COPDの早期治療は必要か? ―大規模臨床試験が示すもの―

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2008/10/31

 



2008年10月29日、COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する大規模臨床試験UPLIFT(Understanding Potential Long-term Impacts on Function with Tiotropium)の結果発表を受けて、COPD治療薬チオトロピウム(商品名:スピリーバ)の販売会社である日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社/ファイザー株式会社による記者会見が、久留米大学医学部内科学講座 呼吸器・神経・膠原病内科主任教授 相澤久道氏(=写真)を迎えて開催された。

日本呼吸器学会理事も務めている相澤氏はUPLIFTの結果紹介に先立ち、COPDにおける現状について、『開業医の身近にある疾患にもかかわらず、多くのCOPD患者が見逃されている』、『重症ほど医療費が大きくなる』ことを紹介し、積極的な治療が必要であることを強く訴えた。

UPLIFTはCOPDに関する臨床試験の中では最大規模の5,993名の患者が参加し、最長試験期間である4年間にわたって実施された。日本から約100名の患者が参加したこと、通常治療をベースとした試験デザインが採用されたことも本試験の特徴である。特に、チオトロピウム群およびコントロール群の双方で、長時間作用型β2刺激薬(LABA)や吸入ステロイド(ICS)、テオフィリンなど、吸入抗コリン薬以外のすべての薬剤使用が許可されていた点が他の臨床試験と大きく異なり、注目すべきと相澤氏が強調した。

UPLIFTの主要評価項目は、FEV1(一秒量)の経年的低下量であった。副次的評価項目は、その他の呼吸機能、増悪、健康関連QOL、すべての有害事象、すべての原因による死亡患者数、呼吸器疾患による死亡患者数であった。

UPLIFTの結果では、チオトロピウム群はコントロール群に比べ、FEV1の低下率に差はみられなかったものの、FEV1を試験開始30日時点で有意に改善し、その差は4年間の試験期間にわたって維持された(気管支拡張薬投与前87~103 mL、気管支拡張薬投与後47~65 mL、P<0.001)。また、増悪、健康関連QOL、死亡率に関しては、有意に優れた結果が認められた。さらに、重篤な副作用である心疾患全体、呼吸器(下部)疾患全体においても有意に低下した。

相澤氏によると、治験薬投与中に、両群とも長時間作用型β2刺激薬(LABA)が72%、吸入ステロイド(ICS)が74%、LABA/ICS合剤が46%の患者に処方されており、ベースとして強力な治療が行われているにも関わらず、チオトロピウム群では、呼吸機能や健康関連QOLを有意に改善し、COPDに関する大規模臨床試験では初めて死亡率を有意に低下したことが評価に値する。また、4年間にわたってチオトロピウムの安全性が証明されていることが大きいとしている。
 

さらに相澤氏は、今回の試験で、軽症・中等症のCOPD患者では、重症の患者よりFEV1の低下速度が速いという今までの常識を変えることに注目し、また、チオトロピウム群は中等症(GOLDステージII)のFEV1の低下率を有意に改善した結果を踏まえ、「COPDは早期から治療を開始する方がよい」ことを強調した。

最後に、相澤氏は先行治療に制限がないというUPLIFTの特徴は、実際の臨床に即しており、チオトロピウムによる持続的な治療はCOPD患者にベネフィットをもたらすとまとめた。

(ケアネット 呉 晨)

原著論文はこちら

Tashkin DP et al. A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2008 Oct 9; 359(15): 1543-54.

Tashkin DP ERS2008 Symposium