新たなトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬アコラミジス(商品名:ビヨントラ)が2025年5月21日に発売された。これに先駆け、アレクシオンファーマが4月16日にメディアセミナーを開催し、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が『心アミロイドーシスを取り巻く環境と治療の現状と課題』、田原 宣広氏(久留米大学病院 循環器病センター 教授)が『新薬アコラミジスがもたらすATTR-CMに対する新たな治療』と題して講演を行った。
最大の課題は“疑われない”こと
トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は、TTR(トランスサイレチン)四量体が単量体に解離し、アミロイド線維を形成し、心臓に沈着することで心機能が障害される疾患で、野生型(加齢)と変異型(遺伝性)に分類される。遺伝性ATTR-CMは長野県や熊本県で患者が多く存在することが知られている一方で、加齢によって発症する野生型ATTR-CMの診断・治療が喫緊の課題であることはあまり知られていない。さまざまな研究報告から野生型ATTR-CMは「60歳以上の男性」に多いことが示されているが、その性差や加齢に伴う発生機序は明らかになっていない。北岡氏は「心アミロイドーシスは非常にありふれた心不全症状を呈するが、心不全の基礎疾患となる虚血性心疾患、拘束性心筋症、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などと比べ、疾患認知度の低さが一番の問題」と述べ、「患者の39~44%は初診時に過小診断を受け、17%は診断までに5人以上の医師の診察を受けたとの報告がある。その結果、3~4年の診断遅れに伴う機能的・生命的予後への影響が問題となっている」と指摘した。
診断のポイントとして、「まずは血液検査、心電図検査、心臓超音波検査の3つの実施を検討してほしい。心臓超音波検査は専門的であり、実施施設が限られる。心電図検査は早期診断するには向いていないが、血液検査によるNT-proBNP、トロポニンの測定は簡便であり、実施施設を選ばず早期診断にも有用である。これらの検査でATTR-CMが疑われた場合には、次のステップとして、シンチグラフィを実施してほしい。生検の実施は確定診断の上では有用であるが、高齢者へ行う検査としてはハードルが高いので、まずはシンチグラフィの実施が望まれる」と説明した。ただし、「トロポニン測定は保険適応外である点に注意してほしい」ともコメントした。
アコラミジスの有効性・安全性
続いて田原氏は、海外第III相ATTRibute-CM試験(AG10-301)結果を踏まえたアコラミジスの有効性・安全性ついて解説。ATTRibute-CM試験は症候性ATTR-CM患者632例を対象にアコラミジスの有効性及び安全性を評価するために行われた第III相無作為化二重盲検比較試験
1)。本研究より、有用性をプラセボ群と比較し、1)アコラミジス群では1.8倍良好な結果が得られた、2)心血管症状に関連する入院頻度が50.4%低下した、3)死亡と入院についてのカプランマイヤー曲線では3ヵ月以降から両群に開きが観察され、30ヵ月まで持続した、4)アコラミジス群では血清TTRレベルが投与28日時点で有意に上昇し、試験期間完了まで長期に継続、5)有害事象(いずれかの群で発現割合が20%以上)はアコラミジス群、プラセボ群それぞれについて、心不全(24.0%.vs 39.3%)、心房細動(16.6%.vs 21.8%)などの結果が認められたことを説明した。
なお、アコラミジスの作用機序は既存製品のタファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)と同様で、TTR四量体のサイロキシン結合部位を安定化させ、四量体の分解を抑制する。同氏は試験開始12ヵ月後からプラセボまたはアコラミジスにタファミジスを併用する補足的解析を示しながら、「アコラミジスには強いトラスサイレチン安定化作用を有する可能性がある」とコメントした。
また、両氏によると、心アミロイドーシスの診断には「手根管症候群の発症から5~6年後に心アミロイドーシスが発症する可能性がある」「神経系に蓄積する」などの特徴を踏まえ、整形外科、神経内科、循環器内科の3診療科による医療連携が全国的に進んできているという。
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<製品概要>
製品名:ビヨントラ錠400mg
一般名:アコラミジス塩酸塩
効能又は効果:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型及び変異型)
用法及び用量:通常、成人にはアコラミジス塩酸塩として1回800mgを1日2回経口投与する。
薬価:400mg1錠 8,995.90円
製造販売承認日:2025年3月27日
薬価基準収載日:2025年5月21日
発売日:2025年5月21日
製造販売元:アレクシオンファーマ合同会社
(ケアネット 土井 舞子)
1)ATTRibute-CM試験(AG10-301)