心不全のない心筋梗塞後の患者にβ遮断薬の処方は不要?

β遮断薬は、心筋梗塞を経験した多くの人にとって頼りになる薬である。しかし、スウェーデンの新たな研究により、心筋梗塞から回復し、心機能が正常に保たれている患者には、この薬による治療は必要ない可能性のあることが明らかになった。この研究では、心筋梗塞後に左室駆出率が保たれている患者に対するβ遮断薬による治療は、患者の抑うつ症状の軽度な増加と関連することが示された。詳細は、「European Heart Journal」に10月3日掲載された。論文の筆頭著者であるウプサラ大学(スウェーデン)心臓心理学分野のPhilip Leissner氏は、「それだけでなく、この患者群にβ遮断薬を投与しても、生命維持には役立たない」と同大学のニュースリリースの中で述べている。
心臓専門医は数十年にわたり、心臓病の治療薬としてβ遮断薬に頼ってきた。この薬は、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンが心臓のβ受容体に結合するのを防ぐことで、血圧や心拍数などを抑える作用を持つ。しかし、近年、医療の進歩により心筋梗塞から回復した患者に対する医薬品の選択肢が増えたことを受け、β遮断薬の使用は疑問視されるようになっている。Leissner氏らは、これは特に、心筋梗塞から回復後に左室駆出率が保たれている患者に当てはまると話す。同氏らは、2024年4月に発表した論文において、この種の患者に対するβ遮断薬による治療は不要であると結論付けている。
今回の研究では、これらの患者に対するβ遮断薬による治療は害となる可能性さえあることが判明した。Leissner氏らは、心筋梗塞後にβ遮断薬(メトプロロール、ビソプロロール)か、それ以外の薬を処方された心不全のない患者806人のデータを用いて、β遮断薬の投与が患者が報告する抑うつおよび不安の症状に及ぼす影響を調査した。患者は、入院時と2回の追跡調査時(心筋梗塞から6〜10週間後と12〜14週間後)に、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いて抑うつと不安に関する評価を受けていた。
解析の結果、β遮断薬による治療は、1回目の追跡調査時(β=0.48、95%信頼区間0.09〜0.86、P=0.015)、および2回目の追跡調査時(β=0.41、95%信頼区間0.01〜0.81、P=0.047)の両方で、抑うつ症状に負の影響を与えることが示された。一方、不安に対する影響は認められなかった。さらに、研究開始前にすでにβ遮断薬を使用していた患者では、抑うつリスクがさらに高まることも示された。この結果は、β遮断薬の使用と抑うつ症状との間に用量反応関係があることを示唆している。
研究グループは、「β遮断薬による治療を受けた心不全のない心筋梗塞生存者では、抑うつ症状の重症度にわずかな増加が認められた」と結論。「これまでの研究で、β遮断薬の使用により、抑うつ、不眠症、さらには悪夢を見るリスクが高まることが分かっているので、この結果に驚きはなかった」と述べている。
Leissner氏は、「かつてはほとんどの医師が、心不全のない患者にもβ遮断薬を処方していた。しかし、その根拠はもはやそれほど明確なものではなく、再検討が必要だ」と指摘する。さらに同氏は、「心筋梗塞を経験した患者の中には、抑うつリスクが高いと考えられる人もいる。β遮断薬が心臓に良い効果をもたらさないのであれば、そのような患者に対する同薬の処方は不必要である」と述べている。
[2024年11月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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