医療情報を個人が管理する時代へ?医療介護危機の打開策となるか

提供元:ケアネット

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公開日:2016/04/20

 

 4月14日都内にて、第1回編成医療情報戦略フォーラム「日本を救う!自己情報コントロールによるヘルスケア戦略」が開催された。東京大学大学院情報理工学系研究科附属ソーシャルICT研究センターと一般社団法人 日本統合医療支援センターの共催による本フォーラムは、医療介護に関わる個人情報のあり方を見直し、効率を高め、現場の負担を軽減することで、少子高齢化に伴う医療介護危機を回避するための具体的な方法を提言することを目的としており省庁や関連分野の企業などから150名を超える参加者が集まった。

 まず、ソーシャルICT研究センター教授の橋田 浩一氏による基調講演が行われた。橋田氏は、現在の医療情報管理の課題として、データ管理の主体が事業者であることを挙げた。そのため、データ解析対象が自社ユーザーのみに限定されること、また、事業者は大量の個人情報を蓄積・管理しなければならないため、大きな負担を抱えているという状況を解説した。

 これらの問題を解決する手段として、橋田氏が提案しているのが“分散PDS”(Personal Data Store)である。これは、本人がデータを管理し、自ら指定する他者と共有し活用するための仕組みである。分散PDSは、特定の事業者に依存せずに個人がデータを活用できるため、既存のシステムでは難しいとされる競合事業者間のデータ共有も個人経由で行うことができる。したがって、さまざまな事業者、医療圏、連携サービスなどにわたる生涯健康手帳の実現も可能になるということだ。
 
 橋田氏は、自身が提唱する分散PDSの一種であるPLR(Personal Life Repository)介護記録アプリの運用事例として、山梨県で介護施設に入居中の患者の介護情報を、家族を介してほかの施設や医療機関と共有できている例を紹介した。このアプリは技術的に、より多くの人へ適応可能であり、普及すればセカンドオピニオンの取得も容易になることを説明した。

 橋田氏によると、現在、地域医療連携システムは全国200ヵ所以上で運用されているものの、医療情報の共有は人口のおよそ2%程度にとどまっているとのことだ。普及を妨げる要因として、事業者集中型管理ではコストが大きいことや、患者が直接把握できないところでデータが管理されていることなどが考えられる。2016年度診療報酬改定により、診療情報提供の電子的送受が認められたことや医療制度改革により、今後、病院の機能分化や在宅医療の推進が見込まれる。そうした中、医療機関はデータを共有していくことが必須になる、と橋田氏はみている。

 また、医療機関のみのデータでは生活習慣などのデータが得られず、適切な保健対策を講じることができないため、保険外事業との連携の必要性についても触れた。今後は、個人の意思とデータに基づいて、患者自身が自分に関係のあるデータおよび適合するサービスを主体的に受け取れるような仕組みを構築していく方針を示した。

“電話とFAXの世界”からの脱却により医療者の負担を軽減

 続いて、日本統合医療支援センター代表理事であり、医師・薬剤師でもある織田 聡氏より、現場経験に基づく発表が行われた。冒頭、織田氏は、「医療・介護現場の人々は疲弊している」と医療現場の人材不足の深刻さを訴えた。そして、この状況を改善するためにはICT活用による効率化が必須であり、具体的には、医療現場におけるICTの利用価値の可視化と操作性の向上が課題であるとした。

 医療情報の共有基盤は整備されつつあるものの、実際の現場では、パソコンを使って書類を作成しても、それを印刷し、FAXで送信するということが日常的に行われており、医療業界はまだ“電話とFAXの世界”にあるとの見解を述べた。加えて、現在医療機関で使用している電子カルテは、病院ごとにシステムが異なっており、情報を共有するうえでの障壁になっている。こうした状況を踏まえたうえで、自己情報コントロール権の観点から、現在医療機関で保管している医療情報を“患者へ返す”ことを織田氏は提案した。

 これにより、患者権限で医療情報が共有できるようになれば、必要なときにすぐさま患者の医療情報を共有できるようになり、毎回、医療機関ごとに新たにカルテ作り直したり、医療情報を関係機関へその都度FAXしたりするなどの手間がなくなる。ひいては、医療現場の負担軽減につながると織田氏は考える。

 また、医療情報に含めるべき情報の範囲について、織田氏は自身の患者を例に意見を展開した。担当する患者らが、ある民間療法について、以前はよく話をしてくれていたのに、その療法が社会的に批判を受けたことを機に、一切教えてくれなくなったという。多くの患者が、サプリメントや鍼灸などの保険外サービスや商品を利用しているが、情報共有の範囲に線引きをすると、患者にとって有益でないものに関する情報がより得られづらくなる危険性を指摘した。よって、安全性の観点から、これら保険外のサービスや商品の使用の可否は別として、すべての情報を共有する必要性を訴えた。

 また、医療現場のICTツールは、医療者にとって必ずしも使いやすいものでないという問題点も指摘した。これらの操作性については、介護職員のおよそ3割を占めている60代女性をユーザーとして想定し、直感的に容易に操作できる仕様にすべきであるとした。例として、同氏が中心となって開発した「みんなのカルテ」を挙げ、情報入力が手書きや音声入力にも対応している点や、個々の現場のニーズに応じてカスタマイズできるなどの特徴を紹介した。

 「カルテなどの医療記録を共有することに関して、抵抗がある医師も存在するのでは」という会場からの質問に対して、織田氏は、「医療記録はそもそも自分がいなくても、継続的に医療が滞ることなく行われる目的で書いている。情報共有が患者の予後に悪影響を及ぼすような特定のケースを除けば、問題となることはないのでは」との考えを示した。

 このフォーラムでは、横断的連携により医療介護の現場の負担を軽減し、2025年問題を乗り越えるような情報共有基盤の構築を目指す方針とのことだ。また、織田氏は情報連携の先にある“顔の見える連携”を強化するために、専門職連携教育(IPE)や専門職連携協働(IPW)に関する研究会を発足し、西洋医学を軸として、補完医療等のあらゆる方法を適切かつ最大限に利用する診療戦略“編成(フォーメーション)医療” の実現を目指していくことを述べた。

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(ケアネット 後町 陽子)