MSDは11月21日、成人の肺炎球菌感染症予防をテーマとしたメディアセミナーを開催した。本セミナーでは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎 寛氏が「成人の肺炎球菌感染症予防は新しい時代へ ―21価肺炎球菌結合型ワクチン『キャップバックス』への期待―」と題して講演した。高齢者肺炎球菌感染症のリスクや予防法、10月に発売されたキャップバックスが予防する血清型の特徴などについて解説した。
高齢者肺炎の脅威:一度の罹患が招く「負のスパイラル」
迎氏はまず、日本における肺炎死亡の97.8%が65歳以上の高齢者で占められている現状を提示した。抗菌薬治療が発達した現代においても、高齢者肺炎の予後は依然として楽観できない。とくに強調されたのが、一度肺炎に罹患した高齢者が陥る「負のスパイラル」だ。
肺炎による入院はADL(日常生活動作)の低下やフレイルの進行、嚥下機能の低下を招き、退院後も再発や誤嚥性肺炎を繰り返すリスクが高まる。海外データでは、肺炎罹患群は非罹患群に比べ、その後の10年生存率が有意に低下することが示されている
1)。迎氏は、高齢者肺炎においては「かかってから治す」だけでは不十分であり、「予防」がきわめて重要だと訴えた。
また迎氏は、
侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の重篤性についても言及した。肺炎球菌に感染した場合、4分の1の患者が髄膜炎や敗血症といったIPDを発症する。IPD発症時の致死率は約2割に達し、高齢になるほど予後が不良になる。大学病院などの高度医療機関に搬送されても入院後48時間以内に死亡するケースが半数を超えるなど、劇症化するリスクが高いことを指摘した。
さらに、インフルエンザ感染後の2次性細菌性肺炎としても肺炎球菌が最多であり、ウイルスとの重複感染が予後を著しく悪化させる点についても警鐘を鳴らした。とくに、高齢の男性が死亡しやすいというデータが示された
2)。
定期接種と任意接種の位置付け
現在、国内で承認されている主な成人用肺炎球菌ワクチンは以下のとおりである。
・定期接種(B類疾病):23価莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)
対象:65歳の者(65歳の1年間のみ)、および60〜64歳の特定の基礎疾患を有する者。
※以前行われていた5歳刻みの経過措置は2024年3月末で終了しており、現在は65歳のタイミングを逃すと定期接種の対象外となるため注意が必要である。
・任意接種:結合型ワクチン(PCV15、PCV20、PCV21)
21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21、商品名:キャップバックス)やPCV20などの結合型ワクチンは、T細胞依存性の免疫応答を誘導し、免疫記憶の獲得が期待できるが、現時点では任意接種(自費)の扱いとなる。
最新の接種推奨フロー(2025年9月改訂版)
日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会による合同委員会が発表した「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」では、以下の戦略が示されている
3)。
・PPSV23未接種者(65歳など)
公費助成のある
PPSV23の定期接種を基本として推奨する。
任意接種として、免疫原性の高いPCV21やPCV20を選択すること、あるいはPCV15を接種してから1〜4年以内にPPSV23を接種する「連続接種」も選択肢となる。
・PPSV23既接種者
すでにPPSV23を接種している場合、
1年以上の間隔を空けてPCV21またはPCV20を接種(任意接種)することで、より広範な血清型のカバーと免疫記憶の誘導が期待できる。
従来行われていたPPSV23の再接種(5年後)に代わり、結合型ワクチンの接種を推奨する流れとなっている。
また、迎氏は接種率向上の鍵として、医師や看護師からの推奨の重要性を強調した。高齢者が肺炎球菌ワクチンの接種に至る要因として、
医師や看護師などの医療関係者からの推奨がある場合では、ない場合に比べて接種行動が約8倍高くなるというデータがある
4)。このことから、定期接種対象者への案内だけでなく、基礎疾患を持つリスクの高い患者や、接種を迷っている人に対し、医療現場から積極的に声を掛けることがきわめて重要であると訴えた。
既存ワクチンの課題と「血清型置換」への対応
肺炎球菌ワクチンの課題として挙げられたのが、小児へのワクチン普及に伴う「血清型置換(Serotype Replacement)」である。小児へのPCV7、PCV13導入により、ワクチンに含まれる血清型による感染は激減したが、一方でワクチンに含まれない血清型による成人IPDが増加している
5)。
迎氏は「現在、従来の成人用ワクチンでカバーできる血清型の割合は低下傾向にある」と指摘した。そのうえで、新しく登場したPCV21の最大の利点として、「成人特有の疫学にフォーカスした広範なカバー率」を挙げた。
PCV21の臨床的意義:IPD原因菌の約8割をカバー
PCV21は、従来のPCV13、PCV15、PCV20には含まれていない8つの血清型(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)を新たに追加している。これらは成人のIPDや市中肺炎において原因となる頻度が高く、中には致死率が高いものや薬剤耐性傾向を示すものも含まれる。
迎氏が示した国内サーベイランスデータによると、PCV21は15歳以上のIPD原因菌の
80.3%をカバーしており、これはPPSV23(56.6%)やPCV15(40.0%)と比較して有意に高い数値である
6)。
海外第III相試験(STRIDE-3試験)では、ワクチン未接種の50歳以上2,362例を対象に、OPA GMT比(オプソニン化貪食活性幾何平均抗体価比)を用いて、PCV21の安全性、忍容性および免疫原性を評価した。その結果、PCV21は比較対照のPCV20に対し、共通する10血清型で非劣性を示し、PCV21独自の11血清型においては優越性を示した。安全性プロファイルについても、注射部位反応や全身反応の発現率はPCV20と同程度であり、忍容性に懸念はないと報告されている
7)。
コロナパンデミック以降のワクチン戦略
講演の結びに迎氏は、新型コロナウイルス感染症対策の5類緩和以降、インフルエンザや肺炎球菌感染症が再流行している現状に触れ、「今冬は呼吸器感染症の増加が予想されるため、感染対策と併せて、改めてワクチン接種の啓発が必要だ。日本は世界的にみてもワクチンの信頼度が低い傾向にあるが、肺炎は予防できる疾患だ。医療従事者からの推奨がワクチン接種行動を促す最大の因子となるため、現場での積極的な働き掛けをお願いしたい」と締めくくった。
■参考文献
1)
Eurich DT, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2015;192:597-604.
2)
Tamura K, et al. Int J Infect Dis. 2024;143:107024.
3)
65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)
4)
Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172.
5)
Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41.
6)
厚生労働省. 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報
7)
生物学的製剤基準 21価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)キャップバックス筋注シリンジ 添付文書
(ケアネット 古賀 公子)