日本語でわかる最新の海外医学論文|page:806

幼若脳への放射線照射、どのような影響を及ぼすか

 放射線療法は小児脳腫瘍に対する一般的な治療であるが、しばしば認知機能低下を含む遅発性の後遺症を引き起こす。その機序としては、海馬でのニューロン新生の抑制が部分的に関与していると考えられている。しかし、若年者の成長過程にある脳への放射線照射が歯状回のニューロンネットワークにどのような変化をもたらすかはまだよくわかっていない。スウェーデン・ヨーテボリ大学のGinlia Zanni氏らは、マウスを用いた研究を行い、成熟脳への照射では長期増強(LTP)の減少のみが引き起こされるが幼若脳ではさらに長期抑圧(LTD)も生じ、成熟脳と幼若脳とで長期シナプス可塑性に対する全脳照射の影響が異なることを明らかにした。結果を踏まえて著者らは、「シナプス変性のメカニズムを解明する必要はあるが、今回の知見は発達過程の脳への放射線照射の影響、ならびに頭部放射線療法を受けた若年者にみられる認知機能障害の理解につながる」とまとめている。Developmental Neuroscience誌オンライン版2015年6月2日号の掲載報告。

甲状腺がん分子標的治療の適正な対象・開始時期は?

 甲状腺がん治療は手術が第1選択であるが、切除不能な場合の治療選択肢は限られていた。近年、根治切除不能な甲状腺がんに有効な分子標的薬が登場し、期待されている。6月11日、都内で「甲状腺がん-その実態と治療 最前線」と題したプレスセミナー(主催:エーザイ株式会社)が開催され、国立がん研究センター東病院頭頸部内科 科長の田原 信氏が、甲状腺がんの治療の実際、分子標的治療から今後の課題を含めて解説した。

進行扁平上皮NSCLC、ニボルマブで生存期間延長/NEJM

 進行扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)で化学療法中または療法後に疾患進行が認められた患者に対し、ニボルマブ(本邦ではメラノーマを対象に商品名オプジーボとして承認)投与はドセタキセル投与に比べ、生存を有意に改善したことが示された。米国ジョンズ・ホプキンス病院シドニー・キメル総合がんセンターのJulie Brahmer氏らが行った無作為化非盲検国際共同第III相試験の結果、報告された。ニボルマブは、完全ヒト型抗PD-1免疫チェックポイント阻害薬IgG4抗体の新しい分子標的薬である。一方、既治療で疾患進行が認められた進行扁平上皮NSCLC患者への治療オプションは限定的で、研究グループは、NSCLCでは腫瘍細胞においてPD-L1発現が一般的であることから本検討を行った。NEJM誌オンライン版2015年5月31日号掲載の報告より。

palbociclib、内分泌療法後に進行した乳がんのPFS延長/NEJM

 ホルモン受容体(HR)陽性ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2-)進行乳がんで、ホルモン療法を受けたが再発や進行を認めた患者に対し、palbociclib+フルベストラント(商品名:フェソロデックス)投与は、フルベストラント単独と比べて無増悪生存期間を有意に延長した。英国・王立マーズデン病院のNicholas C. Turner氏らが521例を対象に行った、第III相プラセボ対照無作為化比較試験の結果、示された。HR陽性乳がんの増殖は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4および6に依存している。palbociclibはCDK4とCDK6を阻害する経口分子標的薬である。NEJM誌オンライン版2015年6月1日号掲載の報告より。

精神疾患患者の認知機能と炎症マーカーとの関連が明らかに

 統合失調症および双極性障害における認知障害の基礎メカニズムについては、ほとんど明らかになっていないが、両障害における免疫異常が明らかになっており、炎症メディエーターが認知機能に関与している可能性が示唆されている。ノルウェー・オスロ大学のSigrun Hope氏らは、炎症マーカーと一般的認知能との関連を調べた。その結果、考えられる交絡因子で補正後も、両者間には有意な負の関連があることが示された。著者らは、「示された所見は、神経生理学的認知障害における炎症の役割を、強く裏付けるものであった」と述べている。Schizophrenia Research誌2015年7月号の掲載報告。

急性冠症候群へのスタチン+エゼチミブの有用性/NEJM

 急性冠症候群(ACS)の治療において、スタチンにエゼチミブを併用すると、LDLコレステロール(LDL-C)値のさらなる低下とともに心血管アウトカムが改善することが、米国・ハーバード大学医学大学院のChristopher P Cannon氏らが実施したIMPROVE-IT試験で示された。スタチンは、心血管疾患の有無にかかわらず、LDL-C値と心血管イベントのリスクの双方を低減するが、残存する再発リスクと高用量の安全性に鑑み、他の脂質降下薬との併用が検討されている。エゼチミブは、スタチンとの併用で、スタチン単独に比べLDL-C値をさらに23~24%低下させることが報告されていた。NEJM誌オンライン版2015年6月3日号掲載の報告。

統合失調症女性のホルモンと認知機能との関連は

 これまで、統合失調症の女性患者において、ホルモン療法やオキシトシン投与により認知機能が強化されることが示唆されていた。米国・イリノイ大学のLeah H. Rubin氏らは、女性の統合失調症患者の認知機能に、月経周期中のホルモン変化がどのような影響を及ぼすかを調べた。検討の結果、まず、認知機能の性差は統合失調症においても認められること、オキシトシン値は月経周期において変化することはなく、女性においてのみ「女性ドミナント」タスクの強化と関連していることを明らかにした。Schizophrenia Research誌オンライン版2015年5月16日号の掲載報告。

タペンタドールはオキシコドンより有効で安全か

 オピオイドは慢性腰痛の治療にしばしば用いられるが、副作用のため長期投与の有益性は限られている。タペンタドールは、オピオイド受容体作動作用およびノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有するオピオイド鎮痛薬で、他の強オピオイドと比較して有害事象の頻度が少なく重症度も低い可能性があることから、ポルトガル・リスボン大学のJoao Santos氏らはシステマティックレビューを行った。その結果、タペンタドール徐放性製剤は、プラセボおよびオキシコドンと比較して鎮痛効果があり、オキシコドンより安全性プロファイルおよび忍容性は良好であることが明らかとなった。ただし、著者は「鎮痛効果の差は大きくなく、治療中止率が高いことや、研究の結果に不均一性がみられることなどから、この結果の臨床的な意義は定かではない」とまとめている。Cochrane database of systematic reviews誌オンライン版2015年5月27日号の掲載報告。

全周追加切除で早期乳がんの再手術が減少/NEJM

 乳房部分切除術後に切除腔の組織を全周的に追加切除すると、追加切除を行わない場合に比べ断端陽性率が改善し、再手術率が半減することが、米国イェールがんセンターのAnees B Chagpar氏らの検討で示された。早期乳がん女性の多くが乳房部分切除術による温存治療を受けており、全摘出術と同等の生存率が達成されている。一方、部分切除術後の断端陽性率は約20~40%とされ、この場合は局所再発を回避するために再手術を行うことが多い。NEJM誌オンライン版2015年5月30日号掲載の報告より。

統合失調症患者への抗うつ薬併用、効果はどの程度か

 抗精神病薬による適切な治療にもかかわらず、相当数の統合失調症患者が十分ではない臨床的アウトカムを示している。この問題の解決に向けて、これまでさまざまな精神薬理学を踏まえた併用療法が試みられており、その1つが抗精病薬治療への抗うつ薬の追加である。フィンランド・Kellokoski病院のViacheslav Terevnikov氏らは、統合失調症患者への治療について、抗精神病薬に種々の抗うつ薬を追加した際の有効性について検討した。その結果、抗うつ薬の種類によりさまざまな効果が認められたものの、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に関しては明らかな有効性がみられなかったこと、抗うつ薬の追加により精神病の悪化はみられなかったことを報告した。International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2015年5月19日号の掲載報告。

アトピー性皮膚炎は皮膚リンパ腫のリスク因子?

 アトピー性皮膚炎(AD)患者におけるリンパ腫のリスク増加について議論となっている。フランス・ポール サバティエ大学のLaureline Legendre氏らは、AD患者のリンパ腫リスクと局所治療の影響を検討する目的でシステマティックレビューを行い、AD患者ではリンパ腫のリスクがわずかに増加していることを明らかにした。ADの重症度が有意なリスク因子であった。この結果について著者は「重度ADと皮膚T細胞性リンパ腫の混同がリンパ腫リスクの増加の一因となっている可能性がある」と指摘したうえで、「局所ステロイド薬および局所カルシニューリン阻害薬が重大な影響を及ぼすことはなさそうだ」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌2015年6月号(オンライン版2015年4月1日号)の掲載報告。

問診のみで5年以内の死亡を予測可能?50万人の前向き研究/Lancet

 身体的な検査を行わなくても、通常の問診のみで得た情報が、中高年者の全死因死亡を最も強力に予測する可能性があることが、英国のバイオバンク(UK Biobank)の約50万人のデータを用いた検討で明らかとなった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAndrea Ganna氏とウプサラ大学のErik Ingelsson氏がLancet誌オンライン版2015年6月2日号で報告した。とくに中高年者の余命を正確に把握し、リスクを層別化することは、公衆衛生学上の重要な優先事項であり、臨床的な意思決定の中心的課題とされる。短期的な死亡に関する予後指標はすでに存在するが、これらは主に高齢者や高リスク集団を対象としており、サンプルサイズが小さい、リスク因子数が少ないなどの限界があるという。

強化血糖降下療法の長期追跡結果~VADT試験/NEJM

 2型糖尿病に対する5.6年の強化血糖降下療法により、心臓発作や脳卒中などの主要な心血管イベントが、治療開始から約10年の時点で有意に抑制されたことが、VADT試験の長期の追跡調査で確認された。米国退役軍人省(VA)アンアーバー健康管理システムのRodney A Hayward氏らが報告した。本試験の終了時の解析(追跡期間中央値5.6年)では、強化療法と標準治療で主要心血管イベントの改善効果に差はないとの結論が得られていた。本試験を含む4つの主要な血糖コントロールに関する大規模試験のうち、最も追跡期間の長いUKPDS試験では強化療法で心血管イベントの改善効果が示され、ACCORD試験でも最近、非致死的心血管イベントが改善されたとの報告(死亡率の上昇でベネフィットは消失)があるが、ADVANCE試験では心血管イベント、死亡とも改善されておらず、厳格な血糖コントロールの是非という最も重要な課題は未解決のままである。NEJM誌2015年6月4日号掲載の報告。

レビー小体病変を伴うアルツハイマー病、その特徴は

 遅発性アルツハイマー病(AD)では、しばしばレビー小体病変が認められる。韓国・仁済大学校医科大学のEun Joo Chung氏らは、レビー小体病変の存在がADの臨床表現型や症状進行に影響を及ぼすかどうかを検討する目的で、レトロスペクティブな病理学的コホート研究を行った。その結果、AD病変とレビー小体病変の両方を有する患者とAD病変のみの患者とでは臨床表現型が異なり、両者を識別できることが明らかとなった。著者らは、「ADにおけるレビー小体の頻度やレビー小体とAPOEε4アレルとの関係から、ADとレビー小体の病理学的なメカニズムは共通していることが示唆される」とまとめている。JAMA Neurology誌オンライン版2015年5月18日号の掲載報告。

一般集団における知的障害、ゲノムワイド研究で判明/JAMA

 スイス・ローザンヌ大学のKatrin Mannik氏らは、一般集団を対象にヒト遺伝子のコピー数多型(copy number variations:CNV)と認知表現型(Cognitive Phenotypes)の関連を調べた。CNVと知的障害に関するような表現型との関連は、これまでほとんどが臨床的に確認された集団コホートにおいて評価されたものであった。研究グループは、臨床的プリセレクションのない成人キャリアにおけるCNVによる臨床的特性と既知の症候群との関連を調べ、また一般集団において、頻度やサイズがまれなCNVキャリアの学業成績(educational attainment)におけるゲノムワイドな影響と、知的障害の有病率を調べた。JAMA誌2015年5月26日号掲載の報告より。

肺気腫の進行抑制にA1PI増強治療は有効か/Lancet

 重症α1アンチトリプシン欠損症を有し肺気腫を合併した患者について、α1プロテイナーゼ阻害薬(A1PI)増強治療は、肺気腫の進行抑制に有効であることが示された。カナダのユニバーシティ・ヘルス・ネットワークのKenneth R Chapman氏らが、多施設共同二重盲検無作為化並行群間プラセボ対照試験RAPIDの結果、明らかにした。α1アンチトリプシン欠損症に対するA1PI増強療法の有効性について、これまで無作為化プラセボ対照試験による検討は行われていなかった。研究グループは今回、スパイロメトリーよりもα1アンチトリプシン欠損症での肺気腫進行度の測定感度が高い、CT肺密度測定法を用いた評価で検討を行った。Lancet誌オンライン版2015年5月27日号掲載の報告より。

SIMPLE試験:ICD植込み時の除細動閾値テストは必要か?(解説:矢崎 義直 氏)-369

 SIMPLE試験は、植込み型除細動器(ICD)挿入時の除細動閾値テストの有効性、安全性を検討した非劣性無作為化割付試験である。ICDが臨床で使用できるようになった当時は、ICD植込み直後に心室細動を誘発し、ショックにて停止できることを2回確認するよう推奨されていた。植え込んだICDがしっかり作動するか確認することは一見理にかなっているが、テストの有用性を示唆するエビデンスがほとんど存在しないのが実情である。そもそも人工的に誘発された心室細動が、臨床上発生する心室細動と電気生理学的に同様のものかという問題点がある。また、ショック自体の心筋に与える有害性や、ショックによる予後悪化の報告もあり、近年では除細動閾値テストを行わない施設が増えている。このような背景で、除細動閾値テストの必要性を検討すべく本試験が行われた。

9割の成人ADHD、小児期の病歴とは無関係

 米国・デューク大学のTerrie E. Moffitt氏らは、成人期注意欠如・多動症(ADHD)と小児期発症神経発達症との関連を明らかにするため、ニュージーランドで1972~1973年に生まれた1,037例について解析を行った。その結果、成人期ADHDの90%が小児期ADHD歴を有していないことを報告した。成人期ADHDは小児期発症神経発達症であるとの仮説が広く知られているが、これまで成人期ADHD患者の小児期に言及した長期前向き試験はなかったという。American Journal of Psychiatry誌オンライン版2015年5月22日号の掲載報告。