高齢者での術後せん妄、原因は血液脳関門の透過性亢進か

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/10/18

 

 高齢者では、手術後にせん妄が生じ、それが深刻な合併症や苦痛を引き起こすことがあるが、その原因は不明であった。こうした中、新たな研究により、術後せん妄を発症する患者では、物質が脳に入るのを防ぐ細胞の層である血液脳関門の透過性が亢進していることが明らかになった。米デューク大学医学部麻酔学分野のMichael Devinney氏らによるこの研究結果は、「Annals of Neurology」に8月24日掲載された。

 Devinney氏は、「この結果により、米国で毎年何百万人もの高齢者に影響を及ぼしている術後せん妄の問題に取り組むための道筋が整った。その意味で、本研究結果は重要だ」と話している。同氏はさらに、「術後に血液脳関門が開かないようにする方法や、関門を通過して脳に到達することができる物質を特定できれば、術後せん妄を予防する治療法の開発につなげることが可能になるかもしれない」と同大学のニュースリリースで述べている。

 手術を受けた高齢患者の最大40%がせん妄を経験する。術後せん妄は、入院期間の延長や大きな苦痛、術後の重大な合併症の発症と関連している。マウスを使った過去の研究では、術後せん妄が血液脳関門の障害によって引き起こされる可能性が示唆されている。血液脳関門の機能は、脳脊髄液/血漿アルブミン比(CPAR)を用いて評価することができ、CPAR値が高い場合には血液脳関門の透過性亢進が示唆される。

 Devinney氏らの研究では、非心臓・非脳神経外科の手術を受け、CPARと術後せん妄に関するデータがそろう60歳以上の患者207人(年齢中央値68歳、男性55.1%)を対象に、血液脳関門の機能障害と術後せん妄および入院期間との関連が検討された。CPARは、手術前と手術から24時間後に対象患者から採取された脳脊髄液と血液を用いて計算された。対象者は手術前後に14項目から成るテストバッテリーを用いた認知機能の評価も受けた。

 その結果、対象者全体を通して、CPARは手術前と比べて手術から24時間後の時点で上昇していたが、特に術後せん妄を発症した患者では発症しなかった患者に比べて、手術前後のCPARの変化が有意に大きいことが明らかになった(中央値1.31対0.19、P=0.003)。年齢、試験開始時の認知機能、手術の種類で調整した多変量解析の結果、手術前後のCPARの変化は、術後せん妄および入院期間の延長と独立して関連することが示された。こうした結果を受けて研究グループは、「手術に反応して血液脳関門の透過性が亢進している可能性がある」と述べている。

 Devinney氏らは、「これらの結果は、心臓や大動脈の手術を受けた小規模患者集団において、手術後の血液脳関門の機能障害が認知機能障害およびせん妄と関連することを示した過去の研究結果と一致する内容だ」と述べている。そして、非心臓手術を受けた、より高齢でより大規模な患者集団において、術後の血液脳関門の機能障害が、手術前の認知機能にかかわりなく術後せん妄と関連することを示した今回の研究結果は、過去の研究結果を拡張するものだとの見方を示す。その上で、術後せん妄の発症には、「素因」、すなわち術前の認知機能障害と、「誘引」、すなわち術後の血液脳関門の機能障害という二つの要因が関連している可能性を指摘している。

 研究グループは今回の研究で採取した髄液サンプルを詳しく調べ、せん妄を発症した患者で特定の炎症因子のレベルが高いかどうかを確認する予定であるとしている。なお、本研究には、米国国立衛生研究所(NIH)も資金提供団体に名を連ねている。

[2023年9月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら