精神科病院の入院患者では、機械的な身体的拘束(機械的拘束)を受けた患者は化学的な身体的拘束(化学的拘束)を受けた患者と比較して、拘束後30日時の静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが約2倍に増加した。また、個別の患者内の解析では、VTE発生率が機械的拘束後14日間で4倍超に上昇することが、デンマーク・Aarhus UniversityのJakob Hansen Viuff氏らによる検討で示された。重度の精神疾患を有する患者は、VTEのリスクが高いとされるが、身体的拘束後のVTEリスクに関するエビデンスは十分でなかった。研究の成果は、BMJ誌2026年7月1日号で報告された。
デンマークのコホート研究・自己対照症例シリーズ研究
研究グループは、精神科病院に入院中の精神疾患患者における機械的拘束後のVTEリスクの評価を目的に、住民ベースのコホート研究および自己対照症例シリーズ研究を実施した(Independent Research Fund Denmarkの助成を受けた)。
2000年1月1日~2022年9月30日に、デンマークの精神科病院で機械的または化学的な身体的拘束を受けた年齢18歳以上の2万4,423例を解析の対象とした。入院中または退院直後に初発VTEを認めた1,285例を自己対照症例シリーズとした。
主要アウトカムは、コホート研究では、傾向スコアで重み付けしたVTEの累積発生率と、リスク比、リスク差(害必要数[NNH]を含む)とした。また、自己対照症例シリーズ研究では、拘束後の事前に定義されたリスク期間におけるVTEの発生率比を評価した。
拘束後30日のリスク比は2.07
2万4,423例のうち1万208例が機械的拘束を、1万4,215例が化学的拘束を受けた。機械的拘束群の拘束時の年齢中央値は40.5歳(四分位範囲[IQR]:27.8~53.7)で、6,950例(68.1%)が男性であった。
拘束後30日の時点におけるVTEの累積発生率は、機械的拘束群で1,000例当たり3.5例(95%信頼区間[CI]:2.5~4.7)、化学的拘束群で1,000例当たり1.7例(95%CI:1.0~2.6)であった。リスク比は2.07(95%CI:1.25~3.71)、リスク差は1,000例当たり1.8例(95%CI:0.5~3.2)であり、NNHは548(95%CI:311~1,912)であった。リスク比は、入院拘束直後に最大に達し、8日目以降は安定して推移した。
拘束から30日以内に、化学的拘束群の13.0%が機械的拘束を受け、機械的拘束群の13.5%が化学的拘束を受けた。この介入の切り換え時における拘束後30日時のVTEのリスク比は、主解析の結果と同程度であった(2.13、95%CI:1.17~3.89)。
機械的拘束群の拘束後30日時の全死因死亡のリスクは、1,000例当たり21.4例(95%CI:18.7~24.3)であったが、90日時には39.0例(95%CI:35.8~43.2)まで上昇した。化学的拘束群と比較した、機械的拘束群の拘束後30日時の全死因死亡のリスク比は1.16(95%CI:0.89~1.49)であり、リスク差は1,000例当たり2.9例(95%CI:-2.5~7.5)であった。
患者内の機械的拘束後14日時の発生率比は4.49、30~90日は0.92
自己対照症例シリーズの患者におけるVTE発生時の年齢中央値は57.5歳(IQR:45.0~71.4)で、662例(51.5%)が女性であった。
この患者集団では、ベースライン期間と比較した機械的拘束後14日時におけるVTEの発生率比は4.49(95%CI:3.09~6.54)であった。発生率比は、その後低下し、機械的拘束後15~29日は1.64(95%CI:0.93~2.89)、30~90日は0.92(95%CI:0.60~1.40)となった。
拘束中の身体的負荷が、2次的メカニズムの可能性
著者は、「VTE発症の絶対リスクは低かった(拘束後30日時に3.5/1,000例)ものの、これらの知見は、拘束を受ける患者におけるVTEのリスクを低減するための予防戦略の重要性を強調するものである」としている。
また、「機械的拘束とVTEを結びつける最も妥当な病態生理学的メカニズムは、静脈うっ滞を促進し、静脈還流を阻害する不動化(immobilisation)であるが、このリスクは重度の精神疾患を有する集団においてさらに増幅される可能性がある。また、機械的拘束中に生じる著しい身体的負荷は、VTE発症の2次的なメカニズムの一因となっている可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)