CLEAR!ジャーナル四天王|page:62

転ばぬ先の杖:TAVIに対する脳血管保護デバイス(解説:香坂 俊 氏)-590

脳血管系の合併症は、だいたい1.5~2.0%の心臓外科手術に起こるとされていて、頻度はそれほど高くないのだが、個人的には避けたい合併症No.1である。実は、頻度からすると「心不全」のほうが術後合併症として起こる確率は高いのだが、こちらはなんとか対応できるイメージなのに対して、脳血管系の合併症は起こってしまうと「本当にどうにもならない」という拭い難いネガティブなイメージが付いてまわる。

ピオグリタゾンと膀胱がんの関連はいかに…(解説:吉岡 成人 氏)-589

2016年3月末、英国のプライマリケアのデータベースを利用して、14万5,806例の新たに治療を開始した2型糖尿病患者を解析したデータにおいて、ピオグリタゾン投与群ではそれ以外の薬剤治療群と比較してハザード比で1.63(95%信頼区間:1.22~2.19)倍、膀胱がんの発症が多いことがBritish Medical Journal誌に報告された。

観察研究の限界超えられず:CLARIFY登録観察研究(解説:桑島 巖 氏)-588

冠動脈疾患合併の高血圧症例では、過度な降圧によってかえって心血管予後が悪くなるという、いわゆるJカーブ論争というのが古くからあるが、本研究はそれをぶり返す論文である。すなわち、登録時および観察中の血圧が120mmHg以上では心血管死、心血管合併症は増えるものの、120mmHg未満であっても予後は悪化するという結論である。

糖尿病患者は血圧が低いほうが心筋梗塞になりにくい?しかし降圧治療による結果ではない(解説:桑島 巖 氏)-586

SPRINT試験は、高リスク高血圧患者の降圧目標に関して、収縮期血圧120mmHg未満が140mmHg未満よりも心血管イベントおよび心血管死が少ないという結果を示し、話題をさらったことは記憶に新しい。しかし、SPRINT試験では糖尿病合併例は除外されていた。ACCORD-BP試験で収縮期血圧120mmHg未満の群と140mmHg未満の群で心血管合併症発症に有意差が見られなかったとの理由からである。

転移性脳腫瘍に対するSRSは、SRS+WBRTに比べて認知機能障害が少ない(解説:中川原 譲二 氏)-584

 全脳照射は、定位放射線照射後の腫瘍コントロールを改善するが、認知機能障害を合併するため、転移性脳腫瘍治療におけるその役割については、論争がある。1~3個の転移性脳腫瘍を有するがん患者では、SRS単独はSRS+WBRTに比べ認知機能の悪化割合が低いことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのPaul D Brown氏らの無作為化臨床試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2016年7月26日号に掲載された。

INTERSTROKE研究:脳卒中はどこまで予防できるか?(解説:有馬 久富 氏)-583

INTERSTROKE研究は、脳卒中の危険因子を検討した大規模国際共同ケース・コントロール研究である。アジア、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中東、アフリカの32ヵ国からリクルートされた、発症5日以内の急性期脳卒中患者1万3,447例と性・年齢をマッチしたコントロール1万3,472例を対象として、10の危険因子(高血圧、定期的な運動、アポリポ蛋白B/A1比、食習慣、ウエスト・ヒップ比、心理社会的要因、喫煙、心疾患、飲酒、糖尿病)が脳卒中発症に及ぼす影響を検討した。その結果、これらの危険因子の人口寄与危険割合(PAR)は90.7%であった。つまり、以前から知られている10の古典的危険因子を取り除く、あるいはきちんと治療することにより、現在起こっている脳卒中の約90%を予防できる可能性が示されたわけである。

2型糖尿病患者における血糖降下薬間の効果および有害事象の比較:第1選択薬はやはりメトホルミンである(解説:小川 大輔 氏)-581

近年、DPP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬の登場により、数多くの糖尿病治療薬が使用できるようになった。欧米では2型糖尿病の第1選択薬はメトホルミンであるが、日本では患者の年齢および病態に応じて薬剤を選択することが勧められており、どの薬剤でも選択可能である。最近、経口血糖降下薬とインスリン、GLP-1受容体作動薬を含む、すべての糖尿病治療薬の効果と有害事象を比較したメタ解析の結果が報告された。

これからの心房細動アブレーション、焼くか冷やすか~Fire and Ice trial~(解説:矢崎 義直 氏)-580

左房と肺静脈をカテーテルアブレーションで電気的に隔離する心房細動の治療法は、この10年で大きく発展し、心房細動に対するマネージメントを大きく変えた。とくに高周波によるアブレーション治療は、薬物療法より洞調律維持効果が高いことを多くの大規模臨床試験が証明している。しかし、従来の高周波によるアブレーションは、肺静脈と左房を電気的隔離するために一点一点の多くの焼灼を必要とし、連続した円周上のブロックラインを作成するには、経験を必要とする。手技の複雑性のため、アブレーション治療成績は、個々のオペレーターの技術に大きく依存し、経験豊富な施設でも一定の割合で合併症が発生する。より手技がシンプルで、安全かつ治療効果が高いシステムとして冷凍バルーンアブレーションが開発された。

糖尿病治療薬が心不全治療薬となりうるのか? 瓢箪から駒が出続けるのか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-579

チアゾリジン薬の衝撃は、FDAをしてその後の糖尿病治療薬すべての認可の際に、心血管イベントをエンドポイントとしたプラセボ対照臨床試験を義務付けた。このことにより、図らずも循環器内科医にとっては糖尿病薬に関する勉強をする機会となり、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などの糖尿病薬と心血管イベントの関連について知識が増えてきた。

大統領が医学雑誌に論文投稿する米国の驚き!(解説:綾部 健吾 氏/後藤 信哉 氏)-578

2008年にバラク・オバマ氏がアメリカ大統領に就任してから、8年が経過した。任期終盤のアメリカ大統領が、JAMAに論文を投稿することから、オバマ氏の医療への関心の高さがわかる。大統領が、積極的に自分の考えを科学的論文に投稿する米国の文化は、学ぶべきである。高齢化の進行、医療関連産業の際立った利益重視などは、米国だけの問題ではない。日本でも将来の医療制度の転換を見越した議論は、政府内で行われているはずである。政策を政府が非公開で決めるか、政策の骨子を公開の議論で決めるかが、日本と米国の文化の差である。

糖尿病治療薬の選択と心血管アウトカム(解説:田中 敦史氏/野出 孝一 氏)-574

近年、報告が相次ぐ新規糖尿病治療薬の心血管アウトカム試験は、そのたびに大きな注目を集め、われわれ臨床家・研究者に新たな研究テーマをもたらしている。しかしその一方で、それら欧米での試験結果が、本邦での糖尿病日常診療にどれほどのインパクトを与えているのか、いまだ不透明な部分もある。事実、それらの心血管アウトカム試験では非常に限定的な対象者に対して、ごく短期間で従来治療群との間に非劣性を証明するための試験デザインが組まれており、当該薬剤のポテンシャルを十分に引き出せているのかどうかについては、熟考の余地があるように思われる。とくに過去の一部の試験では、心不全入院のリスクや心血管死、さらには総死亡のリスク増加を証明された薬剤もあり、一度植えつけられたそれらのリスクを払拭するのは容易なことではない。

気道感染症に対する抗菌薬処方の減少と感染症合併リスクの関係(解説:小金丸 博 氏)-573

プライマリケアでみられる気道感染症の多くは自然寛解が期待できる疾患であるが、実際は多くの気道感染症例に対して抗菌薬の投与が行われている。臨床医は、気道感染症に対して抗菌薬を投与しないと細菌合併症が増加する懸念を抱いているが、抗菌薬処方の減少と細菌感染症合併リスクの関係を示すデータは不足していた。

急性呼吸不全のICU入院患者に標準化した多面的リハビリテーションの早期介入を行うと入院期間を短縮できるのか?(解説:山本 寛 氏)-572

急性呼吸不全の患者の予後は不良であり、もし生存しても身体機能の低下が待っている。こうした患者の身体機能を維持するためには、患者ごとに異なるアプローチが必要なことも多い。これまでにも、ICU入院患者に対する身体リハが入院期間を短縮したり、身体機能を改善させたりといった効果が報告されてはいるが、異論もあるところである。標準化された多面的なリハビリテーションによる早期介入が、ICUに入室した急性呼吸不全の患者の転帰を改善させるかもしれないと考えた著者らは、急性呼吸不全患者に対して、標準化された多面的なリハビリテーション(Standardized rehabilitation therapy;SRT)で早期介入を行った場合と、通常のICUケアを行った場合とを比較検討した。

心不全に合併する「うつ」に抗うつ薬SSRIは効くのか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-571

MOOD-HFは、うつを合併する慢性心不全患者(左室駆出率<45%)における選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRIs)、escitalopramの有効性・安全性を検証した、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験である。これまで、うつ合併の慢性心不全患者に対するSSRIの効果を調べた研究は SADHART-CHFのみで、この試験ではセルトラリンのうつ症状改善効果は示されなかった。また、治療期間が12週間と短期であった。MOOD-HFは、うつを合併する心不全患者におけるSSRIの長期効果を検証したという点で新規性があり、結果が注目されていた研究である。