医学部卒業までにかかる多額の費用を支える「奨学金」。本来、学問を志す者を支えるための制度であるが、返済義務を伴う貸与型が主流である現状では、実態として「若年期に背負う多額の負債(借金)」という側面も併せ持つ。今回、CareNet.comでは、「医師の奨学金利用と返済状況」と題したアンケートを実施し、奨学金の利用率や借入額、そして返済や利用条件が医師のキャリアに与えた影響を聞いた。対象はケアネット会員医師1,031人で、20代~60代以上の各年代層から回答を得た。
回答者の7割が国公立出身
Q1では「卒業した大学の種別」を聞いた。全体では、国公立大学が72%と大半を占め、次いで私立大学が25%、目的別医科大学(防衛医大、自治医大、産業医大)が3%という構成であった。今回のアンケート結果は、比較的学費が抑えられている国公立大学出身の医師たちの視点が強く反映されており、その中での奨学金利用や「地域枠」に対する評価が浮き彫りとなっている。
3人に1人が奨学金を利用、30代では半数近くに
Q2では「医学部在学中に奨学金を利用した経験」を聞いた。全体では「利用した」と回答した医師が35%に上った。年代別にみると、30代が45%と最も高く、次いで40代が39%となっており、中堅層において利用経験者が多い傾向にある。大学種別では、目的別医科大学(防衛医大、自治医大、産業医大)が73%と突出して高く、国公立大学は39%、私立大学は20%であった。
興味深いのは、現在の勤務先の「病床数」と奨学金利用の関係だ。100~199床の病院では47%、200床以上の大規模病院では36%の医師が奨学金を利用していたのに対し、0床では28%、1~19床の小規模施設では18%にとどまっている。また、200床以上の病院では国公立出身者が75%を占める一方、クリニックなどの無床施設では私立大学出身者の割合が37%と高まっており、経済的背景と卒業後の進路選択には一定の相関があることが推察される。
利用先は日本学生支援機構(旧育英会)が最多
Q3では、奨学金利用者に「利用した奨学金制度」を複数回答で聞いた。全体では「日本学生支援機構(旧育英会)」が62%で最も多く、次いで「地方自治体の修学資金貸与制度」が23%、「大学独自の奨学金制度」が21%と続いた。大学種別でみると、国公立大学出身者は「日本学生支援機構」の利用が68%と多く、目的別医科大学出身者は「大学独自の制度」が88%で主軸となっていた。
世代が下るごとに膨らむ負債額――30代の4人に1人が「1,000万円超」を借入
Q4では、奨学金利用者のうち「貸与型奨学金の借入総額」を聞いた。全体では「500万円未満」が51%と過半数を占めた。
借入総額を年代別に分析すると、とくに30代以下の負担の重さが顕著だ。借入額が「500万円未満」の割合は60代以上の67%に対し、20代では41%、30代では37%まで低下している。一方で、1,000万円を超える高額借入の割合は、60代以上で9%と最も低いのに対し、30代が約26%と全世代で最も高く、次いで20代で約21%となっている。現在の若手から中堅層にかけて、多額の負債を抱えながら医療に従事している実態が浮き彫りとなった。
大学種別でも大きな格差がみられた。奨学金利用者のうち、国公立出身者では「500万円未満」が56%を占めるが、私立大学出身者では42%が1,000万円を超える借入を行っていた。さらにその内訳を見ると、私立大出身者の17%は2,000万円以上のきわめて高額な借入を行っていた。
返済期間は10年以内が主流も、若手には長期化の懸念
Q5では、返済義務のある人に対して「返済完了までにかかった(かかる予定の)年数」を聞いた。全体では「5~10年未満」が31%で最多、次いで「5年未満」が27%となった。完済まで「15年以上」を要する層の割合は、60代以上では約16%にとどまるのに対し、20代では31%、30代では34%と倍増している。とくに臨床研修医においては「15~20年未満」との回答が40%に達しており、5年未満での完済予定はわずか5%であった。
「恩恵」と「負債」の間で揺れる医師たちの本音
Q6では、自由回答として奨学金がキャリアに与えた影響を聞いた。進学を支えた制度への深い感謝がある一方で、経済的負担感や、地域枠に伴うキャリア制限への複雑な思いも綴られている。以下、主なコメントを抜粋。
・奨学金がなければ大学に行けなかったので助かった(40代、小児科)
・経済観念が身に付く良い機会だと思う(40代、内科)
・若い頃しか経験できないこと(旅行、自己投資)にお金を使うことができる(20代、臨床研修医)
・留年したら給付が止まるので留年の危機感がほかの学生より強かった(30代、神経内科)
・地域枠のため3年目は強制で地域病院へ派遣。県からのサポートも不十分で、キャリアへの影響もかなりあると思う(20代、呼吸器内科)
・男性はいいが、女性は妊娠・出産で中断のリスクがあり使いにくい(30代、呼吸器内科)
・岩手県のように指導体制が整っていないところで研修をさせられるのは、その奨学生の人生において大きなマイナスになります(40代、循環器内科)
・借金のことを奨学金と記載するのはよくない。病気になっても借金は残るため、高校生の時点で借金を背負う選択肢をさせてはいけない(30代、内科)
・出身地の東京~埼玉は私立医大ばかりで、他は東大理IIIと医科歯科のみ。せめて埼玉と栃木に国立の医学部があれば。理想的には東京界隈の私立の医学部に貸与型の奨学金で入学し、(返済の問題はあるが)もう少し多様性のある人生を歩みたかった(60代、麻酔科)
・借りるときは、インフレで物価は上昇するから、返済するときはタダみたいなものと言われていた。卒業後、賃金を含め物価上昇がほとんどなく、利子なしで20年払いとはいえ返済には苦労した(60代、放射線科)
アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。
医師の奨学金利用と返済の実態/医師1,000人アンケート
(ケアネット 古賀 公子)