パンデミックの経済への影響、疾患そのもの以上に大きな要因が

提供元:ケアネット

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公開日:2009/12/18

 



インフルエンザによるパンデミックのイギリス経済への影響については、疾患そのものよりも、学校閉鎖と「普段の生活」とのバランス、および有効なワクチンの十分な備蓄が重大な決定要因であることが、イギリス・ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のRichard D Smith氏らによる推計で示された。パンデミックへの備えとして、経済的損失を最小限に止めるための「普段の生活(business as usual)」の維持と、健康への悪影響を最小限にするための「社会距離戦略(social distancing、感染者と非感染者の接触を減少させる方策、学校や職場の閉鎖など)」とのバランスをとることが重要とされる。しかし、不安による行動の変化や政府による職場および学校の閉鎖が経済に実質的なインパクトを及ぼし、経済的損失と健康上のベネフィットのバランスが崩れる可能性があるという。BMJ誌2009年12月5日号(オンライン版2009年11月19日号)掲載の報告。

パンデミックの深刻度別のシナリオにおける経済的インパクトを評価




研究グループは、公表されたデータを用いて、インフルエンザによるパンデミック、ワクチンの効果、学校閉鎖、予防的欠勤がイギリス経済に及ぼすインパクトについて一般均衡モデルによる推計を行った。

最新の適切なイギリス経済データとして2004年度のデータを用い、国内総生産(GDP)、各経済セクターの生産高、等価変分(equivalent variation)に関して、パンデミックの深刻度別のシナリオ(3段階の発病率と3段階の致死率の組み合わせ)におけるワクチン接種、学校閉鎖、予防的欠勤の経済的インパクトを評価した。

学校閉鎖と予防的欠勤は大きな経済的損失をもたらし、有効なワクチンは損失を軽減する




疾患のみに関連したコストは、低致死率のシナリオの場合はGDPの0.5~1.0%に相当し、高致死率のシナリオでは3.3~4.3%、極度の致死率では6.0~9.6%に達した。

学校閉鎖の経済的インパクトは、軽度のパンデミックのシナリオの場合に特に大きかった。広範な行動の変化が起き、大規模な予防的欠勤が生じた場合には、経済的損失は著明に増大し、健康上のベネフィットはほとんど得られなかった。

パンデミック前にワクチン接種を行った場合は、GDPの0.13~2.3%に相当する額が損失されずに済んだ。適合ワクチンの1回接種ではGDPの0.3~4.3%が損失されずに済み、2回接種では全シナリオを通じて経済的損失はGDPの約1%にまで抑制された。

著者は、「インフルエンザによるパンデミックのイギリス経済への影響については、疾患そのものよりも、学校閉鎖と“普段の生活”とのバランス、および有効なワクチンの十分な備蓄が重大な決定要因であり、感染への不安による予防的欠勤はかなりの経済的損失をもたらす可能性がある」と結論している。

また、「パンデミックの深刻度が最も低い場合でも、ワクチン接種に要するコストよりも、それによって得られる経済的恩恵の方が大きい。高~極度のパンデミックの場合は、適合ワクチン接種が、不安による行動変化がもたらす未曾有の経済的損失を回避する唯一の方法となる可能性がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)