HDL-コレステロールは“善玉”?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/12/19

 

 “善玉”として知られているHDL-コレステロール(HDL-C)は、心臓の健康にそれほど大きな違いをもたらさないことを示すデータが報告された。白人と黒人の比較では、後者において特にその可能性が大きいという。米オレゴン健康科学大学のNathalie Pamir氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に11月21日掲載された。

 米国成人約2万4,000人を対象としたこの研究では、HDL-Cが低い白人は、冠動脈心疾患(CHD)のリスクがやや高くなることが分かった。しかし黒人ではそのような関連は見られなかった。また、白人か黒人かにかかわらず、HDL-Cが高い場合にCHDリスクが低下するという関連は見つからなかった。この結果を受けて、「CHDリスクの予測のためのHDL-Cの位置付けを再検討する必要がある」とする研究者も現れている。論文の上級著者であるPamir氏も、「CHDの古典的リスク因子が誰にでも同様の影響を及ぼすわけではない。治療ガイドラインは全ての人に役立つものであるべきだ」と述べている。

 HDL-Cが“善玉”のコレステロールと認識されたのは、1970年代にさかのぼる。第二次世界大戦後に米国で増加していたCHDのリスク因子を探る目的でスタートし、現在も継続されている大規模疫学研究の嚆矢「フラミンガム研究」から、HDL-Cが高いほどCHDリスクが低いことが示され始めていた。HDL-C以外には運動がリスク低下に働き、反対に喫煙、肥満、高血圧、“悪玉”のLDL-Cはリスクを上げることも分かってきていた。

 それらのエビデンスを基に、血圧やLDL/HDL-Cなどの値を組み合わせてCHDリスクを予測する手法が確立された。今日でもその手法を用いたリスク判定に基づいて、治療介入が行われている。例えばHDL-Cについては、米国では男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満の場合に、HDL-Cが低すぎる「低HDL-C血症」と診断され、60mg/dLを目標にコントロールすることが推奨されている。

 ただし、フラミンガム研究の参加者は大半が白人だった。現在では、CHDリスクに影響を及ぼす因子には人種差があることが分かっており、低HDL-C血症が白人以外にも良くないことかどうかの確認が必要な状況にある。そして今回のPamir氏らの研究により、人種差を十分考慮しないリスク評価は、支持されない可能性が高くなった。

 Pamir氏らの研究は、CHDの既往のない45歳以上の米国人2万3,901人(平均年齢64±9歳、女性58.4%、白人57.8%)を中央値で10年間追跡。CHDイベント(心筋梗塞の発症またはCHDによる死亡)リスクとHDL-Cとの関連を検討した。

 CHDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙、BMI、LDL-C、中性脂肪、糖尿病、スタチン・降圧薬の処方など)で調整後、低HDL-C血症は白人のCHDリスク増大と関連が認められた〔ハザード比(HR)1.22(95%信頼区間1.05~1.43)〕。一方、黒人では有意な関連が認められなかった〔HR0.94(同0.78~1.14)〕。また、HDL-C高値(60mg/dL超)であっても、白人〔HR0.96(0.79~1.16)〕、黒人〔HR0.91(0.74~1.12)〕ともに、有意なリスク低下は観察されなかった。

 この研究結果について、米テュレーン大学のKeith Ferdinand氏は、「この知見が、CHDのリスク評価におけるHDL-Cの位置付けの変更につながるとしたら、それは良い変化である」と語っている。同氏は、黒人患者の場合、低HDL-C血症よりも高血圧や肥満、LDL-C高値などのリスク因子をより重視する必要があるとしている。とはいえ、HDL-Cを上げるために推奨される事柄は全て健康に良いという。具体的には、運動、禁煙、加工食品に多く含まれているトランス脂肪酸の摂取を減らすことなどが当てはまる。Pamir氏によると、HDL-Cが低いのであれば、それらの努力を続けるべきだが、HDL-Cの数値にとらわれる必要はないとのことだ。

 なお、本研究は米国立衛生研究所(NIH)の資金提供により実施された。

[2022年11月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら