日本語でわかる最新の海外医学論文|page:353

境界性パーソナリティ障害に対する薬理学的治療~20年間の変化

 境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療では、承認されている精神科治療薬は存在しないにもかかわらず、日常的に薬物治療が行われている。スペイン・バルセロナ自治大学のJuan C. Pascual氏らは、スペインの外来特定ユニットで治療されたBPD患者の薬理学的マネジメントにおける20年間の変化および処方に関連する要因について調査を行った。CNS Drugs誌オンライン版2021年8月9日号の報告。  2001~20年にスペイン・バルセロナのBPD外来プログラムに連続して受診したBPD患者620例を対象に観察横断研究を行った。抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、気分安定薬、抗精神病薬の処方傾向を調査した。処方データは5年ごとに4段階に分類し、データ分析を行った。薬理学的処方と多剤併用に関連する社会人口統計学的および臨床的変数を特定するため、ロジスティック回帰分析を用いた。

エドキサバン、TAVR後の心房細動でビタミンK拮抗薬に非劣性/NEJM

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)の成功後に心房細動がみられる患者(主に慢性心房細動)の治療において、経口直接第Xa因子阻害薬エドキサバンは、ビタミンK拮抗薬に対し有効性の主要アウトカムが非劣性であるが、優越性は不明であり、消化管出血が多いことが、オランダ・エラスムス大学医療センターのNicolas M. Van Mieghem氏らが実施した「ENVISAGE-TAVI AF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号で報告された。  本研究は、日本を含む14ヵ国173施設が参加した非盲検無作為化試験であり、2017年4月~2020年1月の期間に参加者の登録が行われた(Daiichi Sankyoの助成による)。  対象は、年齢18歳以上、重症大動脈弁狭窄症に対するTAVRが成功した後に、30秒以上持続する慢性または初発の心房細動がみられる患者であった。被験者は、エドキサバン(60mgまたは30mg、1日1回)またはビタミンK拮抗薬(ワルファリン、フェンプロクモン、アセノクマロール、フルインジオン)の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。

中国人でも積極的降圧の有用性を証明するも、論文としての粗さも目立つ~STEP試験(解説:桑島巖氏)

SPRINT試験は、年齢を問わずより積極的降圧が心血管イベントを抑制することを2015年に発表し、世界の高血圧治療の在り方を一変させた。中国でも負けじと2021年、ほぼ同規模の症例を対象としたSTEP試験の結果をNEJM誌で発表した。降圧目標値を収縮期血圧110~129mmHgとする積極治療群と130~149mmHgの標準治療群にランダム化して、3.34年追跡し、脳心血管合併症を主要評価項目として、その発症率を比較した大規模臨床試験である。結果としてはSPRINT試験同様に、積極的降圧群のほうが標準降圧群よりも有意に脳心血管合併症を抑制した。

コロナワクチンの異物混入・併用接種・3回接種に見解/日本ワクチン学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の切り札として、全国でワクチン接種が行われているが、コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(モデルナ社製)に異物混入が報告され、その健康への被害などにつき不安の声が上がっている。  日本ワクチン学会(理事長:岡田 賢司氏)は、こうした声を受け9月7日に同学会のホームページ上で「新型コロナウイルスに対するワクチンに関連した日本ワクチン学会の見解」を公開し、異物混入の影響、異なる種類のワクチンによる併用接種、3回目の接種の3つの課題に対して学会の見解を発表した。

アルツハイマー病スクリーニングのための網膜アミロイドイメージング

 アルツハイマー病のスクリーニングでは、アミロイド沈着のin vivoイメージングを行うための費用対効果に優れた非侵襲的な方法が求められる。網膜アミロイドは、アルツハイマー病の診断マーカーとなりうる可能性があるが、in vivoにおける網膜アミロイドイメージングに関する研究はほとんどない。岡山大学の田所 功氏らは、アルツハイマー病患者における網膜アミロイドのin vivoイメージングの有用性について調査を行った。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2021年8月5日号の報告。

思春期中等症~重症アトピー性皮膚炎、経口JAK阻害薬+外用薬は安全・有効

 中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)の効果的な全身療法として期待される経口JAK阻害薬abrocitinib(本邦承認申請中)について、外用薬との併用による検討結果が示された。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のLawrence F. Eichenfield氏らによる、12~17歳の思春期患者を対象とした第III相プラセボ対照無作為化試験「JADE TEEN試験」の結果、併用療法の忍容性は良好であり、プラセボ併用と比べて有意な有効性が認められたという。  思春期の中等症~重症AD治療には、生物学的製剤デュピルマブ皮下注投与が承認されているが、同患者にとってより好ましいベネフィット・リスクプロファイルを備えた効果的な経口の全身療法の検討はこれまでほとんど行われていないという。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年8月18日号掲載の報告。

ILRによる心房細動の検出は、脳卒中の予防に有効か/Lancet

 脳卒中のリスク因子を持つ集団において、脳卒中の予防を目的とする植込み型ループレコーダ(ILR)による心房細動のスクリーニングは、心房細動の検出と抗凝固療法の開始をそれぞれ約3倍に増加させるものの、脳卒中や全身性動脈塞栓症のリスク低減には結び付かず、大出血の発生も抑制しないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院RigshospitaletのJesper Hastrup Svendsen氏らが実施した「LOOP試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。

肺動脈圧遠隔モニタリングによる心不全管理、COVID-19影響分析の結果/Lancet

 肺動脈圧遠隔モニタリングによる血行動態ガイド下の心不全管理は、通常治療のみと比較して、試験全体では全死因死亡と心不全イベントの複合エンドポイントを改善しないものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を考慮した感度分析の結果に基づくpre-COVID-19影響分析では統計学的に有意に良好との研究結果が、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJoAnn Lindenfeld氏らが実施したGUIDE-HF試験で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。  本研究は、症状の重症度が広範囲にわたる心不全患者において、肺動脈圧遠隔モニタリングによる血行動態ガイド下の心不全管理は、心不全イベントや死亡を低減するかの評価を目的とする単盲検無作為化対照比較試験であり、2018年3月~2019年12月の期間に、米国の114施設とカナダの4施設で患者登録が行われた(米国・Abbottの助成による)。  対象は、NYHA心機能分類クラスII~IVの心不全患者で、左室駆出率の値は問われなかった。また、試験前にナトリウム利尿ペプチドの上昇がみられるが、心不全による入院歴のない患者なども含まれた。

閉経後乳がん術後内分泌療法の延長、5年vs.2年(解説:下村昭彦氏)

2021年7月末にABCSG-16(SALSA)試験の結果がNEJM誌に報告された。本試験は閉経後ホルモン受容体陽性乳がんを対象とし、5年の内分泌療法の後にアロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールを5年追加する群と、2年追加する群にランダム化した試験である。主要評価項目はランダム化後2年時点で試験に参加継続していた集団における無病生存率(DFS)であり、ランダム化10年後において2年投与群で73.6%、5年投与群で73.9%(ハザード比0.99、95%信頼区間0.85~1.15、p=0.90)と有意差を認めなかった。副次評価項目の全生存率(OS)や対側乳がんの発症率も両群間に差を認めていない。その一方で、骨折リスク(こちらも副次評価項目)は5年群で有意に高かった。ホルモン受容体陽性ハイリスク症例に対する内分泌療法の延長はさまざまな試験が実施されている。ATLAS試験(Davies C, et al. Lancet. 2013;381:805-816. PMID: 23219286)ではタモキシフェンの10年投与が5年よりもDFSを改善することが示され、その効果は内服を中止する10年を超えても認められることが報告された。AI剤においても、MA.17R試験がタモキシフェン5年完了後のレトロゾール5年追加がDFSと対側乳がん発症を改善することを示している(Goss PE, et al. N Engl J Med. 2016;375:209-219. PMID: 27264120)。日本国内からも、N-SAS BC 05(AERAS)試験の結果が2018年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表され、アナストロゾール(タモキシフェンからの切り替え含む)5年完了後のアナストロゾール5年追加がDFS、遠隔無病生存率を改善することが示されており、論文化が待たれる。

コロナワクチンは高齢者の死亡をどの程度防いだか/厚労省アドバイザリーボード

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策として定期的に厚生労働省で開催されている「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の第51回(9月8日開催)において、「新型コロナウイルス感染症に対するワクチン等の効果の推定」が報告された。  資料では、65歳以上の高齢者についてワクチンをしなかった場合の推定から実数を比べ、ワクチンの効果を示したもの。  65歳以上の高齢者の9割近くが2回のワクチン接種を終えた環境下で、ワクチンの効果として、高齢者を中心に感染者数、死亡者数の増加抑制が期待されている。今回、HER-SYSデータを用いてワクチン接種などがなかった場合の推定モデルを作成し、COVID-19陽性者数、死亡者数が、同推定モデルと比較してどの程度抑制されたかを試算した。

40代日本人女性、乳房構成ごとのマンモグラフィ+超音波の上乗せ効果

 現在、わが国における乳がん検診は、40歳以上に対する2年に1度の乳房X線検査(マンモグラフィ)が推奨されているが、高濃度乳房ではマンモグラフィによる精度低下が指摘されている。一方、超音波検査は乳房濃度に依存せず安価であり、乳がん検診への導入が期待されるが、有効性評価に関する研究は報告されていない。今回、40代の日本人女性を対象に、乳房構成ごとのマンモグラフィ+超音波検査併用による発見率・感度・特異度等を調べた大規模無作為化試験(J-START)の二次解析結果が報告された。東北大学の原田 成美氏らによるJAMA Network Open誌8月18日号への報告より。

統合失調症患者におけるCOVID-19罹患率と死亡リスクへの影響

 精神疾患患者は、身体的健康アウトカムが不良であることが知られており、とくに統合失調症スペクトラム障害患者では、大きな問題となっている。最近の研究において、統合失調症患者では、とくにCOVID-19による影響が大きいともいわれている。ギリシャ・テッサリー大学のSokratis E. Karaoulanis氏らは、統合失調症スペクトラム障害患者におけるCOVID-19のアウトカム不良リスクに関して、システマティックレビューを行った。Psychiatriki誌オンライン版2021年8月5日号の報告。

血小板減少症/血栓症リスク、コロナワクチン接種後vs. 感染後/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のChAdOx1 nCoV-19ワクチン(Oxford-AstraZeneca製)の初回接種後には血小板減少症や静脈血栓塞栓症、まれな動脈血栓症のリスクが上昇し、BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech製)初回接種後には動脈血栓塞栓症や虚血性脳卒中のリスクの増加が認められるが、これらのイベントのリスクは、ワクチン接種後と比較して同一集団における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後のほうがはるかに高く、長期に及ぶことが、英国・オックスフォード大学のJulia Hippisley-Cox氏らの調査で明らかとなった。研究の成果はBMJ誌2021年8月26日号で報告された。  本研究は、イングランドにおけるCOVID-19ワクチンと血液学的/血管系イベントとの関連の評価を目的とする自己対照ケースシリーズ研究であり、2020年12月1日~2021年4月24日の期間に実施された(英国研究技術革新機構[UKRI]の助成による)。

軽症高血圧患者の認知症リスクに対する血圧コントロールの影響

 高血圧は、認知症リスクを上昇させるといわれているが、低リスクの軽症高血圧患者における認知症リスクに関する研究は、これまでほとんど行われていなかった。韓国・延世大学校のChan Joo Lee氏らは、グレードIの高血圧患者の認知症リスクに対する血圧コントロールの影響について調査を行った。Journal of Hypertension誌2021年8月1日号の報告。  National Health Insurance Service National Health Examinee cohortより、2005~06年にグレードI高血圧(140~159/90~99mmHg)と診断された患者12万8,665例を対象とした。対象患者は、血圧コントロール群(フォローアップ期間中の平均血圧:140/90mmHg未満)と非血圧コントロール群(平均血圧:140/90mmHg以上)に分類し、2015年までフォローアップを行った。認知症リスクは、傾向スコアで調整した後、Cox比例ハザードモデルを用いて推定した。

ブレークスルー感染におけるリスク因子は?

 COVID-19ワクチンの2回接種を終了していても、その後感染するいわゆる「ブレークスルー感染」におけるリスク因子を調査した研究結果がThe Lancet Infectious diseases誌オンライン版9月1日号に掲載された。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMichela Antonelli氏らは、ワクチン接種後の感染におけるリスク因子を調査するために、英国のCOVID追跡アプリの利用者である成人から得られた自己申告データを用いた大規模なケースコントロール研究を行った。

エンパグリフロジン、糖尿病の有無を問わずHFpEFに有効/NEJM

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、糖尿病の有無を問わず左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)患者の心血管死または心不全による入院の複合リスクを有意に低下させることが、ドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のStefan D. Anker氏らが行った、世界23ヵ国622施設で実施された国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III試験「EMPEROR-Preserved試験」の結果、示された。SGLT2阻害薬は、左室駆出率が低下した心不全患者の心不全による入院リスクを低下させるが、HFpEF患者における有効性については不明であった。NEJM誌オンライン版2021年8月27日号掲載の報告。

進行食道がん1次治療、化療にペムブロリズマブ併用でOS延長/Lancet

 進行食道がんの1次治療において、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ+化学療法はプラセボ+化学療法と比較して、PD-L1陽性(CPS≧10)の食道扁平上皮がん患者の全生存(OS)期間を延長した。また、食道扁平上皮がん患者、PD-L1陽性(CPS≧10)患者、ならびに組織型にかかわらず全無作為化患者のOS期間および無増悪生存(PFS)期間を延長し、有害事象はすべて管理可能であることが示された。韓国・成均館大学校のJong-Mu Sun氏らが、世界26ヵ国168施設で実施された国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「KEYNOTE-590試験」の結果を報告した。これまで進行食道がんの1次治療は、フルオロピリミジン+プラチナ系薬剤併用療法に限られていた。Lancet誌2021年8月28日号掲載の報告。

アレルギー高リスク者、コロナワクチンによるアレルギー発症率は?

 新型コロナワクチンを接種したいもののアレルギー持ちだと、どうしても躊躇してしまう。とくに副反応が強く出やすい2回目となればなおさらである。今回、イスラエル・Sheba Medical CenterのRonen Shavit氏らは、アレルギーに対し高いリスクを有する患者について、ファイザー製の新型コロナワクチン(BNT162b2)のアレルギー反応/アナフィラキシーの影響について調査を行った。その結果、アレルギー性疾患の病歴を持つほとんどの患者は、医療施設で実装できるさまざまなアルゴリズムを使用すれば安全に接種できることが示唆された。JAMA Network Open誌2021年8月31日号のOriginal Investigationとして掲載。

認知症のBPSDに対するタンドスピロンの有効性

 愛媛大学の越智 紳一郎氏らは、認知症の周辺症状(BPSD)に対するタンドスピロン(buspironeを改良したazapirone系抗不安薬)の有効性について、とくに超高齢者をターゲットとして検討を行った。Clinical Psychopharmacology and Neuroscience誌2021年8月31日号の報告。  2013年8月~2018年8月に特別養護老人ホームでBPSDを有する高齢者を対象として、オープンラベル観察研究を行った。認知症の重症度の評価には臨床的認知症尺度(CDR)、BPSDの重症度の評価には臨床全般印象度の重症度(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory-12(NPI-12)を用いた。主要アウトカムは、ベースラインからタンドスピロン維持療法到達4週間後のBPSD重症度の変化とした。タンドスピロンは、30mg/日から開始し、1日3回に分けて投与した。2週間後に看護記録に基づき有効性が十分であると確認された場合、タンドスピロンの投与を継続し、有効性が不十分な場合、タンドスピロンを40~60mg/日へ増量した。

AZ製ワクチン、2回目の遅延接種は3回接種と同等の高抗体価/Lancet

 新型コロナワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)の2回接種は、1回目との接種間隔が44~45週と長い遅延接種のほうが、8~12週や15~25週の短い場合に比べ、接種後28日のIgG抗体価が高いことが示された。また、同ワクチン3回接種では、遅延2回接種後と同レベルの高い抗体価が得られること、およびT細胞反応を促進することが認められた。英国・オックスフォード大学のAmy Flaxman氏らが、進行中の2つのChAdOx1 nCoV-19無作為化試験について行った下位試験の結果で、Lancet誌オンライン版2021年9月1日号で発表した。COVID-19ワクチンをめぐっては、供給不足から1回目と2回目の接種間隔が長くなることに対して、一部の国から免疫低下の懸念が示されている。研究グループは、ChAdOx1 nCoV-19の単回投与後の免疫原性の持続性、2回目接種までの期間が延長した場合(44~45週)の免疫、2回目投与から28~38週後にブースター接種を行った3回接種の反応を評価した。