COVID-19に伴う乳がん診療トリアージについて/日本乳癌学会

提供元:ケアネット

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公開日:2020/05/28

 

 日本乳癌学会は5月25日、COVID-19に伴う乳がん診療トリアージについて指針を公開した。欧米の診療トリアージを参考に、日本における現在の診療に即した形となるようまとめたもの。外来診療、画像診断、外科療法、放射線療法、薬物療法それぞれについて、緊急度を高優先度/中優先度/低優先度の3つに分けて指針を示している。本稿では、外科療法、放射線療法、薬物療法について抜粋して下記紹介する。

【外科療法】
A)高優先度(できるかぎり通常通りの迅速な対応を要する)
1)膿瘍の切開排膿
2)術後合併症に対するサルベージ手術(血腫除去術や血流不全の皮弁に対する処置など)
3)自家再建組織の血行再建術・修復術
4)急速に増大する葉状腫瘍
B)中優先度(治療の遅延が後に生存に影響を与える可能性がある)
1)StageI・IIホルモン受容体陽性症例に対しては、術前内分泌療法を施行して手術を延期することは可能である。
*ルミナルAタイプや小葉がんの症例に対する6~12ヵ月の術前内分泌療法は、安全性および有効性が示されている。
2)術前化学療法中の症例の方針変更
T2またはN1のホルモン受容体陽性HER2陰性症例:状況によっては術前内分泌療法へ変更できる。
トリプルネガティブまたはHER2陽性症例:施設環境などの状況によるが、易感染性の症例は手術に切り替えてもよい。
3)局所再発の腫瘤切除術
4)再建を伴う手術は、人工物再建として自家組織再建は極力行わない。
C)低優先度(緊急性はなくパンデミックの期間中は延期することができる)
1)良性疾患
2)予防的切除
3)非浸潤がんが確実な症例
4)追加切除術
5)術前内分泌療法が奏効している症例
*中優先度の外科治療の項参照

【放射線療法】
A)高優先度
1)他に有効な手段がない出血を伴う腫瘍
2)術後照射中および再発巣に対する治療中の症例
3)脊髄圧迫や脳転移、その他致命的な転移性病変を有する症例
B)中優先度
1)高リスク症例に対する照射
炎症性乳がん、リンパ節転移陽性およびトリプルネガティブ乳がん、術前化学療法後に残存病変がある症例、若年(40歳未満)などの高リスク症例は、手術・化学療法終了後から20週以内に照射を行う。
2)低〜中間リスク症例に対する照射
65歳未満のStage I、Stage IIのホルモン受容体陽性乳がんなど低〜中間リスク症例は、手術・化学療法終了後から6ヵ月以内に照射を行う。また来院回数を減らすために寡分割照射も考慮する。
C)低優先度
1)65~70歳以上のホルモン受容体陽性/HER2陰性のStage I症例では、術後内分泌療法が行われている場合、生存率に影響を与えずに放射線照射を延期または省略できる。
2)非浸潤がん症例では、術後内分泌療法を行われている場合、放射線照射は生存率に影響を与えないので省略できる。

【薬物療法】
A)高優先度
1)トリプルネガティブまたはHER2陽性症例に対する術前・術後化学療法
2)すでに開始されている術前・術後治療の継続
3)予後改善が見込まれる転移再発乳がんの初期化学療法
[考慮すべき事項]
・術前・術後治療でも内分泌療法中の高齢者や、5年以上経過している症例などでは一時的な休薬も考慮する。
・来院回数を減らすため、用量用法または投与間隔を調整する。
・発熱性好中球減少症を避けるため、PEG-GCSF製剤は積極的に投与する。
・免疫機能を考慮してデキサメタゾンの使用は適切な範囲で制限する。
・トラスツズマブ・ペルツズマブやフルベストラントは免疫機能に影響を与えない。
・LHRHアゴニストは長期製剤を使用する。
B)中優先度
1)緩和的化学療法
[考慮すべき事項]
・術後トラスツヅマブ治療中の症例では、12ヵ月間から7ヵ月間に短縮することは可能である。
・転移再発例に対する抗HER2療法は、投与間隔の延長は可能である。
・HER2陽性転移再発症例で、抗HER2療法が2年以上奏効している症例では、進展がなければ抗HER2療法の休止を考慮してもよい。
・内分泌療法単独で治療可能な症例や奏効している症例に対しては、CDK4/6阻害薬や mTOR阻害薬の追加を延期する。
C)低優先度
1)骨転移に対する骨吸収抑制薬
2)ポートフラッシュ

(ケアネット 遊佐 なつみ)