関節リウマチ患者が求める治療とは? ~患者パネルを用いた実態調査~

提供元:ケアネット

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公開日:2011/11/28

 



関節リウマチ(RA)治療は、痛みを取ることしかできなかった“care”の時代から、メトトレキサート(MTX)と生物学的製剤の登場によって、臨床的寛解や生命予後改善を目指す“cure”の時代へとめざましい進歩を遂げている。現在は、5年後10年後を考えて治療することが重要となってきているが、現在の薬物治療の実態や患者さんの意識はどうなのか?
 ここでは、2011年11月24日に開催されたセミナー「リウマチ治療が抱える課題:治療が遅れ、痛みがとりきれない患者さんも ~早期診断・治療が十分でない現状が明らかに~」(主催:ファイザー株式会社)から、RA患者を対象としたインターネット調査結果に関する山中 寿氏(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長)の講演をレポートする。

■500名のRA患者を対象としたインターネット調査




今回のインターネット調査は、電通リサーチ・ミリオネットのパネル登録者から、RA治療のために医療機関に通院中で、薬剤によるRA治療が行われているRA患者500名(RA罹患率に合わせ、男女比を1:4に調整)を対象に2011年6月に実施された。患者背景は、年齢49.8±10.6歳、JHAQスコア0.55±0.64、生物学的製剤使用患者割合24%であった。
 本調査の対象患者は、自らパネルに登録していることを考慮すると、治療や情報収集におけるモチベーションはより高いと考えられる。しかしながら、山中氏によると、同氏が2000年から実施し、毎回約5,000名のRA患者の情報を集積している前向き観察研究のJ-ARAMIS(Japanese Arthritis Rheumatism and Aging Medical Information System、2006年にIORRA;Institute of Rheumatology, Rheumatoid Arthritisと改称)とほぼ同様な結果が得られたとのことである。

■発症から確定診断・薬物治療までの現状




自覚症状発現から確定診断までの期間は、3ヵ月以上が53.6%、4割近くが6ヵ月以上であった。自覚症状発現からMTX開始までの期間は2年以上が56.5%を占め、またMTX無効な場合に投与できる生物学的製剤使用までの期間は、78.5%が自覚症状発現から2年以上の期間を要していた。なおMTXについては、2011年2月に添付文書が改訂され、治療の最初から使用できるようになったため、今後、この期間は短くなるものと思われる。
 また本調査では、RAの確定診断やMTXおよび生物学的製剤の投与は、整形外科よりも膠原病・リウマチ科で積極的に実施されている傾向が認められた。診療科におけるこれらの差は、地域の医療環境に差がある可能性が高い、と山中氏は推察している。

■生物学的製剤による治療状況




生物学的製剤の使用状況については、エタネルセプト(商品名:エンブレル)が45.0%ともっとも多く、次いでインフリキシマブ(商品名:レミケード)が27.5%であった。IORRAのデータ(2011年4月時点)でも、エタネルセプトが47.6%であり、同様の傾向を示していた。
 RA治療に対する満足度では、生物学的製剤使用患者では72.5%、非使用患者では49.7%が「満足である」と回答し、生物学的製剤を使用している患者のほうが治療満足度が高いことが示された。しかし、生物学的製剤使用患者では、二次無効や副作用などで薬剤変更経験がある患者は31.6%存在していた。
 実際の生物学的製剤の選定においては、71.7%が医師主導で薬剤を選定しており、投与方法や投与回数などの使い方はよく理解しているものの、長期にわたる効果や安全性については理解が十分ではないことが明らかとなった。その一方で、生物学的製剤使用患者は長期的な治療効果の維持を望んでいることが示されたことから、長期的な治療効果や副作用についてもしっかりと情報提供を行い、長期的な治療の必要性を伝えていくことが必要である、と山中氏は指摘した。

■就労・医療費における問題




RAの発症によって、仕事を辞めたり変更したりしたことのある患者は4割を超え、とくに女性は5割近くにのぼり、就労に支障を来たしていることが示された。
 医療費に関する調査結果からは、医療費の問題で生物学的製剤を使用していない患者さんが存在する可能性が示唆された。現在、生物学的製剤を使用する場合の薬剤費が年間約140万円であり、3割負担でも月々4~5万円かかることが生物学的製剤使用のネックとなっていることがうかがわれる。また、世帯年収別の生物学的製剤の使用状況を調べたところ、300万円未満の世帯を除くと、年収の増加に伴って使用患者の割合が増加していた(300万円未満の世帯での使用割合は、生活保護などのサポート制度などの影響が推察される)。山中氏は薬剤選定の際には患者さんに治療費用を含めて選択肢を示しているが、ほとんどの患者さんがその場では決められないという。

■RA患者が求める情報提供




情報の入手度に関する質問には、半数以上のRA患者が「適切な治療や薬剤に関する情報」や「RAに関する一般疾病情報」については「得られている」と回答している。しかし、「研究成果などに関する最新診療情報」や「医療機関およびサービスの選択に関わる情報」については3割前後であり、今後はこれらについての情報提供が望まれる。

■「壁抜け」まであと少し




今回の調査結果について、山中氏は、「これらのRA治療における問題点を今後の診療に生かし、RA患者さんが少しでも楽な生活、楽しい人生を送るためによい方向に向けていきたい」と語り、さらにRA診療について「かなり進歩したが、まだ壁を抜けきったわけではない。半分は壁の向こうにあり、まだまだ解決すべき問題は多い。それを自覚して努力していきたい」と述べて講演を締めくくった。

(ケアネット 金沢 浩子)