慢性腎臓病(CKD)患者における亜鉛欠乏が、急性腎障害(AKI)発症および死亡の独立したリスク因子であることが、台湾・Chi Mei Medical CenterのYi-Chen Lai氏らによる大規模リアルワールドデータ解析で明らかになった。Frontiers in Nutrition誌2025年9月25日号掲載の報告。
AKIはCKD患者にしばしば合併し、重症化すると生命予後を著しく悪化させるが、既知のリスク因子の多くは高齢や糖尿病などで修正が難しい。一方、動物実験では亜鉛補充が腎障害を抑制する可能性が示唆されているものの、ヒトを対象とした大規模研究は乏しい。そこで研究グループは、CKD患者を対象に、ベースラインの亜鉛欠乏がAKI発症や腎機能悪化リスクにどのように関連するかを検討するため、大規模後ろ向き解析を実施した。
TriNetX Analytics Network Platformを用いて、CKDの既往歴を有し、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛検査を受けた18歳以上の患者を特定した。患者を亜鉛欠乏群(70μg/dL未満)と対照群(70~120μg/dL)に分類し、傾向スコアマッチングを行った。マッチングは年齢、性別、併存疾患、臨床検査値、使用薬剤などの背景因子を調整して1:1で実施した。主要評価項目は追跡12ヵ月時の新規AKI発症とし、副次評価項目は全死因死亡、末期腎不全(ESRD)、集中治療室(ICU)入院、主要心血管イベント(MACE)の発生として、各ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。
主な結果は以下のとおり。
・両群はそれぞれ5,619例で、平均年齢は亜鉛欠乏群64.0±15.7歳、対照群63.8±15.4歳。女性はそれぞれ56.6%および56.3%であった。
・追跡12ヵ月時点で、亜鉛欠乏群では対照群と比べてAKI発症、ESRD進行、死亡などのリスクが有意に高かった。
-AKI発症 19.3%vs.14.9%、HR:1.37、95%CI:1.25~1.50、p<0.001
-ESRD進行 1.9%vs.1.4%、HR:1.40、95%CI:1.04~1.88、p=0.025
-死亡 9.0%vs.4.8%、HR:1.95、95%CI:1.68~2.26、p<0.001
-ICU入院 8.7%vs.5.8%、HR:1.56、95%CI:1.35~1.79、p<0.001
-MACE発症 25.0%vs.23.5%、HR:1.10、95%CI:1.02~1.19、p=0.012
・亜鉛欠乏によるAKIおよびESRDのリスク上昇は、12ヵ月時点よりも6ヵ月時点でより顕著であり、早期から影響が及ぶ可能性が示唆された。
・栄養失調の患者を除外しても、亜鉛欠乏群ではAKI、死亡、ICU入院のリスクが有意に高かった。
・サブグループ解析では、年齢・性別・糖尿病・高血圧・肥満・貧血の有無にかかわらず一貫してAKIリスクが上昇した。
・多変量Cox回帰分析でも、亜鉛欠乏(HR:1.44)は新規AKI発症の独立予測因子として確認された。このリスク上昇幅は、心不全(HR:1.51)や貧血(HR:1.57)などの既知の主要なAKIリスク因子に匹敵するものであり、亜鉛欠乏が修正可能なリスク因子である可能性が示唆された。
(ケアネット 森)