非虚血性心筋症に対する左脚ペーシングは有効か【Dr.河田pick up】

提供元:ケアネット

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公開日:2021/05/21

 

 左脚ブロックを改善させて、心室再同期を図るヒス束ペーシングは実現可能な方法であるが、リード留置が容易ではなく、閾値が高くなるという問題がある。本研究は、左脚ブロックを伴った非虚血性心筋症患者に対する心室再同期療法(CRT)の手段として、比較的新しい中隔アプローチによる左脚ペーシング(LBBP)が現実的に可能で有効な方法かを評価するために、中国・温州医科大学のWeijian Huang氏が米国や英国の研究チームと共に実施したもので、JACC誌に掲載された。

非虚血性心筋症、完全左脚ブロック、左室駆出率≦50%の患者で、手技成功率などを評価

 本研究は前向き多施設研究で、2017年6月~2018年8月、中国、米国、英国の6施設で実施された。非虚血性心筋症、完全左脚ブロック、左室駆出率≦50%、CRTもしくは心室ペーシングの適応で、左脚ペーシングが試みられた患者を対象とし、手技の成功率、術前後のQRS幅、LVEF、左室収縮末期容量、そして心不全NYHA分類を評価した。

手技成功率は97%、QRS幅、LVEF、左室容量が改善

 左脚ペーシングは、63人中61人(97%、平均年齢68±11歳、52.4%が男性)で成功した。左脚ペーシング中、QRS幅は169±16msから118±12ms(p<0.001)に短縮された。ペーシング閾値とR波は、1年後のフォローアップでも植込み時の値と変化が認められなかった(0.5±0.15 V/0.5 ms vs. 0.58±0.14 V/0.5ms、11.1±4.9 mV vs.13.3±5.3 mV)。LVEFは有意に改善し(33±8% vs.55±10%、p<0.001)、左室収縮期末期容量も減少した(123±61 ml vs.67±39 ml、p<0.001)。さらに、1年後には75%で正常化(≧50%)した。NYHA分類は、ベースラインの2.8±0.6から1年後に1.4±0.6まで改善していた。死亡や心不全での入院は、フォローアップ期間中見られなかった。

左脚ペーシングは有効かつ有望な手技だが、より大規模で長期の観察が必要

 左脚ペーシングは可能な選択肢であり、左脚ブロック患者において心室再同期療法を得るのに有効で、左室の器質的および機能的改善に結びついた。左脚ブロックを有する非虚血性心筋症患者に対する選択肢として、左脚ペーシングの低く安定したペーシング閾値は、His束ペーシングと比べても優れた点と考えられた。

Dr.河田コメント

 ヒス束ペーシングは生理的ペーシングとして古くから試みられてきた。新しいデリバリーシステムが登場したこともあり、近年特に注目を浴びているが、植込み後のペーシング閾値の上昇やヒス束より遠位部で起きている左脚ブロックを修正できない点などが問題として挙げられており、それらの欠点を補うために左脚ペーシングが行われるようになってきた。個人的な印象でもHis束ペーシングに比べると、ペーシング閾値の上昇が起きにくいと感じている。ただ、この論文のケースの2/3は筆頭著者であるHuang氏の病院のケースであり、97%という成功率を一般的に当てはめるのは早計と考える。また、中隔深くにペーシングリードを突き刺して行うペーシングの長期成績や、リード抜去への影響は未だに不明であり、今後より大規模かつ長期のフォローアップの成績の解析が必要であると考えられる。

(Oregon Heart and Vascular Institute  河田 宏)

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