低リスク分化型甲状腺がん、全摘後のアブレーションは回避できるか/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2025/07/02

 

 低リスクの分化型甲状腺がん患者の治療において、甲状腺全摘後に放射性ヨウ素治療(アブレーション)を行った場合と比較して、アブレーションを行わない場合でも5年無再発生存期間(RFS)は非劣性であり、有害事象の発現は両群で同程度であることから、この治療は安全に回避可能であることが、英国・Freeman HospitalのUjjal Mallick氏らが実施した「IoN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月18日号で報告された。

英国の第III相無作為化非劣性試験

 IoN試験は、英国の33のがん治療施設で行われた第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2012年6月~2020年3月に参加者を登録した(Cancer Research UKの助成を受けた)。

 甲状腺全摘で根治切除(R0)が達成され、TNM病期分類でpT1、pT2、pT3(TNM7基準)またはpT3a(TNM8基準)で、リンパ節転移がN0、Nx、N1aの病変を有する患者を対象とした。これらの患者を、甲状腺全摘後に1.1GBqアブレーション群または非アブレーション群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。

 主要エンドポイントは5年RFS率とした。RFSは、構造的な局所・領域再発または遺残病変、遠隔再発、甲状腺がんによる死亡のいずれもが発生しないことと定義された。非劣性マージンは5%ポイントであった。

全体ではpT3/pT3a、N1aで再発率が高い

 504例(ITT集団)を登録し、非アブレーション群に251例(年齢中央値48歳[範囲:17~77]、女性76%)、アブレーション群に253例(47歳[17~80]、79%)を割り付けた。非アブレーション群の249例が実際にアブレーションを受けず、アブレーション群の231例がアブレーションを受けた(per-protocol集団)。

 追跡期間中央値は、非アブレーション群が6.8年、アブレーション群は6.6年で、この間に17例で再発を認めた(非アブレーション群8例、アブレーション群9例)。5年RFS率は、ITT集団では非アブレーション群が97.9%(95%信頼区間[CI]:96.1~99.7)、アブレーション群は96.3%(93.9~98.7)であり(ハザード比[HR]:0.84[90%CI:0.38~1.87])、per-protocol集団ではそれぞれ97.9%(95%CI:96.1~99.7)および96.9%(94.7~99.1)であった(1.03[90%CI:0.44~2.42])。

 ITT集団における両群間のRFS率の5年絶対リスク差は0.5%ポイント(95%CI:-2.2~3.2)であり、非アブレーション群のアブレーション群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.033)。

 全体(504例)の病期別の再発率はpT3/pT3aの腫瘍を有する患者で高く(pT3/pT3a腫瘍9%[4/46例]vs.pT1/pT2腫瘍3%[13/458例])、リンパ節転移の状態別ではN1aの患者で高かった(N1a 13%[6/47例]vs.N0/Nx 2%[11/457例])。一方、非アブレーション群ではこのような違いはなかった。

疲労感、嗜眠、口渇が多かった

 有害事象の頻度は両群で同程度であり、多くが一過性であった。最も頻度の高い有害事象は、疲労感(非アブレーション群25%[63/249例]vs.アブレーション群28%[65/231例])、嗜眠(14%[34例]vs.14%[32例])、口渇(10%[24例]vs.9%[21例])だった。治療関連死の報告はなかった。

 著者は、「低リスクの分化型甲状腺がん患者では、甲状腺全摘後のアブレーションを安全に回避できることが示された」「これにより、アブレーション関連の有害事象や入院を回避でき、家族や友人、職場の同僚との密接な接触を避ける必要性がなくなるなどの有益な影響がもたらされ、医療費の削減につながると考えられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)