インフルエンザワクチンの接種がアルツハイマー病予防の一助に?

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/29

 

 年に1度のインフルエンザワクチンの接種は、季節性インフルエンザに効果があるだけでなく、アルツハイマー病に対しても保護的に働く可能性があることを示唆する新たな研究の結果が明らかになった。この研究では、過去4年間に少なくとも1回以上インフルエンザワクチンを接種した人では、同ワクチンの接種歴がない人と比べて同期間にアルツハイマー病を発症するリスクが40%低いことが示された。米マサチューセッツ総合病院のAvram Bukhbinder氏らによるこの研究結果は、「Journal of Alzheimer's Disease」に6月13日掲載された。

 Bukhbinder氏らは今回の研究で、2009年9月1日から2015年8月31日までの6年にわたって認知症を発症せず、追跡開始時の2015年9月1日時点で65歳以上だった高齢者を対象に2019年8月31日まで追跡し、インフルエンザワクチンを1回以上接種した人(ワクチン接種群)とワクチン未接種の人(ワクチン未接種群)との間でアルツハイマー病の発症リスクを比較した。各群は、傾向スコアマッチング法により選び出した93万5,887人ずつで構成され、平均年齢は73.7歳、女性が56.9%を占めていた。

 中央値で46カ月にわたる追跡期間中にアルツハイマー病を発症した人の割合は、ワクチン接種群で5.1%(4万7,889人)、ワクチン未接種群で8.5%(7万9,630人)であり、ワクチンを接種した場合のアルツハイマー病発症の相対リスクは0.60(95%信頼区間0.59〜0.61)と算出された。

 こうした結果を受けてBukhbinder氏は、「この結果は、インフルエンザワクチンを接種すべき説得力のある理由の一つになるのではないか」との考えを示し、「インフルエンザワクチン接種はアルツハイマー病発症の阻止を保障するものではないが、同ワクチンの重要性をさらに高めることになりそうだ」と話している。

 インフルエンザワクチンの接種によりアルツハイマー病の発症リスクが低減する理由についてBukhbinder氏は、「ワクチン接種により免疫システムが活性化され、アルツハイマー病の原因タンパク質を攻撃するようになるのではないか」と推測する。このタンパク質が脳内に蓄積することで周囲の神経細胞が死滅し、アルツハイマー病の発症に至ると考えられている。また、「ワクチン接種による感染予防あるいは重症化予防が、特に65歳以上の人たちでは、インフルエンザウイルスによる脳へのダメージの軽減に寄与するのかもしれない」との見方も示している。

 またBukhbinder氏は、「興味深いことに、アルツハイマー病などの認知症に対して保護的な作用があると思われるのはインフルエンザワクチンだけではない。破傷風やジフテリア、肺炎球菌、帯状疱疹のワクチンもまた、アルツハイマー病やその他の認知症リスクの低下に関連することが報告されている。ただ、今回の研究で認められた関連ほど強くはない」と説明する。同氏はさらに、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンにも同様の効果を期待できるかもしれない」とも話している。

 米疾病対策センター(CDC)のワクチン諮問委員会は6月30日に、65歳以上の米国民に対して、高齢者に強力な予防効果をもたらすよう設計されたインフルエンザワクチンの接種を推奨すると発表した。Bukhbinder氏は「感染予防効果が従来のものよりも高いと考えられているこれらのワクチンがCDCによって公式に推奨されることになったのは、素晴らしいことだ」と話し、CDCの決断を称賛している。また、これらのより強力なワクチンがアルツハイマー病に対してもさらに高い保護作用を示すのかどうか、今後の研究で明らかにしたいとの意欲を示している。

 米アルツハイマー病協会のメディカル&サイエンティフィック・リレーション部門バイスプレジデントのHeather Snyder氏は、「この新たな研究から、インフルエンザワクチンの接種は加齢に伴い低下する認知機能や記憶力の維持に有益である可能性が示唆された」と述べている。しかし同氏は、「インフルエンザワクチンそのものがアルツハイマー病の発症リスクを低下させると断定するには時期尚早である」と指摘し、「今回の結果をもたらした生物学的なメカニズムを明らかにするために、さらなる研究が必要だ」と指摘している。

[2022年6月29日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら