日本初の抗PCSK9抗体が承認取得、対象患者は?

提供元:ケアネット

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公開日:2016/02/17

 

 日本初の抗PCSK9(ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)抗体として、高コレステロール血症治療薬「レパーサ皮下注」(一般名:エボロクマブ)が1月に製造承認を取得した。本剤の適応となる患者は、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)で効果不十分な、家族性高コレステロール血症(FH)または高コレステロール血症の患者である。では、心血管イベントのリスクが高い患者とはどのような患者なのだろうか。2月8日、都内で開催されたプレスカンファランス(主催:アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社)より、中村 正人氏(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 教授)の講演をご紹介する。

動脈硬化疾患の動向
 動脈硬化による心疾患や脳梗塞が増加傾向にある中、致死的イベントにつながる不安定プラークの理解が進んでいる。しかし、不安定プラークから致死的イベントの予測は困難である。一方、プラークの進展が急激だとリスクが高いことが示唆されており、不安定なプラークを検出するよりも、リスクの高い患者を同定するほうがメリットが大きい、と中村氏は述べた。

リスクの高い症例とは?
 これまでに、大規模研究により、複数の血管床にアテローム血栓症を有するpolyvascular disease、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、急性冠症候群(ACS)がリスク因子として挙げられている。これらの因子に加えて、これまで注目されていなかった因子として、家族性コレステロール血症(FH)が挙げられる。
 FHヘテロ接合体はポピュラーな遺伝子疾患であり、北陸地方における調査では、LDLR変異またはPCSK9変異を有するFHヘテロ接合体患者は199人に1人であった。しかし、わが国でのFHの診断率は1%未満と低く、ほとんど診断されずにいると中村氏は指摘した。また、国内の研究において、ACS患者の少なくとも7~8人に1人がFHヘテロ接合体患者であることが示唆されている。
 FHが見過ごされている理由として、中村氏は、急性心筋梗塞発症直後にLDL値が低下してしまっていること、スタチンの普及により疾患がマスクされていること、ルーチンでの診断(アキレス腱厚と家族歴の確認)が軽視されていることを挙げた。

スタチン高用量でもリスクが残存
 冠動脈疾患による死亡リスクを減少させるには、コレステロールの低下が最も寄与が大きいことが米国の研究で示唆されている。しかしながら、スタチン高用量を用いても、依然としてリスクが残存している。中村氏は、「ハイリスクの患者の治療において最も有効かつ確実な方法はLDLを低下させることである」と述べ、「抗PCSK9抗体という新しい選択肢が増えることは治療に有益である」と期待を示した。

(ケアネット 金沢 浩子)