非心房細動での心房高頻度エピソード、抗凝固薬は勧められず/NEJM

植込み型心臓デバイスによって検出された心房高頻度エピソード(atrial high-rate episodes:AHRE)は心房性不整脈を示唆しており、心房細動と類似の病態だが、発現はまれで持続時間が短い。ドイツ・Atrial Fibrillation Network(AFNET)のPaulus Kirchhof氏らは「NOAH-AFNET 6試験」において、心房細動(通常の心電図検査で検出されるもの)のない患者におけるAHREの発現が、抗凝固薬の投与開始を正当化するかを検討した。その結果、直接経口抗凝固薬エドキサバンによる抗凝固療法はプラセボと比較して、心血管死、脳卒中、全身性塞栓症の複合の発生率を減少させず、全死因死亡または大出血の複合の発生率が有意に高いことを明らかにした。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2023年8月25日号に掲載された。
欧州のイベント主導型、二重盲検ダブルダミー無作為化試験
NOAH-AFNET 6試験は、欧州18ヵ国206施設で実施されたイベント主導型の二重盲検ダブルダミー無作為化試験であり、2016年6月~2022年9月に患者の登録を行った(German Center for Cardiovascular Research[DZHK]などの助成を受けた)。年齢65歳以上、植込み型デバイスで6秒以上持続するAHREが検出され、1つ以上の脳卒中リスク因子を有し、心電図で検出された心房細動の既往歴がない患者を対象とした。これらの患者を、ダブルダミーデザインを用いてエドキサバン(60mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けた。
有効性の主要アウトカムは、心血管死、脳卒中、全身性塞栓症の複合であり、イベント発生までの時間分析で評価。安全性のアウトカムは、全死因死亡または大出血の複合とした。
本試験は、安全性への懸念と、エドキサバンの有効性に関する独立した非公式の無益性評価の結果に基づき、追跡期間中央値21ヵ月の時点で早期終了となった。終了時に、予定されていた患者登録は完了していた。
解析集団は2,536例で構成された(エドキサバン群1,270例、プラセボ群1,266例)。全体の平均年齢は78歳(67.0%が75歳以上)、女性が37.4%で、AHRE持続時間中央値は2.8時間だった。心電図検査では、2,536例中462例(18.2%、8.7%/人年)が心房細動と診断された。
脳卒中の発生には差がない、大出血は有意に多い
有効性の主要アウトカムは、エドキサバン群が83例(3.2%/人年)、プラセボ群は101例(4.0%/人年)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.60~1.08、p=0.15)。安全性のアウトカムは、プラセボ群が114例(4.5%/人年)で発生したのに対し、エドキサバン群は149例(5.9%/人年)と有意に多く発生した(補正後HR:1.31、95%CI:1.02~1.67、p=0.03)。
脳卒中(脳梗塞)の発生は、エドキサバン群が22例(0.9%/人年)、プラセボ群は27例(1.1%/人年)でみられ、両群で同程度であった(補正後HR:0.79、95%CI:0.45~1.39)。また、全身性塞栓症は、それぞれ14例(0.5%/人年)、28例(1.1%/人年)で認められた(0.51、0.27~0.96)。
心血管死(エドキサバン群52例[2.0%/人年]vs.プラセボ群57例[2.2%/人年]、補正後HR:0.90[95%CI:0.62~1.31])、脳卒中(脳梗塞)または全身性塞栓症(25例[1.0%/人年]vs.38例[1.5%/人年]、0.65[0.39~1.07])の発生にも、両群間に差はみられなかった。
大出血(エドキサバン群53例[2.1%/人年]vs.プラセボ群25例[1.0%/人年]、補正後HR:2.10[95%CI:1.30~3.38]、p=0.002)の発生はエドキサバン群で多かったが、全死因死亡(111例[4.3%/人年]vs.94例[3.7%/人年]、1.16[0.88~1.53]、p=0.28)は両群で同程度であった。
著者は、「本試験では、エドキサバンはプラセボに比べて脳卒中の発生を抑制せず、脳卒中の発生率そのものは低かったことから、AHREを有する患者では抗凝固療法を控えるのが適切と考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏
東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授
J-CLEAR理事