コロナ禍での女性の雇用喪失、世界共通で多い要因は?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2022/03/16

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が、健康、社会、経済の指標の男女差に及ぼした最も大きな影響は、新たな不平等を生み出すというよりも、以前から広く存在していた不平等を強化したことであり、とくに女性は男性に比べ、雇用の喪失や家事の増加、無報酬の介護義務による仕事の断念の割合が高い点が懸念材料であることが、米国・ワシントン大学のLuisa S. Flor氏らの調査で明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年3月2日号で報告された。

5つのカテゴリーに関する指標を193ヵ国で包括的に再検討

 研究グループは、健康関連、社会的、経済的な幅広い指標に関して、COVID-19が男女差に及ぼした間接的な影響の評価を目的に、包括的な調査を行った(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。

 解析には、2020年3月~2021年9月の193ヵ国のデータが用いられた。次の5つのカテゴリーに関する指標の、公表されているデータセットを再検討し、COVID-19の世界的流行の影響が評価された。

 (1)ワクチンへのためらい(接種サービスが利用可能なのに拒否)と接種(完全接種者)、(2)保健サービス(医療全般・性と生殖に関する健康・予防医療・薬剤の入手・健康製品[眼鏡、補聴器、杖など]の入手の混乱)、(3)経済上および仕事関連の心配事(雇用喪失、収入喪失、家事の増加、他人の世話の増加、介護が原因の離職)、(4)教育(学校の中途退学、適切な遠隔学習)、(5)家庭と地域社会での安全性(性差に基づく暴力増加の認識、家庭での不安感)。

 混合効果回帰とガウス過程回帰、ブートストラップ法を用いて、すべてのデータソースが統合された。基礎データとモデル化過程の不確実性を考慮したうえで、混合効果ロジスティック回帰モデルを使用して、世界および地域別の男女差(gender gap)の検討が行われた。

ワクチンへのためらいや接種には差がない

 COVID-19の世界的流行の開始以降、雇用喪失の割合は高く、男性よりも女性で顕著に高率であるが、男女とも着実に減少する傾向がみられた。2021年9月の時点で、女性の26.0%(95%不確実性区間[UI]:23.8~28.8)、男性の20.4%(18.2~22.9)が、COVID-19の世界的流行期間中の雇用喪失を報告した。

 回答者の半数以上が、COVID-19の世界的流行の期間中に、家事や他人の世話が増えたと報告しており、北アフリカと中東を除き、女性が男性よりも有意に高率であった。最も男女差が大きかったのは、他人の世話の増加が高所得国で女性が男性の1.10倍に、家事の増加は中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジアで女性が男性の1.22倍となっていた。

 同期間中に、どの地域でも女性は男性に比べ、介護が原因で仕事を辞めたとの報告が多く、この性差は時間の経過に伴って拡大した。2020年3月の時点で、介護が原因の離職の世界的な割合は、女性が男性の1.8倍であり、2021年9月には2.4倍に拡大していた。

 同期間中の学校の中途退学の割合は、全体では6.0%(95%UI:5.98~6.02)であった。学校閉鎖以外の理由による中途退学の報告は、女性/女児が男性/男児の1.21倍(95%UI 1.20~1.21)だった。最も性差が大きかったのは、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジア(女性が男性の4.10倍)と南アジア(同1.48倍)であった。

 性差に基づく暴力の報告の割合は、女性が53.7%(95%UI:53.6~53.8)、男性は43.7%(43.7~43.8)であり、女性が男性の1.23倍(1.22~1.23)であった。最も頻度が高かったのは、中南米諸国とカリブ海諸国(61.2%、95%UI:60.9~61.5)、高所得国(59.9%、59.6~60.3)、サハラ以南のアフリカ諸国(56.7%、56.4~56.9)だった。

 2021年9月の時点で、ワクチンへのためらいや接種には有意な男女差は認められなかった。

 著者は、「社会はいま、重大な局面を迎えており、男女平等(gender equality)に向けた重要な進展がCOVID-19の世界的流行によって停滞したり、逆行したりしないように、女性/女児の能力開花(empowerment)への投資が必要とされている」としている。

(医学ライター 菅野 守)