日本語でわかる最新の海外医学論文|page:167

マクロ地中海食、乳がんの再発予防効果なし?

 いくつかの前向き研究で、食事の質の向上が乳がん患者の生存率改善と関連することが示唆されているが、乳がん特異的死亡率への影響については定まっていない。今回、イタリア・Fondazione Istituto Nazionale TumoriのFranco Berrino氏らがマクロ地中海食(地中海食に味噌や豆腐などの日本由来のマクロビオティックを取り入れた食事)による乳がん再発抑制効果を無作為化比較試験(DIANA-5試験)で検討したところ、再発抑制効果は示されなかった。しかしながら、推奨される食事の順守度による解析では、推奨された食事への変化率が上位3分位の女性では有意に予後が良好だったという。Clinical Cancer Research誌オンライン版2023年10月17日号に掲載。

20分強の身体活動でも座位時間の悪影響を相殺できる可能性

 座位時間が長い人では死亡リスクが高まるが、1日にわずか20分強の中強度から高強度の身体活動(moderate-to-vigorous physical activity;MVPA)を行うことで、そのリスクを相殺できる可能性が、新たな研究で示唆された。ノルウェー北極大学(UiT)のEdvard Sagelv氏らによるこの研究の詳細は、「British Journal of Sports Medicine」に10月24日掲載された。Sagelv氏は、「何らかの理由で1日の大半を座位で過ごす人でも、少量の身体活動を行うことで死亡リスクは大幅に低減し得る」と述べている。

VR技術がため込み症の治療に役立つ可能性示唆

 ため込み症の人が散らかった部屋を片付けるのにバーチャルリアリティー(VR)を利用したプログラムが役立つ可能性のあることを、米スタンフォード大学医学部精神医学・行動科学教授のCarolyn Rodriguez氏らが報告した。この研究結果は、「Journal of Psychiatric Research」10月号に掲載された。  米国では罹患率が2.5%と推定されているため込み症が精神疾患の一つとして定義されたのは、わずか10年前のことに過ぎない。ため込み症患者は、本人の身の安全性や人間関係、仕事の能力を損なうレベルにまで物をため込む環境を作り出す可能性があるが、スティグマや羞恥心から助けを求めることを控えることもある。ため込み症には遺伝的要因の関与が示唆されているが、それだけが原因とは考えられていない。また、その重症度は10年ごとに高まる可能性も指摘されている。ため込み症の主な治療法の一つは、対面での片付けの訓練を含む認知行動療法だが、この方法では臨床医に危険が及ぶ場合がある。

進行胸膜中皮腫、化学療法+ペムブロリズマブでOS延長/Lancet

 進行性胸膜中皮腫患者の治療において、標準治療的化学療法のプラチナ+ペメトレキセドへのペムブロリズマブの上乗せは、忍容性は良好で、全生存(OS)を有意に改善した。カナダ・Cross Cancer InstituteのQuincy Chu氏らが、カナダ、イタリア、フランスの51病院で、440例を対象に行われた第III相の国際非盲検無作為化試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は「本レジメンは、未治療の進行性胸膜中皮腫に対する新たな治療選択肢である」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年11月3日号掲載の報告。

乳がん放射線療法の有効性、1980年代以前vs.以降/Lancet

 放射線治療は1980年代以降、よりターゲットを絞れるようになり、安全性と有効性が改善されている。英国・オックスフォード大学のCarolyn Taylor氏らEarly Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)は、1980年代以前と以後に行われた乳がん患者に対する局所リンパ節放射線療法の無作為化試験における有効性を評価し、1980年代以降に行われた試験では、乳がんの死亡率および全死因死亡率が有意に低下していたが、1980年代以前の試験では有意な低下はみられなかったことを示した。Lancet誌オンライン版2023年11月3日号掲載の報告。

妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与の効果(解説:小川大輔氏)

日本においてメトホルミンは「妊婦または妊娠している可能性のある女性」への投与は禁忌となっている。一方、海外ではメトホルミンは妊娠糖尿病に使用可能である。今回、妊娠糖尿病患者を対象に、妊娠早期からメトホルミン治療を開始する試験の結果がJAMA誌に発表された。この試験はアイルランドの2ヵ所の医療機関で、妊娠28週以前に妊娠糖尿病と診断された被験者を登録して実施された二重盲検無作為化試験である。被験者510人(妊娠535件)を対象として、メトホルミンを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

妊婦禁忌のコロナ治療薬は慎重に処方・調剤を、5団体が合同声明文を発表

 妊婦にとって禁忌とされる新型コロナウイルス感染症の治療薬が処方・調剤され、その後に患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されていることから、11月14日付で、日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体は、診療に携わる医療関係者および治療を受ける女性患者のそれぞれに向けて合同声明文を発表した。  現在承認されている経口コロナ治療薬は、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)、ニルマトレビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)である。そのうち、モルヌピラビルとエンシトレルビルは、動物実験で催奇形性や胚・胎児致死などが認められているため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与が禁忌となっている。

EGFR陽性NSCLC、オシメルチニブ+化学療法で脳転移巣の病勢進行リスクを42%低下(FLAURA2)/AZ

 アストラゼネカは2023年11月1日付のプレスリリースにて、第III相FLAURA2試験の探索的解析において、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)と化学療法の併用療法はオシメルチニブ単剤療法と比較して、ベースライン時に脳転移を有していたEGFR遺伝子変異陽性の転移のある進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者(本臨床試験に参加した患者の40%)における中枢神経系(CNS)の無増悪生存期間(PFS)を42%改善したと発表した。本結果は、10月21日にスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告された。

赤ワインやコーヒーがコロナ重症化リスクを増大

 いくつかの食習慣と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染感受性や入院・重症化リスクとの間には因果関係があり、とくに赤ワイン摂取は入院と重症化のいずれのリスクも有意に増大させることが、中国・Yantai Yuhuangding HospitalのXiaoping Li氏らのメンデルランダム化研究により明らかになった。British Journal of Nutrition誌オンライン版2023年11月6日号掲載の報告。  食習慣とCOVID-19リスクとの関連は数多くの観察研究によって報告されている。しかし、交絡変数や研究の限界のためその関連はまだ不明確であり、より厳密なデザインの研究が求められていた。そこで研究グループは、メンデルランダム化研究を実施し、食習慣とCOVID-19の感受性、入院・重症度の関連を推定した。解析は逆分散加重法を主要な方法として用い、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。

早期アルツハイマー病患者のQOLに対するレカネマブの有用性~第III相試験

 レカネマブは、アミロイドβプロトフィブリルに高い親和性を示すヒト化IgG1モノクローナル抗体である。第III相試験において、レカネマブは早期アルツハイマー病のアミロイドマーカーを減少させ、18ヵ月時点での認知および機能の臨床的エンドポイントの低下を軽減することが示唆されている。カナダ・Toronto Memory ProgramのSharon Cohen氏らは、Clarity AD試験での健康関連QOL(HRQoL)の結果について、評価を行った。その結果、レカネマブは、HRQoLの相対的な維持および介護者の負担軽減と関連しており、さまざまなQOL尺度においてベネフィットが確認された。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌2023年号の報告。

不適切処方の発生率は診療看護師とプライマリケア医で同等

 診断や処方を行うことができる米国の診療看護師(ナース・プラクティショナー)が高齢患者に不適切な処方を行う確率はプライマリケア医と同等であることが、新たな研究で示唆された。米スタンフォード大学健康政策・健康法分野のDavid Studdert氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に10月24日掲載された。  診療看護師は、正看護師が一定の経験を積んだ後に大学院で所定の単位を取得して認定試験に合格した者で、医師と同様に病気の診断や治療計画の立案などを行うことができる。以前よりプライマリケア医不足に直面している米国では、診療看護師がそのギャップを埋めるのに重要な役割を担っている。ただ、診療看護師に関しては、処方が一つの争点となっている。現在、多くの州が診療看護師に完全な処方権を認めている一方で、患者の安全性を理由に診療看護師が処方できる薬の種類を制限したり、処方や診断などに医師の監督を求める州も存在する。

太ったシェフのイラストを食事に添えると、認知症の人の食事量が増える

 認知症の高齢者の食事摂取量を増やすユニークな方法が報告された。太ったシェフのイラストをトレイに添えておくと、完食をする人が増えるという。日本大学危機管理学部の木村敦氏、医療法人社団幹人会の玉木一弘氏らの研究結果であり、詳細は「Clinical Interventions in Aging」に9月1日掲載された。  認知症では食事摂取量が少なくなりがちで、そのためにフレイルやサルコペニアのリスクが高まり、転倒・骨折・寝たきりといった転帰の悪化が起こりやすい。認知症の人の食欲を高めて摂取量を増やすため、これまでに多くの試みが行われてきているが、有効性の高い方法は見つかっていない。

HER2陽性転移のある乳がんの1次治療、pyrotinib併用でPFS改善/BMJ

 未治療のHER2陽性転移のある乳がんの治療において、pyrotinib(不可逆汎HERチロシンキナーゼ阻害薬)+トラスツズマブ+ドセタキセルは、プラセボ+トラスツズマブ+ドセタキセルと比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、毒性は管理可能であることが、中国医学科学院北京協和医学院癌研究所のFei Ma氏らが実施した「PHILA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年10月31日号で報告された。   PHILA試験は、中国の40施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年5月~2022年1月に患者のスクリーニングを行った(中国・Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsなどの助成を受けた)。

ネモリズマブ、結節性痒疹のそう痒・皮膚病変を改善/NEJM

 ネモリズマブ単剤療法はプラセボとの比較において、結節性痒疹のそう痒と皮膚病変を有意に改善したことが、海外第III相二重盲検無作為化比較試験「OLYMPIA 2試験」で示された。結節性痒疹は、慢性の神経免疫疾患であり、重度のそう痒を伴い疾病負荷が大きいとされる。ネモリズマブは、インターロイキン(IL)-31受容体αを標的としたモノクローナル抗体で、結節性痒疹の発症に重要な経路を阻害する。第II相試験では、IL-31を介したシグナル伝達を阻害し、そう痒と皮膚病変の改善、Th2細胞(IL-13)とTh17細胞(IL-17)を介した免疫応答を抑制することが示されていた。本結果は、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のShawn G. Kwatra氏らによって、NEJM誌2023年10月26日号で報告された。

毎年9%死亡者が増加する人獣共通感染症の行方/ギンコ・バイオワークス

 古くはスペイン風邪、近年では新型コロナウイルス感染症のように、歴史的にみると世界的に流行する人獣共通感染症の人への感染頻度が、今後も増加することが予想されている。そして、これらは現代の感染症のほとんどの原因となっている。人獣共通感染症の人への感染の歴史的傾向を明らかにすることは、将来予想される感染症の頻度や重症度に関する洞察に資するが、過去の疫学データは断片的であり分析が困難である。そこで米国・カルフォルニア州のバイオベンチャー企業ギンコ・バイオワークス社のAmanda Meadows氏らの研究グループは、広範な疫学データベースを活用し、人獣共通感染症による動物から人に感染する重大な事象(波及事象)の特定のサブセットについて、アウトブレイクの年間発生頻度と重症度の傾向を分析した。その結果、波及事象の発生数は毎年約5%、死亡数は毎年約9%増加する可能性を報告した。BMJ Glob Health誌2023年11月8日号に掲載。

コーヒーの砂糖とミルク、肥満に関連するのは?

 コーヒー摂取と体重増減、疾患リスクとの関連を調査した研究は多いが、新たにカフェイン摂取量に加え、砂糖・ミルクの添加が体重増減と関連するかを調べた研究結果がThe American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2023年10月1日号に掲載された。  研究者らは、米国の3つの大規模前向きコホートNurses' Health Study(1986~2010年)、Nurses' Health Study II(1991~2015年)、Health Professional Follow-up Study(1991~2014年)を用いた。砂糖、クリーム、非乳製品コーヒークリームの添加を考慮したうえで、コーヒー消費量、カフェイン摂取量と体重変化との関連を調べた。また、コーヒー以外の飲料や食品に砂糖を加えることと体重変化との関連、それがカフェインやコーヒー摂取量と関連しているかについても検討した。

小児・青年のうつ病に有用な運動介入とは~メタ解析

 中国・浙江師範大学のJiayu Li氏らは、小児および青年の抑うつ症状に対するさまざまな運動介入効果について評価を行った。その結果、運動介入は、小児および青年の抑うつ症状を有意に改善することが明らかとなった。とくに、有酸素運動が効果的であり、週3回、40~50分の運動介入を12週間行うとさらに有効であることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年10月11日号の報告。  2023年5月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)を4つのデータベースで検索した。バイアスリスクの評価には、Cochrane collaboration toolを用いた。ペアワイズメタ解析、ネットワークメタ解析には、Stata 16.0ソフトウェアを用いた。

胃がん/食道胃接合部がん、デュルバルマブ上乗せでpCR改善(MATTERHORN)/AZ

 アストラゼネカは2023年11月1日付のプレスリリースにて、切除可能な局所進行(StageII、III、IVA)胃がん/食道胃接合部がん患者を対象とした、術前補助化学療法への抗PD-L1抗体デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)上乗せを検証したMATTERHORN 試験の中間解析結果において、病理学的完全奏効(pCR)の改善が示されたと発表した。本結果は、10月20日にスペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告された。 ・対象:切除可能なStageII~IVAの胃がん/食道胃接合部がん ・試験群: デュルバルマブ1,500mg+化学療法(FLOT:フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)、4週ごと2サイクル→手術→デュルバルマブ1,500mg、4週ごと最大12サイクル(FLOTによる化学療法2サイクルを含む)

Long COVIDにセロトニンが大きく関与している可能性

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の一部では、ウイルスが腸内に数カ月にわたり残存し、この残存ウイルスがセロトニン濃度を低下させ、それがlong COVIDの一因となっているようだ。このメカニズムにより、倦怠感、ブレインフォグ、記憶力低下などの症状を説明できる可能性があるという。米ペンシルベニア大学ペレルマン医科大学院のMaayan Levy氏らによる研究結果であり、詳細は、「Cell」10月26日号に掲載された。  COVID-19罹患後に症状が数カ月から数年続く、いわゆるlong COVIDになるのは、米国ではCOVID-19罹患者の約20%だという。論文の上席著者であるLevy氏は、同大学のニュースリリースで、「long COVIDの根底にある生物学的な側面の多くは不明である。その結果、診断と治療のための有効な手段がない」と述べている。今回の研究について同氏は、「long COVIDの発症メカニズムの解明に役立つほか、臨床医が患者を診断し、治療への反応を客観的に評価するのに役立つバイオマーカーを提示することができた」と説明する。

アルコール摂取が心臓などの異所性脂肪と関連

 2杯目のアルコールに手を出す前に、新たに報告された研究結果について、少し考えてみた方が良いかもしれない。飲酒量が多い人ほど、心臓の周りの脂肪蓄積が多いという。米ウェイクフォレスト大学のRichard Kazibwe氏らによる研究の結果であり、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に9月8日掲載された。同氏は、「このような心臓への異所性脂肪は、成人の主な死亡原因である冠動脈性心疾患だけでなく、心不全や心房細動などの心臓病のリスク上昇と関連している」と話している。  エネルギーの貯蔵庫である脂肪は、通常であれば皮下脂肪を中心とする脂肪組織に蓄積される。しかし、食べ過ぎや運動不足が続いていると、内臓周囲や筋肉、肝臓など、本来は脂肪がたまりにくい所にも脂肪が蓄積されるようになる。そのような脂肪は「異所性脂肪」と呼ばれる。アルコールも異所性脂肪の蓄積を増やすリスク因子の一つである可能性があるが、これまでのところ飲酒量と異所性脂肪の関連は十分検討されていない。これを背景としてKazibwe氏らは、「アテローム性動脈硬化症の多民族研究(MESA)」のデータを用いた横断研究を行った。