NeuroSAFEを用いた前立腺がん手術が勃起機能温存に有効か

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2025/04/29

 

 画期的な技術の導入により、前立腺がんの外科的手術後に勃起機能を温存できる男性の数が2倍近く増える可能性のあることが明らかになった。ロボット支援根治的前立腺全摘除術(RARP)にNeuroSAFEと呼ばれる術中診断技術を導入することで、勃起をコントロールすると考えられている前立腺の外層を通る神経を温存させることができるという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)病院の泌尿器科顧問であるGreg Shaw氏らによるこの研究結果は、欧州泌尿器科学会年次総会(EAU25、3月21〜24日、スペイン・マドリード)で発表されるとともに、「The Lancet Oncology」4月号に掲載された。

 近年のロボット手術技術の進歩は、前立腺周囲の神経の精密な温存を可能にしたと研究グループは指摘する。しかし、神経を残すことでがん細胞も残る可能性があるのかを判断するのは難しいという。そのため、特に進行した前立腺がんの手術では、外科医は慎重を期し、確実にがんを取り除くために神経温存を行わない選択をすることが多い。

 NeuroSAFEとは、前立腺全摘除術中に、前立腺周囲の神経血管束に接する組織の切片を迅速凍結してがんの浸潤を評価する検査のこと。勃起機能や尿禁制(排尿を意図した通りにコントロールできること)に関わる神経血管束の温存の可否をリアルタイムで判定できることから、神経血管束温存の成功率向上が期待されている。しかし、NeuroSAFEを用いたRARPが、患者の術後の勃起機能や尿禁制の回復に与える影響については明らかになっていない。

 今回、Shaw氏らは、英国の5カ所の病院で非転移性前立腺がんの診断を受け、RARPを受けた男性381人を対象にランダム化比較試験を実施し、NeuroSAFEの効果を標準的なRARPとの比較で評価した。対象者は、NeuroSAFEを用いたRARPを受ける群(NeuroSAFE群、190人)と標準的なRARPを受ける群(RARP群、191人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、手術から12カ月後に国際勃起機能スコアであるIIEF-5スコアで評価した勃起機能とした。IIEF-5は25点満点で、21点以上を勃起機能が回復している状態と見なした。

 追跡期間の中央値は12.3カ月だった。主要評価項目に関するデータが完備したのは344人で(NeuroSAFE群173人、RARP群171人)、IIEF-5スコアの平均点は、NeuroSAFE群で12.7点、RARP群では9.7点だった。調整平均差は3.18点(95%信頼区間1.62〜4.75)であり、両群間には統計学的に有意な差のあることが確認された(P<0.0001)。また、術後12カ月後の時点で勃起機能回復の閾値とされたIIEF-5スコアが21点以上だった者の割合は、NeuroSAFE群で20%、RARP群で14%であり、勃起障害がないか(IIEF-5スコア22〜25点)、軽度の勃起障害(IIEF-5スコア17〜21点)と判定された割合は、それぞれ39%と23%(障害なし:19%と11%、軽度:20%と12%)、重度の勃起障害(IIEF-5スコア1〜7点)と判定された割合はそれぞれ38%と56%だった。さらに、NeuroSAFE群ではRARP群に比べて尿禁制の回復が早いことも確認された。

 Shaw氏は、「われわれの研究結果は、NeuroSAFEを使用することで、RARP後に人生を変えかねない勃起障害に直面する必要のない男性が2倍近く増えることを示している」とEAUのニュースリリースで述べている。同氏は、「NeuroSAFEは専門知識を要する複雑な手順だが、患者にもたらすメリットを考えると特に高価とは言えない。何より重要なことは、がんコントロールに悪影響を及ぼさないことだ」と付言している。

 一方でShaw氏は、「ただし、NeuroSAFEは全ての患者に適しているわけではない。多くの患者は、標準的な手術支援ロボットを使って安全に神経温存手術を受けることができるからだ。しかし、若い患者や、通常は神経温存手術の対象と見なされない患者にとっては、NeuroSAFE導入により生活の質(QOL)を維持できる可能性が高まる」と述べている。

 研究グループは、NeuroSAFEを用いた治療を受けた患者の長期的ながんの転帰を追跡するにはさらなる研究が必要だとしている。

[2025年3月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら