遺伝性のPROS1機能欠損はまれであるが、一般集団ではこれまで考えられていたよりも静脈血栓塞栓症(VTE)の強いリスク因子であることが示された。また、PROS1コーディング変異よりも後天的環境的要因や他の遺伝的要因のほうが血漿プロテインS欠乏を引き起こす可能性が高く、血漿プロテインS低値はVTEと関連していたという。米国・The Broad Institute of MIT and HarvardのSharjeel A. Chaudhry氏らが、縦断的集団コホートを用いた横断研究の結果を報告した。血栓性疾患における臨床的意思決定は、これまでプロテインS低下に伴う静脈・動脈血栓症のリスクの大きさが明らかになっていなかったことで妨げられていた。JAMA誌オンライン版2025年3月3日号掲載の報告。
UK BiobankとNIH All of Usバイオリポジトリの約63万例のデータを解析
研究グループは、UK Biobank(42万6,436例)、および米国国立衛生研究所All of Usバイオリポジトリ(20万4,006例)のデータを用いた。大規模なマルチオミクスデータセットは、プロテインS欠乏症の疫学と臨床的影響に関する疑問を解消する可能性がある。
UK Biobankは、2006~10年に参加者を登録し(最終追跡調査日2020年5月19日)、全エクソームシーケンスが行われた。一部(4万4,431例)は、ハイスループット血漿プロテオミクスによりプロテインS濃度を測定した。All of Usは2017年に登録が開始され(現在も継続中)、参加者は生殖細胞系列の全ゲノムシークエンスを受けた。両コホートには、人口統計学、臨床検査値、臨床アウトカムに関する個人レベルのデータが含まれている。
PROS1のまれな生殖細胞系遺伝子変異の有無と、遺伝子変異がタンパク質の活性を阻害する確率のin silico予測である機能的影響スコア(FIS)で分類し、血漿中プロテインS濃度の低下および
PROS1変異に関連する血栓症のリスクをFirthロジスティック回帰および線形回帰モデルを用いて評価した。
PROS1変異がVTEリスクと関連
UK Biobankのコホートは、登録時の年齢中央値が58.3歳(四分位範囲:50.5~63.7)、女性が54.3%、ほとんど(95.6%)が欧州系人で、1万8,011例がVTEを発症していた。
このコホートでは、最高リスクの
PROS1変異(FIS 1.0:ナンセンス変異、フレームシフト変異およびスプライス部位変異)のヘテロ接合体はまれであるが(補正後保有率は英国0.0091%、米国0.0178%)、VTEリスクは著しく高かった(オッズ比[OR]:14.01、95%信頼区間[CI]:6.98~27.14、p=9.09×10
-11)。
血漿プロテオミクス解析(4万4,431例)では、これら変異保有者の総プロテインS濃度は正常値の48.0%(p=0.02 vs.非保有者)であることが示された。一方、軽微なミスセンス変異体(FIS≧0.7)は一般的にみられ(補正後保有率:英国0.22%、米国0.20%)、血漿プロテインS濃度のわずかな低下と関連しており、VTEリスクの点推定値は小さかった(OR:1.977、95%CI:1.552~2.483、p=1.95×10
-7)。
All of Usコホートにおいても、両FISカットオフでの
PROS1変異とVTEの関連は独立して検証され、同様のエフェクトサイズであった。
PROS1コーディング変異体の存在と、3つの動脈血栓症(心筋梗塞、末梢動脈疾患、非心原性虚血性脳卒中)との間には関連性は検出されなかった。
PROS1変異の有無と血漿中プロテインS濃度低値との相関性は低く、プロテインS欠乏は
PROS1変異体の有無に関係なくVTEおよび末梢動脈疾患と有意に関連していた。
Kaplan-Meier生存分析において、
PROS1の生殖細胞系列機能喪失変異によるVTEリスクの上昇が認められ、生涯にわたって持続すると考えられた(p=0.0005、log-rank検定)。
(医学ライター 吉尾 幸恵)