第2回 減塩 2010 (2) 1日6gの減塩をあきらめない

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2010/11/04

 


前回に引き続き、第33回日本高血圧学会総会からの演題から減塩を中心にレポートする。患者の食塩摂取量を簡便に把握する方法とともに、減塩の具体的な方策についてもまだ手探り状態といえる。本総会においても画期的な試みの成果が発表された。

「減塩食はまずい」からの脱却 ―第33回日本高血圧学会総会 メディカル・コメディカル合同シンポジウムより―




今回の総会においても、医師自らが率先して減塩することを意図し、昨年の総会に引き続き、ランチョンセミナーで「減塩・ヘルシー弁当」が提供された。今回は福岡女子大学 早渕仁美氏らが食品加工業者10社と連携し、減塩素材を利用することで食塩量を2gに抑えた減塩弁当である。1日目のランチョンセミナーで、減塩弁当(食塩相当量:1.06g)と、それと見た目が同じ対照弁当(食塩相当量:1.73g)が、減塩弁当がどちらかは告げられずに提供され、「どちらが減塩と思うか」など参加者にアンケートの記入を依頼した。翌日のシンポジウムにおいて早渕氏よりアンケート結果(n=776)が発表された。その結果、62.1%の回答者が正答したが、自信をもって回答したのは正答回答者の51.0%であった。正答回答者において減塩弁当を対照弁当より好むと回答した割合が多く、「減塩食=まずい」というイメージ払拭の第一歩となった。早渕氏は今回の結果を踏まえ、減塩調味料や減塩加工食品を用いることで、無理なく美味しい減塩料理をつくることが可能であると述べた。

日本人はしょうゆと漬物から3割の塩分をとっている ―同シンポジウムより―




結核予防会の奥田奈賀子氏は、国際共同研究INTERMAPのデータを用いて日本人の食塩摂取量の寄与割合が大きい食品を検討した。その結果、高塩分加工食品36.9%(漬物10.9%、塩干物8.1%、みそ汁7.1%ほか)、高塩分調味料27.1%(しょうゆ17.2%、塩8.6%ほか)の摂取が食塩摂取全体の6割程度を占めた。高塩分摂取者の特徴としては、日本食の高塩分加工食品の摂取が多く、米飯や野菜を煮物やおひたしで食べる量が多いなど、和食中心の食事傾向が認められた。一方、低塩分摂取者では、パン、乳・乳製品などの洋風の食材の摂取が多かった。奥田氏は高塩分加工食品の摂取を控えるとともに、ご飯に合う洋風のおかずを勧めることも減塩指導に有効であると考えを示した。

地域のレストランを巻き込んで美味しく減塩 ―同シンポジウムより―




日下医院の日下美穂氏は2008年より広島県呉市での減塩食普及に向けての地域ぐるみの取り組みついて講演した。日下氏は、呉市内のレストランで美味しさにこだわった減塩低カロリー食を各店1点以上メニューに入れてもらうという「こだわりのヘルシーグルメダイエットレストラン」という企画を立ち上げ、活動している。企画への参加基準として食塩2~3g、カロリー400~600kcalなどを設け、栄養士が基準を満たしているかを計算・評価する仕組みをとっている。また、民間のタウン情報誌、インターネットで参加店を検索できるなど市民、患者への広報にも力を入れている。

日下医院に通院している生活習慣病患者388例に意識調査をした結果、84%が「以前に比べ、塩分を控えるようになった」と回答し、328例の高血圧患者の平均血圧、目標達成率は、企画開始前に比べ、有意に改善したことも発表した。

日下氏はこの企画を継続させる上で大切な事は料理人のモチベーションを保つことであり、参加店に何度も足を運ぶ努力も必要であることも述べた。現在、広島市をはじめとする広島県下の地域でも実施中であり、興味を示す他の都道府県も現れ始めているという。

減塩モニタによる食塩排泄量の自己測定と減塩教室は減塩に効果的 ―同ポスター発表より―




西九州大学の安武健一郎氏は、健常者に対する2回にわたる減塩教室と食塩排泄量の自己測定が、高塩分食品の摂取頻度を低下させ、食塩排泄量の最大値と変動幅を低下させることを発表した。健常者50名に対し、ベースライン時に2週間にわたって減塩モニタによる食塩排泄量の自己測定と、高塩分食品(漬物、汁物、干物、塩蔵品、麺類、外食)の摂取頻度チェックを依頼した。また、2、4ヵ月後に管理栄養士による減塩教室を実施し、減塩教室の翌日から2週間自己測定と高塩分食品の摂取頻度チェックを依頼した。その結果、2ヵ月目で外食、4ヵ月目で漬物、汁物の摂取頻度が有意に減少し、4ヵ月目の食塩排泄量の最大値、変動幅が有意に減少した。排泄量の平均値に有意な減少は認められなかったが、55歳以上の群では4ヵ月には有意に減少した。

各地で食品加工企業や地域飲食店を巻き込んだ減塩への取り組みが少しずつ行われてきているが、医師個人で取り組める減塩指導の方法や支援ツールを作成するなど具体的な方策を確立していく必要がある。最後に減塩への取り組むベネフィットの大きさについて米国のシミュレーション結果があるので紹介したい。

3g/日の減塩効果は年間10%の冠動脈疾患の発症が抑制できる ― NEJM誌 2010年2月18日号より―




それでは減塩への取り組みがもたらすベネフィットはどれくらいか?米国では1日3gの減塩がもたらす心血管イベント、全死因死亡、医療費への影響をシミュレーションモデルにより予測している。これによると、たとえ1日1gの減塩を2010年から10年かかってでも達成できさえすれば、すべての高血圧患者への降圧薬治療よりも費用対効果が大きいことを予測した。減塩量がわずかであっても、心血管イベントの発症および医療費を抑制することが期待できそうだ。

この1年の間に、減塩のベネフィットを支持するエビデンスが得られ、減塩の重要性がより一層高まってきている。それを日常臨床においてどう実行するか。今、簡便な食塩摂取量の把握と、効果的な減塩指導法が求められている。

第3回は、「微量アルブミン尿」に関してレポートする。

(ケアネット 藤原 健次)