重症の大動脈弁狭窄症で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受け、心不全イベントのリスクが高い高齢患者において、標準治療単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンを併用すると、全死因死亡または心不全悪化の発生率が有意に改善することが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのSergio Raposeiras-Roubin氏らDapaTAVI Investigatorsが実施した「DapaTAVI試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年4月10日号に掲載された。
スペインの無作為化対照比較試験
DapaTAVI試験は、TAVIを受けた大動脈弁狭窄症の高齢患者におけるダパグリフロジン併用の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2021年1月~2023年12月にスペインの39施設で参加者の無作為化を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成を受けた)。
重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受け、心不全の既往歴に加え腎不全(推算糸球体濾過量[eGFR]25~75mL/分/1.73m
2)、糖尿病、左室駆出率(LVEF)<40%のうち少なくとも1つを有する患者1,222例(平均[±SD]年齢82.4±5.6歳[72%が80歳以上、7%以上が90歳以上]、女性49.4%)を対象とした。これらの患者をTAVI施行後に、標準治療に加えダパグリフロジン(10mg、1日1回)の経口投与を受ける群(605例)、または標準治療のみを受ける群(618例)に無作為に割り付けた。
主要アウトカムは、追跡期間1年の時点における全死因死亡または心不全の悪化(心不全による入院または心不全で緊急受診し利尿薬静脈内投与を受けたことと定義)の複合とした。
主要アウトカムを有意に改善
全体の43.9%が糖尿病、17.0%がLVEF<40%、88.6%がeGFR 25~75mL/分/1.73m
2で、平均eGFRは56.2±16.4mL/分/1.73m
2であった。追跡期間中にダパグリフロジン群の103例(17.0%)が投与中止となり、標準治療単独群の43例(7.0%)が心不全以外の理由でダパグリフロジンの投与を開始した。標準治療単独群の1例が追跡不能となり主解析から除外された。
主要アウトカムのイベントは、標準治療単独群で124例(20.1%)に発生したのに対し、ダパグリフロジン群では91例(15.0%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.95]、p=0.02)。
全死因死亡はダパグリフロジン群47例(7.8%)、標準治療単独群55例(8.9%)(HR:0.87[95%CI:0.59~1.28])、心不全悪化はそれぞれ57例(9.4%)および89例(14.4%)(サブHR:0.63[95%CI:0.45~0.88])で発生した。
性器感染症、低血圧症の頻度が高い
非外傷性四肢切断(ダパグリフロジン群0.8%vs.標準治療単独群0.6%、p=0.72)、重症低血糖症(0.7%vs.1.3%、p=0.26)、がん(5.0%vs.3.6%、p=0.23)の発生率は両群で同程度であった。両群とも糖尿病性ケトアシドーシスの報告はなかった。
一方、性器感染症(1.8%vs.0.5%、p=0.03)および低血圧症(6.6%vs.3.6%、p=0.01)はダパグリフロジン群で高頻度だった。ダパグリフロジン群の37例(6.1%)が、有害事象により投与中止となった。
著者は、「これらの結果は、高齢患者においてSGLT2阻害薬は安全で、臨床的有益性をもたらすことを裏付けるものと考えられ、高齢患者へのSGLT2阻害薬の処方が少ない現状を考慮すると重要な知見といえるだろう」としている。
(医学ライター 菅野 守)