発の研究においては、家族による高い感情表出が危険因子として挙げられています。つまり、統合失調症において家庭環境の影響が出てしまう原因は、このような親の関わりほうが文化的に制限されるまでに至っていないからでしょう。なお、統合失調症の起源の詳細については、関連記事11をご覧ください。ちなみに、統合失調症以外の精神障害については、家庭環境の影響が基本的に0%になっています。このことから、統合失調症以外のほとんどの精神障害は、統合失調症が出現する10万年前よりも以前にすでに出現していたことが推定できます。たとえば、自閉症は、男性に多く見られるシステム化という能力の遺伝形質を多く遺伝したため、その効果が強く出た結果と言えるでしょう。自閉症の起源の詳細については、関連記事12をご覧ください。ADHDは、瞬発力(衝動性)という「能力」の遺伝形質が強く出た結果と言えるでしょう。ADHDの起源の詳細については、関連記事13をご覧ください。うつ病は、周りからの援助行動を引き出す「能力」の遺伝形質が強く出た結果と言えるでしょう。うつ病の起源の詳細については、関連記事14をご覧ください。結局、家庭環境って何なの?結局のところ、家庭環境の影響とは、必ずしも親の関わりの単純な程度でなく、親の関わりへの子どものそれぞれの能力の反応の鈍さであったり、逆に鋭さであったりする訳です。そして、反社会的行動と物質依存を除くと、家庭環境の影響度の大きさの違いから、その能力がいつ出現したかがだいたい分かってしまうという訳です。そう考えると、家庭環境は、もはや純粋に家庭環境とは呼べないかもしれません。行動遺伝学においての家庭環境(共有環境)か家庭外環境(非共有環境)かの線引きは、家庭の内か外かという単純な家庭の問題を超えて、どちらにしてもその環境の影響に反応しやすいかどうかという子どもの能力の嗜癖性の問題でもあることが分かります。進化の歴史の中で、そんな能力の嗜癖性を高めてきた私たちの心は、まさに「癖になる脳」、“addictive brain”と言えるのではないでしょうか?1)日本人の9割が知らない遺伝の真実:安藤寿康、SB新書、20162)遺伝マインド:安藤寿康、有斐閣、20113)認知能力と学習 ふたご研究シリーズ1:安藤寿康、創元社、20214)家庭環境と行動発達 ふたご研究シリーズ3:安藤寿康ほか、創元社、20215)そして父になる 映画ノベライズ:是枝裕和、宝島社文庫、2013<< 前のページへ■関連記事酔いがさめたら、うちに帰ろう。(前編)【アルコール依存症】万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1そして父になる(その1)【もしも自分の子じゃなかったら!?(親子観)】Part 2インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 3万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 3酔いがさめたら、うちに帰ろう。(後編)【アルコール依存症】「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】レディ・プレーヤー1【なぜゲームをやめられないの?どうなるの?(ゲーム依存症)】絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】ガリレオ【システム化、共感性】ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】ツレがうつになりまして。【うつ病

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統合失調症の抗精神病薬関連代謝異常~最新レビュー

 代謝異常や肥満は、統合失調症患者の主な心血管イベントのリスク因子である。その結果として、統合失調症患者は、そうでない人と比較し、死亡率が高く、平均寿命が短くなる。統合失調症と代謝異常との関係は、特定の遺伝学的または病理学的リスクが影響している可能性もあるが、抗精神病薬(とくに第2世代抗精神病薬)が体重増加や代謝異常リスクを上昇させていると考えられる。台湾・台北医学大学のShen-Chieh Chang氏らは、抗精神病薬に関連する体重増加や代謝異常、それらのメカニズム、モニタリングガイドライン、介入に関する文献のレビューを行った。World Journal of Psychiatry誌2021年10月19日号の報告。 主なレビューは以下のとおり。・ほぼすべての抗精神病薬において体重増加との関連が認められたが、その程度は薬剤間で異なる。・体重増加や特定の代謝異常に対し、神経伝達物質受容体親和性の強さやホルモンが関連していることが示唆されているが、抗精神病薬関連の体重増加や代謝異常の根底にあるメカニズムは明らかになっていない。・新たなエビデンスとして、抗精神病薬関連の体重増加や代謝異常と関連する遺伝子多型の役割が示唆されている。・抗精神病薬誘発性代謝異常のスクリーニングやモニタリングのために多くのガイドラインが発表されているが、これらは臨床で日常的に実施されているわけではない。・抗精神病薬誘発性代謝異常のマネジメント戦略に関する研究が多かった。・統合失調症患者およびその介護者は、健康的な生活が送れるよう、禁煙、食事、身体活動のプログラムについて教育を受け、動機づけを行わなければならない。・ライフスタイル介入がうまくいかない場合には、代謝異常リスクの低い他の抗精神病薬への切り替えや体重増加を軽減させるための補助治療薬の追加を検討する必要がある。・統合失調症の治療において抗精神病薬は不可欠であるため、臨床医は抗精神病薬関連の体重増加や代謝異常をモニタリングし、マネジメントする必要がある。

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日本人統合失調症患者における抗精神病薬の製剤満足度調査

 藤田医科大学の波多野 正和氏らは、服薬アドヒアランスに影響を及ぼす因子を特定するため、統合失調症患者を対象に処方された抗精神病薬の製剤に関する主観的なアンケート調査を実施した。Clinical Psychopharmacology and Neuroscience誌2021年11月30日号の報告。DAI-10と製剤満足度との間に中程度の相関 処方された抗精神病薬の製剤に対する患者の満足度および不満度を評価するため、薬に対する構えの評価尺度(DAI-10)を用いた。対象患者は、同一成分、同一製剤の抗精神病薬を1ヵ月以上服用している20~75歳の統合失調症患者とした。 DA-10を用いた抗精神病薬に関する主観的アンケート調査の主な結果は以下のとおり。・アンケートに回答した患者は301例であった。・統合失調症患者に最も処方されている抗精神病薬の製剤は、錠剤(174例、57.8%)であり、次いで持続性注射剤(93例、30.9%)であった。・製剤で、製剤満足度とDAI-10との有意な関係は認められなかった。・持続性注射剤以外の製剤を選択していた患者の半数以上は、製剤は「医師により決定」と回答した。・製剤選択において、「医師との協議により決定」と回答した患者は、「医師により決定」と回答した患者と比較し、満足度(4.11±0.77 vs.3.80±1.00、p=0.0073)やDAI-10スコア(6.20±3.51 vs.4.39±4.56、p<0.001)が有意に高かった。・満足度とDAI-10との間には、中程度の相関が認められた(r=0.48、p<0.001)。 著者らは「すべての患者に対し高い満足度が得られる製剤はないため、個々の好みを薬物療法に反映させる必要がある。製剤を選択するうえで意思決定を共有することは、服薬アドヒアランスの改善に役立つと考えられる」としている。

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精神病性うつ病の疾患経過に影響を及ぼす因子

 精神病性うつ病は、重度の症状や疾患経過を伴う疾患であるが、いまだ十分に研究されていない。フィンランド・トゥルク大学のMiika Nietola氏らは、精神病性うつ病の発症年齢や疾患経過に対する性別および精神医学的併存疾患の影響について調査を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2021年10月8日号の報告。 本研究は、1966年フィンランド北部の出生コホートに基づき実施された。精神医学的診断歴、入院歴、発症年齢、障害年金受給率、死亡率に関するデータを収集した。精神病性うつ病患者58例において、性別およびアルコール使用障害またはパーソナリティ障害の合併に基づくサブグループ間における疾患経過を比較した。 主な結果は以下のとおり。・パーソナリティ障害の合併率は38%(22例)、アルコール使用障害の合併率は41%(24例)であった。・パーソナリティ障害を合併した精神病性うつ病患者は、発症年齢が若く(p<0.01)、死亡率が高かった(p=0.03)。・精神科病床への入院率の高さと関連が認められた因子は、男性(p=0.03)、アルコール使用障害の合併(p<0.01)、パーソナリティ障害の合併(p<0.01)であった。・男性では、アルコール使用障害の合併が多かった(男性:61%、女性:29%、p=0.03)。 著者らは「精神病性うつ病の疾患経過に、性別や精神医学的併存疾患が影響を及ぼしていることが示唆された。臨床応用していくためには、精神病性うつ病の不均一性に関するさらなる研究が求められる」としている。

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高血糖の進行に影響を及ぼす抗精神病薬の関連因子

 抗精神病薬は、高血糖リスクを高める危険性がある。高血糖の進行に影響を及ぼす因子として、抗精神病薬の種類、1日投与量、数量などが挙げられているが、これらとの関連を調査した研究は少ない。北海道大学の石川 修平氏らは、高血糖の進行に関連すると考えられる背景因子で調整した後、高血糖の進行に影響を及ぼす抗精神病薬治療の関連因子について調査を行った。Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2021年10月9日号の報告。 新規に抗精神病薬治療を開始した患者を対象に高血糖の発生率を12ヵ月間調査した全国多施設共同プロスペクティブ研究を実施した。ベースライン時に正常な血糖値であった患者631例を対象に人口統計データ、処方歴、血液検査値を収集した。主要評価項目は、高血糖の発生率(正常状態から糖尿病予備軍または糖尿病が疑われる状態への進行)とし、統合失調症患者を対象とした日本のモニタリングガイダンスに基づき評価を行った。経時的なグルコース代謝に対する抗精神病薬の影響を調査するため、各抗精神病薬治療開始3、6、12ヵ月後のHbA1cレベルの変化を調査した。 主な結果は以下のとおり。・ゾテピンおよびクロザピンの使用が、高血糖の発生率の高さと有意に関連していることが示唆された。・ゾテピン治療開始6ヵ月後のHbA1cレベルの変化は、ブロナンセリンおよびハロペリドール治療と比較し、有意に高かった。・対照的に、同期間の総コレステロール、トリグリセライド、HDLコレステロール、BMIの変化に有意な変化は認められなかった。・高血糖の発生と抗精神病薬の1日投与量および数量との関連は認められなかった。・しかし、抗精神病薬のH1、M1、M3、5-HT2C受容体に対する阻害作用の強さに基づき2つの群に分類した事後分析では、抗精神病薬の中~高用量治療群における高血糖の発生は、低用量群と比較し高かった。 著者らは「抗精神病薬の1日投与量や数量ではなく、種類が高血糖の発生率に影響を及ぼしている可能性が示唆された。なかでもゾテピンは、高血糖の発生率を増加させる可能性が高く、とくに注意が必要であろう」としている。

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精神神経疾患や発達障害に対する音楽療法の有効性

 音楽療法は、身体的、感情的、精神的な健康を維持・回復・促進するために用いられる。オーストリア・AIHTAのLucia Gassner氏らは、自閉スペクトラム症(ASD)、認知症、うつ病、不眠症、統合失調症に対する音楽療法の有効性を評価した。European Journal of Public Health誌オンライン版2021年10月1日号の報告。 システマティックレビューおよび医療技術評価レポートの検索により、139件の文献が抽出された。コクランレビューが利用可能な5疾患の診断グループに焦点を当てた。第2検索は4つのデータベースを用いて実施した。独立した2人のレビュアーが、研究の選択、データ抽出、方法論的質の評価を行った。バイアスリスクが中~低の試験のみを選択した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たしたランダム化比較試験は10件(1,248例)であった。・統合失調症では、バイアスリスクが中~低の研究がなかった。コクランの著者らは、統合失調症のQOL、社会的機能、全体的症状および精神症状の改善が認められたが、全体的な機能の改善は認められなかったとしていた。・ASDでは、行動、社会的コミュニケーション、脳内ネットワーク、親子関係の改善が認められた。・うつ病では、気分の高揚の改善が認められた。・不眠症では、睡眠の質、ストレス、不安、総睡眠時間、疾患重症度、心理的QOLの改善が認められた。・認知症では、気分症状、神経精神医学的行動、無気力、コミュニケーション、身体機能の改善が認められた。また、重症の場合では、行動および心理的症状の改善、軽度アルツハイマー病では、記憶力と言語の流暢さの改善が認められた。認知機能の改善が認められた研究は、4件中1件であった。・認知症に対する音楽療法では、能動的(演奏する)および受動的(聴く)方法が用いられたが、ASDとうつ病で用いられたのは能動的方法のみであった。また、不眠症では受動的方法のみが用いられた。 著者らは「精神神経疾患や発達障害に対する音楽療法は、身体的および心理社会的な健康の改善に役立つことが示唆された。これらの効果の長期的な影響を評価するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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肉の消費とメンタルヘルス

 肉の消費や制限がうつ病や不安症に及ぼす影響を明らかにするため、米国・サザンインディアナ大学のUrska Dobersek氏らは、これらの定量的な関連を評価した。Critical Reviews in Food Science and Nutrition誌オンライン版2021年10月6日号の報告。 2020年6月、5つのオンラインデータベースを検索し、肉の摂取を制限している人と消費している人を明確に区分し、うつ病および不安症の有病率を調査した初期研究を抽出した。バイアス補正(Hedges's gエフェクトサイズ)を用いて、肉消費群と肉制限群の間の影響の大きさを計算した(高スコアおよび正のスコアが肉消費群にとって良好な結果であったことを示す)。 主な結果は以下のとおり。・20研究より、肉消費群15万7,778人と肉制限群1万3,259人を含む17万1,802人が選択基準を満たした。・肉消費群は、肉制限群と比較し、うつ病リスク低下(g=0.216、95%CI:0.14~0.30、p<0.001)および不安症リスク低下(g=0.17、95%CI:0.03~0.31、p=0.02)との関連が認められた。・肉消費群は、ビーガンと比較し、うつ病リスク(g=0.26、95%CI:0.01~0.51、p=0.041)および不安症リスク(g=0.15、95%CI:-0.40~0.69、p=0.598)が低かった。・性別による影響は認められなかった。・研究の質については、研究間の不均一性が、うつ病に関して58%、不安症に関して76%認められた。・さらに、研究がより厳格であるほど、肉の消費と良好なメンタルヘルスとの一貫した関連が認められた。・これらの関連性に関して、因果関係および時間的推論は考慮されていない。

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特発性基底核石灰化症〔IBGC:idiopathic basal ganglia calcification〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性基底核石灰化症(idiopathic basal ganglia calcification:IBGC)は従来、ファール病と呼ばれた疾患で、歴史的にも40近い疾患名が使われてきた経緯がある。欧米では主にprimary familial brain calcification(PFBC)の名称が用いられることが多い。基本は、脳内(両側の大脳基底核、小脳歯状核など)に生理的な範囲を超える石灰化を認める(図1)、その原因となる生化学的異常や脳内石灰化を来す基礎疾患がないことである。最近10年間で、原因遺伝子として、4つの常染色体優性(AD)遺伝子(SLC20A21)、PDGFRB2)、PDGFB3)、XPR14))、2つの常染色体劣性(AR)遺伝子(MYORG5)、JAM26))が報告された。日本神経学会で承認された診断基準が学会のホームページに公開されている(表)。図1  IBGCの典型的な頭部CT画像画像を拡大する69歳・男性。歯状核を中心とした小脳、両側の大脳基底核に加え、視床、大脳白質深部、大脳皮質脳回谷部などに広範な石灰化を認める。表 特発性基底核石灰化症診断基準<診断基準>1.頭部CT上、両側基底核を含む病的な石灰化を認める。脳以外には病的な石灰化を認めないのが特徴である。病的とする定義は、大きさとして斑状(長径で10mm以上のものを班状、10mmm未満は点状)以上のものか、あるいは点状の両側基底核石灰化に加えて小脳歯状核、視床、大脳皮質脳回谷部、大脳白質深部などに石灰化を認めるものと定義する。注1高齢者において生理的石灰化と思われるものは除く。注2石灰化の大きさによらず、原因遺伝子が判明したものや、家族性で類似の石灰化を来すものは病的石灰化と考える。2.下記に示すような脳内石灰化を二次的に来す疾患が除外できる。主なものとして、副甲状腺疾患(血清カルシウム(Ca)、無機リン(Pi)、iPTHが異常値)、偽性副甲状腺機能低下症(血清Ca低値)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(Albright骨異栄養症)、コケイン(Cockayne)症候群、ミトコンドリア病、エカルディ・グティエール(Aicardi Goutieres)症候群、ダウン(Down)症候群、膠原病、血管炎、感染(HIV脳症など、EBウイルス感染症など)、中毒・外傷・放射線治療などを除外する。注1iPTH:intact parathyroid hormone インタクト副甲状腺ホルモン注2小児例では、上記のような先天代謝異常症に伴う脳内石灰化である可能性も推測され、全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる。3.下記に示すような 緩徐進行性の精神・神経症状を呈する。頭痛、精神症状(脱抑制症状、アルコール依存症など)、てんかん、精神発達遅延、認知症、パーキンソニズム、不随意運動(PKDなど)、小脳症状などの精神・神経症状 がある。注1PKD:paroxysmal kinesigenic dyskinesia 発作性運動誘発性ジスキネジア注2無症状と思われる若年者でも、問診などにより、しばしば上記の症状を認めることがある。神経学的所見で軽度の運動機能障害(スキップができないなど)を認めることもある。4.遺伝子診断これまでに報告されているIBGCの原因遺伝子は常染色体優性遺伝形式ではSLC20A2、PDGFRB、PDGFB、XPR1、常染色体劣性遺伝形式ではMYORG、JAM2があり、これらに変異を認めるもの。5.病理学的所見病理学的に脳内に病的な石灰化を認め、DNTCを含む他の変性疾患、外傷、感染症、ミトコンドリア病などの代謝性疾患などが除外できるもの。注1 DNTC:Diffuse neurofibrillary tangles with calcification(別名、小阪-柴山病)この疾患の確定診断は病理学的診断であり、生前には臨床的にIBGCとの鑑別に苦慮する。●診断Definite1、2、3、4を満たすもの。1、2、3、5を満たすもの。Probable1、2、3を満たすもの。Possible1、2を満たすもの。日本神経学会ホームページ掲載のものに、下線を修正、追加(改訂申請中)してある。■ 疫学2011年に厚生労働省の支援により本症の研究班が立ち上がった。研究班に登録されている症例は、2021年現在で、家族例が40家系、孤発例が約200例である。症例の中には、頭部外傷などの際に撮影した頭部CT検査で偶発的にみつかったものもあり、実際にはこの数倍の症例は存在すると推定される。■ 病因2012年に中国から、IBGCの原因遺伝子としてリン酸トランスポーターであるPiT2をコードするSLC20A2の変異がみつかったことを契機に、上記のように4つの常染色体優性遺伝子と2つの常染色体劣性遺伝子が連続して報告されている。また、症例の中には、過去に全身性エリテマトーデス(SLE)の既往のある症例、腎透析を受けている症例もあり、2次性とも考えられるが、腎透析を受けている症例すべてが著明な脳内石灰化を呈するわけではなく、疾患感受性遺伝子の存在も示唆される。感染症も含めた基礎疾患の関与によるもの、外傷、薬剤、放射線など外的環境因子の作用も推測される。原因遺伝子がコードする分子の機能から、リン酸ホメオスタシスの異常、また、周皮細胞、血管内皮細胞とアストロサイトの関係を基軸とした脳血管関門の破綻がこの石灰化の病態、疾患の発症機構の基盤にあると考えられる。■ 症状症状は中枢神経系に限局するものである。無症状からパーキンソン症状など錐体外路症状、小脳症状、精神症状(前頭葉症状など)、認知症を来す症例まで極めて多様性がある。発症年齢も30~60歳と幅がある。自験例の全202例の検討では、パーキンソニズムが26%、認知機能低下26%、精神症状21%、てんかん14%、不随意運動4%であった7)。不随意運動の内訳はジストニアが4例、ジスキネジアが2例、発作性運動誘発性ジスキネジア(Paroxysmal kinesigenic dyskinesia:PKD)が2例であった。わが国では諸外国と比して、不随意運動の頻度が低かった8)。必ずしも遺伝子変異によって特徴的臨床所見があるわけではない。国内外でもSLC20A2遺伝子変異患者ではパーキンソニズムが最も多く、PDGFB遺伝子変異では頭痛が多く報告されている。筆者らの検索でも、PDGFB変異患者では頭痛の訴えが多く、患者の語りによる質的研究でも、QOLを低下させている一番の原因であった。PKDはSLC20A2遺伝子変異患者で多く報告されている。筆者らはIBGC患者、とくにSLC20A2変異患者の髄液中の無機リン(Pi、リン酸)が高いことを報告している9)。頭部CT画像にも各遺伝子変異に特徴的な画像所見はないが、JAM2遺伝子変異では、他ではあまりみられない橋などの脳幹に石灰化がみられることがある。■ 分類原因遺伝子によって分類される。遺伝子の検索がなされた家族例(FIBGC)では、40%がSLC20A2変異10)、10%がPBGFB変異11)で、他XPR-1変異が1家系、PDGFRB変異疑いが1家系で、この頻度は国内外でほぼ一致している。■ 予後緩徐進行性の経過を示すが、症状も多彩であり、詳しい予後、自然歴を調べた論文はない。石灰化の進行を評価するスケール(total calcification score:TCS)を用いて、遺伝子変異では、PDGFRB、PDGFB、SLC20A2の順で石灰化の進行が速く、さらに男性、高齢、男性でその進行速度が速くなるという報告がある12)。原因遺伝子、二次的な要因によっても、脳内石灰化の進行や予後は変わってくると推定される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)基本的には原因不明の脳内に限った石灰化症である。National Center for Biotechnology Information(NCBI)には、以下のPFBCの診断基準が挙げられている。(1)進行性の神経症状(2)両側性の基底核石灰化(3)生化学異常がない(4)感染、中毒、外傷の2次的原因がない(5)常染色体優性遺伝の家族歴がある常染色体優性遺伝形式の原因遺伝子として、すでにSLC20A2、PDGFB、PDGFRB、XPR1の4遺伝子が報告され、現在、常染色体劣性遺伝形式の原因遺伝子MYORG、JAM2がみつかってきており、上記の(5)は改訂が必要である。わが国では孤発例の症例も多く、疾患の名称に関する課題はあるが、診断は前述の「日本神経学会承認の診断基準」に準拠するのが良いと考える(上表)。鑑別診断では、主なものとして、副甲状腺疾患(血清カルシウム、Pi、iPTHが異常値)、偽性副甲状腺機能低下症(血清カルシウム低値)、偽性偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト骨異栄養症)、コケイン症候群、ミトコンドリア脳筋症(MELASなど)、エカルディ・グティエール症候群(AGS)、ダウン症候群、膠原病、血管炎、感染(HIV脳症など、EBウイルス感染症など)、中毒・外傷・放射線治療などを除外する。IBGCの頭部CT画像は、タツノオトシゴ状、勾玉状などきれいな石灰化像を呈することが多いが、感染症後などの二次性の場合は、散発した乱れた石灰化像を呈することが多い。後述のDNTCの病理報告例の頭部CT所見は、斑状あるいは点状の石灰化である。IBGCは小児期、青年期は大方、症状は健常である。小児例では、AGSを始め、多くは何らかの先天代謝異常に伴う脳内石灰化症、脳炎後など主に二次性の脳内石灰化症が示唆されることが多い。今後の病態解明のためには、とくに家族例、いとこ婚などの血族結婚の症例を含め、エクソーム解析や全ゲノム解析などの遺伝子検索が望まれる。高齢者の場合は、淡蒼球の生理的石灰化、また、初老期以降で認知症を呈する“石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病”(diffuse neurofibrillary tangles with calcification:DNTC、別名「小阪・柴山病」)が鑑別に上がる。DNTCの確定診断は、病理学的所見に基づく。しかし、最近10年間の班研究で調べた中ではDNTCと病理所見も含めて診断しえた症例はなかった。脳内石灰化をみた場合の診断の流れを図2に提示する。図2 脳内石灰化の診断のフローチャート画像を拡大する脳内に石灰化をみた場合のフローチャートを示す。今後、病態機構によって、漸次、更新されるものである。全体をPFBCとして包括するには無理がある。名称として現在は、二次性のものを除外して、全体をPBCとしてまとめておくのが良いと考える。【略号】(DNTC:Diffuse neurofibrillary tangles with calcification、FIBGC:Familial Idiopathic Basal Ganglia Calcification、IBGC:Idiopathic Basal Ganglia Calcification、PBC:Primary Brain Calcification)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はまだみつかっていない。遺伝子変異を認めた患者の疾患特異的iPS細胞を用いて、PiT2、PDGFを基軸に創薬の研究を進めている。対症療法ではあるが、不随意運動や精神症状にクエチアピンなど抗精神病薬が用いられている。また、病理学的にもパーキンソン病を合併する症例があり、抗パーキンソン病薬が効果を認め、また、PKCではカルバマゼピンが効果を認めている。4 今後の展望中国からAR遺伝形式の原因遺伝子MYORG、JAM2が見出され、今後さらなるARの遺伝子がみつかる可能性がある。また、疾患感受異性遺伝子、環境因子の関与も想定される。IBGC、とくにSLC20A2変異症例では根底にリン酸ホメオスタシスの異常があることがわかってきた。ここ数年で、Pi代謝に関する研究が大いに進み、生体におけるPi代謝にはFGF23が中心的役割を果たす一方、石灰化にはリン酸とピロリン酸(二リン酸, pyrophosphate:PP)の比が重要である指摘やイノシトールピロリン酸 (inositol pyrophosphate:IP-PP)が生体内のリン酸代謝に重要であることが注目されている。最近では細胞内のPiレベルの調節にはイノシトールポリリン酸 (inositol polyphosphate: InsPs)、その代謝にはイノシトール-ヘキサキスリン酸キナーゼ、(inositol-hexakisphospate kinase:IP6K)がとくに重要で、InsP8が細胞内の重要なシグナル分子として働き、細胞内Pi濃度を制御するという報告がある。また、SLC20A2-XPR1が基軸となって、クロストークを起こすことによって、細胞内のPiやAPTのレベルを維持する作用があることも明らかとなってきた。生体内、細胞内でのPi代謝の解明が大きく進展している。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。IBGCでは通常は小児期には症状を呈さない。小児期における脳内石灰化の鑑別では小児神経内科医へのコンサルトが必要である。精神発達遅滞を呈する症例あり、脳内石灰化の視点から、多くの鑑別すべき先天代謝異常症がある。とくに、MELAS、AGS、副甲状腺関連疾患、コケイン症候群、Beta-propeller protein-associated Neurodegeneration (BPAN、 SENDA)などは重要である。また、家族例では、IRUD-P(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases in Pediatrics:小児希少・未診断疾患イニシアチブ)などを活用したエクソーム解析や全ゲノム解析などの遺伝子解析が望まれる。   そのほか、症例の中には、統合失調症様や躁病などの精神症状が前景となる症例もある。これらはある一群を呈するかは今後の課題であるが、精神科医との連携が必要なケースもまれならずある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会診断基準(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NCBI GeneReviews Primary Familial Brain Calcification Ramos EM, Oliveira J, Sobrido MJ, et al. 2004 Apr 18 [Updated 2017 Aug 24].(海外におけるPFBCの解説、医療従事者向けのまとまった情報)●謝辞本疾患の研究は、神経変性疾患領域の基盤的調査研究(20FC1049)、新学術領域(JP19H05767A02)の研究助成によってなされた。本稿の執筆にあたり、貴重なご意見をいただいた岐阜大学脳神経内科 下畑 享良先生、林 祐一先生、国際医療福祉大学 ゲノム医学研究所 田中 真生先生に深謝申し上げます。1)Wang C, et al. Nat Genet. 2012;44:254–256.2)Nicolas G, et al. Neurology. 2013;80:181-187.3)Keller A, et al. Nat Genet. 2013;45:1077-1082.4)Legati A, et al. Nat Genet. 2015;47:579-581.5)Yao XP et al. Neuron. 2018;98:1116-1123. 6)Cen Z, et al. Brain. 2020;143:491-502.7)山田 恵ほか. 臨床神経. 2014;54:S66.8)山田 恵ほか. 脳神経内科. 2020;92:56-62.9)Hozumi I, et al. J Neurol Sci. 2018;388:150-154.10)Yamada M, et al. Neurology. 2014;82:705-712.11)Sekine SI, et al. Sci Rep. 2019;9:5698.12)Nicolas G, et al. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2015;168:586-594.公開履歴初回2021年12月2日

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精神疾患発症リスクの高い人に対する抗精神病薬の予防効果

 既存のガイドラインでは、精神疾患における臨床的にハイリスクな人に対する抗精神病薬の使用は推奨されていないが、抗精神病薬がハイリスクな人の精神疾患を予防できるかは、よくわかっていない。中国・上海交通大学医学院のTianHong Zhang氏らは、精神疾患発症リスクの高い人において、抗精神病薬の予防効果を比較するため、本研究を実施した。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2021年9月18日号の報告。 統合失調症前駆症状の構造化面接(SIPS)を用いて精神疾患発症リスクの高い人300人を特定し、3年間フォローアップを行った。ベースライン時にNAPLS-2リスク計算(NAPLS-2-RC)を実施した人は228人(76.0%)、フォローアップが完了した人は210人(92.1%)であった。リスクレベルに応じて層別化を行った。ハイリスクの定義は、NAPLS-2-RCスコア20%以上およびSIPS陽性症状合計スコア10以上とした。主要アウトカムは、精神疾患発症、機能アウトカム不良(フォローアップ時のGAFスコア60未満)とした。 主な結果は以下のとおり。・精神疾患発症リスクの高い人において、抗精神病薬使用の有無により、精神疾患発症や機能アウトカム不良に有意な差は認められなかった。・抗精神病薬治療を受けたリスクの低い人では、抗精神病薬を使用しなかった人と比較し、機能アウトカム不良の割合が高かった(NAPLS-2-RC推定リスク:χ2=8.330、p=0.004、陽性症状重症度:χ2=12.997、p<0.001)。・精神疾患発症予防に効果的な因子は特定されなかった。また、高用量の抗精神病薬で治療された精神疾患発症リスクの高い人において、機能アウトカム不良リスクに有意な増加が認められた。 著者らは「精神疾患発症リスクの高い人に対する抗精神病薬治療は、機能アウトカム不良リスクを考慮する必要がある。また、実臨床下において、抗精神病薬使用が精神疾患発症予防に寄与するとは考えにくいことが示唆された」としている。

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若年性認知症患者さんを支える諸制度・保険の知識【コロナ時代の認知症診療】第9回

EODで鑑別すべきはうつ病関連だけではない若年性認知症(EOD)にかかっていることに、当事者や家族、同僚などの周りが早期から気づくことは稀である。経験的に、本人は何となくこれまでとは違うなと違和感を抱いていることもあるがまったく無頓着であることも多い。勤務している人の場合、変調に一番気づいているのは、本人の失敗を直接に被りやすい同僚や部下だろう。最近では一定規模以上の会社において、ストレスチェックが義務化され、「うつ病」の概念が浸透しているので、こうした当事者に対してうつ病やその周辺疾患などを想起する人が多いかもしれない。前回述べたように、認知症に派生する問題が事例化してくると、会社も捨て置けなくなって受診を促すことになる。ストレスチェックの結果を心配する人に、産業医が最初の相談先とされるせいか、まずこうした医師への相談が勧められることが多い。しかし産業医で認知症を専門とする人は例外的だろう。そこでかかりつけ医を夫婦で受診することも多いようだ。EODで鑑別すべきはうつ病関連だけではない。てんかんや睡眠時無呼吸症あるいは遅発性の妄想性疾患などと幅広い。仮にEODと診断が固まっても当事者が現役で家族の大黒柱の場合には、その人のこれからを思うと容易に診断名は告げられない。それだけに認知症専門医への相談が必要になる。知り合いに専門医がいない場合には、ネット検索がいいだろう。日本老年精神医学会か日本認知症学会のホームページをみれば、地域別に専門医の氏名や所属機関、また外来日などがわかるはずである。なおここまで男性の勤務者を想定して既述したが、EODの約半数は女性である。その場合も基本は同じだろう。知っておきたい「傷病手当金」や「精神障害者保健福祉手帳」さて次は治療となるが、既存4薬以外にこれというものがない。確かにアルツハイマー病に対してのAducanumabが2021年6月にアメリカで承認されたところだが、その使用に要する精査や経費などを考えると、当面はわが国での投与はそう容易ではない。それだけに福祉的な対応の基本は知っておきたい。EODの人に対する組織の姿勢はさまざまである。ピンは、その職場の中で定年の時まで働いてもらおうというものである。職位や給料は下がっても、その時々の能力に応じてできることを組織内のどこかでやってもらうというところもある。そうした組織の姿勢はさておき、医療者が関わる面について以下に述べる。福利厚生では、休職になるケースが多いだけに、まず基本は傷病手当金である。これは、病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される。連続して休んだ日があった場合、4日目以降、休んだ日に対して支給され、その期間は、支給を開始した日から最高1年6ヵ月である。なお退職後でも、ある条件を満たしていれば、引き続いて残りの期間も傷病手当金を受けることができる1)。次は「精神障害者保健福祉手帳」である。これは認知症などの精神疾患があり、日常生活に支障をきたす場合に申請できる。さらに血管性認知症やレビー小体型認知症などにより身体症状がある場合には、「身体障害者手帳」に該当する例もある。これに関連して、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務がある。(障害者雇用促進法43条第1項)。具体的に、民間企業の法定雇用率は2.3%。従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならない、とされる。この「障害者」の範囲については、障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としている(短時間労働者は原則0.5人カウント)。患者さんの生活を支えるために、医師にできること以上の公的な制度に加えて、民間でも使えるものがある。その代表が生命保険の高度障害である。これは被保険者が、責任開始期(日)以後の病気やケガを原因として、両眼の視力や言語機能を永久に失ったときなど、定められたいずれかの障害状態に該当した場合に、死亡保険金と同額の高度障害保険金が受け取られるものである。具体的な障害内容として、1)両眼の視力を全く永久に失ったもの、2)言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの、3)中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの、など7つの例が示されていることが多い。特記すべきは、認知症は入っていないことである。したがっていわば寝たきりになった認知症ではなく、「動ける状態の認知症」では2)もしくは3)の障害として、医師は診断書を書くのが現実である。なお一回では申請が受理されなくても、状態の進行に応じて繰り返し申請すれば必ず受理されることを経験してきた。参考1)全国健康保険協会「傷病手当金について」

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うつ病・不安症患者の病欠や職場復帰のパターン

 不安症やうつ病による病欠は、差し迫った公衆衛生上の問題である。ノルウェー科学技術大学のKenneth Sandin氏らは、うつ病および不安症の患者における仕事に焦点を当て、治療前、治療中、治療後の病欠パターンを特定するため、29.5ヵ月に及ぶ縦断的研究を行った。また、これらの軌跡の背景と臨床的特徴との関連も併せて調査を行った。BMJ Open誌2021年9月29日号の報告。 患者の背景や臨床データは、専門のメンタルヘルスケアクリニックにおける観察研究で実施した患者の自己報告(619例)に基づき収集した。病欠に関する情報は、national registry dataより収集した。軌跡の特定には、潜在成長混合モデルを用いた。背景特性の違いは多項ロジスティック回帰を、臨床的な違いは一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・次の3つの軌跡が特定された。●レジリエント群:47.7%●リカバリー群:31.8%●ハイリスク群:20.5%・レジリエント群は、期間を通じて病欠が少なかった。・他の2群は、治療前と同様の軌跡を示し、1年前に病欠が少なかった人では治療開始時に病欠リスクの増加が認められた。・治療後、リカバリー群は、ほぼ職場復帰が果たされたが、ハイリスク群は病欠リスクが高いままであった。・リカバリー群およびハイリスク群は、レジリエント群と比較し、女性の割合が高く、より高齢であった。・すべての群において、治療開始時には同様の臨床スコアが示されたが、ハイリスク群では、治療終了後も抑うつ症状の残存が認められた。・不安症およびうつ病のエフェクトサイズは、すべての群において中~大であり(Cohen's d=0.74~1.81)、87.2%は治療1年後には完全に職場復帰していた。 著者らは「軌跡の異なる3つの群が確認された。女性と高齢は、治療開始時の病欠リスクの高さと関連が認められ、治療終了時の抑うつ症状の残存は、継続的な病欠を予測していた。患者の特性に合わせて治療を調整し、層別化することで、将来の患者の治療アウトカムが改善する可能性がある」としている。

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混合症状を伴う双極性障害患者への推奨治療~CANMAT/ISBDガイドライン

 2018年、カナダ気分・不安治療ネットワーク(CANMAT)および国際双極性障害学会(ISBD)のガイドラインでは、双極性障害に対する実臨床における治療に関する推奨事項が示されている。これらのガイドラインにおいて、混合症状が治療選択に及ぼす影響について解説されているが、特定の推奨事項は示されておらず、現時点でアップデートが必要な重大なポイントである。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLakshmi N. Yatham氏らは、CANMATおよびISBDガイドラインにおける混合症状を伴う双極性障害患者への推奨治療について解説を行った。Bipolar Disorders誌オンライン版2021年10月2日号の報告。 双極性障害における混合症状に関する研究の概要、改訂されたCANMATおよびISBDの評価方法を用いた推奨治療について解説した。高品質のデータ不足、専門家の意見への依存、制限などについても解説した。 主な結果は以下のとおり。・DSM-Vで定義された混合症状を伴う躁病エピソードまたはうつ病エピソードに対する第1選択治療に関して、水準を持たした薬剤はなかった。・躁病+混合症状の場合には、第2選択治療として、アセナピン、cariprazine、バルプロ酸、アリピプラゾールが挙げられた。・うつ病+混合症状の場合には、第2選択治療として、cariprazine、ルラシドンが挙げられた。・研究の歴史の長いDSM-IVで定義された混合症状に対しては、第1選択治療にアセナピンとアリピプラゾール、第2選択治療にオランザピン(単剤または併用)、カルバマゼピン、バルプロ酸が挙げられている。・DSM-Vでは、混合症状後の維持療法に関する研究は非常に限られており、第3選択治療は、専門家の意見に基づいていた。・DSM-IVでは、混合症状後の維持療法に対し第1選択治療にクエチアピン、第2選択治療にリチウム、オランザピンが挙げられていた。 著者らは「CANMATおよびISBDでは、これらのガイドラインを通じてさまざまな症状を有する患者に対応する臨床医をサポートし、このような一般的かつ複雑な臨床状態の診断・治療を改善するための研究への投資に影響することが望まれる」としている。

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アトピー性皮膚炎の精神面への影響、4歳児でも

 英国の小児1万1千例超を長期10年にわたって追跡したコホート研究で、小児におけるアトピー性皮膚炎(AD)とメンタルヘルスの関連が明らかにされた。重症ADは、小児期のうつ症状および内在化症状を呈する可能性を約2倍増大することが、また、軽症~中等症ADはうつ症状との関連は認められなかったが、4歳という早い時期に内在化問題行動との関連が認められたという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のChloe Kern氏らが報告した。 先行研究で成人におけるADとメンタルヘルス状態の関連は明らかにされているが、小児に関しては、世界中でADの大きな負荷が問題になっているが、メンタルヘルス併存疾患の発症に関する文献は限られている。JAMA Dermatology誌2021年10月号掲載の報告。 研究グループは、小児および思春期の複数時点で、ADと内在化問題行動およびうつ症状との関連を調べ、また喘息/鼻炎、睡眠、炎症など潜在的な媒介因子を調べる住民ベースの縦断的出生コホート研究を行った。UK Avon Longitudinal Study of Parents and Childrenの登録児について、出生から平均10.0年間(SD 2.9)追跡した児のデータを解析した。データの収集期間は1990年9月6日~2009年12月31日で、解析は2019年8月30日~2020年7月30日に行われた。 屈面性皮膚炎(flexural dermatitis)に関する標準化質問票によって測定した年間AD有病率を、月齢6ヵ月~18歳の11時点で評価。主要評価項目は、うつ病の症状(10~18歳の5時点でShort Moods and Feelings Questionnaireを用いて得た小児からの回答で測定)、内在化問題行動(4~16歳の7時点でEmotional Symptoms subscale of the Strength and Difficulties Questionnaireを用いて得た母親からの回答で測定)であった。 主な結果は以下のとおり。・解析には、1万1,181例の小児が含まれた(男子5,721例[51.2%])。・期間中のうつ症状有病率は、6.0~21.6%、内在化問題行動は10.4~16.0%であった。・軽症~中等症ADは、うつ症状との関連は認められなかったが、内在化問題行動は4歳という早い時期に関連が認められた(補正後モデルにおける小児期全体の平均増大オッズ:29~84%)。・重症ADは、うつ症状(補正後オッズ比:2.38、95%信頼区間[CI]:1.21~4.72)、内在化問題行動(1.90、1.14~3.16)と関連していた。・睡眠の質は、上記の関連の一部を媒介していたが、睡眠時間、喘息/鼻炎、炎症マーカー(IL-6、CRP)値の違いによる関連は認められなかった。

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抗精神病薬の最小有効維持用量への挑戦~10年間のフォローアップ調査

 初回エピソード精神疾患に対する抗精神病薬による長期治療の必要性については議論の余地がある。台湾・国立台湾大学のChen-Chung Liu氏らは、抗精神病薬治療の継続か、投与中止かの2つの案を超えた代替案があるかを調査した。Frontiers in Psychiatry誌2021年9月7日号の報告。 本レトロスペクティブ観察研究では、2006年スタートの早期精神疾患研究に参加した患者のカルテデータを分析した。低用量の抗精神病薬投与で良好な機能を達成できている患者にとくに注目した。 主な結果は以下のとおり。・初回エピソード精神疾患患者81例のうち、55例(67.9%)は5年以上のフォローアップ期間を有していた。・多くの患者は非情動性精神疾患に罹患していた(46例、83.6%)。・55例中20例(36.4%)は、最終診察時までフルタイムで就業/教育を続けていた。そのうち15例は、最小有効用量以下の抗精神病薬投与を受けていた(クロルプロマジン[CP]換算量:200mg/日)。・また、55例中10例(18.2%)は、維持療法期間中の抗精神病薬の投与量がCP換算量50mg/日未満と非常に少なく、このことが良好な機能と有意に関連していた。・機能低下と関連していた因子は、男性、入院歴、クロザピン治療歴であった。・抗精神病薬治療が行われていなかった患者は、非情動性精神疾患患者の2例のみであった。 著者らは「抗精神病薬の長期使用を完全に中止できなかったとしても、多くの患者では、初回エピソード精神疾患後の維持治療において、抗精神病薬の低用量投与を実現し、良好な機能を達成することができると考えられる。維持療法中、抗精神病薬の用量を微調整することで再発予防と機能維持のバランスを最適に保つ治療を行うことは、臨床的に注目されるべき課題である」としている。

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精神症状に書道が効果的というメタ解析【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第198回

精神症状に書道が効果的というメタ解析いらすとやより使用中国書道療法(Chinese calligraphy therapy)、要は漢字をきれいに毛筆で書く行動療法の1つですが、これまでの研究を集めてメタ解析したものがあります。ちなみに私、書道は大の苦手で、高校のときに真剣に書いた字を笑われたことがあります。Chu K, et al.Does Chinese calligraphy therapy reduce neuropsychiatric symptoms: a systematic review and meta-analysisBMC Psychiatry. 2018 Mar 7;18(1):62.英語および中国語のデータベースを検索し、入手可能な文献(出版年の下限は問わず)から2016年12月までの文献を検索しました。ランダム化比較試験など信頼性の高い文献を集め、21論文を解析しました。ヘテロな集団ではありますが、書道療法は精神症状を有意に改善させました(p<0.01)。また、不安症状(p<0.001)、抑うつ症状(p<0.001)についても、有意な改善をもたらすことが示されました。統合失調症の症状についても、有意に軽減したと報告されています(陽性症状:p=0.003、陰性症状:p<0.001)。メタ解析に含まれた研究は、ほとんどが15~30人という小規模な比較試験であり、統合して解析するにあたり、不均一な集団になってしまう点が懸念です。大規模な比較試験を行うには、少々手間が掛かる行動療法であることから、なかなかレクリエーションの域を出ない治療法に位置付けられたままになるかもしれません。身体を動かすという点では、大きな筆を持ってパフォーマンスをする書道のほうがメンタルにはよさそうですが、ランダム化比較試験を行うには少々大掛かりになってしまいます。

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血中サイトカインによるうつ病と双極性障害の鑑別

 双極性障害は、うつ病と診断されることも少なくない。その結果、治療が奏効せず、臨床アウトカムが不良となってしまうこともある。現在の双極性障害の診断は、臨床症状の評価に依存しており、これは主にレトロスペクティブであり、記憶バイアスの影響を受ける。フランス・コートダジュール大学のEmanuela Martinuzzi氏らは、うつ状態にある双極性障害患者の鑑別において、うつ病と双極性障害を区別する血液バイオマーカーを特定するため、検討を行った。Brain, Behavior, & Immunity - Health誌2021年3月10日号の報告。 双極性障害またはうつ病の包括基準を満たしたうつ病エピソードを有する患者を対象とした2つの独立した自然主義的コホート研究より臨床データおよび血清サンプルデータを収集した。discovery cohortは462例、replication cohortは133例の患者で構成されていた。患者に対し標準的な診断面接により臨床症状を評価し、現在の治療を含む臨床変数を記録した。採取した血液より31種のサイトカインレベルの評価を行うため、高感度マルチプレックスアッセイを用いた。双極性障害に関連するサイトカインを特定するため、ノンパラメトリックブートストラップ法を組み合わせたペナルティ付きロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・discovery cohortでは、インターロイキン(IL)-6、IL-10、IL-15、IL-27、C-X-Cリガンドケモカイン(CXCL)-10は、双極性障害と正の相関が認められた。・上記の5つのサイトカインのうち、IL-10、IL-15、IL-27は、replication cohortにおいても双極性障害との関連が認められた。 著者らは「気分障害の病態生理学的メカニズムに関する新たな知見が得られる可能性があるため、本結果については、プロスペクティブコホート研究で検証されるべきであろう」としている。

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妊娠中の抗うつ薬、子供の数学の成績に影響か/JAMA

 妊娠中に抗うつ薬を処方された母親の子供は、処方されなかった母親の子供と比較して、数学のテストの点数は2点低く有意差が認められ、国語のテストの点数には差がなかったことが、デンマーク・オーフス大学のJakob Christensen氏らの調査で示された。結果について著者は、「数学の平均点は曝露群で低かったが、差は小さいことから臨床的な意義は不確実である。この研究結果は、妊娠中の母親にうつ病治療を行うことの利点と比較して検討する必要がある」としている。JAMA誌2021年11月2日号掲載の報告。デンマークの後ろ向きコホート研究 研究グループは、妊娠中の抗うつ薬の処方が、義務教育期の子供の標準化されたテストの成績に影響を及ぼすかを評価する目的で、住民ベースの後ろ向きコホート研究を行った(Central Denmark Regionなどの助成を受けた)。 解析には、1997年1月1日~2009年12月31日の期間にデンマークで出生し、公立の小学校または中学校に通い、2010年1月1日~2018年12月31日の期間に「デンマーク全国テストプログラム」の国語(2、4、6、8年生が対象)または数学(3、6、8年生が対象)のテストを受けた7~17歳の児童生徒が含まれた。「デンマーク処方箋登録」から、妊娠中に抗うつ薬の処方を受けた母親の情報が収集された。 関連する交絡因子を補正した線形回帰モデルを用いて、母親が抗うつ薬を処方された子供と処方されなかった子供で、数学と国語の標準化された点数(1~100点、得点が高いほどテスト成績が良い)の差が推算された。数学:52.1点vs.57.4点、国語:53.4点vs.56.6点 57万5,369例(男児51.1%)の児童生徒が解析に含まれ、このうち1万198例(1.8%)が妊娠中に抗うつ薬を処方された母親の子供(抗うつ薬曝露群)であった。テストを受けた時の児童生徒の平均年齢(SD)は、2年生の8.9(0.4)歳から8年生の14.9(0.4)歳の範囲だった。 数学のテストの平均点は、抗うつ薬曝露群が52.1点(95%信頼区間[CI]:51.7~52.6)と、非曝露群の57.4点(57.3~57.4)に比べて有意に低かったが、群間の差は小さかった(補正後群間差:-2.2点、95%CI:-2.7~-1.6)。 一方、国語のテストの平均点は、曝露群が53.4点(95%CI:53.1~53.7)、非曝露群は56.6点(56.5~56.6)であり、両群間に差は認められなかった(補正後群間差:-0.1[95%CI:-0.6~0.3])。

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