てんかん治療患者の44%が高齢者

提供元:ケアネット

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公開日:2018/12/13

 

 今年も高齢者の意識消失による交通事故が後を絶たない。事故の原因疾患に関する報道はないものの、意識消失の原因となりうる心臓疾患や脳卒中、認知症、そして、てんかんなどについて検証される必要がある。2018年11月16日にエーザイ株式会社が「認知症と間違いやすい『高齢発症てんかん』」を開催し、4名の専門医(赤松 直樹氏[国際医療福祉大学医学部神経内科教授]、塩崎 一昌氏[横浜市総合保健医療センター地域精神保健部長]、久保田 有一氏[TMGあさか医療センター脳神経外科統括部長]、下濱 俊氏[札幌医科大学医学部神経内科講座教授])による解説、ならびに患者代表者(男性・65歳)による実体験の紹介が行われた。

発作がわかりにくい高齢者てんかんとその特徴

 医療者でも認識しづらい高齢者のてんかん。その理由を「高齢初発てんかんの半数は意識減損で痙攣をきたさない」と語る赤松氏は、『高齢発症てんかんとは』について講演。高齢者が発症するてんかん発作と患者割合について説明した。

 高齢発症てんかんは側頭葉てんかんが半数以上を占め、治療にはカルバマゼピンや第二世代薬のラモトリギン、レベチラセタム、ペランパネル、ラコサミドが有効とされる。発作には“意識減損焦点発作”と“焦点起始両側強直間代発作”の2種類が存在するが、前者は認知症と誤認されやすいため、以下に主な症状を示す。

高齢発症てんかん(側頭葉てんかん)の主な症状
1)吐き気
2)一点凝視
3)口と手の自動症(口をくちゃくちゃ、手をもぞもぞ)
4)動作の停止
5)意識消失後のうろつき

 1)~5)の順に徐々に発作が出現するが、「発作時間は30秒~3分程度と短く、5分以上継続することは少ない」と同氏はコメントした。

 同氏主導で、2008年4月~2016年12月に実施した全国の急性期医療機関(DPC病院)から成る1,785万8,022人の医療情報データベースにおける後ろ向き研究によって、日本のてんかん患者の44%が65歳以上の高齢者であると判明した。また、「脳卒中後や認知症に併発することが多い」と特徴付けた同氏は、今後、久山町研究の結果を報告する予定である。

抗てんかん薬が認知機能改善にも好影響

 認知症治療の立場から『認知症診断におけるてんかんの現状』について講演をした塩崎氏は、てんかんに関する情報は、他の学会ガイドラインやテキストブックにおいて「十分な注意が払われていない」と嘆く。同氏の施設では、年間1,000件の物忘れ鑑別診断を行い、初回受診時には全例へ脳波検査を実施しているという。

 同氏の外来は70~80歳代の高齢の受診者が大半を占める。軽度認知障害~初期アルツハイマー型認知症(AD)の診断が多いが、約1%の患者では主診断がてんかんであった。ところが、てんかんの存在を強く示唆する発作間欠期てんかん性放電(IED)が、側頭部で認められる症例は1%より多く、同氏は「てんかんの合併が疑われる患者は認知症外来に約5%存在した」と述べた。また、認知症患者にIEDが認められても、「認知機能低下が著しい場合、てんかんが合併しても認知症診断が優先される」ことを付け加えた。

 IEDが記録できた患者50例に抗てんかん薬(AED)を投与し、MMSE下位項目を検証した結果、“注意・集中・計算”を反映するシリアル7課題が有意に改善した(AED投与前:2.76±1.85、AED投与後:3.64±1.59、p<0.01)。さらに80%以上の患者でIEDの頻度が減少・消失した。このシリアル7課題の改善はIEDが減少・消失した患者群のみで観察された。これを踏まえ同氏は、AEDはてんかん発作抑制に加え、IEDにより抑制された認知機能を回復できる可能性を示した。

 最後に、てんかん発作はADの発症に先行して認知機能低下と同時期に始まることや、IEDの合併がADの認知機能低下を増悪するという研究報告を紹介し、AD初期に合併したてんかんが認知機能の推移にも悪影響を及ぼす可能性について言及した。

3つ目の病院受診で高齢発症てんかんの診断に行き着いた

 新聞記事で人生を取り戻したという患者代表者と久保田氏が『高齢発症てんかん患者様の声』をテーマにトークセッションを行った。

 最初の病院で「軽度認知症と言われて愕然とした」と語る患者代表者。同席した妻は、「先生の診断を聞いた時に、絶対違うと思った」と語った。病院受診のきっかけは駐車場での意識消失で、このような発作症状が毎日5~6回も出現したという。この症状を主治医に訴えたにもかかわらず、ついた診断名は『軽度認知症』。その間、薬物治療は行われず、経過観察で半年が過ぎた頃、新聞の久保田氏の記事を見て受診を決めた。現在は、AEDによる薬物療法により普通の生活を取り戻している。

 てんかんを“誰もかかりうる 誰も知らない病気”と比喩した久保田氏は、高齢者のてんかん患者の思いを胸に、「各都道府県で適切かつ迅速に診断し、認知症と同じくらい社会で共通認識を持ってもらいたい」と思いを綴った。

 最後に、総括を務めた下濱氏は、高齢発症てんかんの誤認の防止や適切な薬物治療について提言。専門医らは老年医学会をはじめ日本老年精神医学会や日本慢性期医療学会など他学会への高齢発症てんかんの浸透に期待を寄せた。

■参考
日本てんかん学会:高齢者のてんかんに対する診断・治療ガイドライン
全国てんかんセンター協議会
てんかんネット

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(ケアネット 土井 舞子)