CLEAR!ジャーナル四天王

米国の小児におけるインフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)(解説:寺田教彦氏)

本報告は、米国2023~24年および2024~25年シーズンにおける小児インフルエンザ関連急性壊死性脳症(IA-ANE)の症例シリーズである。IA-ANEは、インフルエンザ脳症(IAE)の重症型で、米国2024~25年シーズンのサーベイランスにおいて小児症例の増加が指摘されていた(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2025 Feb 27)。同レポートでは、小児インフルエンザ関連死亡例の9%がIAEによる死亡と報告され、早期の抗ウイルス薬使用と、必要に応じた集中治療管理、インフルエンザワクチン接種が推奨されていた。

若年者の大腸がん検診受診率を上げる方法は?(解説:上村 直実 氏)

わが国における2023年の部位別がん死亡数は、男性では肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がんの順に多く、女性では大腸がん、肺がん、膵臓がんの順となっている。同年の大腸がん罹患者数は推定14万8,000例で死亡者数が5万3,000例とされており、罹患者のうち3例に1例が死亡すると推測される。大腸がんの場合、早期がんの完治率は90%以上であり、早期発見とくに検診ないしはスクリーニングの整備が喫緊の課題となっている。西欧諸国では免疫学的便潜血検査(FIT)、便中の多標的RNA検査、直接の大腸内視鏡検査などさまざまな検診方法の有効性を比較する臨床研究が盛んに報告されている。しかし、いずれの検診方法を行っても、大腸がんの死亡率低下には検診の受診率がキーポイントとなっている。今回、大腸がんの著明な増加が報告されているものの検診受診率がきわめて低い若年者(45~49歳)を対象として、最も効果的なリクルート法を模索した臨床研究が施行された結果、電子媒体を用いてFITのみまたは大腸内視鏡検査のみの推奨に対して受諾または拒否を選択する方法に比べて、FITと大腸内視鏡検査2種類を送付したものから患者が能動的に選択する方法の検診受診率が有意に高く、さらにFITのキットを直接郵送して患者に受諾または拒否を選択してもらう方法が最も有効であることが2025年8月のJAMA誌に報告された。

高齢期も自由を失い管理される時代になるのだろうか?(解説:岡村毅氏)

20世紀の人々は、○○を食べると認知症にならない、という夢物語をよく語っていた。例の○○オイルなどだ。その背景には、人々は認知症のこともまだあまり知らず、よくわかんないけど、なりたくないよね、恐ろしいよね、という無垢な認識であったことが挙げられる。大学病院でも、認知症と精神疾患の人はオペ室には入れるべからず、などといわれていた。こういう時代だからこそ「実は○○がよい」みたいな魔法の杖のような話が受ける。何も知らない人同士が無責任に話している世間話にすぎないからだ。これをハイデガーなら頽落と呼ぶかもしれない。

TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの脳塞栓保護デバイスの使用は推奨されない(解説:加藤貴雄氏)

BHF PROTECT-TAVI試験は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)における脳塞栓保護(CEP)デバイスの有効性を検証した英国での7,600例規模の大規模無作為化比較試験である(Kharbanda RK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2403-2412)。CEPデバイス(Sentinel)の使用群と非使用群において、TAVI後72時間以内または退院までの脳卒中発症率に有意な差はなかった。この結果は、先行研究である北米・欧州・オーストラリアを中心に約3,000例で行われた、PROTECTED TAVR試験の結果と一致しており(Kapadia SR, et al. N Engl J Med. 2022;387:1253-1263)、TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの使用は推奨されない結果であった。安全性に差はなかった。

週1回投与のinsulin efsitoraはインスリン頻回注射療法中の2型糖尿病患者においても有効である(解説:住谷哲氏)

BantingとBestによってインスリンが発見されたのは1921年である。翌1922年にイーライリリー社がブタ膵臓の抽出物からインスリンの製剤化に成功し、その翌年には大量生産にも成功して「アイレチン(Iletin)」として販売を開始した。販売当初は力価も安定せず不純物も多かったが、その後の種々の改良により現在のレギュラーインスリンが市場に登場した。その後の100年間はレギュラーインスリン改良の歴史であるが、1つの方向はブタインスリンからヒトインスリンへの変換であり、いまひとつはその作用時間の延長であった。レギュラーインスリンの作用時間は約6時間と短く、インスリン分泌の枯渇している1型糖尿病患者では1日数回の注射が必要になる。その後の改良により中間型インスリン、持効型インスリンと作用時間が延長し、現在は週1回投与可能なインスリンアナログであるアウィクリ(一般名:インスリン イコデク)が使用可能である。ノボ ノルディスク社のアウィクリに対して、イーライリリー社が開発しているのが本試験で用いられたinsulin efsitora alfa(以下efsitora)である。

経口GLP-1受容体作動薬の進化:orforglipronがもたらす可能性と課題(解説:永井聡氏)

GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の注射製剤として、すでに15年以上の歴史がある。減量効果だけでなく、心血管疾患や腎予後改善のエビデンスが示されるようになり、さらに経口セマグルチド(商品名:リベルサス)の登場により使用者が増加している。しかし、本剤が臨床効果を発揮するためには、空腹かつ少量の水で服用することが必須であり、服薬条件により投与が困難な場合もあった。今回、経口薬であり非ペプチドGLP-1製剤であるorforglipronの2型糖尿病を対象とした第III相ACHIEVE-1試験が発表された。orforglipronは、もともと中外製薬が開発した中分子化合物で、GLP-1受容体に結合すると、細胞内でG蛋白依存性シグナルを特異的に活性化する“バイアスリガンド”という、新しい機序の薬剤である。経口セマグルチドのようなペプチド医薬品と異なり、胃内で分解されにくく、吸収を助ける添加剤を必要としない。そのため、空腹時の服用や飲水制限といった条件を課さず、日常生活における服薬の自由度が格段に向上することが特徴である。

クローン病へのグセルクマブの静脈内導入療法と皮下維持療法の有効性と安全性:2つの第III相試験(GALAXI-2および3)の48週時点の結果(解説:上村 直実 氏)

指定難病であるクローン病(CD)の患者数は日本でも次第に増加して、近々5万例に達する見込みであるが、潰瘍性大腸炎と違って軽症例は少なく中等症から重症例が多く、内科的治療により寛解不能で外科的手術が必要な患者も多いのが現状である。完全治癒が見込めないCDに対する治療の基本は、病気の活動性のコントロールにより寛解状態を維持し、さらに日常生活に影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症を予防することにあるが、最近は内視鏡的な粘膜治癒を目的とした治療方針が必須となっている。

U=Uは、母子感染予防にも適応できるか?(解説:岡慎一氏)

HIVの母子感染予防を論じた論文である。その前に、U=Uについて簡単に解説しておく。U=Uとは、「治療で血中のウイルス量(VL)が検出限界以下(<50copies/mL)になれば、HIVはうつらない:Undetectable equals Untransmittable」を略したものである。U=Uは、782組の片方がHIV+で治療を受けていてVLが検出限界以下、片方がHIV-のゲイカップルが、2年間に7万6,088回のコンドーム無しの肛門性交を行っても感染はゼロであったという、臨床試験の結果から導き出された結論である。今回の論文は、「最も感染リスクが高いコンドーム無しの肛門性交でもうつらないのであるから、母子感染も大丈夫ではないか?」という疑問に答えるものである。母子感染には、妊娠中、出産時、授乳時という3つの場面がある。4,675例の妊婦の出産データから、妊娠前からHIVがわかっており、治療により妊娠期間中VLが検出限界以下の場合、母子感染はゼロで、出産に関してはU=Uが示された。出産方法に関しては、経膣分娩でも帝王切開でもウイルス量にかかわらず感染率に差はなかった。また、データが不十分ではあるが、母乳に関しては、ウイルスが検出限界以下でも、感染率は0.1%と非常に低いもののゼロではなかった。

心房細動による脳塞栓症に対するDOAC開始のタイミング(解説:内山真一郎氏)

心房細動による脳塞栓症の再発予防に直接経口抗凝固薬を開始する適切なタイミングは確立されていなかった。本研究は、脳梗塞後の開始時期が4日以内と5日以後の効果を比較した4件の無作為化比較試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)のメタ解析である。1次評価項目は、30日以内の脳梗塞再発、症候性脳内出血、または分類不能の脳卒中であった。結果は、4日以内に開始したほうが1次評価項目の複合エンドポイントが有意に少なく、脳梗塞の再発は少なく、脳内出血は増加しなかった。

自分のトリセツを知るとだいぶ楽になる(解説:岡村毅氏)

認知行動療法について、皆さんはどのくらい知っているだろうか? 医療が「悪いところを取る」「折れたものをつなげる」「薬を飲んで治す」といった領域だけだと思っているシンプルな人にはなかなかわかってもらえない。大学生などに説明するときに使っているのは「自分のトリセツを知ることだ」という説明である。たとえば、こうである…。最近とても暑いので、精神科の外来では調子の悪いパニック症の人によく出会う。「空気が熱いと息苦しい感じがする。パニック発作のときみたいな体験をする。そうなると不安が亢進し、呼吸が速くなり、確かにパニック発作が起きてしまう」と説明すると、多くの患者さんは良くなる。自分の身に何が起きているかわかるからである。

ネットワークメタアナリシスを用いた断続的断食の利点と今後の課題(解説:島田俊夫氏)

米国・ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のZhila Semnani-Azad氏らの研究グループが、2025年6月18日付のBMJ誌に掲載された論文で、きわめて重要な問題を提起しています。この論文は、断続的断食(IF)戦略、継続的なエネルギー制限(CER)食、そして自由摂取(AL)食が、体重および心血管代謝リスク因子に与える影響を、ランダム化比較試験(RCT)99件、合計6,582例の成人データを統合したネットワークメタアナリシスを用いて評価したものです。肥満が増加の一途をたどる現代において、IFがCER食の代替として注目されるなか、その効果を包括的に比較することを目的としています。本稿では、この重要な論文の要点をわかりやすく解説します。

2型糖尿病に対する週1回インスリン製剤の検討 (解説:小川大輔氏)

週1回投与のインスリン製剤インスリン イコデクが2025年1月に発売され、現在日本で使用されている。これとは別の週1回注射のinsulin efsitora alfa(efsitora)の2型糖尿病患者を対象とした第III相試験の結果が発表された。これまでにインスリン治療を行ったことのない2型糖尿病患者において、1日1回投与のインスリン グラルギンと比較し、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善について非劣性であることが確認された。インスリン治療歴のない成人2型糖尿病患者795例を、efsitoraを週1回投与する群とインスリン グラルギンを1日1回投与する群に無作為に割り付け、52週間投与した。その結果、ベースラインから52週目までのHbA1cの変化量は両群に差がなく、efsitoraのグラルギンに対する非劣性が確認されたが、優越性は認められなかった。

バレット食道の悪性度リスク層別化に対する非内視鏡的検査法の有用性:日本と欧米の大きな違い(解説:上村直実氏)

 食道がんには主に扁平上皮がんと腺がんがあるが、日本を含む東アジアと欧米における両者の有病率は大きく異なっている。わが国では、食生活の欧米化や肥満の増加に伴って食道腺がんが増加傾向を示す報告が多くなってきたが、飲酒・喫煙と強い関連を認める扁平上皮がんが90%以上を占めるのに対して食道腺がんはせいぜい6〜7%であり、食道腺がんが60%以上を占める欧米とは決定的な違いがある。さらに、医療保険制度の違いにより、欧米では内視鏡検査の待機時間が数ヵ月間と長いことや医療費(コスト)および費用対効果に対する考え方がまったく違っている。

中絶禁止措置による出生率への影響は格差拡大につながる(解説:前田裕斗氏)

本研究は2021年9月1日から2022年8月25日までの間に中絶禁止措置を導入した14州において、出生率がどの程度変化したか、またどのような層が影響を強く受けたかについて検討したものである。疫学的に精巧な手法を用いており、詳しい説明は省くがごく簡単に言えば、対象とならなかった州の出生率のデータなどを用いて、各サブグループごとの出生率をモデル予測し、実際の観測値との差を取ることで中絶禁止措置の出生率に対する効果を見ている。これは地域ごとの時間による出生率の変動を考慮するためだ。

気管支拡張症に対する初めての有効な治療に注目(解説:田中希宇人氏 /山口佳寿博氏)

本研究は気管支拡張症に対する初の有効な薬物療法に関する重要な知見と考える。現在、気管支拡張症に承認された治療薬が存在せず、去痰剤や反復する感染に対する抗菌薬投与、抗炎症作用を期待したマクロライド系抗菌薬の長期少量投与などが経験的に用いられている。しかもこれらの治療法に関してはエビデンスは限定的で、耐性菌やQT延長などの副作用も懸念される。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることで好中球の炎症酵素活性を阻害するというまったく新しい機序によって気管支拡張症そのものの病態に直接作用し、増悪頻度を減らしうる治療薬と捉えられる。

臨床面の見直しに利用できる、産後大出血の原因とリスクの見本市。ざっと見でも一読の価値あり(解説:前田裕斗氏)

本研究は産後大出血の原因割合と、大出血と関連するリスク要因についてのメタアナリシスおよびシステマティック・レビューである。本研究の結果から、産後大出血の原因は弛緩出血(70.6%)、産道裂傷(16.9%)、胎盤遺残(16.4%)、着床異常(3.9%)、血液凝固障害(2.7%)の順に多く、複合要因が7.8%を占めた。この結果は驚くべきものではなく、産科臨床における肌感覚に沿ったものといってよいだろう。日本ではあまり有名ではないが、世界的には出産間際から産後すぐにかけた出血予防に重要な複数箇条をリストにしたバンドルの利用が推奨されており、このバンドルの有用性を裏付ける内容といえる。

選択的グルココルチコイド受容体拮抗薬はプラチナ抵抗性卵巣がんに有効も、日本ではレジメン整備に課題(解説:前田裕斗氏)

グルココルチコイド受容体(GR)活性化は、化学療法抵抗性を誘導する。本研究はGR選択的拮抗薬であるrelacorilantとnab-パクリタキセルの治療効果をnab-パクリタキセル単独と比較した初のPhase3試験である。無増悪生存期間(Progression-free survival:PFS)が規定の評価基準を満たした(6.54ヵ月vs.5.52ヵ月)ため、全生存期間の最終解析を待たずに論文化となった。プラチナ抵抗性の卵巣がんは予後不良で知られており、今回新たな機序で効果的な化学療法が登場したことは臨床的に価値がある。日本ではnab-パクリタキセルは卵巣がん適応外である。薬理学上は当然パクリタキセルとの併用でもいいわけだが、前処置でも用いるステロイド製剤の効果を減弱してしまうため、そう簡単にはいかないだろう。relacorilant自体は経口で化学療法3日前より連日の内服になるため使用は簡便だが、これを活かしたレジメンの整備が日本における課題となる。

抗IL-5抗体は“好酸球性COPD”の増悪を抑制する(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

好酸球を集積する喘息などの疾患が併存しないにもかかわらずCOPDの20~40%において好酸球増多を伴うことが報告されている。今回、論評の対象とした論文では、以上のような特殊病態を好酸球性COPD(COPD with Eosinophilic Phenotype)と定義し、その増悪に対する生物製剤抗IL-5抗体(メポリズマブ)の効果を検証している。好酸球性COPDの本質は確定されていないが、本論文では、喘息とCOPDの合併であるACO(Asthma and COPD Overlap)に加え多くの好酸球性全身疾患(多発血管炎性肉芽腫症など)の関与を除外したCOPDの一亜型(表現型)と定義されている。

ますます循環器の後追いのStroke Neurology?(解説:後藤信哉氏)

急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法には、一時期大きな期待が集まった。血栓溶解の成功率を上げるための抗凝固薬、抗血小板療法についても一時的に注目が集まった時期がある。血小板凝集を阻害するGPIIb/IIIa阻害薬には血小板血栓不安定化効果があるとされた。筆者も、血流下の血小板血栓がGPIIb/IIIa阻害薬により不安定化することを実験的に示し、2004年のJACCに論文を発表している。血栓溶解療法の効果を期待できる形成早期の血栓であれば、フィブリン血栓は線溶薬により溶解し、血小板血栓はGPIIb/IIIa阻害薬にて不安定化するとの仮説は立てやすい。本研究は、GPIIb/IIIa阻害薬による血小板血栓不安定化効果を、臨床試験により仮説検証した研究である。GPIIb/IIIa阻害薬の追加により神経学的予後がよくなるということは再灌流が早期にできたことを反映している可能性が高い。

遺伝子治療市場の縮小を超えて:長期成績が示す血友病B治療の未来(解説:長尾梓氏)

NEJM誌6月12日号に掲載された“Sustained Clinical Benefit of AAV Gene Therapy in Severe Hemophilia B”は、AAVベースの遺伝子治療治験薬scAAV2/8-LP1-hFIXcoを投与した血友病B 10例を13年間追跡し、FIX活性と出血抑制が初期報告からほぼ減衰せず、安全性上の深刻なシグナルも認めなかったことを示した。AAVベクターによる遺伝子治療が「十年以上効く」ことを実証した初の報告であり、臨床現場にとって画期的である。一方、市場環境には逆風が続く。Pfizerは今年2月、FDA承認済みだった血友病B遺伝子治療薬Beqvez(fidanacogene elaparvovec-dzkt)の世界的な販売・開発を突然打ち切った。理由は「患者・医師の需要の低さ」とされる。さらにBioMarinは血友病A遺伝子治療薬Roctavian(valoctocogene roxaparvovec)の商業展開を米国、ドイツ、イタリアの3ヵ国に限定し、その他地域への投資を凍結すると発表した。こうした撤退・縮小の動きを受け、ISTH、WFH、EAHADなどの国際学会は本年5月に「遺伝子治療開発を止めないでほしい」とする緊急声明を共同発出し、産学官・患者団体に継続的な投資とアクセス確保を要請している。