サイト内検索

検索結果 合計:3082件 表示位置:1 - 20

1.

州規制下のシロシビンサービス、メンタルヘルス症状の改善と関連

 オレゴン州の規制下にあるシロシビンサービスを利用した人では、シロシビンの使用後に抑うつ、不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのメンタルヘルス症状が改善し、安全性もおおむね良好であったことが、新たな研究で示された。シロシビンはマジックマッシュルームに含まれる幻覚成分で、治療抵抗性うつ病などに対する効果が期待されている。米オレゴン健康科学大学(OHSU)医学部のTodd Korthuis氏らによるこの研究結果は、8月19日付で「JAMA Network Open」に掲載された。 オレゴン州では2020年にシロシビンサービス法が成立し、2023年から21歳以上の成人は、州に認可されたサービスセンターにおいて、ファシリテーターの監督下でシロシビンを利用できるようになった。研究グループによると、これまでに2万人を超える人がシロシビンサービスを利用している。しかし、このサービスの実際の安全性や健康転帰については明確になっていなかった。 今回の研究では、オレゴン州の認可を受けた26カ所のシロシビンサービスセンターのうち24カ所で2024年11月から2026年3月の間にサービスを利用した346人(平均年齢49.5歳、女性52.5%)を対象に、シロシビン療法の安全性と転帰を評価した。参加者は、サービスセンターでシロシビンを1回自己投与し(平均31.9 mg)、1週間後、1カ月後、3カ月後に追跡評価を受けた。追跡は2026年6月まで行われた。 その結果、投与の1カ月後には92.2%が「効果があった」と回答し、58.6%はシロシビン投与の体験を「人生で最も意味のある10の体験の1つ」に挙げた。抑うつ、不安、PTSDの症状はいずれもシロシビン投与後1カ月で大きく改善し、その効果は3カ月後もおおむね維持されていた。中等度~重度の症状がある人の割合は、抑うつでは投与前で42.2%、1カ月後で10.6%、3カ月後で16.5%、不安ではそれぞれ45.1%、11.9%、13.2%、PTSDではそれぞれ48.0%、19.4%、16.8%であった。また、精神的ウェルビーイングや生活満足度も改善し、自分の生活に「非常に満足」または「ある程度満足」している人の割合は、投与前の63.0%から1カ月後には83.4%、3カ月後には82.3%に上昇した。 一方、安全性については、シロシビン投与が有害だったと回答した人は、1週間後で1.6%(5人)、1カ月後で1.9%(6人)、3カ月後で2.3%(7人)と少なかったが、4人(1.2%)で重篤な行動上の有害反応が報告され、うち1人は医療的対応を必要とした。重篤な医学的有害反応は認められなかった。 Korthuis氏は、「安全性は、臨床現場で幻覚剤を使用した場合にこれまで認められてきたものと非常によく似ていた。厳密に管理された臨床試験で認められたシロシビンの安全性が、実際の利用場面でも同様に認められるのかどうかは大きな疑問だったため、この知見は重要である」と話している。 なおKorthuis氏によると、シロシビンは精神病や双極症など特定の疾患を有する人には適していない。また、妊婦も使用すべきではないという。 今回の研究には関与していない米退役軍人省の元保健担当次官で米OHSUのShereef Elnahal氏は、「今回の初期の結果から、オレゴン州でこうしたサービスを利用する人の健康をシロシビンが改善する可能性が示された。またこの研究は、PTSDや物質使用障害など、米国の退役軍人にも影響するメンタルヘルスの問題の治療を目的に幻覚剤の使用を認める制度を検討している政策担当者にとっても重要な知見となる」とニュースリリースで話している。 シロシビン療法は連邦政府が承認した治療法ではないものの、オレゴン州に続き、コロラド州やニューメキシコ州などでも導入する動きが広がっており、他にも多くの州が同様の法整備を検討している。

2.

ひとり飯はうつ病のリスク因子か?

 世界的な高齢化の進行や子供の独立後に親のみが残る世帯(エンプティ・ネスト)の増加に伴い、高齢者が1人で食事をすること(孤食)が急増している。こうした食事様式の変化は、高齢者の健康管理において重要な課題となっている。中国・蘇州大学のYingying Zhang氏らは、地域在住高齢者を対象に、誰かと一緒に食事をすること(共食)と孤食における栄養摂取量およびうつ病リスクの違いを定量的に評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Frontiers in Nutrition誌2026年7月13日号の報告。 PRISMAガイドラインに基づき、PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Libraryの各データベースから、2025年12月までに公表された文献を対象に、エビデンスを統合した。エフェクトサイズの統合には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング対象となった文献1万2,088件のうち、21件の研究をメタ解析に含めた(内訳:日本11件、韓国4件、米国3件、英国1件、中国1件、ブラジル1件、スウェーデン1件、AHRQ基準による質評価:高品質16件、中品質5件)。・共食は、孤食と比較し、総エネルギー摂取量(平均差[MD]:109.51kcal、95%信頼区間[CI]:17.39〜201.62、p=0.047)、脂質摂取量(MD:4.07g、95%CI:0.14〜7.99、p=0.0489)、肉・魚介類の摂取量(MD:21.28g、95%CI:2.27〜40.29、p=0.011)の高さと有意な関連が認められた。・孤食は、うつ病の強力なリスク因子であることが示唆された(オッズ比[OR]:1.58、95%CI:1.33〜1.87、p<0.001)。・食事のタイミング別では、夕食時の孤食が最も高いうつ病リスクと関連していた(OR:2.13、95%CI:1.57〜2.89、p<0.001)。 著者らは「共食は、社会的なつながりや食事の多様化といった複合的なメカニズムを通じて、栄養不足や心理的苦痛のリスク低減と関連している。本研究結果は、世界の高齢者保健政策において、非薬物療法の一環として共食を戦略的に取り入れることを支持するものである」と結論付けている。

3.

70歳以上の1次予防、スタチンは有益か?/NEJM

 地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象としたプラセボ対照無作為化試験で、アトルバスタチンは主要心血管イベントリスクを抑制したが(追跡期間中央値5.9年時点)、障害のない生存期間の延長には寄与しなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のSophia Zoungas氏らSTAREE Investigatorsが、同国の一般診療所(general medical practice)で行った「STAREE試験」の結果を報告した。高リスク成人において、スタチンが心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスクを低減させることは十分に確立されているが、臨床ガイドラインにおいて、70歳以上の高齢者へのスタチン処方を強く推奨する記述はなく、とくに75歳以上の高齢者への処方を推奨するエビデンスは乏しい。また、認知症や障害への影響に対するエビデンスも不足していることから、研究グループは、主要心血管イベントおよび障害のない生存へのアトルバスタチンの影響を評価した。NEJM誌オンライン版2026年8月29日号掲載の報告。なお、本研究は2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表された。アトルバスタチン40mgを1日1回vs.プラセボ STAREE試験では、心血管疾患、糖尿病、認知症の既往がない、地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象とした。 研究グループは被験者を、アトルバスタチン40mgを1日1回またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要評価項目は2つで、心血管死、非致死的心筋梗塞または脳卒中、冠動脈血行再建術の複合(主要心血管イベントへの影響を評価)と、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合(障害のない生存への影響を評価)で、階層的に評価された。主要心血管イベントは有意に減少、障害のない生存期間は延長せず 2015年7月~2023年3月に9,971例が無作為化された(アトルバスタチン群4,984例、プラセボ群4,987例)。被験者の平均年齢(SD)は74.7±4.5歳で、女性は51.9%であった。 ベースラインで、被験者の大半は現在飲酒の習慣があり、喫煙歴なしと申告した。服用薬数中央値は2(四分位範囲:1~4)で、最も多かった薬剤は降圧薬(46.3%)、胃酸関連疾患の治療薬(27.1%)などであった。過去にスタチン服用歴ありと報告した被験者は5.2%。既往歴として多かったのはがん、うつ病であった。また、認知機能スコアは良好であることが示され、88.7%の被験者が日常生活動作(ADL)の自立度を評価する修正Katz Indexの6項目について、いずれも困難はないと報告した。 追跡期間中央値5.9年後において、主要心血管イベントの発生はアトルバスタチン群297例(1,000人年当たり10.9イベント)、プラセボ群412例(1,000人年当たり15.5イベント)であった(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.61~0.82、p<0.001)。 障害のない生存への影響を評価した、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合の発生は、アトルバスタチン群637例(1,000人年当たり21.6イベント)、プラセボ群676例(1,000人年当たり23.0イベント)であった(HR:0.94、95%CI:0.84~1.05、p=0.25)。 重篤な有害事象の発現は、アトルバスタチン群で131例(2.7%)、プラセボ群で129例(2.7%)に認められた。筋骨格系、肝胆道系、および糖尿病関連の有害事象はアトルバスタチン群でより多く認められた。

4.

急性期統合失調症に対する8つの抗精神病薬とKarXTとの比較~ネットワークメタ解析

 米国FDAは、xanomelineとtrospiumを配合したKarXTを統合失調症の新たな治療薬として2024年に承認した。KarXTは、成人統合失調症患者を対象とした3つのランダム化比較試験(RCT)において、プラセボに対する優越性が報告されている。しかし、従来の抗精神病薬との比較は明らかになっていない。英国・LumanityのConor Hickey氏らは、急性期統合失調症の治療に対する8つの第2世代抗精神病薬とKarXTの相対的な有効性、安全性、忍容性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Journal of Comparative Effectiveness Research誌2026年8月号の報告。 成人統合失調症患者を対象とした8種類の抗精神病薬のRCTを特定するため、2019年のシステマティック文献レビューを改訂、更新した。KarXTとこれら抗精神病薬を比較するため、投与4~6週時点における11のエンドポイントについてのネットワークメタ解析を実施した。評価項目は、有効性(陽性・陰性症状評価尺度[PANSS]、臨床全般印象度-重症度[CGI-S])、安全性(体重変化、鎮静、傾眠)、忍容性(中止率:すべての原因および有害事象による中止)とした。 主な結果は以下のとおり。・合計1万4,680例を含む49件のRCTを解析対象に含めた。・KarXTは、アリピプラゾール(オッズ比[OR]:1.85、95%信用区間[CrI]:1.11~3.11)、ブレクスピプラゾール(OR:2.23、95%CrI:1.34~3.83)、cariprazine(OR:2.05、95%CrI:1.19~3.57)と比較し、臨床的反応(PANSS合計スコアの30%以上改善)を示すオッズが高かった。・また、KarXTは、ブレクスピプラゾールと比較し、PANSS陽性症状スコアのベースラインからの変化量の改善が認められた。さらに、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazine、オランザピンと比較し、CGI-Sスコアのベースラインからの変化量の改善も認められた。・臨床的に有意な体重増加(7%以上)のオッズについては、データのなかったクロザピンを除くすべての第2世代抗精神病薬よりも低いことが示された。KarXTは、ブレクスピプラゾール、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンと比較し、ベースラインからの体重変化量に関する成績が良好であった。また、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、クロザピン、lumateperone、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンと比較し、すべての原因による投与中止に至るオッズが高かった。 著者らは「本ネットワークメタ解析において、急性期統合失調症患者に対するKarXTによる治療は、第2世代抗精神病薬と比較し、主要な有効性評価項目および好ましくない体重増加の観点から良好な成績を示した」としている。

5.

過去30年における認知症診療と介護の変遷【温故知新30年】

講師紹介30年前は治療薬もなく、認知症診療「夜明け前」の時代認知症の臨床と介護の近代史を振り返る。30年前とは1996年だが、これ以前のわが国の歴史的な認知症観は、新村 拓著『痴呆老人の歴史―揺れる老いのかたち』1)に詳しい。さて1999年に国内発売されたドネペジル(商品名:アリセプト)はわが国で最初のアルツハイマー病治療薬である。それまでは素手で認知症と戦っている状況だった多くの医師にとって、本剤発売は大きなトピックであった。というのは、認知症医学はともかく、治療薬のない医療現場は患者・医師にとって「夜明け前」だったからだ。これは高齢化の進行・認知症者の増加が社会問題になってからも長く続いたのである。もっとも、すでに社会的には芽生えがあった。嚆矢となるのは、1972年有吉 佐和子氏による『恍惚の人』2)の出版だろう。これが認知症の実態を初めてわが国に広めた。また「認知症の人と家族の会」(旧:呆け老人をかかえる家族の会;1980年発足)という今日に続く自助組織が生まれた。一方わが国における医学・医療上の端緒は、1986年に発足した老年精神医学研究会だろう。これは1988年に日本老年精神医学会に改組した。そして後に日本認知症学会も生まれる。上記の「夜明け前」のころは、日本の家族制度の名残で家族介護が当然とみなされ、さほど長くなかった平均寿命により認知症者は少なかった。そのため、認知症への世間的な注目は少なかった。また国家財政的には、北欧の福祉国家に比べて、家族介護による認知症者の支えは「日本の隠し財産」という声もあった。2000年介護保険制度施行、2004年「痴呆」から「認知症」へ2000年になると、高齢者の介護を社会全体で支えることを目的に介護保険制度が施行された。また同じ年に判断能力が不十分な高齢者を法的に支援する制度である成年後見制度も発足した。そもそも、認知症者は自分では介護保険の申請・契約はできない。そこでこの制度を用いれば、判断能力が低下し、契約能力に問題があっても必要な介護サービスを受けられるのである。それだけによく両制度は両輪だとされる。筆者の亡き母は、晩年、認知症にかかり、要介護5まで悪化した末に窒息死したが、終末の5年間は介護保険によるデイサービス、特別養護老人ホームと典型的なコースを歩んだ。それだけに母の葬儀の時に、「介護保険制度がなかったら、うちは一家離散だったよ」と振り返ったほど、たっぷりと介護保険サービスのお世話になった。さて「痴呆」という病名は東京帝国大学医科大学精神科教授を務めた呉 秀三氏が明治時代にドイツ語Demenzの訳語として「痴呆」を採用したことに由来する。とくに「痴」という字は知(知能)にやまいだれを付けた字で、知能・知性の病を意味する。行政や医療の場で使われていたこの「痴呆」という病名が、2004年12月に「認知症」という新呼称に改まった。この背景には、「認知症の人と家族の会」などの当事者団体が、「痴呆」の「痴」にも「呆」という漢字にも「ばか」「おろか」という意味があり、人の尊厳を傷つけ偏見を生むとして、呼称の変更を強く要望していたことがあった。実は類似の先行例があり、日本精神神経学会は「精神分裂病」の病名を、2002年8月に「統合失調症」へ変更している。旧病名は「精神が分裂する病気」と誤解されやすく、人格否定的で患者や家族に心理的負担を与えるとして、より適切な表現への変更が患者サイドから求められていたのである。改めて、医療の原点は当事者にあると思う。2012年→2022年、認知症・MCI者数の変化と日本特有の背景因子何の病気であれ、疫学知見、とくに患者数の把握は医療行政の基本になる。高齢化世界一といわれるわが国には全国規模の認知症患者数調査は久しくなかった。2012年、初の全国調査により、認知症者数が462万人、その前駆状態(MCI)者が400万人と発表された。そして2022年には第2回の全国調査の報告がなされた。それによれば、高齢者の総数は増えているのに認知症者の総数は10年前よりも多少減少していた。ところが、MCI者については1.4倍と大きな増加を認めていたのである(参考図)。世界的にも近年、認知症は減っているという報告はある。そしてその背景として、予防法の啓発や危険因子となる生活習慣病のコントロール法の普及などが指摘されることもある。画像を拡大するこうした意見にも説得力があるが、筆者は日本の場合、対象となる人口集団の相違が大きいと思う。というのは、第2回調査では、第1回調査で対象に含まれていなかった第2次世界大戦後のベビーブーマーまたは団塊の世代と呼ばれる年代の人々の割合が高いのである。この大きなグループをなす人々は、調査当時まだ比較的若かったため、認知症には至らずMCIレベルにとどまっていたのだろう。一方、第1回調査で認知症であった人の平均年齢は80歳以上であったから、10年後にはすでに多くが死亡していた可能性がある。こうしたことが、認知症者の数は減り、MCI者が増えた1つの理由ではないかと考える。2024年に施行された「認知症基本法」の正式名称は「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」という。この法律は、認知症の方が尊厳を保ちつつ、希望をもって自分らしく暮らせる「共生社会」の実現を目指して制定された。この「共生社会」の説明は、なんとなくしっくりこない。むしろ、認知症の人と家族の会が以前から提唱してきた「呆けても普通に生きられる社会」のほうが筆者にはスッキリする。本法には、3つの大きな意義があるとされる。「共生社会」の実現を国の義務としたこと、つまり認知症になってもこれまでどおり地域や社会で共に暮らす(共生する)ための環境づくりを国や自治体に義務付けた。本人の「意思決定」と「社会参加」を重視し、認知症になっても本人の意思が尊重され、希望する生活が続けられるよう、バリアフリー化や権利保護を推進している。さらに家族への支援として、本人だけでなく、支える家族が孤立しないための相談体制やケアの充実も盛り込まれている。この3つの意義を読んで改めて感心した。というのは、昔なら認知症介護は私事だったが、それを国が自らに義務付けているからである。もし筆者が江戸時代に、「母が呆けて在宅介護に苦労しています。お上からのお助けをお願いしたい」と申し出たらどうなっただろう。「親の恩を忘れて母への忠孝に努めようとしないうえに、私事の助けをお上に求めるとはなんたる不届きもの」となっても不思議ではない。抗Aβ抗体薬の登場と、今後の治療薬開発最後は、新たなアルツハイマー病治療薬の抗Aβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)である。その効果は、症状を30%弱低減し、6~7ヵ月ほど症状の進展を止める。最大の副作用は、ARIAと呼ばれる脳血管の出血や血管周囲の浮腫である。以上の概要は残念ながら、多くの人が期待していたような根本治療薬の域には届いていない。最近の発売までこうした薬を指す用語は、米国食品医薬品局(FDA)がいう疾患修飾薬(Disease Modifying Drug:DMD)であった。ところが発売後は、こうした薬剤は抗Aβ抗体薬と呼ばれている。DMDとは病気がもつ本来の進行を変える力をもつ薬という意味であった。その域には届かず、むしろ薬の作用機序を示す抗Aβ抗体薬という用語のほうが適切と考えられたのかもしれない。実際の使い方では、ドネペジルなどの従来薬にこうした新薬の併用が一般的である。つまり前者は弱った脳に鞭をいれて活性化するもので、後者は進行に歯止めをかけようとするものである。終わりに現在、新薬の開発において、伝統的なアミロイドやタウから、シナプス変性や脳内の慢性炎症などに注目が移りつつある。こうした動きは病気の原因を叩くだけでなく、より現実的に、病勢を阻み、症状を軽減する方向に向かっていると思われる。1)新村 拓. 痴呆老人の歴史―揺れる老いのかたち. 法政大学出版局;2002.2)有吉 佐和子. 恍惚の人. 新潮社;1972.

6.

親の離婚を経験した子どもは成人期のうつ病リスクが高い

 親が離婚した子どもは、親が婚姻関係を維持していた子どもと比べて成人期にうつ病と診断されるオッズが41%高いことが、7月29日付で「Psychiatry Research」に掲載された論文で示された。ただし、親の精神疾患や物質使用を考慮すると、この関連は大幅に弱まったという。論文の筆頭著者であるティンデール神学大学(カナダ)心理学分野のMary Kate Schilke氏は、「親の離婚そのものが子どもの将来のうつ病リスクを高めると考える人もいるだろう。しかし今回の研究結果は、ことはそれほど単純ではない可能性を示している。離婚に伴いしばしば生じる家庭内の問題、特に親の精神疾患や物質使用は、子どもの長期的なうつ病リスクを説明する上で離婚そのものよりも重要な因子と考えられる」と述べている。 今回の研究では、州保健局と米疾病管理予防センター(CDC)が実施する横断調査である行動リスク要因監視システム(Behavioral Risk Factor Surveillance System;BRFSS)の公開データ(2021~2024年)を用いて、小児期に虐待を経験していない12万8,264人を対象に、親の離婚と成人期のうつ病や精神的苦痛との関連を検討した。対象者の72.5%は親が婚姻関係を維持しており、25.8%は親が離婚しており、1.7%は親が一度も結婚していなかった。対象者の15.5%は生涯のどこかの時点でうつ病の診断を受けており、11.4%は過去1カ月間に頻繁な精神的苦痛(frequent mental distress;FMD)があったと報告した。 解析の結果、親が離婚した群では親が婚姻関係を維持していた群と比べて、生涯のどこかの時点でうつ病の診断を受けるオッズが41%高かった(オッズ比1.41、95%信頼区間〔CI〕1.32~1.51)。ただし、親の精神疾患や物質使用を考慮すると関連は弱まり、オッズ比はそれぞれ1.13(95%CI 1.05~1.21)、1.21(95%CI 1.13~1.30)となった。さらに、両方の要因を同時に考慮すると、うつ病診断との関連は統計学的に有意ではなくなった。 過去1カ月のFMDとの関連についても、親が離婚した群では親が婚姻関係を維持していた群と比べて、FMDのオッズが55%高かった(オッズ比1.55、95%CI 1.43~1.67)。ただし、うつ病の診断と同様、親の精神疾患や物質使用を考慮すると関連は弱まり、オッズ比はそれぞれ1.32(95%CI 1.21~1.43)、1.36(95%CI 1.26~1.48)となった。両方の要因を同時に考慮した場合でも、FMDとの関連は有意なままであった(オッズ比1.24、95%CI 1.14~1.34)。 また、親が一度も結婚していなかった群では、親が婚姻関係を維持していた群と比べて、生涯のうつ病診断のオッズが31%高かった(オッズ比1.31、95%CI 1.06~1.62)。しかし、親の精神疾患や物質使用などを考慮すると関連は弱まり、統計学的に有意ではなくなった。過去1カ月間のFMDについても、親が一度も結婚していなかった群では、親が婚姻関係を維持していた群と比べてFMDのオッズが92%高かった(オッズ比1.92、95%CI 1.52~2.44)。 論文の共著者である米テキサス大学アーリントン校ソーシャルワーク学部のPhilip Baiden氏は、「精神疾患や物質使用障害に苦しむ親を支援することは、子どもの長期的な健康を改善する最も効果的な方法の一つかもしれない。今回の研究結果は、家族が利用しやすい精神保健サービスや物質使用に関する支援サービスの重要性を浮き彫りにしている」と述べている。 一方、論文の共著者であるトロント大学ソーシャルワーク学部のEsme Fuller-Thomson氏は、「今回の研究は、子どもの将来の精神的健康に影響を及ぼすのは、親の婚姻状況そのものよりも、成長過程でどのような問題を経験したかであることを示唆している。親の精神疾患や物質使用を減らすための取り組みは、親自身にとどまらず、子どもの精神的健康にも恩恵をもたらし、世代を超えて精神的健康の改善につながる可能性がある」と話している。

7.

制吐目的のオランザピン、糖尿病患者にも厳格管理下で投与可能へ/日本癌治療学会

 2026年8月25日、日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(以下、WG)は、「制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理」について、ガイドライン速報版として公開した。同日に厚生労働省から添付文書の改訂指示が発出され、経口薬のオランザピンについては、警告が新設されると同時に禁忌の項が改訂された。 同ワーキンググループの安部 正和氏(浜松医科大学医学部産婦人科)は、本公表に至る経緯や臨床現場への期待について、以下のように本稿へコメントを寄せている。  「私と国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本 浩伸先生、矢内 貴子先生が中心となってシスプラチンレジメンを対象に行ったJ-FORCE試験、乳がんのAC療法を対象に日本で行われたJTOP-B試験、米国で行われたALLIANCE試験の3試験によって、オランザピンを含む4剤併用療法は、日本・米国・欧州のガイドラインにて、高度催吐性化学療法に対する標準制吐療法になりました。これまで日本でのみ糖尿病患者への投与が禁忌であったことから、国内の糖尿病患者さんだけがオランザピンを含む制吐療法を受けることができませんでした。  この臨床課題について、私と橋本先生は2年前に、日本がんサポーティブケア学会のCINV部会のミッションとしてオランザピンの糖尿病患者への投与禁忌解除を掲げ、活動を開始しました。CINV部会および制吐薬適正使用ガイドラインの関係者からの協力もいただき、オランザピンの治験データ、国内で行われたオランザピン5mgを含む制吐療法を検証した第III相試験の血糖値データ、オランザピンを使用した国内外のランダム化比較試験の文献、海外のオランザピンの添付文書、教科書的記載などを調査し、厚生労働省医薬局医薬安全対策課と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の方と安全な使用条件について検討を重ね、ようやく今回の添付文書に至りました。  抗がん剤に伴う悪心・嘔吐は患者さんがつらいだけではなく、コントロールが悪いと生命予後が短くなることが示されています。日本の糖尿病患者さんの制吐療法においてオランザピンが使用できることになったことは非常に喜ばしいことである一方で、安全に使用できることが非常に重要です。がん治療に関わる医療者の皆さまにおかれましては、WGが発出したガイドライン速報版の内容を十分確認の上、安全かつ適正な使用をお願いいたします」添付文書の改訂点【警告】<抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)>糖尿病又はその既往のある患者へ本剤を投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、本剤投与前及び投与期間中は、毎日頻回に血糖値のモニタリングの管理を行い、本剤投与後も血糖値が安定するまではモニタリングを継続するなど患者の状態を継続的に観察するとともに、投与期間を通じて、緊急時に十分に対応できる体制を整えた上で投与すること。【禁忌】糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者↓<統合失調症、双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善>糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者厳格な血糖管理と入院管理の徹底 今回示された臨床管理の主なポイントは以下のとおり。・入院治療の適応:糖尿病またはその既往のある患者に制吐目的でオランザピンを投与する場合、血糖コントロールが安定していることを確認のうえ、入院管理で化学療法を行う。外来治療が可能な化学療法(AC療法や中等度催吐性化学療法など)であっても、高度催吐性リスクであるシスプラチンを含む化学療法と同様に入院管理で実施する。・事前コンサルト:化学療法前の検査で糖尿病が判明した場合や血糖コントロール不良例では、あらかじめ内分泌内科・糖尿病内科へコンサルトを行い、十分なコントロールを得た上で治療を開始する。・血糖管理:日常臨床で行われているスライディングスケール(毎食前±眠前の1日3〜4回の血糖測定)を用いた厳格な血糖管理を行う。・入院(投与)期間と退院基準:標準制吐療法のオランザピン投与日数(1〜4日目の4日間)を遵守し、追加投与が必要な場合も入院管理を継続して必要最低限にとどめる。オランザピンおよび併用するデキサメタゾンの投与期間・投与量に留意し、食前血糖値200mg/dL未満など血糖値が安定した状態を確認して退院を計画する。・退院後の外来管理・緊急対応:自己血糖測定(SMBG)患者での食前血糖値200mg/dL以上の継続・300mg/dL以上の高血糖時、SMBGが保険診療上できない患者での口渇・多尿・倦怠感などの発現時には、夜間・休日を問わず受診している医療機関に連絡・受診するよう指導を徹底する。カルテへの明確な記載や院内マニュアルを整備し、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の安全管理体制と同様に、多科・多職種による安全管理体制の構築を推奨する。禁忌解除の要望が実現 多元受容体拮抗薬(MARTA)で非定型抗精神病薬のオランザピンは、発売開始後の公知申請によって、2017年に抗悪性腫瘍剤(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)に対する効果的な制吐薬として承認されている。また、2023年10月に改訂された『制吐薬適正使用ガイドライン第3版』では急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった点などが反映されたことで、現在では臨床で広く浸透している。その一方で、重大な副作用として著しい血糖値の上昇や糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等が報告されていたことから、「糖尿病またはその既往のある患者には投与禁忌」とされ、糖尿病歴のある患者が化学療法を行う際に、制吐対策が限定される状況であった。しかし、これまで報告されている本薬の有効性を検証した臨床試験において、「重篤な高血糖関連事象は報告されていない」「本薬を含む4剤併用の制吐療法は、国内外のガイドラインにおいて高度催吐性リスクの化学療法に対する標準制吐療法になっているが、本邦のみ本薬が糖尿病患者に対して禁忌」であることを踏まえ、WGにより禁忌解除の要望書を2026年4月9日付けで厚生労働省に提出。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価でも支持を受け、今回、「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」の効能に対しては、禁忌を解除し、慎重投与可能と判断されるに至った。 今回の速報版は、ガイドライン上の既存の推奨内容を変更するものではないが、糖尿病またはその既往のある患者であっても、適切な厳格管理体制を整えることでオランザピンを制吐目的で安全に投与・活用できるようにするための具体的な管理手順および留意点を取りまとめたものである。薬物動態と臨床試験データ さらに速報版では、制吐目的での短期投与に関する薬理学的データや臨床試験成績も提示されている。オランザピンの半減期は約33時間であり、定常状態に達するには約1週間(約163時間)を要するため、標準的な4〜6日間の連続投与時点では血中濃度が上がり切っていない状態にある。また、日本国内で実施された各種ランダム化比較試験(J-FORCE試験、JTOP-B試験、肺がんカルボプラチン試験など)のデータにおいて、制吐薬としてオランザピンを短期間併用した群と対照群との間で、Grade3〜4の重篤な高血糖発現率に大きな差は認められていない。 制吐目的での短期投与における高血糖関連有害事象のエビデンスがまだ十分に集積されていない現状を踏まえ、本速報版では臨床現場でより安全にオランザピンを使用するための慎重なリスク管理体制が提示された形だ。

8.

急性期うつ病に対する21種類の抗うつ薬の比較~ネットワークメタ解析

 うつ病は、成人の精神疾患において世界的に頻度が高く、負担が大きく、かつ多大なコストを要する疾患の1つである。うつ病の治療では薬物療法と非薬物療法の両方が利用可能である。しかし、リソースが不十分であるため、心理的介入よりも抗うつ薬が頻繁に使用されている。これらの抗うつ薬の処方は、利用可能な最良の科学的根拠に基づいて行われるべきである。英国・オックスフォード大学のAndrea Cipriani氏らは、成人単極性うつ病患者に対する急性期治療薬としての抗うつ薬を比較、順位付けしたこれまでの研究を更新、拡張することを目的とし、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Focus(American Psychiatric Publishing)誌2026年4月号の報告。 Cochrane Central Register of Controlled Trials、CINAHL、Embase、LILACSデータベース、MEDLINE、MEDLINE In-Process、PsycINFO、規制当局のウェブサイト、国際的な臨床試験登録データベースを検索した。各データベースの開始時から2016年1月8日までの期間における、公表済みおよび未公表の二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を対象とした。標準的な操作的診断基準に基づきうつ病と診断された18歳以上の成人うつ病患者の急性期治療に用いられる抗うつ薬21種類について、プラセボ対照試験および薬剤間直接比較試験を解析対象に含めた。準ランダム化試験、不完全な試験、あるいは双極症、精神病性うつ病、治療抵抗性うつ病の参加者が20%以上含まれる試験および重篤な身体合併症を有する患者を含む試験は解析対象から除外した。事前に定めた優先順位に従い、データを抽出した。ネットワークメタ解析においては、群レベルのデータを使用した。介入に関するシステマティックレビューのコクランハンドブックに基づき各研究のバイアスリスクを評価した。また、エビデンスの確実性は、GRADEを用いて評価した。主要アウトカムは、有効性(治療反応率)および受容性(すべての原因による治療中止)とした。ランダム効果モデルを用いたペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析により、統合オッズ比(OR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2万8,552件の文献を特定した。そのうち522件(11万6,477例)の試験を解析対象とした。・有効性に関しては、すべての抗うつ薬がプラセボよりも高い効果を示した。ORの範囲は、アミトリプチリンの2.13(95%信用区間[CrI]:1.89~2.41)からreboxetineの1.37(95%CrI:1.16~1.63)であった。・受容性に関しては、プラセボと比較して脱落が少なかったのはagomelatine(OR:0.84、95%CrI:0.72~0.97)とfluoxetine(OR:0.88、95%CrI:0.80~0.96)のみであり、クロミプラミンはプラセボよりも不良であった(OR:1.30、95%CrI:1.01~1.68)。・すべての試験を考慮した場合、抗うつ薬間のORの差は、有効性については1.15~1.55、受容性については0.64~0.83の範囲であったが、多くの比較分析においてCrIは広範囲に及んでいた。・直接比較試験において、agomelatine、アミトリプチリン、エスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンは、他の抗うつ薬よりも高い有効性を示した(ORの範囲:1.19~1.96)。一方、fluoxetine、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドンは有効性が低かった(ORの範囲:0.51~0.84)。・受容性に関しては、agomelatine、citalopram、エスシタロプラム、fluoxetine、セルトラリン、ボルチオキセチンが、他の抗うつ薬よりも良好であった(ORの範囲:0.43~0.77)。一方、アミトリプチリン、クロミプラミン、デュロキセチン、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドン、ベンラファキシンは、脱落率が高かった(ORの範囲:1.30~2.32)。・バイアスリスクは、522件の試験のうち46件(9%)が「高」、380件(73%)が「中」、96件(18%)が「低」であった。・エビデンスの確実性は「中」から「きわめて低い」の範囲であった。 著者らは「成人うつ病において、すべての抗うつ薬はプラセボよりも高い有効性を示した。プラセボ対照試験を解析に含めた場合、実薬同士の比較では薬剤間の差は小さくなったが、直接比較試験では、有効性や受容性に大きなばらつきが認められた。これらの結果は、エビデンスに基づく診療に役立つとともに、患者、医師、ガイドライン策定者、政策立案者に対し、各抗うつ薬の相対的な利点に関する情報を提供するものである」としている。

9.

治療抵抗性統合失調症の発生率はどのくらい?

 治療抵抗性統合失調症の真の発生率は、依然として不明である。その主な理由は、過去の研究が不均一な定義やレトロスペクティブ評価に依存していたことにあると考えられる。Treatment Response and Resistance in Psychosis(TRRIP)コンセンサス基準が標準化されたが、これがプロスペクティブに適用されることはまれであった。英国・リバプール大学のDan W. Joyce氏らは、大規模な地域ベースの臨床試験において、操作的に定義されたTRRIP基準を用い、治療抵抗性統合失調症の発生率をプロスペクティブに推定した。また、ベースライン時の人口統計学的変数や臨床的変数が治療抵抗性統合失調症の発生を予測するかどうかを検討した。BJPsych Open誌2026年7月20日号の報告。 Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness(CATIE)試験に登録された慢性統合失調症患者1,334例を対象に、TRRIP基準を適用した。治療抵抗性統合失調症の定義は、TRRIPが定める期間・用量・服薬順守の閾値を満たす適切な抗精神病薬治療を2回行った後も、症状および機能障害が持続している状態とした。治療抵抗性統合失調症の発生率は、ブートストラップ法を用いて推定した。ベースライン変数と治療抵抗性統合失調症の発生との関連は、ロジスティック回帰分析により検討した。 主な結果は以下のとおり。・慢性統合失調症患者1,334例のうち、782例(58.6%)がベースライン時点でTRRIPの絶対的症状閾値を満たしていた。・フォローアップ期間中、治療抵抗性統合失調症の全基準を満たした患者は77例(9.8%)であった。・治療抵抗性統合失調症の発生率は、全体で100人年当たり5.68(95%信頼区間[CI]:4.51〜7.02)、閾値を超えていた患者では100人年当たり9.20(95%CI:7.43〜11.39)であった。・ベースライン時の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の陽性および陰性サブスケールスコアが高いこと、疾患の全体的な重症度が高いことが治療抵抗性統合失調症と関連していたが、その予測能は低かった。 著者らは「ランダム化比較試験のデータセットに対してTRRIP基準をプロスペクティブに適用した本研究は、治療抵抗性統合失調症の発生率に関する確実な推定値を提供するものである。日常的な臨床変数や人口統計学的変数の予測能は限定的であり、TRRIPに準拠した枠組みを用いた、生物学的知見に基づく縦断的研究の必要性が裏付けられた」としている。

10.

果物や野菜でうつ病リスクはどのくらい低下するのか?

 抑うつ症状は、世界的に障害の主な原因となっており、修正可能な生活習慣要因を特定することは公衆衛生上の優先課題である。イラン・テヘラン医科大学のNazanin Zamanian氏らは、果物および野菜の摂取と抑うつ症状の発症リスクとの関連を検討したプロスペクティブコホート研究を対象に、システマティック・レビューおよび用量反応メタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2026年7月21日号の報告。 2025年11月までに公表された研究をPubMed、Web of Science、Scopus、Embase、Google Scholarより検索した。研究の特性、食事調査方法、アウトカム、効果推定値、共変量に関するデータを、2人のレビュアーが独立して抽出した。統合相対リスク(RR)の算出には変量効果モデルを用い、線形および非線形の用量反応関係を評価した。異質性の評価にはI2統計量、エビデンスの確実性の評価にはGRADEアプローチを用いた。 主な結果は以下のとおり。・合計38万5,449人の参加者および2万6,592件の抑うつ症例を含む13のコホート研究を解析対象とした。・果物と野菜の合計摂取量が最も多い群は、最も少ない群と比較し、抑うつ症状リスクが37%低いことが示された(RR:0.63、95%信頼区間[CI]:0.50〜0.80)。・摂取量が1日当たり200g増加するごとに、抑うつ症状リスクが16%低下した(RR:0.84、95%CI:0.74〜0.94)。・個別の解析では、抑うつ症状リスクは、果物の摂取で16%、野菜の摂取で12%低下することが示された。また、野菜については非線形の用量反応関係が認められた。 著者らは「これらの知見は、果物や野菜の摂取量が多いほど抑うつ症状リスクが低いことを示唆しており、メンタルヘルスの予防策におけるアプローチとして食事戦略が有効である可能性を裏付けている。ただし、対象となった研究はいずれも観察研究であるため、認められた関連には残存交絡が部分的に関与している可能性があり、結果の解釈には慎重を期す必要がある」と結論付けている。

11.

敵意・興奮を伴う統合失調症に対するブレクスピプラゾールの有効性

 統合失調症患者は頻繁に敵意や興奮を経験し、それらの症状が機能低下を招くことがある。米国・ニューヨーク医科大学のLeslie Citrome氏らは、統合失調症患者の機能に対するブレクスピプラゾールの影響を、敵意および興奮症状との関連において検討するため、同薬剤の短期および長期試験の事後解析を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2026年7月20日号の報告。 短期データは、2011年7月~2014年12月に世界各地で実施された、急性期統合失調症(DSM-IV-TR基準)の成人入院患者を対象としたブレクスピプラゾール錠の6週間ランダム化二重盲検プラセボ対照試験の3件のデータを統合した。長期データは、2011年9月~2016年2月に実施された52週間の非盲検継続試験の2件のデータを統合した。機能評価には、個人的・社会的機能遂行度(PSP)尺度を用いた。ただし、敵意や興奮の影響を直接受けないようにするため、妨害的・攻撃的行動の項目を除外して評価を行った。対象者は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の敵意項目および興奮項目に基づく症状の有無により層別化した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時、対象者1,385例中692例(50.0%)に敵意が、784例(56.6%)に興奮が認められた。・6週時点におけるPSPスコアの変化量は、プラセボと比較し、ブレクスピプラゾール2~4mg/日投与群で良好な結果を示した。・PSPスコアの変化量の最小二乗平均差は、敵意あり群で2.82(95%信頼区間[CI]:0.58~5.07、p=0.014)、敵意なし群で3.42(95%CI:1.37~5.48、p=0.001)、興奮あり群で4.05(95%CI:2.01~6.10、p<0.001)と有意な差が認められた。しかし、興奮なし群では最小二乗平均差は2.09(95%CI:-0.18~4.36、p=0.071)であり、有意な差は認められなかった。・解析対象408例におけるPSPスコアは、58週間にわたり改善し安定して推移していた。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、敵意や興奮の症状を伴う成人統合失調症患者において、機能の改善をもたらす可能性がある」としている。

12.

クレアチンはうつ病改善に役立つ?

 筋力増強を目的に利用されることも多いサプリメントの一つであるクレアチンは、うつ病の治療にも役立つのだろうか? このトピックに関する既報研究をまとめた、オタワ大学(カナダ)のBassam Jeryous Fares氏らによる短報が、「Brain Medicine」に6月30日付で掲載された。それによると、クレアチンがうつ病治療のサポートに有効な可能性はあるものの、十分なエビデンスはまだ得られていないという。 クレアチンは、肉や魚などの食品に含まれているアミノ酸誘導体で、細胞のエネルギー代謝に重要な役割を果たしている。筋力増強作用があることから、筋力トレーニングをしている人の間で、サプリメントとして広く利用されている。このクレアチンは脳でのエネルギー利用にも関わっていて、気分障害や統合失調症などの精神疾患患者では脳内のクレアチン代謝の変化が観察されるという報告もある。そのため理論的には、クレアチンの摂取が精神疾患の治療をサポートする可能性もある。Fares氏らは、既報文献のレビューによりこの点を検討した。 レビューの対象には、ランダム化比較試験(RCT)の報告が5件含まれていた。それらは、米国、イスラエル、韓国、インド、ブラジルで1件ずつ実施され、研究参加者は合計238人(クレアチン群126人、プラセボ群112人)、平均年齢36±14歳、男性26.0%だった。4件は大うつ病性障害(MDD)患者を対象とし、他の1件は大うつ病エピソードのある双極症患者を対象としていた。 MDD患者を対象に実施された1件のRCTは、抗うつ薬であるエスシタロプラムにクレアチン5g/日を追加し8週間介入した結果、プラセボを追加した群よりもうつ病の症状が改善することを示していた。別のMDD患者対象RCTでは、認知行動療法(CBT)とクレアチンの並行介入が、CBTとプラセボによる介入よりも症状改善に有効であることを報告していた。ただし、双極症患者を対象とする研究を含む他の3件のRCTは、有意な効果を示していなかった。 クレアチンの忍容性については全体的に見ておおむね良好で、副作用は胃腸の不快感などの軽度なものがほとんどであった。しかし、双極症患者対象研究において、クレアチン群の2人に軽躁状態または躁状態が発現したと報告されていた。今回のレビューの結果について研究者らは、「クレアチンは大うつ病の補助療法として有望な可能性がある一方で、エビデンスは一貫しておらず、より大規模かつ長期間のRCTが必要」と述べている。 論文の筆頭著者であるFares氏も、「レビューで観察されたシグナルは興味深いものではあるが、結論を導き出すものではない。5件のRCTのうち2件では有効性が示された一方、残る3件では有意な効果は認められなかった」と総括。その上で、「このような結果は、臨床診療を変えるほどのエビデンスがまだ蓄積されていないことを意味するものだ。むしろこのトピックに、さらなる探求を進めるだけの価値があることを示唆する結果と言える」としている。

13.

統合失調症患者の体重管理に有効な薬理学的介入は?

 著しい体重増加は、統合失調症患者が抗精神病薬の服用に伴って経験する懸念すべき有害事象である。統合失調症患者における体重増加の高い有病率と、それが心血管・代謝系疾患の罹患に大きく寄与しているという事実から、抗精神病薬誘発性体重増加および関連する併存疾患の管理について、より明確な合意を形成することが求められている。カナダ・トロント大学のNicolette Stogios氏らは、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者に対する薬物療法と体重変化との関連を評価するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2026年7月8日号の報告。 2025年12月5日までに公表された研究を、Ovid MEDLINE、Embase、PsycINFO、CENTRAL、CINAHL、ClinicalTrials.gov、ICTRP Search Portalより検索した。対象は、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者の体重減少を目的としたあらゆる薬物療法を検討したランダム化臨床試験であった。なお、研究期間に関する制限は設けなかった。システマティックレビューおよび頻度論的ランダム効果モデルを用いたネットワークメタ解析を実施した。エビデンスの確実性は、CINeMAツールを用いて評価した。データ解析は、初回実施期間が2025年5~11月で、同年12月に更新した。主要評価項目は、薬物療法とプラセボまたは標準的ケアとの比較における体重変化とした。副次評価項目に、その他の身体計測指標および代謝関連指標を含めた。 主な結果は以下のとおり。・本レビューには、39種類の薬物療法を検討した95件の研究が含まれた(統合サンプルサイズ:5,898例)。・ネットワークメタ解析の結果、プラセボと比較し、最も顕著な体重減少に関連していた薬剤は次のとおりであった。【セマグルチド】平均差[MD]:-10.98kg(95%信頼区間[CI]:-13.33~-8.62)、3研究、確実性:中程度【リラグルチド】MD:-5.43kg(95%CI:-8.54~-2.33)、2研究、確実性:中程度【トピラマート】MD:-3.95kg(95%CI:-5.89~-2.02)、5研究、確実性:中程度【メトホルミン】MD:-3.86kg(95%CI:-5.02~-2.70)、16研究、確実性:中程度【エキセナチド】MD:-2.97kg(95%CI:-5.83~-0.11)、3研究、確実性:中程度・ラメルテオン、ニザチジン、アリピプラゾールといった他の介入も体重減少効果が認められたが、エビデンスの確実性はきわめて低かった。・臨床的に意義のある5%以上の体重変化は、セマグルチドおよびメトホルミンで認められた。・いくつかの薬剤では、他の代謝関連アウトカムに対する有益な効果も確認され、介入間で消化器系の有害事象や試験からの早期離脱に関する重大な懸念は認められなかった。 著者らは「本システマティックレビューおよびネットワークメタ解析により、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者に対する薬物療法において、体重関連アウトカムに大きなばらつきがあることが明らかとなった。セマグルチド、リラグルチド、トピラマート、メトホルミン、エキセナチドは、最も大きな体重減少に関連し、最も確実性の高いエビデンスに裏付けられていた。これらの結果は、抗精神病薬に関連する体重増加を管理する臨床医にとっての指針となるものである」としている。

14.

双極症I型に対するアリピプラゾール月1回投与のベネフィットとリスク

 米国・ニューヨーク医科大学のLeslie Citrome氏らは、双極症I型患者の長期維持療法としてのアリピプラゾール月1回投与製剤400mg(AOM 400)のベネフィット・リスク・プロファイルを、治療必要数(NNT)、有害必要数(NNH)、Likelihood of Harm to the Patient(LHH)というエビデンスに基づく指標を用いて評価するため、AOM 400の二重盲検ランダム化比較試験の事後解析を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2026年7月1日号の報告。 データは、AOM 400とプラセボの有効性および安全性/忍容性を比較した52週間の二重盲検ランダム化中止試験より抽出した。主要有効性アウトカムは、すべての気分エピソードの再発が認められなかった患者の割合とした。主要安全性/忍容性アウトカムは、治療下で発現した有害事象(TEAE)による投与中止率とした。 主な結果は以下のとおり。・全体として、52週時点でAOM 400群(132例)の73.5%およびプラセボ群(133例)の48.9%において、すべての気分エピソードの再発が認められなかった(NNT:5、95%信頼区間[CI]:3〜8)。・躁病エピソード、混合性エピソード、うつ病エピソードの再発が認められなかった患者におけるNNTは、それぞれ5(95%CI:4〜9)、4(95%CI:3〜7)、および-116(有意差なし)であった。・TEAEによる投与中止率は、プラセボ群(25.6%)と比較し、AOM 400群(17.4%)で低く、NNHは負の値であった。・プラセボ群との比較におけるNNHを1,000と仮定した場合、52週時点におけるすべての気分エピソードの再発なしとすべてのTEAEによる投与中止を比較したLHHは200であった。 著者らは「双極症I型の長期維持療法としてAOM 400のベネフィット・リスク・プロファイルは、プラセボと比較し、良好であることが示唆された」としている。

15.

世界で長寿化が進む一方で不健康な期間も拡大

 世界中で人々はこれまでになく長生きするようになったが、延長した人生の多くを健康問題を抱えながら過ごしているようだ。「The Lancet Public Health」8月号に掲載された研究で、平均寿命と健康寿命の差(morbidity gap)は、1990年の8.8年から2023年には10.7年へと約2年拡大したことが示された。 論文の上席著者である米ワシントン大学医学部のChristopher Murray氏は、「この研究結果は、今後の健康増進は、寿命の延長だけでなく、健康な状態で生きる期間を延ばすことによって実現されることを示唆している。健康的な老化の進展は、寿命だけでなく健康寿命によって評価されるべきであり、不健康な状態で過ごす期間(以下、不健康な期間)を減らすためには、予防、長期的な疾患管理、慢性疾患のケアへの投資を拡充する必要がある」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study〔GBD〕2023)のデータを用いて、1990~2023年における204カ国・地域の平均寿命と健康寿命の差の経時的な変化を解析するとともに、この差に寄与する主な疾患やリスク因子についても評価した。 その結果、世界の平均寿命は1990年の64.6歳から2023年には73.8歳へ、健康寿命は55.9歳から63.1歳へと延長した。一方で、平均寿命と健康寿命の差も、1990年の8.8年から2023年の10.7年へと1.9年増加し、不健康な期間も長くなった。世界全体で、平均寿命に占める不健康な期間の割合は、1990年の13.6%から2023年には14.5%へ上昇した。国別では、不健康な期間が最も長かったのは米国で平均14.0年、次いでオーストラリアが13.9年、カナダが13.7年だった。また、1990年から2023年にかけての不健康な期間の拡大は、人生の終末期に集中するのではなく、成人期全体で認められた。さらに、ほぼ全ての国・地域で女性は男性より長生きする一方、不健康な期間も長かった。2023年の不健康な期間は女性が平均12.1年、男性は9.3年だった。 不健康な期間の延長に最も大きく寄与していたのは、腰痛などの筋骨格系疾患で、その次に多かったのはうつ病や不安症などの精神疾患だった。加齢性難聴、転倒や不慮の外傷、その他の非感染性疾患なども主な要因として挙げられた。また、不健康な期間に関連する主なリスク因子は、空腹時の高血糖、高BMI、母子の栄養不良、喫煙であった。 保健指標評価研究所(IHME)のシニアサイエンティフィックライターであるCatherine Bisignano氏は、「世界のほぼ全ての地域で、女性は男性より長生きしているが、その延びた年月の多くを不健康な状態で過ごしている」と指摘する。同氏は、「健康的な老化を実現するためには、障害とともに生きる期間を長引かせる疾患やリスク因子への対策を強化する必要がある。これらに対して予防やより良い長期ケアを早期から行うことは、社会や医療制度、経済に大きな利益をもたらす可能性がある」と述べている。

16.

治療抵抗性うつ病に対するSGA増強療法、その有効性・安全性は?

 治療抵抗性うつ病は、うつ病患者の多くに影響を及ぼしており、依然として治療上の大きな課題となっている。第2世代抗精神病薬(SGA)による増強療法は、一般的に行われているが、その有効性と安全性を比較したエビデンスは限られている。英国・Leeds and York Partnership NHS Foundation TrustのRashed Khalid氏らは、成人治療抵抗性うつ病患者を対象に、SGAによる増強療法の有効性および忍容性を評価するため、システマティックレビューを実施した。Cureus誌2026年5月26日号の報告。 PubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Scopus、Cochrane Libraryより、2016~25年に公表されたランダム化比較試験(RCT)をシステマティックに検索した。対象研究は、SGAによる増強療法を受けている成人治療抵抗性うつ病患者を対象とした研究とした。2人の評価者が独立して研究のスクリーニングとデータ抽出を行い、Cochrane RoB 2ツールを用いてバイアスリスクを評価した。介入やアウトカムに臨床的な異質性が認められたため、結果は記述的統合を行った。 主な内容は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール、cariprazine、アリピプラゾール、クエチアピン徐放錠(XR)を評価したRCT11件(5,300例)を分析に含めた。・多くの研究において、プラセボと比較し、抑うつ症状のより大きな改善が報告された。・評価には、主にMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)の変化量が用いられていた。・ブレクスピプラゾールおよびアリピプラゾールとセルトラリンの併用療法において、最も一貫した改善が認められた。・ブレクスピプラゾールによる増強療法は、寛解率が22~31%の範囲であり、cariprazineによる増強療法は、用量調節可能な試験において22~32%の寛解率が示された。・いくつかの薬剤では、2~3週間以内という早期の作用発現が認められた。・一般的な有害事象は、アカシジア、不眠、落ち着きのなさ、体重増加などであった。・有害事象による治療中止率は0.4~8.6%の範囲であった。・10件の研究が、バイアスリスクが低いと評価された。 著者らは「SGAによる増強療法は治療抵抗性うつ病に対する有効な治療戦略であり、とくにブレクスピプラゾールにおいて一貫した有用性が示された。ただし、慎重なリスク・ベネフィット評価と有害事象のモニタリングが不可欠である。個別化された治療を推進するためには、さらなる直接比較試験や長期的な研究が求められる」としている。

17.

熱波で精神疾患による入院が増える可能性

 熱波の発生が精神疾患による入院の増加に関連していることを示すデータが報告された。熱波発生から8日間で入院患者が5.6%増えるという。モナシュ大学(オーストラリア)のYuming Guo氏らの研究によるもので、詳細は7月10日付で「Nature Health」に掲載された。最も顕著な入院の増加は、不安症患者やパーソナリティー障害のある人で認められるという。 この研究では、2000~2019年にかけて、カナダ、ブラジル、チリ、ニュージーランドという4カ国、852カ所で、温暖な季節における261万8,307件の精神・行動障害による入院記録を用いて、熱波との関連を解析した。熱波は、各地点の日平均気温の97.5パーセンタイルを上回る気温が連続4日間記録された場合と定義した。 解析の結果、熱波発生日には精神疾患による入院件数が3.3%増加していた(相対リスク〔RR〕1.033〔95%信頼区間1.007~1.059〕)。また、熱波発生日から8日間では5.6%増加していた(RR1.056〔同1.011~1.103〕)。論文の上席著者であるGuo氏は、「われわれの研究結果は、熱波が精神疾患関連の入院を増加させる可能性があり、深刻な熱波発生に備えて的を絞った対策を取る必要性を示している」と述べている。 熱波の際の入院件数の増加を疾患別に見ると、不安症患者では22.9%、パーソナリティー障害のある人では21.7%と顕著な増加が観察された。ほかにも、統合失調症患者では8.2%増加し、薬物乱用の問題を抱えている人では7.2%増加していた。また、若年者(20歳未満)や高齢者、および人口密度の低い地域の居住者は、熱波の影響をより受けやすいことも分かった。 熱波によって精神疾患関連の入院が増加する背景について、著者らは、熱波が睡眠障害や生理的ストレス反応を介して精神・行動障害を急性に悪化させる可能性があると考察している。また、体温調節機能が低下している人や、薬剤の影響で暑さに弱くなっている人では、より影響を受けやすい可能性があるとしている。 論文の共著者であるShanshan Li氏は同大学発のリリースの中で、「気候変動は世界規模でメンタルヘルスに影響を与え得る喫緊の要因として浮上しており、異常気象や資源不足、生態系の変化などが心理的ストレスとメンタルヘルスのリスクを増幅させている」と記している。著者らはこれらの考察を基に、「熱波に関連するメンタルヘルスのリスクを抑制するため、対象を絞った公衆衛生対策が必要である」と付け加えている。

18.

「よく転ぶようになった」と言う80歳女性、現処方6剤のうち見直すべきは?【高齢者処方のデザイン】第5回

【症例】患者80歳・女性80歳女性。10年前にうつ病と診断され、前医からアミトリプチリン50mg/日を継続投与されている。既往に高血圧、軽度認知機能低下、脂質異常症、変形性膝関節症、10年前からの便秘症があり、降圧にヒドロクロロチアジド(HCTZ)12.5mgとアムロジピン5mg、便秘に酸化マグネシウム 約1.0g/日、脂質異常症にアトルバスタチン10 mg、変形性膝関節症の疼痛時にアセトアミノフェン500mg 頓用が処方されている。家族に付き添われて来院し、「半年で2回転倒した」「口がいつも乾く」「便が出にくい」「立ちくらみがする」と訴える。本人は「最近忘れっぽい」と自覚するが、抑うつ症状は安定している。診察上、臥位血圧138/82に対し起立3分で108/64と起立性低血圧を認め、脈拍上昇は乏しい。eGFR 55、Na 138、K 3.9、ALT 21、補正Ca 9.2。MMSE 24/30。【Before:前医の処方箋】A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用この6剤の中で、まず見直すべき薬はどれか? 1) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 2) Boustani M, et al. Aging Health. 2008;4:311-320. 3) Coupland C, et al. BMJ. 2011;343:d4551. 4) Mori H, et al. J Clin Biochem Nutr. 2019;65(1):76-81. 5) Musini VM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD003824. 講師紹介

19.

精神科における多剤併用療法、それぞれの職種でどう考えているのか?

 多剤併用療法は、複雑かつ治療抵抗性の精神疾患をマネジメントするうえで、重要な治療選択肢の1つである。一方、有害な薬物相互作用、服薬アドヒアランスの低下、健康アウトカムの悪化といったリスクも伴う。多剤併用療法に対する専門職間の見解は、臨床的な意思決定や処方行動に大きな影響を及ぼす。サウジアラビア・King Abdullah International Medical Research CenterのAmal I. Khalil氏らは、精神科医療における多剤併用療法に関する医療従事者の知識と態度を評価し、精神科看護師、精神科医、薬剤師の見解を比較するため、本研究を実施した。また、これらの要因が処方行動や専門職間の連携にどのような影響を与えるかについても検討した。PLOS One誌2026年7月14日号の報告。 サウジアラビア・ジェッダにあるErada Complex for Mental Health and Addictionにおいて、コンバージェント・ミックスド・メソッド(収束型混合研究法)のアプローチを採用し、検討を行った。本研究には、精神科医32人、精神科看護師158人、薬剤師31人を含む計221人の医療従事者が参加した。知識と態度を評価するため、妥当性が検証された尺度を用いて量的データを収集した。一方、自由記述回答やグループディスカッションを通じて質的な知見を収集した。 主な結果は以下のとおり。・専門職間で知識レベルに差が見られ、精神科医が最も包括的な理解を示し(84.2±11.0)、次いで薬剤師(81.5±10.0)、精神科看護師(79.5±9.8)の順であった。・多剤併用療法に対する態度にも違いがあり、精神科医が最も肯定的な見解を示した(3.79±0.49)のに対し、看護師や薬剤師は、副作用や服薬負担への懸念から、より慎重な姿勢を示した。・知識と態度のスコアの間には、有意な正の相関(r=0.653、p<0.05)が認められた。・専門的経験年数や服薬管理に対する自信といった社会人口統計学的要因が、服薬管理に関する知識と態度の双方に影響を及ぼしていた。・質的調査の結果では、専門職間の緊張関係が浮き彫りになった。精神科看護師は、より慎重なアプローチを主張し、精神科医は臨床的必要性を強調し、薬剤師は薬物療法の安全性最適化に重点を置く傾向が見られた。 著者らは「精神科医療における多剤併用療法に対して、医療従事者は、それぞれの専門的役割や責任に裏打ちされた、異なるレベルの認識や態度を示した。精神科医は多剤併用療法を比較的許容していたのに対し、精神科看護師は患者への負担を懸念し、薬剤師は安全性を最優先する傾向が見られた。患者アウトカムを改善するためには、多職種連携の強化と多剤併用療法に関する継続的な教育が不可欠である」と結論付けている。

20.

日本における初発統合失調症患者に対するLAI抗精神病薬の投与パターンが判明

 長時間作用型注射(LAI)抗精神病薬は、統合失調症治療の継続性を支える可能性がある。しかし、日本における初発統合失調症におけるリアルワールドでのLAI抗精神病薬の開始パターンについては、十分に明らかにされていない。京都大学の宮川 亮祐氏らは、JMDCレセプトデータベースを用いて、日本における初発統合失調症患者に対するLAI抗精神病薬の投与パターンを明らかにするため、本研究を実施した。Schizophrenia Research誌オンライン版2026年7月7日号の報告。 2005年1月~2024年3月のJMDCレセプトデータベースを用い、初発統合失調症に近似するレセプトベースの代理コホートを対象に、縦断的記述疫学研究を実施した。本コホートは、操作的診断アルゴリズム、診断と抗精神病薬治療開始の時間的近接性、インデックス日前の遡及期間を含む継続的な加入期間に基づき定義された。統合失調症の疑いと診断された症例は除外した。主な記述的指標は、フォローアップ期間中のLAI抗精神病薬の開始(LAI抗精神病薬の調剤が1回以上)、統合失調症診断から初回LAI抗精神病薬調剤までの期間、抗精神病薬調剤の年次推移とした。経口抗精神病薬からLAI抗精神病薬への切り替え、かつLAI抗精神病薬開始の前後1年間にわたりデータがフォローアップ可能な患者に限定した探索的記述解析では、治療継続性(週ごとの服薬期間割合[PDC])および精神科入院について記述した。 主な内容は以下のとおり。・対象となった2万4,226例の初発統合失調症患者において、フォローアップ期間の中央値は30ヵ月(四分位範囲[IQR]:13~58)であり、1回以上のLAI抗精神病薬の調剤が行われた患者は437例(1.8%)であった。・診断から初回LAI抗精神病薬調剤までの期間の中央値は12ヵ月(IQR:2~31)であり、LAI抗精神病薬の調剤を受けた患者の割合は、研究期間を通じて一貫して2%未満であった。・経口抗精神病薬からLAI抗精神病薬へ切り替えた患者において、LAI抗精神病薬開始前の1年間におけるPDCの中央値は0.82(IQR:0.50~0.96)であり、同期間中に26.9%が医療保護入院を経験していた。 著者らは「日本の医療保険加入者のレセプト集団において、LAI抗精神病薬の開始はまれであり、多くは経口抗精神病薬の開始後に行われていた。これらの知見は、医療保険加入者集団における、新たに確認・治療された統合失調症患者のLAI抗精神病薬の開始パターンを明らかにするものである」としている。

検索結果 合計:3082件 表示位置:1 - 20