増加する訪日外国人!対応に欠かせない医療通訳の真の役割とは

提供元:ケアネット

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公開日:2017/01/10

 

 多言語遠隔医療通訳サービスを全国の医療機関に提供している一般社団法人JIGH (代表理事:東京大学大学院医学系研究科国際保健政策教室 教授 渋谷健司氏)は、2016年12月に都内で日本語・中国語医療通訳者向けの研修会を開催した。2016年に訪日外国人旅行者数は初めて年間2,000万人を突破したが、政府はこれを2020年に4,000万人、2030年に6,000万人に増やす目標を掲げている。それに伴い医療機関でも訪日外国人へ対応する機会が今後増えることが予想され、体制を整えることが求められている。
 
 研修会で講師を務めた明星漢方クリニックの西原可欣氏は中国、日本両国における医療通訳経験から「医療通訳というと、“医療用語がわかればよい”と考えるかもしれないが、それだけでは不十分である」と述べ、通訳者の役割は、単に言葉を訳すだけではなく、疾病に深く関係する生活習慣や文化背景などに配慮し、患者が安心して医療を受けるための環境整備をすることや、医師・患者間の信頼関係を構築するためのサポートをすることであると説明した。

なぜ日本へ? 訪日目的は“医療水準の高さ”とは限らない
 西原氏によると、医療通訳ニーズが高いのは日本に長期滞在している外国人よりも、言語・文化障壁が高い短期滞在者である。昨今、医療ビザを取得し、治療などを受けることを目的とするいわゆる医療ツーリズムで来日する外国人も増加傾向にあるとみられており、中国人の場合は主に、がんに対する粒子線(重粒子線、陽子線)治療や免疫療法、循環器疾患に対する心臓カテーテル治療などといった専門性の高い治療を受けに来ることが多いという。

 ただし、これらの治療の多くは中国でも提供されており、来日理由は「自国で同様の治療が受けられないから」とは限らない点に注意が必要である。ではなぜ高額な医療費と渡航費を負担してまで日本へ来るのかというと、近年中国では、医療提供者と患者の信頼関係が希薄になってきており、支払いが可能であるか確認が取れてから診療する、などといった対応に対する患者の不満が背景にあると西原氏は説明する。これらの状況から、とくに中国人富裕層が、より質の高いサービスと医療者との信頼関係の下に安心して受けられる医療を求めて日本に来るということだ。よって、医療者も通訳者もこのような患者の思いを理解したうえで対応しないと、不満やクレームにつながる可能性があることを同氏は指摘した。

 また、通訳者として医療者・患者間の信頼関係構築をサポートするために、すべてのコミュニケーションは必ず患者を介して行うことや、文化の違いからお互いが不快な思いをすることで信頼関係が崩れることのないよう、日本におけるマナーなどについても、患者に説明し、守るようサポートすることの重要性を強調した。

(ケアネット 後町 陽子)