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1.

うつ病から双極症への転換リスク比較、SSRI vs.SNRI

 抗うつ薬、とくに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の使用に伴う単極性うつ病から双極症への診断転換リスクの潜在的比較については、依然として議論が続いている。韓国・翰林大学校Ka Hee Yoo氏らは、SSRIおよびSNRIの使用と診断転換リスクとの関連性を調査した。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2025年12月14日号の報告。 国際標準規格であるObservational Medical Outcomes Partnership-Common Data Model(OMOP-CDM)韓国版を用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。対象コホートは、SNRI使用患者で構成され、比較コホートはSSRI使用患者で構成した。主要アウトカムは、抗うつ薬投与開始6ヵ月以上経過後における双極症の新規診断とした。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコア調整後、SSRI使用患者とSNRI使用患者との間で診断転換リスクに有意な差は認められなかった。・分散ネットワーク解析では、1:1傾向スコアマッチング(ハザード比[HR]:1.28、95%信頼区間[CI]:0.90〜1.82、I2=24.1%)および1:2傾向スコアマッチング(HR:1.16、95%CI:0.88〜1.53、I2=0%)のいずれにおいても、SNRI使用患者はSSRI使用患者と比較し、診断転換リスク上昇に有意な関連が認められなかった。 著者らは「本研究では、SSRI使用患者とSNRI使用患者との間で双極症への診断転換リスクに有意差は認められなかった」としている。

2.

統合失調症患者における遺伝と性差との関係

 親が統合失調症の場合、世代を超えてメンタルヘルスリスクに影響を及ぼすが、性別による伝播パターンは、依然として十分に定量化されていない。中国・北京大学のZhi Sheng氏らは、中国における統合失調症患者の子供における、親が報告した伝播率と家族性のリスク因子を調査した。The Lancet Regional Health誌2025年12月号の報告。 統合失調症患者2万7,315例とその子供3万5,772例を対象に横断研究を実施した。子供の精神疾患の診断は、親が報告し、その後、医療管理システムを通じて確認した。年齢と性別で標準化した伝播率は、2020年の中国国勢調査を参照した。ロバストポアソン回帰分析により、調整伝播率比(aRR)を算出した。多変量ロジスティックモデルを用いて、若年子孫のリスク因子を特定した。 主な結果は以下のとおり。・親が報告した子供における伝播率は2.68%(95%信頼区間[CI]:2.52〜2.85)であり、統合失調症スペクトラム障害(1.42%)が大部分を占めた。・人口統計学的標準化後の標準化率は2.53%(95%CI:2.01〜3.05)であった。・親の疾患発症後に妊娠した場合では、子供のリスクが86.0%増加することが示された。・リスク上昇と有意な関連が認められた因子は、第1子(aRR:1.67)、低所得世帯(aRR:1.43)、男児(aRR:1.14)であった。・親の年齢の影響も性別特異性が認められた。・未成年(17歳未満)の子供を対象としたサブグループ解析では、母子間での影響は、親の発症後の出産(オッズ比[OR]:2.48、p<0.001)、世帯収入の低さ(OR:2.32、p<0.001)、出生前の抗精神病薬の使用(OR:1.69、p<0.001)と関連が認められた。・父子間での影響は、父親のみによる養育(OR:2.15、p<0.001)、世帯収入の低さ(OR:1.97、p<0.001)、男児(OR:1.79、p=0.001)と関連していた。・両親による養育は、母子および父子の統合失調症群の両方において、強力な保護効果であることが示唆された(OR:0.75、95%CI:0.51〜1.10)。 著者らは「本研究の結果は、家族集積、性別によって異なる周産期曝露、そして養育環境の間に重要な相互作用があることを浮き彫りにした。政策の優先事項としては、性別に基づいた遺伝カウンセリング、出生前の薬物モニタリング、そして養育の不平等を解消するための家族支援プログラムを統合する必要がある」としている。

3.

コロナワクチン接種を躊躇する理由を大規模解析についてのコメント(解説:栗原宏氏)

特徴・ワクチン接種に関して「どの階層」が「どんな理由で」ためらったかを明らかにし、経時的な変化と実際の接種行動を調査している。・自己申告ではなく、本当に接種したかまでNHSワクチン記録で追跡している。 本調査は、イギリスの一般住民を対象とした大規模COVID-19モニタリングプログラムに参加した成人113万人を対象として、COVIDワクチンに対する態度(ためらいや拒否など)とその後実際にワクチンを接種したかどうかをNHSワクチン記録と照合して分析したコホート研究である。 この研究のポイントは、ワクチン接種への考え方が変化しやすい群と拒否や不信が強く接種に至りにくい群を、理由・属性と併せて定量的に示した点にある。 多変量ロジスティック回帰の結果では、接種を躊躇する傾向が強いのは、若年層(18~24歳)、女性、白人以外の民族(とくに黒人)、社会経済的な不利、低学歴、失業・非労働人口、COVID既感染、うつ病・不安症、喫煙者であった。最終的に接種しなかったことと関連した要因として・学歴が低い・失業・非労働人口・COVID既感染歴・喫煙者・うつ病、不安症などの精神疾患(自己申告)が挙げられている。未接種の理由としては、・ワクチン全般に反対・COVIDの影響が誇張されていると認識している・ワクチン開発者を信頼していない・COVIDは自分にとってリスクではないと感じているといった回答と強く結びついていた。 COVIDワクチンへの躊躇の多くは「効果」「安全性」「長期的影響」に関する具体的な懸念に由来しており、これらは時間経過、情報提供によって解消されやすい。これに対して、「ワクチン全般への拒否感」「COVIDそのものへのリスク認識の低さ」「政府・専門科・情報への不信」を背景にした人たちは最後まで接種しない傾向が強い。 本研究よりも小規模な調査が日本国内でも実施されており、ほぼ同様に若年層や女性、低学歴・低所得・既感染・不信感の強い層では接種に躊躇する傾向が報告されている。イギリスでの調査ではあるが、日本においても属性による経時的な考えの変化があると推測される。ワクチン接種を推奨するに当たり、一律の情報提供では不十分で、理由・属性ごとに「変わりやすさ」が異なることを踏まえた対応が求められる。

4.

うつ病か?せん妄か?うつ病の過剰診断の現状

 精神科以外の臨床医によるうつ病とせん妄の誤診は一般的である。うつ病の過剰診断は、正常な情緒反応へのスティグマやせん妄への対応遅延につながる可能性がある。米国・クリーブランド・クリニックのMolly Howland氏らは、精神科以外の医療サービスとコンサルテーション・リエゾン精神科(CLP)サービスとの間における診断の一致率を調査するため、多施設におけるレトロスペクティブカルテレビューを実施した。Journal of Psychosomatic Research誌2026年2月号の報告。 クリーブランド・クリニックの2施設における入院患者を対象に、うつ病およびせん妄の紹介について調査した。紹介理由とCLPサービスの診断の一致率を評価した。従属変数として、うつ病の過剰診断、うつ病と誤診されたせん妄を、独立変数として、チームの主要専門分野、人口統計学的、臨床的変数を用いて、多変量ロジスティック回帰モデルを実施した。 主な結果は以下のとおり。・診断一致率は、せん妄で88%、厳密なうつ病診断で67%、広義のうつ病診断で80%であった。・CLP精神医学的診断を受けなかったうつ病で紹介された患者のうち、適応障害が49%、不安症/強迫症が18%、せん妄が16%、神経認知障害が4%で診断された。・高齢、過去の精神医学的診断は、うつ病の過剰診断の可能性を低下させた。・向精神薬の使用は、せん妄がうつ病と誤診される可能性を高めた。 著者らは「プライマリケアでは、うつ病が過剰診断されており、せん妄はより正確に診断されていた。しかし、代替診断のほとんどが不安症/強迫症であったことを考えると、プライマリケアは心理的苦痛の特定に長けているように思われ、これは精神科医によるスティグマ解消の啓発や教育活動に関連している可能性がある。プライマリケアでは、過去の精神疾患診断をうつ病のリスク因子として認識し、高齢者の症状にも配慮していたが、過去の向精神薬の使用はバイアスをもたらす可能性が示唆された。直接的な知識や態度の評価を含む、さらなる研究が今後求められる」としている。

5.

コロナ禍で新規診断が増えた疾患・減った疾患/BMJ

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMark D. Russell氏らによる、OpenSAFELY-TPPを用いたコホート研究の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、うつ病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、乾癬、骨粗鬆症の新規診断は予測値を下回ったのに対し、慢性腎臓病は2022年以降に診断数が急増し、サブグループ解析ではとくに認知症に関して民族および社会経済的状況により新規診断数の回復パターンに差があることが示された。著者は、「本研究は、日常診療で収集される医療データを用いた疾病疫学のほぼリアルタイムのモニタリングの可能性を示すとともに、症例発見の改善や医療の不平等を検討するための戦略立案に寄与する」とまとめている。BMJ誌2026年1月21日号掲載の報告。イングランドの約3千万例対象、COVID-19パンデミック前後の慢性疾患の新規診断と有病率を解析 研究グループは、2016年4月1日~2024年11月30日に、OpenSAFELY-TPPプラットフォームにデータを提供している一般診療所に登録され、かつ診療所に対して直接の医療に関与しない組織への個人データの共有を希望しない旨の登録をしていない患者2,999万5,025例を対象として、19の慢性疾患について年齢・性別標準化発症(新規診断)率および有病率の経時推移を検討した。 19の慢性疾患は、喘息、アトピー性皮膚炎、冠動脈心疾患、慢性腎臓病(ステージ3~5)、セリアック病、COPD、クローン病、認知症、うつ病、2型糖尿病、てんかん、心不全、多発性硬化症、骨粗鬆症、リウマチ性多発筋痛症、乾癬、関節リウマチ、脳卒中/一過性脳虚血発作、潰瘍性大腸炎。 COVID-19パンデミックが、これら慢性疾患の診断に与えた影響を評価する目的で、パンデミック前のパターンから予測された期待診断率に基づく季節変動自己回帰和分移動平均(seasonal autoregressive integrated moving average:SARIMA)モデルを用い、パンデミック発生後の予測診断率と実際の観察診断率の差を比較した。パンデミック初年度に新規診断が急減、4年後もうつ病などは減少したまま パンデミック発生後の新規診断率はパンデミック前と比較し、初年度(2020年3月~2021年2月)に19疾患のすべてで急減した。ただし、その後の回復傾向は疾患ごとに異なった。 2024年11月時点でも、いくつかの疾患では新規診断数が予測値を下回っており、とくにうつ病(予測より-73万4,800件[-27.7%]、95%予測区間[PI]:-76万6,400~-70万3,100)で減少幅が最も大きく、喘息(-15万2,900件[-16.4%]、95%PI:-16万8,300~-13万7,500)、COPD(-9万100件[-15.8%]、-9万8,900~-8万1,400)、乾癬(-5万4,700件[-17.1%]、-5万9,200~-5万100)、骨粗鬆症(-5万4,100件[-11.5%]、-6万1,100~-4万7,100)も大きく減少した。 一方、慢性腎臓病の診断数は、パンデミック初期に減少したものの、2022年以降はパンデミック前の水準を上回る増加を示した(予測より35万9,000件[34.8%、95%PI:33万3,500~38万4,500]増加)。 人種および社会経済的状況で層別化したサブグループ解析の結果、パンデミック初期の減少後、白人および社会経済的困窮度が低い地域では、認知症の診断率がパンデミック前の水準を上回って増加したが、他の人種および困窮度が高い地域では増加しなかった。

6.

睡眠障害やうつ病は急性冠症候群リスクと関連するか?~メタ解析

 精神疾患と急性冠症候群との関連を評価したシステマティックレビューおよびメタ解析により、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害、睡眠障害、うつ病が急性冠症候群のリスク増加と関連し、PTSDと睡眠障害は睡眠の質が心血管疾患アウトカムに潜在的に関与する可能性があることが、カナダ・カルガリー大学のArnav Gupta氏らによって示された。JAMA Psychiatry誌オンライン版2026年1月14日号掲載の報告。 これまでの研究により、精神疾患は従来の心血管リスク因子と関連し、それらを介して急性冠症候群のリスクを高める可能性が示唆されているが、精神疾患ごとのリスクについては十分明らかにはなっていなかった。そこで研究グループは、精神疾患のない患者と比較して、精神疾患を有する患者における急性冠症候群との関連性を評価するためにシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。MEDLINE、EmbaseおよびPubMedを用いて、精神疾患と急性冠症候群との関連性を調査した観察研究またはランダム化試験を抽出した。データはランダム効果メタ解析で統合した。 主な結果は以下のとおり。●25件の研究が包含基準を満たした。参加者は2,204万8,504例で、年齢中央値は48.0歳、男性は1,301万9,897例(59.1%)であった。●PTSD、不安障害、睡眠障害、うつ病は急性冠症候群のリスク増加と関連していた。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 ・PTSD HR:2.73、95%CI:1.94~3.84、p<0.001、エビデンスの確実性:中  ・不安障害 HR:1.63、95%CI:1.40~1.89、p<0.001、エビデンスの確実性:低 ・睡眠障害 HR:1.60、95%CI:1.22~2.10、p<0.001、エビデンスの確実性:低 ・うつ病 HR:1.40、95%CI:1.11~1.78、p=0.01、エビデンスの確実性:非常に低●双極症および精神病性障害は、急性冠症候群のリスク増加との有意な関連は認められなかった。 ・双極症 HR:1.48、95%CI:0.47~4.61、p=0.28、エビデンスの確実性:非常に低 ・精神病性障害 HR:0.97、95%CI:0.01~178.30、p=0.06、エビデンスの確実性:非常に低 研究グループは「本システマティックレビューとメタ解析の結果は、うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害が急性冠症候群のリスク増加と関連していることを示唆している。とくに、PTSDと睡眠障害は急性冠症候群の重要なリスク因子として浮上し、睡眠の質が心血管疾患のアウトカムに潜在的に関与する可能性がある」とまとめた。

7.

精神疾患早期介入プログラムで治療を受けた患者のLAI抗精神病薬継続率は?

 精神疾患の早期介入プログラムで治療を受けた患者は、通常治療を受けた患者と比較し、治療成績が良好であり、長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬の使用率が20~50%と高くなるといわれている。このプログラムでは通常2~3年間治療が行われ、その後、多くの患者は他の精神保健サービスへ移行し退院する。また、罹病期間がより長期の統合失調症患者を対象とした研究において、経口抗精神病薬への切り替えが一般的に行われている可能性が示唆されている。しかし退院後のフォローは、複数の臨床サービスや医療提供者間での患者記録の移行という課題によって複雑化しているのが現実である。カナダ・ダルハウジー大学のCandice E. Crocker氏らは、精神疾患の早期介入サービス(EIS)から退院した後に、LAI抗精神病薬の使用が継続されるかどうかを調査した。Therapeutic Advances in Psychopharmacology誌2025年10月16日号の報告。 本レトロスペクティブコホート研究では、精神疾患のEISによる治療を完了した患者を対象に、LAI抗精神病薬による治療の継続または中止の影響を検討した。2016~18年の3年間にわたる、精神疾患のEISを受け退院した患者のレトロスペクティブコホートを作成し、退院時および退院後6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月時点での、その後2年間の精神保健アウトカムと処方された抗精神病薬についてフォローアップ調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・カナダの3州にある3施設から退院し、完全なフォローアップ調査が実施可能であった85例の患者のうち、60例(71%)が24ヵ月後もLAI抗精神病薬を継続していた。・EIS入院時のコホートにおける患者の平均年齢は22±4.7歳であった。・退院時に最も多く使用されたLAI抗精神病薬はアリピプラゾールであり、LAI抗精神病薬を継続していた患者の多くは24ヵ月後も同一製剤を使用していた。・中止の主な理由は、患者からの希望であった。・LAI抗精神病薬を継続した患者と継続しなかった患者では、再入院の減少という点において臨床転帰に有意差が認められた。 著者らは「精神疾患のEISの利用は、退院後24ヵ月が経過しても、LAI抗精神病薬継続の良好なアドヒアランスと関連していることが示唆された」としている。

8.

中年期のうつ病の6つの症状が将来の認知症と関連

 中年期のうつ病は、これまで認知症リスクの増加と関連付けられてきた。しかし、新たな研究で、認知症と関連するのはうつ病全体ではなく、6つの特定の症状から成るクラスターである可能性が示唆された。研究グループは、これら6つの症状に焦点を当てることで、中年期に抑うつ症状に苦しんでいる人が将来、認知症を発症するのを回避できる可能性があると述べている。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のPhilipp Frank氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Psychiatry」に12月15日掲載された。 Frank氏は、「認知症リスクは、うつ病全体ではなく、限られた数の抑うつ症状と関連している。症状レベルでのアプローチにより、認知症が発症する何十年も前から、認知症を発症しやすい人をこれまでよりも明確に把握できるはずだ」と述べている。 この研究では、英国の長期健康研究(Whitehall II研究)に参加した45〜69歳の成人5,811人(ベースライン時の平均年齢55.7歳、女性28.3%)を対象に解析が行われた。参加者の抑うつ症状は、ベースライン時の1997~1999年に30項目から成るGeneral Health Questionnaire(GHQ-30)により評価された。 平均22.6年間の追跡期間中に、586人(10.1%)が認知症を発症していた。GHQ-30の30項目を個別に検討したところ、6つの症状が認知症リスクと有意に関連することが明らかになった。それらは、1)自信を失っている(ハザード比1.51)、2)問題に立ち向かえない(同1.49)、3)他人に対するやさしさや愛情を感じない(同1.44)、4)常に緊張や不安を感じている(同1.34)、5)仕事や作業の進め方に満足できない(同1.33)、6)集中できない(同1.29)、である。一方で、睡眠障害、自殺念慮、抑うつ気分といった他の症状は、認知症リスクと有意な関連を示さなかった。 研究グループは、これらの6つの症状は、社会的関わりの減少や、脳を刺激する経験の減少につながる可能性があり、その結果、損傷や疾患の影響を受けた場合でも脳が正常な思考を維持する能力が低下する可能性があると指摘している。 論文の上席著者であるUCLの社会疫学教授のMika Kivimaki氏は、「うつ病には単一の形があるわけではない。症状は多様で、不安と重なり合うことも多い。われわれは、こうした微妙な症状パターンにより、認知症の発症リスクが高い人を明らかにできることを示した。この知見は、より個別化され、効果的なメンタルヘルス治療へとわれわれを1歩近付ける」と述べている。ただし、研究チームは、これらの結果を確認するためにはさらなる研究が必要だとしている。 英アルツハイマー病協会の研究・イノベーション部門アソシエイトディレクターであるRichard Oakley氏は、認知症とうつ病の関係は複雑だと指摘する。同氏は、「この新たな観察研究が、認知症とうつ病の関連を解きほぐし始めている点は心強い。それでも、うつ病の人の全てが認知症を発症するわけではなく、また、認知症の人の全てがうつ病を発症するわけでもないことを忘れるべきではない」と話している。

9.

うつ病の死亡リスク調査、抗うつ薬治療の影響は?~メタ解析

 うつ病は早期死亡と関連していることが報告されている。しかし、抗うつ薬治療を含む増悪因子や保護因子にも焦点を当て、うつ病患者における全死亡リスクおよび原因別死亡リスクを包括的に検討したメタ解析はこれまでなかった。中国・香港大学のJoe Kwun Nam Chan氏らは、あらゆる原因および特定の原因によるうつ病、併存疾患を有するうつ病における死亡リスクを明らかにするため、コホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、推定値を統合した。World Psychiatry誌2025年10月号の報告。 抗うつ薬および電気けいれん療法(ECT)の影響、死亡リスクのその他の潜在的な調整因子を評価した。2025年1月26日までに公表された研究をEMBASE、MEDLINE、PsycINFOデータベースより検索し、ランダム効果モデルを用いて死亡率推定値を統合した。出版バイアス、サブグループ解析、メタ回帰分析、ニューカッスル・オタワ尺度を用いた研究の質の評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・268件の研究(うつ病患者:1,084万2,094例、対照群:28億3,793万3,536例)が抽出された。・うつ病患者の全死亡率は、非うつ病患者/一般集団と比較し、2倍以上であった(相対リスク[RR]:2.10、95%信頼区間[CI]:1.87~2.35、I2=99.9%)。・とくに自殺(RR:9.89、95%CI:7.59~12.88、I2=99.6%)による死亡リスクが高く、自然死(RR:1.63、95%CI:1.51~1.75、I2=99.6%)でも上昇が認められた。・併存疾患をマッチングさせたうつ病患者と非うつ病患者との比較では、うつ病関連死亡リスクの有意な上昇も認められた(RR:1.29、95%CI:1.21~1.37、I2=99.9%)。・精神症状を伴ううつ病と伴わないうつ病(RR:1.61、95%CI:1.45~1.78、I2=6.3%)、治療抵抗性うつ病と非治療抵抗性うつ病(RR:1.27、95%CI:1.16~1.39、I2=85.3%)の間に、死亡リスクの差が認められた。・抗うつ薬の使用は抗うつ薬を使用しない場合と比較し、うつ病患者の全死亡率の有意な低下と関連していた(RR:0.79、95%CI:0.68~0.93、I2=99.2%)。・ECTの使用はECTを使用しない場合と比較し、全死亡(RR:0.73、95%CI:0.66~0.82、I2=0%)、自然死(RR:0.76、95%CI:0.59~0.97、I2=12.0%)、自殺(RR:0.67、95%CI:0.53~0.85、I2=32.3%)のリスク減少と関連していた。 著者らは「本研究結果は、うつ病における死亡リスクの上昇を裏付け、死亡リスクの上昇を示す臨床的に意義のある患者サブグループを特定し、抗うつ薬治療とECTによる死亡率低下効果を明らかにしている。身体的健康の改善と自殺リスクの軽減、抗うつ薬治療の最適化、精神病性うつ病や治療抵抗性うつ病の早期発見と効果的な介入などを推し進める多角的なアプローチは、依然として拡大しているうつ病における死亡率の格差の縮小に役立つ可能性がある」と結論付けている。

10.

若者の精神疾患の世界的負担、30年間の変化と今後の予測

 精神疾患は、世界の非致死性疾患負担の主な原因の1つであり、小児、青年、若者の間で有病率が上昇している。中国・Northwest Women's and Children's HospitalのWei Liu氏らは、GBD 2021データを用いて、9つの精神疾患について、1990~2021年の地域、年齢、性別による推定値を分析し、2050年までの負担を予測した。Frontiers in Public Health誌2025年9月16日号の報告。 年齢調整有病率(ASPR)および障害調整生存年数率(ASDR)の平均年変化率(AAPC)および年変化率(APC)を算出した。分解分析、不平等分析、フロンティア分析、比較リスク分析、ベイズ統計を用いた年齢・時代・コホート分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1990年と比較し、2021年の世界の負担は若年層で有意に増加した。【ASPR】AAPC:0.15、95%信頼区間(CI):0.14~0.16【ASDR】AAPC:0.40、95%CI:0.29~0.51・若年層における世界的負担は、2019年以降に急増した。【ASPR】APC:4.74、95%CI:4.55~4.93【ASDR】APC:6.64、95%CI:4.88~8.42・男性は女性よりも負担が大きく、年齢層によって性別特有のパターンに、ばらつきが見られた。・負担は、社会人口統計指数(SDI)により大きく異なり、SDIの高い地域では最も高かった(ASPR:1万2,913.13、95%不確実性区間[UI]:1万1,135.82~1万4,874.98、ASDR:1,750.41、95%UI:1,253.46~2,328.87)。・9つの精神疾患の負担の変化は、世界レベル、地域レベル、国レベルで異なっていた。・分解分析では、有病率と障害調整生存年数(DALY)の変化は、主に人口増加(各々、84.86%、57.92%)に起因しており、SDIの高い地域で最も顕著な改善が見られた。・フロンティア分析では、高所得国・地域では負担軽減の可能性があることが示唆された。・世界的に、不安症、うつ病、特発性発達性知的障害の主なリスク因子として、小児期の性的虐待、いじめ、親密なパートナーによる暴力、鉛曝露が特定された。・2050年までに精神疾患の負担は減少すると予測された(人口10万人当たりASPR:6,120.71、95%CI:3,973.57~8,267.85、人口10万人当たりASDR:844.71、95%CI:529.48~1,159.94)。 著者らは「2050年までに精神疾患の負担は減少すると予測されているものの、世界の精神疾患の負担は増加しており、人口間で大きな格差が認められた。近年の急増傾向により、世界的な予防の強化と公平な医療の拡充が求められている」とまとめている。

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早期から症状改善が期待できるうつ病治療薬「ザズベイカプセル30mg」【最新!DI情報】第55回

早期から症状改善が期待できるうつ病治療薬「ザズベイカプセル30mg」今回は、うつ病治療薬「ズラノロン(商品名:ザズベイカプセル30mg、製造販売元:塩野義製薬)」を紹介します。本剤は既存の抗うつ薬とは異なる作用機序を有するアロプレグナノロン様GABAA受容体機能賦活薬であり、投与開始後早期からの症状改善が期待されています。<効能・効果>うつ病・うつ状態の適応で、2025年12月22日に製造販売承認を取得しました。本剤は抑うつ症状が認められる患者の急性期治療に用いる薬剤であり、抑うつ症状が寛解または回復した患者における再燃・再発の予防を目的とした投与は行いません。<用法・用量>通常、成人にはズラノロンとして30mgを1日1回14日間夕食後に経口投与します。なお、本剤による治療を再度行う場合は、投与終了から6週間以上の間隔を空けます。<安全性>重大な副作用として、錯乱状態(頻度不明)があります。その他の副作用として、傾眠(20.0%)、めまい(12.6%)、頭痛、悪心、下痢、口渇・口内乾燥、ALT上昇、浮遊感、倦怠感(いずれも1~5%未満)、発疹、振戦、鎮静、注意力障害、健忘、嘔吐、腹部不快感、腹痛、AST上昇、γ-GTP上昇、歩行障害、酩酊感(いずれも1%未満)、嗜眠(頻度不明)があります。薬物依存を生じる恐れがあるので、用法・用量を遵守するとともに、本剤による治療を再度行う場合には、治療上の必要性を十分に検討する必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内の神経伝達物質の働きを高め、情報伝達を活性化することで、うつ症状を改善します。2.薬物依存を生じる恐れがあるので、用法・用量を必ず守ってください。3.アルコールはこの薬の作用に影響するため、飲酒は控えてください。4.眠気やめまいなどの副作用が現れることがあります。自動車の運転や危険を伴う機械の操作は避けてください。5.うつ病やうつ状態の人は死んでしまいたいと感じることがあります。不安感が強くなったり、死にたいと思ったりする症状が悪化する場合があるので、このような症状が現れた場合には、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>うつ病は、抑うつ気分や不安、睡眠障害、意欲低下などにより日常の生活に支障を来す精神疾患です。疫学調査によれば、日本におけるうつ病の患者数は約500万例と推測されています。薬物治療には主に抗うつ薬が用いられますが、効果発現までに数週間を要し、継続的な服用が必要となるため、即効性のある治療薬が求められてきました。本剤は、既存の抗うつ薬とは異なる作用機序を有するアロプレグナノロン様GABAA受容体機能賦活薬です。ポストシナプス領域内外のGABAA受容体にポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)として作用し、GABAA受容体機能を増強します。これにより、うつ病態でみられる気分、不安、睡眠に関与する神経の興奮と抑制の均衡や協調的な神経ネットワーク活動の調節不全を改善します。本剤は、抑制系神経細胞に直接作用すると考えられているので、従来の抗うつ薬よりも迅速な効果発現が期待され、うつ症状が強く現れる急性期治療を目的に使用されます。本剤の用法・用量は1日1回14日間の経口投与です。十分な効果を得るとともに、副作用の日中に及ぼす影響を考慮して夕食後に30mg(1カプセル)を経口投与します。なお、本剤は再発・再燃予防を目的とした寛解後の維持期治療には使用できません。本剤による再治療を行う場合は、前回の投与終了から6週間以上の間隔を空ける必要があります。海外では、産後うつ病に対する治療薬として2023年8月に米国、2025年8月に英国、2025年9月に欧州で承認されています。日本人大うつ病性障害患者を対象とした国内第III相単剤検証試験(A3734試験)において、主要評価項目である15日時のハミルトンうつ病評価尺度17項目版(HAM-D17)合計スコアのベースラインからの変化量は、本剤30mg群で-7.43±0.40、プラセボ群で-6.23±0.41であり、2群間の調整平均値の差は-1.20(95%信頼区間:-2.32~-0.08)でした。本剤30mg群の15日時のHAM-D17合計スコアは、プラセボ群よりも統計学的に有意にベースラインから減少しました(p=0.0365)。

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薬剤師連携で精神疾患患者の薬理学的介入を最適化できるか

 臨床薬剤師との連携による服薬レビュープロセスは、精神疾患および身体的合併症を有する高齢患者に対する薬物療法の最適化につながる可能性がある。スロベニア・マリボル大学のMatej Stuhec氏らは、服薬レビューにおける臨床薬剤師の推奨が、薬剤数の変化、潜在的に不適切な薬剤(PIM)の使用、潜在的な薬物間相互作用(DDI)、治療ガイドラインの順守などにどのような影響を及ぼすかを評価した。Frontiers in Pharmacology誌2025年9月1日号の報告。 本研究は、スロベニアの精神科病院において、レトロスペクティブ非介入研究として実施された。対象は、2013〜18年に服薬レビューのために紹介され、身体的合併症(心不全、動脈性高血圧、糖尿病)に関連する治療変更を少なくとも1回受けた65歳以上の精神疾患入院患者100例。臨床薬剤師は、Pharmaceutical Care Network Europeの定義によるタイプ3の服薬レビュー(高度な服薬レビュー)を実施した。服薬レビュー完了後すぐに、病院の電子システムに推奨事項を記録した。服薬レビュー前と退院時における電子システムから抽出されたアウトカムのデータをシステマティックにレビューした。主要アウトカムは、介入前後の薬剤数、PIMの使用、DDIの変化とした。DDIは、Lexicomp Onlineデータベースを用いて特定し、Xタイプ(禁忌)およびDタイプ(重篤)に分類した。副次的アウトカムは、心不全、動脈性高血圧、糖尿病の治療ガイドラインの順守とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は78.1±6.78歳であった。・総薬剤数は6.6%減少した(1,144→1,068、p<0.001)。また、承認率は59.2%であった。・レビュー後、XタイプDDIは75.8%減少し(33→8、p<0.001)、DタイプDDIは56.9%減少した(188→81、p<0.001)。・PIM数も有意に減少し(p<0.001)、Priscus Listに基づくと29.5%減少し(308→217)、Beers Criteriaに基づくと17.5%減少した(343→283)。・身体的合併症の治療ガイドラインの順守率は有意に改善した(3.3〜13.2%→50.0〜72.6%、p<0.001)。 著者らは「臨床薬剤師との連携による服薬レビュープロセスは、薬剤数、PIM、DDIを効果的に減少し、治療ガイドラインの順守率も有意に向上させることが示された」としている。

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うつ病や不安症はストレスを通じて心臓病のリスクを高める

 うつ病や不安症の患者は心臓発作や脳卒中などのリスクが高く、そのメカニズムとしてストレス反応や炎症が関与しているとする研究結果が報告された。米マサチューセッツ総合病院のShady Abohashem氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Imaging」に12月17日掲載された。 この研究では、マサチューセッツ総合病院ブリガム・バイオバンクの2010~2020年のデータが用いられた。解析対象者数は8万5,551人で、中央値3.4年(四分位範囲1.9~4.8)の追跡期間中に3,078人(3.6%)が主要心血管イベント(MACE〔心筋梗塞、心不全、脳卒中など〕)を発症していた。 解析の結果、うつ病と診断されている人ではそうでない人よりも、MACEリスクが24%高いことが明らかになった(ハザード比〔HR〕1.24〔95%信頼区間1.14~1.34〕、P<0.001)。また、不安とうつ病が併存している場合には35%のリスク上昇という、より強い関連が認められた(HR1.35〔同1.23~1.49〕、P<0.001)。この関連は、人口統計学的因子、社会経済的因子、生活習慣、心血管疾患の既往を調整した後も有意だった。 解析対象者のうち、ストレスによる神経活動への影響を評価可能な画像検査を1,123人が受け、心電図検査を7,862人が受けていて、1万2,906人は炎症反応のバイオマーカーであるC反応性蛋白(CRP)が測定されていた。それらのデータを解析すると、うつ病と診断されている人はストレスに関連のある脳領域である扁桃体の活動が亢進していて(β=0.16、P=0.006)、神経系が過剰に働いていることを示唆する心拍変動の低下も見られ(β=-0.20、P<0.001)、炎症反応の亢進を意味するCRPの上昇(β=0.14、P<0.001)も認められた。不安症と診断されている人にも同様の傾向が見られた。 Abohashem氏は、「これらの結果は臨床医が心血管疾患のリスクを評価する際に、メンタルヘルスを不可欠な要素として捉える必要があることを、改めて認識させるものだ。一方、患者にとっては、慢性的なストレスや不安、あるいはうつ病に対処することが、単にメンタルヘルス上の優先事項であるというだけでなく、心臓の健康を守るためにも優先すべきだと認識することは、治療の励みになるのではないか」と述べている。 また、論文の上席著者である同院のAhmed Tawakol氏は、「うつ病と不安症はいずれも心臓病や脳卒中のリスク上昇と関連している。そして、より重要なことは、喫煙などの生活習慣や社会経済的要因、および糖尿病や高血圧といった古くから知られているリスク因子を考慮しても、その関連性が依然として強固であった点だ」と、本研究結果の意義を強調している。ただし本研究は観察データに基づく解析であるため、うつ病や不安症と心血管イベントとの因果関係を証明するものではないことが、留意点として挙げられる。

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抗うつ薬の選択で死亡リスクに違いはあるか?

 うつ病は死亡リスクを著しく上昇させることが知られているが、抗うつ薬の使用が長期生存へ及ぼす影響は依然として不明である。中国・Shantou University Medical CollegeのXiaoyin Zhuang氏らは2005~18年の抗うつ薬の使用傾向を調査し、米国の全国代表コホートにおける、うつ病関連死亡率に及ぼす抗うつ薬の影響を定量化するため本研究を実施した。General Hospital Psychiatry誌2026年1・2月号の報告。 米国国民健康栄養調査(NHANES)の7サイクル分(2005~18年)のデータを解析した(成人:1万1,569人)。うつ病の定義は、こころとからだの質問票(PHQ-9)スコア10以上とした。抗うつ薬の使用状況は薬局の認証で確認し、SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬(TCA)、その他に分類した。死亡率との関連性は2019年まで延長し評価した。加重ロジスティック回帰分析を用いて、社会人口統計学的特性、心血管代謝関連疾患、ライフスタイルで順次調整したうえで、うつ病と死亡率との関連性を評価した。媒介解析では、抗うつ薬のパスウェイ効果を定量化し、層別モデルではクラス固有のハザード比(HR)を検証した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病は単独で、全死亡リスクを61%増加させた(完全調整オッズ比:1.61、95%信頼区間:1.24〜2.08)。・抗うつ薬の使用は、うつ病による総死亡率の27.3%に影響を及ぼしていた(p<0.001)。・処方の傾向では、SSRIが主流であり(12.7%→20.1%)、SNRIが急速に増加(3.4%→6.1%)、TCAが減少(2.5%→1.8%)していることが示された。・重要点として、抗うつ薬クラスによって死亡率への影響が異なっていた。すなわち、SNRIは、死亡リスクの低下(HR:0.72)と関連し、SSRIは中立的であった(HR:0.93)。一方、TCAではリスク増加が認められた(HR:1.19)。 著者らは「うつ病は、併存疾患とは無関係に死亡率を大きく上昇させるが、抗うつ薬の選択はこのリスクを緩和することが示唆された。抗うつ薬の選択バイアスの影響が残存する可能性はあるものの、SNRIは生存率向上に有効であり、高リスク集団においてTCAよりもSNRIが優先的に使用されることを裏付けている。本結果は、抗うつ薬クラスがうつ病管理における重要な効果修飾因子であることを示しており、薬物疫学的エビデンスを実臨床に統合する必要性を示唆している」とまとめている。

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重度の精神疾患患者、コーヒー1日4杯で生物学的年齢が5歳若返る?

 テロメア長は細胞老化の指標であり、重度の精神疾患患者は一般集団よりもテロメア長が短い傾向にある。コーヒーの摂取は、酸化ストレスを軽減し、テロメア長の短縮などの生物学的老化プロセスの予防に役立つ可能性があるといわれている。英国国民保健サービスは、1日のカフェイン摂取量を400mg(コーヒー4杯分)に制限することを推奨している。しかし、精神疾患患者におけるコーヒー摂取とテロメア長の役割は、依然として明らかではなかった。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのVid Mlakar氏らは、重度の精神疾患におけるコーヒー摂取とテロメア長との関連を評価するため、横断的研究を実施した。BMJ Mental Health誌2025年11月25日号の報告。 対象は、ノルウェーTOP研究に参加した精神疾患患者436例(統合失調スペクトラム症:259例、感情障害:177例)。白血球テロメア長は、血液からリアルタイムPCR(qPCR)を用いて測定した。コーヒー摂取量は、患者の自己申告により評価し、1日当たりのカップ数(0杯、1~2杯、3~4杯、5杯以上)で定量化した。 主な結果は以下のとおり。・テロメア長とコーヒー摂取量の間に逆J字型が認められた。1日3~4杯でピークに達し、4杯を超えると減少した(F=3.29、p=0.02)。・テロメア長の差が最も長かったのは、推奨最高用量を摂取した患者と非摂取者の間であった(F=6.13、p=0.01)。・推奨用量内でコーヒーを摂取した患者は、交絡因子調整後、テロメア長が長かった。これは、生物学的年齢の5歳若い状態に相当する値であった。 著者らは「推奨用量内でのコーヒー摂取は、重度の精神疾患におけるテロメア長と関連しており、生物学的年齢の5歳若返りに匹敵する値が示された」と結論付けている。

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親のうつ病の特定の症状は子どもの報酬処理に影響か

 親にうつ病があると、その子どももうつ病を発症しやすいことが知られているが、こうしたリスクは、うつ病のある特定の症状に関連している可能性のあることが、新たな研究で示唆された。物事を楽しめない、あるいは物事に興味を持てないといったタイプの親の症状は、周囲で起きていることに対する子どもの反応の仕方に影響を与え得ることが示されたという。米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(SUNY-BU)気分障害研究所のBrandon Gibb氏とElana Israel氏によるこの研究の詳細は、「Journal of Experimental Child Psychology」2026年2月号に掲載された。 Gibb氏らによると、子どもの脳が肯定あるいは否定的なフィードバックにどのように反応するかには、親のうつ病が影響を及ぼすことがすでに明らかにされている。その原因に、物事に対する興味や喜びが失われる状態である「アンヘドニア(無快感症)」と呼ばれるうつ病の症状が関わっている可能性があるとGibb氏らは言う。 Gibb氏らは今回の研究で、7〜11歳の子どもとその親217組を対象に実験を行った。この実験は、親のアンヘドニアの症状が、子どもの報酬系における肯定的あるいは否定的なフィードバック処理にどのような影響を与えるのかを明らかにする目的で計画された。 Israel氏は、「この研究は、物事への興味や関心が薄れ、喜びを感じにくくなるというリスク要因がある場合、それが環境からのフィードバックに対する脳の反応の仕方に反映される可能性があるという考え方に基づいている」と説明している。また同氏は、「親に強いアンヘドニアを伴ううつ病があると、その子どもでは反応が弱くなると予想され、その一方で他のうつ病の症状は、理論的にはこの特定の脳反応にはそれほど強く関連しないはずだ」とニュースリリースの中で述べている。 実験では、子どもに2枚の扉を見せ、向こう側に賞金がある扉を当てるよう指示した。正解の扉を選ぶと賞金が得られ、間違えると失う仕組みだった。その結果、親のアンヘドニアの症状のレベルが高いほど、子どもは賞金を獲得した場合でも、逃した場合でも、その反応は鈍くなる傾向が認められた。一方、アンヘドニアを伴わないうつ病の症状レベルが高い親の場合では、子どもの反応が鈍化する傾向は見られなかった。 Israel氏は、「この結果から言えるのは、親のアンヘドニアに特有の何かが子どもの神経反応に影響を与える可能性があるということだ。さらに、うつ病の中核的特徴である興味や喜びの喪失、関心の低下に陥るリスクが高い子どもの特定につながる研究結果でもある」と述べている。 研究チームは、今後の研究課題として、アンヘドニアの症状がある親が治療を受けたり、状態が改善し始めたりした場合に、家族の相互作用がどのように変化するのかを調べることを挙げている。また、同級生からの社会的フィードバックなど他の種類のフィードバックに対する子どもの反応にも親のうつ病による影響があるのかどうかについて検討することが重要であると述べている。 Israel氏は、「前向きな気分や関心、良好な親子関係の強化を目的とした介入について検討している研究者もいる。今回の知見を活かして、そのような介入による効果が得られる可能性が最も高い家族を特定できるかどうかを検証することが重要だ」と述べている。

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多くの患者はPHQの質問内容を正しく解釈できていない

 診察前に渡される質問票に記入しているとき、意味がよく分からず目がうつろになった経験はないだろうか。それは、あなただけではないようだ。症状に関する質問票に患者が混乱することは珍しくなく、それが身体的疾患や精神疾患の診断や治療の妨げになっている可能性のあることが、新たな研究で示された。米アリゾナ大学ツーソン校心理学分野のZachary Cohen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Psychiatry」に12月17日掲載された。 この研究は、うつ病の重症度評価ツールとして広く用いられているPatient Health Questionnaire(PHQ)に焦点を当てたもの。PHQには、PHQ-2、PHQ-8、PHQ-9など質問項目の数に応じて複数のバージョンがある。しかし、最もよく用いられているPHQ-9でも、質問内容が患者にとって分かりにくい場合があると研究グループは指摘している。この研究では、PHQの質問が症状にどの程度、悩まされたかを尋ねる一方で、回答選択肢は症状の発生頻度に焦点を当てている点に着目し、参加者がこれらの質問と選択肢をどのように理解して反応したかが検討された。 Cohen氏らは、Amazon Mechanical Turk(MTurk)で募集した一般集団503人(平均年齢40.63歳)およびOPTIMA研究の参加者である中等度から重度の抑うつを有する349人(平均年齢33.44歳)を対象に、PHQ-8に回答してもらった。その後、PHQ-8の指示内容をどのように解釈したかを、以下の3つの質問で評価した。まず、「ほぼ毎日眠り過ぎているが、そのことに悩まされていない」という睡眠に関する仮想シナリオを参加者に考えてもらい、その上でPHQ-8の「眠り過ぎ」の質問に回答してもらった。この質問では、「0(全くない)」の回答が「眠り過ぎていることに悩まされていない」を意味する。次に、先の回答は、症状に悩まされた程度に基づいたのか、症状の発生頻度に基づいたのか、それともその両方かを尋ねた。最後に、再びPHQに答える際には2つ目の質問で挙げた3つのうちどれを基準に回答するかと尋ねた。 その結果、仮想シナリオに関してPHQ-8の質問の意図を正しく理解できていた、つまり、症状にどの程度悩まされたかを回答していた人の割合は、MTurk群で54.7%、OPTIMA群では15.5%にとどまっていた。この質問についてCohen氏は、「PHQ-8の指示文を文字通り読めば、この場合は『全くない』と答えるはずだ」と指摘している。また、2つ目の質問について、「症状にどの程度悩まされたか」に基づいて回答したと答えた人の割合は、MTurk群で21.3%、OPTIMA群で11.7%にとどまり、さらに、次回以降も同じ解釈をすると答えた人の割合はそれぞれ22.3%と9.9%であった。 Cohen氏は、「これらの結果は、PHQによる評価は患者が実際に経験していることを正確に反映していないことを示唆している。われわれは多くの場合、患者の抑うつ症状について把握するためにPHQを使う。そうした意味で、『どの程度悩まされていたか』という点は非常に重要だ」と話す。同氏は、「例えば、GLP-1受容体作動薬による減量治療が急増しているが、オゼンピック使用者の食欲低下はうつ症状として数えるべきではない。それが薬を使っている主な理由なのだから」と述べ、「PHQが普及している状況に鑑みると、こうした誤解や理解のずれは、非常に広範な問題につながりかねない」と懸念を示している。 Cohen氏はさらに、「同じ経験をしているのに、人によって正反対の回答をするという状況が望ましいとは考えにくい。それが良い結果をもたらすはずがない。この論文は、実際にそれが起きていること、そしてそれが問題になり得ることを示した」と述べている。その上で同氏は、「今後の研究では、患者にとってより分かりやすくなるよう、質問文の言い回しを変更することに焦点を当てるべきだ」との考えを示している。

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日本における統合失調症患者の退院後の治療失敗と関連する因子は?

 統合失調症スペクトラム症は、社会機能障害を引き起こす最も重篤な精神疾患の1つである。統合失調症スペクトラム症患者は再発しやすく、入院を必要とする患者では、より再発リスクが高いため、退院後の治療失敗を予防することが不可欠である。北里大学の斉藤 善貴氏らは、精神科入院による治療を行った統合失調症スペクトラム症患者における退院後の治療失敗に関連する因子を明らかにするため、レトロスペクティブ研究を実施した。PCN Reports誌2025年10月7日号の報告。 対象は、2014年1月〜2021年12月に北里大学病院および北里大学東病院の精神科に入院した統合失調症スペクトラム症およびその他の精神病性障害と診断された859例。治療失敗の定義は、退院後1年以内の外来治療中止、精神科入院、死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・治療失敗患者は、859例中201例(23.4%)であった。・抗精神病薬多剤併用療法患者の治療失敗率は29.0%であり、多剤併用療法を行っていなかった患者と比較し、有意に高かった。・さらに、入院中に自宅での外泊を試行した患者における治療失敗率は20.8%であり、試行しなかった患者と比較し、有意に低かった。 著者らは「統合失調症スペクトラム症患者において、退院時の抗精神病薬多剤併用は治療失敗と関連していた。さらに、入院中に自宅での試験的な外泊を行うことは、治療失敗の予防に寄与する可能性が示唆された」とし「統合失調症スペクトラム症患者の治療失敗を予防するには、退院後に焦点を当て、薬物療法の最適化と社会的・環境的調整の実施が必要である」と結論付けている。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その3】なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」

今回のキーワード解離性同一症人格部分乳幼児期のトラウマ体験解離性フラッシュバックローカルスリープストレス脆弱性理論トラウマ・スペクトラム愛着タイプD[目次]1.多重人格の特徴とは?2.なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」3.なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル4.脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ心のなかに何人かの別の自分がいる…いわゆる多重人格は何とも不思議で魅惑的です。急に豹変するその様子には、人と接するのに馴れているはずのメンタルヘルスの関係者でも度肝を抜かれることがあります。そして、実は演技じゃないかと疑ってしまうこともあります。はたして、どうなんでしょうか? なぜ多重人格になるのでしょうか? どのようにしてなるのでしょうか?この謎を解き明かすために、今回、再びNHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、多重人格の特徴を説明します。そして脳科学の視点から、乳幼児の脳の特徴を踏まえて、ある仮説を提唱して、多重人格のメカニズムを解き明かします。なお、多重人格の現在の正式名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。また、このドラマについての以前の記事は、関連記事1をご覧ください。多重人格の特徴とは?時は、阪神淡路大震災の直後。精神科医の安(あん)先生は、避難所になっている小学校で診療を続けます。そんななか、安先生はある若い女性を診察するよう頼まれます。彼女の名前は片岡さん。片岡さんの言動から、多重人格の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)心の中に何人かの別の自分がいる―人格部分片岡さんは「これ(予診票の作成)で頭痛薬、いただけるんですか?」と弱々しく話します。しかし、その直後に気を失い倒れてしまい、安先生にベッドで寝かされます。そして、しばらく経って起き上がったら、今度は「にいちゃん、ここ酒あんのか?」「酒もないところで休めるかいな」と荒々しく言い放ちます。あまりの豹変ぶりに、安先生は唖然とします。さらに数日後の診察のあと、安先生は、彼女が小学校の玄関先でうずくまっているのを発見します。安先生が声をかけると、彼女は「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と幼児言葉で泣くのでした。しゃべり方から何から全然違い、まるで別人です。1つ目の特徴は、心の中に何人かの別の自分がいることです。精神医学的には、人格部分と呼ばれます。これは、覚えていること(記憶)をはじめ、気の持ち方(感情)、考え方(思考)、振る舞い方(意欲)、場合によっては感じ方(知覚)などの精神機能が特徴づける自分らしさ(人格)です。それが意図せずに切り替わってしまうのです。なお、意図して何人かの別の「自分」(役)を使い分けている場合は、もちろん演技と呼ばれます。(2)記憶の空白がある-健忘翌日に安先生が、小学校の玄関での出来事を片岡さんに伝えると、彼女は「覚えてません」とまた弱々しく言うだけなのでした。2つ目の特徴は、記憶の空白があることです。精神医学的には、健忘と呼ばれます。これは、それぞれの人格部分との記憶がつながっていないからです。なお、健忘がなく、心のなかに別の自分がいると認識している場合は、二重自我と呼ばれます。また、その別の自分から声が聞こえてくると訴える場合は、幻聴と呼ばれます。これらは、統合失調症の診断が当てはまります。(3)小さい時に虐待されている―乳幼児期のトラウマ体験片岡さんは、安先生に「 父はアパートの管理人をしてて、母は早くに死にました。あたしが小学校に上がる前。父はお酒を飲むと、なんか食えるもんないんかと怒鳴るんです」「いつも取りに(万引きしに)行っていましたと語ります。その後に幼児の人格部分が出てきた時は「ああ、痛い痛い痛い。もうしません、ごめんなさい。許して、パパ」と泣きじゃくります。3つ目は、小さい時に虐待されていることです。精神医学的には、乳幼児期のトラウマ体験と呼ばれます。実際に、多重人格の患者の約90%に、乳幼児期からの繰り返す虐待が報告されています1)。なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」安先生は、片岡さんに「こんなふうに記憶がなくなって、よう困っとるんとちゃう?」「あなたの中にはいくつかの部分があるんやと思う。多重人格。たとえば、あまりにもつらい目に遭うた時、子供はこれは自分の身に起きたことやないと感じる。今苦しんでるのは別の子やと。その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれるんやね。そうやって苦痛をやり過ごした子は、そのあとも複数の人格を生み出しながら、生きていくことになってしまうんや」と説明します。多重人格の原因は、明らかに乳幼児期のトラウマ体験なのですが、それでは実際にはどのようにして人格部分は「生まれる」のでしょうか?脳科学の視点から、多重人格のメカニズムは、同じく解離症に分類される憑依(憑依トランス症)のメカニズムを発展させて解き明かすことができます。そこで、まず憑依のメカニズムを理解する必要があります。この詳細については、関連記事2をご覧ください。憑依のメカニズムは、「ニューラルネットワーク分離作動説」という仮説を提唱して、解き明かしました。ただし、この仮説は、意識から精神機能や身体機能が分離して独自に作動してしまう病態のメカニズムを説明することができますが、作動するだけでなくさらに成長発達までもするメカニズムを説明することはできません。それではさらに、このメカニズムをどう説明すればいいでしょうか?ここで、多重人格の原因となるトラウマ体験の時期は成人期ではなく乳幼児期であることから、子供の脳の特徴に着目します。そして、3つの段階に分けて、多重人格が生まれるメカニズムを解き明かしてみましょう。(1)そもそも小さい子供の記憶はばらばらである幼児は1歳以降でどんどん言葉を覚えていきますが、言葉をつなぎ合わせて出来事(エピソード)を話すようになるのは4歳以降です。また、同じ本の読み聞かせを何度もねだり、同じごっこ遊び(エピソードの演技)を繰り返すのですが、これが少なくとも就学前の6歳まで続きます。つまり、幼児は、エピソード記憶をはじめ脳の機能が未発達であることで、これまでの出来事にしても本の内容にしてもごっこ遊びにしても、大人のようにつながりのある全体的なエピソードとして結び付けたり関連付けることはできず、ばらばらな断片のシーンとしてしか覚えられないのです。だから、読み聞かせもごっこ遊びも何度やっても飽きないのです。1つ目は、そもそも小さい子供の記憶はばらばらである、つまり大人と比べて乳幼児の精神機能はまだ完成(統合)していないことです。ちょうど、前回(2025年11月号)でご紹介した分離脳で脳梁でのネットワークがつながっていないのと同じように、幼児の脳は、エピソード記憶とこれに派生する感情、思考、意欲、場合によっては知覚のニューラルネットワークの複合体の一つひとつがまだ十分につながっておらず、その瞬間を反射的に生きており、意識はその瞬間でころころ変わっていると言えます。また、記憶だけでなく、感情、思考、自己意識などの精神機能もまだ統合されておらず、恐怖を恐怖として感じることができなかったり、体験を過去のこととして俯瞰して自己認識することができないのです。(2)小さい子供はフラッシュバックを現実として認識するその1で地震の揺れ(身体感覚のフラッシュバック)を感じ続ける男の子について説明しましたが、彼は小学生ながらこのフラッシュバックの世界をあたかも現実として認識してしまいそうな危うさがありました。裏を返せば、だからこそ、彼は地震ごっこ(再演遊び)をついやってしまっていたのでした。もしも彼がもっと小さい幼児だったら、そのフラッシュバックを完全に現実として認識していたでしょう。2つ目は、小さい子供はフラッシュバックを現実として認識してしまう、つまり精神機能が未発達であることから自己認識ができず、そのトラウマ体験の記憶(フラッシュバック)の世界が前面に出てしまうことです。これは、解離性フラッシュバックと呼ばれます。大人でも見られることはありますが、圧倒的に子供に多いことが考えられます。このような解離性フラッシュバックは、乳幼児がトラウマ体験を受けた時にPTSDの症状として出てくる場合以外に、もう1つ考えられます。それは、解離性健忘になる場合です。この場合、その体験を含んだエピソード記憶のニューラルネットワークがしばらくローカルスリープになります。この点は、大人と同じです。しかし、その後にそのローカルスリープが再活性化したら、大人のようにその記憶を思い出して心理的なショックを受けたり、ただフラッシュバックが出てくるわけではなく、この解離性フラッシュバックが出てくることが考えられます。そして、多重人格の多くは、主パーソナリティが子供の頃の記憶をあまり思い出せないことから、解離性同一症では、まず解離性健忘になってそのあとに解離性フラッシュバックが出ている後者のパターンであることが考えられます。(3)小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界を生きる解離性フラッシュバックは意識の前面に出て占有していることから、この解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、憑依を引き起こすニューラルネットワークと同じように分離していると考えることができます。この2つの違いは、憑依は宗教儀式(暗示)などによって一時的にしか出現しないのに対して、解離性フラッシュバックは持続して出現することができる点です。よって、解離性フラッシュバックを引き起こすニューラルネットワークは、その解離性フラッシュバックが出ている(ローカルスリープになっていない)時の新たな日常生活の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながっていき、逆にその解離性フラッシュバックが出ていない(ローカルスリープになっている)時の体験の記憶のニューラルネットワークとはつながらずに、人格部分として独立して成長していくと仮定することができます。3つ目は、小さい子供はその解離性フラッシュバックの世界をそのまま生きてしまう、つまり解離性フラッシュバックの記憶のニューラルネットワークが人格部分の土台となり、統合されずに独立してしまい、勝手に成長発達してしまうことです。この記事では、これを「ニューラルネットワーク分離発達説」と名付けます。そして、それぞれの解離性フラッシュバックの出現の時間や頻度によって新たな体験の記憶に差が出てきます。それを考慮すると、かなり成長すれば酒飲みの片岡さんのように成人した人格部分になり、ほとんど成長しなければ幼児言葉を話していた片岡さんのように幼児のままの人格部分になるわけです。よくよく考えると、片岡さんの幼児の人格部分は、成長していないので、当時のトラウマ体験そのままの解離性フラッシュバックであるとも言い換えられます。一方で、成人期に受けたトラウマ体験のフラッシュバックは、大人の脳がすでに完成されていることから、解離性フラッシュバックになったとしてもそもそも短時間(数秒~数分)であり、さらに恐怖で圧倒されて動けないことがほとんどであるため、その時の新たな体験をする間もなく、人格部分として独立して成長していくことはないわけです。だからこそ、成人期に受けたトラウマ体験によってPTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないのです。実際の画像研究では、大人の多重人格において、トラウマ体験の記憶のない主人格とトラウマ体験の記憶のある人格部分のそれぞれの出現時に、中立的な脚本とトラウマ的な脚本をそれぞれ聞かせたところ、主人格の出現時には脚本の違いによって脳の血流パターンに違いは認められませんでした。また、中立的な脚本を聞かせた人格部分との違いも認められませんでした。ところが、トラウマ的な脚本を聞かせた人格部分の脳の血流パターンに限り、違いが認められました2)。このことからも、もちろん多重人格は本人が意図した演技なのではなく、主人格と人格部分のそれぞれ違う脳のニューラルネットワークが交代でローカルスリープになっており、ローカルスリープになっていない(起きている)方が反応していることがわかります。また、ローカルスリープの極端な例として、イルカや渡り鳥は、大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとること(半球睡眠)ができます3)。これは、まさに分離脳と同じように、右脳と左脳のそれぞれの「人格部分」(ニューラルネットワーク)として分離しており、それらが交代制で独立して意思決定をして行動をしていることになります。つまり、イルカや渡り鳥は、多重人格の動物モデルと言えます。人間は、イルカや渡り鳥ほどローカルスリープを進化させてはいませんが、幼児期の重度ストレスは人間のローカルスリープを過剰発達させることができてしまうと言えます。なんで虐待されても多重人格にならないの?―ストレス脆弱性モデル先ほど、虐待されると多重人格になるメカニズムを解き明かしました。一方で、虐待されても多重人格にならない人もいます。その違いは何でしょうか?これは、ストレス脆弱性モデルを使って説明することができます。この理論を簡単に言うと、ストレスが大きければ大きいほど、そしてそのストレスに脳が弱ければ弱いほど発症するということです。実際に、このモデルは多くの精神障害に当てはまります。(1)ストレスが大きければ大きいとまず、ストレスの大きさとしては、明らかに虐待なのですが、さらにそれが繰り返されることも挙げられます。すると、先ほど説明した解離性フラッシュバックがいくつも生まれてしまうわけですが、同時にその回数分だけ脳にダメージを与えるため、それらの解離性フラッシュバックが成長発達とともに統合されにくくなり、結果的に人格部分として残ってしまうと説明することができます。逆に言えば、虐待が繰り返されていない場合はダメージが減るので、解離性フラッシュバックは成長発達とともにやがて統合されて人格部分が残らないことも想定できます。たとえば、虐待が1回だけの場合、解離性フラッシュバックが1回だけ出てきて、人格部分が1つだけ独自に成長して「二重人格」になることはあまりないということです。これは、人格部分が少ない比較的に軽症の症例のほうが統計学的に考えれば多いはずなのに、実際には人格部分の平均人数は8、9人と多く、2、3人の少数の症例はあまり見かけない現象を説明することができます。(2)脳が弱ければ弱いと次に、脳の脆弱性としては、明らかに乳幼児の脳なのですが、とくに脆弱な乳児が挙げられます。実際に、乳児(1歳から1歳半)の愛着タイプを評価するストレンジ・シチュエーション法において、虐待歴のある乳児は、親がいない状況でしばらくして親が戻ってきたら、顔を背けながら近づこうとする特徴(愛着タイプD)が観察されています4)。これは、虐待する親への接近行動と回避行動が同時に現れる奇妙な病態です。このメカニズムは、親に接近しようとするニューラルネットワークと親を回避しようとするニューラルネットワークがまだ交代できず、同時に働いていることが考えられます。ちょうど、「エクソシスト」で紹介した分離脳によるエイリアンハンド症候群に重なります。ただし、このような現象は、年齢が上がると目立たなくなる点で、やはりとくに未発達な脳を持つ乳児特有の一時的な現象と考えられます。そして、この現象からも、幼児よりも乳児の脳はさらに統合されていないことを説明することができます。なお、交代するメカニズムも、それぞれのニューラルネットワーク同士のせめぎ合いの発達から説明することができます。同じように交代する例としては、目の前に伸ばした人差し指2本をつなげると、ソーセージのように見えるのですが、この時にどちらかの指に交互にくっ付くようにも見える視覚現象(両眼視野闘争)が有名です。ちなみに、ストレンジ・シチュエーション法の残りの愛着タイプA、B、Cの3つの詳細については、関連記事3をご覧ください。逆に、成長発達した大人の脳は、乳幼児と比べて脆弱ではないことから、先ほどにも触れたように、成人期に受けたトラウマ体験では、PTSDや記憶喪失にはなっても多重人格にはならないことを説明することができます。また、前回までに紹介した憑依と同じように、脆弱性(ニューラルネットワークの分離のしやすさ)には個人差があることが考えられます。多くは、人格部分ができたとしても大人になって治っていき(統合されていき)、明らかな人格部分は出てこなくなることが考えられます。ただ、その代わりに、フラッシュバックが残って感情のコントロールが難しくなる病態(複雑性PTSD)や、些細なことで人が変わったように急に怒ったり泣いたりする病態(ボーダーラインパーソナリティ症)になることがあります。これらは、まるで「人が変わった」(人格部分が出てきている)ように見える点では、やはり多重人格との連続性があると言えます。単に、本人が「人が変わった」程度をどれくらい自覚できるかどうかの違いです。なお、多重人格、記憶喪失、憑依現象だけでなく、PTSD(単純性PTSD)、複雑性PTSD、ボーダーラインパーソナリティ症の診断基準にも解離症状が含まれており、これらはトラウマ体験(重度ストレス)を原因としている点では連続した病態(トラウマ・スペクトラム)であると言えそうです。脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ安先生が言ったように、従来の精神医学では、「その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれる」という多重人格のメカニズムの解釈がありました。これは、私たちの心に訴える文学的なセンスはあったのですが、残念ながら科学的な根拠はありませんでした。脳科学の視点から多重人格のメカニズムに迫ると、人格部分とは、もともと1つだった人格が部分に分かれたのではなく、もともとエピソード記憶のニューラルネットワークの1つ1つの部分が最終的に1つの大きなエピソード記憶のニューラルネットワーク(人格)につながらなかった(統合されなかった)、つまりこの記事で提唱する「ニューラルネットワーク分離発達説」として理解することができます。つまり、人格部分とは、急にぽんと生まれたのではなく、最終的に1つにならなかっただけだったのでした。そう考えると、多重人格はそれほど不思議な現象でもないように思えてきます。今回、多重人格はどうやってなるかを解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか? 1) DSM-5-TR、p323、日本精神神経学会、医学書院、2023 2) 心の解離構造、p196:エリザベス・F・ハウエル、金剛出版、2020 3) <眠り>をめぐるミステリー、p188:櫻井武、NHK出版新書、2012 4) 乳幼児のこころp104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー映画「エクソシスト」【その1】どうやって憑依するの?-「ニューラルネットワーク分離作動説」あなたには帰る家がある(後編)【なんで倦怠期は「ある」の?どうすればいいの?】スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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日本人統合失調症患者における抗精神病薬の治療パターンと機能アウトカムとの関係

 抗精神病薬の多剤併用や長時間作用型注射剤(LAI)の使用などの治療パターンは、統合失調症患者の機能アウトカムに影響を及ぼすのか。実臨床において、この課題に対する検討は、いまだ十分になされていない。福島県立医科大学の森 湧平氏らは、抗精神病薬の治療パターンと機能アウトカムとの縦断的な関係を明らかにするため、慢性期統合失調症患者を対象に10年間のレトロスペクティブ研究を実施した。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2026年2月号の報告。 対象は、日本人慢性期統合失調症患者114例。1ヵ月当たりの全般的機能評価(GAF)スコア(122ヵ月以上)と抗精神病薬の治療パターン(多剤併用、LAI使用、クロルプロマジン[CP]換算量)との関係を評価した。前月の治療パターンが翌月のGAFスコアを予測するかを、lagged線形混合効果モデルを用いて検証した。抗精神病薬の累積投与量と最終GAFスコアおよび10年間の変化の評価には、最小二乗回帰分析を用いた。未治療期間により層別化し、サブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・GAFスコアは、前月の多剤併用(推定値:+1.50±0.14、p<0.001)およびLAI使用(推定値:+1.89±0.27、p<0.001)と有意な正の関連を示した。また、前月のCP換算量(推定値:3.7×10-3±1.8×10-4、p<0.001)と有意な負の関連が認められた。・入院は、機能アウトカムと負の関連を示した(β=-0.24、p=0.038)。・多剤併用、LAI使用、CP換算量の累積は、最終的なGAFスコアおよび10年間のGAFスコアの変化の両方において有意な関連が認められなかった。・未治療期間によるサブグループ解析では、すべてのモデルにおいて統計的に有意な結果は示されなかった。しかし、未治療期間が12ヵ月未満の患者では、教育水準と入院回数が長期的な機能アウトカムに影響を及ぼすことが示唆された。 著者らは「抗精神病薬の多剤併用およびLAI使用は、短期的なGAFスコアの改善と関連していたが、高用量での使用は機能アウトカム低下を予測した。未治療期間に基づく解析では、全体として有意な関連は認められなかった」としている。

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