再発・難治性多発性骨髄腫への新たな二重特異性抗体トアルクエタマブのベネフィット、隔週投与も可能/J&J

提供元:ケアネット

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公開日:2025/09/16

 

 再発・難治性の多発性骨髄腫に対する新たな治療薬として二重特異性抗体トアルクエタマブ(遺伝子組換え)(商品名:タービー皮下注)が8月14日に発売されたことを受け、9月5日にJohnson & Johnson(日本における医療用医薬品事業の法人名:ヤンセンファーマ)による記者説明会が開催され、岩手医科大学の伊藤 薫樹氏が本剤の効果や有害事象の特徴、ベネフィットを紹介した。

既発売の二重特異性抗体とは異なる標的、隔週投与も可能

 トアルクエタマブは、多発性骨髄腫細胞表面に高発現するGPRC5D(Gタンパク質共役型受容体ファミリーCグループ5メンバーD)およびT細胞表面に発現するCD3を標的とする二重特異性抗体である。すでに発売されている二重特異性抗体にはエルラナタマブとテクリスタマブがあるが、どちらもBCMA(B細胞成熟抗原)とCD3を標的としている。効能・効果は、再発または難治性の多発性骨髄腫で、免疫調節薬・プロテアソーム阻害薬・高CD38モノクローナル抗体製剤を含む3つ以上の標準的な治療が無効、または治療後に再発した患者が適応となる。継続投与期における投与方法は、0.4mg/kg週1回投与と0.8mg/kg隔週1回投与の2つの方法がある。

 本剤の国際共同第I/II相MMY1001試験の第II相パートは、T細胞ダイレクト療法(CAR-T細胞療法、二重特異性抗体など)による前治療歴のない患者を対象とし、2つの投与方法に分けて評価された。主要評価項目の全奏効率(ORR)はコホートA(0.4mg/kg週1回)が74.6%、日本人コホート(0.4mg/kg週1回)が77.8%、コホートC(0.8mg/kg隔週1回)が72.5%であった。欧州におけるLocoMMotion試験(3つの標準的な治療後に再発した患者に対して、残っている他の薬剤で治療)での奏効率が約30%であったのに対し、どのコホートも2倍以上の奏効率であり、伊藤氏は「非常に効果が高いという印象」という。さらに、完全奏効もコホートAで33.6%、日本人コホートで47.2%と高く、寛解期間が長い「深い」奏効が得られることが明らかになった。

特徴的な有害事象は、味覚障害、皮膚障害、爪の障害

 本試験で、最も多かった有害事象はサイトカイン放出症候群で、全Gradeでは75~78%に発現したがGrade3以上は少なく、伊藤氏は「しっかり管理をすれば多くの患者が問題なく治療継続できる」という。本剤の特徴的な有害事象は、味覚障害、皮膚障害、爪の障害の3つで、治療を長期間継続するために、投与前にこれらの有害事象が発現することを伝え、対処法を指導しながら投与するなどのマネージメントが必要だと述べた。

 感染症は、全Gradeで64.0%、Grade3以上で18.6%と、BCMAを標的とするエルラナタマブとテクリスタマブに比べて低い。伊藤氏はこの理由として、BCMAは正常のB細胞にも発現するため、BCMAを標的とする薬剤は正常のB細胞も駆逐し液性免疫不全が発生することが比較的多いが、トアルクエタマブが標的とするGPRC5DはB細胞での発現が非常に少ないことから、感染症をコントロールしやすいと考えられる、と説明した。このような副作用プロファイルの違いから、感染症を起こしやすい患者にはトアルクエタマブ、味覚障害に敏感で、食事を摂れないことでQOLの大幅な低下が想定される患者にはBCMAを標的とする薬剤を先に使用する、といった使い分けが考えられるという。

トアルクエタマブのベネフィットと今後の開発への期待

 トアルクエタマブのベネフィットとして伊藤氏は、3つの標準的な治療に抵抗性となった患者に有効なこと、CAR-T細胞療法と異なりタイムラグがなくさまざまな地域で使用できること、CAR-T細胞療法の適応とならない高齢者や臓器障害がある患者にも使用できることを挙げ、さらに、0.4mg/kg毎週投与以外に通院回数を減らせる0.8mg/kg隔週投与が可能なこと、BCMA標的治療(CAR-T療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体)実施後に再発した場合にも使用可能なことを挙げた。最後に、現在は単剤で承認されているが、抗原の異なる薬剤との併用や従来の免疫調節薬やダラツムマブとの併用など、他剤との併用療法の開発が進んでおり、より高い有効性を期待できる治療法が開発されることに期待を示し、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)