CLEAR!ジャーナル四天王|page:6

STEMIの“非”責任病変の治療はいつやる? 今でなくても? そもそもやるべき?(解説:山地杏平氏)

ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)または高リスク非ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)症例において、非責任病変の治療を検討したFULL REVASC試験が発表されました。この試験では、責任病変に対するPCI施行後、入院中にFFRガイド下で非責任病変へのPCIを行う群と、入院期間中は追加のPCIを行わない群に無作為に割り付けられました。その結果、ハザード比は0.93(95%信頼区間:0.74~1.17)で、p=0.53と有意差は認められませんでした。この結果は、過去の多くの研究とは異なるもので、最近行われた大規模研究であるCOMPLETE試験やFIRE試験では、いずれも責任病変へのPCI後に非責任病変の治療を行ったほうが、イベントリスクを低減するという結果が示されました(表)。

流行株によるコロナ罹患後症状の発生率とコロナワクチンの効果(解説:寺田教彦氏)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、起源株やアルファ株、デルタ株といったプレオミクロン株流行時期は、重症化率・死亡率の高さから、国内でも緊急事態宣言が出されるほど公衆衛生に多大な影響を与えていた。その後コロナワクチンや中和抗体治療薬により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率や死亡率は低下したが、2021年ごろから後遺症の問題が注目されるようになった。新型コロナウイルス感染症罹患後症状(以下、本文ではPASC:post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionとする)は、診断基準を提案する論文はあるが(Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.)、世界的に統一された明確な定義や診断基準はなく、病態や治療法も判明しきってはいない。  

クローン病に対するリサンキズマブとウステキヌマブの直接比較(解説:上村直実氏)

完全治癒が見込めないクローン病(CD)に対する治療方針は、病気の活動性をコントロールして患者の寛解状態をできるだけ長く維持し、日常生活のQOLに影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症の予防や治療が重要である。薬物治療に関しては、アミノサリチル酸塩(5-ASA)、免疫調整薬、ステロイドなどを用いた従来の治療法が無効な場合、ステロイド長期使用の副事象を考慮して、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブなど腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬が使用されることが多くなっている。しかし、中等症以上の活動性を有するCD症例の中には、抗TNF療法の効果が得られない患者、時間の経過とともに効果が消失する患者、あるいは副作用により治療が中断される患者が少なくなく、新たな作用機序を有する薬剤の追加が求められた結果、活動性とくに中等症から重症のクローン病に対しては、インターロイキン(IL)阻害薬(ウステキヌマブ、リサンキズマブなど)や抗インテグリン抗体薬(ベドリズマブ)などの生物学的製剤が使用されることが多くなっている。

潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるリサンキズマブの有用性 (解説:上村直実氏)

潰瘍性大腸炎(UC)の治療は生物学的製剤や低分子化合物の出現により大きく変化している。わが国では、既存治療である5-ASA製剤、ステロイド、アザチオプリン、6-MP等に対して効果不十分または不耐容となったUC患者には、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF阻害薬、インターロイキン(IL)阻害薬のウステキヌマブやミリキズマブ、インテグリン拮抗薬であるベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなどの使用が推奨されている。

COPD・喘息の早期診断の意義(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は2021年の統計で1万6,384例の死亡者数と報告されており、「健康日本21(第三次)」でもCOPDの死亡率減少が目標として掲げられている。気管支喘息も、年々死亡者数は減少しているとはいえ、同じく2021年の統計で1,038例の死亡者数とされており、ガイドラインでも「喘息死を回避する」ことが目標とされている。いずれも疾患による死亡を減少させるために、病院に通院していない、適切に診断されていないような症例をあぶり出していくことが重要と考えられている。しかしながら、疾患啓発や適正な診断は容易ではない。現在、COPD前段階ということで、「Pre COPD」や「PRISm」といった概念が提唱されている。閉塞性換気障害は認めないが画像上での肺気腫や呼吸器症状を認めるような「Pre COPD」や、同じく1秒率が閉塞性換気障害の定義を満たさないが、%1秒量が80%未満となるような「PRISm」であるが、それらの早期発見や診断、そして治療介入などが死亡率の減少に寄与しているかどうかについては明らかになっていない。

世界では、HIV予防は新しい時代へ(解説:岡慎一氏)

Pre-Exposure Prophylaxis(PrEP)と呼ばれる、HIV感染リスクがある人に対する予防法の研究が、欧米を中心に盛んに行われていたのは、2010年前後である。その結果をもとに2012年には、米国でPrEPが、HIV感染予防法として承認された。当時の方法は、TDFとFTCという2剤の合剤(ツルバダ錠)を1日1回経口服用するというものであった。その後、ほぼ世界中でツルバダ錠によるPrEPは承認された。これに対し、日本では、2024年9月頃にやっとツルバダ錠によるPrEPが承認される予定である。まさに、12年という十二支の周回遅れである。先進国でPrEPが認可されていなかったのは、もちろん日本だけである。

血腫洗浄が再手術の率を下げる効果があるといえる(解説:高梨成彦氏)

慢性硬膜下血腫に対する手術後は、おおむね10%程度の症例において再手術が必要になることが知られている。再手術を減らすために洗浄とドレナージを行うことが一般的で、さらに血腫腔を酸素や炭酸ガスで置換する方法などが報告されている。ドレナージチューブを留置することの有効性を示したRCT は報告されているが、洗浄自体の意義について検証したのが本研究である。結果としては無洗浄群で再手術が多い傾向が認められた。また、無洗浄群で手術時間が4分間程度短縮したものの他の合併症は差がなかった。再手術を防ぐためには洗浄を行うべきであるといえ、経験則にも沿う結果である。

ニルマトレルビル・リトナビルには曝露後予防効果がない(解説:栗原宏氏)

2024年現在も定期的にCOVID-19の感染拡大が繰り返されている。家庭内や職場等で感染者が出た場合、無症状者に対する有効な予防策が問題となる。重症化リスクを持つ患者の家庭、医療機関や療養施設では大きな関心があると思われる。とくに医療機関や療養施設での患者やスタッフのクラスターの発生は、当該施設だけでなく地域全体にも大きな負担となりうる。  現在、ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッド)5日分の費用は、3割負担でも約3万円とかなり高額である。

エフアネソクトコグ アルファ12歳未満重症血友病Aでもトライする価値あるかも(解説:長尾梓氏)

以前こちらでも「血友病A治療は新時代へ」と紹介したエフアネソクトコグ アルファの12歳未満の臨床試験データが、NEJM誌に掲載された。日本ではすでに2023年に発売され、小児への使用制限もないため徐々に使用経験のある小児患者は増えているが、国際会議などでは小児は成人と比べて第VIII因子トラフが低いのではないか、効果が劣るのではないかと心配の声があった。

チルゼパチドの体重減少作用は東アジア人においても認められた(解説:住谷哲氏)

2型糖尿病を合併していない肥満患者におけるチルゼパチドの体重減少作用については、すでにSURMOUNT-1研究で報告されている。しかしその対象患者のほとんどは欧米人で、平均BMIも38.0kg/m2であり、そこまで肥満の強くない日本人を含む東アジア人でのチルゼパチドの有効性は明らかではなかった。一方、中国では2030年には人口の約70%、8億人が肥満または過体重になると予測されており、肥満患者の増加が重大な健康問題となっている(中国ではBMI 28kg/m2以上が肥満、24kg/m2以上が過体重と定義されている2])。そこで本研究では、東アジア人である中国人におけるチルゼパチドの体重減少作用が検討された。

重症敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性(BLING III)(解説:寺田教彦氏)

β-ラクタム系抗菌薬は「時間依存性」の抗菌薬であり、薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論からは投与時間を延ばして血中濃度が細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間(time above MIC)が長くなると、効果が高まることが期待される(https://doi.org/10.1002/phar.2842)。β-ラクタム系抗菌薬の持続投与(投与時間延長)は、薬剤耐性菌の出現率低下や、抗菌薬総投与量を減らすことで経済的な利益をもたらす可能性があるが、抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)の欠点も指摘されている。たとえば、抗菌薬の持続投与では、経静脈的抗菌薬投与のために血管内デバイスやラインを維持する必要があり、血管内デバイス留置に伴うカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスク増加や、同一ラインから投与する薬剤での配合変化に注意しなければならない可能性がある。また、薬剤の持続投与では患者行動に制限が生じたり、看護師の負担増加や、抗菌薬の安定性に注意したりする必要もある。また、理論上の話ではあるが、カルバペネム系抗菌薬などではPAE(postantibiotic effect)効果も期待されるため、持続投与は必須ではないのではないかとの意見もある。

イメージングガイドPCIの有用性と今後の展望(解説:上田恭敬氏)

IVUSあるいはOCTを用いたイメージングガイド、あるいはアンジオガイドのPCI(DES留置術)の成績を無作為化比較試験によって検討した22試験(1万5,964例、平均観察期間24.7ヵ月)のネットワークメタ解析の結果が報告された。主要エンドポイントである心臓死・標的血管関連心筋梗塞・TLRの複合エンドポイントでは、イメージングガイドPCIにおいてアンジオガイドPCIに比してリスクの低下(相対リスク[RR] 0.71 [95%信頼区間[CI]:0.63~0.80]、 p<0.0001)が観察された。さらに、心臓死(0.55、0.41~0.75、p=0.0001)、標的血管関連心筋梗塞(0.82、0.68~0.98、p=0.030)、TLR(0.72、0.60~0.86、 p=0.0002)のリスク低下に加えて、ステント血栓症(0.52、0.34~0.81、p=0.0036)、すべての心筋梗塞(0.83、0.71~0.99、p=0.033)、全死亡(0.75、0.60~0.93、p=0.0091)のリスク低下も観察された。また、IVUSガイドPCIとOCTガイドPCIの成績に違いは認められなかった。

局所進行食道がんに対する術前補助療法として3剤併用化学療法が標準治療となるか?(解説:上村直実氏)

日本の臨床現場における食道扁平上皮がんは、発見される時期により予後が大きく異なる疾患である。内視鏡検査によりStage0やIの早期段階で発見されると、外科的手術や化学放射線治療ではなく侵襲の少ない内視鏡的切除により完治する可能性が高い疾患であるが、一方、StageII以上の進行がんになると、化学療法や放射線療法および外科的手術を含む集学的治療を行っても予後が悪い疾患となる。したがって、進行がんの予後に関しては外科的手術に先立つ術前治療の有効性が重要となっている。

冠動脈バイパス術後の抗血小板薬療法(解説:後藤信哉氏)

冠動脈のカテーテルインターベンション(PCI)後の抗血小板療法は、2剤併用の期間短縮の方向に向かっている。PCI後のMACEが減少し、抗血小板薬による出血の問題が相対的に大きくなったことが主な理由である。PCIの適応が拡大し、バイパス手術に回る症例の困難性は以前よりも増加していると想定される。リスクの重畳したMACEリスクの高い症例が多いかもしれない。本研究では中国の6つの病院で施行したオープンラベルではあるが、ランダム化比較試験である。

心筋梗塞の後追いをする脳卒中治療―カテーテルインターベンション時代に備えたほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

心筋梗塞の原因が冠動脈の閉塞血栓とわかった後、各種の線溶薬が開発された。30日以内の心血管死亡率の減少を明確に示したストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。線溶を担うプラスミンは強力かつ汎用的なタンパク質分解酵素である。血栓となっているフィブリンのみならず、全身循環するフィブリノーゲンも分解してしまった。循環器でもフィブリン選択性の高いt-PAは、ストレプトキナーゼより出血リスクが少ない可能性のある薬剤として期待された。t-PAの分子を改変して、持続投与不要とする分子などが多数開発された。しかし、線溶薬による血栓溶解はいつ起こるかわからない。冠動脈造影に通暁していた循環器内科医は、速やかに自らの手で確実に再灌流できる冠動脈インターベンションに治療の基本をシフトした。再灌流時に心室頻拍などの致命的イベントが起こるため、搬送中のt-PAも推奨されない。心筋梗塞治療では、特殊な場合以外にはt-PAなどの線溶薬の需要はほぼなくなった。

ポスト・パンデミック期:コロナ抗ウイルス薬は無効?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

2023年夏以降、コロナ感染症はポスト・パンデミックの時代に突入した。この時期に注目されているのが間断なく継続しているウイルスの遺伝子変異に対して、オミクロン株以前のパンデッミク期に開発された抗ウイルス薬が、その効果を維持しているかどうかという点である。今回論評するHammond氏らの論文は、2021年8月から2022年7月にかけて、播種しているコロナウイルスがデルタ株からオミクロン株に切り替わりつつある過渡期に集積された症例を対象としたものである。Hammond氏らはこれらの対象をもとに3-キモトリプシン様プロテアーゼ阻害薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック、本邦承認:2022年2月10日、5日分の薬価:9万9,000円)に関するEPIC-SR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in Standard-Risk Patients trial)の結果を報告した。

心房細動とその合併症の生涯リスクの2000~22年における経時的変化:デンマークの一般住民を対象とした全国規模のコホート研究(解説:原田和昌氏)

これまで心房細動発症後の患者ケアでは脳卒中リスクに最も焦点が当てられてきた。しかし、脳卒中だけでなく心不全、心筋梗塞などの心房細動合併症の長期的な影響についても知る必要がある。心房細動の生涯リスクの経時的変化と、心房細動発症後の合併症の生涯リスクの経時的変化を、DOAC上市前後のコホートで調べた。2000年1月1日から2022年12月31日までのデンマークの一般住民を対象とした全国規模の登録研究において、45歳以上の心房細動を有しない350万人(女性51.7%)が、心房細動の発症、転居、死亡、または調査の終了のいずれか早い時点まで追跡された。心房細動を発症したが合併症のない36万2,721人(女性46.4%)について、心不全、脳卒中、または心筋梗塞の発症を追跡した。主なエンドポイントは心房細動の生涯リスクと、心房細動発症後の合併症の生涯リスクである(2000~10年と2011~22年を比較した)。

メトホルミンに追加すべき薬剤はSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬それともSU薬?(解説:住谷哲氏)

GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)研究は、メトホルミン単剤で血糖管理目標を達成できない患者に追加する血糖降下薬としてインスリン(グラルギン)、SU薬(グリメピリド)、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)またはDPP-4阻害薬(シタグリプチン)の有用性を比較検討したランダム化比較試験である。その結果は、HbA1c低下作用はグラルギンとリラグルチドが他の2剤に比べて優れており、体重減少効果はリラグルチドが最も優れていた。

心臓植込み電気デバイスの革新的一歩 ーモジュール式リードレスペーシング除細動システムー(解説:高月誠司氏)

本邦では1968年ペースメーカー、1996年に植込み型除細動器が保険収載された。これらは静脈内にリードを留置するシステムであるが、リードには断線や感染のリスクがあり、植込み遠隔期のリード抜去はリスクを伴う。そのため経静脈リードのないシステムが開発されてきた。2016年に皮下植込み型除細動器(SICD)、2017年にはリードレスペースメーカーが保険収載されたが、どちらも血管内にリードを留置しないシステムである。ただしSICDは、心室頻拍に対する抗頻拍刺激ができない、徐脈性不整脈に対するペーシングができないという限界があった。SICDとリードレスペースメーカーを組み合わせて植え込み、通信させて使うことにより、SICDの欠点をカバーするのが、モジュラー通信リードレスペーシング・除細動器システムである。MODULAR ATP研究では、本システムのfeasibilityが報告された。151例が6ヵ月のフォローアップ期間を完了し、ワイヤレスデバイスの通信成功率は98.8%であった。151例の患者のうち147例(97.4%)が2.0V以下のペーシング閾値を有しており、抗頻拍ペーシングによる頻拍停止率は61.3%であった。本研究では平均年齢60歳という比較的若い患者群に植え込まれたが、リードレスペースメーカーの電池寿命時の対応など課題もあるが、心臓植込み型電気デバイスにおける画期的な進歩と考える。

リウマチ性心疾患に関する知見を改めて見直した研究(解説:野間重孝氏)

本研究の主な目的は、さまざまな国のさまざまな所得水準におけるリウマチ性心疾患(RHD)の発生率と臨床転機の予測因子を明らかにすることにあったが、同時に現在世界をカバーするRHD患者に関するデータの集積が十分になされていないため、そのコホートを構築することでもあった。実際、今回この研究グループは現代のRHD患者に関する最大のコホートを作成することに成功した。もっとも、類似した研究が行われたことがなかったということはなく、実際このジャーナル四天王でも2017年8月に「世界のリウマチ性心疾患死、25年で半減/NEJM」が掲載されている。この研究では132ヵ国のデータ分析が行われており、十分に大きな研究だったといえるだろう。