失明を来し得る眼疾患のリスクがセマグルチドでわずかに上昇

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2025/03/20

 

 2型糖尿病の治療や減量目的で処方されるセマグルチドによって、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)という失明の可能性もある病気の発症リスクが、わずかに高まることを示唆するデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ウィルマー眼研究所のCindy Cai氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に2月20日掲載された。

 NAIONは、網膜で受け取った情報を脳へ送っている「視神経」への血流が途絶え、視野が欠けたり視力が低下したり、時には失明に至る病気。一方、セマグルチドはGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)という薬の一種で、血糖管理や減量のために処方される。2024年に、同薬がNAION発症リスクを高めるという論文が発表された。ただし、ほぼ同時期にその可能性を否定する研究結果も発表されたが、安全性の懸念が残されている。これらを背景としてCai氏は、複数のデータベースを統合した大規模サンプルを用いた後ろ向き研究を実施した。

 解析には、医療費請求データや電子カルテなど計14件のデータを使用し、二つの手法でNAION発症リスクを検討した。一つ目は、セマグルチドが新たに処方された患者と、セマグルチド以外のGLP-1RA、およびGLP-1RA以外の血糖降下薬が処方された患者を比較する、実薬対照コホートデザインによる検討。二つ目は、同一患者内で当該薬剤を使用していた期間と使用していなかった期間とでリスクを比較する、自己対照研究デザインによる検討。

 解析対象は3710万人の2型糖尿病患者であり、そのうち81万390人がセマグルチドの新規使用者だった。NAIONの発症リスクの検討には、1件の診断コードのみで定義した高感度モデルと、90日以内に2件以上の診断コードが記録されている場合で定義した高特異度モデルという2パターンを用いた。NAION発症率は、高感度モデルでは10万人年当たり14.5、高特異度モデルでは同8.7だった。

 実薬対照コホートデザインの高感度モデルでは、セマグルチドはSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン、DPP-4阻害薬のシタグリプチン、SU薬のグリピジドとの比較でNAIONリスクに有意差はなかった。高特異度モデルでは、エンパグリフロジンとの比較でのみ、リスクが有意に高かった(ハザード比〔HR〕2.27〔95%信頼区間1.16~4.46〕)。

 自己対照研究デザインにおいてセマグルチドは、高感度モデルで発生率比(IRR)1.32(同1.14~1.54)、高特異度モデルでIRR1.50(同1.26~1.79)と有意なリスク上昇が認められた。また、別のGLP-1RAであるエキセナチドも高特異度モデルでIRR1.62(同1.02~2.58)と有意なリスク上昇が認められた。

 著者らは、「われわれの研究により、セマグルチドとNAIONリスクとの関連についての新たなエビデンスが示された。認められたリスクは先行研究に比べて小さかった。潜在的なメカニズムや因果関係の特定のために、さらなる研究が求められる」と述べている。またCai氏は、「セマグルチドは全身性の副次的効果が豊富な薬剤ではあるが、患者と医師はNAIONのリスクに留意する必要がある」としている。

[2025年2月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら